「やっぱりハヅキ社製のがいいなぁ」
「えー?そうかなー? ハヅキのって、デザインだけみたいじゃない?」
「そのデザインがいいの!」
「私はエレクトロニクス機社かなぁ、基本的に性能良いんだし」
「エレクトロニクスって………アンタ別にISスーツのことは頭にないでしょ?ただ社長がお目当てってだけじゃない」
「良いでしょー!?社長格好いいじゃん!ホントに、次のイベントで来て欲しいなぁー。私も火事場の馬鹿力見せられるのにー」
「…………そこまで切羽詰まる状況なの?」
女子達の世間話がクラス中に響き渡る中、龍夜は大きな欠伸を噛み殺した。昨日調子に乗り過ぎて、休眠の時間を削ってしまったのだ。お陰で今日は三時間しか寝てない。何とか朝にカフェインを押し込んだが、それでも眠気が覚めることはない。
「……………眠ッ」
夜更かしの原因は、前々から造ると宣言していた自分のISの武装だ。アレの設計図を基にパーツや部品を揃えていたのだが、思いの外時間が掛かった。当初は興奮して寝付けなかったから問題ないだろうと考えたのに、一度起きてからここまで眠気が襲ってくるのは流石に理不尽だと思う。
大きな欠伸を押し殺し、龍夜は厄介そうに吐き捨てた。
「くそッ…………夜更かしなんてするんじゃなかった」
「─────全く以て、その通りだ」
ゾワッと、龍夜の全身に悪寒が走る。この感覚はいつになっても慣れることはない、何度も味わおうとも、何年絶とうとも。
ギチギチ、と壊れかけの人形のように首を動かして、真後ろを見る。そこに立っているのは、織斑千冬。龍夜の呟きを耳にしたであろう彼女は冷徹な雰囲気を消すことなく、出席簿を手にしていた。
「学校の前日に夜更かしをするとは、お前も随分合理的じゃないことをするじゃないか。少し気が変わったか?」
「い………いや、それは…………」
「安心しろ、怒っている訳ではない。…………だが、HRの前でそこまで眠そうなのは私も心配だな。よし、眠気覚ましの一発だ。強めにいってやろうか」
「え、遠慮しま─────」
ズバァンッ!!
爆音が響き渡り、頭部を打ち付けられた龍夜は机に倒れ伏せる事になった。
◇◆◇
「今日からは本格的な実戦訓練を開始する。訓練機ではあるがISを使用しての授業になるので各人気を引き締めるように。各人のISスーツが届くまでは学校指定のものを使うので忘れないようにな。忘れたものは代わりに学校指定の水着で訓練を受けてもらう。それもないものは、まあ下着で構わんだろう」
教壇の前での千冬の説明に、最後に関して疑問に思う一夏と、痛みでそれどころではない龍夜。
最近、千冬の出席簿による一撃の威力が増してきた気がする。全力でやってきてるという感じではなく、少し手加減を緩めたみたいな感じなのかもしれない。どこまで化け物なのだろうか。
────やっぱり此方を見てきた。心を読む事すら出来るとか普通に化け物じゃないか。
「では山田先生、ホームルームを」
「は、はいっ」
話を終えた千冬は、そう言いながら山田先生へとバトンハッチした。眼鏡を噴いていた彼女は慌てながらも、すぐさま卓上へと戻る。
「ええとですね、今日はなんと転校生を紹介します!しかも二名です!」
「え……」
「「「ええええええっ!?」」」
先月の鈴のように転校生、それも二人が来ることにクラス全体が大きくざわめき始める。一方で龍夜は痛みも引いてきた事もあり、落ち着ききった様子で話を聞いていた。
(転校生、それも二人が同じクラス────か)
退屈そうな表面上とは一転、冷静かつ凍えきった思考が動き出す。普通に考えて、このクラスに転校生が二人も来るなんて可笑しい話だ。男二人がいる時点で他のクラスに転校生を分散させるのが妥当であるのに。
疑念と疑惑を募らせる龍夜やさわぎを静めないクラスメイト達を他所に、扉が開く。あまりにも周囲の音より小さい音であったが、聞こえた瞬間にクラス全体が静寂に包まれる。
