部活動、そして先輩候補生
「……………」
学園祭が終わり、数日が経過したある日。ほんの少しだけ他人に心を許すことが出来た蒼青龍夜は、滅多に見せないほど険しい顔をしていた。しかめっ面、というにはあまりにも不機嫌そうに見えてくる。
そんな様子に困り度を隠せずにいるオロオロとしている山田真耶先生。明らかな感情を押し殺せず、浮かび上がる表情の女教師は心配そうに机に向き合う青年に声をかけた。
「あ、あの………蒼青君?大丈夫ですか………?」
「…………すみません、山田先生。やはり、考える時間が必要みたいです」
「………まだ!まだ時間ありますからね!」
普段強気である教え子の弱音を聞いたからか、ホッとしたように宥める山田先生。情けないと龍夜は後悔を過ぎらせる。こんなことに頭を悩ませ、他人に苦労をかけてしまうとは。
目を細めた龍夜は、先程から自分を悩ませる全ての元凶である────一枚の紙を睨む。
「先生も相談に乗りますから、ちゃんと決めましょうね?部活動!」
決められるのなら、当に決めている。そう言いたい衝動を呑み込み、龍夜は天井を見上げるしか無かった。天才と自負していた己の、完膚無きまでの敗北を自覚した上で。
◇◆◇
「………え?龍夜、まだ部活動決まってなかったのか?」
「…………恥ずかしい話だが、その通りだ。今回、お前達を呼んだのは、その事について相談したかった」
放課後、学園外のカラオケルームを貸し切った龍夜は事前に連絡して時間を開けてもらった一夏達に自身の事情を語った。当然、ドリンクやスイーツなども全部龍夜負担の上で。
IS学園に入学して以来、いや学校としては絶対に欠かせない要素の一つ────部活動。この場にいる一夏達ですら部活動に加入している状態であり、ただ一人龍夜だけが部活動に所属できない状況が続いていた。
「あれ、龍夜って生徒会じゃなかったっけ?一夏と一緒で」
「そうだ、確かにそうだ。一夏だけが生徒会に所属という話になっていて、可笑しいとは思っていたが…………どういうことだ?」
話を聞いてた途中で、シャルロットとラウラが疑問を呈した。龍夜は一夏と共に学園祭で優勝した部活動に所属させる、という話になっていたはずだ。だが、学園祭が終了して一位になった生徒会に加入させられたのは、一夏のみ。龍夜だけが何故か対象外になっていることに疑問を持っていると、
「────それに関しては、私が教えて上げるわ」
ふと声が響くと、一夏が知っている声に反応し、龍夜の顔から感情が消え去った。二人の視線の先で、扇子を広げた水色の髪の生徒会長 更識楯無が笑みを浮かべ、ウィンクを飛ばす。
「ハーイ♪皆のおねーさんの楯無おねーさんよ♪会いたかった?龍夜くん♪」
「────皆、邪魔したな。用事を思い出したから先に帰る、残り時間楽しんでくれ」
虚無の顔のまま席を立った龍夜を、一夏やラウラが取り抑える。割と本気で抗おうとする龍夜だが、同じ男である一夏や現役軍人のラウラには太刀打ち出来ない────さらに彼等を傷付けてしまうことを恐れ、無闇に本気を出せない。
何より、当の出入口の扉は楯無によって塞がされている。この閉鎖空間で彼女に勝つことは難しいと理解していた龍夜には、素直に諦める以外の選択肢はなかった。
「そんなに嫌がらなくても良いじゃない。さっきまで楽しそうだったのに」
「………気分は最悪だ。誰かさんのせいでな」
「それより、楯無さん。さっきの話はどういう意味ですか?」
「ほら、龍夜くんって生徒会にそこまで興味なさそうでしょ?それに、無理に加入させると本気で抵抗しそうだし」
「当たり前だ。ただでさえこっちはプライベートすら侵されてるんだ。部活動ですらお前と一緒だとしたら、俺はストレスで体調崩すわっ!」
「もう、素直じゃないんだから。まぁ、それも理由の一つってだけ。もう一つは二人とも生徒会に入れたら、不満が爆発するから、仕方なかったのよ」
