世界を救った勇者は俯きながら生きている。   作:赤いUFO

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新しい制服とお泊り

 すずかはもうすぐ、私立聖祥大附属中等部に進級するに辺り、新しい制服を受け取りに来ていた。

 新品の制服を受け取り、上機嫌になるすずか。

 

(間に合って良かった……)

 

 一緒に注文した筈のアリサは既に制服を受け取っており、他の友達も違う店で受け取っている。

 たった2日だが、間に合うのか気が気じゃなかった。

 店を出る前に姉と友達に制服を受け取った事をメールで報せる。

 そこで、見知った顔がお店に入ってきた。

 

「彩那ちゃん」

 

「月村さん、制服の受け取り?」

 

「うん。彩那ちゃんもだよね」

 

「えぇ。結構ギリギリだったわ」

 

 そこで一旦会話を終えると、自分の制服を取りに行く。

 あいも変わらず顔に包帯を巻きつけてるので、店員が一瞬ビクッとしたが、直ぐに中学校の制服を渡される。

 店員がすっごくぎこちなかったが。

 

「お待たせ」

 

「ううん。せっかくだからね」

 

 すずかは他にも買いたい物があり、彩那も特に用事も無い為、自然と2人で歩く。

 

「そういえば、前に貸してくれた本、面白かったよ」

 

「月村さんが貸してくれたのもね」

 

「アレ、実は続き物で────」

 

 少し前から彩那の部屋の本棚に仕舞われている本が増えた。

 それを機に、はやてとすずかの3人で本の貸し借りをするようになっていた。

 

「そういえば、彩那ちゃんの学校の制服はどういうタイプ」

 

「普通のセーラー服よ。月村さん達が着ていたワンピースタイプじゃなくて、上下別の」

 

 と、簡単に説明しながらふと思う。

 

「管理局に入ってから、やたら制服が増えたのよね」

 

 一般的な制服から用途でそれぞれ別の制服に5着。

 予備も含めると7着ある。

 補足だが、管理局での制服を日本のクリーニング店に任せるとコスプレだと思われるので、ミッドチルダのクリーニング店に任せていたりする。

 

「あ、そういえば勇者時代に着てたホーランド王国の軍服も仕舞ってたか」

 

 地球に戻ってきた時に着ていたホーランドの軍服。

 病院で保護された時に警察が持っていったが、調べた後に返却されている。

 彩那の独り言を聞いていたすずかがある事を閃いた。

 

「彩那ちゃん。ちょっといいかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二日後、急遽月村家に友人達が集められた。

 腰に手を当てたアリサがすずかに問う。

 

「すずかが突然お泊まり会したいなんて珍しいわね」

 

 お泊まり会の提案自体はおかしくないが、こんな急に予定を捩じ込んでくるのは珍しい。

 

「うん。もうすぐ中等部に上がるでしょう? その前に皆で1回くらいは集まりたいなって思ってたんだ。4人は忙しくてすれ違ってたし」

 

「にゃはははは……」

 

 すずかの言葉になのはが誤魔化すように笑う。

 一応管理外世界の学生なので、仕事量はセーブさせて貰っているが、彼女らは尉官かそれ相当の地位にあるので忙しい。

 学校もやや休みがちになっていた。

 

「特に彩那ちゃんは集まりが難いしね」

 

 ましてや学校も違う彩那はより集まるのが難しい。

 同じマンションのフェイトやなのは、はやてという共通の友達が居なければ、関係が切れていたかもしれない。

 つまり、小学校から中学校に繰り上がるこの春休みにみんなで集まって遊びたかったと言う。

 

「まぁ、確かにわたしらも今は学校の方を優先させてもらっとるからなぁ。次にみんなで集まれるとしたらいつになるか判らへん」

 

 一時期、4人共にかなり忙しかった時期もあったものの、今は落ち着いてきている。

 まぁ、嵐の前の静けさかもしれないが。

 

「高町さんとバニングスさん、髪型変えたのね」

 

「今更気付いたの? 髪切ったの5日前なんだけど」

 

