世界を救った勇者は俯きながら生きている。   作:赤いUFO

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彩那封印阻止が間に合わなかったEND。


BITTER END

 高町なのはが中心にあるポッドに触れて覗き込んだ。

 するとそこには────。

 

「居ない……?」

 

 綾瀬彩那の姿は無かった。

 血の気が引いてレイジングハートに問う。

 

「レイジングハートッ! どういうこと! ここから彩那ちゃんの魔力が感知されてるんだよね!」

 

『はい。彼女の魔力はこの部屋から発せられています。ですが────』

 

 なのはがこの場に居る者達に訊こうと後ろを振り向く。

 そこに立っていた人物になのはは唇を震わせて名を呼んだ。

 

「彩那、ちゃん……」

 

 その姿はまるで幽霊のように虚ろだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦闘が行われている旧帝国領の各所で綾瀬彩那の姿が確認されていた。

 1番広い戦場(フィールド)で戦っていた八神家の前にも当然。

 そしてその戦闘にマリアルイズも参戦している事に彩那は内心肝を冷やした。

 老いた竜のマリアルイズだが、その戦闘能力は高い。

 なのはのスターライトブレイカーや、はやてのラグナロクレベルの砲撃を少しの溜めで撃ってくる。

 飛行速度も軽く音速を超えるバケモノである。

 勇者が居なければ単体でホーランド王国を壊滅させられるくらいには。

 ヴォルケンリッターでも勝てる確率は4割届くかどうか。

 彩那はマリアルイズを手で制した後に周囲に告げる。

 

『双方、戦闘をやめてください』

 

 その後にはやてと向き合った。

 聞こえる声は、まるで電話越しのよう。

 

『ご覧の通り、私の封印化は終わったわ。だからこの戦闘は終わりよ』

 

「彩那ちゃんは……っ!」

 

 顔を歪めてはやては掴みかかろうとしたが、その手は何の感触も与えずにすり抜けた。

 

「っ!!」

 

『この私は魔力で作った幻影(ホログラム)。それをあなた達にリアルタイムで送っているだけ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ユーノ達の居る飛行機にも姿を見せていた。

 

『私の意識どころか肉体まで分解されて取り込まれるとは思わなかったわ』

 

 困ったなと他人事のように言う彩那にリインフォースが奥歯をギリッと鳴らす。

 おそらくは彩那自身を除いて彼女の状態を最も把握しているのは膨大な魔法の知識を蓄えたリインフォースだけ。

 

「理解(わか)っているのか! たとえ元の姿(かたち)を取り戻したとしても、その時にはもうお前は……っ!!」

 

 その先を言う前に駆け出したアリサが彩那の頰に向けて平手打ちをした。

 もちろん空を切るだけでそこには何の感触もない。

 

「あんたいい加減にしなさいよ! あたしたちがどれだけ……っ!」

 

 もう1発叩こうと腕を振り上げるが、涙で震えて力が抜ける。

 間に合わなかった。

 もう手遅れなのだと理解してしまったから。

 すずかが前に出る。

 彼女も唇が震えるのを堪えて手にしている勇者の遺骨を見せた。

 

「これ……彩那ちゃんが持って帰らなきゃいけないモノだよ。だから……だから!」

 

 帰ろうよと口にしたいのに、遺骨を落とさないようにするだけで精一杯だった。

 

『持ってきててくれたのね。ありがとう。でももう私が届けることは出来なさそうだから、お願いね』

 

 もう触れられない遺骨の入った箱を撫でる。

 

「彩那、君は……!」

 

 睨むような視線のユーノに彩那はただ困った様子で笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 目の前に現れた彩那にフェイトは目尻に涙を浮かべて叫ぶ。

 

「おかしいよ! こんなの絶対におかしい! 彩那1人が全部背負うなんてこと、間違ってるって分かってたでしょう!」

 

 フェイトが前になのはに言った事。

 このままだとこの世界の人間は勇者という存在に依存する事になる。

 そんな在り方が正しい訳がない。

 どんな理由があっても、たった1人の人間に世界の命運を左右されるなんて事はあってはならない。

 たとえそれが、どれだけ良い方向に作用したとしても。

 

『そうかもしれない。でもここは私達が守った世界だから』

 

 それだけで理由は充分だと言う。

 だけどそんな理由(モノ)で納得出来る筈もない。

 

