ソードアート・オンライン ~より良き未来を目指して~   作:KXkxy

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大変お待たせしました。016と同時投稿になっているので、併せてお楽しみください。但し、016はほのぼのしか感じとはかけ離れた、単体では何の救いも得られないお話となっていますので、そういうのが苦手な方は読み飛ばしていただければと思います。一応、話の本筋に関わる内容ではありますが、今話でチラホラ出てくる『悪夢』の内容を書いているだけなので、「あぁ、相当つらいバッドエンドがあったんだなぁ」ということだけ分かれば今後の話にも問題がないように作っていきます。

016のあとがきにも書きましたが、「このタグ付け忘れてない?」とか「この内容だったらこのタグ無いと駄目じゃない?」といったことがあれば感想等でご指摘いただけるとありがたいです。処女作ということもあって、その辺りの基準がよく分かっていないので。


017

 

 朝。永遠にも思えた悪夢が終わり、目を開く。見える物は眠りに落ちる前と変わらない天井だ。出来ればデスゲーム云々(うんぬん)も夢であって欲しかったけど、そんなに都合よくはいかないか。

 

「クソッ······‼」

 

 拳をベッドに叩きつける。敷かれている布団に拳がめり込み、ボフンという鈍い音を立てるがそれも耳に入らない。頭の中はついさっきまで見ていた『悪夢』で一杯だった。

 

 2人の死を見た。『天野蒼(あまのあおい)』の憤怒(ふんぬ)憎悪(ぞうお)を見た。そして何より······2人の苦しみを嫌というほど見せられた。現実で見てきた『夢』とは比べ物にならない悪夢の数々。それらに共通して言えるのは、例え自身を1000回殺したとしても足りない程の強烈な自己嫌悪だった。

 

「『自分が弱かったばかりに、2人をこんな目に遭わせてしまった』『もっと自分が強ければ、あの敵から2人を守れた』······」

 

 『悪夢』を通して得た、十数人の『天野蒼(あまのあおい)』の後悔。それら全てを胸に刻み込み、ベッドから立ち上がる。

 

「皆の想い、しっかり受け取ったよ。どのくらい出来るかは分からないけど、僕なりにベストを尽くしてみる」

 

 僕以外誰もいない部屋に響く、1人きりの宣誓(せんせい)。それは誰にも届かずに消えたけれど、それでいいんだと思う。僕が『僕たち』に向けた宣誓(せんせい)なのだから、それを聞くのは僕だけで十分だ。

 

「さて······、2人と合流して朝ご飯でも食べよっと」

 

 背伸びを1つして、頭を切り替える。今までなら記憶が風化する前に夢の内容を夢日記帳(この数年間、『夢』の内容をひたすらに記録し続けたノート。現在4冊目)に書きつけるところだけど、生憎(あいにく)とこの世界には無いし、何よりあんな内容、忘れようにも忘れられない。

 

「あんな未来、例え死んでも認めてやるもんか。絶対に生き残って、みんなで笑って帰るんだ」

 

 決意を新たに、部屋の扉に手をかける。より良い未来、みんなが笑って過ごせる未来を目指して、この世界を生き抜くとしよう―――。

 



 

「おはよう、ソウ」

「うん、おはよう藍······じゃなくてラン。ユウキは?」

 

 部屋の扉をノックしてすぐに出てきてくれたランに、ユウキの状態を訊く。アバターが現実世界(リアル)と全く変わらないせいで危うく本名で呼びそうになったけど、周りに人はいないし、直前で気づいたからセーフ······だと思いたい。

 

「ユウももう起きてるよ。······あんまり調子は良くないみたいだけど」

 

 心配そうに言うランだけど、そう言う彼女もあまり顔色が良くなかった。現実世界(リアル)なら取り繕ってしまえるだろうけど、この世界ではそうもいかない。よく眠れなかったのか、はたまた不安に襲われているのかは分からないけど、少なくとも本調子では無いことだけは分かった。

 

「······ご飯食べに行こうかって思ったけど、それどころじゃなさそうだね。入ってもいい?」

「··················うん」

 

 長い沈黙の後、返ってきたのは了承の返事。それに甘えて部屋に入ると、ユウキが毛布を抱きかかえるようにしてベッドの上に座っていた。

 

「あ、ソウ·········。おはよう······」

「おはよ、ユウキ」

 

 僕に気づくと顔を上げて挨拶はしてくれたけど、浮かない表情のままだった。茅場さんの『チュートリアル』から一夜明け、現状を改めて突き付けられて不安に襲われているのかと思ったけど、どうもそれだけではないらしい。もしそうなら、2人はお互いに励まし合って立ち直れる。何よりも、『死』がすぐ隣にいるという状態は、言い方は悪いが2人にとっては慣れ親しんだものでしかない。なにせ物心ついた頃には既にHIVに(おか)され、いつAIDS(エイズ)を発症するか分からない状態だったんだから、今更死が身近になった程度で心が折れる2人ではない。