二人の転校生が、教室の中へと入ってくる。クラスメイト達は息が止まったかのように硬直し、興味すらなかった龍夜は鋭く眼を細め、僅かな興味と警戒を示す。
何故ならば、その転校生の一人が────男子なのだから。
「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。この国では不慣れなことも多いと思いますが、皆さんよろしくお願いします」
転校生の一人、金髪の美少年 シャルルがにこやかな顔でそう告げると共に、一礼する。クラス全員───龍夜を除いた皆が唖然とするしかない。
そして、一斉に騒ぎ出す女子達。中性的な顔立ちに、一夏や龍夜にもない礼儀正しい振る舞い。当然と言えば当然だろう。騒がしくなったクラスに適当にぼやく千冬に、山田先生が慌ててクラス中の興奮を諫めようとする。
しかし、そんな喧騒を無視して、龍夜は未だ静かにシャルルを睨んでいた。何かを思ったのか、小声でスマホに語りかける。
「───ラミリア、シャルル・デュノアとデュノア社について調べておけ」
ピロン、とスマホの画面が点滅する。小さな妖精のマークを確認し、龍夜はスマホをポケットの奥へと捩じ込む。シャルルについて彼も思うところがあるが、今は気にしている必要はない。
もう一人の、転校生の方を見る。
こっちも男という訳ではなく、女子だ。白に近い銀色の髪、オマケというように左目を覆うような黒い眼帯。片方の眼は赤に染まっているが、色合いとは対照的に瞳は冷えきったような色をしている。
「………挨拶をしろ、ラウラ」
「はい、教官」
「ここではそう呼ぶな。もう私は教官ではないし、ここではおまえも一般生徒だ。私の事は織斑先生と呼べ」
「了解しました」
千冬の言葉に答えるラウラは、体をビシリと引き締める。両手も両足も綺麗に揃えたその体勢から見て軍人に近いというか、軍人そのものである。
再びクラスメイト達に向き直ったラウラは冷徹な表面を崩すことなく、
「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」
「………………」
たったそれだけの言葉に、沈黙が続く。ラウラが何を言うのか期待する反応ばかりだが、そんなもの意に返さないというのように重い口を閉ざしたラウラ。最早喋る気はなさそうだ。
「あ、あの、以上………ですか?」
「以上だ」
あまりの空気に泣きそうになる山田先生。可哀想だが、無理もない。というか、この状況デジャヴな気がする。一度似たような事があったと思うのは気のせいだろうか。
そうしていると、ラウラが何処かへと視線を集中させている。確信したように鋭い目つきのまま、生徒達の方へと歩き出す。
視線の先は、すぐに分かった。
「え?な、何だよ?」
不思議そうに聞こうとする一夏に、答えない。ラウラは一夏の前へズカズカと進んでいく。彼との距離がある程度縮まった─────その瞬間。
バシンッ!
と、肌を打つような音───ではない。
それは、いつの間にか振り上げられたラウラの手首を掴むものであった。誰もが状況を理解できずにいる。箒やセシリア、山田先生─────唯一、少しだけ気になったように目を見開く千冬。
一瞬で席から動いた龍夜は、ラウラの手首を抑えながら機械的な程に平坦な声で聞く。
「────何をする気だ?」
一夏に近付いていくラウラが、彼を叩こうとしている事を龍夜は理解していた。基本的に無駄を嫌う龍夜が動いた理由は、面倒な問題を止めておきたいと感じたからだ。………決して、考える前に動いていたという事ではない。
自分の行動を止められた事に気付いたラウラは表情を憤怒で歪め、片目だけで龍夜を睨む。
「…………貴様」
「面倒ごとなら後でしろ。時間を無意味に浪費されるのは好きじゃない」
「ならその手を離せ、切り落とされたいか?」