「どうして……私達を頼ってくれなかったの?」

 

 考えずに出たその言葉でフェイト自身がもう手遅れだと認めてしまっていた。

 バルディッシュを本当に握っているのかももう分からない。

 

『これは、私のわがままだから……』

 

 この世界に彼女達を長く留めて置きたくなかった。

 勇者のように、この世界の都合で利用されるような真似は避けたかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『でも、ここまで来てくれたのは嬉しかった。本当に嬉しかったのよ』

 

『彩那ちゃん……っ!』

 

 言わなきゃいけない事。

 伝えたい事がたくさんある筈なのに、なのはの顎と舌が上手く動かず、溢れる涙が視界のフィルターになってまともに見れない。

 硬直していると彩那はなのはに掌を向けた。

 すると、ホーランド式の魔法陣がなのはを中心に展開される。

 そしてそれは、なのはだけでなく綾瀬彩那と共にこの世界にやって来た異邦人全員にだ。

 

『少し時間と場所はズレるだろうけれど、私達の時代にあなた達を帰すわ。安心して』

 

『待って────っ!!』

 

 なのはは魔法陣から飛び出そうとするが、間に合わない。

 現れた全ての綾瀬彩那が同時に告げる。

 

『さようなら』

 

 またではなく別れを言葉を。

 瞬間、なのは達の見ている景色は別の場所へと変わっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこは、見た事のある大部屋だった。

 急に景色が変わり、時空管理局の制服を着た大人達がこちらを警戒と驚きの表情で見ている。

 

「ここは……みんなっ!」

 

 はやては周囲を見回す。

 そこにはあの世界に跳んでいた家族と友人達が揃っていた。

 ただ1人、綾瀬彩那を除いて。

 そして最初から居た人物が驚きの声と同時に話しかけてきた。

 

「君達っ!」

 

「クロ、ノ……?」

 

 クロノ・ハラオウンにフェイトが現実味のない声で名前を呼ぶ。

 

「いったい今まで何処へ行ってたんだ! 3ヶ月以上も行方不明だったんだぞっ!」

 

 心配からつい荒々しい声になってしまったが、居なくなっていた者達を見つけて胸を撫で下ろす。

 はやてがクロノに質問する。

 

「クロノくん、ここは……?」

 

「本局にある会議室だ。行方不明だった君達の捜索をする為に範囲を広げるかどうか話し合っていて……」

 

 そこでクロノはある事に気付く。

 

「待て。彩那はどうした?」

 

 その一言で、急に自分達の時代(いばしょ)に帰ってきた事への安堵は絶望に変わる。

 

「クロノ、くん……彩那ちゃん……あやな、ちゃんは……っ」

 

 言葉にしようとしても心のショックから上手く説明出来ない。

 

「なんにも、できんかった……!」

 

 悔しさから涙を流し、会議室のテーブルに拳を打ち付ける。

 同時にユニゾンが解除され、ツヴァイがテーブルの上で泣く。

 アリサはただ身体を震わせて必死で怒りを抑えようとするが、堪えきれずに泣き出してしまった。

 すずかもはやてを抱きしめながら一緒に泣く。

 ユーノは床に座って涙を流すなのはに寄り添うように彼女の背中をさすり、フェイトはただ天井に視線を向けると力が抜けた手からバルディッシュを床に落とす。

 雲の騎士達もやり切れない想いからそれぞれ沈痛な面持ちで少女らに見ていた。

 

 

 

 その日、彼女達は大切な友達を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 未だに時空管理局とは接点を殆ど持たない惑星デミア。

 その世界は300年以上前に次元断層による崩壊に巻き込まれ、消失したとされる。

 かのアルハザードと同じ、かつて存在はしたが既に失われた世界として遺されたロストロギアや断片的な記録だけが時折発見され、一部の研究者以外にはその存在自体知られない世界となった。

 時空管理局が創設されるよりずっと前に滅びたとされる世界なのだからそれも仕方ない。

 

 しかし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようやくここまで漕ぎ着けたわ……」

 

