IS 蒼き宙の向こうへ   作:虚無の魔術師

112 / 116
久々の更新となります。………色々とお待たせして申し訳ありません!それはそうと感想と評価いただけませんかね(乞食野郎)


第104話 漆黒の剣

「ちょっと!一夏!一体何が………!?」

 

「あの人………一夏のお父さん、なの?」

 

 

相手をしていたジードが突然消えたことで鈴とシャルロットが合流し、その男の存在に驚きを隠せなかった。既に一夏から『モザイカ』の正体には聞かされていた。だが、改めて生身の姿での対面は初めてである。

 

 

「…………何のつもりだ?一夏」

 

「何って、どういう意味だよ」

 

「何故ここにいると聞いている。私が言ったことを、忘れたとは言わせはしないぞ」

 

「っ!それは此方の台詞だ!!俺だって、親父から何も聞けていねぇよ!!どうして俺達の所から居なくなって、こんなことしてるんだ!?答えろよ!!」

 

「────世界の為だ」

 

 

それが嘘であることは、実の息子である一夏だからこそ理解できた。まだごまかすつもりか、と怒りを強める一夏が数季に食いかかる。だが、父親は毛ほども気にした素振りもなく、淡々と問い返した。

 

 

「────言ったはずだ。ISを捨てろ、と。さもなくばどうなるか…………忘れたお前ではあるまい」

 

「忘れているもんか……!知った上でここにいるんだ!」

 

「………それがお前の決断か」

 

 

何処か、 迷うような感情を一瞬だけ見せた。しかしそれも一瞬。すぐに無表情を保った父親の変化に、怒りを顕にして詰め寄っていた一夏は気付けない。そんな実の息子を睨み、織斑数季は魔剣を────待機状態のゼノス・アルザードを軽く振るう。

 

 

 

「────ならば、来い。斬るぞ」

 

 

放たれるは、本物の重圧。

殺気が質量を伴っていれば、一夏達を押し飛ばす衝撃ともなっていただろう。怯んだ自分自身を鼓舞した一夏は身構える自分に対しても、ISを纏おうとしない父親に顔を歪めた。

 

 

「っ!ISを、ゼノスを纏わないのか!?」

 

「…………使わせたければ使わせてみろ。子供の我儘相手に、使う力ではない」

 

「────ッ!!」

 

 

それが挑発であることは明確だ。だが、黙って無視できる余裕は彼になかった。既に限界を迎えかけていた沸点を超え、熱を帯びた思考が彼の意識を支配する。

 

 

「────なら!力尽くでぶっ飛ばしてやる!」

 

 

そう宣った彼は、単騎で飛び出した。ISを纏う一夏はスラスターの出力を限界まで吹き出させ、数季へと突貫していく。そんな彼の行動に、出遅れた少女達は其々の反応を示した。

 

 

 

「あんの馬鹿!頭に血が上り過ぎでしょ!?」

 

「────ええい、馬鹿者が!あんな調子で戦いになると思っているのか!」

 

「………?どういうこと?箒は、一夏が負けると思ってるの?」

 

 

ISを纏わない生身の相手に対する攻撃なんて、一夏が最も嫌う行為なはずだ。それをするほどに正気を失った幼馴染に、鈴は助けに出ようとして────すぐに箒の言葉に気を取られた。

 

相変わらず身勝手だと憤慨する彼女の怒りは、何処か別のものに向けられている。それを理解したからこそ、シャルロットは純粋に問い掛けた。そんな友人の疑問に、箒は改めてある事実を再確認させる。

 

 

「お前達は、あの人を知らないだろう。あの人は一夏の父親でもあり、千冬さんの父親だぞ」

 

 

─────その事実にふと気付いた、次の瞬間。轟音と衝撃が、周囲を席巻する。白式を纏う一夏が振るった《雪片弐型》は一太刀は、片手で握った魔剣によって止められていたのだ。両手で振るったはずの一夏は力を込めても押し切れないことを実感したのだろう。悔しそうに、歯噛みする彼の目を鋭い眼差しが見据えた。