 中等部に進学して心機一転、アリサは長かった後ろ髪をバッサリ切り、シャマルくらいの長さに整えており、なのはは自分のツインテールを左側1本に纏めたサイドテールに変えていた。

 ここ数日、顔を合わせてなかったのだから仕方ない。

 

「それより持ってきてくれた?」

 

「えぇまぁ。月村さん変わってるわね。ホーランドの軍服とか見たいなんて」

 

 袋から雑に取り出して見せる。

 

「って血塗れじゃない!?」

 

 出した軍服のジャケットは明らかにおかしい範囲で血液による染みが残っている。

 一応警察に預けた後、しばらくして洗濯してから返却されたが、血までは洗い流されてない。

 

「いや、それよりこれ、致死量なんやない?」

 

「こっちに戻ってきた時に一気に血が出たから。もう少し救急車が遅かったら死んでたらしいし」

 

「ひ・と・ご・と・み・た・い・に・言・う・な!」

 

「痛いんだけど……」

 

 アリサが彩那の頭を両拳で挟んでグリグリする。

 効果があるかは甚だ疑わしいが、彩那の自分に対して無関心さをたまにシメておかないと不安になるのだ。

 ジャケットを着るはやて。

 

「おぉ〜おっきいなぁ」

 

「こっちで言う、大学進学するかしないかくらいの肉体年齢だったから。それより、なんで胸の辺りを引っ張ってるの?」

 

「いや〜。数年後が楽しみやな〜思って」

 

「はやて、あんた……」

 

 小学校3年生の頃は儚げな少女の印象だったはやて。

 今では大分図太いと言うか、逞しい性格に成長した。

 これから先、時空管理局で出世し、大人達とやり合うならその方が良いのだろうが。

 ジャケットを見ていたすずかが意外そうに問いかける。

 

「王政の国って聞いてたから、もっと中世の貴族みたいな服を想像してたけど、思ったよりシンプルなデザインだね」

 

「式典とかで着る礼服だとそんな感じのデザインになるわ。それは戦地で活動する用の軍服」

 

「あぁ、なるほど」

 

 管理局でも部署によって制服の使い分けはするし、何処も似たような物なのかもしれない。

 

「ねぇねぇ! 彩那ちゃんの学校の制服も見せて!」

 

「はいはい」

 

 袋から制服を取り出す彩那。

 受け取ったなのはが自分の身体に合わせる。

 

「わぁ。セーラー服なんだ」

 

 オーソドックスなタイプのセーラー服。

 姉の美由希が着ていた茶色基調ではなく白基調なのが逆に新鮮だった。

 少し躊躇いがちになのはが訊く。

 

「着てみてもいい?」

 

「どうぞ。でもサイズが合わないと思うわよ?」

 

「うっ!」

 

 小学3年生の頃は6人共、それ程身長は変わらなかったが、5年生辺りから明らかに身長差が明確になってきた。

 上からフェイト、すずか、彩那、アリサ、なのは、はやての順である。

 ちなみにすずか、彩那、アリサの3人の身長差は殆ど僅差だ。

 

「なら、彩那はうちの制服着てみなさい。あたしの貸してあげるから」

 

「なら、わたし、管理局の制服着てみたいかも。フェイトちゃん、貸してくれる?」

 

「もちろん!」

 

 と、話がトントン拍子で進んでいく。

 制服をシェアし合い、それを写真に収めていった。

 しばらくしてそれが終わると小学校の時の想い出話に変わった。

 

「はぁ〜。それにしても色々あったわね〜。特に小学校3年以降」

 

 なのはが魔法に関わり、ユーノを始め、彩那やフェイト、そして管理局との出会い。

 そして年末で雲の騎士との敵対からクリスマスでの命懸けの戦い。

 管理局に本格入りしてから今日まであっという間だった気がする。

 

「なのは達がバリアジャケットだっけ? で現れた時はビックリしたわよ」

 

「その後もはやてちゃんを殺すとか封印するとか物騒な会話もしてたしね」

 

