時空管理局に入局して学年が1つ上がった。
綾瀬彩那も日常生活を送りつつ管理局の一員として仕事をしている。
その日の綾瀬彩那は高町家にお邪魔していた。
週に1、2回程だが、高町家の人達に剣の稽古を付けて貰っている。
今日はなのはと簡単な模擬戦をしていた。
長い棒を槍のように構えるなのはに対して彩那は中段の構えで対峙する。
なのはが緊張した感じに摺り足で近付いてくる。
「やっ!」
長い得物を持つなのはから先にしかけてると、彩那は体を横にして棒を避けると同時に木刀を下に滑り込ませて打ち上げる。
「つっ!?」
無理やり棒ごと腕を打ち上げられたなのはは顔を歪めるが、すぐに振り下ろしに切り替える。
当然そんな破れかぶれな攻撃が通る筈もなく受け流された。
それでも喰らいつくようになのはは横薙ぎする。しかし彩那は体を深く沈ませて下から突きを放った。
回避不可能なタイミング。
当たる直前に木刀が動きを止めた。
「そこまで! 勝負ありだ!」
審判役を務めていた高町恭也が緊張を解く為に一旦離れるように指示する。
パチパチと軽く拍手した美由希が近付く。
「なのはも大分棒の扱いが上手くなったね」
「そうかな?」
イマイチ自分の成長が実感出来ないなのは不満そうにしていた。
そこで恭也もフォローを入れる。
シグナムとの模擬戦で黒星が多い事を気にしたなのは実家の助けを借りる事にしたのだ。
接近されたらほぼ負け確定なのに、相手はミッドチルダ式の戦闘に慣れた優秀なベルカの騎士。
威力は兎も角、オーソドックスなミッドチルダ式の戦い方をするなのはには苦手な対戦相手だった。
「始めたばかりの頃なら、彩那ちゃんが棒を上に打ち上げた段階でバランスを崩していたさ。体幹が良くなっている。下半身が鍛えられてきた証拠だ」
そして今度は彩那の方を向く。
「彩那ちゃんの方も、危ない癖が矯正されてきた。以前はもう少し危なっかしい動きだったが」
「ありがとうございます」
高町家で指導を受けて、彩那も成長していた。
ほぼ我流だった剣の荒削りな部分も直りつつある。
ホーランド王国に居た頃と比べて純粋な身体能力はともかく、技量では上回ったかもしれない。
休憩中に水分補給しつつタオルで汗を拭いていると、なのはから話しかけてきた。
「彩那ちゃんはこのまま武装隊に所属するつもりなの?」
「武装隊って訓練と緊急出撃以外はかなり時間が自由に使えるのよね。その間に幾つか資格の勉強をしてて。それが受かったら別部署に移動するつもり」
彩那が地球の学生という理由もあり、今のところはかなり時間を融通してもらっている。
今の内に気になる資格を幾つか取っておきたい。
小学校を卒業するまでは現状を維持するつもりだった。
「へぇ。何処の部署」
「秘密って訳じゃないけど、候補が複数あるから本決まりしたらね」
はぐらかすような彩那の態度に若干不満が顔に出るなのは。
それはそうと、と彩那の方から話題を振ってくる。
「高町さんこそ、ちゃんと休んでる? 凄い量の仕事を引き受けてるって聞いたけど」
「え? あぁ、うん……でも、嫌じゃないから」
時空管理局の仕事で気になる分野の研修や講習を受けたり、訓練に参加したり、任務を請け負ったり。
最近では個人で操縦出来る小型飛行機の免許を取得中らしい。
魔法との接点が薄いアリサやすずかから最近集まる機会が減ってきてる事を愚痴られた。
その話を聞いていた兄姉が話に入ってくる。
「そうだよなのは。楽しいのも分かるけど、もう少し家族との時間を取って欲しいな。お父さんやお母さんも寂しがってるし」
「立派な仕事かもしれないが、お前はまだ子供だ。体調管理を含めて、もうちょっとこっちでの生活を大事にしてくれ」
「は〜い」
心配してくれる嬉しさ半分。
子供扱いされてる事への不満半分と言ったところか。
なのはの様子を彩那は注意深く見ていた。
「ヴィータちゃんと2人での任務も久し振り!」
「そうか? 先月も2人で出撃しただろ?」
