ソードアート・オンライン ~より良き未来を目指して~   作:KXkxy

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kaito1782様、感想ありがとうございます。


007

 

「ん······」

 

 いつもとは違う圧迫感で目が覚めた。寝ぼけまなこを擦ろうとして、腕を動かすことが出来ないことに気づく。

 

「······なんでさ」

 

 落ち着いて自分の状態を確認すると、右腕は木綿季が、左腕は藍子が抱き着くようにしてガッチリと固定していた。両足も同様に、こちらは足を絡めて固定されているため完全に動けなくなっている。自由に動かせるのは首くらいだ。

 

「時間は······気にしなくていっか」

 

 学校に遅刻するといけないから本来なら気にしなきゃいけないけど、もうあの学校には行く気が無い僕としてはどうでもいい。仮に2人が行くと言い出しても全力で止めるつもりだ。誰が好き好んで酷く傷つくことが分かりきってる場所に行かせようと思うのか。

 

「それに······」

 

 首だけをそっと動かして2人の寝顔を確認する。心配事なんて何も無いと言わんばかりの安らかな寝顔。こんな顔を見せられたら無理矢理起こすなんて出来なかった。

 



 

 その日、僕がベッドから出られるようになったのは9時を少しまわった頃だった。早寝早起きが基本の僕ら(早寝に関しては僕は例外だけど)にしては珍しい寝坊に、7時半頃に様子を見に来た母さんは少し驚いた顔をしていたけど、同時に安心したような表情も浮かべていた。携帯で写メを送っていたのは、きっと紺野のおじさんかおばさん辺りに2人の状況を教えるためなんだろう。······口元がややニヤけてたのが少し気になるけど。

 

「さて······、これからどうするかを相談する前に、僕から2人に話しておきたい事······ううん。話さなきゃいけない事があるんだ」

 

 母さんが温め直してくれた朝食を3人並んで食べた後、僕は2人と向き合っていた。場所は僕の部屋。他の人······父さんや母さん、紺野のおじさん達にもいつかは伝えるつもりだけど、まずは2人()()に伝えたかったから。

 

「昨日、2人は不思議に思わなかった?僕が『未来が見えていたように』保健室の先生に相談してたり、教室に入る前にあんな事を言ったりしたこと」

「それは······まあ」

「教室の時はあんまり思わなかったけど、保健室の方はちょっと不思議かな~。昨日はボク、そんな事考える余裕なかったけど」

 

 やっぱり不思議には思っていたらしい。まあ当然と言えば当然だろう。僕も逆の立場なら不思議に思う。これまでは意識して隠してきたけど、昨日は覚悟を決めたのとそんな場合じゃなかった事から隠すつもりもなく曝け出してたしね。

 

「まあ結論から言っちゃうと、『未来の事が分かっちゃう』んだよ、僕。もちろん全部ってわけじゃないけどね」

 

 目を見開く2人。その目は信じられないと言いたげだったけど、こればっかりは納得してもらうしかない。僕自身、『そういうものだ』としか説明できないし。

 

平行世界(パラレルワールド)って聞いたことあるよね。1年生の時のとある夜から、毎晩そういう世界の夢を見るんだ。その世界を生きた『天野蒼(あまのあおい)』······要は別世界の僕の記憶を、ね」

 

 それから、僕は2人にこれまで隠してきた全てを打ち明けた。『夢』の事、それを通して知った数多(あまた)の未来、そして······2人の最期と、『天野蒼』のその後の人生。

 

「正直、信じられない話だけど······」

「うん······。けど、普通の夢ってワケでもない、んだよね?」

 

 確認するように訊いてくる木綿季に頷く。

 

「普通の夢だと思うにはおかしい事が多すぎたからね」

 

 夢っていうのは記憶の整理作業だ。その性質上、自身が全く知らない事は起きないし、全く知らない場所が出てくることは無い。繋がりが支離滅裂だったりはするけれど、パーツ単位で見れば必ず自分がどこかで見たことがある場所·物しか現れないのが夢だ。