 

「······何があったの?」

 

 思考を回しながら、訊いてもいいのか悩んだけれど、どれだけ悩んでも僕は2人じゃない。昨夜別れてから何があったのか、それを知らなければ2人を励ます事も出来やしなかった。

 

「······夢を、見たんだ」

 

 ポツリとユウキが言う。その言葉にドキリとしながら、無言で続きを待った。

 

「あの日の、夢······。みんなが、ボク達の事を嫌な目で見てきた、あの日の······ッ!」

 

 そこまでが限界だったのか、その先は声にならない嗚咽(おえつ)になった。視線を移すと、ランも同じような顔をしている。

 

「······ごめん。一緒の部屋にすれば良かった」

 

 2人の言う『あの日』とは、間違いなくクラスメイト······否、『元』クラスメイト達から迫害の視線を受けたあの日の事だろう。現実世界(リアル)ではあの晩以降悪夢に(うな)される様子が無いから大丈夫だと思っていたけど、考えてみればあれから僕が2人と一緒に寝ているし、何より例の『チュートリアル』による衝撃でより鮮明に脳が記憶を辿ってしまったんだと思う。トラウマというのはそう簡単には克服できるものじゃない。昨日は僕にも余裕がなかった、なんて何の言い訳にもならない。どんな理由があろうと、僕が2人を放置してしまった事は変えようのない事実だった。

 

「今晩からは、現実世界(リアル)と同じように3人一緒に寝よっか。みんな一緒なら怖くないでしょ?」

 

 コクリ、と頷く2人。(はた)から見たら美少女2人に同衾(どうきん)を迫る不審者······いや変質者、(ある)いは百合の間に挟まる男という大罪人に見えるかもしれないけど、僕の評判と2人の精神的なケア。どっちを優先するかなんて火を見るよりも明らかだ。

 



 

 およそ1時間後。どうにか不安を払拭した2人と一緒に階段で1階に降りて朝食にする。出てきたのは死ぬほど固い黒パンと、よく分からない味のスープ。もしこれが茅場さんの好みだとしたら、彼と食について分かり合える日は永遠に来ないだろうと思った。

 

「さて、これからの方針だけど······」

 

 味は兎も角として、お腹を満たして仮想の空腹感を紛らわせた後、フロントのNPCにお願いし、改めて今晩の部屋を借りる。今度は3人一緒の部屋だ。1人部屋か2人部屋しか無かったからベッドは2つしかないけど。

 

「大まかな選択肢は3つかな。1、このまま安全地帯に引き籠って、外部からの助けかゲームクリアを待つ。2、街の外に出てお金を稼ぎ、その日暮らしで食い繋ぎながら誰かがゲームをクリアしてくれるのを待つ。3、街を飛び出して最前線に向かい、ゲーム攻略に参加する」

 

 1は完全な引き籠り生活。街の中は『アンチ·クリミナルコード』······要は犯罪行為防止コードで守られており、基本的にHPは減らないし、モンスターが出現したりももちろんしない。安全性が保障される一方で、お金を稼ぐ手段が非常に限られるため、爪の先に火を(とも)すような節約生活を強いられるだろう。

 

 3は言うまでもなく一番危険な選択肢だけど、ある意味では一番安全な選択肢でもある。最前線の強力なモンスターや凶悪なトラップ、そして何よりボスモンスターとの闘いによって命を落とすリスクが高いが、自己強化をしっかりと行う事が出来れば、今朝の『悪夢』で嫌というほど見た人の悪意に対してはリスクを大幅に軽減できる。

 

 2は1と3の間を取った選択だ。1のように貧困生活を強いられる事はなく、3に比べれば命の危険は少ない一方で、格上のプレイヤーからの悪意には弱いし、最前線よりは比較的安全なだけで命の危険がある事には変わりない。加えて、自分よりも弱く、一定以上の『収穫』がある者をターゲットとする犯罪者の標的になりやすいのは大きすぎるリスクだ。

 

 個人的には3を選んでほしい。この世界は強者にも厳しいが、それ以上に弱者に厳しい。仮に強者の庇護下(ひごか)に入ったところで、死ぬ時はアッサリと死んでしまう過酷な世界だ。それを『悪夢』で痛感した身としては、1や2はあまり勧めたくない。けれど2人が怖いと言うのであれば、無理に戦わせるつもりもない。その場合は誰か、影響力の強い人に取り入って庇護下に入れてもらうつもりだ。大規模ギルドの後方支援とか。

 

「······私の意見を言う前に、参考までに聞かせて。ソウはどれがいいと思うの?」

「············」

 

