IS 蒼き宙の向こうへ   作:虚無の魔術師

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今回の話はいつもより短めです。区切りがいいところですので。


第17話 因縁協定のトーナメント

六月の下旬。十分に暑くなってきたこの頃、IS学園は週の最初から学年別のトーナメント一色の空気に染まっていた。

 

その勢いは凄まじいものであり、今現在第一回戦が始まる直前になるまでにも、全生徒が雑務や会場の整理、受付や来賓の誘導などの仕事に明け暮れていた。

 

 

 

「しっかし、すごいなこりゃ………」

 

 

そう口にした一夏は、更衣室のモニターから観客席の様子を見ていた。詳しくは分からないが、各国の政府関係者、研究員らしき人々、企業のエージェント、等大勢の顔ぶれが一同に介していた。

 

それ程までに大規模なイベントだからか、警備も厳重である。重装備の兵士達が武装を整え、席にいる人々を保護するように歩き回っている。この場からは見えないが、陸奥や長門の二人も何処かで警護をしているのだろう。

 

 

「三年にはスカウト、二年には一年間の成果の確認。一年生は今のところ関係ないみたいだけど、それでもトーナメント上位者────一夏や龍夜の二人も、チェックが入ると思うよ」

 

「ふーん、ご苦労なことだ」

 

 

事情をキチンと把握しているシャルルの解説に、一夏は上の空という感じだった。ジッとモニターに視線を向ける彼に、シャルルはくすっと笑う。

 

 

一夏がそこまで興味を示さない理由、それに既に気付いていたからだ。

 

 

「一夏は、ボーデヴィッヒさんとの対戦だけが気になるみたいだね」

 

「まあ、な」

 

 

数日前のラウラの所業。セシリアと鈴を痛めつけたそのやり方は、一夏もくしは龍夜を戦う気にさせる為の事だと、後々に龍夜の考察から聞いた。暴走した龍夜に打ちのめされたとはいえ、反省すらしてないような彼女に、一夏は憤りを隠せなかった。

 

彼女が自分を狙うのはまだいい。そのために、自分以外の人間にまで手を出す事は、一夏も許せない。彼女がそこまでする原因が自分であるのならば、止める理由が此方にもある。

 

 

「感情的にならないでね。彼女はおそらく、一年の中での最強だと思うから。気を引き締めるのはいいけど、限度があるからね」

 

「………いいや、ラウラだけじゃない」

 

「えっ?」

 

「───龍夜が、相手になるかもしれないからな」

 

 

一夏にとって、龍夜は友人(自分が思ってる)であり、何より強敵であった。ISでの戦闘で彼に打ち勝った事は一度もない。善戦できていたのは最初に戦った時だけだが、あの時は一夏のISの能力に警戒していたに過ぎない。

 

 

彼の厄介な所は、圧倒的な戦闘センスと高速回転する頭脳にある。どんな不意打ちだろうと戦術に対しても一瞬で対応し、その数秒の間に突破口となる戦術を脳内で組み上げる。

 

 

因縁のあるラウラ以上の今回のトーナメントの強敵と言うべき存在。いずれ彼と相手になる可能性に、一抹の不安を覚えていた。

 

 

「───でも、負けるつもりはないんでしょ?」

 

「あぁ、そうだな」

 

 

笑顔に笑顔で返す二人。相手がどれだけ強かろうと負けを前提で戦うような事はあれど、負けを受け入れるつもりはない。やるならば勝つ。それだけの意気を込めて戦うだけだ。

 

 

ISスーツの着替えを終え、二人はモニターに視線を送る。本来であれば一対一の面子が公開されるのだが、今回のトーナメントは仕様が変わっているので、モニターの変更が未だ機能していないらしい。

 

 

今回のトーナメントは、タッグバトル制。

一夏とシャルルのペアの配置はAブロック一回戦、その一組目。つまり最初の試合になる。問題はその相手だが、

 

 

モニターにトーナメント表が展開される。二人は食い入るようにモニターを見つめると、Aブロックに自分達の名前の組分けを見つけた。

 

 

 

 

 

「「────え?」」

 

 

その隣の文字の羅列を見て、ぽかんとして声を漏らす二人。互いに自身の目を擦り、再び画面に意識を向ける。そこにある文字は、

 

 

 

 

 

【ラウラ・ボーデヴィッヒ&蒼青龍夜】

 

 

 

やはり、変わっていなかった。二人はもう一度、互いの顔を見合う。

 

