IS 蒼き宙の向こうへ   作:虚無の魔術師

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原作でもよく言われていた所ですが、自分なりに変えてみました。よろしくお願いします。


第19話 偽物の戦乙女

「あ、ああああああああああッ!!!」

 

 

突如、ラウラの口から身を裂かんばかりの絶叫が響く。連動するように、解除されようとしていたシュヴァルツェア・レーゲンから激しい電撃が発せられ、一夏とシャルルの体が吹き飛ばされた。

 

 

 

「一夏!シャルル!───っ!」

 

 

二人の名を叫んだ龍夜も、足を止める。目の前で起きていた光景に、意識の全てが集中していた。

 

 

ラウラのIS、黒い機体が崩れ落ちる。バラバラに分解されていくのではなく、一瞬でその形がぐにゃりと歪む。黒い装甲の全てが液体金属のように溶け、足元に沈む。

 

 

それだけに終わらず、彼女へと集まった粘着質な黒い液体が、全身を包み込もうとしている。ラウラ本人も抵抗する意思が見られず、不気味な闇に呑まれていくのは一瞬であった。

 

 

「何だ………アレは───」

 

 

空へと浮かんでいく黒い液体の塊。心臓の鼓動のように脈動するそれの異変に、龍夜は言葉を失う。一夏達も、観客席にいる全員もそうだったはずだ。

 

 

だが、いち早く龍夜はその異変の正体に気付く。

 

 

(変化している……?シュヴァルツェア・レーゲンを別の機体へと上書きしているのか!?)

 

 

地面に降りた黒い塊に、不気味な文字列が浮かぶ。『Flame making』『Trace complete』『System Control Over』、と提示された英単語の羅列はノイズが走ったのように消えていき、それから黒い闇が大きく破裂する。

 

 

ほぼ裸のラウラだが、彼女の存在を覆い隠すように闇が殺到する。液体が再び固まり、装甲を形成していく。一瞬で変化したその姿に、見覚えがあった。

 

 

騎士のような姿をした黒い全身装甲(フルスキン)。そして彼女の持つあの刀型のブレードは────

 

 

 

「………《雪片(ゆきひら)》」

 

 

現在は一夏が使用し、そして今は引退した千冬が現役の際に使用していたとされる武装。

 

 

何故、そんなものを持っているのかは分からない。ただ一つ、理解できるのは─────ラウラ本人の自我はないということだけ。

 

 

そして、黒いISが動いた。狙いはただ一人、《雪片弐型》を構えながら睨みつけている一夏であった。

 

 

駆け出し、懐へと飛び込む黒いIS。左手を添えた刀を引いて構え、腰を深く落とす姿勢。居合いから放たれるのは、一閃。その動きを見た一夏は信じられないような顔をして、僅かに意識が揺らぐ。

 

 

「ぐうっ!?」

 

 

それにより、構えていた《雪片弐型》が勢いよく弾かれる。遠くへと飛んでいく刀を呼び戻すことも出来ず、追撃を返そうとしてくる黒いISの攻撃を避ける一夏。

 

 

かろうじて避けられた一夏だが、その体から白式が消失する。先の戦闘でエネルギーを消耗しすぎたのだ。光となって霧散するISの粒子の中で、一夏は口を閉ざす。

 

 

 

 

 

 

 

「………が、どうした」

 

 

否、噛み締めていた。

 

 

「それがどうしたああぁぁっ!!」

 

 

生身のまま、一夏は駆け出した。その顔は激情に染まり、その声には強い怒りが滲んでいた。引き裂けん程に拳を握り締め、振り上げた一夏に黒いISは反応しない。驚異ではないと判断しているのか。

 

 

だが一瞬。フルフェイスのラインアイ・センサーが点滅する。ギギギ、と機械的な動きをしながら片腕が動く。乱雑な動作で刀を掴んだ手が振り上げられた。

 

まるで意思を乗っ取られたかのように、一夏に刀を叩き下ろそうとしていた。

 

 

 

 

しかし、直後。

 

 

 

 

金属と金属が、衝突する音が鳴り響く。

黒いISに殴りかかろうとしていた一夏の足は止まり、その場に立ち尽くす。凄まじい速度で間に入ってきた存在により、仰け反ってしまったのだ。

 

 

そして、黒いISの一刀を受け止めた存在こそが。一瞬で加速してきた《プラチナ・キャリバー》『アクセル・バースト』フォームを纏う、龍夜であった。

 

 

 

「何を───考えてんだ!お前はッ!」

 

 

後ろにいる一夏に声を荒らげる龍夜だが、余裕なんてものはない。目の前の存在は刀を構え、容赦なく斬り上げてくる。何とか右手の光剣で受け止めたが、次いでもう一太刀放たれようとしていた。

 

 

「ッ!」

 

 

だがそれより先に、龍夜が左手を振るう。胴体で隠すように持っていたものを、攻撃しようとしている黒いISの眼前へと投げつけた。投擲物の存在に気付いたそれは攻撃のための一刀で飛来してきたものを両断する。

 

 

二つに切り分けられた───弾の切れていたショットガンを盾にするように、龍夜は加速する。背中の鞘に装填した剣の柄のトリガーをガチリと握る。

 

 

 

エネルギーが、一気に刀身へと収束していく。

 

 

 

 

