ソードアート・オンライン ~より良き未来を目指して~ 作:KXkxy
最近は筆が乗っていますが、筆が乗らない時は1月かけても1話分すら書けないこともある駄作者ですが、どうか生暖かい目で見守っていただければ幸いです。
その瞬間は、唐突に訪れた。
「おはよう、ソウ」
「おはよー!」
「ん···。おはよ、藍子。木綿季も」
いつも通り、家の前で2人と合流し、連れ立って学校へ向かう。
「木綿季、漢字テストの勉強やった?」
「やったよ~!そう言うソウはちゃんとやってるんだよね?」
「まあね。2時間目だっけ?」
「うん。後は5時間目の算数もテストやるって言ってたような······」
「げ、マジ?」
「姉ちゃんボクそれ聞いてないよ!?」
「ごめんごめん。冗談」
「ほっ······」
「心臓に悪い冗談はやめてよ藍子······」
今日の授業についての話。放課後に何をやるか。そんなことを話しながら歩く。これも、いつも通り。
学校が近づくにつれて、周りに顔見知りが増えていくのも、いつも通り。
「あ、おはよう!」
「············」
クラスメイトを見つけ、元気よく挨拶をする木綿季もいつも通りだった。けど、それに対する反応はいつもとは違い、チラリと視線を向けただけ。まるで見てはいけないモノを見たかのように急いで目線を逸らして足早に離れていく。
いつもなら、声をかけられた方も笑顔で挨拶を返してくれる。特に木綿季はその性格上、あまり物怖じせずに話しかけるから男女問わず人気があるし、彼女に挨拶されて無視するような人は少なくとも同級生にはいない。急いでいたとしても、「おはよう」の一言くらいは返ってくる。
「(······嫌な感じ)」
胸がザワつく。今朝も見た『夢』。今の反応は、まるでその中で見た人影のようではなかったか。心なき声をぶつける人影とは違い、遠巻きに見ている
「············」
校内に入ると嫌な感じが増した気がした。同級生はおろか、教職員からも向けられる嫌な視線。下級生を含む一部からは向けられないのが救いと言えなくも無かったけど、それでも校内の半分近くから向けられる嫌な視線は不愉快だった。
「木綿季、藍子」
声を潜めて話しかける。僕の心配通りのことが起きているなら、教室は最大級の地獄だ。そこに足を踏み入れる前に、2人には伝えておきたい事があった。
「時間がないから今はこれだけ。『何があっても、僕は2人の味方だから』」
「ソウ······?」
2人、特に藍子からの問いかけるような視線から逃れるように歩く。そうして遂に辿り着いた、辿り着いてしまった教室の扉。
「みんな、おはよ······ッ!?」
不安を振り切るように、元気な声を上げながら扉を開けた木綿季の表情が凍り付く。藍子もまた息を吞んだ。僕は······
「············ッ!」
唇を噛み締める。そうしなければ、今この場にいる2人以外の全員をボコボコにしようとしかねなかった。別にそうしたくないわけじゃないし、したいかしたくないかで言えば今すぐにでも実行してやりたい。けど2人の前ではダメだ。何となくそう考え、必死で堪えた。
僕たち3人がそうなった元凶。それはクラスメイトから向けられる冷ややかな視線でもなければ、廊下や通学路で感じた嫌な感じでもない。黒板にでかでかと書かれた多数の文字だった。
『紺野木綿季と紺野藍子はセービョー』
『近づくとビョーキがうつる』
パッと目に着いたのはその2文。その2つは他の物よりも大きく書いてあった。他にも小さな文字でゴチャゴチャと書かれているのか、緑色の筈の黒板はチョークの白で殆ど染まっている。見ているだけで吐き気がこみ上げてくる。どうしてこんなに心ないことが出来るのか。彼女達の事情も知らないクセに。
「······行こ、2人とも」
呆然自失としている2人の背中を抱えて廊下に戻る。このままここにいても良い事なんて起こらない。何も知らない、知ろうともしない奴らの悪意に晒されるだけだと思った。
「先生」