 ランの問いに応じるべきか、少し悩む。ここで僕が答える事で、2人の意見に不純物を混ぜてしまわないかと。けど2人の目を見て、その不安は捨て去った。ランもユウキも、既に迷いのない目をしている。ここで僕が何を言おうとも、迷うことなく自分の意見を言えるだろう。

 

「個人的な意見としては3かな。弱ければ何も守れない。こうして3人で穏やかに過ごす時間も、現実世界(リアル)に帰るっていう目的も、それに······何より大切な、人の命も」

 

 故に、躊躇う事なく本音をぶつける。2人が何を言おうと、僕はこの意志を曲げる気はない。僕に想いを託した『天野蒼(あまのあおい)』の為にも、それぞれの天野蒼と生きた紺野木綿季と紺野藍子の為にも。

 

「そっか。ソウは、戦うんだね」

「うん。喧嘩は嫌いだし、争い事はもっと嫌いだけど······、3人で帰る為なら、何があっても耐えられる」

 

 例え、その為にこの手を血に染める可能性があろうとも。そんな覚悟を悟られないように気を付けながら、2人に改めて問いかける。

 

「それで、2人の意見は?」

「私はソウと同じ。街にいた方が安全なのは分かってるけど、私たち自身が強くならないと内でも外でも安心できないし、何よりユウのお姉ちゃんとして、情けない事はしたくないから」

「ボクも、姉ちゃんに賛成。やられちゃわないよう、慎重にっていう前提だけど、強くなりたいから。トリアのお姉ちゃんとして、姉ちゃんの妹として、それにソウの幼馴染として、ね♪」

 

 こんな状況だというのに、2人とも前を見据えていた。ユウキに至ってはいつも通りの天真爛漫(てんしんらんまん)な笑みまで見せている。

 

「(強いな、2人とも······)」

 

 能力が、ではなく芯が強い。『死』という根源的恐怖ですらも、2人の心を折るには至っていなかった。今朝の『悪夢』の中でもとびきりの悪夢······初めに見たアレ並みの苦難でもなければ、彼女達の芯を曲げる事も折る事もできないだろう。

 

「よし、それじゃあ真面目な話はこれで一旦おしまい!これからどうする?」

 

 視界の隅に表示されている時間は11時過ぎ。ちょっと早めにお昼を食べるのは良いとしても、その後の行動をどうするか。

 

「う~ん······。ソウはどう思うの?」

「僕としては、まずは2人の顔を隠せるフードか何かがあるといいかな~って思ってた。今この世界のプレイヤーはみんな現実と同じ容姿と性別になってる。そんな中に2人みたいな可愛い女の子を無防備に歩かせるなんて、お腹を空かせた肉食獣が入ってる檻の中に小動物を放り込むようなものだよ」

 

 贔屓目(ひいきめ)抜きで見ても、ユウキとランの顔は非常に整っている。最初の『悪夢』のような悲劇を起こさないためにも、不特定多数から顔を隠せる手段はあった方がいい。

 

「って言っても、2人が嫌なんだったらもちろんこの案はナシで、すぐにでもフィールドに出てレベル上げをしようかなって思ってた」

「へ、へぇ~············。か、可愛いって······コホン。そ、それじゃあユウは?どうしたい?」

「ボクはソウの言った通りにしたいかな。ジロジロ見られるの、あんまり好きじゃないし。けど、ボクと姉ちゃんがやるならソウもやってね?せっかく3人一緒なのに、ソウだけ仲間外れにするみたいで嫌だから」

 

 自分から目立つのなら良いんだけどね、と苦笑するユウキ。そういえば、あの事件が起きる前の学校でも、自分から首を突っ込みに行った場合を除いて、ユウキが目立つような事は無かった気がする。

 

「ランはどうする?」

「······ソウの不安も分かるし、私も賛成。けどソウ、お金は大丈夫なの?最初に持ってた額は今持ってる武器に使っちゃったし、その後ちょっと稼げた分で足りる?」

 

 ランの懸念(けねん)はもっともで、正直僕らの(ふところ)事情はそんなに良くない。フードなりローブなりを買うにしても、流石に最安価の回復ポーションを辛うじて2本買える程度の額で3人分を揃えるのは無理があるだろう。

 

「多分足りないと思う。どの道お金を稼ぎにフィールドに出る事になりそうかな」

 

 その前に街の再探索からだけど。お金を稼いで来てみたけど、肝心の顔を隠せるアイテムがどこにも売ってませんでした、なんて笑い話にもならない。

 

 結局、その日は街中を見回って終わった。その甲斐あって、裏通りの雑貨屋さんでフード付きのケープを売っているのを見つけたので、場所と一緒に金額をメモし、本格的な金策は明日から始めることにした。

 




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