本局近くにあるとある世界で無断でロストロギアの発掘をしていると思われる集団を確認。
その調査になのはとヴィータ。それとサポート数名の局員が就く事となった。
オペレーターの説明を受けていると、彩那が部屋に入ってくる。
「高町さん」
「彩那ちゃん。どうしたの?」
突然呼ばれてなのはが驚きと疑問から首をかしげる。
すると、とんでもない事を言い出す。
「今回の任務、私と交代することになったから。今日はもう帰りなさい。上には話を通してあるから」
「えぇ!?」
突然帰れと言われて混乱するなのは。
彩那は携帯を取り出して電話をかける。
「テスタロッサさん。今本局に居るかしら? 居るのね。ちょうど良かったわ。高町さんを迎えに来てくれる? 家まで送って上げて欲しいの。場所は第六会議室で────」
と、フェイトの方も引き受けたのを聞こえて通話が切られた。
「という理由で、テスタロッサさんと一緒に帰って休みなさい」
「どういうこと!?」
訳が分からないと困惑すると、彩那がヴィータの方に視線を向ける。
「たまには私も、ヴィータと任務を共にして仲を深めようと思って。譲ってくれないかしら?」
「ぜってー嘘だろそれ……」
彩那は基本的に雲の騎士達には用件がないと近付かない。
こんな強引な任務の割り込みはらしくない。
「とにかく、テスタロッサさんと私への愚痴でも言いながら帰りなさいな。あぁ、それと数日は仕事や訓練も控えなさいね」
「ちょっと!?」
なのはの背中を押して会議室から締め出す。
「なんなのー!」
納得出来ずになのはは叫んだ。
むすーっとした顔で高町なのははフェイトに連れられて帰路についていた。
「久し振りにヴィータちゃんと一緒に飛べると思ったのに……」
「彩那もなのはのことを心配してるんだよ。最近、あんまり休んでなかったでしょ?」
「心配し過ぎだよ……」
過保護にされてる事への僅かな反発があった。
「フェイトちゃんもごめんね? 執務官の試験で忙しいんでしょ?」
「ううん。私もちょっと気分転換したかったから。なのはの部屋に寄って行っていい?」
「もっちろん!」
そうやって話しているうちに家に着く。
「ただいま〜」
「お邪魔します」
すぐに美由希が出迎えに来る。
「あれ〜? どうしたの? なのは。今日はお仕事だったんでしょ?」
「うん、ちょっと……」
曖昧に濁すなのはが靴を脱いで家に上がる。
すると、急に視界がぶれた気がした。
「あれ……?」
「なのはっ!?」
揺れているのはなのは自身だと気付いたのは倒れそうになったのをフェイトが受け止めてくれた瞬間だった。
「そう。お大事にと伝えといて」
フェイトからなのはが倒れたと聞いた後に携帯を切る。
ここからは任務の為、携帯は使えない。
「高町さん、熱があるって。ちょっとした過労だと思うけど。緊張の糸が切れたのね」
「……なのはが倒れそうだって気付いてたのかよ」
「流石にこんなすぐに倒れるとは思ってなかったわよ。まぁこれで、しばらくは休まざるを得ないでしょう」
転移装置の中に入り、件の世界に向かう。
雪が降っている世界でバリアジャケットの纏った2人は目的の場所まで飛ぶ。
移動途中でなのはについて話す。
「あんな無茶をし続ければ、いつかは倒れると思ってたのよ」
本人は休んでいるつもりでも明らかに足りない。
それも休日すら
「テスタロッサさんは今、執務官試験に向けて猛勉強中で、リンディさんらもそっちに意識が行ってるでしょう? 八神さんは指揮官研修で忙しいし、
今のなのはは楽しいゲームをいつまでも終わらせない子供と一緒だ。休息を取らなければいつかは壊れる。
なのはの家族は肉体面の不調には敏感でも、魔法による負荷や過労に関しては気付きようがないのだ。
だからここ最近のなのはの様子を注視していた。
「……だから、なのはのとこに通ってたのか?」
「そっちは単純に勉強になるからよ。だから気付いたと言うべきかしら」
