巨大な砦、『プラント21』に弾幕が殺到する。空中に飛び回る四つの影、ISを身に纏う代表候補生たちはプラント前面に配置された対空機銃や対空砲の雨嵐の中を掻い潜っていく。
「一夏、私は前の機銃を一掃する!お前は奥の砲台を落とせ!」
「おう!分かった!」
地上から降り注ぐ弾幕の雨を避けきり、一夏は最高速度で突貫していく。前方に配置された機銃が無防備な背中を狙おうとするが、飛来した箒の二刀によって切り裂かれ、撃破されていく。
距離を縮めてきた一夏に、壁に配置された大型の砲台が音を立てて動いた。側面の装甲を開き、左右二門の機関銃を一斉掃射するのを、一夏は
砲身を切り裂かれたはずの砲台が一夏を未だ狙おうと回転する。振り向き様に荷電粒子砲の弾丸を撃ち込み、完全に破壊した。爆炎の中、一息ついた一夏に────黒煙から飛び出した機影が襲い掛かる。
『────』
アナグラムが運用する無人機、AM-SF-4『ゼッペル』。従来の戦闘機とは思えないほど小型化された飛行ドローンである。ISの浸透により飛行機や戦闘機関連は衰退したが、無人機として未だ健在であった。
何よりこの機体『ゼッペル』は他の戦闘機とは違い、小型化された量産機である。全てが自律制御であり、統率の取れた羽虫のように軍隊を成して標的に襲い掛かる。
孤立した一夏を、群体で追い回していく。彼も荷電粒子砲で消し飛ばそうとするが、群れをなす『ゼッペル』は他の機体が撃破されようとも構わず、一夏を執拗に狙っていく。機体に搭載された唯一の武装である機銃を浴びせ、シールドエネルギーを削り取ろうと殺到していく。
「────一夏!」
上空から強襲した箒が、二本の刀で『ゼッペル』を墜としていく。鋭い蹴りで叩き落とし、そのまま一夏の元へと向かう。
「馬鹿者!先走り過ぎるな!私が居るのだから、安心して背中を預けろ!」
「箒………そうだな!」
背中を預けた二人は、殺到する『ゼッペル』の大群と向かい合う。弾丸の雨を撒き散らす小型戦闘機に、彼等は一切怯えることなく切り込むのだった。
◇◆◇
「だぁあっ!ウザいわね!コイツら!!」
衝撃砲『龍砲』が唸り、無色の砲弾を撃ち込んでいく。空中戦よりも地上戦が得意である鈴は『甲龍』で前線を押し上げるつもりだった。だが、思ったよりも物量が多い。
いくら砲弾を叩き込んでも、送り込まれる敵の数が多い。何より、相手はヒト型戦車────『ノーグ』、アナグラムが運用する無人機の主力の一つである。汎用性の高く、複数の戦況に応じた装備を有する無人戦車の相手は、流石に骨が折れる。
衝撃砲を撃ち続ける鈴の目の前で、残骸を踏み越えて迫る『ノーグ』。距離を詰めてキャノン砲や高周波ブレードを展開する『ノーグ』を青龍刀で斬って捨て、拳を叩き割り、蹴り飛ばす。近付いてくる個体はまだいい、面倒なのは遠距離から砲撃支援を繰り返す個体である。
「いい加減!鬱陶しいってのよッ!!」
周囲から囲んできた『ノーグ』に、身を捩った鈴が青龍刀を一閃する。僅かに出来た群体の隙間を抜け、破壊したばかりの『ノーグ』の胴体を掴んで飛び込む。先程から砲撃を繰り返していた個体を捉えると────そのまま投げつけ、衝撃砲でまとめて爆散させる。
背後から鈴に高周波ブレードを叩き込まんとした『ノーグ』数体、それは横から放たれた散弾を直接浴び、破砕する。両手にショットガンを手にしたシャルロットが、そのまま鈴の背後へと回り込み、彼女の死角をカバーした。
「………これだけやっても、まだ減らないや。やっぱり、全戦力を投入してるみたい」
「ホント、ジリ貧ね。エネルギーパックがあるとはいえ、このままじゃ不味いんじゃない?」
「その心配は大丈夫みたいだね」
