これからも執筆を続けていきたい次第ですのでよろしくお願いします!
踏み込んだ龍夜が、突撃する。背中のスラスターからエネルギーそのものを勢いよく噴かし、輝きを放つ光刃と共に漆黒の機体を操るラウラに狙いを定める。
龍夜の行動を前にしたラウラは眉をしかめる。瞳に侮蔑の色を浮かべ、吐き捨てた。
「───直進か。考え無しのやり方とは、つくづく呆れ果てる」
そのまま、右腕を直進する龍夜へと向ける。その掌が固定された瞬間─────目の前で光が弾けた。いや、言葉通りの意味ではない。それはエネルギーを撒き散らす残光であった。突如方向転換する際に全力で前と下に向けて噴き放った時に生じた残滓。
「────ッ!」
掌を向けた瞬間、姿を消した龍夜に驚きを隠せないラウラ。何らかの力を発動した直後だったのか、すぐに周囲を見渡しながら彼を探そうとする。
だが、それが彼の狙いだった。
ダァンッ! と、地面を踏みつける音が鼓膜に響く。それは目の前、ラウラの眼前からだった。
視線を動かすと、光の粒子を帯びた龍夜が着地していた。背中のスラスターからはエネルギーの鱗片が舞い、その手には既に鞘からのエネルギーを充填させた光剣が空気を焼く程の熱を纏っている。
「!貴様──!」
「────遅い」
プラズマブレードを展開し、迎撃しようとするラウラだが、一歩早かった龍夜の一刀が漆黒の機体に浴びせられる。エネルギーを蓄積させた光の刃は簡単にシールドエネルギーを削っていく。
しかし、ラウラのシールドは大して減ってはいなかった。通常のブレードによる攻撃よりも減少してるとはいえ、龍夜がいつも放つ必殺の一撃ほどの消耗は見えない。
それも当然、戦術が違うからだ。
いつもの龍夜は相手から攻撃を優先させる。最初は機動力と火力を引き換えに、防御力とエネルギー吸収機能を有する《ナイトアーマー》で自身のエネルギーを最大限まで蓄積させ、消耗の大きいが絶大な機動力と火力を誇る《アクセルバースト》で短期決戦及び相手を翻弄するのが、彼のいつもの戦術だ。
今の龍夜は、感情的に動いていた。本来ならば勝率の高い戦術を一瞬で切り捨てて、《アクセルバースト》による高火力でラウラを叩き潰そうとしていたからだ。
「離れろッ!」
片腕に展開させたブレードを振り払い、龍夜に切りつける。最初の攻撃を浴びせた彼は背中のスラスターを器用に噴かし、勢いよく距離を取る。
それを狙っていたかのように、大口径リボルバーカノンが龍夜に砲口を差し向ける。数秒の間隔を開けて、反響するような重音と共に砲弾が放たれた。
「ふん……ッ!」
【
空中で体勢を立て直した龍夜が、背中から鞘を分離させ腕に装着させる。自動的に手首に取り付けられる固定具を感じ取り、剣を鞘に戻すと────全身を包む装甲が光へと代わり、全身を隠すように包み込む。
重装備の騎士鎧。
《ナイトアーマー》、言葉通りの姿に変化した『プラチナ・キャリバー』を纏い直した龍夜は鞘の装備された腕を飛来する砲弾に構える。
瞬時に、鞘を中心として装甲が実体を持ち始める。展開されたそれは大きな盾、『銀光盾』として膨大な熱を帯びた砲弾を完全に受け止め、その際に発生したエネルギーを変換して内臓リアクターに残らず吸収する。
白煙と熱が霧散するアリーナの惨状の前で、ラウラは感心したように不敵に笑う。
「───流石だな、大口を叩くだけはある」
「…………」
「ふん、どうやら怒りは残っているようだな。あの女を相手にした価値はあった。雑魚をいたぶるだけで、そこそこに強い奴が自分から挑んでくるのだからな」
その言葉を聞いた龍夜の拳に力が入る。圧倒的な握力で圧迫される鋼剣がカタカタと震える。ラウラはそれを、怒りを押さえ込めていないと判断した。
だが、誰も気付かない。いや、気付けないのも当然だろう。剣が、『ブラックボックス』と称されてきた銀の剣が共鳴するように震えているなど、誰も思うはずがないのだから。
「………もういい」
騎士のフルフェイスから、一声が響く。ドスの低い、本気で怒りを剥き出した感情的な言葉。それを制せることなく、それ以上の敵意と怒気を込めた宣言を口にした。
「────今からお前を黙らせる」
ッッッッドッ!!! と。
白銀の鎧が、突撃した。それだけの話、普通ならば驚くことではないだろう。問題は、その動き方だ。
踏み込んだ直後、アリーナの地面が爆発する。全力だったのか、爆発を連想させてしまう程の威力と規模。周囲に撒き散らされた砂煙から、『銀光盾』を前に突き出した龍夜がスピードに任せて突撃してくる。
「────馬鹿が」
侮蔑するようなラウラが腕を突き出した途端、鎧を纏う彼は目の前で停止することになった。盾を突き出していながらも、特攻する気だったと考えたラウラは彼を見下しながら装填したレールカノンを向けようとして────気付く。
(コイツ───剣はどうした?)