 

「けど、この『夢』は違う。当時まだ小学1年生だった僕に、その辺の大学に余裕で入れるような知識を授けてくれるようなのは絶対に普通の夢じゃないし······」

「未来のソウが作ったっていう、私達を助けるための研究成果、なんて知らない事は出てこない······?」

「藍子の言う通り。まあ研究成果が全くの嘘っぱちだったら全部僕の妄想で終わったんだけど、そうじゃなかったからね」

 

 考え得る限り最も話を聞いてくれそうな、信じてくれそうな人だった茅場さんに相談したこと。彼に研究成果の検証と発表をお願いしたこと。対価として『夢』の内容を教えていたこと。また対応手段を相談していたことや、追加の対価としてプログラマーの端くれとしての協力を約束したことなどなど。思いつく限りの内容を話していく。······我ながら、情報の密度がヤバい。

 

「え、え~っと······」

「つまり、どういうこと······?」

 

 木綿季も藍子も頭から煙を上げていた。2人共頭の回転は速い方なんだけど、こればっかりはしょうがない。こんな内容をいきなりカミングアウトされたら混乱して当然だろう。寧ろアッサリ受け入れられた方がビックリしてたと思う。

 

「まとめると、2人の······というか紺野のおじさん達も含めてまとめて効く特効薬とか、色んな難病の特効薬やら対症療法やらを僕の代わりに検証して発表してもらう代わりに、茅場さんに色々話したりしてたって感じかな。色々と相談にも乗ってもらっちゃってたから、その対価としてこれから別の協力をするって感じ」

 

 ザックリまとめる。いやまとめても相当な情報量にはなるんだけど、さっきよりは多少マシだったらしく、2人の頭から噴き出していた煙が収まった。

 

「「なるほど······って、えええぇぇぇぇ!?」」

 

 なお、ビックリしないとは言っていない模様。まあそうなるよね······。

 

「ちょ、ちょっと待って!?茅場さんって、『あの』茅場晶彦さん!?」

「うん。木綿季が言ってるのがナーヴギアの開発者でフルダイブ技術を確立した大天才の茅場明彦さんだとしたら、その茅場さんで合ってるよ」

「······ボク、ソウが遠く感じてきたよ······」

 

 木綿季がどこか遠い目をしているけど、僕自身は全くすごくないよ?『天野蒼』個人の才能は凡庸だし。研究結果に関しては『夢』による擬似的な記憶の引継ぎを利用して人生何十人分の時間を費やしてやっと完成した物だし、検証や発表は茅場さん頼り。その茅場さんへのコネクションだって、彼が大学生の時に大学に忍び込んだだけ。大学は基本的に誰でも入れる場所だし、今ここにいる『天野蒼』がやった事なんて殆どない。

 

「その『殆ど』で私達が助けてもらえるんだけど······」

「いや、それもあくまで『他の天野蒼』の研究成果だし······」

「それでも!いま私達と一緒にいる『天野蒼』が、ソウが行動して、『あの』茅場晶彦さんに協力してもらったから今があるんでしょ?」

「それはそうだけど······」

「それで十分なの!いくら何かを知ってても、行動しなきゃ何も始まらないんだから、実際に動いたソウは十分すごいんだよ」

 

 藍子はそう言ってくれるけど、やっぱり僕は大したことをしたとは思えなかった。僕がやったことは、他人の研究成果を掠め取ったようなものだという認識がどうしても拭えないからかもしれない。

 

「······まあ、今はその辺りの話は置いといて」

「む~······」

 

 ホラホラ藍子。そんな不満そうな顔しないで。というかそんなに顔を膨らませてもあんまり怖くな······前言撤回やっぱり怖い。こっぴどく叱られる直前みたいな怖さがある。

 

「それで、ここからが本題なんだけど」

「え、今の本題じゃなかったの!?」

 

