IS 蒼き宙の向こうへ   作:虚無の魔術師

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第105話 奈落の静謐

「…………この先に向かえって話だが、何があるんだろうな」

 

 

陸奥と長門の指示を受け、先のホールから続く地下通路────深層への歩みを進める一夏達。先頭を歩く一夏の独り言に、誰も答えられない。その答えが出ないこと以上に、良く知る少年の心境を察していたのだ。

 

 

「一夏………数季さんの事が、気になるのか」

 

「………ああ、そうだよ。それ以上に、親父に後一歩で負かされかけた。師匠達がいなきゃ────いや、それよりも前から、ずっと手加減されてたんだ」

 

 

一夏はあの時、父との戦いが手を抜かれていたものだと理解させられた。本気で殺すつもりではなく、傷付ける意図もなかった。それを知った時、自分は怒りで逆上するかと思っていたが、父が向けたあの殺気に気圧されたことでそんな気はサラサラ沸かなかった。

 

 

「…………手加減されたことは滅茶苦茶悔しいけど、それ以上に何が何だか分かんねぇ。親父は何で俺をISから遠ざけようとしたんだ?白式は、白騎士は何を考えて俺を受け入れたんだ?」

 

「………一夏」

 

「考えても仕方ねぇよな。今は任務を成功させることだけを考えないと」

 

「───ああ、そうだな」

 

 

そうして話していると、案外早く最深部へと辿り着いた。体感的には早く感じるだけで、実際には地下としての深度は相当の場所だろう。通路を抜けた先に、彼等を迎えたのは────異様に広がった空間であった。

 

大量の機械が積み重なった巨大都市のようなエリア。その上空に浮かぶのは巨大な箱舟のような、大型艦。組み上げられている最中に見えるソレの完成度はほぼ90%で、あと少しで完全に出来上がるようなものだ。

 

その武装艦の真下には、巨大な機械の塊が鎮座している。コードとケーブルが繋ぎ合わせたような金属の柱はただの物体として存在している。通路から出た高台からその光景を見渡していた一夏達は、あまりにも発展しているその世界に目を疑うしか無かった。

 

 

「っ!皆、彼処!」

 

「アレは────半蔵とジード!?」

 

 

巨大な機械の塊の足元、明らかな広間に立つ二人の青年の姿があった。彼等は此方に気付く素振りも見せず、何かの談笑をしているらしい。苛立ちを隠せずに瓦礫を蹴り飛ばすジードに、半蔵は困ったように肩を竦めていた。

 

 

「で?どうするの?あの二人、放って置くわけにはいかないでしょ」

 

「────乗り込む、しかないか」

 

 

そうと決まれば、一夏達の動きは素早かった。

ISを纏った四人が、一気にその場所へと加速していく。突如現れた一夏達の存在に気付いた半蔵やジードはすぐさま警戒態勢に移りながら、飛び退いた。

 

 

「っ!汝等、モザイカ殿を突破してくるとは!やはりやり手!侮れぬな!」

 

「デュノア!デュノアぁ!!テメェを殺し切れなくてイライラしててなぁ!さっきの続きをやろうじゃねぇかァ!!」

 

「落ち着くのだ、相棒………ほら、相手が引いてるであろう」

 

 

協力関係であったモザイカ(織斑数季)を出し抜いて来たと思ったのだろう、素直に感心と経緯を示す半蔵。その隣でジードはシャルロットの姿を見るや否や、苛立ちが増したとは思えぬ程の狂笑みを浮かべ、ギラギラとした戦意を放っている。

 

そんな相手とは対照的に、シャルロットは「うわぁ」と困ったように苦笑いをするしかなかった。相手が相手なので、無理もないと言うべきか。

 

 

「ここで何をするつもりだ。お前達のことだ、どうせ一段落済ませたところではないか?」

 

「ハッ!馬鹿かテメェは!敵に素直に事情を話すとでも思ってんの────」

 

「───よくぞ見抜いた!既に爆薬の設置は完了済み!後はこの起爆装置で最深部を破壊するのみ!それこそが拙者達の本来の任────いだっ!?」

 