彩那も高町家に剣を習いに行ってなければ見逃してたかもしれない。
ヴィータは比較的一緒に行動するのになのはの状態に気付かなかった自分に対して憤りを覚える。
「仕方ないわ。貴女達はどこかで高町さんをどんなことが起きても大丈夫だって思ってる節があるし。他の局員もね」
その華々しい戦績に周囲は無意識に高町なのはを神格化してる面がある。
彼女もまだ、幼い子供だという事実を忘れてしまっている。
「貴女も、少しは周囲に気を配ってみては?」
「あん?」
喧嘩売ってんのかと少しだけ視線に険を宿す。
その様子に彩那は小さく息を吐く。
「時空管理局に所属して、尉官という階級からスタートしたわ。その意味を理解しろということよ」
彩那達のような子供や雲の騎士達のような犯罪者がこの高待遇は本来あり得ない。
嘱託魔導師の頃からの貢献を入れたとしてもだ。
「今はまだ、1人の局員として責任の小さい立場で居られるけど、すぐに色々と背負わされるわ。組織とはそんなものよ」
ホーランドでもそうだった。
勇者として功績を挙げると重要な任務や、部下を任された。
「いつまでも気楽な一兵卒では居られない。能力のある者は望む望まざるに関わらず、組織からの期待を背負わされるの。今までは八神さんや自分の周囲にだけ気を配ってれば良かったけど、すぐにそうも言っていられなくなる。その時に自分のことしか考えられない者は孤立するか、最悪組織から弾かれるわ。これは組織に所属する者としては短所よ」
保身ばかりが先立つのは論外だが、まったく無いのも駄目だ。
それはいつか弱点となり、はやてにも危害が及ぶだろう。
「少しは世渡り上手にならないとね。私も得意な方じゃないけど」
「……」
会話がなくなって数分後、目的地が見えて来た。
「ロボットね……」
長方形の盾のような形のロボットと球体のロボットが活動していた。
「一応ここはロストロギアがいくつか発見されているからその調査かしら?」
「どうする? 一気にぶっ壊しちまうか?」
「いえ。目的が分からないわ。先ずは情報を────っ!?」
集めましょうと言おうとした時に、盾型のロボットの一部が開き、ミサイルらしき物がこちらに飛来してくる。
「魔剣の災禍をっ!」
魔剣を手にした彩那が射撃魔法で迎撃を試みる。
射撃魔法は見事ミサイルを撃ち落とすが、違和感を覚えた。
(この感じ……!)
「野郎っ!」
攻撃された事でヴィータがロボットの撃墜しようと飛ぶが、彩那が待ったをかけた。
「待って! あのロボットからAMFが確認されてるわ!」
アンチマテリアルフィールド。
魔力の結合を阻害する特殊な力場。
魔導師に取って厄介な技術だ。
「あ? なら直接叩けば問題ねぇ!」
ミッドチルダ式のような純魔力による攻撃ではなく、身体強化や物理攻撃を介した攻撃ならあまり関係はない。
勿論まったく影響が無い訳ではないが。
彩那が言いたい事はそういう事ではなく。
「情報が欲しいと言っているのよ。今からCランク威力の射撃魔法を撃って、少しずつ威力を上げていくから、それまで私を守ってくれないかしら?」
ヴィータは槌と鉄球を介した物理攻撃がメインだ。
今回は純魔力によるAMFの影響を調べたい。
「そんなことをする必要があるか?」
「あのロボットが他にも現れないとも限らないでしょう? 私達には大した相手じゃなさそうだけど、だからこそ情報を集めておきたいの。その情報が他の局員を生かすかもしれないしね。それに言ったでしょう? 世渡り上手にならないとって。少しくらい管理局に媚を売るのも悪くないわ」
自分達なら余裕であのロボットを撃墜出来るからこそ情報収集を怠るべきではない。
「わーったよ」
ヴィータも特に反論する理由が無かったからか、彩那の意見に従う事にした。
第二波が来たと同時に動く。
群れるロボットに近付き、Cランクの射撃魔法と誘導刃を撃つ。
(攻撃が1つも通らない。なら次はCランクとBランクの間くらいに……!)