そう呟くシャルロットと鈴は、オープンチャンネルから響く相手の回線を耳にする。プラント21を防衛する彼等の様子には、焦りらしきものが見え始めていた。
『………おい!半蔵様やジード様への要請はまだか!?あのお二方なしでは、ISには勝てんぞ!?』
『駄目です!全域に通信障害!外部への救援すら出せません!』
『何だと!?………そうか、これも仕込みの内か!』
後方で待機する国連軍、もとい風影やエリーゼの仕込みで、彼等は救援を呼ぶことすら出来ない。遠くで戦闘している主力二人がそれに気づくまで時間が掛かる以上、事態は最悪に等しかった。
だが、それでも。仮にも軍の人間もいるからか。絶望的な空気の中でも、彼等は諦めず光明を見出していた。
『────全砲台展開!小型ミサイル一斉掃射!ありったけの無人機を出せ!奴等の足を止めろぉ!』
『それでは内部の防衛が出来ません!プラント内の防衛戦力すら使うことに………!』
『突破されてしまえば元も子もない!相手はIS!撃破は無理だ!兎に角数で時間を稼ぐしかない!大尉が、「ギガント Mark-Ⅳ」が出るまでの時間を作るのだ!!』
「………このまま放っておくと面倒そうなのが出そうね」
「だね。早く終わらせて、一夏達と合流しないと」
目の前に群がる『ノーグ』の大群。それに加えて小型ドローンや砲台が展開され始めていく。これは骨が折れる、と思っても焦りはしない。シャルロットと鈴は互いに笑い、目の前の大群へと挑みかかるのだった。
◇◆◇
『………機体は本来無人機ですので、操縦は初となります。大尉自身を接続する為、脳や全身の負担………最終的に撃破された場合、生存は不可能です』
『御託はいい。機体の調整は何処までいっている』
『────疑似神経回路接続。機体シンクロ率、90%。本来以上のフルスペックを発揮できると、断言しましょう』
『よかろう…………今より、このプラントは放棄する。お前達はこの場で退き、アナグラムへと合流せよ。私は、あのお二方がお戻りする時間を稼ぐ────可能であれば、奴等を無力化する』
『大尉…………ご武運を』
『………お前達こそ、無事であれ』
『────ヴァロン・デギム。ギガント Mark-4、出撃する』
◇◆◇
「………これで粗方倒し切ったな」
「ああ。早く鈴やシャルの援護に行かないと………」
砦のように張り巡らされた兵器、プラントに配備された大型砲台や『ゼッペル』を全て破壊した一夏と箒。一息ついた二人は休む間もなく、離れた場所で無人機と戦う仲間の元へと向かおうとした。
だが、その瞬間。二人は即座に勘付いた。すぐ隣の外壁。巨大な壁越しに感じる、大きな熱源。それが凄まじい速度で此方に近付いてることに。
「────一夏!」
「ッ!!」
即座に飛び退いた二人の前で、外壁が勢い良く吹き飛んだ。戦車の砲撃やミサイルでもびくともしないはずの外壁が見事にひしゃげて転がる中、外壁を吹き飛ばして現れた『ソレ』は白煙の中から姿を見せた。
────四脚の異形、と呼ぶべき有様。複数の関節を持つ脚部を持つ下半身ユニットは甲虫のような形状をしている。何より異質なのは、辛うじてヒト型に見えなくもない上半身のユニットだ。人間のような胴体と頭部を有しているのは分かる。しかし、腕部がある部位は空洞であり、胴体ユニットを囲うように複数の武装が鎮座している。恐らく、換装型なのだろうか。
全体の大きさだけでも、ISを纏う一夏や箒を軽々しく凌駕している。此方を見下ろすように不気味な単眼を輝かせる兵器から、オープン・チャンネル越しに言葉が響いた。
『────聞こえるか、侵略者達よ。私はヴァロン・デギム』
「っ!この声、コイツが!?」
