時空管理局の本局。
そこで高町なのはとフェイト・T・ハラオウンはそわそわした様子で人を待っていた。
待つこと20分。その人物がやってくる。
「彩那ちゃん!」
「ん?」
手を振ると彩那が気付いてこっちに来る。
「2人してどうしたの? こんなところで」
「面接が気になったの!」
なにを心配しているのか、なのはとフェイトがこっちを見てくる。
「それで、面接はどうだったの?」
「ハラオウン艦長が口添えしてくれてたしね。コネ入社の為の形だけの面接みたいなものよ」
その言葉に二人は納得出来ない様子だ。
実際には、コネというより推薦枠の方が近いだろう。
ジュエルシード事件から始まって地球で起きた魔法関連の事件を高町なのはと解決してきた。
それだけで、人手不足の時空管理局には喉から手が出る程に欲しい人材だろう。
「管理局は私の使うホーランドの術式にも興味があるみたいだし、そういう意味でも手元に置いておきたいんでしょうね」
現状ホーランド式を使える唯一の魔導師。
時空管理局からすれば、目の届くところに居てほしい筈だ。
「八神さんも
「はやてちゃんはレティ提督とお話だって。そろそろ終わったんじゃないかな?」
そこで彩那に連絡が来る。
「ちょうどいいわね。八神さんの方も打ち合わせが終わったそうよ。個室を取ってあるから、そこで話をしないかって。この場所、分かる?」
彩那がメール内容を見せる。
本局の地理はまだあまり詳しくないのだ。
「うん。大丈夫。案内するね」
フェイトに誘導されるとはやてが借りた少し広めの個室に辿り着く。
部屋に入るとはやてとリインフォースにヴィータ。そして最近八神家で製作された融合機、リインフォース・ツヴァイが居た。
「こんにちは。彩那ちゃん、なのはちゃん、フェイトちゃん」
「えぇ。こんにちは」
はやてと彩那の挨拶を皮切りにそれぞれが挨拶を交わす。
席に座ると、はやてがなに食べるー、とメニュー表を渡してくる。
どうやら、飲み物と軽食くらいは出るらしい。
頼んだ飲み物と大皿に盛られた各種スナック系の料理が運ばれるとはやてが口を開く。
「でも意外やったわぁ。彩那ちゃんが管理局の面接を受けるんわ」
「どういうこと? はやて」
「うん。前に彩那ちゃん、御両親をこれ以上心配させたくない
「将来って言うとちょっと大袈裟だけど、選択肢としては悪くないから。両親に心配かけるのが心苦しいのは変わらないし、説得には時間がかかったけど」
一度行方不明となった彩那に両親は常に気にかけている。
それに年末辺りから怪我も多かった。
彩那の両親が承諾したのも意外だった。
結局両親が折れてくれたのが、夏休み前の事だ。
「面接の方は本当にトントン拍子で進んだわ。むしろ、どういう部署に興味があるのか食い気味に訊かれたくらい」
そこでフライドポテトを食べていたヴィータが話に入る。
「あたしらが入れた訳だし、今まで管理局に協力してたオメーが問題なく入れんのはまぁ、当然だよな」
闇の書が夜天の魔導書に戻ったとはいえ、雲の騎士が今まで犯してきた罪を無かった事にはならない。
それでもこうして管理局に入れたのだ。戦闘能力で言えば基本同格で時空管理局からすれば真っ白な経歴の協力者が本格入りするのだ。
落とす理由がない。
「一番のネックだったホーランド式の非殺傷設定を組み込めるようになったのも大きいわね。ありがとうリインフォース。ツヴァイのせ────生み出すのと同時並行で進めるのは大変だったでしょう?」
ツヴァイの製造と言いかけるのを言い直してリインフォースに礼を言う。
彩那のデバイスに直接非殺傷設定の術式を組み込むのはかなり難しい。
だから発想を変えて、カートリッジシステムのように外部に機器を取り付けて運用する。
そうする事でデバイスの負担が減り、なんとか彩那でも非殺傷設定が使えるようになった。
「これくらい出来なければ旅する魔導書の名折れだからな。お前の面接に間に合って良かったよ」
「機材を貸してくれてたリンディさん達にも感謝ね」
海鳴に置かれている時空管理局の東京支部の機材を使って開発したのだ。
