世界を救った勇者は俯きながら生きている。   作:赤いUFO

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前話で空白期をあと1.2話で終わらせると言いましたが、アンケート結果を見て、3話に増やす事にしました。
このペースで最終章まで行けたら良いんだが……。


戦技披露会

 それは、小学校の卒業式の後。

 家に帰って少し時間が経つと、リンディから頼みがあると連絡を貰った。

 

「戦技披露会?」

 

「えぇ。主に武装隊がやるイベントなんだけど……」

 

「いえ、それは知ってます。でも今の私は武装局員の資格を持ってる捜査官ですよ? 直接関係はない筈では?」

 

 その武装局員の資格も嘱託魔導師の時の功績のおかげでかなり緩い試験と面接で資格を貰った。

 そんな事を思い出していると、リンディがちょっと言いづらそうに湯呑みを撫でる。

 その仕草に彩那は察する。

 

「上になにか言われました?」

 

 当てずっぽうで言った彩那の推測にリンディの笑顔に眉が少し動いた。

 苦笑したままリンディが答える。

 

「ほら。フェイト達と違って、彩那さんはあまり活躍が知られない部署に所属してるでしょう?」

 

 彩那が所属してるのは、魔法との関係が薄い、質量兵器や違法薬物の売買などを捜査する課だ。

 故に魔法全盛期の時空管理局ではその功績は評価されにくい。

 

「彩那さんの活躍は私も耳にしているわ。特に以前、フェイトも手伝ったという違法薬物のルートを1つ潰せたのはミッドチルダにとって大きな治安維持の貢献だし。ただ上からは人材の無駄遣いに見えるみたい」

 

 上層部からすれば、せめて地上の武装隊。

 欲を言えば次元の海で各世界の平和に尽力して欲しいところなのだ。

 

「それに、やっぱり彩那さんの実力を疑問視する意見もあるわ。だから小さな部署に収まっていると」

 

「なるほど」

 

 期待に反して小さく収まろうとしている彩那に上が不満と疑念があるのだろう。

 

「まぁ、戦技披露会に出場するのは構いませんよ。ですが、具体的に私はなにをすれば?」

 

「空間シミュレーターで模した街を舞台に1対1の模擬戦をしてもらいます」

 

 てっきりチーム戦だと思っていた彩那は目を細める。

 管理局の組織上、単独の戦闘能力より集団戦を重視する筈だからだ。

 

「それで、対戦相手は?」

 

「八神シグナム二尉よ」

 

 それを聞いた彩那は「うっわ……」と珍しくあからさまに表情を歪ませた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 高町なのはは戦技披露会のオープニングを飾る空戦機動の演習を終えてひと息吐いた。

 用意された障害物を避けつつ、魔力光を放ちながら決められた速度で飛行する。

 それも単独ではなくチームで。

 5人チームで行われた演習で飛び、魔力の光で虹を作ったり、絵を描いたりしながら飛ぶのは戦闘とは違った技術が必要だ。

 そして彼女はそのセンターを見事に務め、観客を魅せた。

 

(失敗しないで良かった〜……)

 

 彼女とてまだ中学に進級したばかりの女の子。

 こうした舞台に立つのは初めてだし、人並みには緊張する。

 ましてや自分1人とか、フェイトなどの実力の近い同世代のパートナーではなく、同じ職場の仲間とはいえ、全員がなのはより年上の魔導師。

 皆が合わせて飛行するのにはかなり気を遣った。

 練習の甲斐もあり、ミスらしいミスも無く終えられた。

 バリアジャケットを解き、残りのプログラムを観戦する為に観客席に移動する。

 待ち合わせの席に移動すると、そこにはフェイトや他の友人達が待っていた。

 

「なのはちゃ〜ん! こっちやこっち〜!」

 

 はやてが手を振って手招きしてくれた。

 取っておいた席に座ると、友人達からさっきの演習に対する賞賛が贈られた。

 

「なのは。あの空戦機動、大変だったんじゃない?」

 

「うん。いっぱい練習したんだよ」

 

 はやての隣に座っているヴィータも話に入る。

 

「ああいう魔力光で絵を描いてたやつ、なのはが考えたのか?」

 

「違うよ〜。そういうノウハウがあって、わたし達はそれ通りに動いただけ」

 

「そっか。そりゃそうだよな」

 

 納得して飲み物を飲む。

 はやての肩に乗っているツヴァイがアインスに話しかける。

 

「アインス。シグナムと彩那さんの試合はいつ頃ですか?」

 

