世界を救った勇者は俯きながら生きている。   作:赤いUFO

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最終章開始。目標は100話ジャスト完結。


再召喚

 惑星エルトリア。

 かつては死の星となっていたこの星に少しずつだが緑が戻り始めていた。

 汚染された水は浄水され、大地に草花が生え、危険な生物が討伐され、本当に少しずつだが、人間の生活圏が広がっている。

 それも今は亡き、この星の復活を夢見た1人の科学者の研究と、数年前に過去からこの世界にやって来た少女らがその研究を形にしてくれたおかげ。

 そんなある日、いつも通り1日を終えるとユーリがとある絵本を持ってきた。

 

「アミタ、今日こんな本を見つけたのですが」

 

 見せてきた絵本にアミティエは懐かしそうに受け取る。

 

「あぁ、【ホーランドの勇者】ですか。懐かしいですね」

 

 洗い物をしていたキリエがからかうように話に入ってくる。

 

「これ、アミタが小さい頃にボロボロになるくらい読み込んだ絵本よね。毎日毎日飽きもせずに」

 

「いいじゃないですか! 当時はこの世界も大変で、この世界を救ってくれる存在に憧れても!」

 

 少しずつ壊れていく世界で、世界を救った勇者の物語に憧れた。

 この世界もそうして救ってくれないかという願望と、絵本の中に居る勇者のように世界を救いたいという夢。

 この絵本自体は子供向けにかなり脚色された内容なのは流石にアミティエも理解しているが。

 ただ、ホーランドの勇者という名前に難色を示す者もこの場には居た。

 

「ボクあいつきらーい!」

 

 頬を膨らませたレヴィが不機嫌そうにそっぽ向く。

 数年前のユーリを救う為の戦いで、彼女を殺そうとした事は忘れてない。

 それに、彼女らのオリジナルやその仲間と違い、終始友好的とは言えない態度だった。

 レヴィの中では自分の大切な人を傷付けた悪い奴で固定されているのだ。

 

「ユーリもそう思うでしょ?」

 

「どう、なんでしょう……よくわかりません」

 

 対してユーリの中であの勇者の事はよく分からない人、というのが本音だ。

 暴走していたあの戦いで斬りつけられた時は恐怖を感じたが、それは彼女が自分の世界を守る為に必死だった事への表れだと思っている。

 さりとて好意を持つ程に彼女と交流があった訳でもない。

 お礼と共に少し話をしてみたかったが、彼女が目覚める前にエルトリアに来てしまった。

 そこで今やっている実験データを纏めていたシュテルとディアーチェが話に入る。

 

「それで、あの人は隣の世界でいったいなにをしたのですか?」

 

「うむ。正直、我もあまりあやつのことを好いてはなかったので意図的に避けておったわ。しかしこうして話題になると気にはなるな」

 

 惑星エルトリアと交流のある惑星デミア。

 そこに存在する大陸のとある国に彼女達は喚ばれた。

 今、惑星デミアに移住していたエルトリアの人達も少しだけこっちに戻って来ていた。

 良い機会だとアミティエが簡潔に話す。

 

「呼び出された勇者は4人の少女だったそうです。大陸中で起こっていた戦乱を終わらせる為に。ですが、3人の勇者は戦争で倒れ、残された1人が結果的に戦争を終わらせたそうです」

 

「それがあやつか」

 

 地球で見た勇者の顔を思い出してディアーチェが腕を組む。

 

「はい。戦争が終わったことで、勇者は元の世界に還ったと記録に残されてます。そしてその数年後にさらなる災厄に見舞われた世界に、再び勇者召喚が行われたらしいです。ですが……」

 

「ですが?」

 

 首を傾げるレヴィ。

 

「2度目の召喚に関しては記録が大分曖昧なんです。ただ、勇者のおかげで次元断層という世界崩壊の危機を乗り越えたらしいのですが、その過程の記録はこっちには全然流れてこなくて。映画や劇で取り扱われるのは大抵最初の召喚ばかりですし」

 

 惑星デミアのホーランド王国まで行けばそれらの資料も在るだろうが、そんな事をしている余裕はない。

 本音を言うと、過去の地球に跳んだ際に彼女にそこら辺の質問をしてみたかったが、状況が状況だったし、なにより本人が2度目の召喚をされてない様子だった。

 これから、と言っていいのか判らないが、彼女に訪れる苦難に、アミティエは想いを馳せて心の中でエールを送った。

 

