あの歌を聴いた時に書きたい内容とカチッと填まった感じ。
今回のなのはさんは精神デバフで戦闘力が4割減してます。
「勇者アヤナ殿! 貴女の帰還を心より歓迎致します!」
『うおぉおおおおおおおぉおおおおおっ!!』
彩那がやって来た軍の訓練場で起こっている大喝采。
それを見て聞いたフェイトはこう思った。
(これ、彩那が所属してる部署のノリだ)
その彩那本人は笑顔のポーカーフェイスに徹していた。
先日の件から彩那と他の面々の間でちょっとだけ距離が生まれていた。
そんなある日、マーサを伝手に連絡が届く。
「アヤナ様。実は軍の方が1度顔を見せに来て欲しいと」
「軍が?」
「はい。皆さんアヤナ様にお会いしたいのでしょうね。こちらに押しかけることがないのは彼らなりの配慮かと」
「あぁ……どうりで」
この世界に来てなにか静かだと思ったが、気を遣ってくれていたのか。
「どうなさいますか? お断りすることも可能ですが?」
「いえ、明日の昼に顔を出しましょう。私も皆さんにお会いしたいですし」
勇者時代にはなんやかんやで世話になった方々だ。
思えば戻って来て1度も顔を見せないのは不誠実だろうと思う。
リゼリータとのお茶会の誘いも含めて軍の事をすっかり忘れていた。
話を聞いていたアリサが不機嫌そうに話をする。
「大丈夫なの? 出向いたら捕まって、なんてことにならないでしょうね?」
今の彼女らからすればホーランドの全てが疑わしく思えるのだろう。
いつ彩那に封印する為に動くのか内心ハラハラしてるのだ。
今は手元に武器も無いので尚の事。
「えぇ。
こちらが大人しくしていれば、と心の中で付け足す。
しかしそれより今はアリサの隣に居る狼形態のザフィーラが彩那には気になった。
「珍しい組み合わせね」
ザフィーラは基本はやてやヴォルケンリッターなどの家族。
もしくは同じ狼の使い魔でもあるアルフと行動を共にする事が多い印象。
彩那の疑問にアリサが少し恥ずかしそうに視線を動かす。
「ほら。この家ってペットとか居ないじゃない?」
「そうね。帰ってきたのはつい最近だし、そもそも私達はすぐにあっちこっち遠征に行ってたから基本動物を飼う余裕がなかったのよね」
派遣されていた使用人に面倒を見させる事は出来ただろうが、それを自分達が飼っていると言うのは抵抗がある。
「あたしって家で犬飼ってるでしょ、何匹も」
「そうね。初めて見た時は驚いたわ」
初めてアリサの家に招かれた時にその豪邸にもだが、飼っている犬の多さにも驚いたのを覚えている。
「だから、時折無性にこう、生き物に抱きつきたくなることがあるのよ。ザフィーラってうちで飼ってる大型犬と同じくらいの大きさだしね」
「……」
アリサの主張に彩那は目を細めて少しだけザフィーラに同情する。
彼は守護獣である事と元の素体が狼である事に誇りを持っているのは会話の節々から感じていた。
それでも文句の1つも言わずに犬に徹するのはアリサがはやての親友だからか。
その忠狼っぷりに心の中で拍手を送る。
「……流石に生き物を飼われたら困るけど、大きなぬいぐるみとか買ったら?」
「ダメよ。あんたのお金なんだから。生活用品全部買って貰ってるのに、そんな娯楽品まで買う程あたしだって面の皮厚くないわよ」
彩那は別に構わないのだが、アリサの中で譲れない一線があるのだろう。
ザフィーラには帰るまでしばらくは犬扱いを享受してもらおう。
高町なのはは部屋に備え付けられているモニターで過去に行われた勇者の模擬戦記録を見ていた。
『冬美と璃里は援護お願い! 彩那、突っ込むから守って!』
『しょうがないわね……!』
『任せて!』
『了解。渚ちゃんを襲う攻撃は全部私が防ぐから!』
向こう15人。凡そ4倍近い数の差を物ともせずに勇者達は完璧な連携で次々と相手のホーランドの兵士を撃墜していく。
ホーランドの人達だって決して練度が低い訳じゃない。
1人で防げないと思った攻撃は複数人のシールドを重ねて防ぎ、射撃タイプの魔導師は彩那の防御魔法を一点集中させる為に攻撃を集中しつつも1人が誘導刃で背後から襲う。
バインドで渚を拘束する為に左右からホーランドの剣士が襲う。
この連携こそがホーランド式本来の戦い方なのだろう。
役割を完全に特化させてチームの連携で戦う。
それでも勇者4人はホーランド兵達の連携を真正面から叩き潰して背後に設置された像を破壊する。
