IS 蒼き宙の向こうへ   作:虚無の魔術師

15 / 116
少し遅れたやんけ!(ガチ焦り)十二時ピッタシに投稿しようと思ったのに!!(絶望)


第14話 蒼青の思い

「クッ!────このぉ!!」

 

「────」

 

 

アリーナの上空で、二つのISが激突する。赤と黒の色の『甲龍』、銀色の光を持つ純白の騎士風な鎧の『プラチナ・キャリバー』、N.A (ナイト・アーマー)が旋回すると共に、互いの武器をぶつけ合う。

 

 

青竜刀による斬撃を長剣で受け止め、逆に攻撃に転じようと前へと飛び出る。が、その瞬間。彼は身を隠す程の大きな盾を突然真横へと振りかざす。

 

 

バジュンッ! と閃光を盾による防御で防ぐ。空気に霧散するはずの光の粒子はエネルギーを吸収する特性を有する『銀光盾』により取り込まれ、その力へと変換される。

 

 

 

「………やはり気付かれてましたのね」

 

「もう少し意識を消すんだな、狙う気があるなら」

 

 

悔しそうに呟くセシリアに、龍夜は視線すら向けずに通信越しに告げる。興味すら向けてないような彼の言い方に、セシリアは唇を噛み締めている。

 

 

ならば今度こそ、とセシリアは何発か狙撃するが、龍夜は『銀光盾』でレーザーを吸収していく。全て動きを読んでるらしく、手際がいい。

 

 

その発言自体、セシリアの気を乱すための作戦なのかもしれない。実際にセシリアの狙撃の精度が落ちていた。龍夜はそれを突くように、淡々と盾を動かす。

 

 

「あぁ!もう!!」

 

 

硬直状態に焦り出した鈴が大きく青竜刀を叩きつける。龍夜は受け止めた長剣でそのまま吹き飛ばすが、それを待ってたというように鈴が衝撃砲を撃ち込んでくる。

 

回避行動に移ろうとした龍夜だが、その隙を逃さぬようにセシリアが狙撃を放ってくる。目を細めた龍夜は動くのを止め────

 

 

 

 

 

爆発が生じた。

狙撃や衝撃砲以外の爆発も混ざり、その規模は想定以上であった。それはつまり、龍夜のISに其々の攻撃が当たったという事を意味する。

 

 

「はぁ………ようやく、当たったわね」

 

「……………」

 

 

心から安堵する鈴に、セシリアは警戒を緩めず、爆発の方を睨んでいた。その煙の方にセンサーを向け────すぐさま理解する。

 

「ッ!鈴さん!まだですわ!!」

 

「はぁ!?なん────」

 

 

 

 

 

 

 

「────いや、もう遅い」

 

【OVER ENERGIE DISCHARGE!】

 

 

声が彼女等の耳に届いた時には、龍夜は既に下に移動していた。騎士の甲冑ではなく、軽装と大型バインダーを展開した────A.B(アクセル・バースト)フォームへと変化して。

 

鞘に装填され、エネルギーを蓄積させた光刃が煌々と輝く。腰を深く落とした龍夜が、光剣を大きく振り払う。その斬撃は一瞬で形でなり、刃の軌跡が上空のセシリアと鈴を切り払い、そのまま打ち落とした。

 

 

 

 

その一方で。

 

 

「ええとね、一夏がオルコットさんや凰さん、龍夜に勝てないのは、単純に射撃武器の特性を把握していないからだよ」

 

「そ、そうか………けどさ、龍夜みたいなあの技じゃ駄目なのか?」

 

「う、ううん…………確かに、アレも強いけど、一夏じゃ無理だと思うよ。龍夜のISが特別なだけで、一夏がやったら一瞬でシールドエネルギーが減少しちゃうから」

 

 

そう言いながら納得したように首を降る一夏と、彼にISの技術と知識について教授するシャルル。そんな男二人というより一夏に対し不服そうな態度を抱きながらも、龍夜にあっさりと撃沈された二人を同情するように見つめる箒。

