世界を救った勇者は俯きながら生きている。   作:赤いUFO

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今回はかなり大急ぎで一気に進めます。


魔女と勇者の宣言

『彩那! 死んじゃダメだよ、彩那っ!!』

 

 既に意識の無い友達にボクは何度も声をかける。

 返ってきたのはか細い呼吸のみだった。

 

『……っ……っ』

 

 転移魔法でギリギリ撤退できたボク達は、身を潜める為に山の中にある小さな小屋に居た。

 衛生面に不安のある部屋の床に背負っていた彩那を寝かせる。

 

「反則だよアレ……っ」

 

 先程まで戦っていた生体兵器を思い出して奥歯をギリッと噛む。

 (あたま)を潰しても首を刎ねても、心臓を破壊しても再生する化物。

 それどころか、体の半分を吹き飛ばしても数秒で元通りになる。

 その癖デタラメに強くて、文字通り必殺の攻撃を馬鹿みたいにしてくるのだ。

 かつて帝国が創って扱い切れないからと封印されていたらしいが、ボク達が追い詰め過ぎた事で自棄になって解き放ちやがった。

 その結果、帝国の王様はその生体兵器に殺され、見境なく暴れ回っている。

 抑えていたボク達が逃げた事で、どんな被害が出ているのかは想像もしたくない。

 

「早く、彩那を……」

 

 彩那は生体兵器との戦闘で心臓と肺を同時に貫かれた。

 今はボクの霊剣の効果でどうにか死んでないだけ。

 ボク自身も左の手首から下と左の膝から下を持っていかれた上に即死でないにしろ、体に幾つかの穴を空けられた。

 

「救援を待ってたら、彩那もボクも助からないね……」

 

 一応救難信号は送ったが、到着する頃には間違いなく彩那は死んでしまうだろう。

 それどころか、ボクも持つかどうか。

 

「助けられるのは1人だけ、か……」

 

 霊剣の効果を2人で分けていたら確実に2人とも死ぬ。

 それに、流石に彩那の怪我をボクが治すのは無理だ。

 ならボクが取るべき選択は────。

 

「なんてね」

 

 こんなことで友達の命を諦められるほど、聞き分けの良い性格じゃない。

 仕方ないと空元気で笑う。

 ボクは4本の剣を彩那を囲うように置く。

 たった1つだけ、彩那を助ける事が可能な方法。

 

「ボク達がこの世界に喚ばれた本当の理由。完全な勇者を生み出す為。ボク達は、その為の生け贄だった」

 

 4本の剣の本当の力を引き出す為に必要なモノ。

 それは最高レベルのリンカーコア。それも人間の。

 だけどこの世界に喚び出されたボク達にはまだそこまでリンカーコアを持っていなかった。

 だからホーランド王国の上層部はボク達を戦地に送り、リンカーコアの成長を促してきた。

 ボク達は生きる為に必死で戦い、リンカーコアを成長させた。王国の目論見通りに。

 だけど、ボク達の戦果は王国の予想を越え、段々とその話は流れていく。

 それは友人であるティファナ王女の反対意見も大きかったらしい。

 だが魔剣には冬美のリンカーコア。王剣には璃里のリンカーコアが既に移植されている。

 

「条件はまだ揃ってないけど、少しくらいズルしても良いよね。上乗せ金にボクの命をあげるから」

 

 目を覚ましたら、彩那は怒るかな? 

 絶対死なないって言ったのに、破るんだから怒るだろうね。

 

「でもね、彩那。難しいかもしれないけど、この事で負い目を感じる必要はないんだ。これは、ボクが望んだ事だから」

 

 彩那に死なせたくない。

 彩那に生きていて欲しいというボクのワガママ。

 彩那の手を握る。

 

 この世界に来てからの事を少しだけ振り返る。

 孤島に放り込まれて皆でサバイバルをした事。

 ティファナ王女も連れて、露店を巡った事。

 戦いに勝って、安堵と哀しみを戦友と分かち合った事。

 

「アハハ……なんでだろ? 楽しかった記憶の方が思い出せるなぁ……」

 

