世界を救った勇者は俯きながら生きている。   作:赤いUFO

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やりたいこと

『冬美ちゃんも璃里ちゃんも居なくなっちゃったね……』

 

『うん……』

 

『どうして、こんなことになっちゃったんだろう……』

 

 私達はただ、故郷に帰りたかっただけなのに。

 戦争で人殺しをさせられ。友達を失って。

 何を間違えて、こんな事になったのか。

 ベッドの上で背中を合わせている渚ちゃんに提案する。

 

『ねぇ、渚ちゃん』

 

『うん?』

 

『もうやめよう。帰れなくてもいい。2人でどこかに逃げようよ。もう命を奪うのも、奪われるのも嫌だよ。渚ちゃんまで居なくなったら、私……』

 

 ずっと考えていた事だ。

 どこかに逃げて、この世界で生きていく。

 幸い、今の私達なら身を守る術は幾らでもある。

 

 そもそも誘拐同然にこの世界に連れて来られた私達がどうして血を流さなければならないのか。

 なのに、渚ちゃんは頷いてくれなかった。

 

『ダメだよ。ボク達は帰らないと。冬美と璃里の家族に、せめて遺品を届けてあげなくちゃ』

 

 既に2人の亡骸はこの世界に埋葬されている。

 手元に残ったのは、冬美の腕時計と璃里のリボンだけ。

 

『それにここで逃げても帝国が勝ったら、酷いことになるのは分かってるでしょう?』

 

 現在戦争中の帝国は残虐な行為を繰り返している。

 帝国に支配された地域の悲惨さは、他の国々とは比べ物にならない。

 このホーランド王国が敗北すれば、帝国に食い潰される事になるのは容易に想像できる。

 

『それにさ。ボク達はこの戦争に関わりすぎた。もう見知らぬ世界の戦争じゃなくて、ボク達の戦争(たたかい)でもあるんだよ。今更逃げるなんて、きっと許されない』

 

『でも!』

 

 例え無責任でも、これ以上大事な人を失うのは嫌だった。

 そう思う私を渚ちゃんが後ろから抱き締める。

 

『大丈夫。ボクは死なないよ。絶対に。早くこの戦争を終わらせて帰ろう。家族のところに』

 

 渚ちゃんは強くて、真っ直ぐで、優しくて。

 だから渚ちゃんの言葉の全てを信じた。

 その選択を、後悔するとも知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 家にあるリュックサックに数日分の着替えや日用品を纏める。

 アースラから帰って来た時の両親の反応はそれはもう酷く錯乱していた。

 まぁ、去年1ヶ月も行方不明だったのだ。過保護になるのも仕方ないだろう。

 だからこそ、少しの間学校を休ませてほしいという申し出に難色を示した。

 いや、休学自体はどうでも良いのだ。

 両親も彩那が受けている学校での嫌がらせには気付いているし、引っ越しと転校も検討していた。

 問題は、彩那がこの家を離れる事だ。

 両親からすれば、娘を家に閉じ込めておかなければ不安なのだろう。

 それでも許可してくれたのは、ただの根負けだ。

 珍しく頭を下げてお願いする娘に、仕方なく許可しただけ。

 その際に電話で高町なのはに口裏を合わせて貰ったりもしたが。

 準備を終えてファスナーを閉めると、彩那の両親がドアをノックする。

 

「どうし────」

 

 両親に抱き締められた。

 

「今度は、ちゃんと帰ってくるのよね?」

 

「……うん。電話もちゃんとする。大丈夫だから。それよりも学校には」

 

「そっちは気にしなくて良い。嫌がらせを受けている娘の心の療養の為にしばらく休むと言っておくさ」

 

 あぁ。なるほど、と彩那は感心する。

 母が彩那の頬に触れた。

 今は包帯をしておらず、行方不明になる前には無かった顔のそれを撫でる。

 彩那が変わってしまった証。

 変わらない訳にはいかなかった証。

 

「いつか、話してね。どんな話でも、私達は彩那を信じるから」

 

「うん……」

 

 そんな日が来ることは、きっと無いのだろうが。

 両親の気の済むまで、彩那は抱き締められていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 現在リンディ、クロノ、エイミィはジュエルシードの暴走体を相手にしている協力者を見ている。

 攻撃的な見た目の鳥型の暴走体。

 その攻撃を彩那が防ぎ、ユーノが拘束して、なのはが封印する。

 これまで暴走していたジュエルシードの相手をしていただけあって、慣れた様子で役割分担をこなしていた。

 モニター越しでの映像では、翼から放たれている無数の羽による攻撃を彩那が防いでいる。

 恐ろしいのはそのタイミングだ。

 魔力の無駄を省く為だろうが、攻撃の当たる一瞬のみシールドを展開している。

 それも1羽1羽を個別に小さなシールドで。

 魔力運用という意味では効率的だが、如何せんリスクが高過ぎる。

 判断をミスれば突き崩されて攻撃の波に呑まれているところだし、何よりも演算の負担が大きすぎる。

 例え魔力の無駄に思えようとも、面としてシールドを展開した方が安全なのだ。

 暴走体が彩那に突撃すると、シールドで動きを押さえ込む。

 その一瞬でユーノが暴走体をバインドで拘束し、彩那が距離を取る。

 

