ソードアート・オンライン ~より良き未来を目指して~   作:KXkxy

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「お疲れ様、天野君。進捗はどうかな?」

 

 開発に携わり始めてから約1週間。いつも通りコンソールを叩いていると、事前予告も無く唐突に茅場さんがダイブしてきた。少々ビックリしつつも、この人が予告なしに何かをする事自体はそう珍しいものでもないためスルーして訊かれた事に答える。

 

「お疲れ様です茅場さん。とりあえず、ポーションなんかの定番アイテムは完成しました。それと、2人が退屈してそうだったので、性能とかを度外視して適当に武器らしきものは作ってあります。テストしてもらう物がある程度貯まるまで、とりあえず2人には仮想世界で身体を動かす事に慣れてもらおうかな、と」

 

 言いながらコンソールを操作し、2人がいるテスト用フィールドをホログラムとして映し出す。2人は僕が作った武器モドキで打ち合ったり、或いは鬼ごっこやかくれんぼをして遊んでいたり、かと思えば地面に寝転がってみたりと忙しなく動き回っていた。テスト用フィールドは一面の草原で、隠れる場所はあまりないのにかくれんぼとかやってて楽しいのかなと思わなくもない。口にはしないけど。

 

「なるほど、了解した。それと、本日の社内会議で決定した事がいくつかある。大半は社外秘のため君にも教えられないが、君にとって重要となるのは『剣技(ソードスキル)』についてだ」

 

 茅場さんが居住まいを正す。釣られるようにして僕も背筋を伸ばした。

 

「スキルの中でも、直接的に攻撃するものは、『剣技(ソードスキル)』と呼称されることとなった。そちらの開発は私に一任されているが、社内の人員は相変わらず不足気味でね。率直に言って、テスターが圧倒的に足りないのが現状だ。彼女達を含めたとしても、ね」

 

 故に――と続ける。

 

「君にもテスターとしての仕事を依頼したい。先ほど、紺野さん達がいる空間に、ここに配置してあるコンソールと同じ物をジェネレートした。明日以降はそちらの空間で作業を行いつつ、剣技(ソードスキル)のテストを行ってほしい。それに伴い、君に元々依頼していた作業はこちらの社員で引き継ごう。開発方面での君の作業は、主に私の補助となる。私が連日、メッセージという形で作成して欲しい内容を送信するため、それに従ってプログラミングを行ってくれればそれでいい」

 

 それは、僕にとっても魅力的な提案だった。開発作業がつまらない訳ではもちろん無いけど、やっぱりずっと1人で何時間も作業をするというのは少々気が滅入る。正直、ここ2日くらいは最初に比べて作業効率が落ちてきていた。作業の合間で2人と話したり身体を動かしたりして気分転換ができるというのは僕の目にはかなり魅力的に映る。

 

「けど、大丈夫なんですか?人手が足りないっていうお話なのに、本来僕がやるはずだった作業までお任せするなんて······」

「何も、今すぐに全ての作業を進行させる訳ではない。ナーヴギアの仕上げが終わり次第、そちらから回される予定のスタッフに割り当てるという形だ」

 

 淡々と話を進める茅場さん。その声色がここにきて若干の変化を示した。

 

「また、別途(べっと)君に······君達に依頼したい事もある。それに関しては明日の朝、君達が全員揃った際に連絡するため楽しみにしていて欲しい。以上だ。お疲れ様」

 

 そこにあったのは僅かな高揚。あの人も人間なんだな~と、やや失礼な事を考えながら僕はコンソールを操作してログアウトを実行した。

 



 

 

 ログアウトして1時間ほどして、夕飯。食べ終わった2人が僕の部屋(今は事実上の子供部屋になっている)に戻った頃を見計らったように······というか、多分見計らって母さんたちから2つの提案というか、相談?があった。

 

 1つは引っ越しについて。これはほぼ必須だった。最近になって、僕たち天野家も村八分になってきたし、紺野家に関してはもう言わずもがなだろう。程よく離れていて、しかし紺野家が通っている病院から遠すぎない場所で引っ越し先を探しているとのこと。こちらは僕らの意見が聞きたいというわけではなく、提案や相談というよりは報告に近かった。

 

 2つ目が、僕たち······正確には木綿季と藍子の勉強について。今はテスターとしての作業と並行して、やや夜更かししつつも自主勉強をしていたらしいけど、それでは効率が悪いし、まだ成長期だというのに睡眠時間を削るのはいかがなものかという話だった。けど、家庭教師を頼もうにも、近所の評判を鑑みると病気に対する偏見が無い人という条件が付くし、何よりその人にも風評被害が生じかねない。どうすればいいと思うか、という相談だった。

 

 そこで考え付いたのが、僕が2人の教師役を務めるという事。高校までとなると少々自信がないけど、小学校や中学校くらいの内容なら十分に教えられると思う。都合よく明日からは2人と同じ空間で作業をする事になったから、作業の合間に授業をする事だってできる。木綿季は不満を言うかもしれないけど、最終的にはちゃんと取り組んでくれるだろう。大人組にそう伝えると、やや不安そうではあったけど了承してくれた。教えた内容を毎日大人に伝えて、その内容をもとに定期的にテストをする(作成は母さん。専業主婦だから家事を片付けてから暇になるので)事が条件として設けられたけど。テストの結果次第で、引っ越し先で家庭教師を呼ぶかどうかを決めるらしい。