『私は逃げも隠れもしない、我々が貴様らに屈することはない。我が意志、我が力を、骨の髄まで叩き込んでくれる────この地に土足で踏み込んだことを、絶望と共に沈むがいい!』
ガシャンッ!とせり上がった武装が胴体に接続する。一つの腕へと変化した武装────大型キャノン砲『ヴァルカンキャノン量産式』から、グレネードを叩き込む。咄嗟に回避した一夏達の居た場所を、爆炎が包みこんだ。そんな彼等に、大型の重機────『ギガント Mark-4』が迫る。巨体から見違えるほどの、機敏さで。
「ッ!速い!?」
凄まじい重量による突進は、近くの瓦礫を容赦なく塵へと変えた。横へ飛んだ一夏が左手の『雪羅』を起動、ビームクローで切り裂こうとする。
────しかし、ガシャコン、と音を立てた胴体部に武装が連結される。それは光の障壁もといビームバリアを展開すると、『白式』のビームクローを相殺した。驚くしかない一夏にギガントMark-4は前脚を振り上げ、叩きつけんと力を込める。
「させるものか────何!?」
そんな前脚の一撃を受け止め、穿千のビーム砲を放とうとする箒。しかし、ギャリリリッ!と地面を滑り出した『ギガント Mark-4』は撃ち出された2つの光を掻い潜り、大型キャノン砲を無造作に撃ち、爆裂を引き起こす。
『…………姿を隠したか。何と姑息な』
────近くの瓦礫の陰に隠れた一夏と箒は身を潜めた。不意を突くのは本意ではないが、手段を選んでいられる相手ではない。攻撃のタイミングを見計らっていた一夏と箒の二人に、突如チャンネルから通信が届く。
『苦戦しているようだな、織斑一夏、篠ノ之箒』
「っ、風影さん……!」
『事情は此方で観測している。敵機はアナグラムが開発した兵器の一つ、ハイエンドシリーズだ。搭載されている兵器の火力はISにも匹敵する。幹部の次に面倒な兵器だ』
それと同時に、二人のISに送り込まれるデータ。従来の戦場で出ていたギガントシリーズ、その最新型だと思える程の機体スペックだ。だが、無人機であれば恐れることはない────無人機であれば、の話だが。
『何より、あの機体は本来無人機であるものを改良している。無人機のAIを搭載した有人機だ。通常よりもスペックが上がっているのは、恐らく生体リンクしたからこそだろう』
「………有人機?ということは、あの兵器には人が?」
『そう言えば、気づいていないのか。あの機体は、人間が乗っている。搭乗者は、ヴァロン・デギム大尉…………アストール共和国から離反した派閥の首魁だ。手心は不要、ここで撃破しろ』
「げ、撃破って………」
突然の命令に戸惑う一夏、隣にいる箒も迷いを見せていた。無理もない。生体リンクとは八神博士が開発した技術の一つであり、人体と機械を繋げ、人が機械を操作するという技術だ。この技術は一時期発展すると思われたが、八神博士が見つけ出したある欠点により、凍結されることになった。
────機械との生体リンクが強まるほど、人体に伝わる影響が大きくなる。生体リンクを繋げたまま機体を破壊してしまえば、そのダメージは人体に伝わってしまう。最悪の場合、操縦者を殺しかねない。
だからこそ、淡々と下された撃破命令に素直に頷けなかった。相手を殺すということへの忌避感は、どうやっても拭えないのだから。覚悟していたものだとしても、簡単に割り切れるもなてはない。人を殺すということに、慣れることはあってはならないのだから。
────そんな二人の隠れていた瓦礫が、砲撃によって吹き飛ばされる。レーダーの探知で此方に気付いた『ギガント Mark-4』は四脚を地面に突き立てながら、迫ってくる。背中の砲筒から射出したミサイルの弾幕を『穿千』で消し飛ばす箒だが、直後鋭い前脚の一撃を直に受けてしまう。