『高町さん!』

 

『うん! ジュエルシード、封印!』

 

 なのはの魔力の波を浴びたジュエルシードはその青い宝石の姿を現し、デバイスであるレイジングハートの中へと収納された。

 周囲に異常が無い事を確認してからリンディが現場に赴いている3人に通信を入れた。

 

「3人とも、ご苦労様。準備が終わり次第帰艦してください」

 

『は、はい!』

 

『分かりました!』

 

『了解』

 

 それぞれが返事をしてアースラに戻るために転移の魔法陣に入る。

 それを確認してからリンディがクロノとエイミィに質問した。

 

「あの子達、どう思う?」

 

「優秀な子達ですね。それに連携もバッチリですし、管理局(ウチ)に来てくれないかなぁ」

 

 リンディの質問にエイミィが軽い口調で答える。

 

「僕はあの綾瀬彩那という少女が気になります。あの子の戦い方は、魔法に出会って数年で身に付く物じゃない。それにあの妙な落ち着きも」

 

 高町なのはは魔導師として稀有な才能を有する。

 研鑽を積めばそれこそかなり優秀な魔導師になるだろうが、まだまだ粗削りだ。

 逆に綾瀬彩那は完成され過ぎている。

 ここ数日で幾つかのジュエルシードの封印を行ったが、なのはとユーノを守りつつ所々で指示を出している。

 模擬戦なども行ったが、なのはとユーノの2人がかりでも完封していた。

 

「色々と不可解な点は有りますが、こちらに協力的なのは事実です。ただ、2人に対して過保護に見えるのが気になりますが」

 

 自分に危険を引き付けるような戦い方。

 先日のやり取りでも自分だけにこちらの不快感を向けさせるような物言い。

 

「彼女に対しては何らかの調査が必要かもしれません」

 

「そうね。私も同意見だわ」

 

 不明な点がある以上、調べるのは当然だ。

 もしかしたら、元次元犯罪者かそれと関わりを持った人物の可能性もある。

 

「でも先ずは目の前の事件から対処しましょう。ここで失敗しましたじゃあ、笑い話にもならないもの」

 

 子供を。それも管理外世界の人間に協力を仰いだ以上、リンディ達にとってもそれなりにリスクが付きまとう。

 それでジュエルシードの回収に失敗しましたでは済まない。

 綾瀬彩那についてはこの事件が解決してからで良い。

 

「ただいま戻りました!」

 

 なのは達がブリッジに現れる。

 

「えぇ。ご苦労様」

 

 リンディはいつもの笑みで3人を迎えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここ数日。以前の遅さが嘘のようにジュエルシードの回収が進んでいる。

 既に封印されたジュエルシードの中にはフェイト達が先に封印して行った物も含まれる。

 向こうは今のところこちらと事を構えるつもりは無いのか、接触しないようにジュエルシードを集めている。

 その忙しさも過ぎ去り、ジュエルシードが見つからない今は、適度な訓練と魔法に関する講習を受けて、休憩に入っていた。

 

 食堂で菓子とジュースをつまみながら、雑談をしていた。

 

 なのはは幼少期、父親が大怪我をして、まだ始めたばかりの喫茶店を切り盛りするために家族が団結していたらしい。

 しかしこの中で今より幼かったなのはに出来る事は家族の邪魔にならないように手のかからない良い子でいる事だけだった。

 そんな自分を圧し殺す生活が現在の性格に影響を与えているのだろうと彩那は推測する。

 対してユーノは、実の両親こそ居なかったモノの、スクライア一族として遺跡を回り、考古学者としての知識や経験を培って育ったらしい。

 そんな話をしている中で彩那にも躊躇いがちに振られる。

 まぁ、2人の話を聞いて此方が何も話さないのも不公平な為に、彩那は話せる範囲で話す。

 

「私の小さな頃は友達────と言っても、遠縁の親戚でもあった子達とばかり遊んでいたわね」

 

 かつての友達は皆、曾々祖母から連なる親戚だった。

 仲良くなったのも親族同士の集まりで最早クラス単位で居た子供達の中から気の合う者同士でグループになっただけの話。

 

「そこから去年の夏休みに家族集まってキャンプに出掛けた時に運悪く魔法に関わる事になったのよ」

 

 頬杖を突いて思い出すように目を閉じる。

 

「最初は訳の分からない事ばかりで、とにかく目の前の事に順応するのに精一杯だったわ」

 

「そ、そうなんだ。それじゃあ、魔法の特訓もその時に?」

 

「そうね。もっとも、今は連絡を取る手段は無いし、特に先生には両手両足を叩き斬られても会いたくないわ」

 

