ソードアート・オンライン ~より良き未来を目指して~ 作:KXkxy
武蔵出身様、評価ありがとうございます。また、るしあん様、ご意見をいただきありがとうございました。感想欄の返信でもお伝えしましたが、本作品には基本的に『R-18』のタグはつけない方向性でいきたいと思います。
「セイッ!」
「はぁっ!」
〈はじまりの街〉から少しだけ離れた草原に、2人分の気合を込めた声が響く。フードを深くかぶり、
「ソウ、スイッチ行くよ!」
「了解!」
ランの声に応え、右手の
「スイッチ!」
「オッケー!」
ランが持つ槍がライトエフェクトを帯びて青いイノシシ······〈フレイジー·ボア〉に直撃し、両者が硬直した瞬間に前に飛び込み、右手の
「ユウキ、そっちは!?」
「もう終わるよ!これでっ、トドメッ!」
同じモンスター······〈フレンジーボア〉と1人で対峙していたユウキに声をかけるが、そちらも特に問題なく戦っていたらしい。ランと2人で相手していたイノシシがポリゴンに還るのを確認して目を向けた時には、ユウキがトドメを刺し、丁度イノシシがポリゴンとなって砕け散るところだった。
「ふぅ······。段々と戦闘にも慣れてきたね」
「そうだね······。どうするソウ?私としては、そろそろ次の村を拠点にしてもいいと思うけど」
「そうだね~。アルゴさんの情報だと、次の村······〈ホルンカの村〉ではクエスト報酬で片手直剣が貰えるらしいし、ユウキの武器を更新するためにも次の村に行った方がいいかな、とは僕も思ってたんだけど、ユウキはどう?」
「ボクも賛成!もっと色んな景色が見たいし、先に進みたい!」
「ん、了解。それじゃ、一旦街に戻ろっか。次の村を目指すにしても、武器のメンテナンスとかポーションの補充はしっかりやってからじゃないと危ないし」
は~い、という返事を聞きながら、街に向かって歩き出す。今はまだお昼だから、メンテナンスとアイテム補充をしてからすぐに再出発すれば日が暮れる前には次の村に着けるだろう。
あの日······茅場さん曰く『チュートリアル』があった日から、早いものでもう10日が過ぎようとしていた。この10日間、僕らはひたすら『戦闘に慣れる』事に終始していた。〈はじまりの街〉が目に見える程度の距離で、かつあまり人がやって来ないエリアを探し、その近辺で
それに加えて、〈ホルンカの村〉に関する情報は
「ここが〈ホルンカの森〉?思ったよりも明るいんだね」
「森って言うより、ちょっと大きい林、くらいな気がするね。だからって油断はできないけど」
今、僕らの前には森が広がっている。情報通りなら、この森を少し行った所に〈ホルンカの村〉があるらしい。攻略する上では必須ではないらしいんだけど、そこのクエストをクリアすると4層前半程度までは十分に活躍できる片手直剣が手に入るらしく、ユウキの武器を更新するために向かう事になっていた。それがなくても、ここ数日は〈はじまりの街〉周辺でのレベル上げが遅々として進まなくなってきたため、遅かれ早かれ来ていただろうとは思うけど。
「2人とも、この森の情報は覚えてる?」
「もちろん!え~っと、この森に出るのは《リトルネペント》だけで、厄介な状態異常とかを使ってくる敵はいない、んだよね?」
「それと、《リトルネペント》は特に何もない普通のやつに、頭の上に花が咲いてる『花つき』、赤い実がついてる『実つき』がいるんだよね?それで、実に攻撃を当てちゃうか、実を切り離さずにHPをゼロにしちゃうと実が
「そうそう。それに追加するなら、木が多いせいで敵を見落としがちっていうのが注意点。それと、ユウキの武器を更新するには『花つき』が落とす『リトルネペントの胚珠』が必要って話だったね」
