世界を救った勇者は俯きながら生きている。   作:赤いUFO

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八神はやて一尉、初めての指揮。

 その日、ミッドチルダにあるとある出版社の3階建てビルが不法占拠されていた。

 急遽集められた即席チームに居た八神はやては顎に指を添えて考える。

 

「しかし、出版社の占拠とは……いったい何が目的なんでしょうか?」

 

 銀行強盗などは聞いた事があるが、出版社の占拠など聞いた事がない。

 それも、その出版社はゴシップ系でもなく、主に小説やコミックなどが主流の中堅出版者だ。

 態々占拠する理由がはやてには見当もつかない。

 

「はやてちゃん……」

 

 小人サイズのツヴァイを肩に座らせながら思考するはやて。

 そこで交渉役に就いていた局員から言いづらそうに答えられる。

 

「それが、その……先月完結した連載コミックの話が気に入らなかったので、最終回の撤回と連載を継続しろと脅しているようです」

 

「は?」

 

 あまりにも想像の斜め上の要求にはやてが目を点にした。

 それを後ろで聞いていた彩那が哀しげに遠くを見つめて。

 

「もう終わりかしらね、この世界(くに)は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど、これは酷い。まぁ、だからってテロしようとは思いませんが」

 

 件のコミックを取り寄せてサーッと読んだ彩那の感想である。

 ネタバレすれば、ラスボスが自爆して全滅エンド。

 本来、15巻程で終わる筈だったプロットが、当時雑誌に人気作品が当作を含めて2作品しかなく、編集に言われて急遽引き延ばし。

 中々完結させてもらえず、だらだら連載を続けていたら、50巻越えの作品となったが、連載が続いた結果、読者からの評価も落としていった。

 20巻までなら神だった。

 無理な引き延ばしで設定がめちゃくちゃ。今なにしてるのかわからん。

 なんか最近絵が下手になった。

 単純にもうつまらない、と読者からの心無い感想や意見に作者が心身ともに病んだ結果、壊れた作者がヤケクソでラスボス自爆の全滅エンドとなったらしい。

 編集が完結時を明らかに間違えた結果である。

 ちなみに作者は現在長年の不摂生が祟って入院中。

 読んでいたコミック雑誌を閉じると、彩那ははやての方を向く。

 

「それでは八神一尉、先ずは今回の事件に対する方針を決めましょうか。纏め役をお願いします」

 

「えぇ! わたしかっ!?」

 

 いきなり指名されて驚くはやてに、彩那はなにを狼狽えてるんだと目を細める。

 

「今、この現場での最高階級は貴女ですし、作戦指揮官の研修も受けておられるのでしょう? 他に適任者が居ません。それに命令も下ってる筈でしょう?」

 

「いや〜その……そうなんやけどな? 彩那ちゃん、とかは?」

 

「私は指揮官研修は受けていません」

 

 はやての意見を切って捨てる。

 ここに居るのがはやての家族や仲の良い友人達ならまだしも、この場に集まっているのは急拵えの即席メンバー。

 それも、今顔合わせしたばかりの年上ばかり。

 小学生のはやてに率いろ、と言うのは少々酷な話だが、この場で1番偉いのがはやてであり、尚且つ指揮官の研修を受けているのもはやてだけ。

 ここで彩那が仕切って指示を出すと後々面倒な事になる。

 技術的に出来る無免許より、免許を持っている初心者がその立場に就くのは公的機関として当然の判断だ。

 

(それに、これから見知らぬ人が下に就くなんてことは当たり前になるだろうし。幸い事件の規模自体はそう大きくも複雑でもないのよね)

 

 言い方は悪いが、初挑戦にはうってつけの案件なのだ。

 狼狽えていたはやてが覚悟を決めた様子で顔を上げる。

 

「フォローくらいは頼んでえぇよな?」

 

「もちろんです。全力を尽くさせていただきますよ」

 

 事務的な態度でそう返す彩那。

 もうちょっと温かみのある反応が欲しいなぁ、と思いつつも意識を切り換えた。

 仮設テントの作戦室にあるテーブルに手を置いて合計14人の即席メンバーの前に八神はやてが立つ。

 

「それでは皆さん。今回の作戦指揮を担当する八神はやて一尉です。恥ずかしながら、今回が初めての作戦指揮になりますので、どうか皆さんのお力を貸してください」

 

 そう言って頭下げるはやて。

 いくら階級が上でも、横柄な態度を取ればここに集まった即席メンバーでは瓦解しかねない。

 だからこそ出来るだけ真摯に、そして誠実に対応しなければならない。

 それを本人が理解しているのかはともかく、その態度に年上の局員達はこの小さな指揮官の力になろうと思えるくらいには心を掴めた。

 