《ナイトアーマー》状態の剣は、《アクセルバースト》の時のようなエネルギーを纏う刃ではなく、金属の装甲を繋ぎ合わせた大振りの大剣だ。盾で姿を隠していたのは次の攻撃、大剣による斬撃の軌道を予測されないようにするものだと思っていた。
だが、今も静止する龍夜の手には大剣はない。鞘の機能も搭載されている『銀光盾』に収納されている訳ではない。ならば一体何処に─────
その思考を遮るように、ハイパーセンサーが動く物体を捉えた。回転するしながら上空から飛来してくるのは、龍夜の大剣だ。
一瞬で、理解した。
先程の爆発は、剣を上に投げ飛ばした事を誤魔化す為のフェイク。大きな盾で身を隠して突撃したのも同じだ。全てが自分に一矢報いるための作戦だったとしか言えない。
咄嗟にラウラは目の前の敵から視線をずらし、旋回してくる大剣に腕を伸ばす。気を取られた事もあるが、何らかの作戦があるのでという疑惑もその理由だ。やはり、空中で静止することになる。
「────動いたな」
だが、それが隙となった。
ラウラが大剣を静止させた直後に、停止の支配から龍夜は解放された。最大まで行っていた加速は戻り、僅かな隙をついてラウラに飛び掛かる。
彼女の顔を掴むと、そのまま加速を止めることなく、壁に叩きつけた。絶対防御を無視して響く衝撃に耐えるラウラに、龍夜は更に力を込めて壁に押し込む。
「グゥ………ッ!き、さまッ!」
「お前なら警戒してくれると思ったさ。なんせ強いんだからな、降ってきた大剣にも何か意味があると判断して止めたんだろ?────それ自体が、俺の予想通りだ」
顔を掴む指に力を入れると、ラウラは顔を歪めた。おそらく頭部のハイパーセンサーが警告を繰り返しているのだろう。頭部から手を離し、返事の代わりとでも言うように向けてきた腕ごと、銀光盾でラウラを壁に叩きつける。
「───AIC、対象の存在する空間を慣性を停止させる領域により動きを止めるんだろう。だが、同時に一つ以上の物体は止められないという事実が分かった。それに、そんな小細工をしなくても対処は簡単だ」
メキメキ、と壁の奥に押し込む力を緩めない。それどころか此方を睨み付けるラウラを目にして狂気を滲ませたように笑う龍夜────その顔が、ラウラの瞳に映ったのが見えた。
白銀のフルフェイスに、禍々しい色合いのラインが延びる。銀色を侵食するような黒は次第にその形を変え、機体そのものに変化を引き起こしていた。
「お前が俺を止めるより先に、俺がお前を先に叩き潰す。それだけでお前のAICは無力化されたも同然だ。抵抗はしろよ、言葉通りに捩じ伏せてやる」
◇◆◇
その直前、龍夜とラウラの戦闘の合間にセシリアと鈴を安全な場所に連れて行ったシャルルと一夏が戻った時には、圧倒的な状況だった。
「────凄い」
シャルルが唖然としたように呟く。それ以上に言葉がでない様子であった。セシリアと鈴を一人で蹂躙したラウラを龍夜は意図も容易く圧倒していた。
あまりの力の差、そして隔絶した実力を見せる龍夜に、シャルルは驚愕することしか出来なかった。
「……………あれ?」
一方で、龍夜を見ていた一夏は声を漏らす。それは疑問が浮かんだというものであった。シャルルがその様子に気付き、様子を伺うと、彼はどこか悩むように答えた。
「どうしたの?一夏」
「いや………龍夜のISってさ、あんな色無かったよなって。それに顔の部分も、少しおかしくなってるからさ」
視線を戻してみると、シャルルもすぐに気付けた。白銀の重鎧に異物のような禍々しい黒と赤の混じったダークな色が浮かんでいた。
