IS 蒼き宙の向こうへ   作:虚無の魔術師

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少し遅くなりました。折角書いた一万字が消えて発狂したり、徹夜して書いた六千字分が保存できてなくて絶望したり、この一週間、色々ありました(悟り)




第13話 学園生活の裏側で

無事に訓練は終わり、お昼時。用事を終えた龍夜は屋上に向かっていた。

 

 

本来、高校の屋上は立ち入り禁止されたりしているが、IS学園にそういうことはない。普通に屋上は行けるし、食事をしても問題はない。

 

 

扉を開け放った瞬間に、一息つこうとした龍夜の耳に複数の声が聞こえてきた。

 

 

「どういうことって、天気がいいから屋上で食べるって話だっただろ?」

 

「そうではなくてだな……!」

 

 

「─────」

 

 

面倒すぎてこのまま帰ろうかと思った。

しかしすぐさま気付いた一夏と、一緒に食べようと勧めてくるセシリアに断るのも気が引けるかと判断し、龍夜は素直に従うことにした。

 

 

この場にいるのは一夏と箒、龍夜にセシリア、鈴とシャルルの六人だ。流石に多いとは思うし、転校生のシャルルはそれで良いのかと視線で問い掛ける。

 

 

困ったように、優しい笑顔で返すシャルル。どうやら本人も自分がいていいのかよく分からないらしい。龍夜同様、断ることも出来ずに何となく受け入れている。

 

 

鈴から投げ渡された酢豚入りのタッパーを受け取る一夏を適当に見ていると、軽く咳き込んだセシリアはバスケットを開き、その中に綺麗に並べられたサンドイッチを優しく手に取る。

 

 

「龍夜さん、わたくしもお昼を手作りしてみましたの。よろしければおひとつどうぞ」

 

「悪いな」

 

 

差し出されたサンドイッチを受け取った瞬間、一夏と鈴が目に見えて反応を示す。少し不安そうな視線に龍夜も嫌な予感をすぐさま感じ取り、食すのを止めようと思ったのだが。

 

 

「…………?」

 

「……………」

 

 

しかし、純粋な期待の眼差しと何一つ悪意などない優しい微笑みに、龍夜も流石に気にし過ぎたか、と頭を振るう。しかし心の内側と電脳の中の妖精(ラミリア)が警鐘を、忠告を叫んでいる。

 

警戒しながらも、龍夜はサンドイッチを口に運ぶ。少しだけ齧り、口に含みながら噛み締める。

 

 

 

 

 

その瞬間、龍夜は明らかに眼を見開いた。口の中に広がるのはサンドイッチの美味しさ─────等では微塵もなく、

 

 

 

 

 

 

 

 

「─────甘」

 

 

「…………え?」

 

 

一言の感想に、セシリアは当然ながら、一夏と鈴、そして蚊帳の外であった箒もシャルルも唖然としていた。口の端に付いた脂を指で拭い、舐めとる。

 

 

 

「甘いな。このサンドイッチ、食べられない訳ではないが………」

 

「あ、甘い?そ、そんなはずがありませんわ!確かに本通りに作りましたの!」

 

「あ、なるほどな」

 

 

全てを察した龍夜はすぐさま話を切り上げた。彼女、自分と同じ料理下手な側の人間だ。本通りとか言ってるけど、大方見た目に寄り添ったように作ってるのだろう。味からして、バニラエッセンスとか全くサンドイッチとは欠け離れた調味料まで入っている。

 

 

そして、だ。

もう一つ気付いたことがある。一夏と鈴、あの二人がさっきから反応が大きいのだ。何も知らない箒とシャルルとは違い、あの二人だけは露骨に気にしているようであった。

 

 

少し鎌を掛けてみよう、そう判断した龍夜は二人に声をかける。

 

 

「どうした?二人とも。二人も気になるなら食ってみるか?」

 

「「いいや!大丈夫!!」」

 