 思った以上にボクはこの世界が好きになっていたらしい。

 もう視界がボヤけてよく見えない。頭も、上手く回ってない気がする。

 

「姿が見えなくても。話すことができなくても。ボクも冬美も璃里も、ずっと彩那の傍にいるよ」

 

 どうか、残された彩那が生きていて良かったと、笑える日が来ますように。

 彩那がボク達の死を受け入れて、乗り越えられるくらい優しい人達に出逢えますように。

 

「最後に、ぜんぶ押し付ける形になって、ゴメンね……でもボクも、この剣の1本になって見守っているから。彩那……君が、最後の、勇者(きぼう)……だよ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぎさちゃん……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 現場へと転移した私は荒れ狂う竜巻に向けて王剣を構える。

 ジュエルシードの魔力に干渉して竜巻を少しでも抑え込む。

 

(璃里ちゃんなら、この竜巻全部を完全に抑えて封印する事も出来るんだろうけど……)

 

 彩那にはこれが精一杯。

 王剣の力の範囲を伸ばして竜巻や雷雨の力を弱める事くらい。

 だが、今はそれで充分。

 最初はこちらを警戒していたフェイトとアルフも自分達だけでジュエルシードの封印は難しいという結論は出ていた為、協力に思うところは有っても拒否はしなかった。

 彩那は巻いてある包帯の首の部分だけを捲し上げた。

 

「王剣の支配を……」

 

 王剣がジュエルシードに干渉し、竜巻や雷雨の勢いが弱まる。

 以前ジュエルシードを封印しようとした際の経験が活き、思ったよりもやり易い。

 

「すごい……」

 

 竜巻が強めの風になると、誰かがそう呟いた。

 彩那はなのはとフェイトに念話を送る。

 

『早く封印を。長くは続かない』

 

 念話を受け取るとなのはとフェイトがデバイスを構える。

 海に向けられた杖から桜色と金色の砲撃が撃たれた。

 大きな魔力の余波が起こり、鎮まるとそこには残り6個のジュエルシードが現れる。

 そこからはジュエルシードの強奪戦になる────筈だった。

 彩那からは聞こえないが、なのはがフェイトに何かを語りかけていて、それが状況を静止させる。

 すると、突然外部による見境のない攻撃が行われた。

 

「なっ!?」

 

「フェイトちゃんっ!?」

 

 その雷撃がフェイトを包み、彩那は防御魔法を展開しながら驚愕する。

 

(味方ごとっ!?)

 

 理由が分からず困惑していると、海に落ちそうになるフェイトを助けようとするが、その前にアルフが受け止める。

 同時にアルフはジュエルシードを回収しようとするが、クロノの参戦により、きっちり半分の回収となった。

 フェイトを早く治療するためか、それとも数の不利を悟ってか、海にジャミングの魔法を叩き込み、起こった水飛沫が収まる頃には2人は逃走していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すみません、大口叩いてこのザマです」

 

 アースラに戻って開口1番に彩那がそう言った。

 それにリンディは苦笑する。

 

「それを言うなら、相手に攻撃を許した私達もだわ。でもこれで、彼女達の後ろに何者かが居る事は確定したわね。それだけでも収穫よ」

 

「それと、ジュエルシードも全て封印済みですね」

 

 これからは本格的にジュエルシードの奪い合いになるだろう。

 もっとも、不利なのは向こうの方だろうが。

 

「フェイトちゃん……母さんって言ってました……」

 

 ポツリと呟くなのは。

 負傷したフェイトが心配なのだろう。なのはは沈んだ表情をしている。

 そこでリンディが話題を変える。

 

「アースラも攻撃を受けて、少しの間動けません。あの子達についても調査が必要です。ですから、2人にはその間、自宅での療養に務めて貰います」

 

「えっ!?」

 

「学校をあまり長く休むのも良くないでしょう? 一旦家に帰って、家族に説明する必要もあるし」

 

 リンディの言葉に彩那が小さく挙げる。

 