「え? そんなこと話してたんか?」

 

 3年越しに知らされた真実にはやてがビックリしていると誤解が無いようにフェイトがフォローする。

 

「でも、ダメだって反対したらすぐに別の案を出してくれたんだよ」

 

「まぁ、あの時はギリギリの状況やったしなぁ」

 

 全部上手くいったのは本当に奇跡だったと管理局に所属したからこそ余計にそう思う。

 あれ程の戦力が揃う場面など、この先そうそう無い筈だ。

 

「その後に管理局に就職して、嘱託魔導師の活躍が評価されてかなり高待遇で迎え入れてもらった」

 

 管理局でも5%しかいないAAAランクの魔導資質を持つなのは達。

 魔法全盛期の管理局にとって、他所にやりたくない人材だったろう。

 少し拗ねた様子でアリサが話す。

 

「まったく。さっさと仕事なんて始めちゃって。休むたびにフォローするこっちの身にもなってよね!」

 

「にゃははは。うん。本当に2人には感謝してもし切れないよ」

 

「いつもノート貸してくれて助かってます」

 

「それは良いんだけどね。みんなで集まれる機会がどんどん減ってるのがちょっと淋しいかな。身体も心配だし」

 

 まだ遊びたい盛りの年齢で既に仕事をしている。

 それは凄いと思うし立派だと子供ながらに思うが、もっとみんなで遊びたい気持ちもあるのだ。

 そこでフェイトが彩那に質問する。

 

「彩那の方はどうなの? 学校とか休んでアリサやすずかみたいにフォローしてくれる人も居ないでしょう?」

 

「問題無いわ。前々から腫れ物扱いだったし、仕事の都合で休んでも何にも言われないもの。むしろ最近じゃ不良扱いされてて、学校に行っても嫌な顔されるし。うん、まったく問題無いわね」

 

「だからそれが問題だって気付けっ!」

 

 完全にこっちでの学校生活を捨てている彩那にアリサは頭を抱えた。

 そこですずかが彩那に提案する。

 

「う〜ん、やっぱり彩那ちゃんもうちの学校に来ない? みんなでフォロー出来ると思うし、楽しいよ」

 

「聖祥大ってエスカレーター式でしょう。その上私立だし。中学卒業したらミッドチルダで一人暮らしするつもりだし。両親への負担も申し訳ないのよね」

 

「耳が痛いの……」

 

 彩那の返しになのはが顔を引きつらせる。

 せっかく私立の小学校に入学したのに、中学を卒業したら管理局の仕事を本命にする。

 この先、何か無い限りはそのつもりだ。

 家族はなにも言わないが、思う所はあるのかもしれない。

 彩那に至っては、義務教育でないのなら地球での生活をもう捨てていただろう。

 

「あ〜やめやめ! もっと楽しい想い出話するわよ! はい彩那! あんたなにかある?」

 

 突然話を振られて少し考える。

 

「小学5年生の聖祥大の学祭で見た貴女達の演劇が面白かったわね。確かマッチ売りの少女だったかしら? アレをマッチ売りの少女と言うには抵抗があるけど」

 

「あ〜アレか〜」

 

「なんでああなっちゃったんだっけ?」

 

「ほら、マッチ売りの少女って決まった時にバッドエンドなんて()りたくないって、吉田さんを中心に台本担当が暴走した結果だよ」

 

「私、マッチ売りの少女を読んだのあの演劇の後だけど、全然話が違っててビックリしたよ」

 

「合ってるのって冒頭くらいやったもんな〜」

 

 5年生の時にやった演劇。

 主人公の少女が寒い夜にマッチを売っていたところまでは同じだが、主人公が人買いに連れ去られ、売り飛ばされそうになる。

 館に連れ込まれた主人公が、同じ境遇の子供達と魔法のマッチを使って逃げる脱出劇、という内容だ。

 配役はフェイトが主人公でなのはが仲間役。

 アリサが敵の親玉ではやてがその部下。すずかは衣装や演出担当だった。

 

