世界を救った勇者は俯きながら生きている。   作:赤いUFO

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曾祖母

「彩那。ひいおばあちゃんが施設で亡くなったって」

 

「そう」

 

 電話で曾祖母の訃報を知った。

 母が心配そうに訊いてくる。

 

「お通夜とか御葬式の準備とか色々とあるから私達は行くけど、彩那はどうする? その、顔を合わせづらいでしょう? ひいおばあちゃんと会ったのも数回だけだし」

 

 行きたくないなら行かなくても良いという母。

 彩那が最後に曾祖母と会ったのは小学校に上がる少し前だ。

 曽祖父が亡くなった後、しばらくは持家で1人過ごしていた曾祖母。

 近所に住む子供や孫が様子を見ていたが、高齢で独り暮らしも辛くなってきたので、施設に入れる流れとなった。

 あの行方不明事件から綾瀬家は他の親戚と距離を置いていた為、曾祖母とも疎遠になっていた。

 

「ほら。お仕事もあるし。無理に行く必要はないと思うの」

 

 葬儀に出れば当然親戚であるあの家族達とも顔を合わせる事は避けられない。

 それを心配してくれているのだろう。

 彩那は母の気遣いに気付きつつもそれを断る。

 

「大丈夫。私が出ないのも角が立つでしょう? 管理局の方もたまには休めって言われてるし。忌引休暇くらい取れるから」

 

「……」

 

 母は彩那を他の親戚に会わせたくないのだろう。

 その心遣いは嬉しいが、甘える訳にはいかない。

 

「学生は制服でいいんだっけ?」

 

「えぇ。ただ、いつもの包帯は外して行きなさいね」

 

「うん。判ってますよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 曾祖母は海鳴の施設で住んでいたので、お通夜や葬儀は当然海鳴で執り行われる。

 父が運転する車で彩那は思い出して呟く。

 

「そういえば私、ひいおばあちゃんに嫌われてたなぁ……なんでだろ?」

 

 彩那の呟きに父が目を丸くする。

 

「え? ばあさんが? 本当に?」

 

「うん」

 

 彩那の記憶ではもう十数年前なので大分あやふやだが、曾祖母に会いに行った時の表情は覚えている。

 何処か怯えたような。泣き出しそうな顔を。

 

「渚ちゃんと一緒に会いに行った時だったかな? 嫌われてたっていうか、怖がられてた感じで……」

 

 まだ曾祖母が施設に入る前。

 新年の集まりにお年玉目当てで曾祖母に会いに行った時にとても曾孫に会った表情ではなかったと思う。

 それも一瞬で、すぐに優しい顔でお年玉をくれたが。

 

「う〜ん。彩那の勘違いじゃないかな? おばあちゃんは基本人懐っこかったし。それに、礼儀正しい娘だねって褒めてたよ。急に顔を合わせて驚いたのを彩那がそう印象を持っただけとか」

 

「そう、なのかな……?」

 

 考え込む彩那に母も話に入る。

 

「きっとそうよ。おばあちゃんには私もすごくお世話になったし。彩那にはそんな風に覚えていて欲しくないわ」

 

「うん。そうだね……」

 

 亡くなった曾祖母を悼む場に行くのだ。

 こんな気持ちで向かうのは失礼だろう。

 赤信号で車を止めると曾祖母の事を父は話し始める。

 

「戦争が終わって爺さんが国に戻って来た頃。空襲で家族が皆亡くなったらしくてね。しばらく壊れた小屋で今で言うホームレスみたいな生活してたらしい。そんな時に倒れてたばあさんを介抱したのが出会いだって」

 

 倒れていた曾祖母は大きな怪我をしていて、慌てて医者に診せたと言う。

 

「すごく恐い目に遭ったんだろうね。今の彩那くらいの年齢でさ。でも病院で目を覚ます前の記憶が無かったとかで。爺さんも四方八方手を尽くして身元を探したらしいけど、結局分からなくて、なし崩しに面倒見てたって。最初は死に別れた妹を最後に見たのがばあさんくらいの歳だったのが理由らしい」

 

 そういえば、曽祖父と曾祖母の年齢が10以上離れていたのを思い出す。当時は珍しくなかったのだろうと思っていたが、そういう経緯があったのか。

 

「て話を子供の頃に爺さんから耳にタコができるくらい聞かされた」

 

 祖父母の惚気話を延々と聞かされた事にうんざりした様子で息を吐く。

 

「とにかく、彩那も居づらかったら席は外してていいからな」

 