 

 

「感情任せの、怒りのままに振るう剣だな。それでは相手に通じないと、教えたはずだ」

 

「ッ!………クソぉ!」

 

「────遅い」

 

 

生身であるはずの数季の動きは異常であった。彼が片手で振るう剣は鋭くも重く、両手で受け止めているはずの一夏が後退っていく。淡々としたようでありながらも、的確な斬撃を叩き込む。

 

 

「俺は、教えただろう。その刃の、剣を握ることへの重みを」

 

「…………っ!」

 

「それは誰かを守れるものであり、誰かを傷付けるもの────武器とは、そういうモノだ。扱い方は関係ない。その武器は多くを救うことはあれど、少数を殺しうるものになる。それを理解せず、ここまで来たわけではないだろう」

 

 

その言葉は、よく覚えている。忘れたことなど一ミリもなかった。かつて姉を鍛えていた父が、見学していた一夏に教え説いたこと。いつものように気の抜いた様子ではなく、真剣に言い聞かせていた父の姿が珍しかったのもあり、一夏はそのことを鮮明に覚えている。

 

────それを、この場で再び説かれるとは思ってもいなかったが。

 

 

「何を迷い、何を躊躇っている。そのような心構えの剣で、何を護る?誰を斬る?」

 

「…………それはっ」

 

「なら、その迷いを抱いたまま挫折しろ。それが賢明だ、今のお前には────罪業に塗れた世界の深淵に踏み込むには、荷が重い」

 

 

雪片を握る一夏の心の迷いを見透かすように、織斑数季は冷徹に告げる。強靭な刃の一太刀に押し返された一夏に、追撃とも呼べる鋭い斬撃が叩き込まれそうになった。

 

そんな数季の強力な斬撃、真上から振り下ろす縦一閃は一夏の意識を削り取る、ことはなかった。紅椿を纏う箒の二刀流が、それを受け止めていた。しかし、相手は相手。両手の刃で止めたはずの箒の顔は苦しく歪み、片手で振るわれたはずの剣に圧倒されている。

 

 

「お久し振りです、数季さん………何故、一夏に剣を向けるのですか」

 

「それが、私の使命だからだ」

 

「一夏を、実の家族を斬ることが、ですか?そこまでする理由が、あるというのですか」

 

「────無知は罪というが、時には幸福でもある」

 

本来は力で勝るはずの箒すらも圧倒した魔剣が、勢いよく振るわれる。音速、亜空を超えるような重音を響かせた黒剣を手に、織斑数季は静かに問い掛けた。

 

 

「お前達が戦おうとしているモノは、単なる悪などではない。その戦いの行き着く先は、人の時代の混沌────多くの悲劇と絶望、数多の罪禍が錯綜するだろう。────お前達に、それを受け止める覚悟はあるか?」

 

「………覚悟」

 

「既に言葉は不要、戦いの火蓋は切った。これ以上の言葉を、真相を知りたければ────一夏の言うように、俺の口を力尽くで割らせてみろ」

 

 

生身であるはずの男の気迫に一夏や箒、少し離れた場所にいた鈴やシャルロットですら気圧されていた。周囲を押し潰すような重圧が、彼の実力を証明している。世界最強と呼ばれた女性の実の父、彼女を鍛え上げた存在が目の前の男であると理解したからこそ、全員の思考が統一された。

 

 

「………クソぉ!」

 

「なら、力尽くで話を聞かせていただきます………!」

 

「ちょっと本気!?………ああ、もう!どうなっても知らないわよ!」

 

「一夏のお父さん、こんな状況で会いたくはなかったけど………加減は出来ないね」

 

「────来い」

 

 