 

────確信した、クロだ。こいつらわざと黙ってやがった。流石の龍夜もどうしてやろうかと考えるが、やはり面倒なので止めておく。

 

 

しかし、何故だろうか。

騒がしいのは嫌いなはずなのに、無意味なことは嫌いなはずなのに、今この場で皆といる事自体は────何一つ、嫌な要素はない。むしろ心地よいと感じてしまうのは、理解は出来ないが、そこまで気にするものでもない。

 

 

 

そんな最中、とにかく話を変えようとした一夏が、龍夜に声をかけた。

 

 

「な、なぁ、龍夜。そういえば気になってたんだけどさ」

 

「何だ?」

 

「────訓練の後、陸奥さんと何を話してたんだ?」

 

 

ピクリ、と龍夜の指が動く。全身に力が入ってしまうのか、妙に顔を引くつかせていた。しかし、その変化も一瞬。すぐさま落ち着いた表情で、冷徹に返答を口にする。

 

 

「別に、話す必要のない話だ。気にするな」

 

「?それなら話してくれても良いだろ────」

 

 

一夏の純粋な疑問。

だが、今の龍夜は冷静ではなかった。咄嗟に取り繕ってはいたが、内側で渦巻く感情が激しく熱を帯び、爆発しそうになっていた。

 

 

だからこそ、感情的に口を開いてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「─────勘違いするな、お前達に俺の事情を話す理由がどこにある」

 

 

苛立ったような口調と声音で告げる。グシャリ、と缶を握り潰した龍夜は双眸を鋭くさせると共に、激しい不快感を隠すことなく滲ませている。

 

 

空気が、冷えきったように凍る。

トゲのある言葉を投げ掛けられた一夏、そしてセシリア達は勿論の事、口にしていた龍夜も驚きを隠せずにいた。

 

 

「あ、い、嫌なら別に………大丈夫だぞ?」

 

「────悪い、少し気が立ってた。頭を冷やしてくる」

 

 

心配そうに謝る一夏に、自分のしたことに気付いた龍夜は勢いよく立ち上がり、そのまま屋上から逃げるように立ち去った。すれ違いざまのその顔は、困惑と不安、後悔に包まれていた。

 

 

 

複雑な感情が渦巻く彼の背中に声をかけることも出来ず、一夏達はただ見送ることしか出来なかった。

 

 

「…………龍夜、さん」

 

 

その一人だったセシリアも、心配したように扉の奥に消えていった青年の事を思っていた。悲しそうな表情のセシリアは、強く痛む心を抑え込むように、自身の胸に手を添えていた。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「─────クソッ!」

 

ダァン! とコンクリートの壁を殴る。ピシリ、と壁にヒビが入り、拳からは皮膚が切れたのか血が滲んでいた。

 

 

今は痛みだけが感情を抑え込める。自傷でなくては、この激情を静めることは出来ない。それ程までに、今の龍夜は平静を保てずにいた。

 

 

(何でだ?何であんな態度を取った………?どうしてあそこまで、あいつらに感情を剥き出しにしたんだ?)

 

 

どれだけ考えても、分からない。

僅かな気の緩みで、彼等にあんな態度を取ってしまったことしか。何時もならば、普通に対応することが出来たのに。

 

 

 

自己への嫌悪と侮蔑が、心を支配する。

人気のない筈の一室で、龍夜はどうしようもなく力を緩める。壁に寄り掛かり、枯れたように嗤う。自分を、嗤い続ける。

 

 

(父さん、母さん────ごめん、俺はまだ未熟なままだ。二人のように、なれてない)

 

 

亡き二人を思い馳せ、龍夜は目蓋を伏せる。自戒を胸に刻み、天井を見上げる。真っ暗な闇に向けて、眼光を鋭く尖らせる。

 

 

 

(でも、どうか見ててくれ。必ず俺が世界を変えて見せる。そして必ず───────)

 

 

 

