「龍夜、嫁である私に何か言うことはないか?」
「─────寝かせろ」
私は怒っている、とでも言わんばかりに腕を組んで口を噤んだラウラ。そんな眼帯少女の怒りを受けた龍夜は布団を被って、そう告げた。彼の私室に忍び込んでいたラウラは深い溜め息を吐くや否や、布団の上に取り掛かる。
「ふん、寝かせはしないぞ。今の私は本気で怒っている」
「…………今の俺も本気でキレそうなんだが、それを理解してるのか?これ以上俺の睡眠の邪魔をするなら手段を選ばないぞ」
「ふむ………手段を選ばないか?面白い、私はこう見えても軍人だ。生半可な手段では意味がないぞ。どうやって私を無力化する気だ?」
「簀巻きにしたお前を織斑先生の部屋に叩き込む」
─────スッ、とラウラは布団から降りて正座した。明らかに萎縮したように縮こまったラウラも流石にそれには応えたのだろう。布団を押しのけ、起き上がった龍夜は顔をしかめた上で、問い詰める。
「で?何に怒ってるんだ、お前は。俺はお前をそこまで怒らせた覚えはないぞ」
「………何を言う。心当たりはないと、言い逃れする気か」
未だ不機嫌オーラを放つラウラに、流石に不安になる龍夜。彼女をそこまで怒らせるようなことに覚えない。寝起きに添い寝していたラウラを放り出したこともあるが、彼女はそんなことで怒るようなタイプでもない。まさか本気で地雷を踏み抜いたかと必死に考えていた龍夜に、ラウラは「分からないか」と語気を強めて告げた。
「─────イギリスに行って、セシリアと二人っきりのデートしたではないか!」
「デート言うな、馬鹿」
今度は龍夜の語気が鋭くなる。なまじ本気で不安になった分、心配させやがってという感情が増している。やはりちゃんと説明しておくべきだったか、と自身の不手際を呪い、龍夜は素直に事情を話すことにした。
「ISの件で祖国の企業に交渉しに行っただけだ。そんな色恋染みたものと一緒にするな」
「むっ、そうか?一夜を共にしたとセシリアが自慢したのを聞いたが…………まさか、誤解なんだな?」
「……………事実とは言い難い」
正確には襲われそうになったセシリアを助けた後、彼女の安全を考慮して寄り添っていた訳だが、その事を伝えたところで別の意味で食いかかられる可能性があるので黙っておく。
「そういうことだ。お前が色々と不満には思ってるだろうが、気分を直してくれ」
「は?無理だが」
「は?」
何を当たり前のことを、と言わんばかりの態度のラウラに龍夜は顔を引き攣らせた。今日はやけに食い気味だな、と思いながらもラウラは強気で龍夜な食いついてきた。
「セシリアを連れてイギリスに行ったんだ。ならば次はドイツに来い。私のシュヴァルツェア・レーゲンを丁度強化改良したかったところだ。何より、大佐ならば簡単に許可してくれるだろう。行くぞ、今日中にでも」
「おい、何を勝手なことを………」
「何だ、そんなに嫌か?セシリアは良くて、私は駄目なのか?そんなに私は魅力的ではないというのか!?」
「─────止めろ」
涙目になりかけた彼女の言葉を、龍夜は止めた。どうやら、彼女にも思い詰めさせてしまったらしい。周りのことを気遣えているつもりで、結局はこのざまか、と泣かせそうになった少女の頭を撫でて、龍夜は呆れたように諭した。
「考え過ぎだ。お前に色々と迷惑を掛けたことは謝るが、もっと冷静になれ。今日行くといっても、申請はどうする。織斑先生に迷惑をかけることになるし、それ以上に規律を無視にすることなる」
「…………すまん、頭に血が上っていた」
「………今日、昼にでも申請をしてからだ。明日の朝、ドイツ行きでいいな?予約は俺の方で取っておく。明日は一日中付き合ってやるから、それで構わないな?」
「────!いいのか!?」