臨戦態勢を整えた少年少女、四人のIS操縦者に織斑数季は一切の動揺を見せずに、感情のこもっていない挑発を吐いた。あまりにも堂々と、力なく垂らした腕に握った魔剣の剣先を地面に付け、片手の指で軽く仕掛けてこいと促す。

 

そんな挑発に応じたのは一夏────を制した鈴であった。

 

 

「まずは先制っ!!」

 

 

一夏と箒を軽く制した腕から、近接戦は行わない。遠距離から攻めることを選んだ鈴は両肩の衝撃砲から無色の衝撃の塊を放射する。目視すら出来ない、ISのセンサーでも感知がやっとの砲弾。

 

織斑数季は迫ってくるであろうその一撃を、回避もしなければ防御もしない。

 

────一振りの斬撃。一瞬で振るわれた魔剣は、間違いなく切り裂いていた。衝撃の砲弾を、真っ二つに。本来叩きつけられるはずだった空気は霧散し、消失したことにその場にいた全員、特に鈴が愕然とするしかなかった。

 

 

「衝撃砲を………切った?」

 

「嘘でしょ!?センサーも無しに、どうやって感知したワケ!?」

 

「動きを止めないで!撃ち続けて、弾幕を作ろう!」

 

「っ!了解!」

 

 

言われるがままに、衝撃砲を連射していく。しかし、やはりと言うべきか。織斑数季は一切の動揺もせず、ユラリと身体を揺らしている。それだけで直撃するはずの衝撃弾を回避してまわり、回避不可能の一撃だけは魔剣によって斬り捨てていく。弾幕で視界を覆い潰したことで行動を制限させることが出来た。そう判断した一夏や箒が弾幕越しに距離を縮めていこうとした────直後。

 

 

「────ッ!?」

 

 

爆煙の向こうから、唐突に黒剣が一夏の眼前を突き抜けた。ハイパーセンサーの警告を感じるよりも先に、全身の本能が早かった。後一歩で顔面に突き立てられていた刃に、安堵するよりも先に一夏はその刃の持ち主へと斬りかかる。

 

しかし、織斑数季はくるりと回って一夏の振り下ろした剣を回避した。そして体を捻ったことで生じた力に身を任せた、蹴りが一夏の頭部へ吸い込まれる。

 

シールド越しに響く衝撃に脳が揺らされる。一瞬で意識を削り取られかけていた一撃だが、ISのお陰で緩和されていたのだ。それでも一瞬の、大きな隙を見せた一夏への追撃を行おうとした数季は────それ以上踏み込むことはなかった。その代わりに、彼は手にした魔剣を振り向き様に投擲した。

 

 

「っ!くぅ!?」

 

 

ブーメランのように音速で放たれたそれは、爆煙の向こうで加速していた箒の動きを止めた。大きく足を止められた彼女は既に動けない。そう判断したであろう数季に、一夏は咄嗟に武器を捨てる。武器を使っていない、生身の父親。無力化すればいいと即座に応じた行動は、殺してはならない相手への対応としては満点だ。

 

相手が相手でなければ、の話だが。

 

 

「敵を前に、武器を捨てるな────それすらも疑え」

 

 

組み伏せようと飛び掛かった一夏を、数季は容易く回避する。腕から何らかの光るもの────金属製のワイヤーを伸ばした彼はそれを力尽く手繰り寄せ、距離を詰めてきた一夏の首元を縛り上げた。

 

 

「っ!?ぐ、ぅッ!!」

 

 

喉を締め上げるワイヤーに呼吸を圧迫される一夏。しかし、首を拘束していたワイヤーは絶対防御のシールドエネルギーによって焼き切られる。それすらも予想の範疇だったのか数季は焼き切られたワイヤーを掴み、手繰り寄せていく。

 

そのワイヤーの先にあった────魔剣を引き寄せようとしていたのだろう。即座に引き上げた数季だったが、手元に戻りそうになった魔剣を、箒が全力で引き留めた。

 

 

「今だ!皆ぁ!!」

 

「────甘いな」

 