格の差を見せつけるように。
『やったね!』
画面の中で森渚とハイタッチを決める彩那。
自分達と接する時とは違う、年相応の表情。
それ見てなのはは────。
そこでフェイトがノックしてきた。
部屋に入るのを許可するとフェイトが部屋に入ってくる。
「どうしたのフェイトちゃん」
「うん。彩那が明日軍の方へ出かけるって。なのははどうする?」
「もちろん一緒に行くよ!」
「分かった。シグナム達は今回は遠慮するってトラブルになりそうだからって」
「その方が、いいのかな……?」
先日の件を見て、あんな騒ぎがまた起こるかもしれないのだ。
なのは個人としてはあのロイドという人とヴィータ達が話し合って仲良く出来るのが1番だと思うが、それを部外者のなのはが強要する事は違うと思う。
フェイトは見ていた映像に視線を移す。
「また見てたんだ」
「うん! 教導官として色々と為になるから。帰ったら、参考にしたいフォーメーションやチームワークがいくつもあって────」
模擬戦の映像を見ながらノートに纏めた内容を説明する。
自分達の時代に帰ったら試して検証したい事が出来た。
しかし、説明していく中で、なのはの顔を俯かせる。
「なのは?」
「なんて言うかさ……すごいなって……わたし、彩那ちゃんとこんなに息の合った連携取れる自信ないや」
4人がそれぞれ信頼して生まれるチームワークの完成形。
短い会話だけで意図を理解し、寸分違わぬ動きを見せていた。
念話による通信もしているだろうが、この連携には一種の美しさがある。
「ヴィータちゃん達が、勇者の連携は
過去の模擬戦の映像を見て少しだけ胸の中でざわつく感情がある。
しかしなのははその感情に気付けない。
彼女の中で生まれた初めて感情であるが故に。
その様子に不安を覚えたフェイトはなのはの手を握る。
「でも、なのはと私なら勇者の連携にだって負けないよ。そうでしょう?」
最高のパートナーに出会えたと思っているフェイトは、なのはとなら勇者の連携にだって引けを取らないと信じている。
「そう、だよね。うん! ごめんね、変なこと言って」
少しだけ声を弾ませるなのはにフェイトはひとまず安心した。
翌日、彩那達はホーランド軍の宿舎の前にやってきた。
守護騎士とユーノは今回辞退。
ユーノはあの屋敷に置かれている本に興味があるらしい。
男女含めて百人以上の兵士が一糸乱れぬ整列をして出迎えてくる。
「勇者アヤナ殿! 貴女の帰還を心より歓迎致します!」
『うおぉおおおおおおおぉおおおおおっ!!』
言葉通り歓迎されているのだろうが、そのノリに彩那の後ろに居る少女達はビクッと萎縮していた。
ツヴァイなど、はやてにしがみついて震えている。
この場を任されているのだろう男女が前に出て彩那に近づく。
「こうして貴女と再び顔を合わせられて良かった」
「えぇ。お2人も出世なさったようで。おめでとうございます」
「ただの繰り上がりですよ。戦争後に退職した者も多かったので」
軽い挨拶を済ませると彩那が2人を友人達に紹介する。
「紹介するわね。こちらはレオルド・レム・オーベルジュとアリア・オヌ・ルベルス。2人とも以前世話になったわ。特にアリアさんはこっちの世界に不慣れだった頃に軍内でのサポートをしてもらってたの」
2人ともこの国の貴族だ。
この国は独自の呼び方がある。
王がイム。
貴族は上からオク・レム・リン・テレン・オヌの順だ。
そして彩那はホーランド軍にもなのは達を紹介する。
「彼女らは私が認めた優秀な魔導師です。その才覚なら私にも引けを取りません」
「ほう……それは……」
レオルドが興味深そうになのは達を見る
アリサとすずかは違うが、彩那がそう言っておけば、向こうも変な手出しはしてこない筈だと考えた。
何人かと挨拶を済ませた後、演習場に案内される。
その途中ではやてから念話が届いた。
『彩那ちゃん。この人らは次元断層や封印の件は……』
『知らされてないのでしょうね。知っているのはおそらく北の遺跡を調査した調査員や研究員が主でしょう。軍で知っているのは上層部くらいじゃないかしら』
まだ知らせる必要は無いと思われているのだろう。
演習場に着くと、丁度模擬戦の真っ最中だった。
15対15の模擬戦。
背後にある像を破壊したチームの勝利。
基本ホーランドでは最小が7人で組まされる。