「うちはその必要が無いと思いますよ。この件が解決するまで学校に行くつもりもありませんし」

 

 彩那からすれば学校に行っても嫌がらせを受けるだけなので、アースラに居た方が休息になるのだ。

 

「そう言う訳にもいかないだろう。彼女達の事はこっちで調べておくから、君達は有事に備えて休んでくれ」

 

 100%の善意からくるクロノの発言に彩那は内心で嘆息して分かりましたと頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 転移した場所から近いという理由で先ずは綾瀬の住むマンションへと訪れる事になった。

 

「リンディ・ハラオウンです。大事なお子さんを預かりながら、挨拶が遅れて申し訳ありません」

 

 リンディが挨拶をすると横に居たなのはが続く。

 

「彩那ちゃんの友達の高町なのはです。彩那ちゃんにはいつも助けて貰ってます!」

 

 なのはがそう自己紹介すると、彩那の母の表情が凍りついた。

 その反応になのはが何かを失礼な事を言ったのかと不安になっていると、彩那の母親が携帯を操作する。

 

「あ、あ、あ、ああああああなたっ!? 今すぐ帰ってきてっ!? 彩那に! あの彩那にお友達がぁあ、あ、あああああああっ!?」

 

「えぇっ!?」

 

「……」

 

 目から滝のような涙を流しながら夫に電話する母に驚いているなのはとリンディ。

 彩那は小さく息を吐いてから母親から携帯を取り上げる。

 

「父さん。うん。お仕事頑張って。うん」

 

 それだけ言って携帯を切る。

 もしも父親まで帰ってきたら、2人で胴上げくらいやられたかもしれない。

 

「どうぞ中へ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お恥ずかしいところを見せてごめんなさい。彩那がお友達を連れて来るなんて久しぶりだから。つい嬉しくて」

 

「は、はぁ……」

 

 面食らっていた2人もお茶を出されて落ち着く。

 そこからリンディが真実を隠しつつこれまでの活動を話す。

 

「綾瀬さんはリーダーシップを発揮して的確な指示を出してくれて、こちらも助けられました」

 

「へぇ。この子が……」

 

 親からすれば彩那は自己主張の乏しい子、という印象なのだ。

 だからリーダーシップなどと言われると新たな1面を聞かされる気分だった。

 

「彩那ちゃんはスゴい子ですよ。いつも色んなことを教えてくれて助かってます!」

 

 なのはがそう言うと、また彩那の母はハンカチを目元に当てて泣き出す。

 

「なのはちゃんだっけ? 親贔屓に聞こえるかもしれないけど、彩那は本当に良い子だから、これからも仲良くしてあげてね」

 

「はい! わたしも、彩那ちゃんは素敵な子だと思います!」

 

 なのはの言葉に彩那の母はまたドバッと涙を流した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 休暇はすぐに終わる。

 なのはの友人のアリサが倒れていた狼形態のアルフを拾った事で事態は進展を見せる。

 彼女はフェイトの母であるプレシアが行ってきたフェイトへの虐待に我慢の限界を越え、プレシアに反抗したが返り討ちに遭い、逃走したらしい。

 もう頼るアテの無い彼女はフェイトの保護を条件にプレシアの居場所やその他の情報を教える。

 

 

 そして────―。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遅くなりました」

 

 彩那がアースラに訪れると、なのはとフェイトの決闘が始まっていた。

 

「ううん。今始まったばかりだよ。それにしても、クロノくんはよく2人の決闘を許可したね」

 

「別にこの決闘の結果が事件に大きな影響を与える訳じゃないからね」

 

 エイミィの質問にクロノは決闘を観戦しながら答える。

 時の庭園と呼ばれる敵の本拠地は既にアルフによって割れている。

 現在はなのはの希望も有り、フェイトを穏便に保護するために決闘を許可している。

 なのはが勝てばそれで良し。負けても、その後にフェイトを確保出来る。

 アルフから聞かされたフェイトの扱いに、彼女をプレシア(母親)の下に帰す選択は無い。

 そしてフェイトを確保してから時の庭園へと乗り込めば良い。

 画面越しには、なのはとフェイトが激しく誘導弾を撃ち合い、回避を繰り返していた。

 

