ソードアート・オンライン ~より良き未来を目指して~   作:KXkxy

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新年あけましておめでとうございます。今年もどうぞ本作をよろしくお願いいたします。(大遅刻)

というわけで、年末年始の休みに執筆しようと思いながらも親戚付き合いに時間を取られ、気が付けば正月休みも終わっていた作者です。どうして1日って24時間しかないんでしょうね。36時間くらいあったら8時間働いて8時間寝てもまだ20時間も余るのに。


P.S. 葉月翠様、評価ありがとうございます。


015

 

 鐘の音と同時に僕らが包み込まれた青白い光。それそのものは不具合でも何でもない(ただ)の転送エフェクトだ。βテストでも、専用のアイテムを使うか、各層の主街区······いわば首都に設置されている《転移門》を利用する事で発生したらしいので、別にプレイヤーには絶対に出来ないことでもない。けど今回、僕らは誰もアイテムも使っていないし、《転移門》は未だ行き先が解放されていない。という事は······。

 

GM(ゲームマスター)による介入、か······」

 

 高速回転した思考回路がそう結論づけるとほぼ同時に、ホワイトアウトしていた視界が戻る。咄嗟(とっさ)に周辺を確認すると、どうやら〈はじまりの街〉の中央広場だと分かった。近くにいるプレイヤーはまとめて転送したのか、ユウキとランも一緒にいる。

 

「ソウ、これって······?」

「多分、GM(ゲームマスター)······運営からの介入だと思う。普通に考えればログアウトできない不具合の説明と今後の対応とかだろうけど······」

 

 不安そうなランにそう説明するも、その表情は変わらない。というか、彼女の瞳に映っている僕も似たような表情だった。ユウキも似たり寄ったりだ。

 

「あっ············」

 

 誤魔化(ごまか)すように視線をあちこちに走らせると、見知った顔が近くにあった。

 

「ミトさんと······アスナさん?」

「君達は······確か、ソウとラン、それにユウキだったかな?君達はこの状況、どう思う?」

 

 ミトさんに訊かれ、今ランに言ったのと同じ内容を答える。

 

「やっぱり、普通に考えるならそう、か」

「ただ······このゲームは『あの』茅場晶彦が創ったゲームです。そして何より、VRMMOゲームの先駆(さきが)けでもある。初日に不具合が起こる可能性を残すくらいなら、サービス開始そのものを延期する気が······」

「そうなの?けど、誰も気が付かなかったっていう事は······」

「アスナさんには悪いんですけど、他の人は兎も角として、茅場晶彦が見逃すとは思えないです。仮に見逃してたんだとしても、サーバーを停止させれば全プレイヤーを強制的にログアウトさせられますし、そうするのが自然です。それすらしていないとなると······」

 

 丁度(ちょうど)その時、広場上空が真っ赤に染まった。よく見ると六角形の小さなウィンドウの集合体だ。書いてある文字は『Warning』と『System Announcement』の2つ。周りのプレイヤーからは、(ようや)く運営からのアナウンスがあるのかと安堵(あんど)の声が零れるけど、ミトさんや僕らを含む一部のプレイヤーにはその様子は見られない。やがてウィンドウの隙間から赤い液体のような物が染み出し、空中で(わだかま)って巨大なローブを形作った。

 

『プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ』

 

 ローブから響き渡る低音。それは間違いなく、幾度となく聞いた茅場さんの声そのものだった。

 

『私の名前は茅場晶彦。今や外側からこの世界をコントロールできる唯一(ゆいいつ)の人間だ』

 

 声から分かっていたにも関わらず、改めてその言葉を聞いて息を呑む。彼の名を(かた)る別人ではない事はほぼ間違いない。ハッキングなんて事ができるほど、彼が本気で組んだであろう、このゲームサーバーの防衛プログラムは甘くない。

 

『諸君は既に、メインメニューからログアウトボタンが消滅している事に気づいていると思う。だがこれはゲームの不具合ではない。繰り返す。これはゲームの不具合ではなく、《ソードアート·オンライン》本来の仕様である』

 

 彼の言葉に嘘は無いと、何故か確信できた。いつか僕自身が言ったように、彼は隠し事はしても嘘は()かない。

 

『諸君は今後、この城······〈浮遊城アインクラッド〉の(いただき)を極めるまで、自発的ログアウトを行うことはできない。また、外部からのナーヴギアの停止あるいは解除も起こり得ない。仮にそれが(こころ)みられた場合······』

 

 少しの間を持たせ、彼は続ける。

 

『ナーヴギアの信号素子が発する高出力のマイクロウェーブが、諸君の脳を破壊し、生命活動を停止させる』

 

 思考が、止まった。今、彼は何と言った?生命活動を停止させる······(すなわ)ち、殺すと言ったのか?そのつもりで、彼は僕達にこのゲームを送りつけてきたのか?