事実だ! と不満を顕にして、吐き捨てる龍夜。
一夏達に対して仲間意識を確かに持つ龍夜であるが、その反面楯無に対しては露骨に反抗している。最初は過去に触れられたこともあって毛嫌いしている、と思っていたが、どうやら本心で嫌いという訳ではないらしい。
────憧れぬよう、最強の座に位置する相手として変えるために、敢えて挑むような態度で向き合っているらしい。そのことを理解してか、楯無も悪くないという様子である。まぁ、何度も揶揄われている怒りがあるのも事実だろうが。
「それより、お前等は部活動決まっているんだろう?何処に入った?」
「私は、最初から剣道部だ。一応、だが」
そういえば、と龍夜は確かに彼女は剣道部に所属していた事実を思い出す。────同時に、部活動に専念している様子がなかったことも。俗に言う幽霊部員だろう。
だがつい最近になって部活動に積極的になってきたらしい。世間話をしていた時、一夏が学園祭で起きたことを語った。占いをしてくれた剣道部部長から詰められたこと、そして彼女の師である長門からも注意を受けたらしい。確か長門は剣道部の顧問という立ち位置であったから、それが理由だろう。
「じゃあ、鈴はどうなんだ?」
「わ、私はラクロス部よ!」
「へぇ、ラクロスか!似合いそうだな!」
主に棒を振り回すところが、という本音を一夏は呑み込んだ。
そんな友人もとい鈍感な唐変木の様子を察した龍夜は冷めた目で一夏を見据えていた。当然、褒められたことで気分を良くしたセカンド幼馴染はそれに気付くことはない。
「剣道部やラクロス、色々あるみたいだけど………龍夜、こういう運動する部活動はどうだ?」
「体を動かす部活動か………正直、乗り気はしないな。長続きする自身がない」
────体力が不足しているという意味ではない。肉体的に優れている以上、どんなスポーツも長期間続けられないというのだ。短期間で、全てをマスターしてしまうからこそ。
端的に告げた龍夜の真意に気付いたのは、実際に組手をしてみせた楯無ぐらいだろう。あとは、一番生身での戦闘力の高いラウラか。龍夜の言葉を文字通りの意味で受け取ったであろう一同はふむ、と考え直す。
────ただ一人、テニス部であることを自慢すると同時に龍夜を誘おうと秘めていたセシリアが灰になる。そんな友達の様子に鈴が慰めている中、一夏がふと考えを出した。
「そうか、じゃあ文化部で選ぶしかないか。………シャルは何部に入ったんだ?」
「あ、僕は…………その………料理部」
「料理部!おお、学園祭の時に回ったよな!それに文化部だし!これなら────」
「────無理だな」
いける、と言おうとした一夏の言葉を遮り、龍夜は断言した。有無を言わさぬ程自信満々に告げた態度に、一夏が「お前な……」と呆れる。だが、龍夜は顔を動かずに溜め息を吐いた。
「忘れたか?大体のことは何でも出来る俺だが、一つだけ不可能なことがあることを」
「………………あ」
そう、そうなのだ。
篠ノ之束に追随するほどの天才である蒼青龍夜だが、致命的なまでに料理の才が欠落している。そのレベルは手を付ければキッチンが暴発を起こしてしまう程。何かを作り出せるという点で言えば、セシリアの方が上手なまである。
「その話は充分だろう…………ラウラ、お前はどの部だ?」
「んん、私は茶道部だ」
「茶道部、か。少し意外…………ああ、そういうことか。まぁお前ならば、そこを選ぶのも当然か」
「?何一人で納得してるんだ?」
パスタを食べ終えたラウラの端的な一言に、感心したように目を細める龍夜。明らかに何かを知ったような口調の彼に、一夏は困惑しながら問い掛ける。すると、龍夜は一夏ですら知らないような事実を口にした。
「知らないのか?茶道部の顧問、織斑先生だぞ」