「それにしてもスゴいね。まだ魔法に触れて半年も経ってないとは思えないよ。先生として鼻が高いんじゃない?」

 

 エイミィが彩那に話を振る。

 確かに彩那はなのはに魔法による戦い方を教えていたが、本人からすれば別の感想が出る。

 

「どうでしょう? 高町さんは教え子として見るとつまらない生徒ですから」

 

 悪口とも取れるその言葉に2人が首をかしげて彩那を見る。

 その反応に彩那が画面から目を離さず説明する。

 

 

「やる気が無いのは論外ですが、教え子なんて多少覚えが悪いくらいが丁度良いんですよ。高町さんは優秀過ぎて、誰が教えても上へ前へと進んでいくんです。私の教えた事なんて、そのちょっとした手伝いくらいですよ」

 

 例えばなのはが彩那と出会わず、ユーノだけに師事したとしても、そう実力に変化はなかっただろう。

 長期間なら大きな違いも出ただろうが、今のところは誤差でしかない。

 何かしらの躓きや壁に当たってそれを乗り越えさせたのならともかく、はっきり言って彩那がそれほど大きな影響を与えたとは思えない。

 

(そもそも、ほぼ独力であんな魔法を形にする辺り、デタラメとしか言いようがない)

 

 ユーノも彩那も多少のアドバイスを送ったが、アレは高町なのはの魔法に対する感性で形にしたと言っても良い。

 この決闘で使うのかは知らないが、決まれば確実にフェイトを撃墜出来る。

 

 互いに限界が来た頃。

 フェイトの仕掛けておいた罠型のバインドになのはが捕えられる。

 おそらくこれは時間稼ぎ。

 なのはと向かい合ったフェイトが無数の光弾を生み出していた。

 

(これは決まりかな?)

 

 そう思っていると、次になのはが取った行動に彩那は心の底から驚いた。

 バインドを破壊したなのはだが、僅かに遅く、フェイトの攻撃の準備が整い、発射される。

 機関銃のように総射される無数の光線。

 逃げ場無く襲いかかるその攻撃を、なのはは目を閉じて回避していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彩那が初めて訓練を付けてくれた時の事を覚えている。

 目を閉じている状態でなのはの誘導弾を易々と回避する姿を。

 研ぎ澄まされた魔力察知は五感よりも鋭く魔力の流れを教えてくれると。

 バインドを破壊したなのはは目を閉じて向かってくる魔力の流れにだけ意識を集中させた。

 真っ直ぐと向かってくる魔力。

 まだ勢いの乏しい最初はギリギリ回避出来たが、すぐにこんな付け焼き刃のメッキは剥がれる。

 

(やっぱり、彩那ちゃんみたいに上手くいかないなぁ……)

 

 それでも、シールドを展開しつつ弾幕の薄い箇所を狙って動く。

 闇雲にではなく、狙ってシールドへの負担を減らす為に。

 永遠に続くのかと思われた攻撃の波も、トドメとばかりに放たれた大きな1撃によって終わりを告げる。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……っ!?」

 

 魔力を出し切ったその攻撃に激しく呼吸するフェイト。

 その一瞬の隙を突いて今度は逆になのはがフェイトを拘束した。

 

「今度は、こっちの番、だよ!」

 

 フェイトの決め手同様になのはが今から使う魔法も発動には時間がかかる。

 周囲に散らばったこの決闘で使った魔力をかき集め、必殺の1撃に変える。

 なのはは知らないが、集束砲撃と呼ばれる高難易度魔法に。

 魔力によって形作られた桜色の球体。なのははそれを解放した。

 

「これがわたしの全力全開! スターライトォ、ブレイカーッ!!」

 

 フェイトを包んでなお余りある桜色の砲撃。

 ギリギリでフェイトも幾重ものシールドを展開するが、それすら撃ち抜いてくる。

 

「はぁ……はぁ……フェイトちゃん……!」

 

 自分の砲撃魔法で海に墜とされたフェイトを回収するなのは。

 