 

「嘘······。そんなの、出来るわけないじゃない。ナーヴギアは、(ただ)のゲーム機なんでしょ?ひ、人を殺すなんて······」

 

 アスナさんが震える声で、(かす)かな声を上げる。それは本当に小さな声だったけれど、嫌にハッキリと響いた。

 

「いや······。ナーヴギアの······フルダイブの原理は、根本的には電子レンジと同じです。十分な出力さえ確保できれば、僕らの脳を摩擦熱(まさつねつ)で蒸し焼きに出来る······!」

 

 その声に、不本意ながら否を突き付ける。それはどちらかというと、彼女への答えというよりは自分に言い聞かせ、現実を自覚するためのものだった。

 

『より具体的には、10分間の外部電源からの切断、2時間以上のネットワーク回線の切断、ナーヴギア本体のロック解除あるいは分解、破壊の(こころ)み。以上のいずれかの条件によって脳破壊シークエンスが実行される。既に現実世界では各種メディアを通じてこの条件は広く報道されており、諸君のナーヴギアが強制的に除装される可能性は非常に低いものとなっている。安心して······ゲーム攻略に励んでほしい』

 

 この状況で呑気に遊べと言うのか、という声が上がる。だがそうしなければ······この〈浮遊城アインクラッド〉を完全に攻略しなければ、僕らはこのゲームに閉じ込められたまま、緩やかに朽ちていくだけだ。

 

『しかし、十分に注意してほしい。諸君にとって、既に《ソードアート·オンライン》は普通のゲームではなく、もう1つの現実と言うべき存在となっている。今後、ゲームにおいてあらゆる蘇生手段は機能しない。ヒットポイントが0になった瞬間、諸君のアバターは永久に消滅し、同時に············』

 

 続くであろう言葉がありありと浮かぶ。そうであって欲しくはない。そんな気持ちに構わず、彼は無慈悲に言葉を続けた。

 

『諸君の脳は、ナーヴギアによって破壊される』

 

 予想した通りの言葉が続けられた。予想が当たったのにこんなにも嬉しくないのは生まれて初めてだ。

 

『諸君がこのゲームから解放される条件はたった1つ。先に述べた通り、この〈浮遊城アインクラッド〉の(いただき)······第100層に到達し、待ち受ける最終ボスを討伐する事だ。その瞬間、その時点で生き残った全プレイヤーが安全にログアウトされる事を約束しよう』

 

 ここに至っても、プレイヤーに混乱は見られなかった。否、混乱するだけの余裕が無かった。正直、僕もそんな余裕は無い。必死に思考を巡らせて現実から目を逸らしているだけで、パニック半歩手前だ。

 

『では最後に、諸君にとってこの世界がもう1つの現実であるという証拠をお見せしよう。諸君のアイテムストレージに、私からのプレゼントを用意しておいた。確認してくれたまえ』

 

 ほぼ反射的に全員がウィンドウを開く。そんな事はあり得ないと知りながらも、その『プレゼント』にこの状況を脱する方法が眠っているんじゃないかという一縷(いちる)の望みに(すが)りながら。

 

「アイテム名······[手鏡]?」

 

 当然、そんな甘い話はない。そもそも、そんなにすぐ解放するくらいなら最初からこんな事はしないだろう。そう思いつつ、表示されたアイテム名をクリックして実体化させる。小さな効果音と共に、僕らの手元には何の変哲(へんてつ)もない手鏡が現れた。

 

「··················」

 

 全員が無言で、それぞれの手元のそれを覗き込む。と、その時······

 

「なっ!?」「うわぁっ!?」「きゃっ!?」

 

 口々に短い悲鳴を上げながら、青白い光に包み込まれていくプレイヤー達。それを詳しく認識する間もなく、僕自身もそれに包み込まれた。

 

