雛見沢大災害なんて起こさせない   作:アンケート

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第四話

 

「買いすぎた……」

 

 17時が過ぎたあたりの頃、俺はスーパーで買い込んだ食材を両手に、古手神社へ続く石段を登っていた。

 あまり考えにくいことだが、両親が不在の今。古手神社は梨花ちゃん一人で留守番をしているかもしれない。この雛見沢は村民同士で助け合う風潮があるため、誰かが困ったなら助け合いをしていると思うが、まぁ一応である。

 小さい子供だけでは、やはり買い物も大変だろうし、何より食事がきちんと用意できているかが不安だ。

杞憂だったなら、俺が心配性すぎたという笑い話で済む。懸念材料を潰しておくという意味では悪くないだろう。

 

「よーし、本殿についた。と言っても、家はどこだろう……社務所とかがあるのかな」

 

 古手神社に来たはいいものの、残念ながらこの本殿に人が住んでいるとは思えない。まさか通い神主だったら、俺が無駄足を運んだことになるのだが、それだけは無いと願いたいものだ。

 ひとまず、ぐるりと周りを散策してみよう。よれてきたシャツを軽く手で直し、俺は展望台のほうへと歩くことにした。

 と、その時だ。

 

「あっ!!」

 

「ん?」

 

 甲高い声が俺の鼓膜を打ったのは。

 振り返ってみると、見覚えのある金髪の少女――ゲームで言うところ第一村人である沙都子ちゃんが俺を指さして固まっていた。

 

「また性懲りもなく来ましたのね、変質者さん」

 

「よお、沙都子ちゃん。昨日ぶりだね。学校の帰り?」

 

 これまた奇遇なのか、沙都子ちゃんが本殿回りを歩いていた俺を見つけ、声をかけてくれた。

 隣には同い年くらいの小さな女の子がいる。友達だろう。可愛らしい女の子だ。

 

「もう私に会いに来ましたの? もう少し辛抱を覚えたほうがいいんじゃないかしら」

 

「いやいや、今回は別件だ。古手梨花さんに用事があって神社には来たんだよ」

 

「梨花に?」

 

 そういって沙都子ちゃんは、隣にいた女の子を見た。

 

「みぃ。僕に用事なのですか?」

 

 あどけない表情。子供らしさが前面にあふれたたたずまいからは、とても今月他殺体で見つかる少女とは思えないほど、可憐である。

 俺は不思議な魅力のある少女に、しばしば言葉を失ってしまった。

 

「どうしましたの、幸嗣さん?」

 

 沙都子ちゃんが、そう心配して声をかけてくれなければ、俺の脳はずっとフリーズしていたかもしれない。そう錯覚してしまうほど、目の前にいる古手梨花は不思議な雰囲気をまとっている。

 俺は一度だけ咳払いをし、梨花ちゃんや沙都子ちゃんの慎重に合わせて膝を折った。

 

「すまんすまん、少し階段で疲れたのか眩暈がね……と、それより初めましてか? 俺は翠川幸嗣。元雛見沢の住民だけど、今回1ヶ月ほど滞在することになったから、御三家に挨拶周りをしてるんだ」

 

「……幸嗣は6月いっぱいまでいるのですか?」

 

「うん、そのつもり。だから仲良くしてほしい」

 

 俺がそういって梨花ちゃんに手を差し出すと、彼女は一瞬だけ硬直した素振りをみせてから、握手に応じてくれた。

 まぁ、欧米文化だからね、握手は。ちょっと気やすすぎたかな。

 

「げげっ、今度は梨花に手を出すつもりですの!? この変質者さんは!」

 

「沙都子ちゃんも仲良くしてくれるだろ? なんせ、一度戦った仲だし」

 

「ふん。お断りしますわ」

 

 と言いつつも、沙都子ちゃんは俺の握手に応じてくれた。

 なんだかんだ優しい子だよな、沙都子ちゃんって。

 