 

 

「…………嘘だろ?」

 

「……………だよね?」

 

 

敗北を予感させるような感覚に、二人はひきつった笑みを浮かべるしかなかった。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

「────これは、面白い」

 

 

反対側の更衣室。グレーのISスーツを纏ったラウラはモニターに提示された組み合わせを見ると、戦意に満ちた笑みを浮かべる。

 

 

「……………」

 

一方で、龍夜は相変わらず無言であった。ラウラと話す必要もないという雰囲気ではないが、今の彼は近寄りがたい空気を醸し出しながら沈黙を続けている。

 

 

 

この二人がペアを組んだのは、少し前の出来事だった。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

ラウラとの騒動から数日、学年別トーナメントの前日。

廊下を一人で歩く龍夜の気分は相変わらず優れなかった。不機嫌、という訳ではないが、少し周りに注意を向けすぎている感じはする。

 

 

 

 

それもその筈。

 

 

「───蒼青くーーーん!何処にいるのーー!?」

 

「ッ!!」

 

 

慌てて振り返る龍夜。近くから響いてきた女子の声と、同じように幾つかの足音に彼は舌打ちを隠さなかった。逃げようとするが、前の方からも足音が複数聞こえてくる。

 

ここまで龍夜を女子が追い回す理由、それはラウラとの事件から後日に明かされた緊急通告にあった。

 

 

『学年別トーナメントのタッグ制』、本来ならば一人で参加できた今回の催しが二人組という事になったのだ。それ故に男である龍夜と組みたがる女子が彼にペアを組もうと朝から迫ってきているのだ。

 

 

何故龍夜だけが狙われているのか、一夏やシャルル(まだ表向きには男)もいるではないかと思ったが、すぐに分かった。二人でペアを組んだらしい。男同士なら女子もそこまで不満はないだろうという事と、シャルルが女子だという事実がバレる可能性を封じるために。

 

因みにその話を聞かされ、一人省かれた龍夜は「俺は?」と聞くしかなかった。二人は申し訳なさそうに顔を反らしていた。納得は出来るが、龍夜もどうするべきか分からないのが本心だ。

 

 

 

自分の部屋の前に何人かいた時はビックリした。何とか彼女達から逃れるために(ネタにされるので嫌だったが)ゲームで学んだキザな振る舞い(口にしたくない)で女子達を興奮させてその隙に待避することに成功した。

 

 

尚、ラミリアからはそれをネタにずっと馬鹿にされている。もう二度としないと宣言したのだが、今回ばかりはそれを使うしかないのかと絶望しかけていた。

 

 

 

しかし、助けの手は意外な所から差し出された。

 

 

 

彼が背を預けた教室の扉が、ピシャリと開いたのだ。慌てて離れようとしたが、そんな彼の手を暗闇から掴む細い手があった。声を挙げる事もなく、勢いに任せて龍夜は教室に引きずり込まれた。

 

 

すぐさま扉が閉められたことで、囲んで追い込もうとしていた女子達は、龍夜が無人の教室に入った事には気付かなかった。彼女達は彼の姿がないのを確認すると、周囲へと探しに向かったらしい。

 

 

床に背中を打ちつけられ、擦りながら起き上がる龍夜。暗い教室だが、そこまで真っ暗という訳ではなく、教室全体の構造を把握できる。

 

 

何より、自分を助けてくれた相手の姿を確認できた。その人物が助けたという事実自体が驚きではあったが。

 

 

「───」

 

「…………お前か、ラウラ・ボーデヴィッヒ」

 

 

腰まで届く長さの銀髪に右目を覆う黒い眼帯。全体的に薄暗い印象だが、暗闇に溶け込める程のものではないだけではなく、白い制服もあり、暗さからはある程度浮いている。

 

 

「………意外だな、お前が俺を助けるなんて。どんな風の吹き回しだ?」

 

「別に。貴様に用事があったから連れ出したに過ぎん。教官から面倒事を起こすなと言われたのでな」

 

「なるほどな………ならお前の用事ってのは、手荒な真似じゃないと判断していいな?」

 

 

当然だ、と平然に答えるラウラに、龍夜は警戒を1ミリも緩めなかった。彼女に対して評価は悪い、友好的に思える要素など一つもない。

 

一度助けられたといえ、その評価が変わることはない。だが、それが彼女の話を聞かないという理由にはならないため、話だけは聞くことにする。

 