「次に陸戦魔導師の対抗戦があり、その次だな」

 

 彩那とシグナムの試合には1対1という事で制限時間は20分。

 Aランクまで魔力出力を抑えて行われる。

 ヴィータがうんざりした様子で大きく息を吐く。

 

「シグナムの奴、今日が楽しみ過ぎて、闘志どころか殺気まで撒き散らしてくんだぜ。綾瀬の奴が逃げ回ってたせいだ」

 

 訓練中に殺気を纏って剣を振るうシグナムに度々ヴィータやザフィーラからやめろと釘を刺したが、その殺気は日が近づくにつれて濃く深くなっていた気がする。

 

「まぁ、彩那ちゃんが逃げ回っとったからな。本人曰く、試合で済まなそうだからって」

 

 非殺傷設定の有無は関係ない。

 2人が戦えば、間違いなく心構えは殺し合いだ。

 そんな姿を友人達に見せたくなかったのだろう。

 単に面倒臭がってたのは否定しないが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 陸戦魔導師のチーム戦が終わり、次に彩那とシグナムの試合が始まる。

 しかしその前に簡単なインタビューがあった。

 司会者がシグナムにマイクを向ける。

 

「八神シグナム二尉は今回の試合を待ち望んでいたと伺ってますが、今の心境はどうでしょうか!」

 

「私は今日、一介の騎士として剣を振るうだけだ。だが、綾瀬彩那には以前つけられなかった闘いがある。その時の決着をつけられたらとは思っている。当然私は勝つつもりだ」

 

 闇の書事件の時に交戦したが、増援や横槍で決着をつけられなかった。

 あの時ははやてを闇の書の主にする事が最優先だったが、今はそうした縛りもない。

 シグナムが簡潔なコメントを終えると、次に司会者が彩那にマイクを向けた。

 

「シグナム二尉の意気込みが伝わって来ましたね! それでは綾瀬彩那二尉もコメントをお願いします」

 

 マイクを受け取ると、少し長くなりますが、と前置きして話しを始める。

 

「時空管理局全体でもAAAランク以上の魔法資質を持つ魔導師は、5%前後と言われています。私やシグナム二尉も運の良い事にその5%に入る魔法の才能を有しています」

 

 突然自慢話のような話の始めに観客が首を傾げる。

 

「しかし、今回私達は、Aランクの制限で試合を行います。Aランク以上の魔法資質は管理局で凡そ4割。リンカーコアの将来的な成長見込みで言えば、もう少し増えます。つまり、理屈の上では、今日の試合で見せるレベルには多くの魔導師が到達出来るという事です」

 

 もちろん話はそう単純ではない。

 魔法を扱う才能(センス)や得意分野はそれぞれ違う。

 機械だけで調べられる数値では測れない要素。

 

「シグナム二尉の古代(エンシェント)ベルカ式や私のホーランド式の魔法。術式は違いますが、戦闘で出来る事にそう違いはありません。戦闘を行う魔導師である以上、強くなる事は必要です。私達の試合が少しでも参考になればと思ってます」

 

 勇者時代から思っていた。

 実力差があり過ぎて、戦力として個人の負担が大き過ぎる。

 どれだけ魔法資質が高かろうと人間だ。限界は必ず来る。

 

「魔導師として個々人のスキルアップが犯罪の抑止や早期解決。この先、次元世界で起こる事件の対応力の向上に繋がると私は考えています」

 

 そこまで言うと、彩那が司会者にマスクを返した。

 

「お、思った以上に熱いコメントにビックリしました! では両者、配置に就いてください!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なんや、彩那ちゃんのスピーチに会場の空気が持ってかれたわ」

 

「でも彩那……以前から武装隊の質を気にしてたし、嘘は言ってないんじゃないかな? 実際に、彩那が所属する部署の魔導師は結構皆強いし」

 

 以前のストーカー事件で世話になった時に彩那と部隊の魔導師での模擬戦を見たが、かなり良い感じだった。

 もしかしたら海でもやっていけるかもしれない。

 

「彩那ちゃん、自分は教えるのに向いてないって言ってるのに……」

 

 そこで、会場から声援が送られる。

 

「シグナム二尉!! 絶対勝ってください!」

 

「頑張って! シグナムさん!」

 

 おそらくは武装隊の面々。

 特に若い女性陣がシグナムを応援していた。

 

「あ〜あれってシグナムのファンじゃねぇか? アイツ、やたら女にモテるし」

 