 信号が青になり、父は車を発進させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お通夜とはいえ久し振りの親族との集まり。

 そこにここ数年姿を見せなかった綾瀬彩那がやって来た事に親戚達は少なからず驚きと戸惑いを見せる。

 大抵は軽く挨拶だけして関わろうとしない。

 というより、どう接するべきか迷っているのだろう。

 彩那の方もその方が楽なので、極力目立たないように過ごす。

 ちなみに顔の刺青は魔法で隠している。

 しばらくしてお手洗いに立って移動すると、よく知る家族が顔を合わせた。

 

「あ……」

 

「お久し振りです。冬美ちゃんのお父さん、お母さん。それに、隆君も」

 

 親友だった宮代冬美の家族だ。

 そんな資格は無いと思いつつも彩那は冬美の3つ下の弟である隆に話しかける。

 

「隆君は確か4年生だったわね。大きくなって」

 

「……子供(ガキ)扱いすんなよ」

 

 彩那の言葉に隆は不機嫌そうに目を逸らす。

 冬美は女の子にしては背が高い方で、弟の隆も同様に同い年では高い方だった。

 目線も記憶より近く、来年には追い越されてるかもしれない。

 昔から実の姉である冬美はもちろん、弟分として皆で可愛がっていたからか、タメ口で話す。

 そんなやり取りをしていると冬美の父が話しかける。

 

「その……彩那ちゃんは、最近どうだい?」

 

「はい。まぁそれなりに」

 

 前ならこんな他人行儀なやり取りはしなかったのだが、やはりぎこちなくなってしまう。

 会話が続かずにいると、冬美の母が移動するように促す。

 奥に移動する前に隆から話しかけてくる。

 

「なぁ、彩那。後で話せるか?」

 

「かまわないけど……どうして?」

 

「色々とな」

 

 それだけ言うと両親の後ろについていく。

 中に戻ると羽根井璃里の両親とも目が合ったが、視線を逸らされた。

 璃里の両親は特に娘を可愛がっていたので、ショック大きかったのだろう。

 記憶ではぽっちゃりとした体型だった璃里の母は別人のように痩せていた。

 お通夜が始まり、曾祖母の遺影を見ると、彩那は違和感を覚える。

 記憶にある曾祖母の顔に相違無いのだが、何処か既視感というか、言葉に出来ない奇妙な感覚が纏わりつく。

 もう少しで何かが合致しそうなのに、もどかしくも辿り着けない。

 

(なんだろう? 誰に似て……)

 

 結局彩那はその答えに辿り着けなかった。

 

 

 

 

 

 焼香などの行事を終えて食事会に移行する。

 大人達。彩那からすれば祖父と同年代の者達を中心に亡くなった曾祖母との想い出や関係のない個人の近況を話している。

 彩那も片隅で料理に舌鼓を打つ。

 すると、ある事に気付いて僅かに表情を和らげた。

 最初は一緒に居た両親だが、一応綾瀬家は長男筋に当たるので、今後の色々な取り決めの為に一旦離れている。

 少しすると隆が近付いてきた。

 

「よう。今いいか?」

 

「えぇ」

 

 彩那は取り皿を置いて頷いた。

 

「それじゃあ、人気のない外に────」

 

 そこで別の人物が彩那に話しかけてくる。

 

「なんだぁ? 綾瀬の娘っ子じゃねぇか」

 

 既に酔っているのだろう。顔を赤くして彩那に絡んできた。

 年齢的には彩那の両親と祖父母の中間くらいの男性。

 酒臭い息を撒き散らしてニヤニヤとした顔で肩を掴んでくる。

 

「ハッ。よくここに顔を出せたなぁ! 幼馴染を殺した鬼子がよぉ……!」

 

 その言葉に食事会の場の気温が一気に下がった気がした。

 

(おりゃ)あ、わかってんだぜ? どうせ他のガキ共は山でお前が殺したんだろぉ? おーこわ!」

 

「おいアンタ! いったいなにを言って……!」

 

「隆君、いいから」

 

 庇おうとしてくれる隆を手で制する。

 あの世界では、遺族にもっと心を抉られる言葉を散々投げつけられた。

 

 ────アンタ勇者なんだろ! なんでうちの人を助けてくれなかったんだい!! 

 ────よそ者のお前達が生き残って、なんで私の子供が死ななきゃならなかったのよ! 

 ────返して! パパを返してよぉ……! 