 

 

「────『奴』を、殺してみせる」

 

 

淀んだ瞳を、虚空に向け、嗤う。今度の嗤いは、言葉に込められた憎悪と憤怒を一つにしたような狂気に染まっている。その宣言は、自身の心に打ち込んだ杭のように、深く刺さっていた。

 

 

 

落ち着いた龍夜は、空いた教室から無言で立ち去っていく。扉を閉めることなく、逃げ去るように。今現在、普通ではない程荒れていた龍夜は何一つ気付かなかった。

 

 

 

 

「…………今の」

 

 

その教室には先客がいたことを。

 

誰かが来ることに気付いた少女が、咄嗟にロッカーに隠れて息を潜めていたことを。

 

 

 

 

彼女が、龍夜のルームメイトであった簪だったことも。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「────本日の商談、ありがとうございます。大統領」

 

『───礼を言うのは此方だとも、アレックス社長』

 

 

場所は日本、名古屋の浜通り。

大規模な港の隣に立つ巨大な会社は、日本でもトップを誇り、世界でも有数である企業であった。

 

 

名を、エレクトロニクス機社。最初はアメリカで発生した小さな機械産業の工場であった。本来であれば女尊男卑の社会性に伴い、倒産する運命にあった所だ。しかし社長であるデムニス・エレクトロニクスの長子、アレックス・エレクトロニクスが会社の運命を変えた。

 

 

 

ハイテクなテクノロジーの数々、多彩な手腕、政治的な取引、圧倒的なカリスマなど、アレックスはたった一人で会社を大きくしていき、エレクトロニクス機社を取り込もうとする企業を逆に接収し、アメリカや世界で一番の大企業へと成り上がった。

 

今や世界でアレックスの名を知らぬ者などいない。そんな者は極端な世間知らずと嘲笑される程だ。祖国のアメリカでもその人気は群を抜き、アレックスはアメリカの大国としての基盤を強めた英雄として高く評価されている。当然ながら敵は多いが、それでも彼は会社を強くしてきたのだ。

 

 

 

日本にあるこの会社は、日本支部に過ぎない。

その中央のビルの一室、社長室にいるアレックスはアメリカ本国にいる大統領との商談をしていた。

 

 

『君の経営するエレクトロニクス機社はあらゆる機械産業ならナンバーワンと呼んでも過言じゃない。君の製造する兵器や装備には、我々も助かっているんだ』

 

 

「そう言っていただき、光栄です。…………そうだ、我々に支援及び商談をしてくださる大統領に内密なお話があるのですが………」

 

『内密?ほぉ、どのような?』

 

「────我々が開発を思案している新兵器、についてです」

 

 

ガタンッ! と椅子に腰掛けていた大統領が慌てたように立ち上がる。食いつくように、モニターへと顔を押し出した。

 

 

『それは本当か!?一体どのようなものだ!?』

 

「失礼ながら、詳しいことは今は話せません。ですが完成すれば────ISにも劣らぬ、それすら越えると言っても過言ではありません」

 

『………ッ!』

 

 

丁寧な言葉の割に、自身に満ちた態度のアレックスに、大統領は口の中の唾を呑み込んだ。興奮と興味を押し隠せず、期待満々の声音で疑問を投げ掛ける。

 

 

『そ、それは何時に出来るんだ……?』

 

「申し訳ありません、今はまだ開発すら手付かずで…………最低でも一年は掛かる所存であります」

 

『一年、か。長いなぁ………だが、良いのか?ISを越える兵器など開発するとなれば、女性権利団体が黙っては────』

 

「気にする必要はありません。彼女達は今、男性IS適合者をどのようにして始末するか考えてばかりです。ですが、所詮は烏合の衆。此方の情報に気付くことは愚か、対処など出来る筈がないでしょう」

 

『う、ウム………今、とんでもない事が聞こえた気がするが………分かった。君の考えだ、信じよう』

 

 