 

 

そんな彼等だが、チラリと視線を集中させる。ダウンしたセシリアと鈴、がISを纏う龍夜に話し掛けていたのだ。

 

 

 

 

「───ホントに強いわね、アンタ。一体どうしてそこまで慣れてるワケ?」

 

「さぁな。知る気もない」

 

「……………」

 

 

ぶっきらぼうに答える龍夜。彼の様子に鈴は怪訝そうな顔をするだけだが、それだけだ。代わりにセシリアは何か思い悩んでいたか、少しして龍夜に声をかけた。

 

 

「あ、あの……龍夜さん。もし、よろしければ………放課後に少しお時間を戴いてもよろしいでしょうか?」

 

 

 

 

「────悪いが、装備の開発もある。時間は優位意義に使いたい」

 

「…………そうでしたか、すみません」

 

「……………悪いな」

 

 

冷たくあしらう龍夜に、申し訳なさそうに引き下がるセシリア。彼女に小さな声で謝ると、龍夜は背を向けてアリーナの橋へと歩いていく。鈴は不服なのか、何かを言おうと彼に迫ったが、セシリアがそれを引き留めていた。

 

 

 

 

その光景を見ていた二人は、複雑そうな顔をするしかなかった。

 

 

 

「ねぇ、一夏。龍夜とはまだ話せてないの?」

 

「………あ、あぁ。この前のことがあって、なんて声を掛ければいいか分からなくてさ………」

 

 

月曜日の昼休み、あの一件から龍夜は単独行動が多くなった。前のように一夏達と関わりを許していた様子から一転、まるで拒絶するかのように距離を取るようになったのだ。

 

 

箒や鈴も同じで、好意を持つセシリアとも接しようとすらしなかった。声を掛ければ応じるが、それも最低限。誘われたとしても、すぐさま断り、関係を絶つように距離を置くことが何度もあった。

 

 

一夏も、龍夜の地雷を踏み抜いてしまったという負い目がある故に、積極的に声を掛けれない。今度こそ、強い態度で拒絶されるかもしれないという不安があった。

 

 

親友からも朴念仁や空気が読めないと言われてた事もあり、下手に話して、彼を傷つけるようなことや、怒りを買うことがあるのかもしれない。少し前には、それで鈴を泣かせてしまったのだから、余計に気にしていた。

 

 

気を取り戻そうと声をかけるシャルルに、少しだけ心を落ち着かせた一夏は、彼から銃撃についてある程度教わっていた。それから後に、周りからざめわきが響いてるのに気付いた。

 

 

向けられる注目の視線に釣られてみると、その先にいたのは黒の機体を纏った小柄の少女 ラウラ・ボーデヴィッヒがそこにいた。

 

 

自分に敵意を向け、あろうことか平手打ちまでかまそうとした相手だ。一夏も顔は険しく、苦手そうな感じを抱いている。

 

 

「おい」

 

「………なんだよ」

 

 

そんな彼に、ラウラが通信を繋げる。適当に答えると、一夏のすぐ近くに降り立つ。

 

 

「貴様も専用機持ちだそうだな。ならば話が早い。私と戦え」

 

「嫌だ。理由がねぇよ」

 

「貴様にはなくても私にはある」

 

 

断言するラウラに、一夏は顔をしかめる。彼女がそこまでいう理由、心当たりはある。確実ではないが、もしかしたらという話だ。

 

 

 

数年前にあった第二回IS世界大会、『モンド・グロッソ』の決勝戦の日。観戦していた一夏は、一瞬の警備の隙を突かれてテロリストに拉致、監禁された。彼らの目的はただ一つ、一夏を誘拐することだけで良かったらしい。そう、話していたのを確かに聞いた。

 

 

 

『───良いのですか?彼を殺してもいいと、「依頼主」から聞いていましたが………』

 