向こうもホーランド式に対する解析目的があったとしても、助かったのは事実。
「とにかく、夏休みは研修と職場見学に時間を使うことになりそうよ」
「アヤナならそんなに難しくないんじゃない?」
以前、似たような組織で仕事をしていた彩那ならすぐに研修を終わらせられると楽観的なフェイトの言葉に彩那は首を横に振る。
「そうでもないわ。やっぱり軍と警察組織に近い管理局だと勝手が違うし。ホーランドに居た頃は特別待遇である程度好きにやらせてもらってたから」
勇者という特別枠で軍に身を置いていた彩那達は相当好きに動いていた。管理局で同じ事をしたら間違いなくクビである。
「戦時中ってこともあってホーランドに居た頃は現場の判断で結構強引な行動も取ってたから。管理局のやり方を学ばないと」
御役所仕事である以上、次元世界の法律も学ぶ必要がある。
しばらくは遊んでる余裕は無いだろう。
「そっか〜……残念やわぁ。彩那ちゃんと遊ぶのすずかちゃんやアリサちゃんも楽しみにしとったのに」
「こればっかりはね。仕方ないわ」
学校が別で、魔導師でもない2人は彩那との接点が微妙に薄い。
2人も彩那も含めた遊ぶ予定を立てていたかもしれない。
ありがたい事だ。
「アヤナ。分からないことや困ったことがあったら相談して。力になるから」
「そうね。考えてみればここに居る全員の後輩になる訳だし。その時が来たら頼らせてもらうわ。ね? 先輩」
冗談めかして先輩を強調するとなのはが笑顔を引きつらせる。
「あんまりプレッシャーかけないでほしいの」
なのは達からすれば彩那は魔導師としての先達だ。
突然後輩ぶられても違和感から緊張してしまう。
「ところで彩那ちゃんはどんな部署に就きたいん?」
「そこは研修と職場見学をしてからかしら。今の私だと正直、危険度の高い地域に放り込んで暴力装置として働くことしか出来ないと思うし」
勇者という兵器として活動してきた彩那は、結局のところそれしか出来ない。
彩那の目的から無限書庫で働くのが1番なのだが適性が高いとは思えない。
「そんなことはないと思うけど……」
フォローしようとしてくれるなのはに彩那は肩をすくめた。
スナックを食べ終わったところで解散となる。
その後の帰路ではやてが腕を組んで考え事をしていた。
「どうしたですか、はやてちゃん?」
「いやな? 彩那ちゃん、なんや隠してる気ぃしてなぁ」
嘘はついていないと思う。
この数ヶ月の付き合いで彩那がなにかを隠しているのはなんとなくだが判るようになった。
おそらくなのはとフェイトも気付いている。
「管理局で働きたい部署の辺り……ちゃうな。たぶん、管理局に入った理由の方やと思うけど、そこら辺でちょっと煙に巻かれた感じがして……」
勘だが、おそらく彩那は管理局の仕事にそれ程の魅力は感じていない。
ただ、それでも管理局に働く事のメリットが彼女の中に在ると考える方がしっくりくる。
捜査官としての研修を受けてそう思考を広げるはやて。
「ま、気にする必要もねーんじゃね? あいつの隠し事が多いのはいつものことじゃん」
はやてを気遣っての言葉。
それを理解しても少しだけ息が苦しくなった。
別に隠し事が駄目だという話ではない。
はやてだって友達に全てを打ち明けてる訳ではないし、足が不自由だった頃はわりと面倒臭い精神状態だったと思う。
でも、自分や家族を助けてくれた人に、もう少し頼られたいと思うのは傲慢だろうか?
彩那ははやてを含む友人達を一緒に歩く仲間ではなく、庇護の対象として見てる節がある。
どれだけ歩幅を合わせてるように見えても、独りはやて達を守れる位置に立っている。
彩那と本当の意味での対等な仲間は、今は亡き勇者達だけ。
それが、少しだけ哀しい。
「はぁ……勇者様のお仲間になるんは、思った以上に大変やね」
冗談のように呟いた声はちょっとだけ淋しそうだった。
家に帰ってきた彩那は鏡の前でいつも巻いている包帯を外す。
鏡に映る自分の顔に刻まれた魔法の術式。
それを指で撫でる。
「惑星デミア……まだ存在しているホーランド王国……必ず見つけ出す」