役割として防御型が3人で近接型と遠距離型が2人ずつ。支援型1人で1チームとなる。
もちろんその割合が変わる場合もあるが。
防御型の魔導師が防御魔法で敵の攻撃を防ぎつつ、近付いてくる近接型を遠距離型の魔導師が撃墜しようとするも、防御魔法が邪魔し合っており、支援タイプが拘束その他の魔法で援護する。
時空管理局でも滅多に見れない高度な連携がそこにはあった。
「どうです? 久々にこの場に来るのは」
「悪くないと思いますよ。戦後でここまで兵士の練度を保ってられるのは素晴らしいと思います」
戦時と変わらぬ練度を見せる兵士に彩那は純粋に称賛する。
彩那の言葉にアリアが嬉しそうに微笑んだ。
「その言葉、兵士達の励みとなるでしょう」
「どうでしょうね。私がホーランドを離れて5年。人もかなり入れ替わっているのでしょう?」
知っている者達ならともかく、勇者を直接知らない者達には何にも響かないだろう。
そこである考えが浮かぶ。
「ところで、模擬戦は後何試合ありますか?」
「今日は後2試合残ってますが……加わりますか?」
「まさか。勇者の剣は没収されてますので。その代わりに────」
なのはとフェイトを見て彩那はある提案をした。
次の模擬戦の順番待ちだったロイドは仲間と一緒なフィールドに出る。
すると対戦相手は予定していたチームではなく、2人の少女だった。
「あの子達は……」
ロイドを含めて戸惑うチームメンバー。
そこでアナウンスが入る。
『ホーランドの兵士諸君、綾瀬彩那です。予定を変更して今日はミッドチルダ式の優秀な魔導師に戦って貰う事となりました。全滅したくなければ油断せぬように』
アナウンスが終わると試合開始の合図が鳴った。
アナウンス用のマイクをアリアに返すとアリサがジト目を向ける。
「どういうつもりよ。なのは達を戦わせるなんて」
「別に。最近、ホーランドの模擬戦データをずっと観賞してるって聞いたから。実戦に勝る経験はないわ。ホーランド側も、2人と戦うことで得られる経験もあるでしょう」
はやてを加えなかったのは2人で充分だと思ったのと、下手に騎士達の主を目立たせたくなかったからだ。
「フェイトちゃんはともかく、なのはちゃん大丈夫かな?」
ここ最近のなのはの微妙な変化に気付いていたすずかが心配そうに演習場で飛んでいるなのはを見る。
その不安を彩那は不思議に思った。
「なんで?」
「なんでって……あんたね〜……」
今のなのはは彩那の件で精神的にぐちゃぐちゃである。
なにかしなければいけないと思いつつも方法が分からず立ち止まっている。
そのもどかしさが高町なのはを鈍らせていた。
彩那は自分がそこまでなのはに影響があるとは思ってないのだろう。
自分がどれだけ想われてるのか理解してないのだ。
「始まったわね」
特に気にした様子もなく彩那は模擬戦に集中した。
「ディバインバスター!」
初撃で砲撃魔法を撃ち込み、数を減らそうとする。
しかし、4人がかりで展開したシールド魔法にディバインバスターが防がれる。
「ふえっ!?」
様子見で撃った事もあり加減はしたが、それでも完璧に防がれるとは思わなかった。
1人か2人は確実に撃墜出来ると思ったのだ。
(映像データだけじゃ解らなかったけど……)
4人がそれぞれ魔力の糸を編み込むように作られた1つのシールド。
1人1人の負担が減るし、強度だってAAAランク以上の攻撃魔法も防げるかもしれない。
その代わり、完成にやや時間がかかるので今のような遠距離からの攻撃にしか使えないだろうと当たりを付ける。
『Master』
「えっ!? きゃう!」
レイジングハートからの警告で近付いてきた兵士2人の攻撃を防ぐ。
そのうちの1人はあのロイドだった。
「ロイドさん!」
「お前に名乗った覚えはねぇんだけどな!」
逃げに徹するなのはを2人で追い詰めていく。
離れた前に出ていたフェイトがなのはの不調を察して戻って来る。
「ハーケンセイバー!」
ブーメラン状の斬撃が高速回転しながらなのはを囲っている兵士に迫り近接型の兵士1人を撃墜に成功。
なのはとロイドの一騎打ちの形となる。
また、フェイトが攻撃の為に僅かな減速に合わせて遠距離型の魔導師達が砲撃魔法と射撃魔法で一斉にフェイトを撃つ。
得意の高速機動で回避し、逆に砲撃を速射で撃ち込んで遠距離魔導師を1人撃墜した。
(なのは……!)
