IS 蒼き宙の向こうへ   作:虚無の魔術師

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第11話 束の間の休息

『─────それではこれより、定例会議を始める』

 

 

厳格と呼ぶべき老人の声が、静かでありながらも確かに反響する。そこは光もなく、暗闇というよりも深淵と呼ぶべき黒に包まれた空間であった。

 

 

円を描くように、二十もの台座が並んでいる。そこに座するのは、老人や少しだけ歳を取った男女等、例外のように数人だけ若者も存在している。

 

 

 

この集団の名は──────『楽園の実(エデン・シード)』。国連内部に位置する最高権力を誇る意志決定機関。その実情は世間に明かされることはなく、あらゆる機関や組織を越える程の重要性を持つ組織であり、組織自体も五十年も前から存在しており実権を衰えさせた一度もない。

 

 

唯一、女尊男卑社会の影響を受けてないと見るべき組織だ。規律と義務、目的は世界の平和を維持するという事だからこそ、権力を自分勝手に使うような女性権利団体等の輩には自分達の椅子を渡すことはない。

 

 

 

 

『まず、最初の議題は─────数週間前のIS学園襲撃事件についてだ』

 

 

議長、そう呼ばれる立場にいる落ち着いた老人が静かに口を開く。しかし、すぐには会話が始まらない。老人達の視線はたった一人に集中する。

 

 

その視線の一人、眼鏡を掛けた弱々しい老人がゆっくりと口にした。

 

 

『……………時雨殿、今回の件。責任は重大ですぞ』

 

「はて、重大とは」

 

『惚ける気か!青二才の若造め!!』

 

 

時雨なる人物が不適に笑うのを見て、如何にも態度が荒々しい壮年の男が顔を真っ赤にしながら怒鳴る。

 

 

『IS学園にどれだけの資金を投資していると思っている!それなのに厳重な防衛システムを破られ、あまつさえシステムすらハッキングされるなど言語道断!』

 

『最早クビで済むような話ではありませんぞ!?』

 

『この場で処刑されても可笑しくない!いや、自ら勧んで申し出るべきではないのかね!?』

 

 

その男の勢いに続き、数人の老人や男が時雨なる人物に捲し立てる。当の本人は反論も意見することなく、彼等の戯言に耳を傾けていた。

 

 

次第に彼等の悪態は、別の相手へと向けられる。

 

 

『───それに!彼の最強である「ブリュンヒルデ」、織斑千冬は何も出来なかったと聞く!最強が動かずしてテロリストが討てるものか!』

 

『傍観ばかりしていたなど馬鹿馬鹿しい!何の為の力か理解しているのか!?』

 

「………」

 

 

巨大な台に腕を起き、荘厳な椅子に老人達のホログラムとは違い、時雨と先程から呼ばれていた者の隣に立つ織斑千冬。戦士としてではなく、一人の人間として引き締めた落ち着いた表情のまま、彼女は自分に向けられる罵声を受け止めていた。

 

 

だが、流石に言い過ぎている彼等に、千冬は畏まった様子で言葉を紡ぐ。

 

 

「…………お言葉ですが、生徒が人質に取られていたのです。彼女達を閉じ込められ、手出しがすれば危害を加えられていた可能性も─────」

 

『なら何だ!?相手は世界の平和を揺るがすテロリストだぞ!?学生の一人や二人死んでも大した問題ではない!奴を、アナグラムの中核であるシルディ・アナグラムを捕らえられた唯一のチャンスを無駄にしおって!!』

 

『所詮代表候補生にもなれん落ちこぼれだろう!数人程度死なせてでも捕まえれば問題ないというのに!ブリュンヒルデも落ちぶれたものだな!』

 

「………………」

 

 

その反論すら受け入れられないのか、老人達は容赦のない悪口を浴びせていく。行き場のない怒りが膨れ上がり、それを抑え込むために拳に力を込める。皮膚に食い込み、血が流れてもこの怒りは消えない。

 

 

 

自分の名を馬鹿にされる事はいい。

だが、千冬も教師だ。生徒を守る為に最善だった選択を否定され、あろうことか生徒達が死んでも大したことはないと吐き捨てる老害達への殺意が、どうにも止められない。

 

 

 