【CALL!】

 

 

得物は抑えた、そう思っていた一夏達の前で数季は冷たく告げる。手を翳した次の瞬間、箒が抑え込んでいた魔剣が発光し、数季の手元の空間に黒い粒子が集まり出す。

 

「いけないっ!」とシャルロットが止めようとアサルトライフルを構える。その銃口が生身の男を捉えたが、相手が相手もあり、引き金への込める力が躊躇される。その隙は、余りにも大きすぎた。

 

 

────ノーモーションで、赤黒い粒子から現れた武器を数季は振るう。簡素なサブマシンガンをシャルロットに目掛けて、一切の躊躇も見せずに弾丸の雨を浴びせる。咄嗟にサブマシンガンの掃射をシールドで受け止めた彼女への攻撃を止めさせるべく、一夏は雪片を構え直し肉薄した。

 

 

だが、そんな一夏の振るうブレードを数季は同様にコールした武装────サバイバルナイフで受け止めていた。防御どころか、ナイフの刃で止めた雪片弐型を滑らせるように逸らし、前のめりになった一夏の顔にサブマシンガンの近距離射撃を叩き込んだ。

 

 

「うばぁっ!?」

 

「一夏!?剣だけだと思ったら、銃にナイフって、どんだけ使えるのよ!あの人!」

 

「戦いは一芸では務まらない。覚えておくんだな、一つの武器しか使えない人間はそれが無ければ何も出来ない…………そんな奴は戦場で残されれば死ぬだけだ」

 

「………一丁前だな。その武器をよく見てろよ」

 

 

淡々と指摘する父親に、一夏は反発するように苛立ちと共に吐き捨てる。数季は静かに両手に握っていた武装を見て、両方とも大きな破損を受けていることを確認した。蹴り飛ばされる直前、その間に一夏の攻撃が確かに届いていたのだろう。

 

 

「成程、多少はやるようだ。良い師に出会えたらしい」

 

「お陰様で、その余裕を崩してやるよ」

 

「ならばこそ、加減は不要と見た────望み通り、本気で相手をしよう」

 

 

宣言した数季は魔剣を両手で握り直す。漆黒の装甲に覆われた大剣『Zeno.s=BLADE-Ⅱ』を眼前に構え、『鎧』を起動するコードを告げる。

 

 

「────ゼノス・アルザード、着装」

 

承認(Approval)────『Zeno.s-Aulzard』Frame ON】

 

 

魔剣を掲げた数季の上空に、漆黒の鎧が鎮座する。機械的な女性の声が響いた瞬間、その鎧が分解されていき────数季の周囲を飛び回っていく。

 

魔剣の内から発される光、青紫のエネルギーが数季の全身を伝う。一つの血管、神経のように張り巡らされたバイオレット色の光が鼓動するように脈打つ。そんな彼の全身へ飛翔していた装甲が覆われていき、遂に全身鎧の姿へと変わる。

 

装甲と装甲の隙間を青紫色の閃光が走っていき、鎧が完全に装着を終える。軽く頭を回したゼノス・アルザード、数季は魔剣を振るう。その閃撃と共に背中から展開される黒衣の外套。魔剣士と呼ぶべき姿に変貌した織斑数季はくぐもった声を発した。

 

 

『────全員で来い、勝ちたければ』

 

 

装甲を大きく展開し、体積を増した大剣、『Zeno.s=BLADE-Ⅱ』を片手で握った魔剣士相手に、四人が同時に動いた。其々近接武器を展開し、四方から囲むように数季へと突撃する。静かに目を細めた数季は、淡々と呟く。

 

 

『狙いは良し、実力が伴っていないな』

 

 

四人からの同時攻撃に彼は追い込まれる様子もなく、難なく迎撃していく。鉄塊と呼べるサイズの黒曜の大剣を軽々と振るい、一夏や箒の剣戟を容易く弾き、鈴の青竜刀やシャルロットの振るう近接ブレードも圧倒的なパワーで薙ぎ払う。押し返された鈴がそのまま衝撃砲を展開した瞬間、数季はゼノスの能力で再び武器をコールした。