『いいや、殺すべきではない。彼は必要だ、これからの時代に。「依頼主」には悪いが、私の判断で生かしておく』

 

『ハッ…………では、先に手を出した馬鹿達はどうしますか』

 

『始末しろ、命令もロクに聞けない駒など価値がない』

 

 

意識が朦朧としていた一夏の前で話していたのは、二人の男。一人は見えなかったが、もう一人の部下だと思われる。もう一人────黒ずくめで機械的な仮面で顔を隠した男。感情すらないような一声で指示を出し、一夏の前から立ち去っていった。

 

 

 

それから、一夏は閉じ込められた場所から助け出された。一夏の誘拐の報せを聞いた千冬は決勝戦を棄権し、大会の優勝を取り逃した。誰もが千冬の優勝を信じていたからこそ、それが大きな話題となり、もう一つの問題を引き起こすことになったが、今は省略する。

 

 

そして、一夏の軟禁場所を探し出したのはドイツ軍であった。千冬は、弟の救出に力を貸してくれたドイツ軍にお礼の為に、一時期教官を勤めることになった。

 

 

ラウラの所属はドイツ───大方、千冬を教官と呼んでいた事から、その時に彼女の教え子としていたのだろう。そう考えた方が分かりやすい。

 

 

「貴様がいなければ教官が大会二連覇を成し得ただろうことは容易に想像できる。だから、私は貴様を───貴様の存在を認めない」

 

 

要は、自分の憧れでもある織斑千冬の経歴に傷を与えた一夏が許せないのだろう。彼女を敬愛するからこそ、汚点である一夏の存在を認められないというべきか。

 

 

自分が足を引っ張っているという自覚がある一夏も、理解できなくはない。しかしそれは、ここで彼女の相手をする理由にはならなかった。

 

 

「また今度な」

 

「ふん。ならば───戦わざるを得ないようにしてやる!」

 

 

ラウラが告げる瞬間、漆黒のISの右肩のリボルバーカノンが構えられる。実弾として装填された大型の砲弾が火を噴き、放たれた。

 

 

 

しかし、一夏の白式に砲弾が直撃することはなかった。

 

 

 

 

【OVER ENERGIE DISCHARGE!】

 

 

 

「────ライトニング、ブレイク」

 

 

屈折しながら飛び出してきた光から姿を見せた、蒼銀のISが砲弾へと突撃する。背中の鞘から引き抜いた光剣を振り下ろし、空間ごと一刀両断する。

 

 

直後に発生する爆発を振り払い、龍夜がラウラの前に着地する。そして、光の宿る剣をラウラに突き付けた。

 

 

「………下がれ、ボーデヴィッヒ。余計なことをするんなら、俺が相手になってやる」

 

「貴様………ハッ、まさかソイツを庇う気か?生易しいことだな?やはり、この学園の奴等は生温い。反吐が出る」

 

「────ふん、随分と口が軽いな。俺の剣でも突き刺せば、少しは静かになるか。試してやろうか」

 

「博士からの新型を貰った分際で、調子に乗るなよ。どれだけ機体が優れてようと、貴様本人が優れてるわけではない」

 

「…………黒い機体は前から嫌いだったんだ。こっちもイライラしててな。スクラップにして、お前ごとドイツ本国に送り返してやるよ」

 

 

二人の間に、凄まじい程の敵意がぶつかり合う。通常では見せないような冷徹な敵意と、苛烈なまでの敵意を見せるラウラ。二人はもし引き金となる動きがあれば、すぐさまにでも目の前の相手をスクラップにするべく襲いかかるだろう。

 

 

その対立が止まったのは、すぐ後のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

『───止まれ、アンタ等』

 

 

二人の間に、巨大な鉄の塊が飛来してくる。互いの意識を相手から反らし、目の前の敵に対し武器を構える。だがそれよりも先に、金属の腕が二人の眼前に展開される。

 