「そりゃ、構いませんがね。それで、この件の最重要目的は?」

 

「もちろん人質の安全です。これは何より優先してください」

 

 集まった年上の局員の質問にはやては毅然とした態度で返す。

 そこだけは譲れない一線だ。

 時空管理局の武装隊の魔導師は非殺傷設定の魔法攻撃が基本である。

 故に人質よりも安全な立場なのだ。

 加えて犯人達はどのような武装をしているのかは現状不明。

 魔法なのか、銃や刃物などの質量兵器か。

 例えば魔法だったとしても、それが非殺傷設定である保証もない。

 

「建物内部の図面があるんは助かるけど、せめてどういう武器を持ってるのか知りたいなぁ」

 

 ぼやくはやてに、1人の局員が手を挙げる。

 

「あ〜。ちょっといいっすか?」

 

「貴方は?」

 

 クロノと同じくらいの年齢に見える青年が敬礼をした。

 

「失礼、ヴァイス・グランセニック陸曹であります」

 

 緩く敬礼するヴァイス。

 

「俺、狙撃が得意なんで、さっきスコープで中を覗いて見たんですけど、あいつらが持ってたのは銃でしたね。小さいやつ。見た感じ、デバイスではなさそうっす」

 

「となると、犯人の誰かがコレクションとして前々から保有していたか、それともモデルガンを改造したのか。いや、でも銃弾(たま)は何処から……」

 

 ブツブツと独り言を続ける彩那にツヴァイが質問する。

 

「あの、どうして個人の持ち物だと思うですか?」

 

「うちが主に銃やその他の諸々の質量兵器に関わる犯罪を捜索する部署なのは知ってるわよね?」

 

「はいです」

 

「魔法全盛期の管理世界で、銃の所有には魔法のデバイス以上に厳しい制限や書類審査があるの。勿論、販売した店もね。ネット販売は禁止されてるし」

 

 銃を販売した店は、誰に売ったのか管理局に提出する義務がある。

 今回の犯人は最低でも十数人は居るが、そんな数の銃が1度に売られれば、必ず彩那の部署の耳に入る。

 

「事件の動機から長くても準備期間は大体2週間くらい。前々から所持してたと考える方が自然でしょ? 何処からか盗んだにしても、届け出が無いのは不自然だしね」

 

 まだ色々と経験が足りないツヴァイが理解出来るように説明する。

 素直過ぎるが地頭は悪くないのでツヴァイはなるほど〜と頷く。

 はやてがヴァイスに質問する。

 

「それで陸曹。他に気付いたことは?」

 

「あ〜はい。頭に顔が隠れる布製のマスクを被ってました。口と目が出てるやつ」

 

「暗視スコープみたいな暗闇でも見える道具は?」

 

「いや、そうしたのは見てないっすよ」

 

 そこまで情報が出揃うとはやて思考する。

 

「なら、中を真っ暗にして局員を一気に突入させるのがえぇか?」

 

「ですね。突入班の指揮権を下さい。数人程度なら指揮官の資格は要らないので。それに今集まってる武装局員の大半はうちの部署の者ですし」

 

 行動が大体決まりそうになると、1人の局員が質問する。

 

「ですけど、どうやって照明を落とします? ブレーカーは建物の中だし、たぶん、防犯カメラは押さえてますよね」

 

「せやね。わたしや彩那ちゃんみたいな子供が中に入っても気付かれるやろうし。それで犯人達が凶行に及ぶのは避けたい」

 

「難しいです〜」

 

 ツヴァイが悩ましそうに腕を組んでいると、その場にいる者達が一斉にリインフォース・ツヴァイに視線を向けた。

 

「ふぇ?」

 

 その視線に気付いたツヴァイが顔を上げる。

 小人サイズのツヴァイなら、運良くブレーカーのところまで辿り着けるかもしれない。

 

(それが最適解なのは解っとるんやけど)

 

 まだ幼いツヴァイにそんな大役を任せられるか? という問題がある。

 それに家族の心情としてそんな危険な真似はさせたくない。

 しかし、局員としてそんな私情で最適解を潰すのはどうかと思う。

 

「────っ!」

 

 立場的に命令しなければならないという責任感と、家族として情の板挟みとなり、その重圧で上手く顎と舌が動かない。

 そんなはやてを見兼ねてか、彩那が別の提案をする。

 

「なら、私が先鋒として窓から強襲しましょう。人質に対しての安全装置は1つ減りますが、やってやれないことはないでしょう」

 