 

 

【CALL!】

 

「っ!?アレは────!」

 

「セシリアのッ!?」

 

 

黒い粒子の中から現れたその武器、《スターライトmk-III》の存在に意識を取られる一同。明確な気の緩みを容認するはずもなく、数季が片手で握った特殊レーザーライフルから放たれる光線が鈴に直撃した。

 

 

「鈴!?クソぉ!!」

 

「────ダメ!一夏!前に出ないで!!」

 

「………ッ!?」

 

 

吹き飛ばされた少女への心配、それ以上の怒りを胸に突撃を図った一夏に、いち早くソレに気付いたシャルロットの悲鳴が飛び込む。一時期コンビを組み信頼の厚い少女の警告に咄嗟に歩みを止めた一夏も、すぐに『ソレ』の存在を認識した。

 

 

「ビット………?いや、アレはまさか………」

 

「『ブルー・ティアーズ』………」

 

 

ゼノス・アルザードの上空を飛翔する六機の飛翔体。見覚えのある、クラスメイトの専用機、その名を体現する武装。だが、名を表す色は蒼ではなく、黒色。まるで上書きされたようなその武装はゼノス・アルザードの物であるかのように、そのISの周囲を漂っていた。

 

 

「どういうことだよ………何で親父が、セシリアのブルー・ティアーズを…………」

 

『────全てのISコアが、独自のネットワークに接続されているのは既知の話だろう。ネットワーク内に情報を伝達することはあっても、その情報を引き抜くことは出来ない。この世界の誰にも触れられぬ、神秘の不可侵域だ。

 

 

 

例外は、ISのマスタータイプであるゼノスのみだ。ゼノスはISネットワークの基盤にして絶対権能。このISはあらゆるISの情報を抽出し、武装や────能力すらも再現する。このようにな』

 

 

【CALL!】という声が再度響いたかと思えば、ゼノス・アルザードの両肩に二つの武装が展開される。巨大な黒い砲身、シュヴァルツェア・レーゲンのリボルバーカノンであった。2門の大型カノンと六機のビットを操った数季は、絶句する一同を睥睨する。

 

 

『さぁ、今度も────抗ってみせろ』

 

 

直後、ゼノス・アルザードがマントを翻し、高下に転じた。あまりにも、圧倒的すぎる猛攻であった。両肩のカノン砲と、六基のビットの同時運用。何度も戦った経験のある武装であるが、今相手しているものとは段違いであった。

 

一つの群体となって動き回る六基のビットが統率の取れた動きで空中を制圧していく。乱れることのない同時攻撃の数々に、一夏や箒、鈴にシャルロットは一気に連携を崩された。距離を開けられ、分断された少年少女達を数季は的確に処理していく。

 

まず狙われたのは、鈴であった。

 

 

「っ!まず────」

 

 

衝撃砲による威嚇も間に合わず、突如距離を詰めてきたゼノス・アルザードに肉薄される。咄嗟に振り上げた青竜刀すらも黒衣のマントによって刃も届かず、黒衣に隠した一太刀は彼女の武器を弾き、そのまま蹴り飛ばされた。空中で『龍咆』の砲撃を叩き込もうとした鈴を、四方からの光線が襲う。

 

 

「鈴っ!?…………!」

 

『次は君だ』

 

 

一言、数季の呟きは爆音に遮られた。

両肩に浮遊する2門のリボルバーカノンが火を吹き、シャルロットへと叩き込まれる。即座に物理シールドを展開したシャルロットは何とか砲撃を相殺するが、シールドは完全に破壊されてしまう。

 

そして、シャルロットは改めて気付くのが遅れた。

目の前に迫る光線、数季が手にしていた《スターライトmk-III》からの狙撃。シールドが破壊された直後の時差を狙った極光にシャルロット得意の高速切替(ラピッド・スイッチ)も間に合わず、直撃を免れなかった。