 

刀を抜き放った箒の問いにジードは鼻で笑って切り捨てたが、待ってましたと言わんばかりに半蔵が嬉々として答える。片手で握った装置を見せつけながら自慢するように語る自称忍者の後頭部を、ジードは裏拳で殴打した。

 

当の一夏達は「爆薬!?」と大いに口を滑らせたジードの発言に青褪める。周りを見渡せば、ハイパーセンサーが複数の爆薬の存在を感知していた。センサーで確認できるだけでも、数十個。この地下空間を崩落させるには十分過ぎる爆薬の量と数だ。

 

 

「っ!何が目的だ!?ここはお前等の護り通すプラントの一区画なんじゃなぇのか!?」

 

「事情が変じた次第!このプラントの地下に、未知の兵器!おそらくは界滅神機と判断!悪しき権力の応酬たる国連に手に入れられる前に、この場での破壊を前提とした作戦!それこそが拙者達の目て────むぐぐ!」

 

「テメェは!それ以上!喋るんじゃねぇ!!」

 

 

反省もせずにポージングした上で口を滑らせていくパートナーを、ジードは力尽くで黙らせにかかった。半蔵の方が常識人かと思っていたが、どうやら彼も彼で問題児らしい。さっきまで振り回していたはずのジードが抑えにかかってることからも、明白だろう。

 

 

「テメェらのせいだぜ、候補生!テメェらがあの扉を開けて先に進みやがったから、俺達も急いで動かなきゃならなかったんだよ!本来なら、俺達の手で界滅神機を手に入れるはずだったのによォ!!」

 

「っ!その為だけに、こんなことを!?」

 

「当たり前だ!クソッタレの国連どもの事だ、界滅神機なんて回収されてみろ!それを解析して自分の戦力として利用するだろうぜ!現に、奴等はその量産機の開発を始めてるって話だ!俺達を皆殺しにする為の兵器をなぁ!!」

 

 

アナグラムとしては、それを阻止するのは当然だろう。

現時点で国連はアナグラムの殲滅の為、戦力の補強を繰り返している。その度重なる計画────非人道的な行為を含めたものに、一夏達は何度も関わってきた。それに比べれば、界滅神機の解析はマシだろうが、アナグラムからすれば静観できる話でもない。

 

だが、一夏達としてもそれを認めるわけにはいかない。国連からの命を受けている以上、IS学園の立場を考えても。

 

 

「だからって!お前等の好き勝手にやらせるか!」

 

「ハッ!もう遅ェ!既に起爆装置はここにある!テメェ等の努力なんざオレ達が指に力を込めた程度で────」

 

 

調子乗った発言を繰り返す半蔵から取り上げた起爆装置を見せつけ、スイッチに指を掛けるジード。その瞬間動きを止めるしかない一夏達の姿に、してやったりと笑みを深めていた────次の瞬間。

 

 

パァンッ!!、と一発の銃声と共にジードの手から起爆装置が弾かれた。咄嗟にシャルロットが構えたアサルトライフルの早撃ちが、狙い撃ったのだろう。彼等の背後から構える少女の姿を視認したジードが、途端に頭を掻きむしった。

 

 

「ああああああッ!!どこまで邪魔をしやがるんだテメェはァッ!!!」

 

「っ!相棒!まずは起爆装置を────!」

 

「させるかっての!」

 

 

すぐさま地面に転がった起爆装置を回収しようと走り出す半蔵。その意図に気付いた鈴が『甲龍』のスラスターを最大に噴かして距離を縮めていく。いくら近くてもISに乗った鈴の方が一歩早い、地面に転がったコントローラーサイズの装置を掴もうとした鈴。しかし、半蔵もやはり只者ではなかった。

 

 

「かくなる、上はッ!!」

 

「っ!?」

 

 

届かないと判断したのか、半蔵は踵から仕込み刃を展開して勢いよく鈴へと振り上げる。自身に向けられた狂気の存在に、鈴は意図せず認識してしまう。明らかな傷害行為に、ハイパーセンサーが感知してしまったのだ。意識の前に現れた情報は、目の前のことへの注意を欠くことになる。

