ソードアート・オンライン ~より良き未来を目指して~ 作:KXkxy
「『依頼を受けてくれて感謝するよ。早速君の幼馴染や保護者の方との顔合わせを行いたいのだが、こちらとしても中々手が放せない。来月以降で都合の良い日を連絡して欲しい。それに合わせて私も有休を取得する』か······。僕達子供組は兎も角、大人も交えてならそりゃいきなりこの日で、とはいかないよね」
一応、紺野のおじさんとおばさんは現状ではヘタに外を歩けない状態にあるからこの際置いておくとして、問題は父さんと母さんか。父さんは普通に会社員だし、母さんも近所のスーパーでのパートがある。まあ母さんの方はおばさん方の噂話で紺野家が悪しざまに言われてて不愉快に思ってるらしいから、休む口実になって丁度いいとか言いそうだけど。
「その辺も含めて相談、かな······。『夢』の事も話さなきゃいけないし」
けど、やっぱり『夢』の事を話すのはちょっとだけ怖い。木綿季と藍子には受け入れてもらえたけど、ある意味であの夜までの『天野蒼』が上書きされちゃったとも言えるわけだし······。いや、意識の核となっている『僕』は地続きだと思ってるんだけど、記憶の割合で言うと僕自身の記憶はごく一部でしか無くなってるし、記憶によって作られる価値観はあの日までの『僕』とは違うと思う。それを知ってなお、僕は2人の息子として受け入れてもらえるのか······。
「ええい、考えててもしょうがない!男なら当たって砕けろ!」
いや砕けちゃダメだろうと自分でツッコみながら階下に降りる。丁度夕飯時だし、父さんも残業があるとかは言ってなかったから全員揃ってる筈。善は急げとも言うし、夕飯後にでも言ってしまおう。
説明は拍子抜けするほどアッサリと受け入れられた。紺野のおじさんとおばさんは驚いていたけど、「僕達の事を全て知っていたのに、避けずにいてくれて本当にありがとう。これからも2人の事をよろしく」と言われたし、父さんと母さんは何となく察してたらしい。「息子の様子が変わったのに気づかない親はいないわよ」とは母さんの言。父さんもうんうんと頷いていた。正直ちょっと泣きそうになったよ。
「それで、これからの事なんだけど······」
あくまでも僕の事情は前座。本題は今後の、茅場さんの手伝いの件だ。茅場さんからも改めて話があるだろうけど、事前に話しておかないとビックリさせちゃうだろうし、そもそも全ての引き金になったのは僕なんだから、僕から説明するのが筋というものだろう。多分。
「······何というか、いつの間にか凄い人と知り合いになっていたんだな、
「そうね······。けど、悪い人ではないんでしょう?」
「いや、どうなんだろう······?基本的には悪い人じゃないと思うんだけど、自分の目的のためなら倫理観とか道徳とか、そういうのを全部放り投げられる人だから······。ある意味、『大きな子供』なのかも」
母さんの質問には曖昧な答えしか返せない。茅場さん個人は悪党というわけじゃないのは確かだ。そんな人だったら、そもそも僕の頼みなんて聞いてくれなかっただろうし。けど、もろ手を上げて信用していい人かと言われるとそれも違う気がする。あの人は自分の目的のためなら幾らでも自分を偽れるし、勝ち取った信用や社会的立場の一切を躊躇いなく捨て去れる人だというのが、ここ数年間付き合ってきた中で僕が得た印象だった。
「けど、今回の件に関しては信じていいと思うよ。2人にとっても、悪い話じゃないだろうし」
家にいるとどうしても学校の事を考えてしまう。夜は父さん達もいて賑やかになるからまだマシだけど、日中は偶に暗い雰囲気になる。茅場さんの手伝いは良い刺激になるだろうし、もしかすると仮想世界が2人が負ってしまった傷を癒してくれるかもしれない。
「······それを聞いて、ダメとは言えないなぁ」
「最初からダメって言う気無かったでしょう、あなた。勿論、木綿季と藍子がやりたいなら、だけど······」
