IS 蒼き宙の向こうへ   作:虚無の魔術師

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あけおめって小説で言ってなかった!!!!!!(今更)


第102話 風魔招来

プラント21内部。

巨大な砦と思えた要塞の内部は、正しく工場であった。辺り一帯に配備された無数の設備は、無人機を創り出すためのものばかりである。今思えば、先程破壊した無人機はこの工場で製造したものなのだろう。

 

 

「………チッ、情報を残してないか。現存していた無人機も、全部持ち出されたみたいね」

 

 

コンソールを操作していた陸奥は、何一つ残ってない痕跡に舌打ちを隠せない。無数の設備はあれど、開発されているはずの無人機はすっからかんだ。恐らく、離脱したデギムの配下達が持ち逃げしたのだろう。今更追い掛ける余裕もない。陸奥は周囲を捜索してきたばかりの鈴とシャルロットに呼び掛ける。

 

 

「────(ファン)、デュノア。敵は残ってないのよね」

 

「はい、陸奥さん。さっき周りを見てきましたけど、隠れてる敵は居なかったです」

 

「…………何一つない。コレで作戦終了なんじゃないの?他に何か探すものでもあるの?」

 

 

ISを身に纏う鈴とシャルロットが、コンソールから手を離した陸奥に伝える。大規模な広さのプラント内をISのセンサーで捜索して回ったが、残存戦力は見られない。それでも尚、上から下される命令は続行。これ以上何をするのかと怪訝そうな鈴に、陸奥は肩を竦め、答えた。

 

 

「ついさっき、命令が来たわ。可能な限り、プラント内の捜索をしろとのことよ。目的のモノを見つけるまで、離脱は許可しないって話」

 

「目的のモノって、それって何なの?」

 

「…………さぁ、私が知る訳無いでしょ」

 

 

あくまでも、末端である自分に知る由もない。何なら教えて欲しいくらい、と言わんばかりの彼女の態度に二人は言いたいことを呑み込んだ。

 

いくら国連所属の特別部隊所属と言えど、上の意向すら伝わってない。むしろ伝える気すら無いことからしても、彼等が上層部からどう見られているのか明白だ。それでも反意を見せられないのは、反逆以上に付き従う理由があるからか。

 

ふと、通信を繋ぐ陸奥。国連軍専用の特別回線を使用していることから、オープンチャンネルでは話せない重要なものなのだろう。通信を受け取った陸奥は、深い溜息を漏らすのだった。

 

 

「────はぁ、全くあの馬鹿」

 

「?どうしたんですか?」

 

「二人とも、ついてきなさい。長門の方で進捗があったよ。私の馬鹿弟子が、成果を出したみたい」

 

 

◇◆◇

 

 

一方、少し前────別行動していた一同。

陸奥達のように離れて行動していた一夏と箒、長門。 粗雑かつ実の姉のように横暴が目立つ師匠から離れたことで気を楽にした一夏と二人っきりであれることに少し嬉しそうな箒。

 

先輩である陸奥とは違い、誰に対しても優しく気遣いのできる長門は出来る限り二人の邪魔をしないように気を配っていた。しかし、やはり軍人である。すぐさま異変に気付き、二人に呼びかける。

 

 

「────二人とも」

 

 

端的な合図。警戒をするように促す長門に応じて、二人はISの武装を展開する。身構えた二人を先導し、長門は扉の向こうにある空間へと飛び込む。

 

 

────その先には、広間しか無かった。装置も設備も何一つ無い。そこにあるのはただ一つの、不思議な扉であった。二人に警戒を促したまま、長門はその扉に接触する。

 

 

「────本部へ報告。対象の所在は確認できず、代わりにゲートを確認。これより解錠が可能か、確かめてみます」

 

 

そう言った長門は扉に組み込まれた操作盤を弄り始める。少し操作した後に、彼はすぐに手を離した。

 

 

「………駄目だ、厳重なロックが掛けられている。………これは、一体」

 

「どうしたんですか?その扉に、何が?」

 

「ああ、申し訳ない。君達を放ってしまった………ただ、この扉は少し厄介なものだと思う」

 

 

独りでに呟いていた長門に声をかけると、彼は少し迷ったように考えた後に、語り始めた。目の前の、何処か異質なゲートの存在を。

 

 