世界最強を罵倒できて楽しいのか、自分達のプライドを満足させるためか、好き勝手に言う老人達だが─────、

 

 

 

 

 

 

 

 

「─────言葉を控えて貰いませんか?ご老人の皆様」

 

 

そこでようやく、千冬の隣の席に座していた人物が意を唱えるように口を開く。そこで、暗闇に隠されていた時雨の姿が明らかになった。

 

 

 

 

その見た目は────十四歳程。

何らかの若返りでもしたのか、或いはその年でも尚手腕が優れているのか。

 

 

艶のある黒髪を髪留めで結い、左右異なる色をした瞳。クスリと小さな笑みを浮かべたその表情は容姿端麗であり、滅多に見れないものである。

 

 

遮られ、憤慨を隠そうとしない老人に、時雨は口元を軽く隠しながら笑う。

 

 

「老体に合わない高血圧でポックリ逝ってしまいますよ?まぁ、お望みならばお止めはしませんが………死体の清掃も手間が掛かるでしょうから」

 

 

歯を軋らせるような不快な音が、老人の口から響いてくる。余程少年の言葉に苛立ちを覚えさせられたのか、態度に出ている。

 

怒りに震えるのを落ち着かせるように、小さく笑う老人。その表面的な態度は感情の爆発を見せないようなものへとなっていた。

 

 

『…………フフ、労り感謝する。だが時雨君、君の失態は変わらないぞ?IS学園の襲撃、これだけで君のクビは飛びかねん失態だ』

 

「この程度で?笑わせないでいただきたい、御老公」

 

 

椅子に腰掛けた少年は老人の追求にすら狼狽えない。その理由は簡単だった。

 

 

「我等、「楽園の実(エデン・シード)」は国連最高の権力を誇る議会。二十人の議員で構成される我等は責任による辞任は認められていない、何せ我等は世界の平和を守る為の組織。失敗を償うのなら尚、組織に在中して成果を挙げる。それをお忘れですか?」

 

『………ッ!』

 

「それに、今回の件は損害だけではありません」

 

 

パチン! と彼が指を鳴らすと、台座に座る議員達の元にデータが送られる。それは、数週間前の事件の過程を詳細かつ正確に記したものであった。

 

 

「織斑一夏と蒼青龍夜、彼等がアナグラムの襲撃に助力したことにより、被害はゼロ。そして織斑一夏に関してはアナグラムの戦闘員を一人、倒したに至る…………実に素晴らしい戦果ではありませんか」

 

 

 

『………それは確かにそうですな』

 

『一人とはいえ、打ち倒したという事実は大きいでしょう』

 

『────ッ』

 

 

増えていく賛同の声に苦々しい顔で周りを睨む老人。彼の視線を受けた者の大抵は気にする様子も見せないか、怯えたように顔を逸らすだけだった。

 

 

議長が周囲を睥睨し、コホンと軽く咳込む。

 

 

『結論は出来たようだな…………時雨殿の責任追及は無しとする。異論がある者は申し立てて貰おう、異議がなければこの議題は終了する』

 

 

反論は何一つなかった。

静寂の中、時雨を毛嫌いする老人は挙動不審といった様子で周りを見渡している。だが、誰一人時雨の責任を追求するつもりはないらしい。

 

 

忌々しさを腹の中に隠す老人は、不愉快そうに台座を殴った。

 

 

『───ふん!なら良い!だが、所詮は一人だ!アナグラムを殲滅することが現時点での我等の目的であることを忘れるな!』

 

『…………じゃが、下手に追い詰めるのも良くはないでしょう』

 

 

動きのおぼつかない、先程の男よりも年老いた老人が静かに呟いた。遮られたことに怒りを滲ませる男を他所に、老人は言葉を続ける。

 

 

 

『もし、彼等が最後の足掻きとして「真相」を世界に明かせば、世界の平穏は乱される。どれだけの国の政権が転覆し、どれほどの戦争が起きることか────』

 

 

『その為のプロジェクトは既に出来ている。そうだろう?』

 

 

 

『えぇ、我等がロシアは「ヴァルサキス・プロジェクト」を無事完成させました。後は人工衛星として打ち出せば計画はパーフェクトであります。人工知能の方は悩ましいですが…………差程重要な事ではありません!』

 

 

 