 

────スカッ、と掴めるはずの指が空振った。その大きな隙を、半蔵は逃さずに地面を滑る。スライディング、そう呼ばれる行為で距離を稼いだ彼の足が装置を勢いよく蹴り飛ばす。遠くの、瓦礫の山の向こうへと。

 

 

「ふふ、これにて一幕!」

 

「何してんだ半蔵ォ!?テメェあれを使えば簡単に────」

 

「それではつまらぬではないか。お前も、決着をつけたいのであろう?相棒」

 

シャルロットの方を尻目に呟く半蔵に、ジードは呆気に取られたように固まる。しかしすぐに笑みを浮かべた彼は、苛立ちが消えたように晴れやかに笑っていた。

 

 

「────やっぱお前は、オレの相棒だ。半蔵」

 

「フッ、ではどうする?先程の続き、やるか?」

 

「いいや、止めだ。オレとお前で潰す────皆殺しだ」

 

「────それでこそ、拙者の魂の友よ」

 

 

そう言って、二人は注射器を取り出す。特殊なナノマシンを投与する専用の注射器を取り出した半蔵とジードは隣に立つ互いの首に注射器を押し当て、中身を投与する。

 

空になった容器を捨てた二人の体内は洗浄された。幻想武装の展開による肉体の負荷を抑制するナノマシンのお陰で、再度戦闘が可能となった彼等は互いのチップを手に取り、幻想武装を身に纏う。

 

 

「テメェ等の都合なんざ、知ったことか。オレ達は、邪魔する奴をブチ殺す」

 

「それが拙者達の生き方────俗世に類さぬものである、修羅の道……………僥倖。拙者達の居場所は元より影、光に当たらぬ者達の先駆けとなり、正義と呼ばれるものすら相手にしよう」

 

 

風が、嵐が吹き荒れる。翠色と黒の装甲を身に纏う薄暗い忍びのような見た目の幻想武装、『風魔旋刃 カマイタチ』。忍者の姿と妖怪の見た目を織り交ぜたような鎧を纏う少年は片手で印を結ぶ。

 

その隣で、禍々しいオーラを噴き出すジード。全身に展開された高火力兵器の重装備。魔神を形容する邪眼を額に備えた幻想武装『災禍魔神 バロール』はジードの精神性に共鳴するように、怒りと戦意を煮え滾らせ、魔神としての威圧感と変えて周囲に放っていた。

 

二人のコンビは互いに並び合い、対面する一夏たちへと宣言する。

 

 

「風魔招来災禍降誕!此度の戦、勝利の栄誉は拙者達が貰い受ける!」

 

「光栄に思え!オレ達に、最強コンビに敗北することを!!テメェ等全員ぶちのめして、ぬるま湯の学園に送り返してやるァ!!」

 

 

直後、ジードは一切の迷いなく引き金を引いた。背中のコンテナの上部が開き、格納されていたミサイルが打ち上がる。空中で分離した断頭が更に分離し、空中に広がった無数の小型ミサイルが一斉に降り注ぐ。

 

 

「っ!皆ぁ!」

 

 

一夏の叫びに、全員が動いた。其々遠距離武器を用いて、空から飛来する無数のミサイルを撃墜していく。エネルギーの消費の激しい武器ばかりで無駄撃ちできない一夏は手数の多いシャルロットに庇われる形だったが、彼の意識がある存在に気付いた。

 

 

「辻斬り────」

 

「シャル!」

 

「────御免ッ!!」

 

 

未だ降り注ぐ爆撃の雨の中を突き抜ける緑の疾風。一つの風と化した半蔵が凄まじい速度で駆け、近くに居たシャルロットに狙いを構えていた。腕から伸びる仕込み刃を音速で振り抜いた、超速の風刃がシャルロットを切り裂く────ことはなく、咄嗟に雪片弐型を構えた一夏に防がれた。

 