 

 他にも色んな言葉を投げつけられた。

 だからか、酔っぱらいの戯言くらい、耳で聞くだけで(あたま)までは届かない。

 

「そろそろ本当のことを吐いたらどうだ? 今ならまだ────」

 

「アンタいい加減に────っ!!」

 

 そこで、男性の背後に立った人物がその頭を鷲掴みにする。

 

「驚いたな。今日は梨沙ばあさんのお通夜だと思ってたのに、いつから彩那ちゃんを責め立てる場になったんだ?」

 

「大輝おじさん……」

 

 2mを越える巨漢の男性。

 森大輝。

 彩那の親友である森渚の父親だ。

 大輝が手を放して男性を睨みつける。

 一瞬怯んだ男性だが、大輝を見るとすぐに笑みを浮かべた。

 

「お前だって本当はこの娘に思うところがあるんだろぉ? いい子ちゃんのオメーに代わって聞き出してやるっつってんだよ!」

 

 大輝の目が軽蔑し切った眼で男を見下ろす。

 そして、彩那を庇ったのは森大輝だけではなかった。

 

「それ以上その子に突っかかるつもりなら、私共も容赦しませんよ」

 

「未成年への過度な追及。到底容認出来ませんな。大事になる前に引いては如何ですか?」

 

「璃里ちゃんのお父さん」

 

「父さん……」

 

 璃里の父と冬美と隆の父が彩那を守るように間に入る。

 行方不明の親である3人が彩那を庇うのだ不利と悟って元の席に戻って行く。

 冬美の父が申し訳なさそうに話しかけてくる。

 

「すぐに助けに入らなくてごめんね」

 

「本当だよ。無視してんのかと思ったわ」

 

 隆が悪態を吐くと息子にも謝罪する。

 すると璃里の父が話す。

 

「あの人、フリーの記者だから。スクープを書こうと必死なんだよ。もしも付き纏われるようだったらいつでも相談してね」

 

 璃里の父は弁護士をしている。

 事務所の連絡先を渡されて一応受け取っておく。

 

「まぁ……私はどう言われても仕方ないですから」

 

 皆がどうなったのか。何があったのか未だにその家族にも話せていない。

 そんな奴がどう思われるかなんて想像に難くないし、悪く言われるのは当然だと思っている。

 

「それは────」

 

 冬美の父がなにか言おうとしたが、大輝が遮る。

 

「彩那ちゃん、ちょっと外出ようか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 食事会の場を抜け出して外へ出る。

 話しかけたのは彩那からだった。

 

「今日の食事はおじさんが?」

 

「気付いてくれてたのか」

 

「おじさんの料理の味だったから」 

 

 今は行かないが、勇者になる前はそこそこ頻繁に大輝が勤める料亭に家族で食事を摂っていた。

 その料亭で誕生日を祝った事もある。

 

「俺もあの人には結構世話になったから。せめてもの恩返しにね」

 

 そこで一旦会話が途切れ、別の話題を振る。

 

「恵おばさんは? 今日は見ませんでしたけど」

 

 大輝の妻である森恵。

 彼女が亡くなった曾祖母の血縁に当たる。

 だから来ないのはおかしいのだ。

 それに対して大輝が言いづらそうに頬を掻く。

 

「あぁ〜。ちょっと体調が悪くてな」

 

「どこか、ご病気に?」

 

 心配になって訊くと、大輝はそうじゃなくてと照れ臭そうに告げる。

 

「今、妊娠してるんだよ。高齢出産にもなるし、大事な時期だから、俺もこの後すぐに帰る」

 

「それは……おめでとう、ございます……?」

 

 彩那の祝辞にありがと、と短く返される。

 

「羽根井さんのところも犬を飼い始めたらしいんだ。宮代さんとこも、近々家を買うらしい」

 

 彩那が知らなかった近況を教えてくれる。

 

「娘達が居なくなって、少し時間が経って、俺達も少しずつ立ち直ってる。だから彩那ちゃんも、いつまでもそんな顔してなくていいんだよ」

 

「私は……」

 

 

「渚も、きっとそれを望んでる。彩那ちゃんは昔みたいに笑っていいんだから」

 

 諭すように言われる。

 しかし彩那はそれに耐え切れずに目を逸らした。

 それに対して仕方ないと大輝が息を吐く。

 

「これだけは覚えてて。渚や璃里ちゃんと冬美ちゃんも、きっと君の幸せを望んでる。俺はそう思う」

 

 言いたい事だけ言って、大輝はもう帰るねとその場を後にした。

 入れ替わるように隆がやって来る。

 そういえばさっき話があると言っていたか。

 

「これ、さ……」

 