『────「ラグナ・プロジェクト」は現在74%、遅れ気味ではありますが問題ありません。数ヵ月で完成に至ることでしょう』

 

 

 

『────「ガーディアンズ・プロジェクト」は、ほぼ完成に近付いています。既に「強化人間モデル」の二人は運用できております。他のメンバーも何に一つ心配はございません。最強のIS────ナイトメアは未完成ですが、倉持氏の提示した研究結果、「多重コア」を用いて改造を施しておりますので、ご安心を』

 

 

ふくよかな男、眼鏡を掛けた冷徹な女性、そして白衣に身を包んだ両目にゴーグルを掛けた薄い金髪の男性。其々が他の全員の前に展開される映像に資料を提示し、説明を始めていく。

 

 

素晴らしい、と何人も拍手をしていく。不愉快極まりないと、侮蔑の視線を向ける千冬に気付かぬまま、満足そうに老人の一人がグラスを揺らしながら呟いた。

 

 

『この三つのプロジェクトが完成すれば、アナグラムを完全に掃討できる。奴等に抵抗の暇なく叩き潰せば、我等の勝利は確実』

 

『アナグラムに集中するのも結構だが、お忘れではないか?』

 

 

そう言うのは、年老いた瞳に宿る光を衰えさせない、騎士を思わせる老年の男。名を、アーサー・グランディア、アーサー卿。イギリスに所属する貴族の一人で、最古参の議員の一人である。

 

 

先程から冷静かつ聡明に、物事を見据えているアーサー卿が軽く台座をスライドさせると、他の面々に新たな画像が添付される。それは、其々二つのデータを纏めたものであった。

 

 

 

『「魔剣士」、「魔王」、正体不明の二機の黒いIS。奴等も脅威であることには変わりはない』

 

 

映し出されるのは、黒い人の形。各々別の方向から撮ったような画像は粗いが、それでも確かな特徴は捉えていた。

 

 

禍々しい鎧に、黒い剣を振るう外套を纏った剣士。剣士とは違い、真っ黒な闇に染まったような鎧を纏う悪魔のような存在。前者が『魔剣士』、後者が『魔王』であった。

 

 

 

『「魔剣士」ですか?ですが奴は被害も少ない、むしろ「魔王」と相対してくれて対処に楽だと思いますが…………』

 

『そういう訳にもいかないのですよ、奴は八神博士の遺したデータを所持している。それにより博士しか開発できない筈の兵器を量産し、独占している』

 

『しかも、今回の襲撃事件の資料を読み解くと、博士しか造れない「アルガード・タイプ」の最新鋭型をアナグラムが率いていたと聞く。「魔剣士」がアナグラムと手を組んでいるのなら、無視できる話ではない』

 

『「魔剣士」はいい、最も警戒するべきは「魔王」であろう』

 

 

『魔剣士』に対し厳しい顔で話し合う者達を諫めるように、老人の一人が強い声で言う。

 

 

『イギリスのBT2号機、ロシアの新型IS、これ等の二つの強奪だけではなく、重要施設の攻撃及び民間人大量虐殺。被害だけならアナグラムよりも危険な存在だ。何より、例の組織のトップという話もある。奴を潰さなければ、民間の被害は増えるばかりだ』

 

『─────ご安心を。プロジェクトは世界平和の為に運用されます。奴に対して使われるのも、後々の話です』

 

 

その話が終わったのを見計らい、議長が台座に配置されたベルを鳴らす。一定の時間が経ったことを示す小型のタイマーが内蔵されていたベルの音に、議員達は会話をすることなく、議長へと向き直る。

 

 

 

『時間だ。これより、定例会議を終了する。─────皆、忘れるな。我等の命はとうに棄てたもの、世界の為に尽くし、世界の為に死ぬのが、我等の信念であり、使命なのだ』

 

『…………』

 

『全ては、世界の平穏の為に』

 

 

 

『『『『『『全ては世界の平穏の為に』』』』』』

 

 

議長に続き、全員が当然のように宣言する。それだけで一瞬、暗闇が完全に暗転する。ふてぶてしい議員達の姿は消え─────明点した時には、その場にいるのは時雨と千冬だけだった。

 

 

 