森に入る前に、3人で情報を確認する。とはいえ、限界まで〈はじまりの街〉周辺でレベルを上げた現状ではさほど多くの脅威はない。注意すべき点としては、《リトルネペント》の実つき程度か。3人で上手くフォローし合いながら、実つきが現れた瞬間にその実を切り飛ばす事ができればそれも大きな脅威ではないだろう。油断はできないし、しないけど。
「ま、今日のところは村に着くのが目的だから、戦わずに済みそうならなるべく回避して進もっか」
無理して目に付いたモンスターを倒す必要はない。降りかかる火の粉は払うけど、本格的にこの周辺でレベル上げ兼『花つき』を探すのは明日からにするつもりだった。これに関しては既に打ち合わせ済みだし、2人からも反論はない。無言で頷き合い、森に突入した。
「到着だね」
特に問題もなく、日が暮れる頃には僕らは村に到着した。流石に全員疲れているためアイテムの補充や武器のメンテナンスは明日に回し、先に宿を探す。これもアルゴさんからの情報だけど、『INN』の看板が出ていない場所でも部屋を借りる事ができる場所はあるらしく、下層ではヘタな宿屋を借りるくらいならそういう部屋を探して借りた方が遥かに快適なんだとか。そのアドバイスに従って、宿屋は除外して部屋を貸してもらえそうな場所を当たる。なかなか見つからず、この村にはそういう場所はないのかと思ったけど、深夜になってようやく部屋を貸してもらえる場所を見つけた。一晩50コルと、宿屋の30コルに比べてやや高いものの、ベッドは広く、お風呂も貸してもらえた。むしろ50コルは安すぎると思う。
「ふぅ······。お風呂に入ってサッパリしたし、明日の話でもしよっか」
交代で入浴し、部屋で話し合う。お風呂はともかくとして、部屋で明日の予定について話すのはこの10日間ですっかり定着した日常だ。
「明日はとりあえずクエストを受けに行って、それから外で《リトルネペント》を倒そうと思うんだけど、それでいい?」
「ソウと姉ちゃんは武器そのままでいいの?ボクはクエストをクリアしたら新しい武器が貰えるけど、2人はそうじゃないでしょ?」
ユウキの疑問はもっともで、この村では〈はじまりの街〉の物から1ランク上の武器が売られている。けどそれはトラップだ。
「ここで売ってる武器で、今使ってるやつより強いのは耐久値が減りやすいんだって。《リトルネペント》が吐く液で腐食されて壊れやすいから、ここでは武器は買わない方がいいんだってアルゴさんが教えてくれた」
ネペント1体の強さは大したことないから、そのままの装備でも相当長時間にならない限り危険はないヨ、とは彼女の弁。あまりにも『花つき』が出ないようであれば、一度村に戻ってメンテナンスした上で再出発する必要があるだろうけど片手直剣使いの人が
「そうなんだ······。じゃあ、2人はどこで武器を新しくするの?アルゴさんの話だと、店売りの武器でボスに挑むのはあんまりおススメできないって言ってたけど」
「僕の
「私は······この槍かな。ソウのと同じでレアドロップだけど、迷宮区のコボルドがいい槍を落とすみたい。上手く強化できたら3層の途中くらいまでは活躍できるって書いてある」
アルゴさんの攻略本(装備編)を見ながら話し合う。装備の更新順としては、ユウキ→僕→ランって感じかな。2人にはちょっと申し訳ないけど、僕の
「まずはユウの剣だね。ソウ、
「1層のフィールドならどこでも出る可能性はあるみたい。逆に言うと、出やすい場所とかが無いから手に入るかは完全に運次第だね」
この辺りでも出る可能性自体はあるらしいけど、本当に低確率らしい。βテストの1ヵ月で確認されたのが1体だけっていうんだから、その可能性の低さは言うまでもないだろう。迷宮区が近づけば確認数が増える辺り、迷宮区に近づくほど出やすいように設定されているのかもしれない。
「って事は、ユウの新しい武器が手に入ったらもっと先に進んだ方がいいのかな?それで、ソウの武器が手に入ったら迷宮区に行くっていうのはどう?」