 

図体は胴体だけが一際大きなヒト型。頭部と胴体は一つに繋がっており、怪しく光るモノアイが各々の姿を確認する。それから、機械的な声が響く。

 

 

それは何度も聞いたことのある声、学園の警備をしている理事長直属の兵士 陸奥のものであった。人が乗れるような造形はしてないことから、遠隔操作だろうか。その声は、二人へ各々投げ掛けられた。

 

 

 

『───蒼青、下手な私闘は禁止されてんでしょ。冷静になりなさいよ。八つ当たりなんて格下みたいな事すんじゃない』

 

「………」

 

『ボーデヴィッヒ、アンタが好きにしようが私はどうでもいいけど。アンタの愚行の責任はアンタだけじゃなくて、織斑先生が背負うのよ。それを理解しなさい』

 

「───ふん。良いだろう、今日は引こう」

 

 

二人とも不服そうであったが、すぐに従った。互いを見合い、睨み付けながら各々反対のアリーナゲートへ飛んでいく。

 

 

龍夜も、一夏やシャルルに視線を向けたが、一瞬の事だった。すぐさま前に向き直り、黙ってゲートを通っていった。何一つ、言葉を交わす素振りも見せずに。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

廊下を歩く龍夜は、無言を貫いている。人気のない場所だからいいが、もし誰かが近くを通れば彼の放つオーラに気負され、近寄ろうともしないだろう。

 

それ程に、蒼青龍夜は周りを寄せ付けない雰囲気をさらけ出していた。

 

 

『………ねぇ、マスター』

 

「…………」

 

『皆とは、もう話さないの?』

 

 

ケースに格納された『プラチナ・キャリバー』を背負う手とは反対の、右手に掴んだスマートフォンの中で電子妖精(ラミリア)が心配そうに様子を伺う。

 

 

沈黙を通していた龍夜は、ふと階段の前に立つ。誰もいないことを確認してから────ポツリ、と呟いた。

 

 

「………お前は、どうすればいいと思う?」

 

『マスター………』

 

 

その声音に、ラミリアは何も言えずにいた。答えが分からないというのもあるが、龍夜の落ち込んだような様子に本気で心配しているのだ。

 

 

龍夜自身、自分がどうすればいいか分からない。彼等にあそこまで冷たい態度を取ってから、彼等の前に立つと心がむしゃくしゃしてくる。怒りという訳ではない、行き場のない感情が胸の内に溢れてくるのだ。

 

 

それを振り払うように、龍夜は首を横に振る。兎に角胸に宿る理解不能な感情を否定したかった。自分の使命という大義名分で上書きして、心の内側を隠そうとする。

 

 

 

(………いや、迷うな。あいつらと関わると気持ちが揺らぐ。そんな状態では強くなれない)

 

 

「───俺は強くなる。力を身につける為にこの学園に来たんだ。他の奴等と馴れ合う為じゃない」

 

 

拳を握り締め、決心したように呟く。自分は間違っていない、そう言い聞かせながら。

 

 

 

 

 

 

「────そう?学園ってのは基本的に、他の生徒と仲良くしながら学んでいく場所だと思うけれど?」

 

「……………あ?」

 

 

思わず、敵意が漏れる。

不意のこともあり、咄嗟にそれを抑える。

 

聞いたこともない声がしたのは階段の上から───有り得ない、と龍夜は感じた。さっきまで人の気配など無いと確認していたし、階段を降りる足音すら聞こえなかった。まるでその場に突然現れたかのような気配の現し方。

 

 

 

相手は当然、女子生徒だった。

学年を表すリボンは同学年の色ではなく、何度か見た二年生のものだ。それ自体に龍夜も最初は興味はなかった。

 

 

問題は、彼女の特徴だ。

 

 

(…………?)