 八神はやて三佐は既に旧式となった次元航行艦アースラの艦長席でこれまでの苦労から息を吐いた。

 綾瀬彩那との別れから凡そ2年ちょっと。

 地球での義務教育を終えたのと同時にとある任務に志願した。

 それはまだ時空管理局にとって未知の世界への接触と調査を行う探査隊だった。

 はやて達が行方不明から帰って来た後、唯一戻らなかった綾瀬彩那の捜索は1年程で打ち切られた。

 1局員の捜索に多大な金と人員を1年も費やした事を感謝すべきなのか。

 しかしはやて達は納得せずにこれまでの自分のキャリアを投げ捨てるようにこの隊の設立に尽力した。

 表向きの任務は時空管理局にとって未知の、もしくは危険性の高い世界の接触と調査。

 これにはその世界自体が崩壊の危険への調査も含まれる。

 しかも突貫で設立した隊なので、アースラの寿命を考慮して活動期間は僅か2年。

 それが、この隊の設立に協力してくれたリンディを始めとする協力してくれた人達との約束であり契約。

 綾瀬彩那を見つける為の限られた時間。

 

「ほんま、迷惑かけっぱなしやわ……」

 

 こんな公私混同を押し通す為にどれだけの無茶をさせたのか、考えるだけでも足を向けて寝れない。

 ブリッジにみんなが入ってきた。

 

「はやて。発進の準備整ったって」

 

「うん。ごめんなぁ、予算も人員もカツカツやから、フェイトちゃんに雑用やらせて」

 

「そういうこと言わないで。それに、またアースラ(この子)に乗れるのが嬉しいから」

 

 フェイトの隣に立つなのはが発言する。

 

「ユーノくんやリインフォースさんが調べてくれた惑星デミアの在った座標。先ずはそこだね」

 

 今はもう何にも存在していないらしいが、何かしらの手がかりは得られる筈だ。

 

「それじゃあ、わたし達の友達を連れ戻しに行くよ、みんな!」

 

 たった1人の友達を見つける旅へ、彼女達は飛び立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 惑星デミア。

 過去に次元断層という未曾有の大災害を回避した記憶は既に過去の記録となった。

 災害を乗り越えて既に百年以上の月日が流れ、当時の事を記憶し語れる者はもう居ない。

 たった1人を除いて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「惑星エルトリアからの移住者は積極的に受け入れなさい。その上でこれまで通りの援助を────」

 

 ホーランド王国。

 大陸南部にある大国で建国から既に700年が経とうとする。

 その政のトップに立っているのは見た目10代前半から半ば程の少女だった。

 綾瀬彩那。

 かつて勇者と呼ばれ、次元断層という大災害を遺跡の力を使い救った生きる伝説。

 遺跡の核となった彼女は役目を終えて人の姿(かたち)を取り戻したが、それ以降にまったく年齢(とし)を取らなくなった。

 マリアルイズ曰く、既に綾瀬彩那の肉体は魔力によって形造られた物だという。

 そんな彼女は英雄として祀り上げられ、こうしてホーランドの宰相のような立場となっていた。

 今日の会議を終えた彼女は資料を閉じる。

 

「という訳で、私がこの席に就いて百年。前々から言っていたように今日で辞めるので、明日から貴方達だけで国を回して行くように。では解散」

 

「待ってください!」

 

 席を立つ彩那に議員の1人が声を張り上げると鬱陶しそうに顔を顰めた。

 

「なにか?」

 

「本気ですか! 貴女はこの国の象徴なのですよっ!?」

 

「引き継ぎは既に終えている。勘違いしているようだが、この国の象徴は国王の役目。私のような老害はもう去るべきだ。年を取らないからといつまでも私におんぶに抱っこされるんじゃない」

 

 かつてのアーツ・オク・ルギアのように、ホーランド王国は綾瀬彩那1人に頼り過ぎていた。

 それを10年以上かけて仕事を分割し、アヤナが居なくても回るようにしてきたのだ。

 これでどうにもならないならお前らが悪いとしか言いようがない。

 幸い今の国王は優秀で民想いの人物だ。周囲が支えてやれば充分やって行けるだろう。

 

「退職金も辞退したんだ。文句をいわれる筋合いはない。後は自分達で考えてなんとかしろ」

 

 そう締め括って彩那は会議室を出て行った。

 もう2度とここを踏む事はないだろう。

 引き留めようとする奴らを撒き、ホーランドの王都を出ると、待たせていた者(ドラゴン)と合流する。

 

『待たせてすまない。マリアルイズ』

 

『構わんよ。さぁ乗れ』

 