 隆が見せてきたのは、形見として持ち帰った冬美の眼鏡と腕時計だった。

 

「彩那が姉貴達は死んだって言って、これだけでも渡してくれたのを覚えてるか?」

 

「えぇ、もちろん」

 

 あの時は彩那も余裕が無く、碌に説明も出来ずに死んだ事だけを話して形見を渡した。

 冬美は向こうで成長し、度とフレームが合わなくなったので買い替えた。渡したのは子供の頃に使っていた眼鏡だ。

 

「これすら無かったら、俺達はまだ姉貴の死を信じられなくて、前に進むなんて出来なかったと思う。渚や璃里の家族も。だからさ!」

 

 溜め込んでいた物を吐き出すように、泣きそうな顔で言う。

 

「何があったのかはわかんねぇけど、全部自分が悪いなんて顔すんなよ。俺達はこれだけでも戻って来て救われたんだよ!」

 

 隆は彩那は悪くないと事情も分からずに言ってくれる。

 下を向いたまま隆は続ける。

 

「ありがとう。姉ちゃん達をずっと想っていてくれて。ありがとな……!」

 

 やっと言えたと顔をあげると目の前に立つ彩那。

 彼女は隆の両頬に触れて額を合わせた。

 

「ありがとう、隆君」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 高町なのはは今日の業務を終えたが、夜遅く、今日はホテルに泊まらせて貰う事にした。

 

「あれ? 彩那ちゃん?」

 

「あぁ。高町さんも今終わり? 精が出るわね」

 

「お互いにね」

 

 流れ的に一緒の部屋に泊まる事となった。

 本当に寝るだけの部屋なのでシャワーと寝床しかない。

 なのはがシャワーを終えると先に終えていた彩那がベッドにトントンと叩く。

 

「高町さん、ちょっとここ座って」

 

「?」

 

 疑問に思うも言われた通りにベッドに座ると、彩那がなのはの膝に頭を乗せてきた。

 

「彩那ちゃんっ!?」

 

 いきなり膝枕を強要されて動揺していると、手で目を覆った彩那が呟く。

 

「嫌なこととか。嬉しいこととか。泣きたくなることとか。なんか最近色々と一気にきて、感情のアップダウンに疲れた……だから労って」

 

「えぇ〜?」

 

 突然の要求に困惑する。

 しかし、彩那がこういう要求をするのは本当に珍しい。

 

「お疲れさま、彩那ちゃん」

 

 取り敢えずなのははそう言って彩那の髪を梳いてみた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最終章予告2

 

 2度目の召喚は成功した。

 最後の勇者、綾瀬彩那はかつて喚ばれた世界に戻される。

 

 

 ??? 「綾瀬彩那。残された最後の勇者として、この世界の為に贄となれ。それがお主の最後の役目となろう」

 

 彩那「……少し、考えさせてください」

 

 人間同士の戦争ではなく、本当の意味での世界崩壊。

 それを回避する術は────。

 

 

 彩那「冬美ちゃんも璃里ちゃんも。ティファナ王女も渚ちゃんも。皆この世界で生命を懸けて戦い散っていった。私の番が回ってきただけ。それに生贄と言っても何も死ぬ訳じゃない。少しだけ永い孤独の時間を過ごすだけよ。そう……大したことじゃないわ」

 

 なのは「彩、那ちゃん……?」

 

 彩那「さようなら、高町さん。数百年後にこの世界を見つけたらまた会いましょう」

 

 最後の勇者は決断する。

 未練も執着も幸福への願いも全てその微笑に蓋をして。

 

 エリザ「皆さんにお願いがあります。アヤナお姉様を助けてあげてください」

 

 はやて「友達を助ける為に1つの世界を見殺しかぁ……ハハ……これは時空管理局の人間として失格やわ……」

 

 突き付けられる選択肢。

 少女達が選んだ答えは────。

 

 フェイト「貴方達は、本当にこれでいいと思ってるの! 彩那に辛い役目を全部押し付けて、それで良かったって喜べるの! 答えて!!」

 

 たった1人の少女の幸福と世界。

 秤るまでもない天秤。

 それでも、本当にそれで良いのかと問い続ける。

 

 ??? 「あらあらこの子は突然来なくなったと思ったら突然やって来て。こっちがどれだけ心配したと思ってるのかしら? 取り敢えず、お茶淹れて」

 

 彩那「私達がお客様なんですけど?」

 

 懐かしい人達との再会。

 故に────。

 

 彩那「そう……あなたの本当の望みは────」

 

 

 

 

 

 

 

 

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