 

 

水色の髪に赤い瞳。普通に目立つ特徴だが、重要なのはそこではない。彼が知っている人物とほぼソックリなのだ。

 

 

少し前まで同じ部屋で生活していた、あの物静かな少女と。

 

 

(簪?……いや、彼女に似てるが違う。もしかして姉か?)

 

 

「その通り───簪ちゃんがお世話になってるわね。蒼青龍夜くん。私も挨拶が必要かしら?」

 

 

クスリと笑い、少女は突如取り出した扇子をパッと開く。『挨拶』と綺麗な字で書かれていた。………一体どういう使い道なのかと思うが、龍夜は直接突っ込む気にはなれなかった。

 

 

ついさっき、自分が考えていたことを彼女は平然と言い当てた。それに会わせたような言葉に、龍夜は確信した。彼女はこの学園でも相当の手練れだ。ISを抜きした、生身の実力も。

 

 

驚かされた意趣返しとして、此方も不適な笑みで返す。

 

 

 

「いいや、不要だ───生徒会長 更識楯無(さらしきたてなし)

 

「…………、ちょっとビックリ。まさかお姉さんの名前を知ってるなんてね」

 

「強くなるためにこの学園に来たんだ。生徒の中で誰が強いかなんて最初から調べていた。───アンタがその学園最強だというのも、既に認識している」

 

 

だが彼女は少し驚いた………様子を見せただけで、反応は変わらない。閉じた扇子を再び開くと、今度は『意外』という文字があった。

 

 

───少し、好奇心が沸き上がってくる。

あの扇子は一体どういう構造をしているのか、一度閉じたら本人の思う文字を投影する万能アイテムなのか。アレと同じもの、いやそれ以上の代物を造れるだろうか、という天才独特の衝動が胸の内を完全に支配する。

 

 

が、流石に自制する。今この場でハジケてしまえば本格的に手遅れになる可能性がしたからだ。

 

 

「それで?天下の会長様はこんな場所で何をなされているんですか?サボりですか?」

 

「サボりじゃないわよ?休憩していた所に、偶々貴方と出会ったってとこかしら?これも運命かもね」

 

「…………最初から隠れて、介入するのを伺ってたんじゃないんですか?」

 

「さぁ?どうかしらね?」

 

 

やはり何を考えているのか理解できない。少なくとも、偶然自分に出会ったという事ではないという事実は確かだ。そんな可能性の話を簡単に信じるほど、生温くはない。

 

 

「………用がないなら失礼します。俺も無駄な時間は使いたくないんで」

 

「─────用ならあるわよ?貴方の事について」

 

 

立ち去ろうとした歩みを、その言葉が引き留める。一度は止まったが、無意味と判断したのか再び足を動かし、その場から離れようとする。

 

 

それをもう一度止めたのは、楯無の放った言葉だった。

 

 

 

「貴方の事、少し調べさせて貰ったわ。家族や経歴、そしてこの学園に入学してきた真の理由についても」

 

「………」

 

「事故死に見せかけて殺害されたご両親の敵討ち────殺害の主犯である『魔王』に復讐すること、そうでしょ?」

 

「…………人の過去にズカズカと………赤の他人の分際で」

 

 

空気が一瞬にして冷え込む。

あからさまに不機嫌になった龍夜が、敵意を隠さない瞳で楯無を睨み付ける。

 

 

だが、彼女は臆した様子も見せず、真剣な顔つきで向き合う。その表情に見え隠れするのは───純粋な心配だった。

 

 

「例のIS、『魔王』は誰にも倒せてない。国連や大国の捜査網から逃れ、大勢の人を殺害してきた犯罪者よ。織斑先生でもなきゃ『魔王』は倒せない。いくら貴方が強くなっても、奴に復讐なんて出来ない」

 

「…………ハッ、要は織斑千冬以上に強くなればいいだけだ。その事実が分かればいい、あとは奴を探し出す───」

 

「────無理よ」

 

 