外に綺麗な海が見えるその部屋は、IS学園の理事長室。一般の生徒は当然ながら、普通の教師でも入ることは滅多にない。入学式から一ヶ月経った今確認できるのは、織斑千冬と生徒会長の数人だけだ。

 

 

 

理事長である時雨が、座席に背中を預けながら溜め息を漏らす。整った顔立ちを歪めるのは、先程の会議が理由であった。

 

 

「…………ったく、老害はこれだから」

 

 

人の失敗や事故を責任などと言いながらネチネチと責めてくる性格の悪さ。基本的に優れた相手を自分の力で越えるのではなく、自分より下に引きずり下ろして勝った気でいる。

 

 

アナグラムによるIS学園襲撃という事実は無視できず、言い訳する気はなかった。だが、せこさと卑怯さが取り柄の奴等にとって、今回の事件は時雨を批判する都合の良い理由が出来てしまった。

 

 

責任はない、という一件で済まされたが、好き勝手言われるのは少々面倒だと思う。

 

 

 

「陰気臭いジジババの小言に付き合わせてすまないね、織斑先生」

 

「………気にするな。対処できなかったのは事実だ」

 

 

隣から前へと移動した千冬が冷静な様子でそう言い切る。

 

 

「IS学園の防衛システムに何らかの異常はなかった。だが、奴等は防衛システムを掻い潜って攻め込んできた。センサーなどが捉えた様子はなかった。─────まさかとは思うが」

 

「防衛システムに関しては維持でいいよ。これ以上強化しても無理そうだからね。僕らに足りないのは人員、明日から新しく二人を呼び込むよ」

 

「二人だと………?教師はもう十分なはずだ。一体何を───」

 

「僕の私兵だよ、ISにも負けない─────化け物染みた人間さ。ま、君程でもないけどね」

 

 

余計な発言を咎めるような千冬の一睨みに怖いなぁと笑う時雨、彼の机のコピー機が突然音を出して起動する。ピーッ、とコピー機から排出された紙の内容を見て、目の色を変える。

 

 

「─────へぇ、これは面白い」

 

「何がだ?」

 

「ビッグニュースだよ、織斑先生。

 

 

 

 

 

 

 

『三人目』が見つかったてさ、それも明日転校してくるんだって」

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

日曜日。

学園では授業が何一つない、分かりやすい話、休日であった。一夏もIS学園から離れ────今は家にいた。家と言っても、自分の家ではなく、悪友の家だ。

 

 

 

「で?」

 

「で? って、何がだよ」

 

 

テレビに繋いでゲーム機を弄りながら、一夏は自分にそう聞いてきた悪友に眉をひそめる。長めの赤い髪にバンダナを巻いた青年、五反田弾(ごたんだだん)はテレビに視線を向けながらも一夏に不適に笑いかける。

 

 

 

「だから女の園の話だよ、いい思いしてんだろ?」

 

 

うへぇ、と面倒そうな顔になる一夏。格闘ゲームの最中だが、弾に負けてきているのか、少し焦り気味にコントローラーを連打している。

 

 

 

「………正直、そんなに良いもんじゃないと思うよ。僕も」

 

 

そんな二人の後ろで、丸机に置いてあるお菓子とジュースに手を伸ばすのは、黒髪の青年だ。しかし弾や一夏のような明るさは少なく、どちらかと言うと内気なタイプに思えてくる。

 

 

「何言ってんだよ、暁。一夏のメール見てるだけでも楽園じゃねぇか。羨ましいなぁ、俺らも招待券ねぇの?」

 

「ねぇよバカ」

 

「ま、そりゃそうだよなぁ。残念だぜ…………なぁ、暁」

 

「な、何で僕も………?」

 

 

困惑する友人を他所に、テレビ画面で勝敗を示すファンフーレが鳴り響く。見事に勝利を収めた一夏が拳へと振り上げ、疲弊したように弾が項垂れる。

 

 

「それで?一夏は何を選ぶんだっけ?」

 

「決まってるだろ、王道のテンペスタだ。また打ち勝ってやるよ」

 

「へぇ………勝つ気満々だね。良いよ、こうなったら僕も本気を出すね。アメリカが誇るパニッシャーで蹂躙するから」

 

 