「彩那ちゃん……」

 

 その気遣いが、余計に後ろめたく感じる。

 他人を危険に遭わせるくせに、家族の安全に安堵した自分に嫌悪感を覚えた。

 しかし、そこでツヴァイが力強く挙手をした。

 

「やります! リインが中に入って、ブレーカーを落としますです!」

 

 ツヴァイの宣言にはやては困った。

 

「リイン! 遊びやないんよ! ヘタしたら、怪我じゃ済まないかもしれないのや!」

 

「わかってます! でも、リインだって人質の人達を助ける為のお役に立ちたいです!」

 

 ツヴァイの発言は子供の正義感だったのかもしれない。

 しかしそれを頭ごなしに拒否するのは────。

 助けを求めて無意識に彩那の方を見る。

 だが彩那は決めるのははやてだと言わんばかりに沈黙を貫く。

 自分の迷いを捨てるように、目を閉じてから大きく息を吐いた。

 

「わかりました。作戦指揮官として、八神はやて一尉がリインフォース・ツヴァイ三曹に命じます。建物内部に侵入し、ブレーカーを落として下さい」

 

「了解です!」

 

 局員としての仮面を被らなければ怒鳴ってでも止めてしまいそうだったから、はやては敢えて事務的に命じる。

 ツヴァイも敬礼して命令を受けた。

 そこでこの場に居合わせていた、はやて達より歳下の少女が挙手をする。

 

「リインちゃんの目的地までの指示は任せて下さい。しっかりと案内してみせます!」

 

「シャーリィ……お願いな」

 

「任せてください!」

 

 その少女ははやての知り合いで、何度か一緒に仕事をした事があるシャリオ・フィニーノ三士だった。

 シャーリィと愛称で呼ぶくらいには親しい間柄。

 はやてがヴァイスに向かって話す。

 

「ヴァイス陸曹。狙撃が得意言いましたよね?」

 

「えぇ、まぁ。これだけは、先輩らにも負けない自信がありますよ」

 

「なら、三階を狙える位置に待機してください。作戦開始から、もしも犯人達が中の人質に危害を加えようとしたら、問答無用で撃ってください」

 

「そりゃ構いませんがね……撃てたとしても人質を助けられるのは1回か、運が良くても2回が限度ですぜ?」

 

 狙撃である以上、連射速度には限界があり、人質を助けられるのは実質1回。

 窓を壊す為の1回。それで動揺した相手を1人撃つ。

 運が良ければもう1人。

 だが、そこまでしたら、相手側も対処しようと動くだろう。

 

「分かっとります。でもお願いします」

 

 頭を下げるはやて。

 小さな女の子がこうして頭を下げてお願いするのに、ヴァイスは居た堪れなくなる。

 

「了解しました。じゃあ、早速移動しますわ」

 

「はい。お願いします」

 

 もう1度頭を下げる。

 そんなはやての肩に手を乗せる。

 

「照明が落ちて突入すれば、小さいビルですので、3階まで駆け上がるのに1分もかかりません。ツヴァイにも怪我はさせませんから」

 

 それは、良く決断したわね、と言葉にせず労ってるように感じた。

 リインに発信機と通信機を兼ね備えたインカムを付けさせ、排気口から侵入させた。

 そこで別の局員から報告が上がる。

 

「八神一尉。犯人達から連絡がありました。会社の電話からかけているもようです」

 

「出ます」

 

 受話器を受け取って話そうとする。

 念話で彩那が頼む。

 

『出来るだけ話を長引かせて』

 

『了解や』

 

 ツヴァイがブレーカーに到着するまで長引かせるつもりで挑んだ。

 

「もしもし。今回の作戦指揮を任されとります、八神はやていいますぅ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、なんとか中に入れましたです……」

 

 建物への侵入に成功したツヴァイ。

 すぐにシャーリィからの連絡が来る。

 

『おめでとう、リインちゃん。建物全体を統括するブレーカーは3階の事務室にあるわ。防犯カメラや犯人達を避けつつ移動して』

 

「はい、です……!」

 

 ここが敵地である緊張から声を聞かれまいと小声で返した。

 小さな身体と飛行魔法を駆使してツヴァイは犯人と防犯カメラを避けて2階、3階へと慎重に行動する。

 見つかったらどうしようと恐怖に耐えつつ、事務室まで飛ぶ。

 襲われたのが業務時間中だった為か、鍵はかかっていない。

 しかし、小人サイズのツヴァイにはドアノブを回すのは不可能だった。

 