帰路に着く前に保健室に立ち寄る。茅場さんの意見を参考に、事前にある程度の2人の事を相談していたためか、何も訊くことなく僕達の早退(というか欠席)を他の先生方に伝えると言ってくれた。
「ありがとうございます」
「いいえ。むしろごめんなさい。君から多少とはいえ事情は聞いていたのに、私は何も······」
「それこそ気にしないでくださいよ。僕も肝心なところはぼかして説明しましたし、先生は何もしてないんですから」
「······ごめんなさい」
「謝らないでくださいって······。それじゃ、失礼します」
これ以上いると先生にも迷惑がかかる。それに、今は一刻も早く2人を落ち着ける場所へ連れて行きたかったため、早々に退散する。朝のHRが始まる直前に道を歩く生徒はいないため、学校を出れば少しはマシになるはずだった。
「············」
「············」
「············」
場所は変わって、僕の部屋。流石に女子の部屋にズカズカと入るのは気が引けたし、かと言ってこのまま2人と別れるのはダメだという確信があったため2人を連れて帰ってきていた。洗濯物を干していた母さんはこんなに早く帰ってきた僕らを見て驚いていたけど、2人の表情からある程度察してくれたのか、何も訊かずに笑って「おかえり蒼。それといらっしゃい2人とも」といつも通りにしてくれた。
「············」
「············」
「············」
それからずっと一緒にいるものの、僕らの間に会話は一切なかった。それでも僕は2人から離れない。『何があっても味方』という言葉を違えるつもりは無い。それを示すように、膝を抱えて蹲る2人に寄り添い続けた。
何時間そうしていたかは分からない。体感では随分と長く感じたけど、本当はもっと短かったのかもしれない。
「······ね、ソウ」
沈黙を破ったのは木綿季。藍子は声こそ発しなかったものの、下を向くのは止めて顔を上げていた。
「ソウは······、知ってたの?」
何が、とは言わなくても分かった。
「······うん。紺野のおじさんとおばさんの事も、ね」
2人の不安は口に出さずとも分かった。目が不安に満ち満ちていたから。
「なん、で······。いつ、から······?」
「いつからって言うのは、1年生の時、かな。夜中にトイレで起きた時に父さん達の話を聞いちゃって。その時はよく分からなかったけど、ネットとか本で調べて、ね」
調べたというよりは『夢』のおかげだけど、嘘は
「なんでっていうのは······何で知ってるのか、なら今言った通り、かな。何で2人と一緒にいるか、は······逆に、友達と一緒にいるのに理由がいるの?」
「友、達······?ボクも姉ちゃんも、ソウに隠し事してたんだよ······?」
不安を誤魔化しきれない2人を安心させるように笑う。······上手く笑えていればいいんだけど。
「それがどうかした?友達にだって言いたくない事、言えない事はあるでしょ?僕も2人に隠してる事が全くないって言ったら嘘になるし」
僕の言葉を聞いて、2人はやっと微かに笑顔を浮かべてくれた。
「ハァ······。遂に、起きちゃったな······」
夜。ベッドに倒れ込んで独り言ちる。一応、今日起こった事は茅場さんにメールである程度報告してある。茅場さんの手伝いに関しては、2人が落ち着くまでは無理だけど、落ち着いてから状況を見て始めさせてもらうということで一致した。学校にはもう行くつもりは無い。2人が行くっていうなら話は別だけど、個人的には無理して行く必要はないと思う。義務教育程度の内容なら僕でも十分教えられるし。
「結局、『夢』で分かっていても止められない······。僕は何か出来たのかな······」
1人になると色々考えてしまう。未来に起きる事を『夢』として把握していても、ソレが起きること自体は変えられなかった。木綿季と藍子はもうあの学校には行けないだろうし、ヘタをすると情報が共有されてどこの学校にも通わせてもらえないかもしれない。人同士の繋がりというのは有難い事も多いけど、こういう時には厄介だ。