話を切り上げて、その場から逃げようとするが、楯無はそれを制するように彼の手首を掴む。無視することを許さないとでも言うように、彼女は続け様に厳しい口調で語る。

 

 

 

「『魔王』は神出鬼没、そう簡単に見つけ出すことなんて不可能よ。それに───今の貴方じゃあ、『魔王』には勝てない。実力不足、以前の問題」

 

「………この学園の強い人は何なんですかね。人の目標に口出すのが趣味なんですか?ホント、何が言いたいんだ?」

 

 

本気で苛立った声音で、龍夜は吐き捨てる。最早取り繕う様子すらなかった。凄まじい殺気が、まるで敵を見るかのような睨みと共に放たれる。膨れ上がる怒りを、目に見えて抑え込んでいた。

 

 

そのまま、自分の手首を掴むしなやかな手を力ずくで振り払う。強引なやり方は普通に批難を受けても可笑しくない。だが、龍夜はそうするしか出来なかった。

 

 

 

「────ッ」

 

 

我慢の限界だった。これ以上何かを言われれば感情を爆発させしまう。怒りのままに、胸の内にある憎悪を口に出してしまう。それを抑え込む為に、唇を強く噛み締める。既に皮膚が切れて、口内に鉄の味が広がるが、それでも良かった。

 

 

 

 

ダッ! と走り出す。

憐憫のような目で此方を見つめていた楯無から逃げるように。自分を憐れむような視線に怒りを覚えながらも、彼はただ突きつけられた現実から逃げるように、廊下を駆け出していた。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

生徒会長から離れてすぐに、龍夜は頭を抱えた。

どうしてあそこまで感情的になってしまうのか。前なら、この学園に来る前ならばあそこまでの醜態はさらさなかったというのに。

 

だが、いつまでもその疑問に自問する訳にもいかなかった。兎に角平静を取り持ち、整備室へと入る。今回は機体そのものの調整ではないので、個室は使用しない。

 

 

踏み込むと、先客が一人いた。いつも通り、見知った相手だ。

 

 

 

「…………」

 

「……………」

 

 

軽く会釈をすると、相手───簪を普通に返してくれた。ルームメイトであることや整備室でも会うことから、会話は少ないが、普通に対応も出来るし悪くない関係性ではある。

 

 

 

隣でキーボードを叩く簪を他所に、龍夜は運んできたトランクケースから取り出した部品と部品を組み上げていく。足りない部分は、工具やアイテムを用いて改造を施し、ある程度原型が分かる程に造り上げていく。

 

 

その間も、隣からの視線がしつこかった。鬱陶しいと思いながら、眼だけを動かす。

 

 

「…………」

 

「………何だ?俺に何か用でもあるのか」

 

「…………別に。顔色が悪いから………気になっただけ」

 

 

言われて、ふとスマホの画面を見る。カメラで自分の顔を写してみれば、明らかに酷い顔をしていた。失笑が溢れる。まさかここまで露骨に顔に出ているとは、これでは他の誰かでも普通に心配するレベルだ。

 

 

何があったのか、話すべきか一瞬迷った。だが、そこまでして言わない理由もない。適当なため息を吐き、理由を告げた。

 

 

「ついさっき、生徒会長に色々言われてきた。余計なことまで口出しされた」

 

「────それって」

 

「お前の姉、で合ってたよな。本人も姉と公言していたから間違いはないか」

 

 

視線を向けずに話す龍夜は気付かない。その話をした直後に、簪の表情が凍りついたのを。青ざめた顔で少女は作業の手を止めてしまう。

 

 

「何を、言われたの?」

 

「くだらない説教だ。俺の目的に難癖をつけて………どいつもこいつも、本当に余計なお節介をしてくれる。俺の事を思ってるんなら、無視しておけばいいものを」

 

「……………」

 

 

不愉快そうに吐き捨てる青年の言葉に、簪は答えない。彼女の異変に気付いた龍夜も作業を止め、彼女の方を見る。

 

 

「………大丈夫か?」

 

