ソードアート・オンライン ~より良き未来を目指して~   作:KXkxy

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大変お待たせ致しました。

仕事しながら二次創作書くのって、思った以上に大変なんですね······。仕事に慣れるまでは本当に亀更新になりそうです。生暖かく見守って頂ければ幸いです。失踪はしません。少なくともある程度の形にはするつもりです。


003

 

 茅場さんの協力を取り付けてから、2年の月日が流れた。この2年間、新しい『夢』は見ていない。これで木綿季と藍子を助けられるかは確証がないけど、手は尽くした。後は天命を待つしかない。

 

「ねぇソウ、これってどうやればいいの?」

「ゴメン木綿季、ちょっとだけ待ってて。この問題だけ片付けちゃうから」

 

 2019年3月末。明日から4年生というタイミングで、僕達3人は春休みの宿題をやっつけていた。3人とも得意科目がバラバラ(木綿季は国語、藍子は社会や理科みたいな暗記科目、僕は算数·数学と英語)だから、勉強は3人でやるのが一番効率が良い。勉強会によくある、「勉強するつもりが気が付いたら遊んでいた」ってことも、藍子が息抜きしすぎないように注意してくれてるから無いし。

 

「これでよし、と······。それで、どの問題?」

「『スズメとウサギが合わせて50羽います。足の数の合計が154本の時、スズメとウサギはそれぞれ何羽でしょう?』って問題」

「あ~······。つるかめ算かぁ。確かに面倒だよね······」

 

 3年生の最後に教わった、『□を使った計算』の応用問題だった。中学生とかなら連立方程式を組んでサクっと解ける問題だけど、それを使わずに解くってなるとちょっと面倒くさいんだよなぁ。

 

「ちょっと長くなるけど、大丈夫?」

「ど、どんとこい!」

「ソウ、私も聞いてていいかな?」

 

 どうやら藍子も同じ問題で詰まってたらしい。······面倒くさいし、連立方程式っぽい感じで教えちゃダメかなぁ。ダメだよなぁ······。

 

「えっとね······。まずは『全部がスズメだった時の足の数』を考えてみて」

「会わせて50羽で、スズメの足は2本だから······2×50で100本ってこと?」

「そうそう。相変わらず計算早いね、藍子は」

 

 ズルしてるみたいで微妙な気持ちになるけど、僕の成績は『夢』の影響で知識が増えてるから上位にいられてるんであって、純粋な計算速度とか読解力は2人の方が遥かに上だ。最初の『天野蒼』は中の上程度の成績でしかなかったから、本来の僕の頭の出来はそのくらいの筈だ。

 

「けどソウ、問題だと足の数は154本ってなってるよ?」

「54本足りない······。あ、その分をウサギで合わせるんだね」

「そうそう。ウサギの足は4本、スズメは2本で、スズメを1羽ウサギに変えれば足が2本増えるんだよ。だから、54本増えるように調整すればいいんだよ」

 

 計算式的には、2×50 = 100 , 154 - 100 = 54 , 54 ÷ 2 = 27 になって、ウサギが27羽、スズメは50-27で23羽になる。

 

「なるほど~!ありがと、ソウ!」

「どういたしまして。計算とか読解とかは2人に負けてるんだから、こういうところくらいはね」

「それで私達もソウも成績が上がってるんだからいいんじゃない?おばさん達もこうやって助け合える関係は大切だって言ってたし」

 

 藍子はそう言ってくれるけど、やっぱり僕の知識はズルして手に入れたようなものだからなぁ。胸を張るべきなのは頑張って知識を貯め込んだ『他の天野蒼』であって、いまこの場にいる僕じゃない。

 

「やっと終わった~!」

「お疲れ様、木綿季。けど珍しいね?木綿季って何だかんだで夏休みとかの宿題は最初に終わらせるタイプなのに、最終日まで残ってるなんて」

 

 木綿季は時間の使い方が上手いのか、僕たち3人の中で一番休み中に遊んでいるのに、宿題を終わらせるのが最速だったりする。本人曰く、「宿題を意識しながら遊ぶのが嫌」らしい。ちなみに藍子は計画を立ててコツコツこなすタイプ。僕はその日の気分次第で進捗が変わるから場合によっては木綿季と同等の速さで終わるけど、遅い時は最終日まで溜めこんでたりする。

 

「アハハ······。このドリルだけ鞄の中に置き忘れちゃって······。昨日見つけた時は焦ったよも~!」

「ユウ、顔真っ青だったもんね。『明日一日で終わらせなきゃ!』って」

 

 クスクスと笑う藍子。手元のドリルは最後のページまで終わっている。僕の宿題もついさっき終わったから、これで3人とも無事に宿題を消化できたわけだ。

 

「時間は······まだ午後2時かぁ。折角だし、ゲームでもやる?」

「今から外に出るにはちょっと遅い時間だし、いいかもしれないけど······ユウは大丈夫?」

「あんまり頭使わなくていいゲームならやりたい!頭の中で数字がグルグルしてるよ~······」

 