不意打ちを防がれたにも関わらず、「見事っ!」と笑う半蔵。そのまま振り上げた脚に仕込んだ刃が無音で開き、斬撃となった蹴りが一夏に迫る。当然その攻撃も防ぎ切る一夏へ、箒や鈴も咄嗟に迎撃態勢に移った。両手足から仕込み刃を展開した半蔵はそんな彼等に怯む素振りも見せず、逆に突撃していく。

 

────一方的に切り込んでいく半蔵。両手足を振り回し、備えた刃で斬り掛かってくる彼に不用意な攻撃は出来ない。強いて対応できるのは、両腕それぞれの武装を持つ一夏の白式と状況に応じて変化する展開装甲を有する箒の紅椿だろう。だが、2人がまともに攻め切れない理由が明確に存在していた。

 

 

「ハッ!雑魚が!チョロチョロとしてんじゃねぇ!」

 

「っ!アイツ………!」

 

 

連携しようとする一同に水を差すように、砲撃を叩き込むジード。空中で破裂した炸裂弾が破片を撒き散らし、周辺を破壊していく。大型キャノン砲《災厄蹂躙》による高範囲攻撃を繰り出したジードは続け様に高出力ビーム砲《戦禍狂乱》を真上に向ける。

 

 

「戦禍に堕ちる狂乱の雨!灼き尽くせぇ!ハァハハハハッ!!!」

 

 

戦禍狂乱の砲口に収束したエネルギーの塊が、花火のように空へ打ち上げられる。空中で静止したエネルギーの球体が黒い渦を巻き起こし、一斉掃射の如き光の雨を降り注がせていく。辺り一帯を破壊していく攻撃の数々に、一夏達は無闇に動けない。

 

────そんな彼等に、半蔵は容赦なく攻撃を繰り出していく。降り注ぐ赤黒い閃光に怯むことなく、彼は木々を抜ける風のように素早い動きで跳び回っていた。

 

 

「こいつ………ッ!この状況であんなに動き回れるって正気!?」

 

「フフ!意外であろう!相棒の攻撃に当たる者など居るはずなし!背中を向けていようとも、心の眼で分かる故に!………最もこれも修行の成果!FFの数など、百より多く受けてきた身であるので!」

 

「情けねぇ事情まで喋ってんじゃねぇぞ!半蔵ぉ!!」

 

 

類稀ない連携の真価、その過程すらも自慢する半蔵に怒鳴るジード。赤裸々過ぎる内容まで明かし始めたパートナーを諫めた彼の意識が逸れた僅かな隙を、一夏は逃さなかった。

 

 

「今だ!」

 

「っ!野郎ぉ!」

 

 

降り注ぐビームの雨を回避していき、距離を縮める一夏。気付いたジードが再装填したカノン砲が貫通に特化した徹甲弾を放つ。回転を掛けた大型徹甲弾を荷電粒子砲で相殺し、爆煙の中を潜り抜けた一夏は雪羅のビームクローを伸ばし────ジードのカノン砲を切断した。

 

 

「チィ!クソが!」

 

「こうやって近付けば、チマチマと砲撃は出来ないだろ!?」

 

「後はテメェの独壇場ってか?────図に乗ってんじゃねぇよ雑魚ォ!!」

 

 

破壊されたカノン砲を放り捨て、距離を取ろうとするジードへ追随する一夏。肉薄し接近戦に持ち込もうとする一夏に足を止めたジードは片腕で担いだ高出力ビーム砲のリミッターを解放し、極大のレーザーを放出する。ビームを放ち続ける砲身を担いだジードは目の前に突貫してくる一夏に目掛け、巨大な閃光を刃のように振るった。

 

 

「いぃっ!?」

 

 

砲撃どころか、巨大なビームの塊を前に一夏は咄嗟に横へと飛び退いた。ジィィッ!!と超高温の光がアスファルトの床を溶かし、周囲の機械の残骸を削り取っていく。何度も回避する一夏を鬱陶しく感じたのか、ジードは額の装甲を開き、『邪眼』を展開した。

 

 

「煩わしい奴だなぁ!テメェも、大人しくしてろやぁ!!」

 

「!?………くそ!体がっ………!」

 

 