「この扉は、十年前のロストテクノロジーで造られたもの。っり、八神博士関連のものだと思われる」

 

「っ、八神博士の……!?」

 

「はい………ですが、この扉は普通のものではないみたいです。あらゆる解除コードを受け付けないだけではなく、長年開閉されてすらいない────何より、この材質。まるでシェルターのように、厳重です」

 

そう言って付近を探し始める長門。恐らく、関係するコンソールか何かが無いか、捜索するつもりなのだろう。一緒に捜索しようと思っていた箒は、扉を見上げた一夏に気付く。

 

 

「一夏?何をしている?」

 

「…………この扉、見たことがある気がする」

 

「なんだと?何を言っている?」

 

「確か、あの時────夢の中で」

 

 

彼は、思い出す。かつて臨海学校での戦いで重傷を負っていた時、夢の一つとして見た景色。彼はその扉を知っていた。自身の父親が、とある男性と語っている時に見られた紋様が、その扉に刻まれている。

 

無意識にだろう。その扉に一夏が触れた、途端。彼の纏う白式が強い光を発した。

 

 

「っ!?何だ!?」

 

「二人とも!一体何が────!?扉が!」

 

 

その輝きに、ようやくボーっとしていた一夏が我を取り戻す。様子に気付いた長門が慌てて戻ってくると、目の前の扉に変化が起きていた。

 

 

【────上位権限、『白騎士』のコンタクトを確認。封鎖プログラムの停止、『ゲート』を解放いたします】

 

 

突如、動き出す扉の刻印。まるで生きた液体のように流れ始めて光は刻印を伝っていき────厳重に閉ざされたはずの扉が音を立てて開き始めた。それも一つではない、何重に閉ざされた防壁がスライドしていき、最終的に開け放たれた暗闇の空間が広がる。

 

今度こそ、絶句した一同。

唖然としながら視線を向ける箒と長門に、ようやく理解し始めた一夏がふと呟く。

 

 

「今のって、俺のせいなのか………?」

 

 

「………恐らく」

 

「お、お前以外に誰が居るのだ!?」

 

ですよねー、と。

諦めたように笑った一夏は、頭を抱えて項垂れるしかなかった。

 

 

◇◆◇

 

 

そして、現在に至る。

 

 

「────で?アンタは何かした訳じゃなくて、ただ触れただけで扉が開いたって言いたいワケ?」

 

「おっ、仰る通りです………」

 

 

腕を組んで此方を見下ろす陸奥に、怯えたように答える一夏。地面に正座させられた一夏は何故こうなったのか、と己の不幸を嘆きながら、必死に弁明を口にしていた。

 

長門からの報告を聞いて駆け付けた陸奥は────それはそれは凄まじい形相で一夏に一言。

 

 

『────正座』

 

 

散々彼女にしごかれてきた一夏や、彼女との付き合いが長い長門だけが気付いた、ブチギレている証明。何故ここまで怒っているかは分からないが、こうなった彼女相手に下手な言い訳は通じない。甘んじて受け入れるしかない、と一夏は覚悟を決めた。あまりの事態に本来は同じく注意する鈴やシャルロットたちですら、長門や箒と共に陸奥を宥めようと必死なくらいだ。

 

 

「はぁ………全く、アンタはホントに問題ばっか起こすみたいね」

 

「うっ、すみません………師匠」

 

「…………謝んない。ただ仕事が増えただけで、そこまで怒ってないから」

 

「その割には、顔のシワが────」

 

「あ゛?」

 

「………ナニモアリマセン」

 

 

再度向けられた怒気に、一夏は縮こまるしか無かった。可哀想だが、これに関しては自業自得なので箒達は擁護するつもりもないらしい。こめかみをもみほぐしていた陸奥は、ふとその場にいる全員を見渡し────無線を強制的にシャットダウンさせた上で、問い掛けた。

 

 

「アンタ達、今から私の言葉を復唱しなさい────この扉は私達が来た途端に開いた。良いわね?」

 

「………?なんで?」

 

「────黙って従いなさい!アンタの頭かち割って、無理矢理忘れさせてもいいのよ!」

 

 

不思議そうな当事者を黙らせて、陸奥は呆れたように無線機を起動させ、連絡を取り始めた。その内容は先ほど復唱したものとほぼ同じである。事務的な命令に変わりはないらしく、陸奥は通信を終えた後に深い溜息をこぼすのだった。