「問題を起こすなと言いたいのに、その態度。これだから馬鹿は嫌いだ、人の言葉を理解できないクセに自分が優れていると思いたがる。馬鹿なら馬鹿らしく、足りない頭を使って最善を考えておけ」
ラウラの敵意を感じ取った瞬間、龍夜の顔から感情の全てが消え去る。無機質かつ冷淡な様子で、ラウラを侮辱し、見下すような言葉を平然と吐き出していた。
その様子に、一夏は信じられないと唖然としていた。最初は殴られたという事実もありラウラに掴み掛かりそうであったが、あまりにも敵意を剥き出しの龍夜に驚きを隠せず、怒りが鎮火していたのだ。
ここまで他人に敵愾心を向ける彼の姿は見たことなかった。感情を剥き出しにする事は一度もなく、一夏達に対しても無愛想ながらも普通に接していた面が多かったからか、彼がここまで他人に敵意を抱くのは何故だろうか。
更なる怒りを顔に刻むラウラと、まるで害虫を見るような冷徹な眼で見据える龍夜。今にもぶつかりそうな二人であったが、龍夜の方がすぐに手を離した。
自分の手首を擦るラウラは、龍夜を睨みながら口を開く。
「貴様、蒼青龍夜だな?」
「見て分からないか?その片眼は機能してないらしいな」
「…………良いだろう。貴様と織斑一夏は私の手で始末してやる」
「なるほど、期待はしないでおこう」
ふん、と互いに鼻を鳴らし、各々の席に戻っていく。あまりにも刺々しい二人の様子に、誰もが声を出せずにいる。
「あー……ゴホンゴホン! ではHRを終わる。各人はすぐに着替えて第二グラウンドに集合。今日は二組と合同でIS模擬戦闘を行う。解散!」
パンパン! と手を叩きながら千冬が行動を促す。校舎の構造に慣れないデュノアに一夏が先導して案内するために教室の外へと飛び出していく。そんな二人を追いかけて行く女子達を見てから、龍夜はゆっくりと立ち上がる。
教室の外へ出て、取り出したスマホを見下ろす。起動した画面に目を通し、
「…………ふん」
それだけ呟くと、そのまま一夏達の後を追い掛けていく。
「────何にしてもこれからよろしくな。俺は織斑一夏。一夏って呼んでくれ」
「…………蒼青龍夜。呼び方は好きにしろ」
「うん、よろしくね、一夏、龍夜。僕のこともシャルルでいいよ」
「わかった、シャルル」
「…………」
更衣室に着いた三人、各々互いに挨拶をして仲を深めていく。ただ一人、龍夜は悟られぬように静かに、シャルルを見つめていた。その視線に敵意はないが、疑念は僅かに感じられる。
だが、そんな事をしている内に、時間がない事に気付いた一夏。慌てて着替えようと制服を投げ捨て、Tシャツを脱ぎ始めた。
「わあっ!?」
顔を真っ赤にしてシャルルは一夏に背を向ける。突然の行動に不思議だと言うように首を傾げた一夏は、
「………どうしたんだ?男同士だから着替えくらい見ても恥ずかしくないだろ?早く着替えないと、千冬姉に怒られるぞ?」
「あ、う、ううん………ちょ、ちょっとね」
「一夏………お前」
答えられないシャルルに、龍夜が呆れたように彼の前に出る。一夏の視線を遮るような形で彼は服を脱ぎ始めた。
「男同士だからって言っても、羞恥くらいある。考えろ」
「………えぇ?でもさぁ、男同士だぞ?」
「良いから引き下がれ。男にその気があるって女子達にチクるぞ」
それを聞いた一夏も顔を青くしたようで、すぐさま着替え始めた。背を向けて着替える龍夜に、安堵した様子でシャルルは急いでISスーツに着替えた。
「うわ、着替えるの超早いな二人とも。なんかコツでもあるのか?」
「い、いや、別に………って、一夏はまだ着てないの?」
「これ着る時に裸っていうのがなんか着づらいんだよなぁ。引っかかって」
「ひ、引っかかって?」
「おう」
「……………」
「…………セクハラ野郎」
茹で蛸みたいに真っ赤になるシャルルを庇うように前に出た龍夜が、冷徹な視線と共に吐き捨てる。
何でさ、と一夏は困るしかなかった。
◇◆◇