「ゴメンね、大丈夫?」

 

 ぶっつけ本番で使った魔法がまさかあそこまでの威力が有るとは思わず、心配する。

 自身の敗北が信じられず放心するフェイト。

 そこでなのはに念話が届いた。

 

『高町さん! そのままテスタロッサさんを抱えて体を小さくっ!』

 

「え? あや────」

 

『早くっ!!』

 

 強い口調て指示する彩那の言葉になのはは反射的に従ってフェイトを抱きしめた。

 突然の事に目を丸くするフェイト。

 その答えはすぐに判明する。

 空が雲で遮られると、前回のように魔法による雷が落ちようとしていた。

 

「読めてるんだよっ!!」

 

 勇者服を身に纏った彩那が、なのはとフェイトの頭上に現れ、ホーランド式のシールドを展開した。

 落ちる雷光。

 しかし、それは3人には当たらず、シールドによって割ける。

 

「つっ!? ハァッ!!」

 

 払うように彩那が剣を振るうと、雷が弾かれるように別の軌道へと逸れた。

 

「アースラッ!」

 

 彩那が声を張り上げると近くに魔法陣が出現した。

 

「第二射が来る! 早くっ!!」

 

 彩那は2人を抱えて魔法陣へと飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 プレシアの干渉により時の庭園への突撃が可能となったアースラは武装局員を送り込み、身柄の拘束に動いた。

 なのは達がアースラのブリッジに上がった頃には送り込んだ武装局員は既にプレシアによって全滅しており、映像にはプレシアと水槽液の中に入っているフェイトに似た少女。

 映像の先でプレシアが語る。

 彼女が手にしたジュエルシードを使って事を起こそうとしている事を。

 そして────。

 

『せっかくアリシアの記憶を与えてあげたのに、そっくりなのは見た目だけ。役立たずでちっとも使えない、私のお人形』

 

 プレシアの言葉にエイミィが俯いて補足する。

 昔、プレシアは実験の事故で実の娘を亡くしている事を。

 それからプレシアは人造生命と死者蘇生の研究を行っていた事も。

 失った娘を求めるプレシアはフェイトをもういらない。何処へでも消えろと吐き捨てる。

 

『最後に良い事を教えてあげるわ。私はね、フェイト。貴女が大嫌いだったのよ……!』

 

 その言葉に、フェイトが待機状態のデバイスを落として膝をついた。

 同時に庭園内に多数の魔力反応とジュエルシードによる次元への干渉が確認される。

 

『私達は旅立つの! 永遠の都、アルハザードヘ!』

 

 そう宣言するプレシアに、そこまで事態を見守っていた彩那が口を開いた。

 

「それで、その目的の為に地球がどうなろうと関係ないとでも?」

 

 映像越しのプレシアが彩那を見る。

 もしもこのままジュエルシードを暴走させ続ければ、次元断層によって地球は壊滅的なダメージを負う。もしくは本当に消滅する可能性もある。

 だが、最早プレシアはその程度のリスクでは止まらない。

 彼女にとって死んだ娘だけが秤の重しなのだ。

 

『えぇ。アルハザードに行き、アリシアが蘇るのなら、あの世界の犠牲など些細な事だわ』

 

「なるほど……」

 

 プレシアの言葉に彩那は包帯の結び目に手を掛ける。

 

「貴女がそのつもりなら、此方も容赦なく対応させて貰いましょうか」

 

 彩那は乱暴に顔に巻かれた包帯を解く。

 暴かれたのは彼女の母に似た容姿の少女。

 ユーノより少し短いウェーブがかかった黒髪。

 ただ目につくのは、顔に刻まれたホーランド式を表す凧方の魔法陣。

 それが両頬と額。そして首に描かれていた。

 綾瀬彩那はプレシア・テスタロッサを見据え、その透き通った声で宣言した。

 

「プレシア・テスタロッサ。地球に帰った最後の勇者として、貴女の暴走は私が止めます」

 

 

 

 

 

 

 

 




次で無印編は終わりです。
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