弾からコントローラーを手渡され、操作機体を選択する暁。因みに今プレイしているのは大変人気なISをモデルとしたゲームだ。まぁ開発当初は各国から『もっとちゃんと(自分達の国の代表の強さを)再現して』と苦情が多かったらしい。

 

 

互いに軽口を言いながら試合を始めようとしたが、突然開け放たれた扉の音によって、遮られることになった。

 

 

「お兄! さっきからお昼出来たって言ってんじゃん!さっさと食べに─────」

 

 

ドォンッ! と引き戸が壊れるじゃないかと思う程の音を出し、そう声をあげたのは赤髪の少女。名を五反田蘭(ごたんだらん)。弾と同じ髪の色と彼と同じようにスカーフを巻いたその姿は兄弟だとすぐに悟らせる。その割には、妹である彼女の方が兄に似合わず可愛らしいが。

 

 

自らの兄への怒鳴りは、部屋に中にいる二人をみた瞬間に途絶え、それどころか途絶した。

 

 

「あ、久しぶり。邪魔してる」

 

「蘭ちゃん………久しぶりだね、元気にしてた?」

 

 

「一夏さん?…………あ、暁………さん!?」

 

 

軽く挨拶する一夏、その横で暁はたどたどしい笑顔を浮かべながら頭を下げる。一夏に関してはただ驚いていただけだったが、暁を見た瞬間硬直し────ボンッ! と真っ赤になった。

 

 

理由は明白。

一夏は知る由もないが、蘭なる少女は暁に好意を抱いているのだ。それも子供の頃から続いているものである。まぁ一目惚れらしいが、それでも長い間続いているのだから流石ではある。気が緩んでいる今、想い人に会うことがどれだけ衝撃的かは理解できなくもない。

 

 

それだけではない。

今の彼女は家の中で過ごすようなラフな服装だ。それも夏に近いため、暑さ対策のために露出が少なくないものばかりだ。ほぼ下着のような感じなのだから、その姿のままで好きな人の前に立つのは、中々覚悟がいる。

 

 

 

そんな彼女だが、すぐに再起動すると刃のように鋭い視線を彼等に向ける。いや、あー、と困ったような自らの兄、弾へと。

 

 

 

「………なんで、言わないのよ」

 

「え、あ………あれ?言ってなかったけ?は、ははは……………」

 

「……………」

 

「ご、ごめんね。蘭ちゃん………実は一夏が実家に帰る時に出会ったから、このまま弾や蘭ちゃんに会いに行こうと思ったんだけど…………ダメだったかな?」

 

「っ!いえ!そんな訳ないですよ!久しぶりに会えて嬉しいですから!あ、あと一夏さんも………えっと、暁さんも、お昼どうですか!?まだですよね?そ、それでは!」

 

 

パタン! と。

暁の話を聞き、慌てた様子で扉を閉めて立ち去っていく蘭。どうにも彼女はすぐさま離れたかったようだ。その事に首を傾げた一夏は不思議そうに、

 

 

「やっぱり、蘭も前から変わらないなぁ。弾はともかく、暁に対してもよそよそしいみたいだし………そろそろ仲良くなっても良さそうだけど」

 

「……………」

 

「……………」

 

 

はぁ、と溜め息を吐く親友と悪友。その意味を理解できずにいる一夏をよそに、二人はボソボソと話していた。

 

 

「相変わらず一夏は変わらねぇなぁ………どうしてあそこまで鈍いんだか」

 

「それが一夏の性だから…………これじゃあ学園にいる女子達も困らせてるんだろうね」

 

「全くだ。ホントに泣けてくるぜ、俺達にも幸せくらい恵んで欲しいよな?暁」

 

「あ、いやぁー。僕は遠慮するけどね」

 

 

そんな事を宣いながら、彼等はさっさと部屋から出て、弾の家である食堂で昼食を取らせて貰っていた。

 

 

 

─────

 

 

 

昼食を取り終えた一夏と暁は弾や蘭と別れ、各々の変える場所へと歩いていた。帰り道はある程度同じらしく、二人は世間話をしながら歩いていた。

 

 

「それにしても、暁。よく蘭のこと、ちゃん付けで呼べるな。俺は正直無理かもなぁ」

 

「えぇ………僕は呼び捨ての方が無理だよ。それだと失礼な感じがするし」

 