「えっ、千冬姉が!?………あ、そういや。前に茶道部で大騒ぎがあったって聞いたけど、それが理由かぁ。けど、あの千冬姉が茶道部か、てっきり運動部かと思ったな」
「…………それ以上は止めておけ。あの地獄耳だ、下手な事を言えばまた頭を叩き割られるぞ」
そういうことが、出席簿を振り下ろされる原因だと知っているのだろうか。そもそもこの場が貸し切りのカラオケであることに気付いた二人は、互いに安堵の息を漏らす。
尚、二人は知らない。その場ではない職員室で、悪口を言われた気がしたらしい千冬が静かに茶を啜っていることを。対面していた長門や山田先生が怯えていたことも。
「………しかし、茶道部か。やっぱり俺には合わなさそうだな」
「まぁそうよね。アンタって、風情とか無縁そうだし。静かに茶を点てるとか、また爆発させて終わるんじゃないの?」
「………慎ましい奴に言われたくない」
「は?ナニソレ、慎ましいって何処のコト言ってんの?」
「何処と言ったら……………まぁ、な」
「────明日の戦闘訓練、覚悟しなさい。アンタの連勝、あたしが終わらせてあげるから」
「聞き覚えのある言葉だな。どうせ俺の黒星には変わりないさ」
売り言葉に買い言葉、火花を散らし合う鈴と龍夜。二人の相性は悪いわけではない。感情的で思ったことを実直に口走る鈴に対し、意外と負けず嫌いでプライドの高い龍夜。この二人は度々衝突することが多い、実力的に上である龍夜に同じく負けず嫌いの鈴が噛みついているという構図だが。
昔の龍夜であれば、そんな非効率的なことは望まなかっただろう。だが、今の彼は違う。他人と関わり合いに積極的になり始めた彼は、良くも悪くも誰かとの交流に正面から向き合っているのだ。
「………話はまた一から戻ってしまったな。なら、他の部活はどうだ?」
「まず、龍夜の好きなことから選んだら?部活に入るって言っても、やりたいことじゃなきゃ長続きしないでしょ?」
「アンタもラクロスに来なさい!それならボコせる!」
「鈴さん、少し落ち着いてません?」
箒とシャルロットの言い分には納得するものもある。それもそうか、と頷いた龍夜は先程のことを思い出しそう唸る鈴とそれを抑えるセシリアを尻目に、自分の得意なことを口に出した。
「俺の得意、と言えば開発だな。それ関連の部活と言えば────あそこか」
ふと、考えた龍夜は一つの答えを見出した。無関心であった時の自分が記憶の片隅にとどめていた、ある部活の存在を。
◇◆◇
「………ここか」
翌日の放課後、龍夜が向かったのは複数ある整備室の一つ、第三整備室。本来生徒が使用する整備室は第一と第二、二つのみ。この三つ目の整備室はとある部活だけが使用を許された特別なエリア、ということになる。
そして、その整備室に立ち入った瞬間。
ドガーンッ!!、と目の前に爆発が広がった。同時に「おわーッ!?」という悲鳴に続き吹き飛ぶ人影。聞いてた通りの内容に肩を竦めた龍夜の目の前で、起き上がった人影が騒ぎ始めた。
「────失敗したな!なァにが新兵器の完成だ!折角造ったモノを鉄屑にして、成果になるかアホが!」
「失敗………?違うな、間違っているぞ!先生!これも一種の成功!今爆発した『42号ちゃん』は新たに生まれる『43号ちゃん』の為に犠牲なったのさ!」
「その43号にもまた詰め込む気か!?物事は結果が全てだ!せめて使い物になるものを完成と呼べ!大馬鹿め!」
(……………帰ろうかな)
目の前で喧嘩────というより、ジェントルのような男性が女子生徒に噛みついてる構図に見える。当の女子生徒は男性の説教を真に受けているようにも見えず、何なら聞き流しているようにも見える。
面倒くさそうだな、と帰りたい気持ちになった龍夜が背を向けようとした直後、同じく吹き飛ばされたであろう作業着の女子生徒が声をあげた。
「あーっ!もしかして、入部希望の人じゃない!?」
「っ!何!出来した!取り押さえるんだ!痛っ!?」