 

 

「うあああ───ッ!?」

 

「鈴!?シャルっ!」

 

「気を逸らすな一夏!あの人が相手なのだぞ!」

 

『その通り………最も、実力不足では意味がないがな』

 

 

展開していた『ブルー・ティアーズ』と『シュヴァルツェア・レーゲン』の武装を消し去り、『Zeno.s=BLADE-Ⅱ』だけを構える数季。互いに目配せをした一夏と箒が、連携を取り左右からの剣戟へと移る。

 

だが、織斑数季の強さは並外れていた。背中から伸びる黒衣は斬撃を防ぐシールドの役割を担いながらも振るわれる外套は刃や鈍器にも変じ、迎撃と迫撃を伴っている。

 

何より恐ろしいのは漆黒の大剣であろう。コアから直結したエネルギーを纏う刃は白式の《零落白夜》のようなエネルギーを消し去る力は無いが、振るうだけで黒光の斬撃波となって圧倒的な攻撃力を飛ばしてもくる。

 

 

「くっ!?まだです!数季さん!!」

 

『いや────ここまでだ』

 

 

飛ぶ斬撃に苦戦しながらも食らいつく箒に、数季はそう断言した。背後に振り上げた『Zeno.s=BLADE-Ⅱ』を渾身の力で振るい、再度斬撃を飛ばす。今まで以上の大きな黒閃を受け止めようとした箒は遂に耐え切れず、斬撃を直撃。紅椿の絶対防御が発動するほどの大ダメージを負った。

 

 

「ぐっ、あああああ────ッ!!」

 

「箒ィ────っ!?」

 

『彼女は動けない。後はお前だけだ、一夏』

 

 

一瞬で背後に移動していたゼノス・アルザードに一夏は振り向くと同時に雪片弐型を振るう。ほぼ同時、振るわれた白い刃は振り下ろされた黒刃を受け止めることに成功した。重い斬撃を何度も防ぎ切る、合間に追撃していく一夏は感情的に叫んだ。

 

 

「っ!どうしてだ!?どうしてそんな強いのに、そんなことしてるんだよ!!」

 

『…………理由を知れば、納得するか』

 

「それだけの理由なら!俺や、千冬姉を置いてまで、やることがあるってんなら!ちゃんと説明してくれよ!!何の為に、俺達から離れたんだ!?」

 

『────お前達の為だ』

 

 

唐突な言葉に、力が抜けかけた。それでも戦いの最中で腕を止めるわけにもいかず、何度も食らいついていく。その間にも数季の独白は続いていく。吐露するような言葉に、遂に一夏は動揺を隠せなくなっていった。

 

 

『置いていかなければ、離れなければならなかった。私には、俺にはすべきことがあったのだ。お前達を守る為に、お前達の居場所を守る為に、俺は今も戦っている………だが、お前はここまで来てしまった。ISを、起動させてしまった』

 

「………は?」

 

『お前だけは、ISに関わらせたくなかった。だからこそ、お前にはISとは無縁の人生を願った。だが、ISはお前を選んだ。その機体が、お前の手に渡ってしまった────それは、お前の手にしてはいけないものだ』

 

 

何を言っているのか、理解できなかった。

ISに関わらせたくなかった?ISとは無縁の人生を願った?まるで、自分がISを起動させられることを、適性があることを知っていたような口だ。まさか知っていてずっと黙っていたのか、と一夏は理由もわからず、混乱するしかなかった。

 

だが、その動揺はあまりにも大きな隙となっていた。

 

 

『────終わりだ』

 

 

漆黒の閃刃が、一夏の視界を飲み込む。

斬撃波を直接浴びた白式はシールドエネルギーを大きく削り取られ、あと僅かな状態になって転がされる。一夏すらも倒されたことに声を上げる箒達であったが、彼女達が立ち上がるよりも早く、ゼノス・アルザードがその力を発揮する。