若社長の自信に、不安を隠せない大統領。アレックスはそんな大統領を気遣うように、微笑みかけながら話を続けた。

 

 

「最初は我々の警護及び私兵として配備する予定ですが、新世代が開発でき次第、その方の商談に関しましては他の方々より先に、大統領閣下を融通させて頂きます」

 

『ッ!?本当か!?流石はアレックス社長!君には感謝してばかりだよ!君がいなければ私も大統領になれなかったから、本当にありがたい!』

 

 

興奮しながら感謝を述べる大統領に、いえいえと謙遜する。アレックスが大統領とパイプを繋げているのは、商売相手という話ではない。アレックスが大統領のバックから助力している、この事実は大統領の支持率にも反映されている。

 

 

アメリカで人気の高いアレックスから認められた大統領、国民が拒絶する要素などありはしない。………あるとすれば一定数、男の上に立ちたい、男の下なんて考える馬鹿な女達くらいだろう。

 

 

「大統領閣下、来月の大統領選も頑張ってください。微力ながら、私も支援させていただきます」

 

『あぁ、分かっているさ。君の方こそ、頑張りたまえよ』

 

 

互いに友好的な笑みと対応を返し、通信はそこで切れた。ちゃんと相手との通信が終わったことを確認すると、

 

 

 

「…………フーッ」

 

 

鬱屈そうに、ネクタイを緩めたアレックス。スーツを着崩すと、机に脚を乗せて一息、全身の力を引き抜く。先程までの誠実な態度は嘘のように、リラックスしたアレックスだが、扉を叩く音が響く。

 

 

入れ、とアレックスが言うと、扉が開かれ、金髪の女性が入ってきた。いかにも秘書という風貌の彼女は部屋に踏み込むや否や、社長であるアレックスの元へと歩み寄る。

 

 

 

「お疲れ様です、社長。商談は如何でしたか?」

 

「今は二人だ。軽くで良いぞ、セレス」

 

「畏まりました────アレックス兄さん、この言葉は疲れるよ」

 

 

そう呟きながら、秘書の女性────セレスティア・エレクトロニクスは困ったように笑う。どちらかと言うと親しい人間に接するようなものだろう。

 

 

 

それは当然、なんせアレックスとセレスティアは兄妹の関係である。今は亡きデムニスは一人の長男と沢山の娘という家系であった、父の名を継いだアレックスは彼女達を家族の大黒柱として養っていた。その妹の一人、セレスティアはアレックスの秘書であり、日本支部の支部長であるのだ。

 

 

無論、身内贔屓ではない。その才能をアレックスは見抜き、効率的に活用するために推薦しただけだ。

 

 

「大統領は話が分かる、良いビジネスの相手だ。プライドばかりの女どもとは違う」

 

「………あの人達ですか、確かに良い思い出はありませんね」

 

 

ふん、とつまらなさそうなアレックスに、セレスティアは露骨に顔をしかめる。自分達の会社を接収しようとした企業の大半が女性が社長か、重要なポストの人間が多かった。

 

 

それ故にか、アレックスや男の職員が相手になった瞬間に、ほぼ恐喝のような事まで言い始めるのが良い例だ。

 

中でも一番インパクトが強かった一件は、取引の為に訪れた女性役員が対談するアレックスの態度に不服を唱え、あろうことか紅茶をぶちまけてきたのだ。オマケに気分を悪くしたから社長本人が土下座しろ、そうすればお前達の会社は子会社にしてやる、と抜かす始末。

 

 

アレックス、と言うより妹達が普通にぶちギレてた。情報をマスコミにリークさせ、相手の会社を倒産にまで追い込む程の怒りようだ。その内の一人が、今もおっとりと紅茶を呑んでいるくつろいでいる秘書なのである。

 

 

 

そんな最中、セレスティアの携帯に連絡があった。慌てて携帯を取り、秘書として振る舞うセレスティアは明らかに困惑したように相手に聞き返す。

 