『バロールの邪眼』、そう呼ばれる眼球状のユニットが視線を向けた途端、一夏の動きは張り付けられたように静止する。強制的に動きを止められた一夏に近付いたジードはビーム砲《戦禍狂乱》の砲口を直接押し当てた。

 

 

「────っ!」

 

「一夏から!離れてっ!」

 

「────後で相手してやる。引っ込んでろ、デュノア」

 

 

背後からパイルバンカーを構えて飛び込んできたシャルロットに、前までの執着を見せずに冷たくジードは吐き捨てる。次の瞬間、無防備な背中を狙えたはずのシャルロットを突然の砲撃が襲った。 

 

────先程一夏が破壊し、ジードが放り捨てたはずのカノン砲《災厄蹂躙》が修復された状態で彼女を狙って攻撃したのだ。恐らく遠隔で操作したであろうジードは不意打ちに意識を揺らされたシャルロットに見向きもせず、背中のコンテナから放出したミサイルを直撃させていく。

 

 

「うわあああっ!!?」

 

「シャル────ぐうっ!?」

 

「傷一つで、使い物にならねぇとでも思ったか?甘えんだよ、そういうとこがよぉ!」

 

 

思わず声を上げた一夏にビーム砲を叩き込んだジードが吐き捨てるように嘲笑う。吹き飛ばされた二人を見据え、砲身を拾い上げた彼は口元を緩めながら、ふと自身の胴体の装甲を見る。鋭い爪痕により切り裂かれた装甲を。

 

 

「…………やられるだけじゃねぇってワケか。良いぜ、分かったよ。お望み通り、全力でぶち殺してやるよ────半蔵ォ!!」

 

「!何でござる!?」

 

「アレ!やるぞ!」

 

「────!承知した!」

 

 

箒と鈴に肉薄していた半蔵は、ジードの呼び声に即座に応じた。二人に受け止められていたブレードを振り払い、巻き起こした風の刃によって追撃を阻む。

 

 

「いつもの奴でござるか!久々の奥義!胸が滾るとは正しくこのこと!相棒!久々だからと言って、しくじらないで貰うぞ!」

 

「ハッ!誰に物を言ってやがるッ!?」

 

 

隣りに並んだ二人が構えを取り始める。二門の砲身を装填するジードの背後で、半蔵が両手で印を結び始める。それに呼応するかのように、彼の周囲を回り始めていく三刃の手裏剣が二つ。そんな変化を目の当たりにした一夏達の元に、箒や鈴が駆けつけた。

 

 

「一夏!シャル!大丈夫か!?」

 

「俺達は何とか…………っ!気を付けろ、箒!アイツら何か大技を!」

 

「────否!既に遅き!今こそ受けるがいい!拙者達の究極奥義!」

 

 

「────【風魔忍法・混沌大嵐壊!」

 

「────ドゥームズデイ・エアストリーム】ッ!!」

 

 

宣言した半蔵とジードの声。直後、ソレは始まった。半蔵の周囲を漂っていた手裏剣が凄まじい速度で回転を強め、巨大な竜巻を巻き起こす。二つの回転により引き起こされる嵐は空間を支配するほどの制圧力を、内に引き寄せる力を発揮する。

 

凄まじい勢いで引き寄せてくる巨大な嵐に、何とか耐え切ろうとする一夏達。しかしそれすらも見透かしていたかのように、ジードが炸裂弾を嵐へと撃ち込んだ。巨大な竜巻の中で破裂した断頭は爆炎と破片を生じさせ、風の塊を爆焔の柱へと上書きした。様変わりした焔の嵐、それを生じさせる二つの手裏剣を半蔵は回転させながら動かす。

 

 

「我が嵐!天を裂く大壊嵐!混沌に包まれし嵐は破壊の権化と成りて!常在戦場、一掃せしめん!」

 

「っ!好き勝手に掻き回されて溜まるかってのぉ!」

 

 

追い回していく巨大な焔の嵐に、後手に回ることに苛立ちを覚えた鈴が攻撃に出る。足を止め、衝撃砲の最大出力を半蔵へと放つ。嵐を操り身動きの取れない半蔵に直撃するはずの不可視の弾丸は、『邪眼』の視線に射止められた。