「結局、僕に出来たのは2人の傷をなるべく小さくするだけ······。傷つくこと自体は止められなかった。なら······」
彼女達の最期も変えられないんじゃないか、と僕の中で声がする。誰の声かは考えるまでもない。不安に押しつぶされそうになっている、僕自身の声だ。
「······ん?」
その声を皮切りに、どんどん沈んでいく気持ちを押しとどめてくれたのは、窓からの異音。何かが外から窓を叩いているような音がしていた。
「誰······って、訊くまでもないか」
僕の部屋は2階。塀からの距離的に周りには庭木も植わってないから枝が風で揺れてぶつかったわけでもなく、誰かが叩いているのは明白だった。そしてこんな時間にそんなことをする心当たりは1人しかいない。
「どうしたの?木綿季」
窓を開ける。目の前にいたのは予想通り木綿季だった。隣には藍子も顔を出している。
「エヘヘ······。なんか、眠れなくって」
「それは······無理もないでしょ。あんな事があったんだし」
隣にいただけの僕でさえ、あの視線はかなりキツかった。直接それを向けられていた2人の心労は推して知るべしだろう。
「それで、ソウが良ければ、なんだけど······」
「そっち行っても、いい······?」
遠慮がちに切り出した藍子に続くように声を上げる木綿季。······頻繁に泊っているとはいえ、こんな時間に異性を部屋に上げるのは少し躊躇われるけど、事情が事情だしセーフ、と誰にでもなく言い訳して頷く。
「もちろん。落ちないように気をつけてね」
パアッという音が聞こえてきそうな勢いで顔を輝かせた2人。窓から出入りするのは割と日常ではあるけど、見ている側からすると落ちないかとヒヤヒヤする。わざわざ玄関まで降りて靴を履き替えて、っていうのが面倒なのは理解できるから何も言わないけど。こっちの方が早いのは確かだし。
「(一応、足場になる物はあるんだけど、ね······)」
僕の部屋も2人の部屋も、窓は出窓になっているから窓の間の距離はさほどでもない。その間の橋になりそうな物自体は結構あるんだけど、長さがギリギリで安定性に欠けてたり、長さは十分あるけど強度に不安があったりと安心して使える物は無かった。結果的に飛び越えてくるのが一番安全というよく分からないことになってしまっている。
「ほっ······と」
「よいしょ······と」
無事に飛び越えてきた2人を見て安堵の息を吐き、窓を閉める。もちろん、手を伸ばして2人の部屋の窓を閉めるのも忘れない。2階だから泥棒とかのリスクは少ないけど、開けっ放しで虫でも入るといけないから。風で物が飛ばされるのも困るだろうし。
「ソウの部屋······安心する······」
眠れないと言っていた割に、早くもベッドに入って寝る体勢になっている木綿季。藍子は藍子で、そんな木綿季に苦笑しながらも欠伸をかみ殺している。
「······悪夢でも見た?」
藍子に問いかけると、少しだけ固まった後でコクリと頷く。
「あんな事があった直後で、魘されない方がおかしいから予想はしてたけど、やっぱりか」
「ソウに隠し事は出来ないね······」
「そんなんでもないよ。藍子だけが眠れないって言うなら多分気づけなかったし、こんなに眠そうにしてる2人を見なきゃやっぱり気づけなかったと思う」
僕が気づけたのは、部屋に上がるや否や、安心したようにベッドで横になった木綿季を見たからだ。彼女は基本的に嘘は吐かないし吐けない。そんな彼女が寝られないと言っていたけど、いざ部屋に上げたらあっという間に眠そうな顔を見せた。部屋に上がった途端に眠気が来た、っていう可能性もあるけど、心底安心したと言わんばかりの表情から察するに魘されて飛び起きた、と言われた方がしっくり来ただけだ。
「まあ要するに、木綿季が分かりやすいから気づけたってだけだよ。ま、藍子の様子だけで気づけなかったわけじゃないだろうけど、こんなにすぐ気づくのは無理だったと思う」