 

 

 

 

 

 

「彩那ちゃん、昇進おめでとう!」

 

「わー。ありがとう……はぁ……」

 

 周囲のお祝いムードに対して彩那本人はローテンションだった。

 その彩那の態度にアリサがムッとする。

 

「ちょっと! なんでそんな態度なのよ!」

 

「……まだしばらくは二尉で居ようとしたのに、上司が勝手にね。今度指揮官研修も受けされられるし。特に使わないお給料を上げられてもね。求められる資格や技能修得が面倒なのよ。というか、なんで高町さんやテスタロッサさんより早く出世したのかしら?」

 

 疑問を口にすると、ヴィータが答えを言う。

 

「働き過ぎだからじゃねーか?」

 

「……」

 

 ヴィータの考えはおそらくは正しい。

 彩那はなのは達より管理局で働く時間が長い。

 たぶん1.3倍くらいは働いてる。

 出世自体には大して興味も無かったが、それなりにやり甲斐も感じていたらこれだ。

 

「前にシグナムと試合した時の彩那ちゃんの熱いメッセージ。アレが決め手になったってレティ提督から聞いたで? あの試合で向上心のある局員とそうでない局員の掻き分けが出来たって」

 

「orz……」

 

 自分達の世代が時空管理局のピークになってはいけないと発破をかけたらこれだ。

 給料上がっても、今のところ殆ど使い道も無いのに権限と責任だけが重くなっていく。

 なのはが隣に座るユーノに視線を移す。

 

「ユーノ君も、司書長就任おめでとう!」

 

「まだ内定だけどね……ハハ……」

 

 ユーノの方も乾いた笑いが漏れる。

 というか彩那よりも表情がヤバい。完全に目が死んでいる。

 ユーノが司書長に選ばれたのは、言ってしまえば前任が逃げたしわ寄せである。

 闇の書事件でユーノが活用するまで殆ど手付かずだった無限書庫。

 それをスクライア一族の協力もあり、限定的だがなんとか活用出来るところまで整理したのがユーノだ。

 しかし、毎日のように送られてくる膨大な資料(データ)に人員など何人居ても足りない。

 新しい事件や事故の資料をある程度自動で整理されるように魔法プログラムを組んだ。

 将来的には新しく送られてくる資料は全て自動で整理されるようにプログラムを組み、古い資料の掘り出しと整理に司書を回せるようにするのが現状の目標だ。

 

「前の司書長も優秀な人だったんだけどね。年齢を理由に引退しちゃったんだ。僕ならいざとなればスクライアの伝手が使えるのも司書長に抜擢された理由の1つ」

 

 これまでは求められる資料の発掘やら整理だけをすれば良かったが、これからは人の使い方も覚える必要がある。

 本業の考古学から遠ざかっているのもユーノが気落ちしている理由だ。

 

「それに、クロノからこれで遠慮なく扱き使えるなって……これ以上の無茶振りをされると思うとね……ハハ……」

 

「お、お兄ちゃんなりの冗談だと思うよ! 私の方からも言っておくから! 元気出して!」

 

 出来る限りフォローするフェイト。

 ただ、クロノはユーノには容赦がないというか、いくらでも無茶をさせて良いと思ってる節があり、本当にやりかねない。

 今日は昇進した彩那とユーノのお祝いで集まっていた。

 集まったのは中学生6人とユーノに八神家の面々。

 本局で使えるちょっと広めの部屋を借りている。

 この後、中学生組の6人でミッドチルダを遊び歩く予定だ。

 シャマルが彩那に質問する。

 

「それで、彩那ちゃんはどうするんです? はやてちゃんみたいに上を目指すんですか?」

 

「しばらくは現状維持するつもりよ。佐官に上がるとしても、最低10年後くらい。それは絶対に譲らない」

 

「そんなに昇進するのが嫌なん?」

 

「嫌よ。そもそも私は命令する側より受ける側の方が向いてるの。それに、これ以上自由な時間を取られたくないし」

 

 彩那自身、個人的な調べ物があって管理局に所属してる面もある。

 これ以上仕事に時間を割かれるのは避けたいのが本音。

 給料には満足しているのだから本当に昇進するメリットがない。

 彩那の言葉にすずかが苦笑する。

 

「わたし達もこれ以上みんなに忙しくなって欲しくないかな。集まる機会がまた減っちゃうし」

 