「いいと思う。ユウキには僕の武器が手に入るまで苦労かけちゃいそうだけど······」
「ボクは大丈夫だよ!」
という感じで今後の方針が決まったので、明日に備えて早めに休む事にした。他のゲームならいざ知らず、ゲーム内での死が本当の死となったこのゲームでは、集中力の乱れや疲労が一番の敵となる。いざという時に集中が乱れて敵の動きを見落としたり、疲れ切って動けなかったりすると文字通りの命取りになる以上、十分な休息をは必須事項だった。
「よっ······っと。ユウキ、ラン!そっちはどう?」
「えいっ!う~ん······ダメだね。ユウは?」
「セイッ!······ボクもまだ見つけてないよ!」
一夜明けて、翌日。僕達は目的のクエスト······〈森の秘薬〉を受注し、その足で村の外に出て《リトルネペント》を倒し続けていた。出発したのが朝の9時。今はお昼過ぎだから、かれこれ3,4時間は戦い続けていることになる。隙を見つけて小休止はとっているものの、そろそろ一旦村に戻ってお昼ご飯を兼ねた休息をとるべきかもしれないと思いながらも、僕らはなかなか引き返せずにいた。クエストを受けた家の奥から聞こえてきた、コンコンという苦しそうな咳が頻繁に脳裏に蘇り、あと少し、もうちょっとだけという思いが募るからだ。ゲーム内のNPCだという事は頭では理解しているけれど、
「流石に限界、かな。村から結構離れちゃったし、一旦戻ろうか」
かといって、冷静さも失ってはいけない。間違っても死ぬわけにはいかないのは変わりないため、ある程度の余力を残して村まで戻れるギリギリで引き返す。アルゴさん曰く、βテスト時代はおおよそ100体くらい倒せば1つは手に入るくらいの確率だったそうだけど、僕らが今日倒した数はその2倍から3倍だ。運が悪いだけかもしれないけど、ここまでくると低確率とかそんなレベルじゃないと思う。
「あ············」
村まで戻る途中、ユウキが立ち止まる。僕とランも立ち止まり、ユウキの視線の先を追う。
「あ······」
「『花つき』······かな?」
そこにいたのは、これまで散々倒してきた《リトルネペント》とは異なり、頭······と言っていいのかは分からないけど、頭にチューリップのような赤い花を咲かせているネペント。間違いなく『花つき』だ。しかも、その周りに何かがいることもなく、βテストでそこそこあったらしい、『花つき』に気を取られて近くにいる『実つき』の実をうっかり割ってしまい、ゲームオーバーということもなさそうだった。
「武器の耐久値は
本音を言えば即座に斬りかかりたいけど、倒しきる前に武器が壊れてしまうのは危険だ。3人で協力すれば、1人当たりの負担が減り、武器が壊れるリスクも下がる。けど、それはあくまでも僕だけの考えであって、2人の考えは違うかもしれない。だから突っ込む前に確認をとる。
「うん。私は大丈夫だよ」
「ボクも!」
「了解。それじゃ、行きますか!」
3人全員が突っ込む事に賛成し、槍を構えたランを戦闘にして突進する。数値的な素早さで言えば、レベルアップで得たスキルポイントを全て敏捷に振っている僕と、筋力にも振りつつ、敏捷に多めに振っているユウキが上なはずだけど、レベルが低いからか、プレイヤーからは見えないステータスが関わっているのか、僕達3人のスピードは大体同じくらいだった。
「ハァッ!」
気合と共に、ランが
「グギャ······?」
困惑したような声(何で植物が声を出すんだろう?まあ口があるんだから喋ってもおかしくはない、のかな?)を上げながら攻撃を受ける『花つき』。どうやら僕達には全く気づいていなかったようで、モロにランの一撃を喰らっていた。
「ユウ!」
「任せて、姉ちゃん!」
基本スキル故に短いとはいえ、
「ハァァッ!」
「ソウ!」
「オッケー!」
ノックバックが切れるのとほぼ同時に、ユウキが
「これで、トドメッ!」