フェイトもなのはの方が心配で集中出来ていない。
これでは駄目だと逃げ回りしながら深呼吸して冷静さを取り戻す。
(ここは、私がなんとかしないと……!)
フェイトはバルディッシュを強く握って残り全てを自分が撃墜するつもりだ。
(だけど!)
強い。
シグナム達が自分達もホーランド兵の連携を崩すのは容易ではないと言った意味を理解する。
1人1人の能力はフェイトとなのはが圧勝していても、チームワークでその差を縮めていた。
まるでそれは1つの生き物のよう。
(これは、思った以上に強敵だ)
観戦していた彩那は不思議そうに試合を見ていた。
「高町さんは調子が悪そうね」
「せやろな」
彩那の予想ではホーランド側はもう半分くらい撃墜されている筈なのだが、なのはがロイドに押さえ込まれてる影響でフェイトが実質10人以上相手にしないといけなくなっている。
あの2人がいつもの連携を見せてくれればもっと楽に終わるのだが。
「あ、ロイド君が墜ちた」
零距離からの射撃魔法でロイドも撃墜される。
そこで遠距離狙撃の砲撃魔法で数を減らそうと構えた。
しかしそこで補助タイプの魔導師がいつの間にか近付いてバインドで拘束する。
少し離れた位置から射撃タイプの魔導師がなのはを狙って────。
なのはとロイドは一騎打ちを演じている。
「お前ら、アヤナ様とどういう関係だ?」
「友達です! わたし達にとって大切な……!」
「そうかい! でもな! あの人はこの国や世界に必要な人なんだよ!」
ロイドの連撃をシールドや長柄で受け流しつつもなのは疑問に思う。
「なにが、言いたいんですかっ!」
ホーランドの一般兵士は北の遺跡に彩那を封印するのを知らない筈だが。
「だから、この模擬戦に負けたらあの人はこの世界に残って貰えるように話をつけてくれ!」
ロイドの要求になのはは一瞬呼吸を止めた。
彩那がこの世界に残る。
それの意味するところを想像して。
斬り込んでくるロイドの剣をレイジングハートで押さえ込み、素手でロイドの胸板に触れる。
「っ!!」
零距離射撃でロイドを撃墜する。
この模擬戦に負けたら彩那をこの世界に置いていかなければならない。
その可能性に視野が狭くなり、一気に片を付けようと砲撃魔法での一掃を選択する。
しかしその前になのはの手足はバインドで拘束される。
「あぁ……!?」
ロイドに集中してる間に補助タイプが接近し、なのはの機動を読んで設置型のバインドを置いていたのだ。
バインドを解除しようと魔力を流して破壊を試みる。
完全に無防備となったなのはを射撃型の魔導師が狙っていて。
(バインドの解除、間に合わな────)
射撃型の魔導師が砲撃魔法を撃とうとした時。
勝敗を決する音が鳴った。
「あ……」
見ると、後方の像をずっと前へと進んでいたフェイトが破壊したのだ。
同時になのはにかけられたバインドも解除される。
そこで補助タイプの女性魔導師がなのはの飛んでる高さに合わせる。
「負けてしまいましたね。ですがとても良い経験をさせていただき、ありがとうございます」
握手を求められて、なのはもそれに応じる。
「いえ、こちらこそ……」
自分らしくない戦い方だったと振り返る。
なにせこの模擬戦の最中になのはフェイトの事をまったく意識してなかったのだから。
そしてロイドも怒りのままに魔法を使って撃墜してしまった。
なのはは自分の手の平を複雑な顔で見つめてから強く拳を握った。
模擬戦が終わり、帰路に着く。
なのはは今回自分の情けない模擬戦内容に落ち込んでおり、フェイトとアリサが励ましている。
彩那もなにかを考え事をしている様子ではやてとすずかが話しかける。
「どうしたの彩那ちゃん。なにか悩みごと」
「悩みごとと言うか、レオルドさんが思ったより普通に接してくるから少し驚いて……時間が経ったからかしら?」
「実は仲悪かったん?」
「そうじゃなくて……言ってなかったわね。あの人は冬美ちゃんに婚約の申し出をしていた人なのよ」
だから意外だったと冬美が死んだ時の彼の様子を思い返した。