 

 

「…………扉の奥の調査もしろ、ってさ。全く、現場の状況を理解してるのかしら」

 

「それでもやらなきゃ駄目なんですよね、先輩」

 

「当たり前よ────全員、今から地下の調査を開始するわ。着いてきなさい」

 

 

陸奥や長門を筆頭に、候補生達は開け放たれたゲートの奥へと踏み込んでいく。長年閉められていたからか、異様なまでに冷たい空気が肌を伝う。その先にどうなっているのか誰も予想は出来ないが、少なくともナニかがあることは確信していた。

 

 

◇◆◇

 

 

扉の奥にある空間を進んでいく。やはり人工的に舗装された通路が続いていたが、一層開けた場所に着くと────一同は異様な光景を目の当たりにした。

 

「…………なんだよ、コイツら」

 

周囲に転がる無人機の残骸。機能停止したソレらが、一塊のように鎮座している。最も異様なのは、無人機と無人機が殺し合っているように見えることだろうか。

 

 

「この機体………第三次世界大戦当初の機体だよ。でも、この機体は………?」

 

 

近付いて確認したシャルロットは、一つが八神博士が開発した無人機であることを悟ると、もう一種の敵対しているらしき無人機の存在に困惑する。機種を確認するが、聞いたこともない機体コードに思わず首を傾げる。

 

 

「…………『ゴースト』?」

 

「っ!デュノアちゃん!下がって!」

 

 

何かに気付いた長門が、咄嗟にシャルロットの前に出る。彼女が触っていた停止した無人機の中に、何かが居たのだ。装甲の隙間から垂れるモノに気付いた全員が一気に青ざめる。

 

 

「は、白骨────?」

 

「っ!」

 

 

機体の中に組み込まれていたのは、白骨死体であった。恐らく年月で言えば十年の時をここに置き去りにされたからか、既に腐敗を経て、骨だけになっていた。思わず吐き気を催す一夏や箒、不愉快そうな顔を隠さない鈴とシャルロット達を下がらせ、陸奥と長門はその白骨死体を調査する。

 

その過程で、ある事実に気付いた。

 

 

「…………この遺体、手足が無い。────まさか、切ったのか?」

 

 

無人機に組み込まれた人体、そのスペースは異様に狭過ぎた。棺桶というべきサイズでは、到底人間一人が入れるはしない。………人体の手足を切り落として機械に繋げれば、まだ可能だろうが。

 

 

「………どうやらこの地下には、厄介そうなものがいるみたいだ。先を急ぎましょう、皆さん」

 

 

おぞましい残骸から離れ、そう告げた長門に全員が頷くしかなかった。そうして、無人機や兵器の残骸が転がる通路を、暗闇に広がる道を進んでいく。

 

 

◇◆◇

 

 

「…………あの、師匠」

 

「何よ?」

 

 

通路を歩いている最中、絞り出したような様子で一夏が話しかけた。前を見据えていた陸奥が振り返り際に問い掛けると、一夏は自身の中にあった疑問を口にする。

 

 

「なんで俺が扉を開けたこと、黙ってたんですか?」

 

「…………」

 

「わ、私も同じく………何か事情があるとは思っていましたが、教えていただければ…………」

 

「────知られたら不都合だからに決まってるでしょ」

 

 

不機嫌そうに断言した師に一夏はえぇっと、困ったように笑う。彼と同様に分からない様子の箒を合わせた二人に、陸奥は溜め息を隠せなかった。露骨に呆れた陸奥は盗聴の可能性もない地下であるためか、淡々と話し始めた。

 

 

「アンタも既に気付いてるでしょ。白式がただのISじゃないってことぐらい」

 

「確か、解体された白騎士のコアと白式のコアが同じってことには」

 

「そっ。だったら、分かりやすいんじゃない?アンタのISが、あの白騎士だって国連の奴等が知ったら、プロパガンダにでも利用されかねないでしょ。だからよ」

 

 

薄々、というよりもほぼ確信していた。

恋愛関連に疎く、基本的に鈍感な一夏だが、真剣な話に於いてはある程度察しはいい。かつて敵対した存在────『忠臣(ハイルゥ)』や『天使(エクスシア)』が白式をそう呼んでいたからこそ、悟ったのだろう。