 珍しくグッタリしている木綿季。そんな彼女に苦笑しながら、僕と藍子は頭を使わずに楽しめるゲームを物色する事にした。

 

「何が良いんだろう······?とりあえず、ボードゲームとカードゲームは除外だよね」

「普段のユウだったら新しいゲームの方が良いんだろうけど、今はルールの確認とかが無い方が良いだろうし、知ってるゲームで······」

「後は、1人用のゲームは勿論除外っと······。候補としてはこんな感じかな?」

 

 藍子と2人でこの2年間で更に数を増やし、遂に物置部屋からはみ出して僕の部屋のクローゼットを圧迫しているゲーム類を物色する。頭を使いそうなもの、そもそも1人用のものを除外しては、条件に合ったものを木綿季の前に積んでいく。最終的には木綿季に選んでもらおう。

 

「これやりたい!」

 

 ついさっきまで突っ伏していたとは思えないくらい元気よく木綿季が指差したのは、某大乱闘なパーティーゲーム。この3人でやると基本的にガチャプレイvsガチャプレイvsガチャプレイになるけど、頭を使わないで済むという点では今の状況にピッタリだからこの際言わないでおこう。

 

「オッケー。接続手伝ってくれる?」

「はーいっ♪」

「もちろん!」

 

 2人の頼もしい返事を聞きながら、対応するゲーム機を取り出す。去年の誕生日に小さめとはいえモニターを買ってもらったから、この部屋でやるゲームにテレビゲームという選択肢が増えたのは良い事だと思う。こうして3人で遊べるしね。

 



 

「バイバ~イ!また明日ね~!」

「ソウなら大丈夫だと思うけど、寝坊しないでね?朝、起きてなかったらお説教だよっ!」

 

 日が暮れて真っ暗になった頃。ちゃっかり夕飯を一緒に食べた後で、2人は家に帰っていった。木綿季はブンブンと大きく手を振って。藍子はサラリと釘を差してから窓伝いに部屋に帰っていく。最近になって初めて知ったけど、2人の部屋と僕の部屋、窓を開けると真正面だったんだよね。朝起きてカーテン開けたら藍子と目が合った時はビックリしたよ。

 

「僕は大丈夫だから、藍子は木綿季の心配をしてあげなよ。休みボケして遅くまで寝てるかもよ?」

 

 実際は休みの日でも規則正しく生活していることは知っているけど、敢えて冗談めかしてそんなことを返してみる。

 

「ふふっ、そうかもね」

「あ~!ソウも姉ちゃんも酷い!ボクだってちゃんと起きれるよっ!」

 

 頬を膨らませて怒る木綿季。一瞬の間の後、顔を見合わせた僕達の間には自然と笑いがこみ上げてきた。

 

「それじゃ、今度こそまた明日」

 

 ひとしきり笑った後、改めて手を振り合い、窓とカーテンを閉める。暫くの間、窓の向こうからは2人の声が微かに聞こえていた。

 

「·········さて、と」

 

 去年のクリスマスプレゼントに貰ったノートパソコンを立ち上げる。スペックは全然ない、安さだけが取り柄みたいなパソコンではあるけれど、メールくらいはできるから茅場さんとのやり取りに使っている。

 

「『君の要望は可能な限り叶えた。対価は忘れていないだろうね?』って······仕事早いなあの人!?あと1,2年はかかると思ってたんだけど!?」

 

 いや、確かに2年もあったから不可能じゃないだろうけど、自分の研究と就職活動、新生活への適応とか全部やりながらと考えると驚異的な早さにも程がある。あの天才、やっぱり頭おかしい(誉め言葉)

 

 「まあいいや。早ければ早いほど、皆が助かる可能性は高くなるんだし。え~っと、『もちろん覚えています。日取りは茅場さんにお任せしますが、場所に関してはこちらで指定してもよろしいでしょうか』っと。メールのマナーってこんな感じでいいのかな?『夢』じゃその辺り全然だからなぁ······」

 

 研究に熱中していた『僕』はメールのやり取りなんてほぼしてなかったからメールマナーはサッパリなんだよね。っていうかよくメールのやり取り最低限で研究できたなぁ······。

 

「·······まあ茅場さんもメールマナーとかあんまり気にする人じゃないだろうし、大丈夫だとは思うけど」

 

 呟きながらメールを送信する。1分後には了承の旨と、次の日曜日が空いているのでその日に話を聞きたいという内容の返信が届いた。

 

「場所は······あの辺でいいかな」

 

 現在茅場さんが勤めている『アーガス』社か、茅場さんの自宅に近い場所で、と思ったけど、よく考えると彼は既にいい大人で、僕は小学生。僕の家からあまり遠い場所にすると、移動時間が長くなる分話す時間は短くなってしまう。茅場さんには少し申し訳ないけど、自宅の最寄り駅付近の喫茶店を指定することにした。