「沙都子と幸嗣は仲良しなのです。にぱー」

 

「違いますわよ。私はこんな変質者と仲良しではありません!」

 

 仲がいい二人は、軽い言い合いをしながらも、今度は俺が両手にぶら下げている買い物袋を見た。

 

「それなんですの?」

 

「なかなかの大きさなのです」

 

「ああ、これ? 梨花ちゃんにおすそ分け。やっぱりここだとスーパーとか遠いだろうからさ、いろいろ買ってきた。特にお米は大変だろ」

 

 そう言って、俺は両手にそれぞれぶら下げていた買い物袋から、スーパーで買いだしてきた品々を軽く見せる。

 流石にこれらを持って階段をのぼるのは、鍛え抜かれた自衛官の体じゃない今、俺もけっこうきつかったよ。まぁ、彼女たちの元気な笑顔をみるだけで、頑張った甲斐があったなとは思うのだけど。

 

「あとこれは、挨拶の菓子折り。口に合うといいけど」

 

「なにからなにまでありがとなのです」

 

「いや、気にしないで。俺がしたかったことだから」

 

 そう言うと、俺は出した荷物を再び買い物袋へと仕舞っていく。

 

「そうそう、これだけの大荷物だし、家まで運びたいんだけど、梨花ちゃんの家ってどこなの?」

 

「私達の家にまで来る気ですの……」

 

「え、私たちの家?」

 

 俺がそう素っ頓狂な声をあげると、梨花ちゃんがにんまりと笑う。

 

「そうなのですよ。僕と沙都子は一緒に住んでるのです」

 

「へぇ、仲がいいんだな」

 

「当然ですわ」「なかよしなかよしなのです、にぱー」

 

 と沙都子ちゃんは無い胸を張り、梨花ちゃんは天使のような微笑みを浮かべた。

 だが、俺は気にしてしまう。無駄に思考回路が大人だからだろうか。こんな幼い子供二人を残し、古手家の親はどこに行くというのか。普通であれば、村の誰かに預けそうなものを。それをしないということは、それが普通になってしまっているという事。つまりは……。

 

「よし、どうせだし俺が晩御飯も作ろうか?」

 

「いいのですか?」

 

「任せてくれ。俺はこう見えて料理が普通にできるんだ」

 

「えぇ~、私よりおいしく作れますの?」

 

「沙都子ちゃんより美味しいかは分からないけど、食べれないものは作ったりしない自信はある」

 

 自衛官だった俺は、基本的に寮生活をしていたが、だからといって料理ができないわけじゃない。当たり前だが、災害時には野外炊具を走らせ、各地で炊き出しを提供したりするのだ。そんな組織に所属していた俺が、料理もできませんということはない。びくってもらっては困る。多分だが、今同い年の男子と料理バトルをさせられたら、30数年もの間、蓄積された舌情報で大抵勝てる自信があるくらいだ。

 

「では、お任せするのです。にぱー」

 

 梨花ちゃんからの了承も得たことなので、俺は彼女たちの家にお邪魔し、料理をすることとなった。

 

 

 

 

 

 

-!-

 

 

 

 

 

 

 

 梨花ちゃんの家はかなり古びたように見える二階建ての民家だった。内装を見る限り、俺の予想はどうやら当たったらしい。古手家には今現在どころか、ここ何年かは大人がおらず、沙都子ちゃんと梨花ちゃんだけの二人暮らしをしているようだ。

 どうしてなのか、なんて不躾に聞くのは良くないだろう。大体は想像もつく。どうしようもない事柄。子供を置いていかなければならなかった事案。そんなものは全世界共通で決まっていることだ。きっと、沙都子ちゃんの親も……。

 

「お、多いですわ……」

 

「みぃ。富士山なのです……」

 

「え? 普通じゃない?」

 