「取り押さえるな!馬鹿!せめて囲め!」
女子生徒が頭から被ったヘルメットを引っ叩いた男性教師の言葉に応じた女子生徒達が一斉に龍夜の元へと駆け寄り出す。その勢いに逃げ出そうとしたのも束の間、出口はシェルターらしきもので塞がれた。
「ハーッハッハッ!逃げ出そうなんぞ無駄無駄!ここら一帯は私達の領域!改造され尽くしたこの整備室から逃れる者はいない、脱出不可能の要塞なのだ!」
「自信満々に学校の設備を改造したことを自慢するな!理事長が容認してるから良いが………!」
「まぁまぁ、良いじゃないか先生────それで?君がここに来たということは、私達の部活に入りたい。ということで良いのかな、蒼青龍夜君」
「………まぁ、俺の事は知っているか」
その事に関して、一々驚く必要もない。学園の人間であれば、自分のことを調べているのも当然だ。腰に手を当てた龍夜は淡々と告げた。
「ああ、そうだ。あんた達の部活────『工務部』への加入したい。書類の必要は?」
「不要だとも。加入だというのであれば、それだけで構わない。来る者拒まず、それこそが『工務部』の理念だからさ!」
「そんな訳あるか。書類仕事を全部俺に押し付けるな………それで?入部届は?」
くたびれたように溜め息を漏らす男子教師に持参していた入部届を提出する龍夜。それを受け取った教師を尻目に、龍夜はこの部活『工務部』についての情報を思い出す。
分類としては、ISを主体とした整備課と類似した部活動。だが、ISのメカニックに関する整備課とは違い、『工務部』はISを含めたIS学園のシステムや整備、無人防衛兵器などの開発、調整を任されている。
ある意味では言えば、IS学園の防衛の要の一つ。兵器開発局、という二つ名を持つこの部活動は他の部活とは一線を引いた存在であるのだ。
入部届を確認して問題ないことを確かめた教師が「よし、これでいいな」と回収した所で、先程の女子生徒が口を開く。
「よし、新入部員君。自己紹介の時間といこう。私はメルスィート・アーゼンハイム、この『工務部』の部長だ。付き合いは短いだろうが、宜しく頼むよ」
「そしてそして!私が『工務部』機器担当のアンネ!デリケートな精密機器は私が主に担当してまーす!」
「………う、ウチ、紺野紫翠………『工務部』開発担当よろしく、ね………?」
「…………アーツ、このIS学園の防衛システム担当もとい『工務部』の顧問だ。この馬鹿共みたいに、問題を起こさないことを期待してるぞ」
そう名乗り上げる、部活の主要メンバーたち。他の女子たちの挨拶を聞きながら、龍夜は記憶にあった二人について考える。
メルスィート・アーゼンハイム。IS学園三年生のメカニックでありながら、オランダの代表候補生の一人。専用機は『スターク・フリート』、大型のアンテナにより周辺の数十キロの索敵を可能とする早期警戒機の役割を担うIS。三年生の代表候補生としての実力は低い位置づけにあるが、それでも軽んじて良い相手ではない。
そして、アーツ。ジェントルマンのような衣装を着込んだ男性は時雨理事長に抜擢された部下の一人。このIS学園の中核、あらゆる防衛システムの開発者であり主要責任者でもある。
二人して、IS学園の防衛システムを担う重要人物だ。少なくとも、事前に把握していた龍夜でも評価に値する程の人物であることには違いないだろう。
「………早速だが、一つ聞きたい。ついさっきの爆発は?」
「ああ、新型の防衛兵器の開発をしてたんだよ。まぁ、結果としては十分さ」
「何処が充分だ!爆散して全壊するような時点で失敗も失敗だ!成功のせの字もないだろ!阿呆!」
コツン、と壊れたであろう鉄の塊を叩いて笑うメルスィート。そんな彼女を叱咤と共に罵倒するアーツ。こんな事が日常茶飯事なのだろうか。
「………因みに聞くが、『工務部』に何か急ぎの予定はあるのか?」