 

 

「好き勝手してんのはテメェの方だぜッ!オレを前にして半蔵に手を出すなんざぁ!お望み通り、テメェを第一号にしてやるよぉ!!」

 

「っ!不味っ────!?」

 

 

ジードの額の『邪眼』が続いて鈴を睨む。その瞳に捉えられた鈴の身体が硬直、強制停止させられた。次に何が起こるのか、一夏はすぐに気付く。

 

────箒やシャルロットを追っていたはずの嵐が、急に向きを変えたのだ。その狙いが動きを縛られた鈴であることを悟った一夏の思考が考えるよりも先に、体が動いていた。

 

 

「うおおおおおおおおっ!!!」

 

「一夏…………っ!?────バカ!あいつらの狙いはあたしじゃなくて!」

 

「────そうくると思ったぜ」

 

 

ギョロ、とジードの『邪眼』が横にズレる。それだけで視線に当てられた一夏の全身が縫い付けられたように、固定される。空中に捕らえられた一夏を、焔の台風が呑み込んだ。

 

 

「────ぐああああああっ!!?」

 

「ハッ!この技の狙いは動きを止めた奴じゃねぇ!テメェみてぇに仲間を助けようとした馬鹿を潰す為のものだ!わざわざ引っ掛かりやがって!この間抜けぇ!!」

 

「そして!これからが、本命!」

 

 

焔で巻き上がる嵐に灼かれる一夏。シールドに伝わる爆炎と暴風にエネルギーを削られていく白式越しでも伝わる僅かな痛覚とダメージに苦悶の声を漏らす一夏を無視して、嵐が大きく変化する。吹き荒れる暴風が一夏を空へと押し上げ、天高く打ち上げていく。

 

 

「────デッドエンドだ!まずは一人ぃ、死ねやぁ!!」

 

「………ッ!?」

 

 

二つの砲身を連結させ、巨大な大型カノン砲へと変形させるジード。両腕で持ち上げた巨砲の砲口から赤黒い閃光が蓄積していく。ジードの幻想武装、バロールの殺意と憎悪を具現化させた禍々しい破壊の閃光が天井へ飛ばされた一夏へ────上空に繋げられた巨大戦艦を巻き込むように、放たれた。

 

 

────そして、爆散。

ジードの砲撃を止めることも間に合わず、破壊光線が直撃して上空の戦艦を軽く消し飛ばした。「一夏ぁ!」と半蔵よ妨害を受けた箒達が、彼の名を呼ぶ。直撃したのだ、アレは致命傷だろう────そう思っていた相方を他所に、ジードは不機嫌らしく舌打ちを噛み殺した。

 

 

「…………野郎、土壇場で相殺しやがったな」

 

「何と!?拙者達の切り札を受けて尚!?」

 

「あの剣………オレのビーム砲を消しやがって────ああ、クソ。実弾にしときゃあ良かったぜ」

 

 

視線の先で降り立つ白式、一夏が握る雪片弐型。白式の固有能力、『零落白夜』。ISのエネルギーを消滅させることに特化したその力はISだけではなく、大半のエネルギー兵器にも通じることは既知の事実である。

 

 

「一夏!?大丈夫っ!?」

 

「ああ、こんなの………何ともないぜっ」

 

「意地を張るな馬鹿者!………ええい!今エネルギーを送るから、ジッとしていろ!」

 

 

着地した一夏の、白式の状態はひどかった。機体自体は何とかギリギリ持っているというレベルであり、装甲やシールドは限界に近しい状態だ。箒が紅椿の『絢爛舞踏』によりエネルギーを補給させている間────何故だか、攻撃の手を止まった。

 

 

「…………おい、半蔵」

 

「?どうした、ジードよ」

 

「────アレは、何だ?」

 

 

意気揚々としていた半蔵とは対照的に、ジードは絶句したように立ち尽くしていた。唖然とする相棒の姿に戸惑った半蔵もその視線に釣られる。目の前の相手の様子に、一夏達も思わず目線を上げた。