鎧自体も変化を見せており、顔を覆うフルフェイスマスクはその価値を示さない程の変化────素顔を明らかにしたものに変わっている。
「それよりも、ラウラに勝った………って事でいいんだよな?」
「うん、そうだと思うけど………ボーデヴィッヒさんにやる気があったら続けるんじゃないの?」
「で、でもさ。流石にもう勝ちは決まったような────」
一夏の不安そうな声を遮ったのは、轟音だった。
盾を下ろした龍夜が、ラウラの腕を掴むと地面に振り下ろしたのだ。それも、地面に亀裂を入れる程の威力で。
「な────ッ」
驚愕を隠せない二人の視線の先で、ラウラが立ち上がろうとする。余程ダメージがあるのか、その動きは目に見えて遅かった。
そんな彼女に、龍夜は蹴りを入れた。躊躇なく腹を蹴り上げ、そのまま殴り飛ばす。何度かバウンドしながら吹き飛ばされたラウラは砂塵の中に消える。
一方的な攻撃をした龍夜は顔色すら変えない。それどころか追撃でもするかのように、ラウラの飛んだ方へと歩いていく。ゆっくりと、不気味な程に落ち着いた動きで。
「何を、やってんだよ」
砂煙を払い飛ばし、ワイヤーブレードを飛ばすラウラ。それらのワイヤーだけを盾で断ち切り、引きちぎり、最後の一本だけを掴み取り、勢いに任せて振り回す。
脚部のアイゼンを地面に固定させたラウラだが、力が強すぎるのか、少しずつ引き寄せられている。そんな彼女と距離が縮まった途端、龍夜は、ワイヤーブレードを強引に引っ張り、ラウラを自分の元へと手繰り寄せる。
そのまま、ラウラをISごと殴り、蹴り飛ばしていた。その光景に一夏は言葉を失う。シャルルも何も言えずに、目の前の光景を見ることしか出来なかった。
何故なら、同じだからだ。ラウラがセシリアと鈴をいたぶってたさっきの出来事と。怒りに飲まれているのか龍夜は何一つ感じさせないような顔から一点、凄まじい憤怒を顔に浮かべながら、ラウラを圧倒していた。
暴力を繰り返す青年、同じ光景を作ろうとする友人に、一夏はISを纏い、叫んだ。
「───何してんだよ!?龍夜ァ!!」
その言葉は、今の彼には届いていなかった。彼の瞳は、憎悪と憤怒に包まれている。何一つ見ていない、何一つ聞いていなかったのだ。
◇◆◇
───おまえ、気持ち悪いんだよ。偉そうにしてさ
フラッシュバックする。
不愉快な記憶が、不快な景色が、彼の頭を駆け巡る。
───蒼青君、ここは学校なんだ。君ももう皆に少し合わせてくれないと………天才なんだから、出来るだろう?私の時間を無駄にしないでくれよ
頭痛がする、吐き気がする。
感情が揺らぎ、巨大な竜巻の中で捻り回るような、落ち着きがなくなってしまう。
───父さんと母さんが亡くなったのに………何で静かにさせてくれないの………?父さんと母さんの死を悲しんでくれないのに…………何で皆は、二人の死に理由を作りたがるの?
視界や聴覚に、直接響いてくる。見たくもない世界が、忘れられなかった呪いが、何度も、何度も。壊れたビデオテープのように。
───ふざけやがって!百合姉さんも義兄さんも、なんでこんな事を隠してんだ!なんで二人だけで復讐しようとしてたんだ!!俺や零姉さんの事が大事だって言うのか!?じゃあなんで、俺達を置いていったんだよ!?
まるで、言い聞かせてるようであった。思い出させているようであった。
───抵抗すんな!殺されたなくなきゃ大人しくしてろ!
───何がISが使えるからだ!何が男なんてそれしか出来ないだ!女なんてISがなけりゃあこの程度だろうが!そのクセに調子に乗りやがってよ!俺達の人生はクソッタレの女どもに壊されたんだ!お前が代わりに償ってくれよ!なぁ!?
───姉、さん?