体勢を立て直される前に、3連撃の"スライス"でトドメを刺す。短剣スキルの熟練度が100になった事で解禁されたこのスキルは、極稀に攻撃した相手にレベル1のダメージ毒を付与するため、仮に威力が足りなくても毒のダメージで削りきれる優秀なスキルだ。もっとも、その分硬直時間も長く設定されているし、
「グォォォ············」
どこか哀し気な声を上げ、HPを全て失った『花つき』がのけ反る。そして不自然な体勢で硬直したかと思えば、無数の欠片となって四散、消滅した。
「ふぅ·········。何度見ても、慣れないなぁ······」
つい数秒前まで動いていた存在が、そのHPを失った途端に消滅する。ここ10日あまりで見慣れた光景ではあったけど、それでもまだ慣れる事はできていなかった。
「ま、感傷に浸っても仕方ない、か。っと·········」
『花つき』が消滅した場所に残されていたのは丸い胚珠。念のためにタップして詳細ウィンドウを呼び出すと、そこには《リトルネペントの胚珠》と記されていた。間違いなく、クエストで指定されていたアイテムだ。
「ソウ、それが?」
「薬の材料、みたいだね。ハイ、ユウキ」
ランの声に答えながら、手に入った胚珠をユウキに渡す。僕とランが持っていても仕方がないし、クエストを受注したのはユウキだからだ。
「ありがと、ソウ!姉ちゃん!」
にぱ、と笑顔を見せるユウキ。半日の間、ほぼぶっ通しでモンスターと戦った疲労も、この笑顔だけで吹き飛んでいくようだった。それはランも同様だったらしく、口元が綻んでいる。
「(後は、無事に村まで帰るだけ、か······)」
目標を達成した以上、フィールドに長居は無用だ。特にこの場所では、わざと『実つき』を攻撃して実を割った上で自分は一目散に逃げる事で簡単にMPK······『モンスター·プレイヤー·キル』ができてしまう。悪意ある人が胚珠、或いはクエスト報酬の剣を狙ってそれをしてこないとも限らないし、そうじゃなくてもこの森は第1層でも有数の危険地帯だ。アルゴさんの攻略本ではこの森と、ここからは大分離れている沼地が要注意地域として挙げられていた。前者は言わずもがな、『実つき』が。後者は武器を叩き落としてくる敵が厄介らしい。
「《索敵》スキル······。取っておいて良かったな」
2人の喜びの邪魔をしないよう、小さな声で呟く。初期状態で取得できるスキルはたったの2つ。その内1つは各種武器スキルがほぼ確定で使うため、実質的に自由にできるスキルスロットは1つだけだった。ユウキとランが何を取っているのかは分からないし、もしかするとまだ何も取っていないのかもしれないけれど、僕はそのスロットに《索敵》スキルを取得していた。読んで字の如く、周囲のモンスターやプレイヤーを発見するスキルで、対になる《隠蔽》スキルを使用していない限り確実に発見できる。現状ではそのスキルに反応は無い。今なら村まで平和に戻れそうだった。
「2人とも、嬉しい気持ちは分かるし僕も嬉しいけど、喜びのダンスは一旦それまでにしよう。村に戻るまでは安全とは言えないからね」
両手を合わせてピョンピョン跳ね回り始めた2人を止めて、再び村に向かって歩き出した。「家に帰るまでが遠足」ならぬ、「無事に報告するまでがクエスト」だからね。
クエストをソロでクリアした片手直剣使いは、言うまでも無く我らがキリトさんです。正確にはコペル氏と途中協力していたので完全なソロとは言えないですが、その前後の描写を見るに完全なソロだったとしても難なくクリアしているであろう点や、彼がアルゴさんにコペル氏の事を伝えていたとしても、アルゴさんが軽々しく口にするかと考えると最初からキリトがソロでクリアした事にしそうだな、と勝手ながら思ったのでそうさせていただきました。コペル氏に関してはソウ達が介入しておらず、原作通りに亡くなっています。