「いいも何も、そのつもりだったしな。どのみち、近い内に誘うつもりであったが、好都合だ。明日は付き合ってやるから、さっさと寝るぞ」
「ああ!分かっているとも!」
行けるとなった途端、こうも元気が出るものかと、涙の引っ込んだラウラに自室に戻れと促した龍夜は扉を締め、溜め息を吐く。明日にしようと組んでいた予定を崩さないとな、と龍夜は扉に鍵をかけて、ベッドに戻ろうとする。
「………全く、反省すべきだな。俺も」
「─────そうねぇ。泣かせなかっただけ良かったけど、お姉さん的にはもっとカッコいいこと言って欲しかったと思うなー」
ギギギ、と思考が停止する。ブリキ人形のように首を上げると、寝ていたはずの隣のベットには、眠気など感じないとでも言わんばかりの同居人─────更識楯無がいた。
「ああ言う時はねぇ、お前のことも大切に決まってるだろ、とか胸キュンなこと言うべきじゃない?ほら、試しに私に言ってみて。君が思う、乙女心を撃ち抜く─────カッコいいこと」
「─────寝てろ」
苛立たしそうにクッションを投げつけ、龍夜は布団の中に籠もった。もう、いけずぅ!と楯無がクッションを投げ返してきたが、受け取ってそのまま眠りにつく。また当分イジられることを鬱陶しく思いながら。
◇◆◇
「────10秒遅い!どんな時であろうと気を抜くなと言ったはずだ!」
ドイツ、特殊空軍基地。
滑走路に集まったのは少女たちの一団、ドイツ筆頭のIS部隊
そんな彼女を、部隊の司令官とも呼べる男 ヴァイアス・ドレイクホーン大佐が宥めた。
「まぁまぁ、いいではないですか。ハルフォーフ大尉。今回はそういうのも抜きにして」
「た、大佐!失礼致しました!」
「さて、君達も大体聞いているかもしれませんが………貴方達の隊長、ボーデヴィッヒ少佐が一時帰還することになります。無論、一日限りですが」
もの優しい笑みを浮かべるヴァイアス・ドレイクホーン。しかし、この部隊の全員が目の前の上司を侮ることはない。その男こそ、かの大戦で猛威を振るった『十英雄』の一人、ドイツに殺到した無人機群の多くを殲滅した、『
「あの!ヴァイアス大佐!風の噂でお聞きしたのですが!隊長が男を連れてくるという話は事実なのでしょうか!?」
「えぇ、そのようですね。ボーデヴィッヒ少佐のよく知る相手………彼女が好意を寄せる彼で、間違いないでしょう」
「おおおおおっ!!」
自然に付け足されたヴァイアスの一言により少女たちの盛り上がりは一層勢いを増した。当初は強さを自負し、周りを見ようとしないラウラとの関係は厳しいものであったが、少し前の事件────VT事件の後、その問題は綺麗さっぱり消え去った。
『────私は、ある男の事が気になっている。この状態が何だか、相談したいのだが………』
突然連絡をかけてきた隊長からの言葉に、クラリッサは急いで皆を集め、相談した。険悪な確執は最早消し飛び、思春期の十代乙女たちは一致団結したのだ。彼女の説明を聞き、皆との相談した上でクラリッサはそれを『恋愛感情であり、隊長はその相手が好きなのだ』と伝えた。そこだけなら、まだ良かった。
────間違った日本の知識にかぶれた彼女達(主に副隊長のクラリッサ)はラウラに多くのことを教えた。曰く、日本では気に入った相手を『自身の嫁にする』という風習があること。曰く女性には伴侶の部屋に忍び込む風習もある、と。数えれば切りが無いが、現地日本人が聞けば『何処の国の話?』と唖然となるレベルのものである。
「着いたようですよ。皆さん、軍人として適度に振る舞って下さいね」
空軍基地に訪れた車を見て、ヴァイアス大佐がそう周りの皆へ呼び掛ける。穏やかで紳士的ながら、分別を弁えられる上官の言葉に、眼帯の少女たちは即座に列に並び、迎え入れる姿勢を見せた。