そこでようやく、たった一つの事実を再確認する。ポツリと、些細なことを口にするような感覚で呟いた。
─────俺は、この世界が大嫌いだったんだ
頭に巡る光景に、龍夜は疑問を覚えない。自然と、何も考えられなかった。何かに対する怒りと憎しみでしか、思考が成り立たない。
「…………っ」
「大口を叩くだけはある………お前も、そうだったな」
半分まで禍つ黒に染まった白銀の鎧を纏う龍夜が、ラウラを踏みつける。既に彼女のISのエネルギーは底をつくギリギリまでに減少しており、反撃の手段は無いのか大して動けずにいる。
そんなラウラを蹴り飛ばす。転がるラウラを適当に確認した龍夜は────先程から地面に突き刺していた大剣を握り、軽く引きずる。
剣に組み込まれた宝玉の一つが、禍々しく輝く。無機質に歩み寄る龍夜の感情に呼応するように、機体に浮かぶ侵食を進ませていく。
『マスター!?マスター!?止まって!止まってよ!ねぇ!!』
ラミリアが必死に叫び、止めようとする。電脳内部でしか存在できない彼女は声で語りかけるしか出来ない。唯一無二の相棒である妖精の泣き叫ぶような声に、龍夜はピクリと一度は反応する。
だが、一瞬で何事もなかったように首を傾ける。そのまま突き進む彼の姿は、正常だと思わせる要素が何一つ見られない。
だが、その瞬間。
二つのISが、割り込んでくる。
中々のダメージを負ったラウラと、彼女を更に打ちのめそうとする龍夜の間に。
自らのISを展開した一夏とシャルルが、ラウラを庇うように龍夜に向き合っていた。
「─────何のつもりだ?お前ら」
冷えきった声でそう聞き返す。熱の籠ってるとは思えない声音に一度は気負された一夏だが、覚悟を決めたように強く言い切る。
「もう、充分だろ。ラウラはもう戦えない」
「何処がだ?ソイツはまだ軽傷だろ。何より、ソイツがした事を忘れたのか」
「………分かってる。分かってるよ!俺だって許せねぇよ!けど、龍夜のやろうとしてる事を見過ごすなんて、俺には出来ねぇ!!こんなやり方、間違ってるだろ!?どれだけ相手が許せなくても、力で他人を痛めつけるような奴じゃないだろ!?お前はっ!!」
ズガァンッ!! と、近くの地面が吹き飛ぶ。
怒り任せに大剣を振り下ろしたのだ。破壊を引き起こした龍夜は苛立ったように吐き捨てる。
「───話にならない」
自分の顔を抑え、揺らぐように大きくなる怒りを滲ませながら、口を開く。やはり彼の眼は、一夏やシャルルを捉えていない。
制限なく増幅している感情により、盲目と化している。理性を上回る程の敵意と怒りが、あらゆる考えを塗り潰す。
「お前達を殺してから、ソイツを殺すだけだ」
「ッ!」
ビキ、ピシ、メキ、と。
白銀の鎧は禍々しい闇に蝕まれ、鎧そのものが変化していく。棘が生えていき、殺意と破壊を体現するような装甲が、少しずつ彼の身を覆っていく。
そんな最中、一夏の視線がようやく剣へと向けられた。金属を纏った長剣は登載されたコアらしき球体により元の状態へと戻っているだけではなく、鎧の変化と同じ色合いの歪んだ黒色の点滅を繰り返している。
僅かな異変に、一夏はある仮説を思い浮かべてしまう。
(───あの剣の、せいなのか?)
