世界を救った勇者は俯きながら生きている。   作:赤いUFO

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そろそろEXCEEDSの放送も終わりかぁ。
個人的に新キャラでマナとエイジが好きだった。見てて楽しい。
漫画版も含めるとフィリーが1番好き。


貴女の為に出来ること

「マッズ……オエ……!」

 

 備蓄されていた軍用の缶詰やレトルトをひと口食べてアリサはあからさまに顔を顰めた。

 用意された食べ物にそんな反応をするのは良くないと思うが耐えられないレベルで不味い。

 食材が活きておらず、なんと言うか香辛料の味しかしない上にかなり濃い。

 日本の缶詰やレトルト食品に舌が慣れた彼女らからしたら到底受け入れられないレベル。

 本来こういう食事に慣れている筈の守護騎士ですらはやてに舌を肥えさせられた影響で食の進みが亀になっている。

 同じ物を食べていたエリザも口元を押さえていた。

 

「話には聞いていましたがこれは……」

 

「食べたことなかったんですか?」

 

「恥ずかしながら。この飛行機に元々備蓄されていた物でして。ただ、戦時中に比べてこうした保存食は大分改善されたと聞いていたのですが……」

 

 見誤ってましたとエリザの眉間にしわが寄る。

 すずかが驚きから目を大きく開けた。

 

「こ、これより美味しくなかったんですか?」

 

「そう聞いてます。戦時中に勇者様……特にナギサお姉様が酷く憤慨して、保存食を製造してる会社に投資をしたと聞いてます」

 

 戦場での楽しみなど限られており、明日には死ぬかもしれない兵士達。

 そんな彼らの最期の食事がコレでは報われないと改善を求めたのだ。

 特に父が板前だった森渚は納得しなかった。

 これにはホーランド王国が遠出の戦争の機会が少なく、遠征用の保存食の需要が低かった事が原因とされている。

 戦場では味は二の次三の次でとにかく長い日数保つのが重要視されていた。

 また、基本ホーランド軍では戦場でも食糧の保冷や物資の輸送が安定しており、現地での調理が主で、こうした軍用の保存食は最後の選択肢という理由もある。

 ホーランドの缶詰やレトルト食品は基本不味いので、他国の軍から分けて貰う事も多かったとか。

 それを現場に出ない軍の上層部も他人事として味の改善を後回しにしていた。

 その事に森渚は本気と書いてマジでキレた。

 

「それでナギサお姉様を始め、勇者様が投資したと聞いてます」

 

 あくまでも個人での投資なので、企業からすればそう多くはなかったようだが。

 

「……森さんも報われんなぁ」

 

 味がいくらなんでも酷すぎる。コレでもマシになったのならそれ以前はどれだけマズかったのか。

 ちなみに現場の兵士からの評価は、昔は笑えないくらいの不味さで今は帰還後は笑い話に出来るくらいの不味さ、らしい。

 せめてもの救いは備蓄されてた乾パンにジャムを塗れば普通に食べられる事か。

 尤も、空を移動してる関係で魔法生物の襲撃を受ける現在、そんな食事で力が出る筈もない。

 フェイトが提案する。

 

「あの……この飛行機にキッチンありますよね? 材料が有れば料理しますけど……」

 

「ごめんなさい。保存食が有ったので調理用の食料は積んでないんです。確か、近くに小さな町がある筈ですので、そこで購入しましょう」

 

 当然異論を挟む者は1人も居なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 列車での旅をしている彩那の目の前には名店のパティシエ達が作った20種類以上あるスイーツがある。

 唯一の生き残りであるホーランドの勇者。

 そのネームバリューは凄まじく、彼女が気に入れば10年は店が安泰と言われている。

 かつて勇者が贔屓にしていた高級飲食店は今も大繁盛で、1ヶ月以上個室の予約が埋まっているのも珍しくない。

 まぁ、本人達は味というより、防犯対策に優れていて通っていたのだが。もちろん味が良いのもあるが。

 最近はホーランドの勇者の活躍が映画公開されたのもあり、そのネームバリューは更に高まっていた。

 つまり彩那が積極的に手をつけるかつけないかで店の評価が変わる可能性があるのだ。

 