 

 

 

「────蒼青龍夜。今回のトーナメント、私とペアを組め」

 

「………はぁ?」

 

 

その話に思わず耳を疑う。一瞬、自分の身体の器官が不調でも起こしたかと思ったが、やはり正常だった。だがそれでめ信じるのが難しい。あんなに傲慢な奴が、自分とタッグを組むと言い出すとは思わなかったのだ。

 

 

「認めるつもりはないが、お前は強い。お前相手に勝つ確率は半分以下だ。他の雑魚に足を引っ張られて負ける可能性もある。

 

 

 

 

ならば、この学年でもトップクラスの実力を有するお前とタッグを組む方がいい。今回だけはな」

 

 

そう言えば、と思い出す。

ラウラの目的らしいものは、一夏を倒すことである。織斑千冬の足を引っ張り、彼女の名誉ある戦績に汚点を残した一夏を叩き潰す為にも、今回のトーナメントの参加は必須になる。

 

 

しかし、彼女からすれば龍夜は強敵だ。一対一ならともかく、二対二という状況はラウラにとって苦戦を強いられるものである。弱い味方と組んで、足を引っ張られるのは彼女も避けたい。本来ならば龍夜も倒したい敵であるが、一夏に比べれば優先度は僅かにも低い。

 

心底不愉快だろうが、それがラウラの選択なのだろう。

 

 

だが、龍夜が納得する理由にはならない。

 

 

「………俺を倒すと宣言したのを忘れたか?負けるのが怖くて俺を味方に引き込むとは、恐れ入った」

 

「勘違いするな。このトーナメントで優勝さえすれば、後で貴様との決着をつければいい。それだけの話だ」

 

「なら尚更、他に当たれ。お前と組むくらいなら彼女達の誰かと組んだ方がマシだ。そもそも、俺が首を縦に振るとでも思ってたのか。お前は」

 

 

苛立ちを押し殺せずに、捲し立てる彼は、自分の本心に気付けているのだろうか。気付いていたとしても、納得するどうか。

 

少なくとも、ラウラの誘いには、ラウラにしかメリットがない。それなのに、因縁のある───セシリアや鈴を痛めつけた奴に、無条件で誘いを受け入れるほど、龍夜も人情がある訳ではない。

 

 

なのに、だ。

ラウラは不機嫌にすらなっていない。明らかに拒絶の意思を示す龍夜に当然だとでもいうような顔で、言葉を紡ぐ。

 

 

「いいや、お前は私の誘いに乗るだろう」

 

「………何だと」

 

「お前にはこのトーナメントに勝つ理由がある。いや、勝たねばならんはずだ。だからこそ、私の誘いを断る事など有り得ん」

 

「ハッ、何を馬鹿な」

 

「────優勝したら、何があるか貴様は知っているか」

 

 

唐突な言葉に、龍夜は怪訝そうに顔をしかめる。トーナメントに優勝した際に何があるか、等知らない。そもそもそんなものはない筈だ。

 

 

だが、引っ掛かるところはある。トーナメントの話が広まってから女子達が妙にやる気に満ちていたのだ。その際に優勝したら何とか………とか話していた。理由を聞こうにも、慌てて誤魔化したりするので龍夜も忘れかけていたのだが。

 

 

(まさか………そんな訳ないよな?)

 

 

嫌な予感に冷や汗が滲む。不安を感じ取りながらも可能性を否定する龍夜。単なる可能性を信じ、神頼み(期待してない)をしていたが、

 

 

「『学年別トーナメントで優秀した者は、織斑一夏か蒼青龍夜と付き合うことが出来る』」

 

 

(───やっぱりか!クソッタレ!)

 

 

世界は無情だ、神はいない。(そもそも信じてない)

やはり神なんてものは信じる価値などない。どうせなら神殺しにでも襲われて死ね、とでも言いたい気分だ。(もう一度言うが、こいつは神様を信じてない)

 

 

頭が痛くなるような話だが、この話について詳しく聞くしかない。

 

 

 

「待て、何だそのふざけた話………俺は一度も承諾した覚えはないぞ?」

 

「さぁな、私も知らん」

 

ぶっきらぼうな言い分は嘘ではなかった。どうやら本気で知らないのだろう、彼女は。

 

 

「貴様が優勝すればこの件も無効だろう。無論、貴様に優勝する気があればの話だが。………私は織斑一夏と戦えればいい。どうだ?悪くない話のはずだ」

 