「いや?年内に新しい開発をするだけで、今のところ新兵器の開発などの依頼はないね。まぁ要するに、暇なのさ。私達は」
「────なら一つ、見て欲しいものがある」
そう言って、龍夜はこの整備室に立ち入る前から持っていたアタッシュケースを開き、中から紙束を取り出した。その厚さはIS学園の参考書に匹敵する程の分厚さ。他人を撲殺できる瓦礫みたいな紙の束を前に、殆どの生徒が硬直し、メルスィートとアーツの興味を大きく引いた。
「それは?」
「俺が立案した、『プラチナ・キャリバー』、『エクスカリバー』を含めたISを主軸とした大規模な開発計画だ。まだ設計の段階だが」
戸惑う女子たちを他所に、メルスィートとアーツが資料を手に取る。事細かく記された設計図や書類を釘入るように見つめた二人の後から、他の女子も設計図などを見始めた。
「え、うそ…………これ、全部ISの追加装備?」
「いやいや、こんなの………もう別の兵器でしょ」
「…………」
途端に漏れ出す、疑問と困惑の声。普通の感性では有り得ないことを提案している自覚はある。この計画は殆どの学生や教師にも秘匿にしていた。ごく僅か伝えた相手にも、驚かれたことは確かだ。
────ただ一人、彼の尊敬する篠ノ之束だけは面白そうに笑って、許可してくれたのだが。
「改めて考えたが、俺達のISはまだまだ真価を発揮しきれていない。ISは自己進化や成長を伴うが、それでも大まかな部分の改良や追加装備も必要だ。それが出来る人間や勢力は少ない、だからこそ俺が一人でやるべきだと考えていた。
だが、俺一人ではここまで大規模な計画は実行しきれない。どうすべきかと考えていた時に、偶然『工務部』のことを思い出した。部活動を探していたのも事実だから、何かと都合が良かった」
ISの大幅な強化。
いずれ来たる戦い、フェイスなどの強敵との為の備え。その為に龍夜は新たな力を、ISの強化プランを考え、最適な形にまで研鑽と修正を繰り返した。
「これを設計したのは何時からだ?」
「始めたのは、七月から…………あくまでも、まだ調整したい部分も多いが」
「………理事長は、これに許可を?」
「好きにやるといい、とのお墨付きだ。当然、『
険しい顔で設計図を見つめていたアーツは「そうか」と沈黙する。睨み合っていた『工務部』の代表二人、彼等が口を開くのもすぐであった。
「部長としても、私的にも賛成だね。………先生は?」
「反対する理由もない。『工務部』としても、面白い経験になるだろう。お前達も、異論はないな?」
満足そうに笑うメルスィートの言葉に応えたアーツが『工務部』の女子たちに呼びかけると、返ってくるのは「さんせー!」という元気な掛け声であった。
よし、と納得したアーツは龍夜へと向き合う。周りの女子生徒たちを尻目に、淡々と告げる。
「蒼青、コイツらにも手伝わせるが………計画の発案者であるお前にはコイツら以上に動いてもらうぞ」
「分かってます。そのつもりですし」
加入早々、部活を動かすほどの大仕事を用意した当人はさほど気にした様子もなく、むしろ自覚していたのか平然と頷いた。そうして、龍夜が立案、計画し『工務部』と共に推し進める────『強化プラン統合計画』が開始するのだった。
◇◆◇
『強化プラン統合計画』の開始から数日。
用意した設計図を基にした、新装備及び『プラチナ・キャリバー』の大幅改造への着手を始めた────訳ではなかった。
「────計測完了。やっぱり速いね、君のIS」
第四アリーナにて、タイマーと端末を手にしていたメルスィートが目の前に降り立つ機影へと労いの声を掛ける。銀の装甲のIS、『プラチナ・キャリバー』《アクセルバーストフォーム》を纏う龍夜はISを解除すると共に、ようやく息を吐き出した。