そして、前に止まった車から降りてきたのは────黒ウサギ隊と同じ黒い軍服を纏う銀髪眼帯の少女であった。問題は、もう一人の方。彼女と同じ、黒と赤が特徴的な軍服を身に纏う青年、蒼青龍夜の存在に、黒ウサギ隊は唖然とするしかなかった。
「クラリッサ、出迎えご苦労」
「た、隊長………!あの………そちらの方は?」
「ああ、そうだな。紹介しよう────私の婿だ」
「…………蒼青龍夜だ。この服に関して聞きたいことがあるだろうが、察しろ」
軍服を着せられた龍夜はそう言って、深い溜息を零した。ドイツに来る当日、ラウラから渡されたサイズピッタリの軍服。何故これを、そもそもサイズをどうやって知ったのかと聞けば、出てくるのはあの生徒会長の名前────その内仕返しでもしないと気が済まない龍夜は、飄々とした女狐に一泡吹かせることだけを考えて、大人しく軍服を身に付けた、ということになる。
「………一つだけ言っておくが、俺はラウラの頼みでこれを着ているのであって。お前達の職務に付き合うつもりではない。要するに、客人という立場のままでいい」
「無論、そのつもりですよ。ボーデヴィッヒ少佐がお誘いした相手への対応を、間違えるつもりはありません」
「貴方がラウラの上司か。話は伝わっているのか、伺っても?」
「えぇ、その話は私がしましょう────時間は何時でも取れますが、今から始めますか?」
「…………いや、その前にやっておきたいことがある」
意外と似合っているのか、それともラウラとの距離感が近いことに喜ばしく思っているのか、黄色い声を上げる黒ウサギ隊の一面を尻目に、龍夜は「クラリッサは誰だ?」と問い掛けた。突然のことに戸惑ったクラリッサが「私だが」と言うと、龍夜は薄ら笑いを浮かべて手を差し出した。
「そうか。お前の事はラウラから聞いていた、よろしく頼む」
「え、あ、よろしく」
「ラウラから色々と教えてもらったぞ─────お前がラウラにふざけた知識を入れ知恵した副官だと、な」
あれ、とクラリッサは肩を震わせた。目の前の少年の全身からどす黒い怒りのオーラが幻視して仕方がない。それに友好的であることを示すはずの握手なのに、握り締める手に込められた力は半端ではない。青ざめていく副官はようやく龍夜の、冷徹なまでに細く鋭い眼差しを見た。
「お前の余計な知識で、俺がどんな苦労を背負わされたか。想像したことがあるか?────無いだろうな」
もし軟弱な男であれば叩き直してやろう、と息巻いていたクラリッサは絶賛後悔中である。軟弱とは正反対に位置する、それどころか絶対強者である織斑千冬と同じ分類の強者だと理解し、全身を冷や汗が襲う。
そんな彼女に龍夜は今までの鬱憤を晴らすように、告げた。
「専用機を出せ、お望み通り叩き潰してやる」
◇◆◇
結論として、クラリッサは善戦した。
しかし龍夜は的確に彼女とその専用機『
無論、彼女もやられるだけではなかった。攻撃力に特化したツヴァイクの武装で一時期は押し返すことが出来た。しかし、龍夜の『プラチナ・キャリバー』の超速攻撃で一気に圧倒し、そのまま勝利をもぎ取ったのだ。
IS学園でも最強クラス、あの生徒会長に追随する強さを発揮した龍夜に、クラリッサ含めた黒ウサギ隊は彼への疑念を消し去り、ラウラが認めた純粋な強者への敬意を顕にした。試合により少し気分を良くしたのか、或いはクラリッサを認めたのか、龍夜は彼女に告げた。
「お前のIS、『
その助言らしい言葉に、クラリッサは「感謝する」と言って一礼した。ラウラからは「私の副官を狙うなよ」と言われ、「ボケたこと抜かすな」と返す龍夜であった。
その後、基地の拠点内部に案内された龍夜はラウラ達の上司であるヴァイアスと対面することになる。本来であればシュヴァルツェア・レーゲンの開発企業と対面するかと思っていたが、軍部開発によるものの為、軍部が担当しているとのこと。