「では本日から格闘及び射撃を含む実践訓練を開始する」
「「「「「はいっ!」」」」」
第二グラウンドではなく、アリーナ。
響き渡る声がいつもより大きいのは、二組との合同であるからだ。返事も通常より気合いが入っている。
箒にセシリア、鈴とシャルル、オマケにラウラも普通にいる。何一人、龍夜の見解では欠けている様子は見られなかった。
だが、千冬はすぐに授業を開始せず、腕を組みながら不適な笑みを浮かべる。
「だがその前に、お前達に紹介しようと思う奴等がいる」
「奴等?」
「新しく学園の警護に入る二人だ──────同時に、今回の訓練のメインゲストでもある」
千冬がしたり顔で笑った瞬間、アリーナの上付近で動きがあった。
『───!?─────────!?』
『───────、────────』
二人の人影が、見えたのだ。彼等は千冬の声にでも反応したのか、言葉が終わってからすぐ、何かを話し合う。一人が焦ったように聞き返し、もう一人が無視したようにもう一人の腕を引っ張る。そのまま飛び降りてきた。
「────なッ!?」
「あ、ISも無し!?正気ですの!?」
鈴とセシリアが、驚愕を隠せずにいる。アリーナの柱の上から下までの距離は相当ある。生身の人間が飛び降りれば地面に激突して即死は免れないだろう。生徒達も明らかな混乱に包まれている。
咄嗟に二人がISを纏い、飛び出そうとする。今も落ちている二人を助けようと全速力で突っ込もうとするが、千冬がそれを制止した。
そんな彼等の前で、二人が地面へと激突する。砲撃でも受けたかのような轟音を響かせ────撒き散らされた砂塵が一瞬で払われる。
そこにいたのは、無傷の二人だ。ISを纏わず、高所から飛び降りた怪我すら見られない男女の姿。
「や、やっぱ怖ェ…………それに、まだ体が……痺れるぅぅぅ」
「ったく、アンタったら。もう少し鍛えろっての」
赤と青、それぞれの色に片寄った印象の二人。動けずにガチガチと全身を震わせる青っぽい黒髪の気弱な青年、そんな彼の頭を軽く小突くのは、赤に近い黒髪の強気な女性。どちらも対照的な面子であった。
呆然とする一同。そして生徒の一人が、ゆっくりと手を挙げながら疑問を口にした。
「お、織斑先生………知っている人達ですか?」
「理事長の私兵だ。さっき話した通り、学園の警護を務める事になる。─────ほら、早く挨拶しろ」
千冬に促された二人は各々の反応を示す。ふん、と鼻を鳴らした女性は生徒達を一瞥すると、
「陸奥よ、別にアンタ達の強さに期待してないから。以上」
興味なさそうに別の方を見つめる女性、陸奥。刺々しすぎる対応に何も言えずにいる面々の中で、龍夜だけが気付いた。無愛想な顔の陸奥だが、龍夜に何を思うのか静かに睨み続けていた。
そんな陸奥が挨拶を終えたのを確認した青年は、慌てたように前へと出てくる。
ビシッ! と。
脚を綺麗に揃え、敬礼の姿勢を取った青年は、緊張したように顔を引き締めながら、大きな声で告げる。
「自分は!国連直属特別機動殲滅部隊 『
よろしくお願いしまーすと、元気そうな女子達の声に青年は少し顔を赤くしたまま引き下がっていく。その際、つまらなさそうな顔をした陸奥に小突かれていたが、見なかったことにした方がいいのか。
「以上だ。この二人は特別に、今回の訓練に参加させる。俗に言う教官という奴だ。どうだ?やる気がある奴は率先していいぞ?」
「で、でも、お二人はISもありませんよね………?」
「コイツらは生身でISを倒せる。それだけの実力がある」
二組の女子の質問に、ハッキリ言ってのける千冬。しかし千冬の言葉に従い、自分から戦おうと言う者はいなかった。
正直な話、生身の人間を怪我させたくないと言うのが皆の思う所なのだろう。千冬がどれだけ言おうと、見た感じてはやはり普通の人間である。ISで攻撃すれば重傷ですらなく、即死になりかねない。たとえ高所から降りて無傷だとしても、だ。