 



 

「お久しぶりです茅場さん。こんな所まで呼び出すような形になってしまい申し訳ないです」

「いや、気にすることはない。話の時間を多くとろうとするならば、遅くまで出歩く事が不可能な君の家に近い場所になるのは当然だろう」

 

 時は流れ、日曜日。約束の時間は午前10時だというのに、9時半ごろに合流できてしまった。まあ話す時間が30分増えたと考えよう、うん。

 

「さて、と······。どこから話せばいいんでしょうか?」

「可能な限り詳しく······と、言いたいところではあるが、そうすると時間がいくらあっても不足するだろう。こちらから質問する。君はそれに答える形で構わない」

「分かりました」

 

 挨拶や近況報告もそこそこに本題に入る。流石に事細かに全てを語るには時間が足りないので、茅場さんの提案に乗っかり、質問形式で話を進めることになった。

 

「では······まず1つ目に。君が見た『夢』は視覚情報のみか、或いは聴覚、触覚、嗅覚等も存在したかを尋ねたい」

「情報量、ですか。······基本的には視覚情報がメインですね。聴覚情報は概ね問題ないですが、偶にノイズが走ったみたいに聞こえなくなることがあります。触覚情報や嗅覚情報に至っては殆ど感じたことがありません。味覚にかんしては不明ですね。夢の中で何かを口にしたことが無いので」

 

 この辺りは普通の夢と変わらない。視覚情報と聴覚情報ばかりで、触覚·嗅覚情報には乏しかった。

 

「ふむ。では次に······『夢』では君はどのような立場で情景を見ているのか。三人称視点なのか、『その時の君』から見た風景を見ているのか。前者の場合はどこから見ているのか。上から俯瞰しているのか、その場にいる第三者として隣から見ているのか。そういったことを尋ねたい」

 

 ちょっと分かりづらい質問だった。要するに、『夢』の中での僕の立ち位置に関してみたいだ。

 

「基本的には第三者視点ですね。ただ、人の顔とかは朧げで、モザイクがかかったみたいにぼやけて見えます。後、上からの目線で見たことは一度もないですね。『その時の僕』の隣から見ている感じです。ただ、感情だけは流れ込んできますね」

 

 見る度に感じる、身を切り刻まれるような悔しさと無力感は忘れようとしても忘れられない。そもそも毎晩のように味わっているんだから忘れるも忘れないもないけれど。

 

「なるほど······。最近も、『夢』を見続けているのかね?」

「もはや日常の一部になるレベルですよ。ただ、見る内容に関してはこの2年間、全く変わっていませんね。前例がある以上、何らかのきっかけでガラリと変わる可能性は無視できませんが」

 

 あの『夢』を(ただ)の夢ではなく平行世界(パラレルワールド)で実際に起こった事だと感じた途端、見る内容がガラリと変わったことを考えると、何かの拍子に新しい内容の『夢』を見ることだって十分にあり得ると思う。

 

「······なるほど。では次だ。君は······」

 

 その後も根掘り葉掘り、様々なことを訊かれたし、話した。『夢』の内容についてだったり、『天野蒼』の総数の概算だったり。気づけば日も傾き、小学生としては遅い時間に差し掛かっていた。

 

「···っと、もうこんな時間だったか。あまり遅くなると君の親御さんに心配をかけてしまうな」

「······意外ですね。茅場さんはそういうの気にしないと思ってました」

 

 最低限の世間体は維持するだろうけど、自分の目的のためなら常識とか良識なんか投げ飛ばす人だと思ってた。『天野蒼』もそうだったけど。

 

「流石の私も、そこまで人の心を無くしてはいないさ。それに······」

 

 ――君の帰りが遅くなり、外出禁止にでもなって話が出来なくなることの方が困る。

 

 続けられた言葉に苦笑いが浮かぶ。茅場さんはやっぱり茅場さんだった。まあお互いの利益のために利用し合っているような関係だから妥当ではあるんだけど。

 

「それじゃあお言葉に甘えて、今日はこの辺りで。次は······いつにしますか?」

「そうだな······。『ナーヴギア』の開発の方がそろそろ佳境に入る。原案及び設計担当としてはあまり席を外せなくなるな······」

「それじゃあ、開発の方が一段落したらメールをお願いします。具体的な日程に関してはそれからということで」

「そうだな。よろしく頼む」

 

 次にいつ会うかを軽く打ち合わせて解散する。茅場さんはこれからアーガスに行って仕事があるらしい。ナーヴギア···茅場さんが考案したフルダイブ技術の先駆けとなるゲームハード。それがどういうモノなのか、『天野蒼』の記憶には無い。ただ夢として見ていないだけなのか、或いは彼らが興味を持たなかったのかは分からないけど、だからこそ今ここにいる僕は楽しみだった。

 


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