 

自分の纏うこのISが、かつて第三次世界大戦を終わらせた英雄にしてISの時代を齎した存在────織斑千冬が使っていたISと同一であることを。

 

 

「…………ま、『白騎士』も相当の厄ネタみたいだけどね」

 

「?どういうこと、ですか?」

 

「────アンタのISが、どうしてゲートを解除できたのかって話よ。あのゲートはそもそも、八神博士の作ったものでしょ」

 

 

言われてみれば、確かにおかしな話だ。

八神博士の開発したシステムで管理されているはずの扉が、『白騎士』の権限で開くなど、普通に考えても異常だ。篠ノ之束が創り出したはずの『白騎士』に何故権限が与えられているのか、という点も謎であるが、多くの疑問が点在していた。

 

 

「あの八神博士が自分と敵対する相手に権限なんて与えるはずがない…………もしかして、自分が殺された後を考えてのことかもね」

 

その先は分からない。だからこそ陸奥はやや投げやり的に話を終わらせたのだろう。その場にいる皆も、同じ空気だった。違ったのは、一夏くらいか。八神博士が『白騎士』に何かの可能性を持っていたと思える核心を、彼だけが抱いていた。

 

 

「…………俺、前に夢で見たんです」

 

「?何を────」

 

「────八神博士が話している時の夢を。多分、白式………白騎士を通して、夢に見たのかもしれないですけど。今思えば、あの時────」

 

 

────次の瞬間。

 

 

一夏と箒の真後ろの空間が、音もなく裂けた。ギギギ、と左右からこじ開けるようにパックリと割れた空間の亀裂から、黒い腕が伸びた。

 

明らかに、人以上の大きさの腕。機械と黒い装甲で構成されたアームは5本の指を大きく広げ、一夏と箒の二人へと襲い掛かる。

 

 

「────一夏ァッ!!」

 

「箒さん────ッ!」

 

 

そんな二人を、師が庇った。陸奥が乱暴に一夏の首根っこを掴み放り投げ、咄嗟に前に出た長門が彼女を突き飛ばし、引き抜いた二刀の剣を身構える。だが、二人の師が戦うよりも先に、巨大な腕の動きが早く──────一夏と箒を庇った二人を、手の中に呑み込んだ。

 

 

「「師匠ッ!」」

 

 

二人は武装を展開し、腕へと飛び掛かる。

だが、足元に浮かんだ亀裂から伸びた黒刃が────彼等の動きを抑え込む。即座に切り捨てた一夏と箒が助け出そうとするよりも早く、巨大な腕が空間の亀裂へと吸い込まれるように隠れた。

 

 

「師匠!クソッ!」

 

「落ち着きなさい!────シャルロット!今の!」

 

「ISの反応だった!けど、気付けなかった!あの一瞬で僕達の背後まで来てたなんて………!」

 

 

咄嗟に背中を合わせ、警戒態勢を取れるのはある程度実戦慣れしてきた効力だろう。しかし、それが相手にも読まれていたらしい。

 

────ガバッ、と。

地面が消える。いや、空間の亀裂が、彼等の足元に広がっていた。一夏達が驚くよりも先に亀裂へと落ち────視界は全く別の場所へと転換していた。

 

 

「っ!ここは────!?」

 

 

開けた空間であった。

無人機や兵器の残骸が散乱している、巨大なホール。位置的に言えば、転移した所もよりも下層。進んでいることは幸いだが、この場所に送り込まれたのには理由があるはず────警戒をしていた鈴やシャルロットの横で、一夏は相手の存在に誰よりも早く気付いていた。

 

 

「…………一夏」

 

「ああ、間違いない────親父だ」

 

 

一夏の父親、織斑数季が────『モザイカ』がここに居る。その事実に全員の顔色が変わった。全てのISのプロトタイプにしてマスターキー、究極のISである『ゼノス・アルザード』。それがこのプラント21にいる。改めて警戒を顕にした代表候補生一同。

 

 

彼等が身構えたその時、暗闇の中から声が響いた。

 

 

 

「────ん?おやおや、何と驚愕。織斑一夏に篠ノ之箒でござるな。モザイカ殿が貰い受けるという話だったハズ」

 

「あ?あのオッサン、外したって訳か。まっ、オレらにゃ関係ねーし、どうだっていいな」

 