 

そんな感じの話をしていると、駅に着いた。一夏はこの駅からIS学園へ通じる道を進んで、学園に戻ることになる。自宅の様子も確認でき、親友や悪友と再会できた事に満足した一夏は、このまま歩いて帰る暁に大きく手を振るう。

 

 

「んじゃ、ここでお別れだな。これからも頑張れよ!暁!」

 

「あ、待って!一夏!」

 

 

駅の中へと入ろうとした一夏を、暁は引き留めた。振り返り、不思議そうな顔で見てくる一夏に、何も言えなくなる。開こうとした口を震えながら閉ざし、不器用な笑顔を浮かべる。

 

 

「…………あー、いや。やっぱり、大丈夫」

 

「………?本当に大丈夫か?」

 

「う、うん!心配いらないよ!それじゃ、バイバイ!また会おうね!」

 

 

 

 

 

 

「─────箒ちゃんと再会できたんだ………良かった」

 

 

学園へと戻る一夏を見届けず、暁はポツリと呟いた。帰り道、自分の家へ帰る足取りは自身の心を示すように重かった。

 

 

話の最中、別れたっきりの幼馴染みの名前が一夏の口から漏れていた。それだけで、暁は理解できた。篠ノ之箒、自分と一夏が幼少期から仲の良かった彼女が、IS学園にいたという事実を。

 

 

 

それを喜ぶ自分と、喜べない自分がいる。

 

 

「………何考えてんだろ、僕は」

 

 

卑屈そうに笑う暁、彼の心境は複雑そのものであった。

 

 

 

まず、海里暁は篠ノ之箒が好きであった。出会って少し経ってから、子供の頃の好意は恋心となり、ずっとその想いを秘めていた。

 

 

だが、二つの事実が暁の心に重くのし掛かっていた。一つは、箒にも好きな相手がいること。それが一夏だということも、彼は知っていた。

 

 

 

そして、もう一つの事実。

 

 

 

「箒ちゃんが好きなのは一夏だ、僕じゃない。それに………僕には、箒ちゃんの事を好きになっていい筈が────」

 

 

カバンから、新聞を取り出す。

相当昔の新聞だ、日付からして七、八年程だろう。自分の父親の堂々した態度と表情に、暁は何を思ったのか、新聞の切れ端をグシャグシャに押し潰してポケットへと押し込む。

 

 

淀んだような薄暗い笑いをひきつらせながら、彼はトボトボと帰路を歩いていた。その背中に、重い悩みと宿命を背負いながら。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

太陽の光に照らされ、輝きを強める蒼き海。

IS学園の存在する人工島に向けて出発した大型の船、輸送船はゆっくりと着実に進んでいた。

 

 

 

辺り一帯に広がる光景は普通に見れば落ち着くような環境である。船の側面に当たり、飛び散る水飛沫は光を受けて宝石のように煌めく。どこか幻想的なものを思わせる景色を前に、

 

 

 

「────チッ」

 

 

苛立たしく舌打ちを吐き捨てる女性が一人。輸送船の甲板、コンテナが山のように積み込まれた場所の手前で、彼女は外を見渡している。

 

 

全体的に黒が強めの赤い長髪、そしてダイバースーツを軽く改造したような装備を着込んでいる。だが、そんな特徴が頭から消え去るようなものが、彼女の隣にあった。

 

 

『─────』

 

 

大型の、ヒト型の機械。

ヒト型と言えど、類似点は二足歩行という所しかない。それ以外の特徴が、普通のものと離れているからだ。

 

ビーム砲らしき武装が接合された巨腕は胴体に接続されておらず、代わりに胴体を囲むように展開された金属の輪と繋がっており、全方位に対応できるような形状であった。

 

 

そんな機械の真横で、彼女は苛立たしそうに吐き捨てる。

 

 

「─────ホント最ッ悪ね。こっちはあの亡霊どもの首を持ってこいって命令通り動いてたのに、用事が出来たから即刻IS学園に来いとかふざけてんの?……………あのチビから金をむしり取ってやるしか腹の虫が収まらねーわ」

 

 

「………それって空腹って意味じゃないすか?先輩」

 

 

上司への悪口を余すことなく吐き出そうとする女性に、後ろから現れた青年が不安そうに疑問を投げ掛ける。

 