 

アレックスはふぅん、と眉をひそめる。彼の視界、より正確には右耳に取り付けられた小型のデバイスを通した情報が、彼の眼前に投影されていたのだ。

 

 

 

 

今この建物、日本支部に立ち入り、アレックスとの対談を求める相手のデータが。

 

 

 

「に、兄さん!兄さんと話したいって人が────」

 

「…………セレス、今後の予定は?」

 

「え?………た、確か、新型ISの開発の立ち会いです。確か、イスラエルとの共同の─────」

 

「一日遅らせろ、明日でも問題はない筈だ。イスラエル側の責任者にはオレから伝えておく。客人をオレの元まで送るように手配しろ」

 

「え!?────はい、分かりました!」

 

 

アレックスの命令を受け取り、慌てたように駆け出すセレスティア。焦りながら手際がよく、一瞬で秘書としての仕事を取るべく部屋から出ていった。

 

 

それからして、二人の黒服が入ってくる。部屋の前にはもう一人の気配がする。言わずもがな、彼らが連れてきた客人だ。

 

 

「───社長。セレスティア様からのご指示通り、お客人を連れて参りました」

 

「ご苦労。軽く話す、お前達は部屋に入ってくるな。緊急事態を除いてな」

 

 

ハッ、と黒服の警備員が扉を開ける。堂々と入ってきた客人、そして社長に一礼すると重い扉を閉めていった。

 

 

二人きりになった一室。重苦しい空気を打ち破るように、アレックスは客人に向けて不適な笑みを浮かべる。

 

 

古い友人にでも話すかのような態度を浮かべながら。

 

 

 

 

 

 

「随分と忙しそうだな────千冬」

 

 

その相手、千冬は大して顔色を変えることはなかった。王のような余裕と堂々とした態度、暴君らしい粗暴さを兼ね備えたアレックスの笑みに、何を思ったのか静かに目を細めるだけだ。

 

 

フッ、と小さく笑い、険しかった顔を崩した。

 

 

「久しいな、ザック」

 

「────その名は棄てた。今はアレックスと呼んで貰おうか、千冬」

 

「知るか。貴様をどう呼ぼうが私の勝手だ」

 

「ふん、なら好きにしろ」

 

 

言葉の内容だけを取れば仲が悪そうに見えるが、悪友同士の会話に近いものが感じられる。社長席から離れ、応対用のソファーに腰掛けるアレックスに、千冬は相対するように反対側へと座る。

 

 

「授業はどうした?まさかお前が教師としての職を放り投げた訳でもないだろ?」

 

「安心しろ、普通に休みは取っている。この時間だけだがな」

 

「ふゥん」

 

どうでも良さそうに聞くアレックス。

社長の椅子から動いた際、冷蔵庫から取り出した高価そうなビールを手に、アレックスは笑いながら不満を垂れ流す。

 

 

「アポくらい取れ、そうすれば時間くらい作ってやったのに」

 

「生憎だが急用だったからな、一々時間を使いたくはない」

 

「真面目な奴だ………どうだ?オレが仕入れた特注のビールがある、呑むか?」

 

「───帰りは学園での仕事がある。今呑む程暇ではない」

 

「教師サマは大変だな、ってかそんくらい真面目ならアポ取れってんだよ」

 

 

軽口を交わし合う二人だが、アレックスとは違い、千冬の方はそこまでの興味がなかった。それ以上に、自分にやることがあるとでもいうように、話を切り出す。

 

 

「時間もないのでな、簡潔に聞かせてもらう」

 

 

千冬が取り出したのは、タブレット端末であった。それを少し操作し、画面をアレックスへと見せつける。

 

 

────それは、IS学園を襲撃したアナグラム、その戦闘員であるゼヴォドを映し出した映像であった。彼が何らかのアイテムをガシャットへと差し込み、それを胸に押し当てた瞬間─────発生した水を纏い、謎の鎧を纏う姿が。