 

「という訳で、明日からはダイブ中に授業もやる事になったから。茅場さんも了承済みだって」

 

 部屋に戻り、2人に先ほど決まった事を告げる。ちなみに、茅場さんが了承済みというのは本当だ。連絡先を交換した父さんがその旨を伝えたところ、二つ返事で承諾されたとか。学校に通えないという環境を彼なりに心配していたのか、なるべく空き時間を作れるようにすると言っていたらしい。今日伝えられた作業の変更も、もしかするとその一環だったのかもしれない。

 

「え~!わざわざダイブ中に授業やるの~?」

 

 木綿季からやや不満そうな声が上がる。藍子の方はというと、勉強の遅れを気にしていたのかホッとしたような顔をしていた。双子で顔が似ているのに、真逆の表情が並んでいるのはちょっとだけ面白い。

 

「木綿季の気持ちも分かるけど、勉強はしっかりやらなくちゃね。安心して、高校序盤くらいまでの内容なら完璧に教えられるから」

 

 文理選択の都合上、高校からは完全にとは言えないけど。理系科目はともかく、文系は、ね······。

 

「は~い······」

 

 不満そうな顔をしてはいるものの、木綿季だって勉強の遅れに関しては気になっていた筈だ。その証拠に、不満そうな表情に反して、目には意欲的な光が見られた。これなら中身の濃い勉強ができそうだ。

 



 

 翌日。僕らがいつも通りに仮想空間にダイブすると、そこには茅場さんともう1人、見慣れない女の子がいた。見た目は僕らより何個か上······中学生か高校生くらいに見えるけど、纏っている雰囲気はもっと小さい子······幼稚園や保育園の園児や、小学校に入ったばかりの頃を思わせる。何ともチグハグな子だった。

 

「おはようございます茅場さん。そちらの女の子は?」

「おはよう。彼女は私が開発した『メンタルヘルス·カウンセリング·プログラム』······略称MHCPというAIだ。彼女は試作3号となる。コードネームは『トリア』だ」

「よろ、しく······」

 

 微かに頬を緩ませ、途切れ途切れに言う彼女······トリア。見た目に反して雰囲気が子供っぽかったのは、文字通り彼女が生まれたばかりだったかららしかった。

 

「彼女は将来的に、試作1号と試作2号······『ユイ』と『ストレア』と共に私の世界に実装され、プレイヤーの精神面で異常が確認された場合、自動的にカウンセリングを行う事となる。だが『人の心』というのは彼女達にとって理解が難しい概念のようでね。会話エンジンは専用に仮想空間を創り、内部の時間を加速させる事で短期間で精錬する事が可能だが、カウンセリングという目的上、人の心······感情も理解する必要がある」

 

 何となく、茅場さんの言わんとするところが見えてきた。けどそれはそこそこ長く付き合っている僕だけの話で、2人は完全にポカンとしている。

 

「······何となく分かってきました。僕たちと暫く一緒にいさせて、人の感情を間近で観察させるのが目的、っていう感じですか?」

 

 2人への通訳と茅場さんへの確認を兼ねて質問する。

 

「理解が早くて助かるよ天野君。1号と2号もそれぞれ別の人間と暫く一緒に行動させる予定でいる。可能な限り多くの感情を彼女に見せてあげてほしい」

 

 そう言って茅場さんはログアウトしていった。取り残されたトリアは、父親とも言える創造者がいなくなった事で若干寂しそうというか、不安そうな表情をしている気がする。

 

「······2人とも、今日はトリアに笑ってもらうのを優先しない?」

「分かった!」

「オッケー!」

 

 その顔が、あの時の木綿季と藍子に重なった。今となっては思い出すのも腹ただしいあの日、教室に入った時にクラスメイト······否、『元』クラスメイトの冷たい視線を受けて凍り付いた木綿季の顔と、逃げるようにして家に戻り、僕の部屋でふさぎ込んでいた2人の顔が脳裏をよぎる。気づいた時には僕はそう提案していたし、2人も速攻で賛成してくれた。

 

「トリア」

 

 なるべく優しい声になるように意識して、彼女に声をかける。見た目は成熟していても、彼女の内面は僕らより幼い子供みたいなものだ。AIだから成長が早かったりするのかもしれないけど、少なくとも今の彼女は外界に対して怯えている子供そのものだった。

 

「············」

 

 呼びかけに反応し、視線をこちらへ向ける。まだまだ警戒心が勝っているようだけど、今はそれでもいい。将来的に一緒に喋って、一緒に遊んで、一緒に笑えるようになれればそれでいい。

 

「えっと、僕は天野蒼(あまのあおい)。2人からは『ソウ』って呼ばれてるから、そう呼んでほしいかな」

「ボクは紺野木綿季(こんのゆうき)!木綿季でいいよ、よろしくね!」

「私は紺野藍子(こんのあいこ)。呼び方はあんまり気にしないで、呼びやすいように呼んでくれれば嬉しいかな」

 

 口々に名乗る。警戒を解かすように笑顔で、けど決してこちらからは踏み込みすぎないように注意して。

 

「······私、トリア。よろしく······」

 

 こうして、僕たち3人の輪に彼女······トリアが加わり、作業場となる仮想空間内はより一層賑やかになった。

 




評価·感想お待ちしています。
そろそろ原作に入りたいけど、原作前に書いておきたい内容が多すぎる······。
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