 シグナムは異性より同性に慕われている。

 男性に執拗に話しかけられてる女性を庇ったりしているし、その容姿も相まって女性人気が高い。

 男性から慕われてない訳ではないが、魔導師としての実力差や本人のバトルジャンキー癖などが邪魔して頼りになる女上官という見方が強い。

 それでも、告白してくる男性の猛者は時折居たりする。

 

「嬉しいなぁ」

 

「はやてちゃん?」

 

「うちの子らがこうしてみんなに好かれとって、わたしは幸せや」

 

 一般の局員に闇の書の罪を隠しているからと言われれば否定はしない。

 それでもそのフィルターさえ取っ払えば、家族は誰かに好かれる人間なのだという事がはやてにはとても嬉しい。

 そんな事を思っていると、別方向から応援が飛んできた。

 

「姐御ぉおおおぉおおおおっ!? ファイトォオオオオオオゥ!!」

 

「おらテメェら! もっと喉が潰れるまで声出せぇ!」

 

「ぶち殺してやれ姐さんんんっ!!」

 

 やたらと濃い面子が立ち上がって応援している。

 フェイトがその様子を指差す。

 

「彩那の部署の人達だ」

 

「いや濃いなっ!?」

 

「つーかぶち殺せとか言ってんぞ……」

 

「こ、恐いですぅ……」

 

 ツヴァイなど、ガタガタ震えてはやての耳を掴んでいた。

 

「ちょっと過激な言い方だけど、みんな良い人だよ?」

 

「えぇー……」

 

 苦笑しているフェイトになのはもちょっと引いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 試合開始してから彩那は少し動いた後は空間シミュレーターで作られた高層ビルに足を付ける。

 接近戦が主要のベルカの騎士に合わせる必要は無いからだ。

 

「魔剣の災禍を」

 

 赤い魔剣を手にしてこっちに急接近してくるシグナムに射程ギリギリの距離から砲撃魔法を撃つ。

 当然、そんな砲撃など当たる筈もなく、シグナムは回避しつつ距離を縮めようとする。

 

「数で押し切る」

 

 数十を越える射撃魔法を展開し、一斉射撃。

 シグナムは大きく横に移動し、そのまま円状の機動で突撃してくる。

 

「甘いわよ」

 

 避けた筈の射撃魔法が急カーブしてきた。

 撃った射撃魔法の1/5は誘導弾であり、背後からシグナムに迫る。

 同時に彩那は前と後ろの挟み撃ちで射撃魔法を撃った。

 前後左右上下から迫る攻撃魔法の雨に、流石のシグナムも回避し切れずに直撃した。

 射撃魔法の爆発でシグナムの姿が彩那からは見えなくなる。

 

「これで撃墜()ちてくれれば楽なのだけど────聖剣の守護を」

 

 大蛇のように柔軟かつ苛烈に迫ってきたシグナムのレヴァンティンの刃に彩那は魔剣から聖剣に持ち替えるとシールドを展開して防ぐが、そのまま押し出され、飛行魔法の再使用を余儀なくされた。

 

「ま、そう簡単にはいかないわよね」

 

「当然だ。待ちに待ったこの闘い、こんなに早く終わっては主はやてに申し訳が立たんからな!」

 

 蛇腹剣から通常の剣に戻して接近してくるシグナム。

 

「霊剣の加護を……!」

 

 聖剣から霊剣に切り替え、打ち合いに応じる。

 レヴァンティンと霊剣が打つかり合う。

 過激なシグナムの攻めを彩那が受け流す形で。

 

(純粋に剣の腕が上がっているな)

 

 冷静に打ち合いながらシグナムは観察する。

 以前よりも無駄な動きが削ぎ落とされている。

 シグナムの攻撃に対して常に防御か回避出来るように絶妙な距離を保ち、剣速に合わせて威力を流してくる。

 

(高町の家の者に剣を習っていたのは知っていたが……)

 

 正直、まだ上を見せてくれるとは思わなかった。

 何度目かの衝突の後に、彩那の右手に金の突撃槍が握られている。

 

「王剣の支配を」

 

 突きを繰り出すと、シグナムもシールドを展開して受け流す。

 が、王剣の柄先から鎖型のバインド生み出され、シグナムを拘束しようと巻き付いてきた。

 

「ちっ!」

 