 

 

「数週間前、学園を襲撃した主犯の一人、ゼヴォドと名乗る男がこの装備を纏って学生を攻撃した。奴等はこれをファンタシスと呼んでいた」

 

「…………」

 

 

タブレットの映像を確認してから、アレックスは千冬を見る。何が言いたいのか、言外にそう言うアレックスに、彼女は躊躇うことなく告げた。

 

 

 

 

「────『()()』を造ったのは貴様だろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「如何にも。『()()』を造ったのはオレだ」

 

 

開き直ったような態度であった。

詰問されているにも関わらず、何一つ気にした素振りはない。ただ事実を口にするアレックスに罪悪感らしき感情は見えなかった。

 

 

無言の千冬は、両腕を組み直していた。アレックスに対し、警戒の視線を消すことなく、彼をただ睨み付けている。

 

 

「………否定はしないか。やはり、お前が元凶という訳か」

 

「半分正解、半分不正解だ。アレを造ったのは確かにオレだが、オレは完成させただけに過ぎん。設計図を見てな」

 

「………?その設計図は誰が作った?アレ程の技術のものだ、お前以外に誰が─────」

 

「────先生だよ、オレ達の」

 

「…………何だと?」

 

 

アレックスの一声に、千冬の気が緩んだ。驚愕を隠せない千冬に、アレックスは軽く肩を竦める。嘘などついてないと言いたい仕草だ。

 

 

それでも懐疑的な眼で此方を見る旧友に、アレックスは立ち上がり、語り始めた。

 

 

「五年前、国連の調査隊が地下研究施設を発見された。八神先生が造ったものであることも、確認済みだ」

 

「…………」

 

「五年間起動していたコンピューターの中に、このデータが保管されていた。複数のファンタシス────幻想武装の設計図と共にな」

 

 

沈黙を貫く千冬。

アレックスの話に何一つ疑いを向けることなく、ただ静かに聞くことを優先していた。

 

 

かつての関係からくる信頼から、なのだろうか。

 

 

 

「その後データを回収した国連は、その設計図をオレに渡し、完成させるように迫った。IS以外の戦力として、国連が保有するという考えだったらしい。

 

 

 

 

 

無論、拒否は出来なかった。断れば、妹達に危害を加えると遠回しに言われたからな」

 

 

「………なるほどな」

 

 

話の最中に感じられた矛盾が、ようやく解けた。

 

 

アレックスは過去の事から国連を激しく嫌悪し、憎悪している。そんな彼が国連に命令されて素直に従う筈がない。自分の家族、亡き父親から託された妹達の身柄を利用されてしまえば、何も出来ない。

 

 

納得したように頷く千冬は、不愉快そうに顔を歪める。国連、主にそのトップのやり方は変わらない。自分達の都合ばかりを押し通そうとし、その為ならば表向きに禁止してる事すら進んでやる始末。人の命すら、正義のためと正当化して奪うような薄汚い権力に固執した老人達の事は、千冬も好きにはなれなかった。

 

 

 

「だがある日、開発していたファンシタス 二十機と特別な上位機体 二機を輸送し、国連の部隊へと引き渡した直後、例の黒いISに襲撃及び強奪された────おそらく、奴がアナグラムに全て譲り渡したのだろうな」

 

「───『魔王』か?」

 

「残念、『魔剣士』の方だ」

 

 

頬杖をかき、アレックスはもう片方の手を軽く払う。

 

 

「それで、理解してくれたか?オレがテロリストに援助などしてないということを。お前の言い方からして、そういう風に疑ってたんだろ?」

 

「あぁ、それ分かった。─────だが、もう一つの用件は済ましておく」

 

 

千冬が立ち上がる。アレックスの目の前に提示されたタブレット端末を突き出し、冷徹に告げた。

 

 

 