(羊羹食べたい……)

 

 別に和菓子派という訳ではないが、毎日こんな豪華なデザートを出されても胸焼けする。

 管理局勤めの頃はコンビニの安い羊羹を買い占めて簡単な糖分とエネルギー補給に重宝していた。

 仕事仲間に分けたところ、好評で一時期羊羹ブームが起き、奪い合いになったのは記憶に新しい。

 小さなケーキを3つ程で食べ終える。

 口にされなかったデザートを作ったパティシエ達はあからさまに肩を落としていた。

 ちなみに残ったデザートは彩那の護衛や世話役に連れてきている面子が後で美味しくいただく事となる。

 アリアを含めて多くは彩那に気を遣って女性がなので、そうそう残らないだろう。

 食後のお茶でまったりとお腹を休ませていると、アリアがやって来る。

 

「彩那様、少しお耳に入れて欲しいことが……」

 

 アリアが話した報告に彩那は目を細める。

 それはなのは達がエリザによって王都を脱した事への報告だった。

 

「あの子達が大人しくしているとは思いませんでしたが、エリザが? それにその話って丸1日前なんですよね? 報告が遅くないですか?」

 

「申し訳ありません。実は王都を出る際に結界を破壊されてしまいまして。運悪く魔法生物が王都に侵入し、その撃退に大騒ぎだったようです」

 

「思い切ったことを。それに……」

 

 エリザがなのは達を連れて王都から出た理由が思いつかない。

 

「向こうは空路で北に向かっているとの事です。たぶん、それなりに時間がかかると思いますが……最悪、エリザ王女がお亡くなりになる可能性も……」

 

 アリアの言う可能性を彩那は否定。

 

「彼女達が一緒なら大丈夫かと。空を移動しても魔法生物の襲撃で足留めは免れないでしょう。途中から陸路に変えようにも、手配は済んでいるのでしょう?」

 

「はい。それはもちろん」

 

 彩那達のように列車で移動しようにも、手配されているらしい現状は揉め事となり、更に時間を食う。

 それに陸路でこっちに追いつくのは不可能だ。

 報告を終えたアリアが退出する。

 なのは達の事も気になるが1番不可解なのはエリザだ。

 

「いったいなにを考えて……」

 

 妹分の行動の意味が理解出来ずに目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 近くに在った小さな町でそれぞれ分担して買い物をしていた。

 八百屋と思われる個人店でたくさんの野菜と、日保ちしそうなドライフルーツの入った瓶を購入する。

 するとレジに居たおばさんが話しかけてくる。

 

「すごい量を買ってくねぇ。パーティーでもするのかい?」

 

「はは……まぁ、そんなところです」

 

 お喋りなおばさんに愛想笑いで返すフェイト。

 向こうもそれ以上深く聞いてこない。

 

「うちは儲かって良いけどね。最近はあちこちで地震やら津波やらの被害が出てるだろう? うちの取引先の農家の1つが今年の収穫が落ちちまって、しばらくはうちに卸せないって言うんだ」

 

 困った困ったとぼやく。

 次元断層の発生の予兆でこの世界を自然災害が襲っている。

 ギリギリなど待っていられない。早急に解決出来るのならそうすべきと考えたホーランドは正しいのかもしれない。

 

(だけどやっぱり納得できないよ)

 

 彩那1人に全てを押し付けて事態の解決を図る。

 確かに少ない犠牲で済むのならそれは誰から見ても良い事なのかもしれない。

 でも、それに慣れてしまうとその誰か1人に貧乏くじを引かせて皆で危機に立ち向かう事をしなくなる。

 そんな事を繰り返していたらいずれは────。

 そこまで考えると荷物持ちで待っていたすずか達が声をかけてきた。

 