龍夜がここまで感情的になった理由、それは作為的なものではないのか。あの剣が、何らかのか力で暴走状態にさせているのか。無関係、と楽観視できるほど一夏も気楽ではなかった。
戦わなくてはいけない、隣にいるシャルル同様、自身の武器を構え、龍夜を止める覚悟を深める。が、異変は起きた。
それは、白銀の鎧を蝕む黒の侵食が、半身まで届こうとした直後だった。
「ぐッ、あああああああッ!!?」
蒼電が走ったと思えば、彼の全身から雷電が迸った。実際に浴びているような、激痛を感じさせる絶叫が、彼の口から響き渡る。
バチンッ! と一際大きな電撃が弾け、破裂する。瞬間、龍夜と分離された『プラチナ・キャリバー』がその場に転がり落ちる。
剣だけの状態だった『キャリバー』だが、自動的に移動してきた鞘に綺麗に収まり、落下する。まるで意識を持つような動きに困惑するが、一夏達は地面に倒れ込む龍夜に駆け寄った。
「龍夜!大丈夫か!?しっかりしろ!」
「────い、一夏……?シャル、ル……?」
心配の表情を浮かべる二人に、朦朧としているらしい龍夜が揺れた眼を見張る。何か理解した龍夜自分の顔を両手で押さえ込み、震えながら呟く。
「─────お、おれ、俺は、何を考えて────」
『ま、マスター……?』
不安そうな声で聞くラミリア。状況を理解し青ざめる龍夜の態度に、二人は一瞬にして理解した。先程までの彼は、正気を失っていたものだと。
だが、その終わりを納得せぬ者が一人いた。
「────よくも、やってくれたな……!蒼青龍夜ァ!」
損傷した黒い機体を纏うラウラ。暴走した龍夜に散々痛めつけられた彼女は頭に血が上っているのか、目の前の状況など気にしている素振りなどなかった。
レールカノンを差し向ける。砲弾を装填し、狙いを固定するラウラは躊躇いなく砲撃を行うとする。
「────そこまでだ」
張りのある強い声と共に、小型のナイフがラウラのレールカノンに直撃した。カァン! と弾かれたかと思えば、すぐさまレールカノンの表面にくっついた。途端に、レールカノンがエネルギーを失ったように機能を停止させ、放たれようとした砲撃が止まる。
「クッ、『E.M.P』か!」
固定されたナイフの正体に気付き、苛立ちを露にするラウラの前に、声の主が降り立つ。
長門。
黒い戦闘スーツを身に纏う生真面目そうな青年は、淡々とした表情のまま、腰に差していた二刀のブレードをラウラへと突きつける。
そのまま、無機質に宣告した。
「これ以上の戦闘行為は看過出来ない。武装を納め、ISを解除せよ」
「………何だと」
キッと睨み付けるラウラに長門は恐れすら見せない。無言のままで刀型のブレードを向け続けていた。
「ふざけるな、まだ戦いは終わっていない。邪魔立てをするなら貴様も相手に─────」
「IS学園の生徒を保護する、それが自分に与えられた命令」
ブワリ、と。
長門から凄まじい程の威圧と覇気が向けられる。思わず後退さったラウラは自分が圧倒されたことに気付き、睨み返すことしか出来なかった。
「数人の学生を過剰に痛めつけ、あろうことか戦闘不能になった相手に攻撃を仕掛けるなど許せるはずもない。
「…………」
「我々は、理事長から、国連から特権を与えられている。IS学園の守護の為ならどんな相手をも抹殺するように言われている。抵抗の意思は解体の承認と見なす」
フン、とラウラは不満そうに鼻を鳴らした。苛立ちを隠せないようであったが、これ以上やる意味がないと判断したのか、ISを解除して彼等へと背を向ける。
近寄りがたいオーラのままアリーナのゲートに戻るラウラの姿が見えなくなるのを確認してから、フーッと本気で安心したらしい長門が気を緩ませた。
「ふ、フーっ。何とかいった………それより、大丈夫ですか?皆さん」
「あー、俺とシャルルは大丈夫です………龍夜は、大丈夫か?」
「────平気だ。少し気分が、悪いだけだ」
青くなった顔を隠すように呟く龍夜の声は、不安定だ。自分が何故あそこまで暴走したのか、読み込めていないのだろう。心配した一夏が肩を貸そうとするが、首を横に振るって断った。
「悪い………今は一人にさせてくれ………少し、冷静になりたい」
「あ、あぁ………悪い」
「謝るのは、俺の方だ。何度も、迷惑を掛けた」
そう言いながら、立ち上がった龍夜がヨロヨロと歩いていく。やはり不安を隠せない一夏だが、何時もの様子で話す長門の話が始まったので、慌てて意識を向けた。
「オルコットさんと凰はんは、箒さんと一緒に医務室に連れていきました。ただいま治療の最中ですので、終わってから向かってください」
「わ、分かりました」
「それでは、二人とも。このアリーナから退出をお願いします。これから自分は今回の件を報告をしてきますので」
よろしくお願いします!と律儀に敬礼をする長門に一夏とシャルルは軽く頭を下げる。やはり満足そうに笑う長門は一瞬で先程のような生真面目な顔つきに変わる。