「ぐあっ………!」
「っ!箒ぃ!!」
そのまま巨体で押し潰そうとする巨体から、箒を助け出す。戦うことへの迷いは、傷つきそうになった幼馴染の姿を見たことで多少は晴れた。彼女が無事なのを確認してから、一夏はそのまま『ギガント Mark-4』へと斬り込んでいく。
「う、おおおおっ!!」
『────ぬぅ!?押されるのか!?このギガントが!』
腕を換装して展開された巨大なビームブレードと、雪片弐型の衝突。刃の大きさや威力はギガントの方が圧倒的に上、にも関わらず重機は白式を打ち負かすどころか、逆に押し込まれていた。
そのまま押し切ろうと握る手に力を込めた一夏の目の前で、ギガントの下半身のユニットに連結した二門の機関銃が火を吹く。咄嗟に『雪羅』のシールドで止められたがその隙は大きく、『ギガント Mark-4』は脚部のモーターを走らせ、スライド移動していく。
距離を取ろうとする『ギガント Mark-4』を追従し、瞬時加速で肉薄する一夏。一気に背後に周り無力化しようと雪片弐型で脚部を切断しようとするが、即座に胴体を回転させたギガントが腕部に連結していた大型ビームブレードで受け止める。
そのままキャノン砲を直接叩き込もうとしたのを狙って────『雪羅』のビームクローを展開、そのままキャノン砲を腕ごと切り裂いた。
『────ぐぅ!?やはりIS、幻想武装でもなければ相手にならんということか………!』
「その声、やっぱり中に居るんだな………!」
『────貴様、子供か』
爆散した腕を切り離したギガント。オープンチャンネルに響くその声に、一夏は回線を合わせて操縦者の存在を再確認する。その声を聞いてようやく、相手も気付いたらしい。険しく低い声が、通信越しに響き渡った。
『まだ若い、学生か。学生を戦場に動員するなど、何処までふざけた奴等だ。国連め』
「………投降して下さい。投降してくれれば、これ以上こんなことにはならないはずです」
『投降、せよ………だと?』
震えた声でそう呼び掛ける一夏に、声の主────ヴァロン・デギムは噛み締めたように呟くと、大声で笑い出した。その笑い声に、一夏は思わず何が可笑しいんだと怒鳴ってしまう。しかしすぐに、笑いを止めたデギムが険しい声で問い掛けた。
『学徒よ、貴様には覚悟はあるか』
「………覚悟なら、俺にだってある。だからこうして、ここに立ってるんだ」
『なればこそ!理解るはずだ!私の覚悟を、信念を!!命を捨ててでも果たせねばならぬ使命が、人にはあることを!!』
そう叫び、デギムは『ギガント』を駆り、一夏へとビームブレードを振り下ろす。雪羅のクローでその刃を受け止めながら、雪片で斬りかかる。切断された方の腕を換装し、多数式ビーム砲の雨を撃ち込んでいく。
脚部を破壊されても尚、『ギガント Mark-4』は揺るがなかった。ビーム砲を破壊され、苦悶の声を漏らすデギムに────耐え兼ねたように、一夏は張り裂けるように叫ぶしかなかった。
「お願いだ!投降してくれ!これ以上やっても、アンタが殺されるだけだ!!そこまでして何の意味があるんだよ!?アンタには、居るんじゃないのか!?仲間が、部下がいるんだろ!?」
『いるとも、彼等はいずれ使命を果たす。案ずる必要はない。私は私のすべきことを、貴様達を止め、この地を守ねばならぬ────閣下との約束を、私が果たせねばならないのだッ!!!』
────ヴァロン・デギムが反逆したのは、奴の主が原因だろう。アーリア中佐、アストール共和国の指導者の実子であり、ヴァロンは中佐の育て親だった。軍部を粛清したのも、中佐を売り渡したことへの鉄槌だろう。