「フェイトちゃん。買い物が終わったなら行こう。まだ買わなきゃいけないのあるし」

 

「あ、うん。そうだね。じゃあこれお願い」

 

「うん」

 

 すずか達にそれぞれ買った物を詰めた袋を渡す。

 荷物を受け取ったシグナムがはやてから報告があったと話す。

 

「主はやてからあちらも買い物が終わったと連絡がきた。腕によりをかけるから早く戻ってきてくれとのことだ」

 

「楽しみですね」

 

「うん。ちょっとあの缶詰とかはもう食べたくない」

 

 あの不味さを思い出してフェイトは顔を青くした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「取り敢えず、今日は簡単な物で勘弁してな」

 

 買い物に疲れたはやては簡単に食べられそうな料理でお腹を満たす事にした。

 それでもあの保存食よりは天と地ほどの差があるご馳走である。

 

「中華風にしてみたんよ。いやー鶏ガラがあって助かったわぁ」

 

 塩や砂糖を除くと調味料が日本とかなり違っており、鶏ガラが売ってて助かった。

 これで中華っぽく炒めるだけで不味くなることはない。

 実際にひと口食べた後に全員から幸せそうな吐息が漏れる。

 

「美味しい……」

 

「ありがとうございます」

 

 エリザの口から漏れた言葉にはやてが返す。

 王族のエリザの口に合うのか不安だったが、味覚はこちらとそう差異は無いのを再確認する。

 料理を食べていると、1人俯いて黙々と食べているなのはに気付く。

 

「なのはちゃん。おいしくなかったか?」

 

「え!?」

 

 突然話かけられたなのはが慌てて笑顔を作る。

 

「ううん、すごく美味しいよ! ただ、彩那ちゃんはどうしてるかなって」

 

 思って、と言おうとするが、声が萎んでいく。

 それにアリサが場の空気を変えるように返す。

 

「あの缶詰みたいな物を食べさせられてないといいけどね」

 

「それは無いと思いますよ。勇者様を北へ送り出すのにそんな無礼を働いていると周囲に知られればホーランド(うち)の沽券に関わりますので。最大級の待遇で移動してる筈です」

 

 エリザの答えに全員が微妙な顔をする。

 自分達が北へと追っている間、彩那だけお姫様扱いを受けている訳だ。

 きっととても美味しい物を食べているのだろう。

 

「それはそれでムカツキますね」

 

 と、つい本音が漏れるくらいにはイラッとくる。

 食事を終えて何人かが皿洗いをしてる中でエリザがテーブルに地図を広げる。

 現在地に点を付けて北側へと線を引く。

 

「現在わたくし達が飛んでいるのはこの辺り。明日の昼にはホーランドを抜けて隣国を飛ぶことなると思います」

 

 四六時中飛ぶ訳ではなく、何度か休憩を挟まなければエンジンが焼き切れるという理由からの休憩だ。

 燃料に関しては魔導師が直接魔力を充電する仕様なのもある。

 物資も途中で買い足さなければいけない物も出てくるだろう。

 そして想定される魔法生物の襲撃を考えてなるべく安全と思われる空路を取るが、やはり襲われるのは避けられないだろう。

 正直、彩那の移動と速度ではトントンと言ったところだ。

 

「問題はやはり旧帝国領土にある結界ですね。唯一の安全な進行ルートだった橋ですが、今は破壊されていて復旧の目処は立ってません。先に北へ向かったお父様達も、幾つかある危険度の高いルートを通った筈です」

 

「なら、彩那はどうやってその旧帝国領土に?」

 

「おそらくはマリアルイズ様がアヤナお姉様を乗せて強行突破をするものと思われます。あの方ならそれくらいわけないでしょうから」

 

「あの竜(ひと)が……」

 

 情報を入れながらはやてはある事を考える。

 