「…………」

 

「…………なるほどな」

 

 

そこでようやく、龍夜は簪にとっての地雷を理解した。更識楯無、実の姉の話を聞いた途端、彼女は目に見えて落ち込み始めた。楯無の妹の発言は仲が悪いというよりも、心配しているように取れていた事から────二人はすれ違っているのだろう、と判断した。

 

 

もう一つ、考えられる事があった。

更識簪は代表候補生だ。だが、彼女は専用機を持っていない。製造されていたが、一夏のISに人員を奪われ結果的に中止にされたという経緯だ。

 

 

それでも尚、今も彼女は専用機を完成させようと努力している。『白式』の製造が終わった今、倉持技研も力を尽くしてくれる筈だが───もしかすると、彼女が一人でやる為に、援助を拒否しているのかもしれない。

 

 

その根底にあるのは────おそらく、コンプレックスか。自分の姉に認めさせるためか。

 

 

 

少女の胸の内をある程度読み解いた龍夜は深い息を口から漏らした。何か、重大なことを決心したように。

 

 

「…………少しだけ、俺の話をする」

 

 

「………何?」

 

 

「興味がなければそれでいい。適当に流してもいい」

 

 

不安そうな顔を隠そうともしない簪に、龍夜はそう前置きを口にした。何を言いたいのか、と思っているのであろう彼女だが、興味はあるのか無視する様子はなかった。

 

もう話してもいいか、そう思い、ゆっくりと口を開いた。

 

 

 

 

 

 

「俺は───産まれながらの天才だ」

 

 

 

「……………えぇ?」

 

 

簪が困ったような顔をする。

 

 

「子供の頃からあらゆる数式や法則を理解できた。上辺だけでじゃない、その法則の意味、原理、根底にある可能性が全て読み解けた。逆に言えば、俺に理解できないものなど何一つない。あの時は豪語していた」

 

「………本当のこと?」

 

「嘘など言っても意味がない。そんな無駄なことは好きじゃない。

 

 

 

 

 

だが、当時の俺に嫌いなものがあった。自分以外の人間だ」

 

 

断言した彼の瞳には、激しい嫌悪感が宿っていた。並々ならぬものであるのは違いないらしい。

 

 

「子供も嫌いだ。自分達とは違う者がいれば排斥し、それを正当化する。頭が悪いままに暴力を振るって、自分達が危なくなれば、強い大人に頼ろうとする姑息かつ卑怯な弱者だ。

 

 

 

 

大人も嫌いだ。プライドばかりのクズばかり。面子を大事にするような奴等で、己の非を認めることなく、逆上して他人に責め立てるようなカスだ。

 

 

 

 

 

どいつもこいつも俺よりも頭が悪いクセに俺の方が異常だと馬鹿にして、迫害してくる。だから昔から、自分以外の奴等が嫌いだった。理解のない凡愚どもが、大嫌いだった」

 

 

本気で嫌っているのが、言葉の節々から感じられる。長い間、相当嫌なものを見てきたり、体験したのだろう。自分が天才だというプライド以上の軽蔑が、その証拠であった。

 

 

意味深な言葉に、簪は黙って聞いていた。だが気になることがあるのか、頭に浮かんだ疑問をすぐさま口にする。

 

 

 

「それで………一体何が言いたいの?」

 

 

「───いや、特になにも」

 

 

え?と、彼女の方が困惑した。断言した龍夜は平然としている。本当にそうだというように。さっきまでの話に何か言いたいことがあると思っていた。

 

だが、その通りらしい。

 

 

「あるとすれば、凡愚は凡愚でも無能はいないってことだ」

 

「…………?」

 

「俺の考えだが、全ての人間に才能や素質はある。そう思っている」

 

 

それが、龍夜の言わんとしていることであった。

 

 