龍夜は、セシリアの時同様。専用機の改良と強化プランの話をヴァイアスへと持ち掛けた。その説明を聞いた後、ヴァイアスは重苦しい沈黙を経て、口を開く。
「────えぇ、構いませんよ?」
「……………え?」
「シュヴァルツェア・レーゲンの改良および強化の件です。我々は貴方の提案に賛成、快く受け入れさせていただきます」
…………アッサリと、ヴァイアス・ドレイクホーン大佐は首を縦に振った。それこそ、素直に頷くとは思っていなかった龍夜の方が唖然としたくらいだ。そんな彼の様子に気付いたヴァイアスは含んだ笑みを浮かべた。
「フッ、そんなに驚きですか?我が国が貴方の提案を支持することに」
「………正直、上の意向を聞いてから判断するとは思っていた。俺自身、滑稽無糖な話をしていることは理解している」
「────普通の企業などでしたら、対応しませんよ。貴方だからこそ、私は良いと判断したのです。ボーデヴィッヒ少佐とシュヴァルツェア・レーゲンに関しては私が監督を任されておりますので、大した心配はいりませんよ」
そう言って紅茶を口に含むヴァイアス。元英雄である彼の軍内部での立ち位置は他よりも強く、意思決定権はそこいらの大将よりも優先されるらしい。だからこそ、彼一人で意思決定をしたのだろう。
「因みに、貴方の提案を受け入れたのにも理由はありますよ。お聞きします?」
「…………参考までに」
「まず、貴方の能力や技術への信用。類稀ないISの操作技術に、ISの装備等の開発能力。ラウラから持ち込まれた情報からして、貴方一人の技術力は一企業のそれを上回っている」
「…………」
「二つ目は、貴方が織斑教官に師事する教え子の一人です。我がドイツ軍にとって、織斑教官の存在は他国よりも影響力が強い。何より、あの篠ノ之博士に認められている貴方を、疑う者はドイツには居ませんよ」
他国よりも実力を重視するドイツだからこそ、彼のように話が通りやすいのだろう。相手が優れた人間であり、信頼できると認めれば、話を受けることも吝かではないのだ。軍部の影響力が強いドイツだからこそ、こうも簡単に容認気味であるらしい。
だがそれ以外にも、大きな要因があるらしい。
「三つ目は、情勢を見た上です。情報通りであれば、貴方はイギリスとも取引を結んでいるのでしょう。後はドイツと締結させたことで、表向きに公表するつもりですね」
「………まぁ、その通りだな」
「イギリスとドイツ、二国が貴方のプロジェクトを容認すれば、他国も続くことでしょう。貴方の狙い通り、仲間の専用機の改良と修復も可能になりますしね────何より、ボーデヴィッヒ少佐の専用機を強化してくれるのであれば、此方としても安心です」
「…………何かあるみたいな言い方だな」
「ここだけの話ですが────最近、世界は大きく変わり始めています。主に軍事的な意味で、多くの勢力が動いているようです」
顔をしかめる龍夜に、ヴァイアスは軍部から引っこ抜いた情報をもとに軽く世間話をする。本来であれば情報を渡すことは色々言われるような話だが、ヴァイアスはそんなことを気にしない。敢えて話すことで、信頼関係を結べると考えたのかは分からないが、無策ではないことは確かだろう。
「国連は大規模な兵器開発計画を複数推し進めており、その中には第四世代ISの開発もあるとされています。最近無事に鹵獲した《
「………」
また国連か、と嫌そうな顔を浮かべる龍夜。
アナグラムの発足経緯や、大戦の始まった原因すら、国連の悪行や腐敗が理由でもある。国連が計画したプロジェクトに何度も巻き込まれている立場からすれば、彼等に対する不満や忌避はある。