 舌打ちと同時に拘束される前に鎖型のバインドを切断。

 同時に鎖が爆発を起こす。

 彩那は爆風を利用して距離を取り、シグナムも想定内の攻撃だった為、全身を覆う形でシールドを展開する。

 シグナムはレヴァンティンを再び蛇腹剣に切り換えると、左右の剣を聖剣と魔剣に替えた彩那が防御しつつ射撃魔法を撃ってくる。

 両者、未だ決定打はなに1つ与えてない。

 分割していた刀身を戻したシグナムが彩那に問いかける。

 

「……いつまでそのパフォーマンスを続けるつもりだ?」

 

「あぁ。やっぱり気づいてたか」

 

 試合開始から既に半分の時間が過ぎている。

 ここまで彩那の動きは観客に見せる為の戦い方だった。

 見ている局員達がこれくらいのレベルには達して欲しいという目安。

 シグナムにとってこの試合は綾瀬彩那と剣を交える場であるように、彩那にとっては局員の向上心を刺激する場であった。

 

「そろそろ真面目にやらないとキツくなってきたし。ここから私達の死合を始めましょう」

 

 霊剣1本に替えた彩那にシグナムは口元をつり上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その荒々しい闘いに、観客達は息を呑んでいた。

 先程までとは聴こえてくる音が違う。速度が違う。魔力制御の質が違う。

 なによりも、振るっている剣に込められた殺気が違う。

 両者敵を斬る、という明確な殺意を込めて振るわれる剣戟。

 しかし、実力が拮抗している証拠か、互いに明確なダメージは入っていない。

 試合開始直後は2人の高度な戦闘に魅せられていた観客も、今は別の意味で魅入られている。

 そんな2人の試合を観ながら、フェイトが呟く。

 

「シグナム、楽しそうだね」

 

 よく模擬戦を行うフェイトだからこそ、シグナムの歓びの感情を感じ取っていた。

 

「あたしらはなんやかんやで兵器だからな」

 

「ヴィータ?」

 

 哀しげに。

 そして咎めるように名前を呼ぶはやてにヴィータが少し慌てて説明する。

 

「あ〜いや。ネガティブな意味で言ってる訳じゃねぇんだ。ただシグナムは時々、戦場の空気みたいなモンが懐かしいって思えるんだろうなって」

 

 ヴィータにはそんな風には思えないが、シグナムにはそれが欲しいと思う欲求があるのだろう。

 本人もそれを悪癖だと思っているし、はやての存在や今の生活を尊いとも感じている。

 フェイトや、最近では聖王教会のシスターシャッハなど、剣を交えるライバルのような存在は居る。

 その切磋琢磨する時間は彼女からすれば得難い経験だし、管理局での仕事にもやり甲斐も感じている。

 だが不意に物足りなさを感じる時があるのだ。

 生命のやり取りで研ぎ澄まされていく感覚。

 殺すという明確な意思で迫ってくる敵。

 それらが欠乏した現在の状況が、シグナムには温いと感じてしまう。

 そうしていると、自分の中にある刃まで鈍らに変えていきそうな気がした。

 

「そんで、その空気を思い出させてくれんのが綾瀬なんだろうぜ」

 

 呆れた様子で肩を竦めるヴィータ。

 同じ雲の騎士は身内だし、フェイト達には寧ろ、そうした空気は纏って欲しくないと思っている。

 しかし、過去に戦場を駆け、敵対していた彩那にはそうした気遣いが少なくて済む。

 本人からすれば迷惑極まりないだろうが。

 

「そろそろ時間的にも決着か……」

 

 制限時間残り1分を切り、ヴィータは飲み終わったストローから口を離した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 非殺傷設定は機能している。

 しかし2人は当然のように刃に当たれば斬られるという意識で試合を続けていた。

 斬撃が打つかり合い、刺突を掠める度に背筋が凍る。

 霊剣の緑の刀身が迫ると、かつて刃を交えた少女が頭を過る。

 

『今日こそその首置いてけやーっ!!』

 

 あの戦争で何度叩きのめしても生還し、次に遭遇した時は格段に腕を上げてきた強敵。

 勇者は、誰もが1級の才能を持った魔導師だった。

 だからこそ、綾瀬彩那からあの戦争の顛末を聞いた時に彼女らの死には少なからず衝撃がシグナムにもあった。

 

(綾瀬。お前は彼女達の魔法(わざ)を継いだのか)

 