「えーっと!皆さん!これから教師陣との緊急会議を行います!念のために死闘とアリーナの使用は現時点で禁止にしますので、確認をお願いします!」
大声でアリーナに通達する長門。スピーカーのような音量でありながら、耳に響いてくる大きさではない、丁度いい声音が響き渡る。
◇◆◇
そして、場所は保健室に移る。
第三アリーナで起きた騒動から一時間。今現在全てのアリーナは封鎖され、騒動の後始末を終えた長門は教師陣を集め、事後報告をしている頃合いであった。
セシリアと鈴の治療は終わり、対面の許可が下りた。
「…………」
「な、何だよ……?」
「別に助けてくれなくてもよかったのに」
「お前なぁ………」
身体の大半を包帯に巻かれた鈴がふてくされたように言う。明らかに不満そうな彼女に、一夏は呆れたように苦笑いするしかなかった。
「…………セシリア、怪我は大丈夫か?」
「いえ、少し痛みますわね………やはり先生のおっしゃった通り、安静にするしかないのかもしれません」
「…………無茶をするからだ。これじゃあ骨折り損だろ」
「そんな事ありませんわ、悔しいですが経験が身に付きました─────それと、役得ではありましたから」
『アレー?セシリアちゃん、もしかしてお姫様抱っこの事言ってるの?ちゃんと覚えてたんd────』
「ホホホホ!口が過ぎるA.I.ですわねぇ!!」
「…………止めろ、落ち着け!」
満面の笑み(額に青筋を浮かべながら)でタブレットに掴みかかるセシリアを慌てて取り抑える龍夜。二つの意味で心配なのだろう。重体のセシリアが傷を痛める可能性と、今の彼女がタブレットをシャットダウンさせかねないから。
他人事のように(実際に無関係だからか)苦笑いして見守っているシャルル。そんな彼女の真横の扉が、突然開かれた。
「邪魔するぞ」
「あ!はい!織斑先生!」
「ちふ────織斑、先生」
気張るようなシャルル達に危うく何時もの様子で呼ぼうとして慌てて言い直す一夏。入ってきた千冬は一瞬だけ一夏を睨んだが、許されたらしくお咎めは無しだった。
保健室に訪れた千冬の話はこうだった。一つ目は、学年別トーナメントの仕組みを変更。翌日に全生徒に連絡すること。学年別トーナメントが終わるまでの私闘を禁止にすること。
二つ目は、セシリアと鈴のトーナメント参加は許可できないと言う話だった。最初は食いついていた二人だが、ISの損傷が激しいと、修復に時間が掛かると言われ、素直に受け入れていた。
そして、三つ目の話は─────
「蒼青、お前がラウラを過剰に痛めつけた件について話がある」
「………」
鋭い眼で見据える千冬に、龍夜は無言であった。唇を一文字に引き締める彼の姿に、一夏は咄嗟に声を挙げた。
「待ってくれ!千冬姉!龍夜も正気を失ってたんだ!それに、龍夜だけが悪いんじゃ──────痛ッ!?」
「勘違いするな、馬鹿者」
頭部を押さえて悶える一夏を無視して、千冬は続ける。
「今回の話はお前に全面的な非がある訳ではない。むしろラウラの方に処分を下しているところだ。………私が聞きたいのは、お前の暴走についてだ」
「…………」
「あの時、お前に何があった?分かることがあれば、お前から話してほしい」
千冬の言葉は、何時ものような強いものではなく、彼の調子を伺うようなものであった。気分が優れないなら話さなくてもいい、そういう意味で話す千冬に、龍夜は口を開く。
「───あの時、感情が抑えられませんでした」
「………」
「昔の嫌な記憶が、俺にとっての不愉快な思い出が、頭の中で何度も見せられ続けました。眼を塞ぐことも出来ず、耳を抑えることも出来なかった。
怒りと憎しみだけが、俺の中で沸き上がってきた。それだけが、俺の考え全てを塗り潰したんです」
「…………」
黙って千冬は話を聞いていた。嘘か本当か、信用するべきか否か吟味しているのかもしれない。
そんな龍夜に助け船を出したのは、やはり一夏達だった。
「そう言えば!ちふ、織斑先生………龍夜のISだけど、形が変わってたんだ。ラウラと戦ってる間に」
「………本当か?デュノア」
「はい、そうです。今覚えば確かに可笑しかったです。そして、変化に気付いた時には、龍夜が正気を失ったのようにボーデヴィッヒさんを攻撃して………」
「それと、剣の方も可笑しかったんです。あの剣の丸い、宝玉が龍夜の鎧の変化したのと同じ色で光ってて………」
「…………分かった。よく情報提供をしてくれた。この件はお前達だけの秘密にしておけ。周りに明かすにはまだ謎が多い」
千冬はそれだけの話を聞き終えると、医務室から立ち去ろうとする彼女を見届け、龍夜は自身の手を見下ろした。
自分に起きている、いやISに起きた変化。それが理解できない事に、何故か安堵している自分がいた。どうしようもない不安に、心が揺らいでいるという事実が、重く響いた。
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