(少なくとも、普通の人間ではないがな)
彼等の背中を一度だけ見た龍夜はそう思案する。一瞬だけ見えたが、背中に人工の脊髄らしき機械があった。前にゼヴォドが取り付けたのと同じものに見える。先程の落下に耐えた事も把握するに、強化人間の可能性もあり得る。
誰一人として、やりたいという者がいない事に千冬は軽く息を吐く。あまりに気にしていないように、周りを見渡す。
「…………進んでやる奴はいないか。なら、此方から選ぶとしよう。─────凰!オルコット!出来るな?」
「っ!出来ます、 出来ますが………」
「二対二、ですか?でも、怪我させたら─────」
「安心しろ、お前達では二人は愚か一人も倒せん。精々軽くあしらわれる程度だ」
そんな軽く言われたことにセシリアと鈴はすぐに不機嫌そうになった。しかし不満を口に出すことなく、代わりと言うように瞳を闘志を滾らせる。
二人と陸奥は周りから距離を取り、アリーナの中央へと立つ。各々のISを纏うセシリアと鈴の前で、陸奥は両腕を空へと掲げる。
すると、二メートル程の戦斧────ハルバードが彼女の元へと飛んでくる。凄まじい速度で飛来してくるそれを、陸奥は容易く掴み取り、大きく振り回す。
頃合いを見計らった千冬が号令を上げる。
「では、始め!」
「織斑先生がそこまで言うなら!加減はしませんわ!」
「怪我しても知らないからね!」
「はんッ、やってみなさい。あまっちょろいガキども」
軽い挑発をする陸奥に、二人は先制攻撃を放つ。スターライトmkⅢを構えたセシリアが狙撃を、鈴が双天牙月を大きく振り上げ、陸奥へと突撃していく。
レーザー光と目の前の『甲龍』。どちらを防いでも片方を受けてしまう戦術。狙ったわけでもない、偶然に起きた二人の攻撃が、連携と化していたのだ。
「嘗めんな」
だが陸奥は、それを難なく打ち伏せる。エネルギーの狙撃をハルバードの斧で斬り払い、そのまま腰を深く落としながら鈴へと振り回した。鈴の振り上げた双天牙月の刃は体勢をずらした陸奥には当たらず、逆に彼女の振るうハルバードが機体の横に直撃する。
「っ!?ウソでしょ!?」
「鈴さん気を付けてください!あの人、動体視力も反射神経も!私達以上です!」
「今更?」
呆れたように鼻を鳴らす陸奥はハルバードを片手で握り、鈴へと飛び掛かる。上空から降り注ぐセシリアの狙撃を悉く回避しながら、双天牙月を構え直す鈴に容赦なく連撃をかましていく。
「────さて、お前達も。自分達がどれだけあいつを甘く見ていたか、どれだけ強いか理解できただろう」
目の前の唖然とする一同に、千冬がそう言いながら生徒達に呼び掛ける。
「その上で、質問がある者は今聞こう。………よし、デュノア。答えろ」
「はい、織斑先生…………少し前から見えていたんですが、長門さんや陸奥さんの背中に取り付けられているのは『アウトサイド・ニューロ』ですか?」
「ほう、よく知ってるな。その通りだ」
手を挙げ、そう疑問を投げ掛けるシャルル。千冬は量腕を組みながらも平然と答える。二人の話に疑問を抱く一夏とクラスメイト達、そんな彼等の反応に龍夜は嘆息しながら口を開く。
「国連が八神博士の研究資料から開発した、擬似的な人工外殻脊髄の事だ。背骨と脊髄の代わりに埋め込まれた内蔵型の人工脊髄と接合する事で機能を発揮する形になる。だからこそ、アウトサイド・ニューロ────『外接型の機甲脊髄』という呼び方になる。ISを纏わない兵士の戦闘力を増やすために量産されたらしいが、テロリストに運用される可能性も考慮して最新鋭のタイプは量産せずに少数に配っているらしい。
その効果は反射神経や動体視力、聴覚や筋肉など、あらゆる神経の繋がる器官の反応を上昇させ、人間離れした身体能力を得ることだ」
「へぇー、蒼青君詳しいねー。どこで知ったの?」
「………別に。知識は多く身に付けたい主義だからな」