 

────ジードの光線により、半壊した戦艦。装甲を焼き尽くされ、露呈した内部構造────その中から、興味な物が姿を現していたのだ。人間の腕のようなパーツが。

 

だらんと垂れ下がる腕。機械で構成されたその腕の存在を、ハイパーセンサーで凝視する一同。深く覗き込むように目を細めていた一夏は腕に刻まれたある単語に目が止まった。

 

────その言葉を目にした瞬間、思わず息が止まる。呼吸もままならず立ち尽くす一夏の隣で、怪訝そうな顔で箒がその単語を口に出した。

 

 

「────『人類進化機構』?」

 

「〜〜〜〜ッ!!!??」

 

 

改めて言葉になった瞬間、一夏の頭を酷い激痛が襲った。頭を抱えて苦しむ一夏に気付いた箒たちが駆け寄り、介抱してくれる。そのことへの感謝を口走りながらも、一夏は理由もわからない感覚に戸惑うしかなかった。

 

『人類進化機構』、そんな単語は何一つ知らない。知らないはずだ。なのに、何故だか頭が割れるように痛い。知ってはならないものを知ったことへの警鐘のように、サイレンの如く頭痛が響き続けていた。

 

その痛みを押し殺しながら、一夏はその腕を再び見据える。自分自身にも分からない疑問に応えるように、その単語を睨もうとして────目が合った。

 

 

 

「……………は?」

 

腕の手の甲。腕に伸びる黒いラインから覗く光が、眼光のように一夏を補足しているのだ。直後、腕が勢いよく動き出し、戦艦の瓦礫から姿を顕にした。

 

────黒衣の機人。

ヒト型の機械に暗殺者の装束を着せたようなソレは高所から降り立ち、フワリと着地する。腕から覗かせたモノアイを頭部の仮面へと移動させ、ギョロリと周りを見渡していた。

 

 

「…………おい、IS学園。アレはお前等の援軍、じゃねぇよな?」

 

「それは此方の台詞だ………お前達が用意したものではないのか?」

 

「ンな訳あるか。あんな物、初見だっつーの────界滅神機でもねぇ…………そもそも、八神博士謹製の無人機か?」

 

 

警戒の全てが、目の前の機人へと向けられる。明らかに異質な存在であることは明白だ。険しい目で睨むジードの視線は、目の前の機人が八神博士由来の無人機とは違う別物だと判断したのだろう。────その判断は、間違いなく正しかった。

 

 

────キィィィィン────ッ!

 

甲高い音波が、周囲に反響する。黒衣の機人から発せられたソレは、モノアイを輝かせていた機人の眼光を点滅させていた。暗転したモノアイの灯りが赤紫色に染まったと思えば、聞き覚えのある声が投げ掛けられた。

 

 

『────「リッパー」が起動したと思えば………ああ、お前達だったか』

 

「………ッ!フェイス!」

 

「何故貴様が………!いや、考えるまでもない!その無人機も貴様の私兵か!」

 

『無人機?────いや、成程。その事情に関しては知らないのだったな。まぁもののついでだ、教えてやろう』

 

 

どこか面白そうに笑う無機質な声────フェイスの声に警戒心を露わにする一夏達。そんな彼等の様子に鬼気迫るものを感じた半蔵とジードもその声への敵意を深める。声から感じられる害意を即座に感じ取ったのもあるのだろう。

 

そんな周囲の心境を知ってか知らずか、フェイスは何処か流暢に語り始めた。

 

 

『────これは、無人機ではない。サイボーグと呼ばれる、生体兵器の進化系。人類の罪禍の行き着く先だ』

 

「サイボーグ、罪禍………?」

 

『かつて、一つの組織があった。「人類進化機構」と呼ばれたその組織は永らく人類の影に暗躍していた秘密結社であり、人類の進化を前提とした活動を行っていた────その過程で、多くの命を弄んだ』

 

 

そう声を発する『リッパー』が指を鳴らしたと思えば、一気に広間が灯りに包まれる。光に照らし出されたのは、壁に張り巡らされた無数のカプセル。その中に保存されるように鎮座する、無数の機人の姿であった。