「どんな人間も長所や短所があるように、すぐにでも開花する才能と努力して身につく才能が、人間にはある。世の中でもよく聞くだろ、自分には才能がないとか言うヤツ。ソイツは無いんじゃない、才能が開花してないだけだ。見方を変えれば自分の才能くらい、一つくらいは見つけられる」

 

 

話を一度区切った龍夜、そして簪に対して指を突きつける。

 

 

「お前もだ、簪」

 

「……っ!」

 

「姉の事を上に見て、自分を無下にするのは勝手だ。だが、お前がなりたいのは自分より才能のある姉か?お前には、姉にはない才能が潜在している。姉とは違う、自分になれる」

 

「簡単に、言わないで………っ!お姉ちゃんがどれだけ完璧なのか知らない癖に………!」

 

「だからこそ、お前は自分の才能を活かせばいい。姉を目指すんじゃなくて、自分の求める自分を目指せばいい。………人は他人にはなれない。俺もお前も、なれるのは自分だけだ」

 

 

それだけ言うと、彼女は何も言わなかった。涙の滲んだ瞳を見せないように顔を俯かせ、沈黙を貫く。彼女の態度に、龍夜は不安や心配すら見せない。そんなものなど、意味がないとでも言うように。

 

 

「ま、俺から言うのはこれくらいだ。さっき話した通りに適当に流してもいい。全てはお前の自由だからな」

 

 

そう言い、トランクケースに弄っていた部品の塊を捩じ込み、立ち上がる。そのまま整備室から立ち去ろうとする龍夜の背中を、彼女が呼び止めようとする。

 

 

「あぁ、そうだった」

 

 

それよりも先に、龍夜が足を止めた。振り返り、彼女に向けて言う。

 

 

「話に付き合ってくれて助かった、簪」

 

「?」

 

「こうやって話したからか、感情の整理ができた。ようやく落ち着くことができた。────だから、ありがとうな」

 

 

感謝を述べると、反応を見ることなく整備室から離れていく龍夜。しかしその顔は前のような複雑なものではなく、憑き物が晴れたような顔つきであった。

 

 

 

しかし、彼は気付かなかった。いや、誰も気付けなかった。

 

自分が感情的になってしまった理由が、作為的なものであることを。

 

 

彼が感情的になる場には────ケースに格納された『プラチナ・キャリバー』があることを。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

夜過ぎになり、龍夜は寮のとある一室に来ていた。一夏とシャルルの部屋。その前に立ち、龍夜は一息つく。

 

 

 

目的は、一夏とシャルルへの謝罪だ。最近の態度、気が立っていた故に取ってしまったあの態度について、謝らなければならない。男同士の方が話しやすいというのもあるが、部屋に一番近いのも理由の一つだ。

 

 

扉をノックしようとしながら、ドアの持ち手に触れる。

 

 

鍵は開いていた、閉め忘れだろうか。

中からは二人の気配がする。男同士だし問題ないだろ、と思いながら。

 

 

「一夏、居るか?居るなら少し話したいことが─────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え…………?」

 

「は…………?」

 

 

扉を開けた瞬間、二人の声がする。開け放たれた視界には、部屋の中で対面している一夏とシャルル─────のような、少女がいる。風呂上がりなのか軽めの服装をしていた。

 

 

 

「……………」

 

 

硬直する三人。

誰もが言葉を発することが出来ずにいる中、一番最初に動いたのは龍夜だった。

 

 

扉の前まで歩み寄り、ゆっくりとドアを開ける。本人が見たら気持ち悪いと断言するような笑顔を浮かべ、

 

 

「────お楽しみ中、お邪魔しました」

 

 

そのまま滑るようにして逃げ出した。部屋から出てすぐに一夏が慌てた様子で飛び出してくる。互いに全力な鬼ごっこ、その勝敗は死ぬ気で追い回した一夏の辛勝であった。

 




龍夜の感情の振れ幅がハンパない。まぁ本人も制御できてないから許してあげて()


感想や評価、よろしくお願いします!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。