「···ッ······。一体、何が······」

 

 眩しさも一瞬。反射的に閉じていた瞼を開けると、そこにはついさっきまでとは大きく様変わりした光景が広がっていた。いや、正確には、周囲にいた人たちが様変わりしていた。

 

「ソウ、これって······?」

 

 そう訊いてくるユウキの顔も、若干の変化があった。端的に言えば、現実世界(リアル)の顔そのものだ。隣にいるランも同様。多分、僕も。僕達は現実世界(リアル)の顔をほんの少しデフォルメしたくらいだったからこの程度の変化で済んでいるけど、そうではない人も多かった。男女比すら変わってしまっている。というか······

 

「大丈夫?ミト······って、深澄(みすみ)?」

「だから、深澄(みすみ)じゃなくてミト······って、えぇ!?」

 

 そんな会話をしているミトさんも、長身の男性アバターから美人の女性になっている。察するに、こっちが本当の姿というか、現実世界(リアル)の容姿なんだろう。街で歩いていたら10人中7,8人は振り返りそうな感じ。聞こえてしまった本名と思われる名前は可能な限り速やかに忘れることにする。

 

「······ナーヴギアが顔の凹凸(おうとつ)をスキャンして、そのデータを(もと)にアバターを作り直した?けど身長とかの補正データはどこから······?」

「多分だけど、キャリブレーションだよソウ。初めてナーヴギアを使った時、身体のあちこちを触った気がする」

「相変わらず記憶力いいね、姉ちゃん······。けど、それだけでこんなに再現できるの?」

「ユウキの疑問も最もだけど、『手をどのくらいまで伸ばしたら身体のどこに触れるか』っていうデータを集めたら、多分ある程度の再現は出来ると思う。というか、実際に出来てる以上はそう考えるしかないかな」

 

 フルダイブ技術なんていうSFな代物(しろもの)を実用化までしてしまえる程の頭脳は伊達じゃない。彼が本気になれば、その程度は朝飯前だろう。問題はここまでする『動機』だ。

 

『諸君は今、何故と思っているだろう。何故、ナーヴギア及び《ソードアート·オンライン》の制作者である茅場晶彦はこんな事をしたのか。これはテロ行為なのか、或いは身代金(みのしろきん)目的の集団監禁なのか、と』

 

 再び響き始める声。けど茅場さん、多分そんなに冷静に考えられるような人、この中にはいないと思います。みんな普通にゲームを楽しみに来て、いきなりこんな事に巻き込まれたんだから。ゲーム内の死が本当の死に繋がる『デスゲーム』になった実感もないし。

 

『私の目的はそのどれでもない。この状況を作り上げることこそが、私の最終目標だからだ。そのために私はナーヴギアを、《ソードアート·オンライン》を造った。そして今、全ては達成せしめられた』

 

 それは、日本の司法に対する勝利宣言だった。目的を達成している以上、どんな大金を積まれようが罪の軽減を交換条件にされようが、彼が(なび)く事は無いだろう。

 

『以上で、〈ソードアート·オンライン〉正式サービスのチュートリアルを終了する。プレイヤー諸君の、健闘を祈る』

 

 そう一方的に告げると、赤いローブは出現したときの逆戻し映像のようにして消えていった。後に残されたのは呆然とする一万人のプレイヤー達。少しの間、誰もが口を開かなかった。否、開けなかった。聞こえてくるのはNPC楽団が演奏するBGMと、商業区から微かに聞こえてくる店員NPCの呼び込みの声だけ。

 

「嫌·········イヤァァァァァァァァ!」

 

 誰かが上げた叫び声を皮切りに、広場は大混乱に陥った。

 

「ふざけるな!」「ここから出せ!出してくれ!」「こんなの困る!この後約束があるのに!」「こんなことして許されると思ってるのか!」などなど······。当然だろう。ここにいる人たちはみんな、純粋にゲームを楽しみに来たんだ。いきなり死の危険に晒されていると言われて、混乱しない人間はいない。

 

「アスナ、こっち!それと······ソウ、ユウキ、ラン!あなた達もこっちへ!」

 