────今現在、メルスィートによって計測してもらっているのはISの機動データ。今現在は最大出力で発揮できる速力を記録してもらっていた。最大速度でアリーナを飛び回り、エネルギー切れまで駆け巡っていた龍夜だが、他の女子への接触事故すら起こさず、速度を緩めてすらいなかった。
「ふむ、スラスター12基による光速機動………やはり恐ろしいねぇ、それも数分も持続出来るんだ。君のISも充分強力だね」
「だが、まだまだ足りない。オレのISは強力だが、まだ学園内で辛うじて通じる程度だ。外の世界では、実戦においてはまだ及第点にも満たない…………調整する部分が多い」
エネルギーを吸収する盾と強化装甲に寄って防御力とエネルギー増幅に特化した長期戦向きの《ナイトアーマーフォーム》、蓄積したエネルギーを使い尽くす程絶大な消耗と引き換えに、音速に至る超加速と高出力の攻撃を得意とした、短期決戦向きの《アクセスバーストフォーム》。
この二つこそが『プラチナ・キャリバー』の基本形態であり、展開装甲を有した第四世代である証明。一見すれば長所を活かすフォームではあるが、それぞれ致命的なまでに足りない部分が多い。
それを補うための、強化プランなのだ。欠陥や不備を調整し、新たな強化に至るために龍夜もメルスィートも、皆頑張ってくれている。本当に、嬉しい限りだ。
「────おーっす、メルスィート。丁度いいトコに………って、何してんだ?また何か造ろうとしてんのか?」
「ん、おお。誰かと思えば、ダリルじゃないか。丁度いいトコってことは、また私に用事かい?」
突如、メルスィートを呼ぶ声が一つ。振り返った彼女に声を掛けたのは、見覚えのある金髪の女子が居た。記憶通りなら、三年生であろう。親しげにメルスィートに駆け寄る彼女を見ていた龍夜は、ふと呼びかけられた。
「あぁ、アンタが蒼青龍夜っスね。有名人だから、知ってるッスよ」
「………そういうアンタはフォルテ・サファイア。ギリシャの代表候補生のアンタに知ってもらえるとは、光栄だな」
「おっ、ウチも相当有名になったんスねぇ………先輩って呼んでくれても構わないッスよ」
金髪の女子生徒と一緒に居た、小柄の女子 フォルテ・サファイアがマイペースに無い胸を張っていた。龍夜が彼女を知っていたのは、入学当初からだ。少なくとも、IS学園に所属している先輩の代表候補生については皆等しく記憶している。いずれ、自分の実力を高めるために決闘でも挑もうかと、考えていたのだから。
その間に、メルスィートはダリルと呼んだ女子と世間話にくれていた。
「オレの『ヘル・ハウンド』がまたバージョン・アップしたからさ。また整備してくれよ」
「えぇ………今私忙しい時期なんだよ。他の子、整備課に頼めば良いじゃーん」
「そう硬いこと言うなよー。お前が整備してくれた方が早いし、性能も良いんだからなぁ。ほら、また三日は飯奢ってやるし」
「────なら、ちょっと付き合ってよ。私の後輩と」
そう言って、メルスィートが親指で龍夜を指し示す。そこでようやく、隣にいる龍夜に気づいたらしい。フォルテと話していた龍夜を見るや否や笑みを浮かべ、歩み寄ってきた。
「へぇ、オレより先にフォルテと慣れ合うなんてな………悪いが、オレの恋人はやらねぇぞ?」
「略奪なんてする気はないさ、先輩。俺には構わず、好きに愛し合ってくれ」
「ははっ、弄りがいのない奴だな………それで?コイツとやり合えって言うのか?メルスィート」
「そうそう。丁度、実戦データも取りたかったからね。相手さえしてくれれば、『ヘル・ハウンド』の整備をやってあげるよ」
「ほーん、まぁいいぜ。そんじゃ、ちょっと移動するか、後輩」
ダリルに急かされ、仕方なく後ろに付いていく龍夜。アリーナの中央に移動した二人は対面し、向かい合う。二人が戦い始めることに勘付いた周囲はそれぞれ特訓を止め、観戦に移っているようだ。
「ったく、災難だな、オレとやり合うなんて。負け越して落ち込んでもオレは知らないぜ?」