淡々かつ長々と説明していく龍夜に、何も知らなかった一同は感心していた。気になったらしく近付きながら聞いてくる女子に、龍夜は困ったように答える。
離れていたが、彼には見えていた。戦闘中にも関わらず此方を凝視してくるセシリアの姿を。ハイパーセンサー無しでも分かる、彼女の顔には凄まじい嫉妬が滲んでいるだろう。
「ん?でもそれって人体改造じゃないのか?基本的に禁止されてるんじゃ…………」
「───あまり余計なことを考えるな、消されるぞ?」
戦慄したのか顔を青くする一夏に、冗談だと軽く言う。流石に驚かし過ぎたかと思う龍夜だが、特に気にしない。
「お前達────そろそろ終わるぞ?」
「────この程度?ならこれで終わらせるわ」
ハルバードを軽く払い、陸奥が冷徹に告げる。目の前にいるセシリアは息切れをしており、鈴は先程の陸奥による攻撃により吹き飛ばされ、壁に打ち付けられていた。
数分程度の戦いで、二人は敗北寸前にまで追い込まれていた。既に充分なくらい、陸奥との実力の差は染み付いている。
それでも、彼女達の戦意は衰えていない。
「ッ!まだですわ!」
まず動いたのはセシリアだった。四基のビットを分離させ、陸奥の周囲から押さえ込むように展開する。セシリア自身もスターライトmkⅢを構え、照準を陸奥へと定める。
「………オールレンジなら、私を倒せるとでも?考えが浅いわね」
ハルバードを両手で掴み────変形させる。持ち手の棒の部位を縮小させ、斧の刃をスライドさせ、中央の機械が音を立てて組み変わる。
一瞬で、変形は終わった。
【CHANGE────QUICK GANNER】
彼女の手にあるのはハルバードではなく、銃へと変わっていた。見た目は持ちやすいサイズとデザインの短機関銃。棒の部位が銃のハンマーの部位にあり、スライドには斧の刃が取り付けられている。
すぐさまセシリアはビットを操り、様々な方向から攻撃していく。眼で視認した陸奥は身軽な動きで回避していきながら、銃の狙いをセシリアへと向ける。
「ふんッ」
LOCK ON、という機械音が響いた瞬間、銃撃は開始されていた。放たれた銃弾────ではない、光弾はセシリアへと直進していく。彼女は狙っていた陸奥から射線を反らし、光弾へと狙撃を行う。
────だが、セシリアの狙撃を意に介さないように、光弾が動いた。そう、
「────なッ!?」
理解できない現象に困惑するセシリアに、陸奥は容赦なく連射していく。彼女の思考に連動するビットが動き、光弾を撃ち落とさんと射撃する。
しかし普通では有り得ない────光弾そのものが回避行動を取り、セシリアに襲いかかる。理解できずに狙撃しようとするセシリアの姿に、陸奥は落ち着いたように言う。
「無駄よ。もう既にアンタを
被弾したセシリアを尻目に、陸奥は銃の激鉄の部位にある棒を掌で押し込む。最大まで押した銃の左右の刃が大きく展開され、ボウガンのような形状になる。
銃口の奥にエネルギーが収束していく。更なる攻撃を理解したセシリアはスターライトmkⅢを構え、相殺を試みていた。が、無駄に終わった。
「─────ショット」
引き放たれた銃口から、光の花弁が開く。そう思った瞬間、爆散したエネルギーが意思を持った蛇のように周囲に撒き散らされる。
周囲に配備されたビットが慌てて攻撃しながら距離を取るが、容赦なく光のレーザーはビットを迎撃していく。縦横無尽に動き回るそれらは狙いを一つに定め、セシリアに牙を剥く。
「ッ!!」
狙撃により、迫り来る光の一つを相殺する。しかし他全てのレーザーがセシリアの眼前にまで接近していき─────爆発を引き起こす。
その場にいたセシリアは膝をつき、その瞬間にISが解除される。その光景を見てる事しか出来なかった鈴は歯を噛み締め、陸奥へ突貫していく。
躊躇いなく撃ち抜こうとする陸奥に、鈴の肩の衝撃砲が放たれる。不可視の攻撃自体は回避不可能なのか、光弾は全て防がれていく。