 

数秒間、暗い教室に沈黙が続く。思案するように目を伏せた龍夜、ラウラを見据える。

 

 

 

答えは、もう出ていた。

 

 

「───優勝したら、決着はつけさせて貰うぞ」

 

「此方の台詞だ」

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

そして、今に戻るというわけだ。

 

 

ペアを組んでからも、龍夜とラウラの関係は険悪である。ある程度は鳴りを潜めた形とはいえ、連携など取れる立ち位置ではない。

 

それに、ラウラは自分勝手な意見が多かった。一夏のペアは自分が一人で相手すると言うのだ。それ以外の試合は任せる、と。

 

呆れて物が言えなかった。やはり、ラウラは一夏を格下と見ている節がある。全力で潰すと明言しているが、間違いなく油断するだろう。オマケに、ペアのシャルルの事すら気にしていない。

 

二人とも仲は良い。実際に見てきた訳ではないが、連携は上手くいくように特訓を重ねているはずだ。ラウラにそう言っても聞かないのは分かっている。この際、痛い目を見ればいいと、お望み通り傍観に徹することにした。

 

 

余裕というか、やる気に満ちたラウラが控え室からピットに向かって歩いていく。

 

 

 

「───待て」

 

 

そんな彼女を、龍夜の一声が止めた。ベンチに腰掛ける龍夜に振り返ったラウラは相変わらず冷たい、いや戦意を隠しきれていない。

 

 

「何だ?今更怖じ気付いたか?」

 

「なわけあるか………まだ調整に時間がある。その前に、少しだけ聞きたいことがある」

 

「………良いだろう。話せ」

 

 

 

「────一夏にそこまで敵意を抱くのは、何故だ?」

 

 

その話を切り出すと、ラウラは憎悪を剥き出しにする。煮え滾るような殺意を瞳に宿しながら、呪詛を込めるような言葉を口にしていく。

 

 

「決まっている。奴が教官の経歴に傷を残したからだ」

 

「───『モンド・グロッソ』の事件か」

 

「そうだ。あの人に汚点を残した、その事実は許されない。教官の汚点となるものを、私は何一つ認めない。だからこそ、織斑一夏を排除するだけだ」

 

「………なるほど、それがお前の言い分か」

 

 

聞き終えて、溜め息を吐き出す。呆れ果てたという彼の様子にラウラは目に見えて苛立ちを覚えたらしい。その意味を聞こうと口を開く前に、龍夜が言葉を放つ。

 

 

「────傲慢だな」

 

「………何?」

 

「自分の発言の意味を理解して、言っているのか。お前は」

 

「くだらん。貴様は何が言いた────」

 

「お前の発言は、『織斑千冬の行動は間違いであった』と言おうとしている事になる。自らが敬愛する織斑千冬を選択を、間違っていたという事になるんだが………それを理解してて言っているのかと、聞いている」

 

 

実際、その通りだろう。

織斑千冬が優勝を取り逃したのは、彼女自身の選択だ。誘拐された一夏を助けるために、自分から名声を投げ捨てたのだ。最愛の家族を救う、それだけの理由であり、それ以上にない重要な理由で。

 

 

ラウラは、一夏のせいで千冬の経歴に汚点を残ったというが、彼女本人はそれを気にしていない。むしろ、自分の家族を助けるための選択など、後悔するはずがない。それが、家族を愛する者なのだから。

 

彼女が一夏に対し恨みを覚え、過去の汚点と決めつける事は、逆に千冬への侮辱になる。彼女の決断と意思を、踏みにじる事になるというのを、理解していていなかったのだろう。

 

 

 

「それにだ。前々から気になっていたんだが………お前は織斑千冬に憧れて、どうしたいんだ? いや、どうなりたいんだ?」

 

「………教官のようになる、それだけだ」

 

「具体的には、どんな風に?」

 

 

息が詰まったらしく、言葉が出ないラウラ。やはりな、と龍夜は何処か納得していた。何故そこまで織斑千冬に盲信するのか。

 

 

────『自分』を、持っていないからだ。

 

 

「お前は『織斑千冬』より強くなりたいのか?それとも『織斑千冬』になりたいのか?」

 

「………何が言いたい」

 

「俺にはお前が、現実を見てないように思えた。『自分』に意味が持てないから。憧れであるあの人に盲信することで、逃げているんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

『未来の自分』、お前自身から────」

 

 