『少し危険だけど、身体を大きくして、一気にブレーカーを落として!』

 

「はい!」

 

 小人から子供サイズに変わったツヴァイが事務室に入る。

 人質が集められているのは会議室だったのが幸いだった。

 ツヴァイには少し高めの位置にあるブレーカーを飛行魔法で駆ける。

 その際にパソコンなどの機材や書類の束を倒してしまったのを心の中で謝る。

 ブレーカーのレバーを掴む。

 

「えぇい、です!」

 

 ブレーカーを落とすと同時に、ビルの照明全てが落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「突入します!」

 

 彩那の指示で外来客用の裏口から突入する。

 1階に人が居ないのは既に確認済み。

 2階と3階に人員を割いて一気に制圧にかかる。

 電光石火の名に相応しい速度で。

 人質の安全の確保と犯人達の確保を6人の人員でやる必要がある。

 しかし、今制圧しているのは元々銃などの質量兵器に対処するのが専門の魔導師部隊。

 

「馬鹿がっ! 魔導師の防壁を、そんな豆鉄砲で突破出来るかよ!」

 

 突入班の1人が撃ってくる弾丸に対してシールド魔法とバリアジャケットで無力化していく。

 

「オラよっ!!」

 

 背後に居る別の局員が、誘導弾で腕や脚を狙って撃つ。

 流石に速度は弾丸に劣るが、直線にしか移動出来ない拳銃の弾と違い、上下左右前後のあらゆる角度から攻撃してくる。

 照明が落ちた暗い室内でも、魔導師なら暗視用の魔法もあり、正確に撃ち抜く事が出来る。

 勿論、それが可能な訓練を積んでいればだが。

 

「姐さんのシゴキのおかげだな! 1年前とじゃ魔法制御の練度がまるで違うぜ!」

 

 立て籠もりの犯人達をバインドで拘束し終えて、2階の制圧班は高揚を隠せずにいる。

 週に1、2回の模擬戦で彩那にボコボコにされていた。

 それでもなんとか一矢報いようと訓練に身が入り、試行錯誤を繰り返す。

 彩那も請われればちょっとした指導もしてくれるので、結構な練度を誇っていた。

 空さえ飛べれば、海の武装隊でもやっていけるくらいに。

 

「3階の方は大丈夫ですかね?」

 

「姐さんが居んだぞ? 手こずる想像が出来んのか?」

 

 既に制圧が完了してるかもしれない。

 綾瀬彩那は短い時間でそれだけの信頼を積み上げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 3階の会議室。

 2階の制圧班の予想通り、既に3階の立て籠もり犯達はお縄にかかっていた。

 会議室に突入して僅か9秒で終わった疾風のような拘束劇。

 

「これで全員かしら?」

 

 バインドで犯人達を転がして一息つく。

 剣を使うにはこの会議室は少々狭かったので、頭で魔法の術式を構築した。

 

(それを普段からやってるスクライア君も、高町さん達とは別方面で天才なのよね)

 

 魔力資質こそなのは達に劣るが、その頭の回転は群を抜いている。

 もしも彼がなのはと同じくらいリンカーコアの器が大きければ、ユーノ独りでジュエルシード事件を解決したかもしれない。

 と、余計な思考をしてしまった事を反省する。

 ツヴァイに念話を送って落ちたままのブレーカーを上げて照明を点け、拘束したままの犯人を歩かせる必要がある。

 

「彩那さんっ!?」

 

 会議室の外からツヴァイの声。

 それと、懐中電灯のような光が差し込む。

 振り向くと、そこには頭に銃を押し付けられたツヴァイが居た。

 

「クソが! ションベン行ってる間に……ふざけんな!!」

 

 どうやら、用を足している間に彩那達が突入し、運悪くツヴァイが捕まったらしい。

 

「ご、ごめんなさいですぅ……」

 

 今にも泣きそうな表情でいるツヴァイ。

 銃を手にしている男は興奮した様子だ。

 

「お前ら! こいつを撃たれたくなかったら、バインドを解け!」

 

 興奮する男に彩那と一緒に突入した局員が動こうとするが、それを手で制して止める。

 ここからはちょっと賭けだなと心の中で固唾を呑む。

 

「一応言っておくけど、これ以上の抵抗は裁判での心象を悪くするだけですよ。大人しく投降することをお勧めします」

 

 漫画の最終回くらいで人生棒に振るのですか? と訊こうとしたが、激怒されそうなのでやめた。

 

「うるせぇ! こっちは10年以上ファンだったんだぞ! あんなふざけた最終回にしやがって! 編集にヤキ入れなきゃ気が済まねぇんだよ!!」

 