「そう······」
ふゎ、と欠伸をする藍子。木綿季は······既にスヤスヤと眠っている。
「さ、もう遅い時間だし、寝よ?ベッド使っていいからさ」
「ソウ、は······?」
「流石に3人だと狭いだろうから、僕は床で寝るよ。ちょっと床は固いけど、座布団を並べれば大丈夫」
いくら成長期がまだで身体が大きくないとはいえ、本来1人用のベッドに3人で寝る、というのはかなり無理がある。寝返りもまともに出来ないくらい密着しないと難しいだろうし、そうなると暑くて寝苦しいかな、と思ったんだけど、藍子は不服そうだ。
「む~······」
「いやそんな顔されてもってうわぁ!?」
グイと引っ張られ、木綿季の隣に倒れ込む。ヘタに暴れると木綿季を起こしてしまうし、そっと離れようにもスルリと隣に入ってきた藍子のせいでそれも叶わない。
「何するのさ!?」
「私達が上がらせてもらってる側なのに、肝心の部屋の主が床で寝ることはないでしょ。それなら私達のどっちかが床に行くべきだけど、ソウは絶対そんなこと許さないし」
「当たり前でしょ!女の子を床で寝かせて自分はベッドで寝るとかクズのやる事だよ!?」
「でしょ?だからこうすればみんな幸せ」
「いやこれ狭いし、藍子も寝づらいんじゃ······」
「大丈夫。ユウと一緒に寝る時は大体こんな感じだし」
木綿季を起こさないように声を潜めて説得しようとするも、藍子の言葉と表情で諦める。これは何を言っても梃子でも動かないって状態だ。
「んぅ······」
加えて、木綿季が僕の右腕を抱えるように抱き着いてきたものだからどう足掻いても脱出は不可能になった。
「ハァ······」
「観念した?」
「まあ、ね······。藍子は譲る気無さそうだし、木綿季がこんなんじゃ、例え藍子を説得できても動けそうにないし」
「うん、よろしい。······本当はね、こうしてくっ付いてないと不安なんだ。朝のソウの言葉も、今日一日ずっと一緒にいてくれたのも、全部私達が作った都合の良い夢なんじゃないかって」
「夢なんかじゃないよ。不安なら何回でも言ってあげる。『何があっても、僕は2人の味方だよ』。それに、父さんと母さんだってそう。何年も何年も、おじさんとおばさんが『そう』だって知った上で、2人の事も知った上で親友やってる2人だよ?」
前に聞いたけど、父さんと母さん、それに紺野のおじさんとおばさんは全員、それこそ小学校の頃からの親友らしい。紺野のおじさんとおばさん、父さんと母さんでカップルとなった時は4人揃って安堵の息を吐いたとか。ドラマなんかでよく見る三角関係にならなくて良かったと笑っていた。
そんな友情は、タカが病気程度でどうこうなるものじゃない。家が隣同士なのも、4人で相談して決めたと言っていた。もしどっちかの家族に何かあったとしても、すぐにフォローできるように、と。
「そう、だね······。ありがと、ソウ······」
「どういたしまして。······もう、大丈夫そう?」
「うん······。おやすみ、ソウ」
「おやすみ」
藍子が寝息を立て始めたのを確認し、自由な左手で電気のリモコンを掴む。電気を消す前に改めて2人の寝顔を確認しても、スヤスヤと幸せそうな寝顔だった。木綿季にいたってはへにゃりと笑顔を浮かべている。どんな夢を見ているのかは分からないけど、あんな笑顔を浮かべられるくらい楽しい夢ならいいなぁと思いながら電気を消した。
ソウは保健室の先生に事情を説明してはいましたが、流石にHIVの事は言及せず、「木綿季と藍子は持病がある。学校、特に小学生は自分たちとは違うモノを排斥しがちだから気に掛けてあげて欲しい(もちろん自分も気に掛けるけど)」という感じの説明をしていました。
また、ソウ自身は『夢』の事を2人に打ち明ける覚悟を固めていますが、1日にあまり詰め込んでもマズイと思っているためまだ言えていません。2人が落ち着いた頃に伝える予定の模様。
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