「ま、見てたら対処くらい思いつくわよね」
【CHANGE────BATTLE HALBERD】
陸奥が銃を上へ放り投げると、空中でハルバードへと変形していく。掴み取った彼女は、青竜刀を横に構えながら突っ込む鈴へと叩き下ろそうとする。
その瞬間、鈴の方が動いた。
「───引っ掛かったわね!」
青竜刀の持ち手の部位が、乖離する。振り下ろされんとしたハルバードの斧が地面を砕き、勢いに任せ食い込む。相手の武器を叩き折ろうと力を込めた結果、動きを止めてしまうことになる。
勝った、そう確信した鈴が分離した二本の青竜刀を彼女へと差し向ける。動き自体は陸奥の方が上。相手に少しの隙でも与えられない、それが鈴の考えだった。
だが、ニヤリと笑う陸奥の顔を見て、その考えを改めることになる。
「アンタこそ」
【CHANGE────TWIN WEAPON】
瞬間、陸奥が掴んだハルバードを勢い良く振り上げようとして────斧の部分と棒が分離した。突然の出来事に驚愕しながらも鈴は二刀の青竜刀を振るい、陸奥を斬り付ける。
最初は棒で防いでいた陸奥だが、地面に食い込んだ斧刃のガジェットを掴み、変形して持ちやすくなった小型の斧を用いて鈴に歩み寄る。
リーチの広い槍型の棒に、威力の強い小型のアックス。二つの特徴を活かすように立ち回る陸奥に、鈴は明らかに圧倒されていた。
衝撃砲を放とうと後方へと移動した鈴に、陸奥は小型アックスを投擲する。慌てて青竜刀で弾き飛ばした直後を狙い、陸奥が飛び掛かる。弾かれた筈のアックスを空中で連結させ、そのまま鈴を斬り伏せる。
絶対防御が作用してからすぐ、ISが解除される。二人が完全に戦えなくなったのを見計らい、陸奥の勝利を告げる千冬の声が響く。
「先輩、見事な程の圧勝でした!」
「………ふん、当然でしょ(喜び)」
「ですけど自分的には学生相手にあんな風に本気で勝つとか正直思うところあるんですけど…………」
「……………は?(不機嫌)何よ、何が言いたいワケ?」
「はい!学生に全力出して勝って当然だなってなるとか普通に恥ずかしいと思います!そんなんだから婚期遅れなんだって思ってしまいました!!」
「あ゛?」
一気に修羅場になる兵士二人組。主にぶちギレた陸奥が失言した長門に迫っているのだが、長門の方は逃げようと周りの様子を伺っている。
無論、千冬は助けることもなく、完全に無視して授業を続けようとしている。一応同僚なのに助け船も出さないどころかガン無視とか鬼だろうか、いや鬼だった。
一夏はチラリと、セシリアと鈴の方を見る。徹底的な実力差にプライドがズタボロにされてしまったのかもしれない。そう簡単に立ち直れるか不安だが、
「酷いくらいに惨敗したんだけど………」
「…………せ、折角龍夜さんに良い所を見せられると思いましたのに……」
「────なんか鈴とセシリアが目に見えて落ち込んでるんだけど」
「乙女の感傷だろ、察してやれ」
大体理解した龍夜が軽く言えば、一夏はそれに従った。あの調子なら少し経てば自然完治か、何かに付き合ってやれば問題ないだろう。
龍夜はいいが、一夏がそうすればファースト(厳密に言えば暁の方がファーストらしいが)幼馴染みが不機嫌になることこの上ない。朴念仁のあの馬鹿はそれを理解しているのか。
────ま、俺が考えることでもないか
そんな風に考えながら、龍夜は続きの訓練に集中することにした。
陸奥
理事長 時雨の直属の兵士。改造人間。俗に言うツンデレ。二十歳後半で婚期遅れを自覚しており、半ば諦めかけてる。一応本命は後輩。複数の武器形態に変形するハルバードを所持している。恩人の夫婦を殺した敵への仇討ちの為に強化人間になった。
長門
理事長 時雨の直属の兵士。改造人間。真面目すぎるのが取り柄。先輩である陸奥を尊敬している一方で、失言をすることが多い。弟が五人で妹が八人の大家族の長男であり、家族を養うために強化人間になった。