 

女性と同じくダイバースーツを装着した黒色が多い、青髪の青年。両目の色が各々違うのは、全く別の眼球であるかもしれない。異様なのは、青年の両腕と両足、そして背中に差し込まれた二刀の大型ブレード。

 

 

両腕と両足の先は生身ではなく、義手や義足のようになっている。背中に剥き出しになった人工脊髄らしき部位から腕や脚へと、体内に埋め込まれたケーブルが少しだけ点滅し、その存在を広めるように光を放つ。

 

 

「先輩の怒りや不満は分かりますけど、俺達は国連所属、そして時雨さん直属の兵士です。どんな命令にも従うしかないってのが俺達下っ端の性じゃないすか」

 

「分かってるっての」

 

 

後輩の正論にそう言うしかない女性。自分自身、それが正しいと思うのは事実だし、命令に逆らうつもりは更々ない。だが、自分達が遂行していた任務─────世界の裏に存在する暗部、奴等を引きずり出し、処刑することを目的としてきたのだ。

 

 

それが上の老害達によって、好き勝手に振り回されるのは面白くない。此方は命を賭けて世界の平和を守ろうとしてるのに、連中は口で言うだけで動こうともしない。本気で死ねと何度、いや何千回思ったことか。

 

 

 

ただ一つ、そのストレスが緩和することがあるとすれば一つ。

 

 

 

「────まーでも、アンタも一緒だから良しとするわ」

 

「………?何です?」

 

「独り言よ、気にすんな」

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

IS学園を離れた龍夜は自宅────ではなく、そこから遠い場所にある山奥に立ち尽くしていた。

 

 

 

公園の跡地、と言うにはあまりにも廃退していた。遊具は全て撤去され、残されたベンチは到底座れるようなものではない。無論、龍夜はそんなものに気にしていない。興味すら、抱いていない。

 

 

 

彼の目の前にあるのは────墓標だった。

何ら装飾のない、ただの墓石。苔やヒビの入った古くさい、誰も手入れしてないもの。それには二つの文字、いや名前が刻まれていた。

 

 

蒼青竜(そうせいりゅう)蒼青恵梨花(そうせいえりか)、龍夜と姉である零の両親であった二人だ。

 

 

 

両親のことは好きだった。

他人を極力信用せず、学校にも行かずに、周りを拒絶していた龍夜を、両親は否定することなく受け止めてくれた。力ずくで更正させようとはせずに、自分の生きたいように生きるのが一番、と笑って話してくれた。

 

 

 

 

 

だから、そんな二人が死んだと知らされた時は、生きる意味が喪われたようだった。

 

 

 

 

 

その事実を伝えてきた黒服の男達に、自分は呆然とするしかなかった。零は静かにその場に泣き崩れ、もう一人の姉と義兄は二人の遺体だけは返してくれと掴み掛かっていた。

 

 

その日から、全てが壊れた。幸せだった日常は失われ、大切な家族は姉を残し、自分の前から消えていった。

 

 

 

 

そして─────龍夜は決意を胸に、立ち上がったのだ。ISで世界最強となり、女尊男卑という世界のシステムを、正しいものへと作り替える。その決意の裏に、もう一つの目的を隠して。

 

 

 

ふと、スマホの画面に視線を落とす。

そこに映ったものを眼にした龍夜は、ただ静かに、凄まじい憎悪と怨恨を込めながら呟いた。

 

 

 

 

「───必ず、探し出してやる」

 

 

画面にあるのは、写真だ。

解像度の割には鮮明に写し出されたその写真には、あるものが刻み込まれていた。

 

 

 

姿を粒子のように変えていく漆黒のIS。全身を覆い隠す黒き鎧の奥、眼の代わりともいえる不気味な光が此方を確かに見据えていた。

 




お気に入りや評価、感想などよろしくお願いします。






三人とも幼馴染みの少年少女。互いに親友同士で子供の頃からも仲が良かった。子供の頃から好きだった親友の女の子と離れることになった挙げ句、もう一人の親友に恋してる事実を理解する。本人は思い悩んでいたけど、諦めた方が幸せだよね、どうせ自分なんか………と卑屈になり、諦めかけてる。どんな三角関係やねん(真顔)
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