「半蔵とジード………っ!奴等、どうしてここに────」

 

 

影から現れた二人組、半蔵とジードの存在に戸惑う箒。無人基地におびき出された彼等が先回りしていることなど有り得ない。そう言おうとして、モザイカの存在を思い出した。奴がいるのであれば、距離など関係ない。一夏達をここに転移させたように、半蔵やジードもここに戻していたのだろう。

 

 

「よぉ、テメェ等が────オレ達のいねぇ間にプラントを占拠した連中か。随分と舐めた真似してくれたじゃねぇか、えぇ?」

 

 

ケッ、と唾を吐き捨てた粗暴な少年 ジードが不機嫌そうに顔を歪める。剣呑な眼差しと表情から感じるのは純粋なまでの侮蔑と嫌悪。此方を露骨に見下した少年は、首を回しながら悪態を吐き捨てる。

 

 

「囮なんて用意してコソコソと………よっぽどオレ達の相手が怖かったみてぇーだな。天下のIS操縦者ってのも大したこと無さそーだ」

 

「…………言ってくれるじゃないの。病院に行きたいなら最初からそう言ってよね。丁重にお繰り返してやるんだから」

 

「ハッ!よく言う!ISなんてお飾りでイキってるだけの雑魚が!テメェみたいな奴をオレ達は叩き潰してきたんだ!御託抜かしやがる暇あんならさっさと掛かってこいよ!………それともオレ達に負ける可能性にビビってんのか?腰抜けどもがよォ!」

 

 

勢いよく捲し立てるジードの発言についに沸点がぶち抜けたのだろう。甲龍の拳で地面を砕いた鈴は怒りに燃えた眼差しで、ジード達を睨み返した。

 

 

「はんっ!上等じゃない!散々言ってくれた礼をしてやるわよ!アンタ達をぶちのめすことでね!」

 

「ちょっと鈴…………まぁ、しょうがないか」

 

「奴が売ってきた喧嘩だ。買わねば女が廃る────と言うべきか」

 

「いや、それ男が廃るって言うじゃ………」

 

「────ハッ!戯言ォ!お飾りで気取った女なんぞに誰が負けるか!テメェ等叩き潰して、学園に送り返してやるァ!!」

 

「フム、これも一興。元より、拙者達の目的は侵入者の排除、とこの地の防衛。その任務を果たす為にも────賊と戦う、即ち必然」

 

 

 

「さぁ────やるぞォ半蔵!」

 

「委細承知────アナグラム最強の主戦力!その二つ名が虚名に在らずと!拙者と相棒二人を以て、この地に刻もう風切の刃!」

 

二人は胸元を掴み、ローブを放り捨てた。アナグラムの戦闘スーツを身に着けた彼等は左右の腰ベルトのポケットからメモリアルチップを取り出す。

 

 

【────カマイタチ】

 

【────バロール】

 

「「『幻想降臨(ファンタジア・インサート)』!」」

 

 

手にしたチップを宙に投げ捨て、互いに受け取る。入れ替わるようにお互いのチップを手にした二人は腰ベルトの左右非対称に備えていたカオステクターにメモリアルチップを挿し込む。

 

その直後、二人の姿が包みこまれた。一つは凄まじい風を巻き起こす嵐に。もう一つは地面を割って轟く黒い雷鳴に。周囲を切り裂くような旋風と電撃を撒き散らし、二人はようやくその姿を現した。

 

 

────黒衣の装束を身に包む半蔵。身体の至る所に刃を備えている中、最も特徴的な────尻尾のような三本の鎌が目立っていた。同じ黒い布で口元を隠しているその姿は、より一層忍らしくあった。

 

────禍々しい重装甲を展開したジード。肩に見えるのは二つの巨大な砲身とミサイルを積み込んだであろうコンテナ。戦意を滾らせるように歯を見せて笑う彼の目元をバイザーが覆う。

 

 

「草木も眠る丑三つ時!今宵この地が、汝らの墓標と成り得ること!さぁ、辞世の句を────俳句を詠むがいい!!」

 

「雑魚どもが、オレ達の相手をしたこと────後悔して死ね!」

 

 

アナグラムの切り札、『幻想武装(ファンタシス)』。

二つの武装を身に纏う二人の少年達は自信に満ち足りたと言わんばかりに、堂々と立ち尽くしていた。

 