「左様ですか」

 

 彩那は話しながら少しずつ移動し、裏拳で窓ガラスを破壊した。

 突然の奇行にビクッとする。

 窓ガラスが飛び散ったと同時に1発の狙撃魔法が最後の犯人の額に命中する。

 勿論非殺傷設定のおかげで死にはしないが、突然の頭への衝撃に男は意識を失った。

 解放されたツヴァイがその場に座り込むと彩那が近付く。

 

「無事かしら?」

 

 声をかけられて緊張の糸が切れたのだろう。

 ブワッと目からの涙が溢れる。

 

「あやなさ〜んっ!! リイン、恐かったですぅ!!」

 

 えーん、と泣いて抱きついてきたツヴァイの頭を撫でる。

 

「えぇ。お疲れ様。よく頑張ったわ」

 

 ツヴァイの頭を撫でながら狙撃があった方角を見た。

 たった1射で決めた狙撃手としてのヴァイスの腕に純粋に感嘆したからだ。

 

(かなり優秀ね。そういえば、シグナムが優秀な狙撃手を欲しがってたし、紹介しようかしら?)

 

 そんな事が頭を過ぎりつつ、彩那ははやて達への報告と犯人達を連行するように指示を出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 犯人の確保と人質の解放。

 ツヴァイを含めた突入班の無事という報告を受けて、はやては椅子の背もたれに思いっきり体重を預け、両手で顔を覆い、肺いっぱいに吸い込んだ酸素を吐き出した。

 

「よかった〜……!」

 

 人質は無事。

 突入班も無事。

 犯人達も全員取り押さえた。

 考えられる最上の結果だとはやては思う。

 

「ほんま心臓に悪いわ〜、もう……」

 

 初めての作戦指揮。全部が全部不安だらけだった。

 家族であるリインフォース・ツヴァイを危険な役目に就かせたくなかった。

 人質や突入班。そして犯人達も怪我や、もしくは死なせてしまったらどうしよう。

 もしそうなったら、どう責任を取ればいいのか。

 怖くて恐くて、犯人と電話での会話中、ずっと心の中で震えていた。

 それでも声に表さなかったのは、もっと恐い思いをしてる人達がこの場に居るから。

 報告から5分くらいして、ツヴァイと彩那がビルから出てきた。

 

「はやてちゃ〜んっ!」

 

「リイン!」

 

 はやてを見つけて飛び込むように抱きつくツヴァイ。

 

「はやてちゃん! リインは頑張りましたぁ……!」

 

「うんうん。さすがわたしの家族や。よぉやったよ。お疲れ様や」

 

 抱き合っていると、彩那が話しかけてくる。

 

「八神さんもお疲れ様。どうだった? 初めての作戦指揮は」

 

「どうもこうもないわ〜。今も手が震えて止まらへん」

 

 人の命を預かる恐怖は、まだ小学生のはやてには重すぎる。

 腰が抜けてないだけ褒めて欲しいくらいだった。

 

「やっぱり、彩那ちゃんも指揮官研修受けへん? そうしてくれると安心なんやけど」

 

「いずれは、と思ってるけど……今はまだ受けたい講習や研修。取りたい資格もあるのよね」

 

 はぐらかす彩那にはやては残念そうに吐息を漏らす。

 

「というか、八神さんが生き急ぎ過ぎなのよ。管理局を辞める年齢(とし)になったら、政治家でも目指すの?」

 

「いやいやいや! なんで? 管理局辞めた後はのんびり家族と過ごすつもりやで、わたし」

 

「そう願うわ」

 

 彩那なりの冗談だったのだろうか? 

 そんな風に思っていると、彩那がはやての頭を撫でた。

 

「本当に、良く頑張ったわね」

 

 優しく、慈しむような声でそう言われて、我慢していた涙腺が緩んだ。

 

「うん……うん! ほんま……今でも心臓バクバクして────」

 

 誰かの生命を背負うのが恐くて、逃げ出したくてしょうがなかった。

 それでも、上手く行って良かったと、八神はやては涙を流して安堵する。

 綾瀬彩那は、そんなはやての涙を隠すように抱きしめて、泣き止むまで寄り添った。

 




なんかはやてって管理局を勤め上げた後は政治家に立候補してそうなイメージがある。

空白期の読みたいエピソードは?

  • 温泉旅行
  • 戦技披露会でのVSシグナム
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  • 高町なのはの失敗
  • 彩那が他の勇者の家族と会う
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  • リインフォース姉妹と買い物
  • 中学校での彩那(モブ視点)
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