「別に、災難に思うことはないさ。アンタとも戦ってみたかった訳だからな、アメリカ代表候補生ダリル・ケイシー」
「へぇ、オレの事も知ってんのか。案外勉強熱心だな」
「いずれ挑む相手だからな。殆どは把握しているさ────それと一つ」
対立するアメリカ代表候補の先輩を前に、龍夜はエクスカリバーを構える。鞘を背中に装着した状態で、ISを展開した龍夜の全身を白銀の鎧が包み込む。
それと同時に、ダリルの全身をダークグレーの装甲が包む。黒狗の双頭を両肩に、炎を纏うIS『ヘル・ハウンド』を展開したダリルを前に、騎士の甲冑を纏う龍夜は自信に満ちた言葉で告げた。
「やるからには勝つさ。たとえ先輩であるアンタが相手だろうとな」
「────クソ生意気な後輩だな。嫌いじゃあ無いぜッ、そういうのは!!」
勇ましい怒号と共に、ダリルと『ヘル・ハウンド』が両肩の犬頭から爆炎を吐きながら迫る。その火球を盾で防いだ龍夜はそのまま突撃し、双剣を展開したダリルと刃を衝突させた。
それから、炎と光の乱舞がアリーナに巡っていくのだった。
「────やるじゃねぇか、オレが引き分けなんて滅多にねぇことだぜ。おら、喜べよ後輩」
「………引き分けで喜べるか。だが、やっぱり強いな、先輩は。あそこまで苦戦したのも、良い経験だった。────次は勝つ」
「ハッ!いけすかねぇヤツだと思ってはいたが、面白いヤツだなオイ。まぁオレに勝てたとして…………その時はオレとフォルテの本気で相手してやんよ、後輩」
「えー、ウチもやらなきゃ駄目っスかぁ。イヤッスよ、先輩だけで勝ってくれません?」
「オイオイ、こういう時は全力で応えるってもんだろ?先輩としての意地を見せてみろよー」
龍夜とダリル、勝負の結果は引き分けに終わった。アリーナ開放時間が終わったことでの強制中断であったが、ほぼ僅差で互いを倒しかけた二人は引き分けという結果に対し、不満はなかった。
「おい、後輩。電話番号は?」
「………ん」
別れ際、そう要求するダリルに龍夜は取り出したスマホの電話番号を見せる。それを確認したダリルはその電話番号をスマホに打ち込み、記録しておく。すぐに掛かってきた電話が切れたと思えば、ダリルが笑みを浮かべながら口を開いた。
「オレの電話番号がソレだ。暇になったら連絡するから時間作れよ、そん時にリベンジマッチをしようぜ」
「まぁ先輩が負けるとは思わないっスけど、もしもの時は相手になるッスよぉ。勝負以外の件でも呼ぶかもしれないッスけどね」
そう言って、立ち去っていくダリルとフォルテ。2人の先輩を見届けた龍夜は、一足先に工務部へと戻ったメルスィートを探し、歩き出すのであった。
新キャラ紹介
メルスィート・アーゼンハイム
IS学園三年生であり、兵器や設備開発を活動とする工務部部長。同時にオランダの代表候補生であり、専用機の『スターク・フリート』を預かっている。
技術者として兵器開発には積極的であり、IS学園の防衛兵器の開発を一任されるほどの才能と実力を有する人物。しかし開発の際に失敗を恐れず作成するので殆どが起動直後に不備を起こして爆発を起こす。本人はポジティブに捉えているため、さほど気にしていないのだが。
因みに同室であるダリルとの仲は良好。彼女からは専用機の調整や整備を任されるほど信頼されている(尚、メルスィートの整備の方が早いし、ちゃんとしているからとのこと)
『スターク・フリート』
オランダが開発したメルスィート専用の第三世代機。背中に搭載した大型アンテナと両肩のサブレーダーにより、周辺数十キロ圏内の敵や味方を捕捉することを特徴とした早期警戒型の機体。
武装は携帯型機銃と実弾式の対物狙撃ライフルのみで、遠距離に徹した構成。随伴機や味方を伴うことで真価を発揮する特殊なISである。
次回、少し短めの短編を書きます。あらかじめ言っておきますと、セシリアと龍夜がメインになるお話です!それでは!