「幻想武装、お前の造った兵器について、知っていることを全て吐いて貰うぞ。全ての機体のデータも渡して貰おうか」

 

「────長い説明になるぞ?ビールでも呑み交わして話すか?」

 

「要らん、普通の飲み物を寄越せ」

 

「…………真面目気取りめ」

 

 

悪態をついたアレックスだが、すぐさま彼女の要求に従った。それすら無駄と理解しているのか────或いはそれが目的なのか、悟らせぬように振る舞いながら。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

数週間前。

アナグラムの拠点────常に動いている巨大機動城塞、『ニライカナイ』は海底深くを移動していた。あらゆる国家のセンサーに探知されることなく、国連の捜査網にすら一度たりとも捕まっていない。

 

 

 

それが、国連が総力を以て手を出せない理由の一つであった。

 

 

 

 

「────シルディ・アナグラム、只今帰投した」

 

 

白の混じった黒髪の青年、シルディ・アナグラムが一声をあげる。開け放たれた自動扉の先、大きな広間にいる複数人が彼の声に反応する。

 

 

 

「お帰りなさいませ、シルディ様。いえ、リーダー」

 

 

そう口にしてきたのは、黒いスーツの男性。黒ぶちの眼鏡を指で押し上げるその仕草は、理知的な様子が感じ取れる。彼は機械のように丁寧な動きでシルディに歩み寄り、ペコリと綺麗な一礼をして見せた。

 

 

「シルディ様………お怪我ハ、ありませんデスカ?」

 

 

心配そうに、声をかけるのは黄金のように光を宿す金髪の長い、大人しそうな女性だ。歳は良くわからないが、指に嵌めた指輪は結婚指輪で間違いない。おっとりした雰囲気から騙されやすい印象が見て取れる。

 

 

駆け寄ってきたのは二人。他にいる数人程度、彼等は動かずともシルディの安否を確認してから各々の行動に赴いていた。

 

 

彼等も、シルディやゼヴォド同様────世界の理不尽や不条理に疑念を抱き、改変を望む────アナグラム最高戦闘員にして幹部である、反逆者(リベリオン)のメンバーであった。

 

 

 

そして、男性が眼を細めた。

拠点に帰ってきたのがシルディだけであることに気付き、もう一人の事が気になっているらしい。

 

 

「………つかぬことをお伺いしますが、ゼヴォドはどうしました?」

 

「ゼヴォドは療養中だ。体内の『ウロボロス・ナノマテリア』の浄化をしているから」

 

「?マサカ、ゼヴォドクンが負けたんデスカ?」

 

 

シルディの説明に、女性があららと困ったように笑う。能天気、そう取れてしまう様子だが、女性の方は今はいないゼヴォドの事を心配していた。同時に、自分達の仲間の敗北を、驚きながらも受け入れている。

 

 

男性が短く一息溢し、冷静に状況を捉えながら語る。

 

 

「正直な話、こればかりは我々のミスでしょう。IS学園の生徒相手なら経験も浅く、まだ未熟なゼヴォドで十分と判断してしましたが、どうやら学生達は少し腕が立つみたいですね」

 

「………宮藤さん、あまりゼヴォドクンのコト………悪く言わないであげて、くださいネ?」

 

「心外です。私は彼の事を仲間として正しく評価しています。効率的に言うことはあれど、志を共にする同胞を侮辱するつもりなどありませんよ」

 

 

不安そうに聞く女性に、男性───宮藤は無論だと断言する。女性の方は安堵したのかホッと胸に手を添え、優しく笑う。黙りながらも素直に話を聞いてるシルディを前に話す二人だったが、

 

 

 

「─────世間話は後でいい?」

 

ぬっ、と。

割り込むようにやる気のないように見える少年────ジールフッグが一声を出す。驚愕しながらもすぐに距離を空ける二人の間を通り、ジールフッグが手を伸ばす。

 

 

「シルディ、お目当ての『ブツ』。解析したいから早くちょうだいよ」

 

