「アヤナ様。リゼリータ王妃から手紙が届いております」
「リゼリータ妃から?」
手紙を受け取って中身を確認するとたまたま飛んでいたツヴァイが手紙を見る。
ただこの子はホーランド語は履修してない為、内容を読む事が出来なかった。
「なんて書いてあるですか?」
「ここに喚ばれた時にお茶会をしようって話をされたでしょう? 明後日城に来てそれをしようって話。となると城に行くなら礼服用の軍服かな……?」
流石に適当に買った私服で城に行くのはまずい。
礼服用の軍服を出さなければならないだろう。
そう考えていると、マーサから呆れながらダメ出しされる。
「駄目に決まっているでしょう。王妃様とのお茶会に軍服など。軍務でもあるまいに」
「やっぱり? 一応用意はしてましたけど、ドレスとか面倒臭いですね」
「そういうことは思ってても口にしないでください」
王妃とのお茶会に行く準備を面倒臭いと言う彩那をマーサが軽く叱る。
「ほーほー。ドレスとな?」
「わっ!? はやてちゃん! びっくりしたです!」
「何処から生えてくるの貴女……」
「そんな人を雑草みたいに言わんといてな?」
いきなり背後から現れたはやてに彩那とツヴァイの2人はそれぞれ反応を見せる。
「それより、あの王妃様に会うんか?」
「会うけど貴女達は行けないわよ。招待されてるのは私だけだから」
流石に王族と会うのにはやて達を連れては行けない。
「それはえぇんよ。それよりドレス着て行くんか?」
「仕方ないでしょう。今の私は軍属じゃないし」
「うんうんそーかー」
そこではやてが念話を魔導師全員に繋げた。
『しゅーごー!』
と、そんな流れで彩那のドレスのお披露目会となった。
深い青を基調に黒が入った肩出しシンプルなデザイン。
それにネックレスなどの最低限の装飾品を身に付けている。
「わぁ綺麗だよ彩那ちゃん!」
すずかがパチパチと手を叩いて彩那のドレス姿を褒める。
はやてが自分の携帯でパシャパシャと彩那のドレス姿を撮る。
「いやー。もうすぐバッテリーが切れそうやから今のうちに撮って彩那ちゃんのご両親へのお土産にせんとなぁ」
携帯は使えないので電源を切ってたので、まだギリギリバッテリーが保っていたが、使い切る勢いでシャッターを切っている。
「そのドレスであの王妃様に会う訳ね」
「当日は軽く化粧もする」
「しまった! そっちも撮らな!」
オーバーなリアクションを取るはやて。
フェイトが不安そうに話しかける。
「でも、彩那に話ってなんだろう?」
「ただの世間話よ」
どうにもホーランドに対する不信感から疑ってかかってしまう。
そこでさっきから後ろで引っ込んでいるなのはの手をアリサが引っ張る。
「なのは! あんたは言うことないの?」
「え! あ、うん! きれい! すごくきれいだよ彩那ちゃん!」
「そう? ありがとう、高町さん」
「……っ」
なのはは先日の模擬戦の不調から更に気分が沈んでいる事が多くなった。
皆と居る時は明るく振る舞うが、考え込む事が増えた感じだ。
その原因はなのは自身にも分からないでいる。
そこでユーノとアインスが部屋に入ってきた。
「ごめん彩那、ちょっといいかな?」
「なにかあった?」
「うん。お願いなんだけど、僕とアインスはノティスって国に行けないかな?」
「ノティス? まぁ、あなたが行きたそうな場所だけど……」
「どんな国なんですか?」
ツヴァイの質問に彩那が簡単に答える。
「国じゃなくて都市ね。色んな国からの援助で大陸に存在する国々の本が収められている都市なの。どんな理由があってもあそこでの戦闘は完全に御法度だからね」
図書館都市ノティス。
大陸に存在する9割の本が原本か写本か印刷かに関わらず収められた都市。
元々帝国の存在に関わらず、小なくとも戦争が続いていた大陸だ。国自体が失われ、新しくなるのも珍しくない。
存在した国々の歴史や知識が失われぬように1つの都市に本という知識を集中させた。
特に戦争で殆ど崩壊した北側諸国の本などはもうノティスでしか読めない物が大半の筈。
「書物は人の命よりも重い、がスローガンで本を汚したり破いたり、窃盗や紛失させたら軽くて10年の禁固刑。貴重本を失うこととなったら、家族全員道連れでコレよ」
首を切るジェスチャーをする彩那。
その過剰なまでの本の守り手に全員の背筋が冷たくなる。
流石にそうした貴重本は簡単には閲覧出来ないが。
「行きだけでも最短2日かかる上にデバイスの持ち込みは禁止。都市に入るだけで厳重な検査と手続き。もしくは国からの推薦が必要とされる。そこらの国より入るのが難しい都市よ。そんなところになんの用?」
当然の疑問にユーノは一瞬視線を泳がせる。
「あ〜。前に見たマリアルイズさん。彩那は念話で意思疎通が出来る魔法生物は他にも数体居るって言ってたでしょ? その情報が欲しくて。ホーランドの図書館に行ってみたけど、童話やフィクション本ばかりで……」
マリアルイズのような存在は知られていても、正確な情報は意外にも少ない。
精々フィクションの題材になるくらいだ。
そこでフェイトが話に入る。
「でも大丈夫かな? この世界に喚ばれた時にあの王様が王都から出るなって……」
「それは私だけに対してでしょうね。王は自分達の邪魔をしなければあなた達に興味がないだろうし」
「それはそれでムカつくわね」
勝手に喚び出したくせに、そこまで無関心だとそれはそれで腹が立つ。