 心底嫌、という雰囲気を出して大きく息を吐く彩那。

 何せその先生は、最低限の知識と訓練を施したばかりの彩那達4人に、人を食う魔法生物が大量に棲息する孤島に放り込んだり。

 優秀な治癒魔導師が居るからと、地球の医療技術なら一生障害が残るような大怪我を訓練で負わせたり。

 仕舞いには4人だけで百数十人の魔導師相手に強襲をかけさせるなど無理無茶無謀のオンパレードを押し付けられたのだ。

 その先生も、あの戦争で殉職した訳だが、生きていたとしても会いたいとは絶対思わない。

 昔の事を思い出して憂鬱になっていると、なのはが目を丸くしている事に気付く。

 

「どうしたの?」

 

「あ、うん……彩那ちゃんが自分のことを話してくれたのが嬉しくて……」

 

 あまり自分の事を話したがらない彩那がこうして少しでも話してくれた事が嬉しい。

 それになのはは彩那に色々とお世話になってると思っている。

 だから────。

 

「わたしに出来ることがあったら言ってね。出来る限り力になるから」

 

 手を握ってそう言った。

 純粋に誰かの力に成りたいと願う想い。

 それはかつて彩那の友達が持っていた────。

 

「そう。その時はお願いするわね」

 

 本当に小さくだが、彩那が笑ったような気がした。

 

 そこでアースラ艦内に警報が鳴り響く。

 

「次のジュエルシードが見つかったのかしら。行きましょう」

 

 

 

 

 

 

「なんて無茶するの! あの子達っ!?」

 

 アースラのブリッジになのは達が到着すると悲鳴のようなエイミィの声が聞こえた。

 モニターの映像には複数の竜巻を相手に奮闘するフェイト達の姿があった。

 

「何かありましたか?」

 

「どうしたもこうしたもない。彼女達は海底に落ちたジュエルシードを全て強制発動させたんだ」

 

 苛立ちと呆れの混じった声でクロノはモニターを見ている。

 リンディが説明を付け足す。

 

「無茶をして。あんな数のジュエルシードを、個人が封印出来る物ではないわ」

 

「残りのジュエルシード……6個、ですね」

 

 無感情な声でモニター見つめる彩那。

 以前海鳴の町で行ったジュエルシードの強制発動。

 それと同じ事を今回もやったのだ。

 

「その内、無茶な手段に出るとは思ってましたが」

 

 しかし今回の方法は彼女達の力量を明らかに越えている。

 今にも撃墜されそうなフェイトを見てなのはが進言する。

 

「あの! 早く現場に!」

 

「その必要はないよ。彼女達は遠からず自滅する。封印はその後で良い」

 

「え?」

 

「残酷に聞こえるかもしれないけど、私達は最善の道を選ばなければならないの」

 

 リンディが逸るなのはを説得する。

 そう。このままフェイト達が勝手にやられたところを保護し、ジュエルシードを封印する。

 それがこの場に置いて最も労力の少ない対処法だ。

 なのはも大まかに理解しているが、納得出来るかは別問題で。

 迷っていると、なのはの肩に彩那が手を置く。

 

「彩那ちゃん?」

 

 首を小さく縦に動かすと、リンディ達を見た。

 

「私は、現場への急行を進言します」

 

「……君は話を聞いて無かったのか? その必要は────」

 

「このまま劣勢が続けば、自棄になったテスタロッサさん達が無謀な行動を取って、ジュエルシードを更に刺激し、町にまで被害の広がる可能性が有ります。なら、テスタロッサさんと協力して早々にジュエルシードを封印するべきだと思います。それに……」

 

 次に発した言葉に周りが目を丸くする。

 

「質も数も此方が上です。あんな子供をこれ以上危険に晒す必要は無いでしょう?」

 

「子供って……君も同い年だろう」

 

「……あぁ、まぁそうですね」

 

 まるでその事を今察したように呟く。

 その反応は取り敢えず置いておき、リンディが思案して返答する。

 

「町の安全。それが彩那さんの戦う理由だったわね。だからより確実にジュエルシードを封印したいという訳ね」

 

「ついでに言えば、あちらもこれ以上こちらがジュエルシードを確保する事を快く思わない筈です。テスタロッサさんの背後に誰かが居るなら、少しくらいは尻尾を見せてくれるかもしれません」

 

 その案に、クロノが反論する。

 

「だが、現状であの場に君達を送るのが危険な事には変わりない」

 

 あくまでもなのは達の安全を危惧して発言するクロノ。

 それに彩那が首を横に振る。

 

「問題ありません。ジュエルシードの暴走は私とスクライア君で抑えます。増援が来るのなら、全て叩き伏せるだけです」

 

 王剣のカードで口元を隠してそう断言する彩那。

 

「分かりました……現場への急行を許可します」

 

 ここまで言われては静観より急行の方が利が大きい。

 賭けの部分はあるが、彩那の自信と相手側の出方を見る良い機会でもある。

 備え付けられた転移装置に向かう3人。

 その途中でなのはが彩那に礼を言う。

 

「ありがとう、彩那ちゃん。リンディさん達を説得してくれて」

 

「私、高町さんみたいに誰かに手を差し伸べられる優しい人は好きよ。私の1番の親友もそうだったから。出来ればそれを忘れないでね」

 

 まるで自分はそうじゃないと言うように呟く彩那。

 どういう事か聞く前に、転移装置が起動して、現場へと跳ばされた。

 

 

 

 

 

 

 

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