 マリアルイズの背中に乗ると、翼を広げて飛び立つ。

 かつては敬語で話していた竜だが、今では気安く話す間柄となっていた。

 

『それで、これからどうするのだ?』

 

『この世界に居てもホーランドや他国の連中が放っておいてはくれないだろうからな。他所の世界に逃げる』

 

 昔と違い、今は惑星デミアから出るのはそう苦労はしない。

 この世界の人間が追ってこれない所まで逃げるだけだ。

 

『遺跡を使い、かつての友と会うのではないのか?』

 

『遺跡は完全に封印してある。それに……』

 

 ホーランド王国と旧帝国領にある2つの遺跡。

 アレはもう誰の手にも利用されないように厳重に封印措置が取られていた。

 その上、使用権は全て綾瀬彩那が握っている。

 彼女が許可しなければもう2つの遺跡は使えない。

 彩那ももう、あの遺跡を使うつもりはない。

 

「この百年、本当に色々なことがあった……」

 

 空を見上げて独り言を呟く。

 ホーランドを始めとする多くの人間に祀り上げられ、あの地位で大陸の平和に尽力してきた。

 人間の姿を取り戻した後に知ったが、エリザはあの事件後の責任を追及される形で王族の地位を失い、ホーランドの王都に在るとある場所に幽閉された。

 その後、自ら命を絶ったという。

 彼女の遺書には彩那が知りたくなかった事が多く書かれていた。

 それが結果的に百年も彩那をホーランドに縛り付ける鎖となった。

 だがホーランドに尽くして百年。自己満足の罪滅ぼしにはもう充分だろうと区切りを付けた。

 

「そういえば最悪だったのは、勇者教とかいう新興宗教まで現れたことか」

 

 世界を救った勇者を英雄ではなく神のように崇める宗教が現れ、ホーランドから解放しろとテロ紛いな行動(嫌がらせ)を起こし始めた。

 まぁそれでもかつての帝国に比べれば可愛い物だったが。

 自分を崇める者達を自分で叩き潰すという意味不明な作業に20年近く費やす羽目になった。

 思考が逸れたのを息を吐いて修正する。

 

『もう、あの子達のことも思い出せないのよ』

 

 自分が遺跡の核となった時にそれを止めようとしてくれた者達。

 そういう人達が居たという記憶は有っても、その顔も声も名前すら思い出せない。

 

『それに……』

 

 もしかしたら、今の自分は遺跡によって再現されただけの偽者(プログラム)なのではないかと思う時がある。

 本物の綾瀬彩那は今もあの遺跡と共に眠っているのか。

 それとも自分という存在が生まれた時に死んだのか。

 自分が本物の綾瀬彩那だという証拠は何処にも無いのだ。

 

『なにより、もう年を取らない私は会わない方が良いでしょうよ。私もしばらくは誰とも関わりたくないし』

 

 人間社会で周りが成長し、老いていくのを見るのに疲れた。

 しばらくは独りになりたい。

 

『ここでいいわ』

 

 誰も居ない見渡す限りの草原に降り立ち、空気を肺いっぱいに吸い込んで吐く。

 こういう解放感はいつ以来か。

 

『それじゃあマリアルイズ。世話になったわね』

 

『それは此方の台詞だ。今日までこの世界に尽くしてくれたことに心から礼を言う。これも持って行くと良い』

 

 マリアルイズが拳1つくらいの大きさの鱗を渡してきた。

 

『お主とたまに過ごしたこの百年、悪くなかったぞ』

 

『えぇ。私もよ。さようなら』

 

 手を振ってマリアルイズと別れる。

 もう会う事は無いかもしれない。

 彩那は軽く伸びをして首を回す。

 

「さて……何処へ流れて行きましょうか」

 

 本当にもう自分を縛り付ける鎖は存在しない。

 今はただ自由な時間を過ごしていたかった。

 

 かつて過ごした誰か達。

 彼女達が綾瀬彩那と再会出来る日が来るのかは誰にも分からない。

 

 

 

 

 




次回から間に合った続き書きます。

おまけの小話で読みたいのは?

  • 教会に遊びにいく
  • 飛行機旅での料理
  • フリードに念話で話しかけるキャロ
  • 列車旅中に襲撃を受ける
  • 王都を散策
  • 飛行機内での女子会
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