 ミトさんに手を引かれ、混乱を極めている広場を脱出する。同じようにして広場から出ている人達が少数ながらいた。多分、ミトさんと同じβテスターだろう。人によってはビギナーを見捨てて自分達だけ先に進んだみたいに思うんだろうけど、個人的には妥当な判断だと思う。混乱し切った人間をまとめ上げるのは一朝一夕では上手くいかないし、仮に今声を上げたところで、悲鳴と叫び声にかき消されるのはオチだ。今のうちにより先へ進み、情報を集める方が何倍も建設的だし、合理的だ。

 

「いい?MMORPGは基本的に、プレイヤー間でのリソースの奪い合いよ。それはこのゲームも例外じゃない。街の近くのモンスターはあっという間に狩り尽くされて、経験値稼ぎも碌にできなくなる。そうなる前に次の町に移動するわ」

 

 ミトさんの言う事は理解できる。けど、その提案を受ける事は出来なかった。ユウキとランも同じ意見らしい。目を見れば分かった。代表して僕が答える。

 

「ごめんなさい、ミトさん。僕達は一緒には行けません。いくらミトさんがβテスターでも、確実に守れるのは1人が限界です。それならアスナさんを優先しないと。大事な友達なんでしょう?」

 

 このゲームはもう、普通のゲームじゃない。1度死んだら二度と蘇れず、現実の命も失うデスゲームだ。守りたいモノの優先順位を間違えてはいけない。彼女達と僕達は今日会ったばかりだけど、彼女達は現実世界(リアル)の友達同士。それならそっちを優先すべきで······言葉を飾らずに言えば、僕達3人の事は見捨てるべきだ。

 

「それはっ······!そう、かもしれないけど············」

 

 悔しそうに目を伏せるミトさん。その様子に申し訳なさを覚えつつも、さらに言葉を続ける。

 

「ミトさん。僕達の事を気にしてくれる気持ちは本当に嬉しいです。けど、言ってしまえば僕達と貴女の関係は『武器屋を案内した』くらいしかないし、殆ど他人と変わらないじゃないですか?そんな僕達を連れて行って、万が一にもアスナさんを守り切れなかったら絶対に後悔するでしょう。僕はそんな風になって欲しくないから······先に行ってて下さい。後で、絶対に追いつきますから」

 

 幸い、戦闘そのものへの不安要素は少ない。ボス級の相手となると話は変わってくるだろうけど、さっき戦った感じではこの街の周辺くらいなら特に問題なく戦い抜ける。その後は······情報次第、かな。

 

「············分かった。私達は先に行くわ。情報も······どうにかして残してみる。だから、また会いましょう、ソウ。無事を祈ってるわ。それと、私の事はミトでいいわよ。敬語も抜きでお願い」

「分かり······分かった。気をつけてね、ミトさん。あの茅場晶彦が、βテストから何も変更してないなんて考えにくいから。基本部分は同じでも、モンスターのステータスとか地形とか、細かく変えられてるかもしれない」

「ありがとう。十分に······いえ、十二分に気をつけるわ」

 

 そう告げ、僕達にフレンド申請(しんせい)を送るが早いか、ミトさんはアスナさんの手を引いて街の外へと駆け出して行った。その姿が見えなくなるまで見送り、フレンド申請(しんせい)承諾(しょうだく)する。

 

「さて······今日はもう休もっか?色々あって疲れちゃったし」

「うん······。ボクも、これが現実だって受け入れる時間が欲しい、かなぁ······」

「ユウに賛成······。私も、正直受け入れきれてないかな······」

 

 今も広場で混乱の最中にある人達に比べれば多少はマシとはいえ、僕達3人も現実を受け入れられた訳じゃない。今は考える時間が必要だった。これから僕達がどうなるのか、どうするべきなのか。疲れ切った頭で考えてもまともな答えが浮かぶ筈もない。とにかくひと眠りするため、僕達は手近な宿屋を探すのだった。

 




ソウ君、ある程度冷静に話しているように見えますが、内心かなり混乱しています。ユウキとランがミトとの話でほぼ喋らなかったのは、そんなソウの内心を察して心配していたからという側面もあったりなかったり。更に言えば、ソウは茅場晶彦との交流が長かったため、デスゲーム化の衝撃こそあれど、彼を敵視できていません。多分目の前にヒースクリフが現れて正体を暴露したとしても普通にお茶します。


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