 

 

『────《黒影剣通(カゲヌイ)》』

 

「!身体が………ッ!」

 

「こんなの、どのISにもない力なのに………!」

 

 

足元から伸びた影が、箒達の地面に貼り付ける。身動きも取れない少女達はあるはずもないISの能力に疑問を持つが、その疑問はすぐに消えることになる。

 

ゆっくりと歩み寄った数季は箒達と同じように影に動きを縛られた一夏の前に立つ。『Zeno.s=BLADE-Ⅱ』をゆっくりと構え、厳重に影に全身を締め上げられている一夏を冷たく見下ろす。

 

 

『殺しはしない────だが、ISだけは封印させてもらう』

 

「────ッ!」

 

『王威絶権、執行────《強制封印(アストラロック)》』

 

 

その言葉に呼応するように、白式のコアに突き立てられた魔剣『Zeno.s=BLADE-Ⅱ』が装甲を展開する。次の瞬間、凄まじいエネルギーの波動が周囲一帯に広がった。言葉通りに撮るのであれば、ISの封印を開始したのだろう。

 

しかし、それは違うと見た。何故なら、当の数季本人の様子が可笑しかったのだ。

 

 

『っ!封印に抗うか!これは白式、いや白騎士の意思か!?』

 

 

瞬間的に放出される輝かしい光の数々。それが放たれているのが、白式のコアからであることを誰もが見た。そして、コアに突き立てられたはずのゼノス・アルザードの魔剣が半透明なバリアによって遮られていることを。

 

そして、一夏は聞いた────白光と共に響く歌声らしきものを。一夏にはただ女性の綺麗な声が透き通っているように聞こえていたが、数季には別に聞こえているのだろう。魔剣の力を遮るISコア、その中に眠る意識へと感情を剥き出しにして叫ぶ。

 

 

『何故、邪魔をする!?博士に生み出されたお前が、何故一夏の側に在ろうとする!?まさかお前が、ただ願いを代行する訳ではあるまい!』

 

────────

 

『お前の都合など関係ない!だが、一夏は、あの子だけは巻き込むな!あの子がISに関われば、多くの悲劇の果てに業を背負うことになる!邪魔をするのであれば、お前でも容赦はしない!!』

 

 

数季の意思と、何かの意思が衝突している。

そんな最中、白式のコアから放たれる光が更に輝きを増した。白い光の線が魔剣の刀身を伝い、ゼノス・アルザードへと、織斑数季へと届いた。

 

 

『ぐ、うッ!?』

 

 

次の瞬間、閃光が一夏の視界を覆い尽くす。

輝きの中で意識が飲まれた一夏は、何かを見た。断片的な、情報の数々を。

 

 

 

────()()は、俺で最期であるべきだ

 

 

全身血塗れで佇む父親の姿。何処か若々しい彼の手には同じく血に塗れた刀が握られており、足元には沢山の死体が転がっている。鮮血に包まれた一帯に佇む父は返り血の中で静かに涙を流しながら、笑っていた。

 

そして、景色は暗転する。

 

 

─────俺のせいだ、すまない

 

 

滂沱の涙を溢れさせながら、そう懺悔する父の背中。膝をついて嗚咽を漏らす男の胸には誰かが抱きしめられていた。ほんの一瞬、一夏はその存在を目の当たりにした。

 

───見覚えのある黒髪の幼子と、彼女の腕に抱き抱えられた赤子を。

 

 

 

「ぐッ、がああああ────ッ!!」

 

 

何かを見せられていた一夏は、父の悲鳴によって意識が覚醒した。ISを纏っていた父は頭を抱え、悶え苦しんでいた。精神的干渉を受けたのか、口の端から垂れた涎を拭った織斑数季は頭を抑えたまま立ち上がり、血走った目で一夏を────白式を睨んでいた。

 

 