 

 

『遺伝子の操作、クローン技術、人体改造…………この世のありとあらゆる罪業を、彼等は成し遂げた。人の進化を謳いながら、人の命を最も使い潰し、限界まで再利用して回り、その果てに破滅した────その技術は禁忌の巣窟、人には過ぎた闇として焚書を含めた徹底弾圧、関係者の皆殺しに至る口封じまでされた。

 

 

 

この「リッパー」、レギオンタイプもその一つ。人間の肉体をパーツとして組み込んだ、今も尚生きる生体兵器だ。素晴らしく、愚かしいと思わないか?』

 

 

その言葉が事実なのであれば、目の前の機人は人間を素体として造った兵器ということになる。それだけではない、あのカプセルに保存された機人達も。何千、何万にも至るサンプルのようなソレに、どれだけの人間が使われたか、考えるだけでも悍ましい。吐き気がこみ上げてくるのを、耐えるしかなかった。

 

 

『ここは私の用意した拠点の一つ、いずれ来たるプランの為の秘蔵物なんだ。勝手に壊されるのもなんだ────なので、プランを修正し、君達を排除するとしよう』

 

「ッ!半蔵!」

 

「分かっている!」

 

 

誰よりも早く再起動できたのは、ジード達であった。ジードが『邪眼』を発動させ、『リッパー』の動きを縫い止める。その瞬間に瓦礫の山へと飛び込んだ半蔵が、蹴り飛ばしていた起爆装置を手に取った。

 

 

「そのような悪しき根源、決して放逐はせぬ!今ここで、地に沈め!」

 

『────させると思うか?』

 

 

半蔵が握る起爆装置のスイッチを押し込もうとした直後、『リッパー』の背中が開き、内蔵されていた装置が起動した。突然の事に驚きながらもスイッチを全力で押す半蔵────彼はすぐに、起爆できないことへの困惑を顕にした。

 

 

「…………!?馬鹿な!何故っ!?」

 

『この機体は暗殺用の機体だ。センサーや赤外線を阻害するジャミング波も備えている。この機体を破壊しない限り、ここは壊せないぞ…………最も。

 

 

 

 

────お前達に破壊できるか、見物ではあるがな』

 

 

瞬間、『リッパー』の装甲が開く。開け放たれた隙間から白い煙を噴き出した機人兵の姿が、霧の中に溶け込む。周囲を覆い尽くすほどの煙に視界を覆われた一夏達はハイパセンサーを発動し、その姿を追おうとするが────。

 

 

「………奴の姿が捉えられん!見えるか!?」

 

「ダメ!全然!何なの、アイツ!あんなナリでステルスでもあるわけ!?」

 

 

ハイパーセンサーによる熱源探知を行っても、反応は捉えられない。この霧に溶け込むようなステルスでもあると判断した彼等は背中を預け合うことで対処しようと考えたが────一手遅かった。

 

 

「────シャルっ!!後ろだ!!」

 

「え」

 

『────まずは一人』

 

 

油断、ではないだろう。

周りにいる仲間への心配の余り、注意を疎かにしていたシャルロットの背後に機影が揺らぐ。悟った一夏の絶叫は届いても間に合わない。既に影は刃を振るうように構えており────

 

 

 

────生々しい音と共に、霧の中で赤が宙を舞った。




『人類進化機構』

人類の歴史の闇を生きた秘密結社。世界中の人類の進化と平穏を謳いながら、多くの人間を殺し尽くした『神に成ったと驕った者達』。非人道的な実験や計画を繰り返し、その技術を発展させてきたが、それまでの悪行の報いを受けるかのようにアッサリと滅びた。

因みに、その技術の数々はナノマシンによる治療など多くの功績を残すことになった。ぶっちゃければ、ラウラ達を生み出した技術もこれ由来。

『レギオン』

人類進化機構が造り出した量産無人機────サイボーグ。人間、もといクローンを素体として組み込んだ強化機動兵。一応立案されていたが、当時の社会では表立って公表できなかったのもあり、計画としては凍結された。

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