「……結界の方はこっちでなんとかなるかもしれませんね。なのはちゃん!」

 

「……ふえっ! な、なに?」

 

 ぼーっとしていたところを名指しで呼ばれて慌てて背筋を伸ばす。

 その様子に不安を覚えながらも提案する。

 

「なのはちゃんのブレイカーなら北の結界も破れる思うんやけど、どうやろ?」

 

「う、うん……それは、出来ると思うけど……」

 

 高町なのはの切り札であるスターライトブレイカーは改良を重ねて今は結界に対して絶対的な優位性を持つ。

 上手く行けば完全破壊。少なくとも風穴くらいは空ける筈。

 しかし当のなのはは歯切れが悪く、迷っているように見えた。

 その態度にフェイトが不安から問いかける。

 

「なのは……なのはは、なにを悩んでるの?」

 

 彩那が自分達の下を去ってからずっと思い悩んでいる。

 いつもならこういう時に最も頼りになる筈の相棒(パートナー)が今は見る影もない程に頼りない。

 今のなのはとは一緒に飛べない。

 フェイトがそう思えるくらいに親友は弱っていた。

 溜め込んでいた悩みを吐き出すように話を始めた。

 

「本当に、いいのかなって……彩那ちゃんを止めて」

 

「どういう意味よ?」

 

「アリサちゃん」

 

 ようやく言葉にしたなのはに対して責める声音でつい返してしまったアリサをすずかが制して止める。

 

「彩那ちゃんは全部覚悟した上で北へ向かってる。わたし達には悲しいことだけど、それを止めるのは正しい……ううん、彩那ちゃんが少しでも望んでるのかなって」

 

 きっと、今のなのは達の行動は彩那にとって余計なお世話なのだろう。

 

「それに、この世界も本当に大変で……もしも彩那ちゃんが遺跡のコアにならなかったら、この世界はどうなるのかなって……」

 

 答えはもちろん、次元断層に呑み込まれて消滅する。

 だからこそこのホーランドの人達は必死になっているのだ。

 そこを無視して話を進めるのは違う気がする。

 なにより口にしていく内に、頭の中で形にならなかった気持ちが表現出来るようになっていた。

 

「この世界でわたし……なんの役にも立てない。彩那ちゃんが望んでることをなにも叶えてあげられなくて。重荷を少し肩代わりすることもしてあげられない。彩那ちゃんの代わりに遺跡のコアにもなれない……!」

 

 こういう無力感には覚えがある。

 子供の頃に父が仕事で大怪我をして、家族が一丸にならなければならなかった頃。

 その時にまだ幼かったなのはが出来たのは家族に迷惑をかけない良い子で居る事だけ。

 あれから魔法の力を手にして磨き、管理局で誰かを助ける為に戦ってきた。

 でもこの世界では、その力がなんの役にも立たないのだ。

 

「落ち着けよ、おいっ!」

 

 隣に座っていたヴィータがなのはの肩を揺らすが、堰を切った想いが次々と口から溢れてくる。

 同時に膝で組んでいる自分の手にポタポタとかい雫が落ちた。

 力になりたいのに、それは本当にやって良いのかどうか判断出来ない。

 ぐるぐると思考が行き来し、胃の辺りが重くて気持ち悪くなる。

 

「彩那ちゃんを本当に理解してあげられるのは、同じ"勇者"だけなのかな……」

 

 彩那が自分達を頼らないのは、本当の意味での仲間でも友達でもないからなのではないか? 