「そして、倉持技研の方でも────第四世代の開発が行われています。それも三機、場合によっては他にも製造されている可能性が高い…………その計画には国連の最重要機関【
龍夜の脳裏に過ぎるのは、自身が作り出した未完成のIS。倉持技研に売り渡したアレを、何かに利用するつもりなのかという考えだけが脳内に渦巻いていた。
「何より、エレクトロニクス機社の方でも、大規模な兵器開発が始まっていると聞いています。ISに匹敵する無尽動力兵器、名を『ウロボロス』と」
「………知っている。レッドと呼ばれる奴とも接触したしな」
「現時点で、『ウロボロス』として開発されているのはレッド以外いない。今現在、紛争地帯で実験が行われているのを観測した。おそらくアレ以上の兵器が作り出されるのも時間の問題、かもしれない」
重要なのは、国連や倉持技研、エレクトロニクス機社が多くの兵器開発を始めていること。それはつまり、本来戦争が終わり、落ち着いたはずの情勢が再び戦争に近付いている可能性を示唆している。
そして、ヴァイアス・ドレイクホーン大佐はそれを考慮したように、龍夜に呼び掛けた。
「────現時点で、世界に存在する火種は多い。それを利用しようとする者も多い。だからこそ、君の提案は私にとっても願ったり叶ったりとも言えた」
「………」
「これは私なりの心配さ。私の可愛い部下を任せるんだ、嫁入り前の彼女を傷物にはさせないでくれたまえよ?」
微笑みながら問い掛けるヴァイアスの声に、少なからずの覇気を感じた。伊達に大戦を勝利に導いた英雄の一人ではない、僅かに冷や汗を滲ませた龍夜が答えるより前に、ヴァイアスの方が険しい顔を崩した。
「────おっと、既に心配無用だったね。あの子は君というお婿さんを取ってるみたいだし。あの子の将来も安泰だ」
「……………勘弁してくれ」
軽くイジられることに龍夜は諦めたように項垂れる。どうして自分の周りにはそういう事をする奴がいるのか、と龍夜は空を見上げた。その後、部隊との交流を深めていたラウラからも絡まれた龍夜は、刺激的な一日を過ごしたのだった。
◇◆◇
「────我が臣下、三人の皇臣。我が従属、『
ステンドグラスの天井に、照らし出されたのは三人の男女。貴族のような荘厳な衣装と法衣を身に纏う彼等を呼ぶ声が、凛と響いていた。
光の届かぬ玉座に腰掛けた者は、影の中で三人の男女を呼ぶ。彼等の存在、世界に知らしめるように。
「『忠臣』ハイルゥ」
「…………は」
その声に応えた『忠臣』は、不愉快に顔を歪めて頭を垂れた。その瞳に浮かぶのは反発心と野心。とてもだが、忠誠心のある臣下のものとは思えない、矛盾に満ちた感情を秘め、ハイルゥは己の中の激情を抑え込んでいた。
「『諫臣』レヴィエト」
『────はっ』
次に呼ばれた『諫臣』は深く頭を下げた。その頭部は人のものではなく、機械のようなフルフェイスマスクである。人間らしさの感じない機械的な頭部を持つレヴィエトと呼ばれたソレは不手際のない動きで膝をついていた。
「『賢臣』アールサリア」
「────はは」
仰々しく、腰を折り曲げたのは神秘的な雰囲気を漂わせる女性であった。金と銀のオッドアイに、黒と白の長髪。正反対の色を特徴とする彼女は心酔したような目で玉座を見上げ、二人と共に皇王の言葉を待ち望んだ。
「────我が臣下達よ。一つ、お前達の力を借りたいことがある」
「それは、あの『プラント』の件でしょうか?」
「そうだ、あそこは今アナグラムの占領下にある。それも大事だが、『アレ』は国連には必要だ。軍備拡張の為にも、何としても手に入れる必要がある………だが、あの『プラント』を守るアナグラムが厄介でもある。どう処理するか、悩みものなのだ」
皇王が呼び出したのも、それが理由。彼等、『