事前に伝えられたその情報を思い出し、一夏の握る手が緩みかけた。それでも、ここで戦意を喪失しなかったのは、未熟な自分なりの覚悟があったからだろう。
『白式』の超加速で押し飛ばしていく。巨体を物ともせず吹き飛ばし、壁に叩きつけられる『ギガント Mark-4』。それでも立ち上がり、ビームブレードの出力を最大限に引き出す。
『────我が国は、長い間虐げられてきた』
剣戟の中、デキムは口走る。
噛み締めるような怒りと憎悪、それ以上の強い意志を伴った言葉。今も一夏達へ向けられたものではない、彼等の背後に居る────こんな状況を用意した、大人達へのものだ。
『世界の中心を気取る強者に利益を貪られ、都合の良いように利用されてきた。閣下はそんな状況に置かれた祖国を護ろうと全力を尽くしておられた。そんな閣下を────富に目の眩んだ国賊どもが手に掛けた!!』
軍人として正義感のあった、娘のように思っていた上官。この小さな国を愛し、救おうと必死に抗い続けた彼女を────革命だと宣うテロが、その命を奪い去った。
それが、彼女の存在を疎んだ軍部の画策したシナリオであり、プラントを手に入れようと共和国を取り込もうとした国連の策略だと知ったデギムは、激しい憎悪とそれを上回るほどの義憤によって立ち上がった。死に瀕した際の彼女の言葉を聞き、ヴァロン・デギムは世界と戦う決意を秘めた。
『私は閣下の意思を、閣下の愛した祖国を護るために、ここにいる!命など惜しくはない!そんなモノで揺らぐほど、浅い覚悟ではない!────アストール共和国を!閣下の愛した祖国を護る!この地を、貴様等に奪わせてなるものかッ!!』
機体性能では圧倒的に白式が、一夏のほうが上だ。それでも攻めきれないのは、異様なまでの覚悟と気迫を放つデギムに気圧されていたからか。最大出力まで引き出された巨大なビームブレードに押し込まれ、一夏は圧倒されていた。
────そんな彼の背中を押したのは、良く知る少女であった。
「一夏ぁっ!!」
多連装ビーム砲が収束したかと思えば、その武装を鋭いビームが撃ち抜く。爆散した腕をパージしたギガントや一夏が視線を向けると、何とか再起した箒が穿千で攻撃をしたのだ。そのまま立ち上がり、彼女は及び腰であった幼馴染に檄を飛ばす。
「男なら、男なら!戦うことに迷って、なんとする!!」
「…………箒」
情けない、と未だ圧倒されていた自分を恥じた────そして、すぐに迷う心を叱咤し、激を込める。 迷わず、戦え。この武器を取った時点で、覚悟はあったはずだ。相手に同情して戦意を無くすなど、彼女の言う通り男らしくない。
これ以上、幼馴染の前で情けない姿を見せていられないな、と。一夏は改めて決意を確かめた。そして、雪片を握り直した一夏の存在を思い出した『ギガント Mark-4』の、デギムの視線と交差する。
『────ッ!!』
唾を呑んだデギムが、目の前の少年の変化を実感する。学生なんか、と決め付けられない。一人の戦士の眼差しだ。迷いすら無い、勝利をもぎ取ろうとする男の眼に────デギムはそれ以上の言葉を口にはしなかった。
代わりに、最大出力に展開したビームブレードを勢い良く振り上げる。この一撃で決める、そう言わんばかりの一撃は────一瞬で過ぎ去った。
────ビームブレードを展開した腕が宙を舞う。転がった腕に連結した刃は周囲の瓦礫や残骸をことごとく切り裂き、ようやく機能を停止する。両腕を破壊された『ギガント Mark-4』の胴体に、深い傷が刻まれていた。それは、一夏が放った、もう一つの斬撃であった。
『ぬ、オオオオオオオオオオオオオッッ!!!!』