 他の勇者の剣を手にしているからだけではない。

 神剣の使用で、他の勇者の経験も共有されているのも知っている。

 だがそれだけで、ここまで自分の技術(モノ)に出来る訳もない。

 その裏には相当な努力と研鑽もあったのだろう。

 綾瀬彩那が剣を替える度に、かつての勇者それぞれと闘っている錯覚が過った。

 

「くっ……!」

 

 力押しで負けて、彩那は後退する。

 

「そろそろ、時間も無くなってきたし、決着と行きましょうか」

 

「名残り惜しいが、決着がつかないのは納得出来んからな」

 

 それぞれ構えを直す。

 荒かった呼吸を少しだけ整える。

 残り15秒を切る。

 動いたのは、彩那の方からだった。

 

「飛竜……一閃っ!」

 

 シグナムは蛇腹剣であるシュランゲフォルムで迎撃を試みる。

 ギリギリの所で回避した彩那に背後から剣の切っ先が迫る。

 

「っ!!」

 

 彩那は直進しつつも身体を捻って背後から迫ってきた攻撃を回避した。

 シグナムも即座に刃を連結させ、レヴァンティン内部にある全てのカートリッジの弾丸を吐き出す。

 

「紫電、一閃っ!!」

 

 炎を纏った渾身の振り下ろし。

 当たる! とシグナムは確信した。

 しかし。

 

「のっ!!」

 

 彩那はこれまでに無い超反応を見せて、シグナムの斬撃をギリギリで回避して見せた。

 

「なっ!?」

 

 予想外の結果に思考に空白が生まれる。

 

「終わりよ」

 

 彩那の斬撃は確実にシグナムの腹部を捉えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 試合を終えた後に彩那は控室で水を飲んでいた。

 

「痛い……」

 

 最後、無理な体勢で紫電一閃を回避したツケで、筋を少し痛めた。

 翌日は筋肉痛確定だろう。

 

(発動出来たのは偶然だったけど……)

 

 御神流奥義之歩法【神速】。

 高町家でお世話になった時に偶然見る事が出来た技。

 極限の集中力で脳のリミッターを解除し、瞬発的に超人的な反応速度と知覚能力と運動能力を手に入れる。

 要するに意識的に火事場の馬鹿力を発動させる技だ。

 見たのは1度切りで説明されたのもその時。

 正直話を聞いた時は半信半疑だったが、出来てしまった。

 

「自由に使える物じゃないけどね」

 

 発動したのは本当に偶然。

 また同じ事をやれと言われても直ぐには無理だろう。

 

「下地は出来てるっぽいし……後は慣れかな……?」

 

 これからの練習次第、と言ったところか。

 次の試合は始まっているが、特に動く気も起きず、そのまま休む事にした。

 すると。

 

「彩那ちゃん!」

 

 なのはとフェイトが控室に押しかけてきた。

 興奮冷めぬ様子で先程までの試合の感想を述べてくる。

 序盤の射撃魔法と誘導弾の使い方や、決め手となった最後の動きについてなど。

 

「つぅ……っ!」

 

「彩那?」

 

「ちょっと無茶な動きしたから。明日は筋肉痛だわ」

 

「シャマルさん呼んでくる?」

 

「いいわよ。向こうもどうせ家族で集まってるんでしょう? 邪魔することないわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「申し訳ありません、主はやて。今回かなり無理を言ったのに、綾瀬に勝つことが叶いませんでした」

 

「いやいや! 凄い試合やったで? あんなん見せられたら文句なんて言えんよ」

 

 元々文句なんて言うつもりも無いが。

 ザフィーラが問いかける。

 

「満足したか?」

 

「あぁ。負けたのは悔しいが、ここ最近では最も充実した闘いだった。またいつか剣を交えたいものだ」

 

「また逃げ回られるだけじゃねぇか?」

 

「こらヴィータ」

 

 シグナムの充実感に水を差すヴィータに軽くはやてが叱る。

 

「それに、綾瀬と闘って、私もまだ強くなれる。そう確信しました」

 

 最後に見せたあの動き。

 自分もアレと同じ事が出来れば、騎士として上の段階に行けると思った。

 

「そか。でも無茶はしたらアカンよ? 家族皆健康で居るんが大事やから」

 

「えぇ、もちろんです、主はやて」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 八神シグナム二尉と綾瀬彩那二尉の試合。

 この試合は武装局員達の記憶に鮮明に刻まれ、長い間語られる事となる。

 ただ、試合の内容で差を見せつけられ、彩那の思惑通り向上心が刺激された者もいたが、逆に格の違いに心が折れる者もそれなりに出る事となった。

 

 

 

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