「まさか、演劇でも魔法を使うなんて思わなかったよ」

 

「演じるのは楽しかったけど、終わって冷静になると、マッチ売りの少女じゃないわって空気だったわね」

 

 テンションが下がって冷静になった影響だろう。

 それからここ数年の想い出話に花を咲かせる。

 途中で思い出したようにフェイトが彩那に話しかけた。

 

「そういえば彩那、母さんが例の件を引き受けてくれてありがとうって」

 

「あぁ、うん……」

 

 お礼を伝えるフェイトに対して彩那の方は歯切れが悪い。

 なのはが気になって訊く。

 

「例の件って?」

 

「2ヶ月後くらいに戦技披露会があるでしょう? それで、シグナムと戦ってくれないかと頼まれたのよ」

 

 現代では珍しい古代(エンシェント)ベルカに管理局でただ1人のホーランド式の使い手。

 その対戦カードを今度の戦技披露会で組ませたいとの事だ。

 

「シグナムが最近機嫌がいいのはそれか〜」

 

「色々と条件は付けさせて貰ったけどね」

 

 魔力制限と時間制限付きでの決闘。

 それでもシグナムが熱くならない訳がない。

 それもこれも彩那がシグナムとの模擬戦を逃げ回っているのも原因だが。

 なのはも手を上げる。

 

「わたしも参加するんだよ。戦闘じゃなくて、飛行魔法の技術ショーでだけど」

 

「航空ショーみたいな感じ?」

 

「そう!」

 

「そういえば、みんなお仕事の方は最近どんな感じ?」

 

「わたしは今、色んな所を回って人脈作りの最中。将来的には自分の部隊とか持ちたいなー思うとる」

 

「私も色んな事件の捜査に協力したり、裁判に顔を出したりしてるよ。良い経験させて貰ってる」

 

「前に彩那ちゃんが所属してる部署にも行ってたんだよね? どんな職場だったの?」

 

「……うん、なんて言うか、凄かった……」

 

「いや、抽象的過ぎてわかんないわよ」

 

 はやては人脈と伝手を広げる活動に精を出しており、フェイトも色々な事件に関わって見識を広げていた。

 彩那が所属する部署には以前ストーカー騒ぎでお世話になったが、フェイトでは思いつかない。思いついても実行出来ない方法での捜査とか。

 こういう方法もある、という感じで勉強にはなった。

 それと単純に、大人達に慕われて信頼関係を築いてるのが凄いと思ったのだ。

 

「なのははどうなの?」

 

「う〜ん、えっと……」

 

 珍しく歯切れの悪いなのはに、フェイトが心配そうにする。

 

「どうしたの、なのは」

 

「うん。今、戦技教導官の先輩のアシスタントをしてるんだけど、受け持ってる班の人達と距離を感じて」

 

 戦技教導隊を訪れる局員は素人ではなく、何年も管理局に籍を置いている武装局員達だ。

 彼らなりに矜持がある。

 

「相手は大人ばかりだけど侮られてるって訳じゃないの。けどこっちにあんまり質問とかしてくれなくて」

 

「つまり、子供に教わるのに抵抗があるってこと」

 

「う〜んたぶん。あ、でもみんながそうじゃないんだよ! 少し年上だけど戦闘スタイルが似ててわたしにバンバン質問してくれる生徒さんも居るしね」

 

 時間が解決する問題。

 もっとなのはが教導官としてのキャリアを積めば、そうした壁も無くなっていくだろう。

 気が付けばかなり遅い時間になっていた。

 

「取り敢えず、中学に上がっても、これまで通り……ううん、これまで以上に楽しく過ごすわよ!」

 

『オーッ!』

 

 アリサの締めに全員が賛同した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日、綾瀬彩那の机の上には、かつて勇者となる前に撮った写真と、その横にはそれぞれ違う制服を着た6人の少女達が並んでいる写真が飾られるようになった。

 

 

 

 

 

 

 

 




もう1、2話投降したら最終章に入ります。
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