生体リンクによるダメージ共有が届いたのだろう。苦悶に満ちた声を響かせたデギム大尉の声が途絶え、ギガントがようやく音を立てて崩れ落ちた。終わったと、気を抜いた一夏は駆け寄ってきた箒を見て、苦笑いする。
「何とか、勝てたな」
「馬鹿者!あんな押されていたのに、勝ちと呼べるものか!」
「…………まぁ、そうだよな」
心配させおって!と憤慨する箒の言葉を受け、一夏は静かに飲み込む。確かに、自分が勝ったと自惚れられる気分ではない。相手の言葉を真に受け、戦意が揺らぎかけていた。箒の呼び掛けがなければ、本当に負けていたかもしれない。
ありがとうな、彼女に告げようとした────その瞬間。
『────何をしているお前達!敵はまだ生きているぞ!!』
通信に響き渡る、風影の怒声。
その言葉に、は?と二人が目を見合わせた直後、轟音が生じる。瓦礫の山を押しのけ、崩れ落ちたはずの『ギガント Mark-4』が迫っていた。
『あが、あァぁりあか゛っかぁ゛ァアああぁあアアア────ッ!!!』
「っ!コイツまだ………ぐあっ!?」
「ぐっ………一夏!?おのれ、コイツ!」
両腕を失った胴体が火花を散らし、下半身のユニットに連結した前脚を二人に叩きつけた。甲虫の脚部と呼ぶべきソレは一夏と箒を地面に突き刺すように振り下ろされ────二人をその場に縫い付けるように、押さえ込む。
伝達したダメージを受けても尚、気絶から目覚めたデギムの行動は早かった。彼は即座に機体に組み込まれたプログラムを操作し、胸部の装甲の下に隠れた装置を起動させる。敵との相打ちを前提とした、自爆装置を。
『私は………ッ!閣下!約束を、閣下────果た、さねばぁッ!!』
見誤っていた、と一夏は我ながら理解させられた。良く分かっていたはずだ、追い詰められた人間の底力を。覚悟を振り切った人間の、強い意志というものを。
だが────どのみち、デギムの望みは果たされない。決死の覚悟の巻き込みは、叶わなかった。
【CHANGE────BATTLE HALBERD】
「何、やられてんのよ」
機会音声と共に、飛来する影。人影の主である女性、陸奥は軽装スーツを身に纏い、その両手に連結したハルバード型の武装を手にしている。
彼女は飛び降りてくると同時に────ハルバードを振るう。着地と共に振るわれた戦斧は一瞬にして、二人を地面に押さえつけていた脚を膾切りにした。そして、ハルバードを再度振るう。目に見えぬ速さで振るわれた槍斧の先には、強制的に胸部から引き剥がされた自爆装置が引っ掛けられていた。
自爆装置を遠くに放り捨てた直後に爆発する。そんな様子を尻目に溜め息を吐いた彼女に、為す術を失った『ギガント Mark-4』が、デギムが特攻する。
『アーリア閣下!私は、貴方の臣下としてッ────』
発狂したように突っ込む有人機に────陸奥は一切の躊躇なくハルバードを突き立てた。装甲を穿ち抜いた刃が、赤く染まる。胸部をハルバードに貫かれた『ギガント Mark-4』は、今度こそ機能を停止させた。それは、操縦者の命が完全に絶たれたことを意味している。
いつの間にか、戦いの音が消え去っている。既にプラントを防衛する無人機や兵器はすべて破壊したのだろう。血に塗れたハルバードを抜いた陸奥が、平然と周りを見渡す。
「…………これで、全滅ね」
「………師匠。俺は」
「────迷ったことを後悔してるなら、お門違いよ」
そう言って、陸奥は一夏を睨んだ。睨んだというには、敵意などが無い眼差しであるが。淡々と頬に付いた返り血を拭い、彼女はハルバードを血を振って払う。
「殺し殺されるのが戦場よ。国連はISを軍事利用したいけど、殺しをさせたいわけじゃないの。そういう汚れ仕事は、私達みたいな連中だけで十分……………ただまぁ、気を付けることね。大事なものを守る時に、今みたいに迷ったら全てを失うんだから」