「大丈夫!ボクも姉ちゃんも、ちゃんと考えて決めたから!」
「ユウの言う通り、ちゃんと自分で考えて、受けるって決めたの。だからお願いします!」
3人揃って大人に頭を下げる。永遠とも思える時間の後······。
「顔を上げなさい、3人とも」
父さんの声に従い、恐る恐る顔を上げる。父さんも母さんも、紺野のおじさんもおばさんも、みな一様に笑顔を浮かべていた。
「ちゃんと自分で考えて決めたのなら、私達は止めないわ。けど1つだけ」
「蒼も、木綿季ちゃんと藍子ちゃんも、名目上は『お手伝い』とはいえ、『仕事』として引き受けた。それは分かっているね?」
父さんの問いに頷く。その事は茅場さんから頼まれた時に分かっていたし、木綿季と藍子にもその辺りはしっかり伝えていた。
「つまり、貴方たちは『お仕事』をしに行くの。失敗も成功も、自分たちがやった事にはしっかり責任を持つようにね」
「それさえ分かっているなら、僕たちから言う事は何も無いよ。しっかりやっておいで」
紺野のおばさんとおじさんも、釘を差しつつもほんわかした笑顔で許可を出してくれた。後は改めて茅場さんと会う日程を決めるだけだ。
「う~ん······。茅場さんと会う日程か。本当に私達の都合の良い日で大丈夫なんだね?」
「うん。あの人は隠し事はしても嘘は絶対につかないタイプの人だし、こっちの都合に合わせてくれるって言ってくれてる以上、それで大丈夫なんだと思う」
そう伝えると、4人は顔を見合わせ、話し合いの態勢になった。父さんが視線で退出を促してくるので、2人を連れてリビングを出る。
「後は大人組の仕事、って事か······」
独り言ちる。『夢』の記憶のおかげで大人並みの思考能力を持っている僕を、それでも子供として扱ってくれた事への感謝を覚えながら、2人を連れて階段を上った。寝る時間まではまだ少し時間があるし、ゲームでもしてリラックスしてから休むことにしよう。
面会は7月10日ということでまとまったらしい。父さんの仕事がかなりギッチリ詰まっていたらしく、6月中に時間を取る事は出来なかったとか。
「この度はお時間を頂きありがとうございます。早速ですが、天野君達にお願いしたい内容の詳細についてお話ししたいのですが、よろしいでしょうか?」
「ええ、よろしくお願いいたします。あ、こちら、粗茶ですが」
「ありがたく頂戴いたします。では説明の方へ······」
そしてその当日。家に来た茅場さんは自己紹介もそこそこに、早速本題を話していた。僕達子供組も当事者ということで同席はしているけど、今日の話は基本的に大人同士のものだから大人しくしている。契約関連とか、大人じゃないとできないしね。後は僕達の安全性の説明。これは僕らとしても重要だけど、親からすれば更に重要事項だ。信じて送り出した息子·娘が事故や過失で還らぬ人に、なんてシャレにならない。
「······つきましては、彼らにはご自宅で作業を行っていただきたいと、こちらとしては考えております。天野君からお聞きしたのですが、現状では彼女達は学校や近隣住民にあまり快く思われていない様子。外へ出る事で彼女達にかかる精神的負担や、社内への出入りを報道関係者に見つかる事で無用な面倒事に巻き込まれるリスクを考慮すると、ご自宅から手伝っていただくのが最良と考えられます」
「よろしければ、具体的な案をお聞かせ願えますか?私どもはゲーム制作に関しては門外漢なのですが、自宅からでも可能なのでしょうか?」
「天野君に依頼するのは主にプログラミング、紺野さん達には実際に想定通りの挙動が確認できるかのテストをお願いしたいと考えています。こちらで用意しているプロトタイプ·ナーヴギアを用いて専用の仮想空間にアクセスし、そこで全ての作業を行えるようにしているため、アクセスに必要なインターネット回線さえあればご自宅から作業が行えます」