「そうよ! 仕事が大変なのは分かるけど、もうちょっと学生(こども)らしい生活をしなさいっての!」

 

 友達として淋しい気持ちもあるが、仕事ばかりしている4人に対する心配もある。

 日本で暮らす学生として、歪な青春を送ってるように見える時があるのだ。

 そこでやや強引になのはが話を変える。

 

「そ、そういえば、ヴィータちゃん達は全然昇進しないね。なんでだろ?」

 

 雲の騎士は歴戦の戦士で経験豊富だ。

 はっきり言って個々の実力だけならまだなのは達より上だと思う。

 なのに、シグナムが二尉に上がっただけでそれ以降は昇進の話が無いのが不思議だった。

 

「あん? そりゃあたしらの経歴を考えれば当然だろ。むしろ、今の地位に居る方が異例つーか」

 

「そうだな。そこら辺はリンディ提督やレティ提督のおかげだろう。私達がこれ以上の地位を望むのなら、相当管理局への貢献が必要だろうな。もっともあまり出世欲を出し過ぎれば上から睨まれそうだが」

 

 時空管理局からすれば騎士達を現状のまま使うのが1番良いのだ。下手に出世などさせて上に据えてもどうなるか判らない。

 もしも彼女達が色眼鏡なく出世出来るとすれば、闇の書の悲劇が完全に風化した後だろう。

 騎士達からしても、変に波風を立てて事を荒らげたくないので、そこら辺の意見はお互いに一致してる。

 まぁ、今以上の階級になっても持て余すという理由もあるが。

 そういう理由で、ツヴァイの方が将来的に出世するかもしれない。

 そんな風に色々と楽しい時間を過ごす。

 大切だと思える存在。

 守りたいと思うし、心許せる友人と仲間。

 だからこそ、綾瀬彩那は完全に油断していた。

 何故自分があんな不格好な包帯を巻き続けてたのか、数年の安寧で完全に気が緩んでいた。

 あの包帯は彩那自身の魔力出力を制限する為。

 そして最大の目的は、彩那の魔力を外部に感知させづらくする為だ。

 もしも彩那が包帯を巻いていれば、この場で友人達が巻き込まれる事はなかったかもしれない。

 

 喚ばれるのは、綾瀬彩那独りで済んだかもしれないのだ。

 

 

 

 

 

「ちょっとなによこれっ!!」

 

 突然室内に広がった魔法陣。

 それに彩那は見覚えがあり、心臓が冷たくなる。

 

(これは……私達が喚ばれた時の……!?)

 

 この部屋から出るように叫ぼうとするが、その前に魔法陣が完成し、視界に光が広がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(あぁ……本当に嫌な既視感(デジャヴ)……)

 

 彩那の記憶で凡そ15年程前。

 神殿のような建物の中。

 囲っている者達。

 視線を周囲に向けると、友人達は皆、不安そうに辺りを見回し、騎士達はいつでも戦えるような姿勢を取る。

 

「記憶よりも幾分か若いな。本当に貴様はアヤセアヤナか?」

 

 40程の男性が前に出て話しかけてくる。

 それに彩那は奥歯を噛んだ。

 

「お久し振りですね、王様……まさかまた、こんな強引な喚び出しを受けるとは思いませんでしたよ」

 

 皮肉交じりに久し振りに会うホーランド王を睨む。

 その後ろに控えていた少女がひょっこりと顔を出して彩那に近付いてきた。

 

「お久し振りですアヤナお姉様。また貴女とお会い出来て嬉しく思います」

 

「エリザ……!」

 

 第二王女であるエリザが彩那の手を取って微笑む。

 その姿は彩那の記憶よりも大人びていて、今の自分と同い年くらいか。

 その名前を聞いた時にはやては頭に痛みが襲う。

 

『エリザ王女には気を付けてくださいです』

 

「リイン?」

 

「はい? どうしたですか?」

 

「いや……ん?」

 

 誰かがそう言っていた気がするのに、思い出せない。

 ツヴァイのような気もするが、そんな筈もないのだ。

 はやてだけでなく、召喚された全員が困惑と恐怖に身体を強張らせている中で、ホーランド王が言う。

 

「久々の再会で話したいこともあるだろうが、こちらの要求を伝える。アヤセアヤナ。貴様の持つ4本の勇者の剣を我が国への返却を求める」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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