「…………」
「説教はそれで終わり。後は未熟な自分なりに答えを出しなさい」
彼女の指摘に、一夏は神妙な顔持ちで応えた。そうしている間に同じく無人機を処理し終えた鈴とシャルロット、陸奥と同じく突入してきた長門と合流する。二人は一夏の様子に気付き何か言いたげであったが、一夏自身の態度にも勘づいており、敢えて聞かないでくれたようだ。
『────プラント21の防衛戦力掃討を確認。それと、一つ悪いニュースがある』
作戦完了の報告をすると同時に、風影からの報告が来る。どうやら事態は予想していたものよりも、面倒な状況だと思われる。
『本来、十数分は時間稼ぎ出来るはずだったアナグラムの主力メンバー二名が、無人基地を制圧した。予定よりも早い対応だ。当初の迎撃を中止、奴等が戻ってくる前にプラント内の残存勢力の撃滅を任せる』
『補給用のエナジーポッドは陸奥さんや長門さんお二人がご持参しています。それでISのエネルギーを補充後、即座に作戦行動に移って下さい』
了解、そう答えた一同は即座に準備を始める。二人が持ち込んだ簡易式ISエネルギー補充ポッドにより、今回の戦闘で損耗したエネルギーを一気に補充する。たった数分しか無かったが、それでも必要なものであった。
万全の用意を整えてから、一夏達はプラント内への捜査を開始するのだった。
◇◆◇
────サウジアラビア諸国、元アストール共和国領内無人稼働基地。
国連により再設備されたこの場所は、襲来するアナグラムの主力メンバーの足止めの為に戦力を万全に配備していた。事前に回収していた戦闘データにより、十五分以上の足止めが出来ると国連軍は信じ切っていた。
────結果、計測された時間を下回る十分内で殲滅された。跡形もなく、防衛兵器や設備だった残骸の山の中で、この惨状を起こした二人がいた。
「フム…………嵌められたみたいでござるな!ジード!」
「…………あぁ?」
一人は、黒衣に身を包んだ少年、名を半蔵。口や肌を見せないその姿は、日本で言う忍者の装束であり、コテコテな口調は彼がハマっているということであろう。両手で印を結んだ少年の一言に、もう一人の少年が不機嫌そうな声を漏らしていた。
その少年は、金髪碧眼の美男子────ジード。端から見ればイケメンと呼ばれる部類だが、そんな美貌も不機嫌そうに歪められたことで粗暴さが一層際立っている。全体的に、血気盛んな不良のような雰囲気を漂わせていた。
「拙者たちを誘き出し、プラントを制圧する………プラントは完全に占拠されたようでござる。協力者のデギム殿も死亡したと、プラントから撤退した士官から報告を受け取ったぞ」
「………ハッ、この鉄屑どもで俺達を引き離して、その際に集中攻撃って訳か。正面からやる気も無しにコソコソと………弱いクセに臆病者なゴミクズどもが」
足元の残骸を蹴り飛ばし、唾を吐き捨てるジード。不機嫌そうに顔をしかめる相方を見つめた忍者少年こと半蔵は険しい面持ちで、プラントのある方を見据えながら呟いた。
「…………ジードよ、疑問に思わぬか」
「あ?何がだよ」
「此度の国連、随分と力を入れてるだろう。拙者たちが出ているにも関わらず、執拗に干渉を繰り返している………開かずの扉の奥にある『ナニか』を、奴等は知っておるのでござらぬか?だかはこそ、IS学園に援助を求めてまで、あのプラントを欲しがっているやもしれぬ」
「…………くだらねぇな」
む?と半蔵は不思議そうに振り向く。機嫌の悪そうなジードは足元に転がっていた無人機の頭部を踏みつけ、そのまま押し潰す。飛び散った破片を蹴り飛ばし、当たり前だと言わんばかりに告げた。