 ただの庇護する対象でしかないから、去って行ってしまったのではないか。

 

「わたしも"勇者"じゃないから、彩那ちゃんは突き放し────」

 

 その時、なのはの頬からパシンと小さな音が鳴った。

 視線を上げるとなのはの前にフェイトが立っている。

 彼女が自分の頬を叩いたのだと気付くのに、少し時間を有した。

 痛かった訳ではなく、フェイトが自分を叩いたのが信じられなくて手を当てた。

 

「フェイ、ト……ちゃん……?」

 

「聞いてなのは。私は今の彩那は間違ってると思う」

 

 なのはの両肩を掴んで真っ直ぐに目線を合わせて話す。

 

「今回のことを無事に乗り切って、一緒に帰れたとしても、根本的な解決にはならないと思うんだ」

 

 ホーランドの人達は彩那に頼り過ぎている。

 甘えていると言ってもいい。

 

「またいつか、今回みたいな大きな災害や戦争が起きたら、きっとこの世界の人達は勇者に……彩那に頼って喚び出そうとする。彩那も優しいから、きっと手を貸してしまう」

 

 なにか大きな厄災がこの世界を襲ってきたら、その度に綾瀬彩那を使い潰す気がしてならない。

 そして彩那も自分自身の人生を犠牲にしてしまう。

 

「だからこの世界の人達に言わなきゃいけないんだ。彩那の人生をもう返してあげてって。それを訴えられるのは、私達だけなんだよ?」

 

「で、も……」

 

 思わず目を逸らそうとするなのはだが、フェイトはそれを許さない。

 

「彩那にもだよ。こんなのは違うって、彩那1人が背負うなんて間違ってるって言ってやらないと。そうじゃなきゃ、彩那はいつまで経っても解放されない」

 

 義務とか責任感とか。

 本当なら背負う必要の無かった筈の様々な事柄から雁字搦めになってしまった人。

 それを解き放つ必要がある。

 

「本当に彩那が私達を友達と思ってなくても、私達は彩那の"友達"だよ。それに向こうが拒絶しても何度だって心を伝えようとするのは、なのはの1番得意なことだった筈だよ」

 

 それが、フェイトが憧れた高町なのはの姿。

 フェイトも過去に何度もなのはと衝突し、鬱陶しいと思ったり、不快感を覚えたりもした。

 しかしいつも真っ直ぐに向かって来て、生まれて初めて友達になりたいと言ってくれた少女(ひと)。

 そんな友達がこんな事で折れてほしくなかった。

 

「いいの、かな……? どうしたらいいのか分からないのに、彩那ちゃんを止めても……」

 

「うん。だから、それもみんなで考えよう。彩那だけを犠牲にしなくてもいい方法を。ホーランドの人達にもね。それと、彩那がどんな気持ちで、どんな考えなのかも。ちゃんと聞いてあげよう」

 

 思えば、彩那を犠牲にする事態に焦るばかりで、当の本人がどう思っているのか、ちゃんと話し合ってなかった。

 今は彩那の気持ちをちゃんと知りたいし、こっちの気持ちも知って欲しい。

 

「だから行こう。彩那のところへ」

 

「うん……うん……!」

 

 体を丸めてコクコクと頷くなのは。

 そんななのはをフェイトは抱き締めて背中を擦る。

 なのはが泣き止むのを待った後にアリサが大きく息を吐く。

 

「はぁ〜。言いたいこと全部言われちゃったじゃない」

 

 唇を尖らせるアリサと隣で苦笑するすずか。

 実はフェイトがなのはを叩いたあの瞬間、アリサとすずか。それとはやても同じ理由で動いていた。

 ただ、1番近くにいたフェイトの手がいち早く届いただけ。

 

「まさかフェイトちゃんがなのはを叩くとは思わんかったわぁ」

 

「そ、そんなに強く叩いてないよ!」

 

 実際、本当に力は入ってなかった。

 それだけでもフェイトには相当精神的な負荷がかかったが。

 すずかがなのはに話しかける。

 

「なのはちゃん、大丈夫?」

 

 フェイトに叩かれた頬ではなく、彩那に会う覚悟を問われた。

 空虚だった眼に光が宿る。

 

「うん。今はもう1度彩那ちゃんに会う。それだけ考えることにするよ」

 

 余計な事を考えていたらきっと動けなくなる。

 今は1つの目的だけ見据えなければ。

 なのは達のやり取りをずっと見ていたエリザが驚いたように、呟く。

 