 

────当然、その時を一夏達は待っていた。いや、事前に計画していたと言うべきか。その僅かな隙を逃さずに、動き出す。

 

 

 

「────今だっ!!」

 

「!?………んだとぉ!」

 

「ぐっ!名乗らずに攻撃とは!何と卑劣な!」

 

 

『穿千』による、不意打ち。突如の強襲に二人は反撃するよりも先に回避行動を取っていた。左右に飛び退いた二人、半蔵に対して────一夏が瞬時加速で距離を詰める。

 

 

「ムッ!?此奴!」

 

「おおおおお────ッ!!」

 

 

振りかぶった雪片弐型を、半蔵は抜き放った小太刀で受け止める。そのままスラスターを最大にした一夏は突撃するように、半蔵を押し込んでいく。まるで、その場から離れるように。

 

 

「半蔵!テメェ等────っ!?」

 

「おっと、君の相手は────」

 

「────あたし達がやるってのよ」

 

 

慌てて半蔵を助けに向かおうとした彼の前に、シャルロットと鈴が立ち塞がる。苛立たしそうに顔を歪めていたジードは、彼女達の意図に気付き、すぐに機嫌を悪くさせた。

 

 

「………ハッ、そういうことか。オレと半蔵を引き離すのが目的、とはな。そんなに怖ぇか?オレ達のコンビ相手が」

 

「まぁね。君達のコンビネーション相手だと厄介だから、こうしようって決めてたんだ。だって、最強なんでしょ?」

 

 

あ゛ぁ゛? と、ジードの額に青筋が浮かぶ。

やはり半蔵とは違い、挑発に乗りやすいタイプだとシャルロットは確信する。だがすぐに怒りを沈静化させたジードはバイザーを格納し、シャルロットを静かに睨む。

 

 

「────テメェ、シャルロットって言ったな?」

 

「そうだけど、何か用かな?僕は君のことは知らないよ?」

 

「────アルベール・デュノア、テメェの父親だよなァ?」

 

「………そう、と言ったらどうするつもり?」

 

 

瞬間、ジードは空を見上げ、高笑いを溢した。首を下げた彼の顔は、狂気的な笑みを浮かべている。純粋な怒りと殺意を、火山の中で煮え滾るマグマのように、尋常ではない熱を籠もらせながら、ジードは異様なまでの敵意と殺意をシャルロットへと向けていた。

 

 

「テメェに恨みはねぇ。だが、あの男に────デュノアには借りがあるんだなァ。テメェの首を土産に、あの男のタマを取りに行くのも悪くはねぇ」

 

「…………あの人に、何か恨みがあるんだね」

 

「ハッ、テメェに語る口はねぇ、温室育ちのボンボン。大人しくオレに負けて死ね。それがテメェの最善だ」

 

「………さっきから聞いてれば、随分と偉そうね。お仲間が居なくて大丈夫なの?二対一で負けたって、言い訳にはならないわよ」

 

「────テメェ等こそ、何勘違いしてやがる」

 

 

シャルロットへの殺意を感じ取った鈴が、険しい顔でそう詰め寄る。しかしジードはそんな彼女の言葉を鼻で笑う。その口元に浮かんだ笑みは、やはり怒りを滲ませていた。

 

 

「たった二人で、このオレに勝てるって────それが勘違いだって言ってんだよ!雑魚ォッ!!!」

 

 

ガコン!!と、背中に装備していた砲身を展開するジード。両腕で其々2門抱えた彼は雷鳴の如く怒号を響かせ、背中のコンテナから無数のミサイルを射出した。

 

上空から降り注ぐ弾幕に、飛び退いたシャルロットと鈴。身構えた二人の前に、爆炎から飛び出したジードが着地する。両腕の砲身を構えながら、彼は吼える。

 

 

「身の程を知らねぇ雑魚どもが!オレはテメェ等みたいなエリート気取りのボンボンを潰してきたんだ!ぬるま湯の温室育ちと格の差ってヤツを、骨の髄まで焼き刻んでやるよォ!!」

 

 

直後、両腕に抱える砲門が火を吹く。再び、彼女達の前に爆煙と破壊の雷鳴が炸裂した。

 

 

◇◆◇

 

「────まずは非礼を詫びたい。相棒が無礼千万を働いてソーリー」

 