「奴等が何を企んでようが、知ったことじゃねぇ。どのみち、それを無駄になる…………『アナグラム最強』のオレ達が、全部ブッ潰せばソレで済む」
「────フッ、流石は相棒。拙者も深く考え過ぎでござったな。確かに、拙者と相棒は負け知らず。無敵の風魔ブラザーズとは、拙者たちの事であるからな!」
「またそのネーミングセンスかよ。………好きだな、そういうの」
呆れたように呟くジードに、半蔵は「愚問!否、必然!」と嬉しそうに笑う。ただの友情とは違う、それ以上の信頼関係を示す二人。その場から動かずに世間話に花を咲かせていた二人は、誰かを待っているようだった。
そして、その相手が現れた。
瓦礫の山に踏み込んだ何者かを視認した二人は、力を抜いて笑う。待っていた、と言わんばかりに。
「…………アンタがわざわざ来たってことは、相応の相手か?それとも、奥にある『ナニか』が掃討ヤベー代物なのか?」
『────』
「まぁ、いいぜ。国連の鉄屑どもじゃ退屈だったんだ。温室育ちの甘ちゃんどもなら、少しはオレ達を楽しませてくれるかもな」
「正しくその通りでござるな!誰が相手であろうと、拙者たちが蹴散らす以外無し!さぁ、どれほどの強者か、心待ちでござる!」
前菜の戦いは簡単に終わった。
次こそはフルコースと呼ぶべき相手。アナグラムの主力メンバー、その中でも実戦慣れした上位メンバーが、プラント21を再び奪還すべく、動き出した。
『独自用語解説コーナー』
龍夜「…………はぁ、全く何で俺がこんな講義みたいなものを」
ラミリア「まぁまぁ!マスターとこうした機会ができるのは、私も嬉しいし!一緒に楽しもーよ!」
龍夜「仕方ないか。だが、こっちの作業もある。片手間でやらせて貰うぞ」
龍夜「このコーナーは小説内で語られる独自の用語を説明する所だ。第一回ということからして………まだやる予定があるのか?まぁいい、まずは一つ目の独自用語『無人機』についてだ」
ラミリア「?無人機ってそんな特別なの?普通に有名だと思うんだけど」
龍夜「………厳密には、自律稼働無人兵器という分類だな。八神博士が最初に提唱した理論、『小型化された人工知能』を搭載した無人兵器が、この小説内で無人機と呼ばれるものだ」
ラミリア「へぇ、人工知能かぁ。私みたいにお話できるのかな?」
龍夜「八神博士製の物なら可能かもな。無人機にも区分けされるものがある。八神博士が運用していた無人機には、自己学習と情報共有に秀でた人工知能を搭載し、人間以上の完璧な連携を実行させられるほどに高性能だった。だが、現在運用されている無人機は違う。八神博士の起こした『第三次世界大戦』後、全ての無人機に組み込まれた人工知能にリミッターが課されることになった。それにより、現時点の無人機はパターン化された行動と下された命令でのみ動くものばかりだ」
ラミリア「ん…………それって、昔のほうが成長できたけど、今のは成長できないようにしてるってこと?それじゃあ性能落ちてないの?」
龍夜「まぁ、性能は落ちたな。本来以上の性能を引き出そうと、今も国連が主体となって無人機の開発を、IS開発と並列して行われている。……………だが、それでも尚、無人機の量産や運用は繰り返されている。ISには敵わないが、無人機は歩兵や戦力として今もアナグラムや国連で運用され続けている」
龍夜「以上が、今回の用語の解説だ。疑問があれば送っててくれれば答える…………そろそろ作業に戻るから、後は任せた」
ラミリア「了解ー!そうそう!このコーナーが続いて場合、ゲストの人をお呼びすることもあるんだって!皆を連れてこれるかも!それじゃあ、次回もお楽しみに〜!」