だから好き勝手させて貰えてるという利点もあるが。
「わかったわ。リゼリータ妃に頼んで推薦状を用意して貰えないか連絡してみる。用意出来るなら明後日のお茶会で渡して貰える筈よ。スクライア君とアインスの2人でいいのね?」
「うん。お願い」
多額の出資金を払っているホーランド王族の推薦状なら向こうも考え無しに拒否は出来ないだろう。
ユーノの頼みの内容にはやての中でと良からぬ妄想が浮かぶ。
「ユーノ君、
「しないよ!? 僕をなんだと思ってるんだ!」
失礼な、と言わんばかりにユーノが仰け反った。
後日、城からの迎えに応じて行った彩那とマーサ。
彼女が出払ったのを確認してはやて達は広い食堂に集まっていた。
全員が席に着いた後に、重苦しい息を吐いてはやてが言う。
「……彩那ちゃんはもう北の遺跡とやらに封印されるつもりやと思う」
この場に居る全員が察していてそれでも認めたくない事実。
彩那なりにこの世界に愛着があり、親友達が守った世界だ。次元断層による世界の崩壊を防げるなら、自分の身くらい犠牲にするだろう。
考える時間というのは封印されるか否かではなく、彩那が覚悟を決める為の期間なのだ
「やっぱり時空管理局の後ろ楯が無いのはキツイね。情報を得ようにも動きがかなり制限される」
フェイトの言葉に局員の者達が眉間にしわを寄せる。
まだ時空管理局そのものが存在してないのだ。
捜査令状や情報の開示を求める権限がない。
大切な情報はおそらく全て城の中だろうが、はやて達は彩那が一緒でなければ立ち入る事すら出来ないのだ。
ヴィータも苛立たしげに発言する。
「それに、あたしらはずっと監視されてるしな」
屋敷の外に出ればずっとホーランドの兵士らしき者達の視線が突き刺さる。
向こうも平静を装っているが2日も続けば嫌でも判る。
そうする理由も理解するが、気持ちの良い待遇ではない。
シャマルも疲れた様子で情報を共有する。
「本気で情報を得ようと思うなら、強行手段は必須です。ここには城の情報にアクセス出来る機材もないですし。ですが確実にこの国の軍と敵対することになります」
そうなったら確実に戦闘となる。
この面子なら無理を押し通せるかもしれないが、指名手配は免れないだろう。
ホーランドは頑なに彩那の確保と封印化を急ぐ筈だ。
そこで口を閉ざしていたなのはが口を開く。
「それに……彩那ちゃんがわたし達と元の世界に帰ったとして、この世界はどうなるのかな?」
この世界が助かる為に彩那を犠牲にする。
そんな事は嫌だし絶対に認められない。
だが、現状他の解決策がない。
この世界に来て半月程過ごした。
教会のリューラを始め、この街だけでもたくさんの人が生きて暮らしている。
どこにでもいる、しかし代わりなど存在しない生命全てが犠牲になろうとしているのだ。
それを無視して身勝手にも彩那と元の世界に帰る事が恐いと思ってしまう。
もしもこの世界を見捨てたら、自分達はどの口で誰かを助けると口にするのか。
そこまで話してはやてが悔しそうに頭を掻くと歪な表情で笑う。
「……友達を助ける為にこの世界を見殺しかぁ。ハハ……これは時空管理局の人間失格やわ……」
彩那は城の庭園にあるお茶会の場にマーサを連れて案内される。
そこにはリゼリータ王妃とその息子であるザード。そしてエリザが待っていた。
「お待ちしておりました、アヤナ。どうぞおかけになって」
「失礼します」
執事と思われるマーサと同年代と思われる男性が彩那が座る椅子を引く。
その執事の顔を彩那はなにか引っかかりを覚えた。
彩那の視線に気付いた執事が問う。
「どうかなさいましたか?」
「いえ、その……どこかでお会いしましたか?」
そんな言葉が口につくと、執事は柔和な笑みを見せた。
「いえいえまさか。私などが勇者様とお会いしたことなど」
「そう、ですか……」
引っかかりを覚えながらもそれ以上は追及しない。
エリザがその執事を紹介する。
「アヤナお姉様。紹介しますね。彼はヴォイス。わたくしの身の回りの世話をしてくれる執事です」
「エリザの?」
「えぇ。とても優秀なんですの」
エリザの紹介に彩那と後ろに立つマーサは驚きの表情を見せた。
王族貴族の身の回りの世話をする者は基本年配の同性が望ましいとされている。
特に女は。
それが祖父と孫娘程に年齢が離れているとはいえ異性の執事は人手不足を除いてありえない。
不思議がっていたが、彩那がこれ以上踏み込める筈もなく静かに椅子に座る。
すると険しい表情でリゼリータ妃が頭を下げた。
「先ずは謝罪を。この度はこの世界と、そして夫の身勝手に振り回してしまい、申し訳ありませんでした」
彩那は突然頭を下げられて困惑する。
「この世界の問題にまた貴女を巻き込むことになったこと、本当に申し訳なく思います」
「リゼリータ様は王達がやろうとしていることを」
「知っています。戦争を終結に導いてくれた貴女に、あの人がどんな要求をしているのかを。失礼を承知でお伺いしますが、アヤセアヤナ。貴女はどうしたいのですか?」
真っ直ぐと見つめてくるリゼリータ妃に彩那は微かに目を細めた。
Q:もしも彩那が遺跡に封印されたまま友人達が地球に帰ったらどうなる?
A:中学卒業後になのは達が次元の海に出て彩那を探す方に力を入れるので機動六課は設立されないか、少なくともはやて達は関わりません。