 俺がそんな不穏なことを考えていると、二人の幼女が顔をしかめて卓上に並べられた品々を見た。

 山盛りにしたごはん。皿からこぼれそうなほど盛り付けられた唐揚げ。一人ずつ用意された大皿のサラダ盛り合わせに、卵焼き。漬物の小鉢、冷奴、納豆。さらに足りない時の為にと作った肉バラ入り野菜炒めに、トドメのすまし汁。

 我ながら完璧だ。育ち盛りの子供が食べるなら、これくらいにしておかなければならない。

 

「うっ、食べる前から胃もたれしてきましたわ」

 

 沙都子ちゃんは口を押えて目線を逸らし、もういちど卓上の料理を見る。

 

「途中で止めるべきだったのです」

 

「まぁ、残りそうなら俺が食べるよ。さぁ、手を合わせて食べよう」

 

「みぃ」「わかりましたわ」

 

 腹をくくったような表情をする二人を見ながら、俺はとりあえず手を合わせ、三人で唱和する。

 

「「「いただきます」」」

 

 うん。やっぱりこういうのは大切にしないとな。

 

「みぃ。そういえば、幸嗣はどうして雛見沢に滞在するのですか?」

 

 自衛隊仕込みの速さでごはんを口へかきこんでいる途中、真正面に座る梨花ちゃんが、小首を傾げてそう尋ねてきた。

 

 んー、どう答えたものか。

 俺は一度箸を止めて思案する。馬鹿正直に「村の災害を止めるためにタイムスリップしてきました」とか通じるわけないよな。いくら相手は子供だとは言え、虚言壁のお兄さんと思われるのは避けたい。梨花ちゃんに不審がられたら、それこそゲームオーバーだ。

 

「久々に郷土が恋しくなったから、かな」

 

「郷土? そういえば、さっき雛見沢に住んでいたと言っていたのです」

 

「まぁね。小学校入る前に引っ越したんだ。だから、梨花ちゃんや沙都子ちゃんの通う分校に、俺はいったことが無いんだけど」

 

「へぇ~、なら幸嗣さんは魅音さんや、レナさんを御存知なのですか?」

 

 隣から沙都子ちゃんも会話に交じってくる。

 苗字がないから何とも言えないが、やっぱりピンとくる人物はいない。

 

「どうだろうなぁ。幼少期のことだから、記憶が曖昧でなんとも言えん」

 

「みぃ……僕は翠川という苗字、どこかで聞いたことがあるのです」

 

「実は私もなんですわ。どこで聞いたのでしょうね」

 

「まぁ、この村も決して大きい訳じゃないから、もしかしたら昔あったことがあるのかもな」

 

 俺がそう言えば、沙都子ちゃんも梨花ちゃんも、各々自分で納得がいったのか、それ以上思い出そうとする素振りを見せなかった。

 

「幸嗣。明日は休みなので、よかったら僕たちと村を回りませんか? お料理のお礼もしたいのです」

 

「え?」

 

「あら、良い提案ですわね。明日は確か圭一さんも魅音さんたちと村を回ると言っていましたわ」

 

「圭一……たしか喜一郎さんがいってた、最近引っ越してきた子だよね」

 

 俺は不躾にも箸で空中を指して思案する。

 どうしたものか。

 雛見沢大災害がなにかしらの事件性がある場合、できれば一分一秒も無駄にはしたくないところではある。

 体も大人と子供とのギャップのせいか、少し動きづらいのが現状。他にもやりたいことは色々と思いつくんだが、、、。

 




梨花 好感度 0 ⇒ 2

沙都子との思いでフラグを入手
梨花との思いでフラグを入手
※惨劇時、主人公の行動によって影響を起こします

どう返事をしようか?

  • どうせだし、お願いしようかな(部活)
  • ごめん、明日は用事があるんだ(ダム戦争)
  • ごめん、明日は用事があるんだ(興宮)
  • ごめん、明日は用事があるんだ(肉体強化)

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