「本当に、皆様はアヤナお姉様の御友人なのですね……」

 

「どういう意味ですか?」

 

 エリザの言葉にムッとした声でアリサが返す。

 

「気を悪くしたのならごめんなさい。アヤナお姉様……勇者様達はそれぞれと、そして亡くなったティファナお姉様以外に御友人を見たことがなかったのです」

 

 親しい人は居ても、友人と手放しに言えるのはあの5人の輪だけ。

 きっとそれは勇者を知る大半の者達の答えだろう。

 

「ナノハ様」

 

「は、はい!」

 

 いきなり様付けで呼ばれてなのはは背筋を伸ばす。

 エリザは近付くと胸に手を当てて話す。

 

「今回の件、どのような形で終わっても、アヤナお姉様に負担をかけるのは最後になると思います。わたくしが、そうしてみせます。だから、だから会いに行ってあげてください。貴女なら貴女達ならアヤナお姉様のお心をきっと動かすことが出来るでしょう」

 

 そう言ってなのはの手を取るエリザ。

 

「あ、ありがとうございます……!」

 

 さっきまで情けない姿を見せてしまった羞恥心と真っ直ぐな言葉に頬を紅くする。

 その様子を、はやては目を細めて見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜、それぞれ寝る時間になると、はやては家族にだけ念話を繋いだ。

 

『どうしましたか?』

 

 1番最初に応じたシグナムにはやては首を縦に動かす。

 

『わたしが主だからと遠慮せんで言って欲しいんやけど、あのエリザ王女のことどう思う?』

 

『どうって……』

 

『あの人がわたしらに手を貸すのはなにかしら裏がある可能性』

 

 はやての問いに騎士達全員が不思議そうにする。

 

『ちょっと考えられません。だって感情面を除けば何のメリットも無いじゃないですか』

 

『そう、なんやけど……』

 

 エリザがはやて達に協力するのは彩那を想ってのこと。

 それ以外に理由が思いつかない。

 だって下手をすれば、この世界が滅びるかもしれないのだ。

 余程強く彩那を慕ってなければ国の意思に逆らったりはしない筈。

 

『なにが不安なんですか? はやてちゃん』

 

 ツヴァイの質問にはやては苦しそうに返す。

 

『わからへん。あの人を信じたい気持ちはあるんやけど、どこかで信じられない自分が居て、粗を探すみたいに観察してるんよ』

 

 嫌な奴だと思う。

 友達を助ける手伝いをして貰いながら、その相手を根拠なく疑ってかかっている。

 もしかしたらこの世界に来て、疑心暗鬼になっているのかもしれない。

 主を払拭するようにシグナムが話す。

 

『ご安心ください、主はやて。彼女がなにかを企んでるとしても、我々が貴女と貴女の大切な者達を守ります』

 

『私も、少し注意して彼女を見てみます』

 

『うん……ありがとな、みんな……おやすみ』

 

 そう言って眠りに入ろうとする。

 エリザに怪しいところはない。

 彩那だって彼女を想っている。

 それを裏切るような真似をするとは思えない。

 

(信じて、えぇんよな?)

 

 自分の中の違和感に蓋をする為にはやては眠りを急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




実はなのはを立ち直らせるのを誰にするかを最終章に入る前から悩んでました。
初期案では亡くなった勇者をディスるような発言をし、はやてに引っ叩かれて取っ組み合いになる構想とかもあったりしました。
ユーノかアリサかすずかのパターンも考え、エリザがなのはを立ち直らせるIFも実はあったりします。
最終的に無難にフェイトがその役をやってもらう流れになりました。

おまけの小話で読みたいのは?

  • 教会に遊びにいく
  • 飛行機旅での料理
  • フリードに念話で話しかけるキャロ
  • 列車旅中に襲撃を受ける
  • 王都を散策
  • 飛行機内での女子会
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