 木綿季から驚きの声が上がる。藍子も似たような事を考えているのか、ジト目でこっちを見てきた。

 

「いやまあ、今までのも本題っちゃ本題だったんだけど、それとは別で、ね?『これまでの事』じゃなくて『これからの事』について話そうかな~って」

「これから······」

 

 沈んだ顔をする2人。多分僕の顔もあんまり良くはないと思う。昨日の今日で話すのはちょっと酷かもしれないけど、あまり時間を置きすぎるのも良くないと思った。HIVキャリアである彼女達は、何が切っ掛けでAIDSを発症するか分からない。そのため、昨日の一件で負ったであろう精神面でのダメージを一刻も早く癒すために、今このタイミングで話すことにした。

 

「単刀直入に訊くけど、2人とも、これから学校に行くつもりはある?」

「ッ!············ううん」

「ボクも······ちょっと怖い、かな······」

 

 2人揃って首を横に振る。その表情からはいつもの明るさは全く窺えず、昨日の一件で彼女達が負った傷の深さを改めて痛感した。

 

「ま、そうだよね······。僕ももう行くつもりになれないし。それで、1つ相談があるんだけど······」

 

 2人に茅場さんからお願いされている依頼について話す。僕が彼の著書を理解できている事を知った茅場さんから、プログラマーとして協力をお願いされている事。テスターとして2人分の枠を確保してくれているらしい事。あくまでも2人の自由意思だけど、テスターとして協力する事は気晴らしになるんじゃないかと思っている事を話した。

 

「えっと······、話がいきなり過ぎてちょっと置いてけぼりになってるんだけど······」

「ボクも······」

「まあ、取り敢えず学校に行かなくてもいいような考えがあるって事。近いうちに茅場さんと会って正式に返事をするつもりだから、その時に一緒に話を聞いてから決める、でもいいと思うし」

 

 守秘義務とか色々あるだろうけど、2人なら不用意に誰かに言ってしまうことも無いだろう。木綿季は誰とでも話せるコミュ力があるけど、話しちゃいけないことはちゃんと秘密に出来る子だし、藍子もそう。僕は······そもそも2人以外に友達いないから問題ないかな!うん、ちょっとだけ泣けてきた。

 

「それじゃ、これからの話はこの辺にして······今日は思いっきり遊ぼうか!」

 

 細かいことを考えるのは後でもいい。特に、今の2人にとってはこれからの事なんて不安だらけだろうし、考え込んで不安を抱え込むよりは思いっきり遊んだ方が良いだろう。少なからず溜まってるであろうストレス解消にもなるし。

 

 この日から数日の間、僕らは馬鹿みたいに遊び倒した。紺野家には有形無形の心ない嫌がらせが続いているせいでおじさんとおばさんも含めて紺野家全員を天野家に招いている事もあり、朝起きてご飯を食べたら遊び、お昼になったらご飯を食べて遊び、夕飯とお風呂を済ませたら眠くなるまで遊んだ。その甲斐あってか、2人の様子はあの一件が起こる前のそれに戻りつつある。

 

 そんな日々の中、2人は僕の······というか茅場さんの提案についても考えていたらしい。昨日の晩にテスターになりたいと伝えてきた。その旨はこれまでの事を含めて茅場さんに連絡済み。後は向こうの返信待ちだ。

 

「ソウ~」

「······今日も?」

「うん······。ダメ、かな?」

「いや全然OKだけど······」

 

 あの後、2人から一緒に寝るよう頼まれるようになった。まだ例の事件から日が経ってないし、特に夜は不安になるんだろうと思うと拒否もできず(それが無くても拒否できない気はするけど)、毎晩一緒に寝ている。母さんや紺野のおばさんからニヤついた視線が偶に飛んでくるけど、ただ一緒に寝てるだけだよ?これまでも泊まりで遊ぶ時は同じ部屋で寝てたからその延長線上みたいなものだと思うんだけど······。

 




紺野姉妹と添い寝したい人生だった············
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