言葉は最後まで続かなかった。突然伸ばされたラウラの手が、龍夜の首を掴み、そのまま近くの壁に背中ごと打ちつけられたからだ。

 

 

「………口が過ぎるようだな……っ!蒼青龍夜っ!」

 

「…………」

 

 

口調は激しい怒気に染まっている。図星を突かれた故の激昂なのだろう。今にも締め上げような勢いのまま、ラウラはとにかく否定したいとでもいうように怒鳴った。

 

 

「さっきから貴様は何が言いたい!?生意気にも説教か!?笑わせるな! 『自分』に意味が持てないだと!? 関係ない! 私の事など、どうでもいい!私にはあの人が、あの人だけが私の居場所だ!!貴様などに、理解できるはずがない!!」

 

 

 

 

「…………あぁ、分からないな。他人の心なんて、特にな」

 

 

溶け込むような、呟きを漏らす。聞いていたラウラも思わず、力を緩める。龍夜の首から手を離すと、息を吐いた。どうやら今のことで落ち着きを取り戻したらしい。

 

 

「────先に行っている。貴様もとっとと来い」

 

 

それだけ言うと、ラウラは早足で控え室から出ていく。ピットの前まで向かった彼女の背中を追う事もせず、龍夜はその場に立ち尽くしていた。

 

 

先程口にした言葉。その続きを、噛み締めるように呟いた。

 

 

「理解など、したくない」

 

 

 

それから数秒の沈黙を経て、深呼吸と共にある程度の体面を整えた龍夜は動く。ベンチに立て掛けてあったケースを消失させ、自らのISである『プラチナ・キャリバー』、待機状態である鞘に納められた剣の柄を掴む。

 

 

いつも通り腕に固定させようとして、ピタリと動きを止める。彼の顔に、躊躇いが浮かぶ。思い悩むように硬直した龍夜は、静かに両方の腕を下ろした。

 

 

ISを纏うことなく、彼もピットの方へと歩いていった。

 

 

 

◇◆◇

 

 

アリーナへと降り立つ、二つのIS。白とオレンジの機体を纏う一夏とシャルル。二人の目の前に立つのは、黒い機体を纏ったラウラと、蒼銀の剣を地面に突き立ててラウラの後ろに立つ龍夜。

 

 

双方の様子を確認し、観客席が大いに盛り上がる。一学年でも有名な者が集まったタッグバトルに、多くの観客が興味と感心を隠せぬ様子を見せている。

 

 

 

「一回戦で私に当たるとは………待つ手間が省けた」

 

「そりゃあ何よりだ。こっちも同じ気持ちだぜ」

 

 

正面に立つラウラに、同じように不適に笑う一夏がそう返す。ピリピリと肌に刺してくるような敵意に、勝利を信ずるような揺るぎない戦意が、ぶつかり合う。

 

 

そんな睨み合いは、視線を反らした一夏の疑問により打ち切られる。

 

 

「………何でISを纏わないんだよ、龍夜」

 

「…………」

 

両腕を組んで静観の姿勢を取る龍夜。ISすら纏う様子のない彼に、一夏がそう聞く。彼の言葉には純粋な疑問と、彼の態度に対する不満が滲んでいた。

 

 

そんな一夏に対し、龍夜は達観したように肩を竦める。

 

 

「ラウラが一人でやらせろ、と我が儘を言うからな。悪いが二人で相手をしてやれ」

 

「そういうことだ。貴様らのような雑魚なぞ、私一人で十分だ」

 

「………どうだか」

 

 

自信満々なラウラに呆れるような龍夜の独り言。聞こえていたラウラが鋭い目つきで睨み、龍夜は……はぁと面倒そうに両手を軽く振るう。集中しろ、となげやりな言い分に彼女は不服そうだが従っていた。

 

 

同時に、一夏もシャルルもやる気を見せていた。狙いはただ一人、ラウラのみ。互いに目配りをする二人の姿に、ラウラの敗北の可能性が脳裏に浮かんだ。

 

 

 

その直後、試合開始を示すブザーが、鳴り響く。

 

 

 

 

一瞬にて、龍夜以外の全員が動き出した。




龍夜とラウラのコンビは強いは強いけど、相性が壊滅的に悪い。けど連携ができない訳ではない。全面的に龍夜が、連携のために動く事になりますけど()


次回は普通に戦闘回になります。お気に入りや感想、評価など是非ともよろしくお願いします!

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