「…………あくまで邪魔をするか。良いだろう、お望み通りISコアごと、貴様を消し去る」

 

「っ!」

 

「…………!俺は………クソ!」

 

 

何が起こってるのか分からないが、父から放たれる殺気に思わず身を竦ませてしまった一夏。その顔を目にしたことで、数季は我に戻って、明らかな狼狽を見せていた。だからこそだろうか。ほんの少しでも冷静に戻った彼は、いち早くソレに反応してみせた。

 

 

「ッ!」

 

────背後から飛来するハルバード。投擲されたその武器を振り向き際に弾き返す数季。しかし、その瞬間滑り込んできた人影が両手の刀剣を振るい、数季に連撃を叩き込む。

 

瞬間的に打ち込まれた六連撃に、織斑数季は即座に対応してみせる。だが、その時には奇襲した張本人は目の前から消えていた。数季が攻撃に気を取られている合間に、近くにいた一夏を助け出して、距離を取っていたのだ。

 

助け出された一夏達は、乱入してきた存在────二人に思わず駆け寄る。

 

 

「師匠ッ!!」

 

「………ハッ、弱ってると思ったけど、まだまだ現役ね」

 

「流石は『魔剣士』………最強の系譜は伊達ではない、ですね」

 

 

陸奥と長門。

数季に撃破されたはずの二人が、今この場に戻ってきたのだ。一夏達を守るように立ち塞がった彼等は、数季の言う通り一度敗北したのであろう────全身ボロボロであり、二人とも多少の怪我があるように見えた。

 

 

「────聞こえてるなら黙って聞きなさい」

 

「師匠………何を」

 

「今、地下の方にアナグラムの二人組が向かってるわ。目的は、地下に隠されたナニカの破壊、って事かしら。命令はそのナニカの破壊の阻止。エネルギーパックは持ってきたから、それで回復して、すぐに向かいなさい」

 

 

有無を言わさぬ師の剣幕に、一夏は返す言葉もなかった。鋭く輝く眼差し、信頼関係のある師からの意思を汲み取った一夏は感情的になることを自制し、陸奥に頭を下げる。

 

 

「先、行ってきます………師匠、気を付けてください」

 

「ハッ、馬鹿ね。弟子に心配されるほど、ヤワな女じゃないわよ。私は」

 

 

そう軽くあしらう陸奥に、一夏は苦笑いしながら離れた。箒たちも同じく、一夏に着いていって地下へと向かうのだろう。そんな彼等を見届けた陸奥は長門と目配せをした上で、目の前の相手と向き合う。

 

 

「………まだ戦うか、骨も折れた身でよく無茶をする」

 

「御生憎様!全身を弄られた強化人間なのよ私達は!動けなくしたいなら、手足切り落としてダルマにでもするしか無いわよ!そんな機会、一度も与えないけど!!」

 

「一度は敗北しましたが、二度も負けません!箒さん達が任務を達成するまで、足止めさせていただきます!」

 

「────やってみろ」

 

 

再び、轟音が響き渡る。

最強のISを纏った最強の血統を前に、国連の作り出した二人の強化人間が奪還していく。その戦闘は一度目よりも激しく、広がった余波が辺り一帯に吹き荒れた。




一夏の父親、織斑数季の無双………このオッサン生身の時から強くない?IS相手に生身は流石に無理でしょと思うけど、この人の娘は普通にISの武器を生身で振るったり、特殊部隊のISと生身で張り合ってるから(化物の家系)

原作以上に『織斑』という存在を深掘りしたい所存で、少しだけ過去編を挿し込ませていただきました。


因みにゼノス・アルザードはフェイスの持ってるバルハードと同型機ですが、正式には二号機なのでアルザードの方が性能は高いです。この小説で言うISの始祖、白騎士よりも前の機体ですから機体の能力はネットワークに繋がっているISの武器や能力を引き出すという化物仕様。


次回もよろしくお願いします!それでは!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。