「ん、あぁ」

 

 

シルディがコートの内側に手を入れ、掴んだものを軽く放る。ジールフッグはゆっくりとした動作でそれを受け取った。

 

 

「はい、目的のデータ」

 

「オッケー、中身は確認しておくよ」

 

 

クルクル、と手の中に入ったもの────USBメモリを弄りながら、ジールフッグはシルディや他の二人から少し離れたテーブルに座る。パソコンにUSBを差し込み、その内容を詳しく見ていた。

 

 

その様子を見ていたシルディが、ん? と声を漏らす。

 

 

 

「そういえば、あの人は?」

 

「あの人?誰の事デス?」

 

「えっと、ほら………協力者の─────」

 

 

 

 

 

 

 

『──────私を呼んだか?』

 

 

突如、空間が捻れた。いや、割れたと認識するべきか、空間に大きな亀裂が入ったと思えば、上書きするように展開された黒い空間から、漆黒の全身鎧のISが姿を現す。

 

 

 

国連が追う正体不明のISの一機、コードネーム『魔剣士』。エレクトロニクスが開発した幻想武装を強奪し、アナグラムに与する危険因子の片割れであった。

 

 

シルディはその男を────合成された声から判断したもの────本来のコードネームとは違う、別の名で呼んだ。

 

 

 

「『モザイカ』さん、申し訳ないです。貴方から提供された『アルガード』、四機全て破壊されてしまいました」

 

『────問題はない。私の管理する「ジェネシス・シリーズ」は既に量産を終えている。ISに勝てないのは当然の話だが、いずれは国連に渡り合う程の数も製造できる』

 

 

何時もとは違う丁寧な口調と態度で謝罪するシルディ。しかし漆黒のISを纏う者、『モザイカ』は淡々と答える。本当に大した問題ではないと認識しているのか、焦りはおろか感情の機敏すら見られない。

 

 

僅かな間、沈黙を貫いていたシルディだが、意を決したように口を開く。

 

 

「───モザイカさん、一つだけ気になることがあります。先日の襲撃で貴方から借り受けたA.I.S弾について」

 

『…………不備があったか?』

 

「いえ、代表候補生と一人目には作用していました。ですが、その点で一つだけ疑問があります。

 

 

 

 

 

 

───A.I.S弾で封印できないISは、存在しますか?」

 

 

シルディの疑問に、モザイカは雰囲気を一転させる。たったそれだけでの会話で、彼は全ての意味を理解していたらしい。

 

顎を擦る仕草をしたあと、変わらない声音のまま言葉を続けた。

 

 

『理論上、それはない。A.I.S弾はISのコアに直接作用し、強制的にネットワークからシャットダウンさせる。たとえ新世代であろうと時間は短くなるが、封印は確実に受ける』

 

「では、封印できないISには何かプロテクトがあるという点は?篠ノ之博士がそのように仕込んだとか」

 

『可能性は低い。篠ノ之博士は現状の世界に干渉を極力避けている。A.I.S弾の特性を把握し、一つのISだけに改造を施すとは思えない。そんな無駄をするほど、彼女は非効率かつ無意味な天才ではない』

 

 

まるで『天災』を見知ったような言葉だが、シルディは差程気にしなかった。

 

 

その次の言葉が、彼の意識をより深く集中させるものだったからだ。

 

 

『だが、A.I.S弾の効果を受けないものは存在する───IS以外の兵器だ』

 

「………まさか」

 

『そうだ。もしや前提が違うのかもしれん。蒼青龍夜、彼の持つISに何かの異物が組み込まれている。

 

 

 

 

 

 

 

 

或いは、ISでありながらもISではないナニカであるのかもしれないな』




アレックス社長とか、アナグラムとか、『モザイカ』とか、キャラが増えすぎてる………(まだ増える模様)ちゃんと活躍させるつもりだけど、大変だなぁ………(他人事)




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