「………え?あ、別にいいって。俺は気にしてないし」

 

 

砲撃と爆撃が響く中、半蔵は一夏や箒に深く頭を下げていた。口調は変だけど、意外と悪い奴では無いんだな、と一夏は評価を改めていた。

 

 

「相棒も、昔はああでは無かったのでござる。拙者達は『放逐孤児(ホームレス・チルドレン)』故、色々と他者を信用できぬ身であるのだ。特に相棒はそれが顕著、元々『隔絶区域(コードレス・エリア)』に愛着があった故に、周りへの当たりが強いのだ。お察し、お願い致す」

 

「っ!お前達も『隔絶区域(コードレス・エリア)』にいたのか!?」

 

「ムッ、そうであるが…………あぁ、まさか!サクラ殿やフユキ殿と既知でござるのか!そういえば、そういう話も聞いた気がするでござる!」

 

 

まさかの知り合いであったことに驚く一夏や箒だったが、半蔵は昔の仲間たちは元気にしているか、と嬉しそうであった。どうやら一時期は一緒にいたが、意見の相違で袂を分かったらしく、ジードと共に気にしてはいたらしい。

 

しかし、すぐにあることを思い出した二人の顔に翳りが射す。彼等は忘れていなかった。あの場所で、最終的に半蔵達の仲間の一人の命を奪っていたことを。

 

 

「…………ごめん」

 

「────よもや、士の事でござるか。ならば、『それ』は不要でござる。どのみち、士も永くはなかった。互いのやりたいことをやった、それだけの話でござるよ」

 

 

暗に気にするな、と半蔵は気さくに笑う。

仲が悪い訳ではなく、きっと本心で心配してくれているのだろう。しかしそれでも考えずにはいられない二人を見てか、少し思い悩んだ半蔵は────何処か快活と、断言した。

 

 

「よし!拙者達も戦うでござるか!」

 

「…………は!?」

 

「拙者達は敵対関係。一々難しいことを考えるよりも、相棒のようにただ戦いに身を費やすのも、時には良薬。元より拙者の使命は、この先にあるナニカの破壊────汝等とは、戦わずして目的は果たせぬ。それは、二人も同じであろう?」

 

「…………成程な、半蔵と言ったか。それに関しては同感だ」

 

「分かった。その代わり、手加減は出来ないからな!」

 

 

そう言って、一夏と箒は飛び出す。刀剣を握る二人の攻撃を、半蔵は両腕に展開した刃で受け止めた。全身に刃物を備える忍は、一切の自信を崩さない。

 

 

「元より手加減は不要!こう見えても、拙者は強いのでな!二人相手だろうが、敗北ノーエイジ!この半蔵の晴れ舞台────鎧袖一触が如く、風魔の無双劇!ご照覧するがいい!」

 

 

両手の指で印を結び、半蔵は凄まじい烈風を引き起こす。巨大な嵐を巻き起こした忍は、二人の代表候補生へと万物を切り裂く風刃を放つのだった。




オリキャラ紹介

『半蔵』
アナグラム所属の幹部、リベリオンの一人。その中でも無敵のコンビとされる『風魔招来』その人。一応日本人だが、元孤児。日本の文化、特に忍に惚れ込んでおり、自身のアナグラムの忍『風魔』として振る舞っている。難しいことを考えない快活な性格でもあり、他者との交流が得意。昔ながらの親友であるジードとコンビを組み『相棒』と呼んでいるなど、他とは一線を画す程の信頼を覚えている。

幻想武装は『風魔旋刃 カマイタチ』。

『ジード』
アナグラム所属の幹部、リベリオンの一人。その中でも無敵のコンビとされる『風魔招来』その人。外国人であり、元孤児。過去の経験の数々から他人を敵視し、敵に対して過剰なまでの敵意をぶつけることが多い。とにかく荒みきっており、プライドも高い。IS学園の学生を温室育ちと見下し、国連の命令に従う彼等を侮蔑している。中でも、シャルロットに対しては個人的な事情もあり、殺意すら向けている。アナグラム以外に心を開かない気難しい人物だが、コンビを組んでいる半蔵に対しては圧倒的な信頼を預けており、自分と半蔵を『無敵』だと心から自負している。

幻想武装は『災禍魔神 バロール』

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