「そのプロトタイプ·ナーヴギアの安全性は?一応私もナーヴギアの存在は知っていますが、脳に直接接続する事による健康被害等のリスクはあるのでしょうか?」
「プロトタイプとは言っても、安全性という点では市販する予定の製品版を上回っています。通常出力が低下してスペックがやや低くなっていますが、安全性、という点では申し分なく、物理的·電磁的なリミッターを複数設けていますし、万が一にも装着者に害が及ぶことは無いと断言します」
「では、その仮想空間におけるセキュリティは?ウィルス等によってうちの息子や藍子ちゃん、木綿季ちゃんの個人情報が流出する可能性はないのでしょうか?」
「結論から言わせていただくと、ほぼ皆無です。もちろん、私が構築したセキュリティウォールを突破されれば情報を引き抜かれる可能性はありますが······」
「いや、茅場さんが作ったセキュリティを超えられる人って世界中探しても片手で数えられるくらいいるかどうかってレベルじゃ······」
つい口をはさんでしまった。だって完全な仮想世界を生み出すような
「まあ、否定はしないが······可能性は常に検討するべきだろう?
「それは同感ですけど、情報を抜かれて困るのはそちらも······というか、損害とかを考えるとそちらの方が困るでしょう?社外秘の情報とかを守るためにも全力で構築したでしょうし、貴方の全力に拮抗できる人が何人いると思ってるんですか、この天才」
「フフッ······。そうでもないさ。私が所属していた重村ラボの人間であればある程度は破れるだろう」
「逆を言えば、あの天才
予想以上に全力だった。この人やっぱりヤバい。
「
「あ、ごめんなさい。話の腰折っちゃってたね。すみません茅場さん」
「いや、構わないさ。君の視点からの話でセキュリティ面の信頼性も上がっただろうからね。では続いてのお話ですが······」
大人達······主に父さんと紺野のおじさん、茅場さんの話は続く。何か途中から茅場さんが創りたい世界に関する話になっていたような気もするけど、話が弾んで打ち解けるのは悪い事じゃないだろう。
「······っと、少々話が脱線してしまいましたね」
「······ああ、これは失敬。どうもこの話になると自制ができず······」
「いえいえ。ご自身のやりたい事、好きな事に対する姿勢としてはご立派だと思いますよ。蒼もそういう節はありますし」
「ほう、それは興味深い。よろしければ少々お聞かせ願えますか?」
「それはまた後程、子供達がいない所で話しましょう。まずは本題の方を優先しなくては」
ちょっと待って。今サラッと聞き捨てならない事が聞こえた気がする。
「ちょっと父さん?一体何について話すつもりさ!?」
「お前に言うと何が何でも止めようとするだろう?だからここでは言わない」
「くッ······否定できない······」
流石は父親と言うべきか、僕の性格をよく分かっている。何を言われるのか戦々恐々だけど、まあ茅場さんなら言いふらしたりしないだろうからまだマシだけどさ。
その後の話し合いで纏まった内容はこんな感じになった。
1.手伝うにあたって、安全性を重視したプロトタイプ·ナーヴギアが3人分貸与される。
2.プロトタイプ·ナーヴギアは後日郵送される。作業は全てダイブする仮想空間で行うため、僕らが外出する必要は一切ない。
3.基本的には僕は茅場さんからの依頼に沿った開発、木綿季と藍子はテスターを担当する。また、状況に応じて僕もテスターとして働く事もある。
4.報酬は現金以外で。現金報酬だと雇用契約を結ぶ必要があるため。
それほど変わった話でもなく(小学生が手伝いとはいえ働く事自体が変わっていると言われると返す言葉もないけど)、特に揉めるようなことも無く、話が逸れる事さえなければスムーズに進んだ。帰り際に父さんと茅場さんが連絡先を交換していたけど、これは子供を預かる事への責任故だろう。そうであって欲しい。