冷静に少しずつ魔法の威力を上げつつ効果を確認する。
その間にヴィータが彩那と自分に向かってくるミサイルを迎撃するか、シールドで防ぐ。
但し、安全の為にアイゼンが届く距離まで接近した敵は容赦なく破壊していった。
(AランクならAMFを突破出来るけど、破壊は難しい。AAランクの攻撃なら確実に破壊出来るってところね)
ある程度情報が揃ったところでヴィータに指示を出す。
「もういいわ! 近隣に被害が及ぶ前に破壊してしまいま────聖剣の守護をっ!?」
「綾瀬っ!?」
なにかに気付いた彩那が聖剣を出してシールドを形成する。
吹き飛ばされた彩那が同時に放った誘導刃が
「コソコソ隠れてやがったか!」
ステルス機能で姿を隠していたそれは、蜘蛛のような脚を持つロボットだった。
明らかに他より性能が優れている。
「援護するわ! 切り込める?」
「誰に言ってんだ!!」
デバイスを構えて彩那とヴィータは正体不明のロボットの排除を開始した。
熱が出た高町なのはが起きたのは、18時を回ったところだった。
熱は38.2℃。
それほど辛い訳ではないが、頭が少し痛くてボーッとする。
誰かが部屋に音がする。
家族だろうと思ったら、意外な人物が部屋にやって来た。
「彩那、ちゃん……?」
「任務の帰りに少し顔だけ見たら帰ろうと思ってお邪魔したのだけど、起きてたのね」
「いま、目が覚めて……」
「そう。具合はどう?」
「うん。ちょっと、頭がぼーっとするかな……」
「そう」
そこから特に会話は続かない。
大きく息を吐いてからなのはは重たい頭を動かして話す。
「ごめんね」
「なにが?」
「ずっと気にかけてくれてたのに……」
思い返せば、彩那は確かめるようになのはの体調を訊いていた気がする。
それを全て無駄にしたような気がして申し訳なく思い、恥ずかしい。
彩那はなのはの額に触れる。
「私も昔、無理を続けて倒れたことがあるわ」
「彩那、ちゃんも……?」
「えぇ。それで色々と周りに迷惑をかけた。でも自分が思っていたより、周りは迷惑になんて思ってないの。だから気に病まないで、きっとこの経験は、いつか高町さんにとって大切な物になるから」
「そう、かなぁ……?」
本当にそんな日が来るのか。なのはには想像もつかない。
段々とまた眠くなってきた。
「でもね、あやなちゃん……」
────いつか、ちゃんと彩那ちゃんとも並べるくらい強くなって助けてくれた分をちゃんと返せるようになりたいなぁ。
「ヴィータ三尉」
ヴィータは突然呼び止められて振り返ると、そこには昨日報告書を提出した上司が立っていた。
軽く敬礼して用件を聞く。
「今回の報告書、すごく良かったよ。特に敵対したロボットのAMFの情報を持ち帰ってくれたおかげで少しは対策が立てられそうだ」
「それは綾瀬が……」
AMFの効力の確認を提案したのも実行したのも彩那だ。
ヴィータが礼を言われる事ではない気がする。
「綾瀬三尉もすごいけど、君も反対しなかっただろう。前ならさっさと任務を終わらせて簡素な報告をして終わりだった。違うかい?」
そうかもしれないと頭が過る。
「管理局は組織だからね。それもかなり大きな。情報はいくら集めても足りない。だから、こういう手間をかけてくれるのはありがたいんだ。もちろん無理の無い範囲でね」
上司がヴィータの肩に手を置く。
「これからの君達の活躍に期待してるよ」
言うだけ言って去っていく。
彩那が言っていたのはこういう事かとヴィータの中で腑に落ちた。
次回は、フェイトちゃんのストーカー被害事件。