『「皇王」よ、ならばIS学園を利用すべきでは?』
「…………ほう?」
『IS学園の代表候補生も腕を上げていると聞きます。なればこそ、彼等を利用する以外にないでしょう。皇王も、その為に「特権」を与えられたのでしょう?』
静かに、冷徹に問うたレヴィエト。『諫臣』の名を表しているのか分からないが、策士然とした出で立ちでレヴィエトは皇王にそう持ち掛けた。無論、皇王は期待したような声で疑問を投げる。
「IS学園をどう黙らせる?ISは基本的に軍事利用は出来ない。だからこそ、各国は無人機を欲している」
『条約など、守られていない等しい。何より、これは戦争行為ではありません。ISによるテロリストに制圧された拠点の奪還であり、軍事利用ではない…………単なる殲滅作戦を、戦争と呼ぶ者はいないでしょうから』
「そうか。いいだろう────IS学園を使うとしよう。そして、お前達にもいつも通り仕事を任せたい」
一切の感情を見せずに、皇王へ膝をつく二人の同僚に、ハイルゥは目を細めていた。ギラギラと光る感情を、爆発しそうになる衝動を抑え込み、彼はあくまでも『忠臣』として在り続ける。
「『賢臣』は亡国機業の監視、『諫臣』はミレニアムの捜索を。…………そして『忠臣』には、次の為の準備をして貰いたい」
「次…………そろそろ、やるということで?」
「そういうことになる。君には期待している、上手くやるようにな」
「…………言われずとも」
「では諸君────期待している」
その一声を区切りに、世界が明転した。ハイルゥの視界が、薄暗い廃墟のものへと変わり、二人の臣下と主たる存在も完全に塗り潰されたように消え去る。
周囲から消えた気配に、ようやく息をついたハイルゥは────おもむろに、足元の瓦礫を蹴り飛ばした。
「────クソ!クソクソ!クソォ!何が期待しているだ!何が、皇王の為にだ!俺をこんな姿に、化け物にした癖に!ふざけやがって!!王を名乗るのは、王であるのはこの俺なんだっ!!」
癇癪を起こしたように暴れるハイルゥ。王への反逆心と、王という立ち位置への渇望を抱いた彼は、『忠臣』という名に反して皇王への反意を秘めていた。当初は、ただそれだけだった。しかしある出会いが、ある事実が彼の脳裏に可能性を見出したのだ。
「………あの機体、白騎士の力。アレがあれば、皇王にも勝てる。俺の絶対障壁を突破したあの力さえあれば────俺は王になれる」
あの時、白式と対峙したハイルゥはその正体を看破した。自身に傷を与えたあの力に、魅入られたのだ。あらゆるものを切り裂く力、あの刃、あの全てを手に入れれば、誰にも負けることはない。
自分は、王になれる。────誰かとの、大切な誰かとの約束を、今度こそ守ることが出来る。
「あの力は、最強のISの力は────俺のものだ」
次章予告
「─────諸君らには、アナグラムにより占拠されたプラントの奪還をして貰う。これはISによる戦争行為ではない。ISによる、掃討作戦である」
「押し返せ!俺達のプラントを、奪わせるな!」
「………すまぬ、これしか思い付かぬのだ」
「…………こんなことが、正しいことなのかよ」
「─────拙者の風は!あらゆる敵を切り裂く刃!即ち、カマイタチ、也!」
「ムカつくんだよ。ぬるま湯に浸かってきた、女が偉そうにしやがって…………テメェ等なんざ、俺達の相手じゃねぇ!!」
「────これが戦場よ、覚えときなさい。アンタ達は今初めて、他人を傷つける為に戦うの」
「ISの、操縦者達よ………国連に与し、何を望む。奪い、踏みにじる奴等に従い────その刃で我等を斬り捨てるのか!救われぬ者達の為に戦い、抗う我等を!!」
「…………親父」
「それがお前の決断なら─────来い、斬るぞ」
次章『残響散華』編、近日開幕。