【OVER ENERGIE DISCHARGE!】

 

 

「────“ソードエッジ・ストライク”ッ!!」

 

 

鞘から抜き放ち、三日月のように弧を描く斬撃を放つ。エネルギーを帯びた斬撃は黒いISに着弾し、そのままアリーナの壁に激突させる。

 

 

思わず、舌打ちが漏れる。

仕留められなかった。ハイパーセンサーが砂煙の向こうにいる黒いISが無傷であることを証明していた。さっきの不意打ちすら刀で受け止めたのだろう。あそこまで反応できるのは流石に予想外だ。

 

 

背中の鞘を、剣ごと分離させる。固定具が外れる音が響き、銀色の装甲が光の粒子へと変わる。生身に戻った龍夜は解除された『プラチナ・キャリバー』を片手に─────動く。

 

 

 

 

 

 

今にも飛び出しそうな一夏の手首を掴み、地面に押さえつけた。

 

 

「…………何を考えてる」

 

「───離せ!クソッ!許さねぇ!ふざけやがって! ぶっ飛ばしてやる!!」

 

 

凍て刺すような冷えきった怒気を伴う声に、一夏は気にしてない。目の前が見えていないのか、黒いISへ激しい敵意を向けている。道理で素手で殴りかかるわけか。

 

 

だが、話が通じない苛立ちが沸き上がってくる。感情的に突っ込もうとする一夏は自分の話を素直に聞くつもりはないかもしれないし、聞いたとしても聞き入れる保証はない。

 

 

このまま絞め落として、気絶させるか。そう考えた龍夜の手が僅かに動いたのは、次の言葉を聞いてからだった。

 

 

 

「あれは千冬姉の!あの人だけの技なんだ!アイツが、あの姿で、あの武器を、あの技を使っていい筈がない!!」

 

 

ようやく、納得できた。

何故一夏があそこまであの黒いISへの怒りを覚えたのか、周りが見えなくなる程に感情的になっているのか。

 

 

アレが使っているのは、織斑千冬の技なのだろう。アレが使う刀は、織斑千冬の武器を模倣しているのだろう。複写(トレース)、とはよく言ったものだ。憧れでもある最愛の家族である姉を、あんな形で模倣されたからこそ、一夏はここまで激昂している。

 

 

理解したからこそ、龍夜は腕の力を緩める。手首を押さえる指は離し、そのまま飛び上がろうとする一夏の胸ぐらを持ち上げ、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────握った拳で、頬を殴り飛ばした。

 

 

「っ!何すんだ!」

 

「───いい加減にしろよ、お前」

 

 

殴られたことで、彼の怒りが黒いISから龍夜へと向く。抗議の眼差しを向ける一夏に、目を細めた龍夜は低い声で呟く。胸ぐらを掴み上げたまま、続けるように口を開く。

 

 

「織斑千冬を模倣したあれが許せないか?織斑千冬の技を模倣するあれが許せないか?………生憎、お前の怒りがどれほどのものかは理解できない。俺が思う以上の理由があるんだろうが関係ない─────今この場で、戦う理由を履き違えるな」

 

 

自分が思う以上に熱くなっているらしい。口を開く度に言葉に強い熱が籠っていく。

 

 

「最優先に考えるべきは!ラウラを救うことだ!アレがアイツの望むものではないことは確かだ!本人の意思も自我もない!あのISに縛られたアイツを止めることが最も重要だ!…………それと、一つだけ言わせろ」

 

 

しまいには、《プラチナ・キャリバー》を持っていた手を離し、同じように胸ぐらへと手が伸びる。両手で一夏の胸元を掴んだ龍夜は、感情的に強い声を張り上げていた。

 

 

 

 

「───自分の命を軽く見るなッ!お前を想う奴等がいることを理解して行動しろ!この馬鹿ッ!!」

 

 

それだけ言うと、一夏は黙って聞いていた。抵抗なんかせずに、瞳に滲んでいた怒気は鳴りを潜めている。胸元から両手を離すと、膝をついた一夏は頭をかく。ボサボサ、と髪を乱雑にかきむしった後に、申し訳なさそうに頭を下げてきた。

 

 

 

「…………悪い、龍夜。冷静じゃなかった」

 

「謝るな。俺もお前を殴ったんだ。お互い様だ」

 

「………二人とも、もう大丈夫?」

 

「あぁ、恥ずかしいところ見せたな。シャルル」

 

「────それよりもだ、一夏。聞きたいことがある」

 

 

ひっそりと、近くに来ていたシャルルと一夏を睥睨し、龍夜が《プラチナ・キャリバー》の剣先を向こうにいる黒いISへと向ける。奴自身、武器を向けられているにも関わらず、此方に反応すらしない。ある程度距離が空いているからか。

 

 

奴から攻めてこないなら丁度いい、と思った龍夜が一夏に聞いた。

 

 

 

「アレについて話せ。織斑千冬の技がどうとか言ってたな。つまり奴はそれをコピーしてると言いたいのか」

 

 

相手を待っているのか、攻撃する相手に反応するのか、直立している黒いISを睨み、一夏は苦々しい顔で言う。

 

 

「あぁ、何度か見てるから間違いない。アレは千冬姉の技や動きだ。多分、モンド・グロッソの時だと思う………あいつ、当時の千冬姉の技や動きを再現してるんだ」

 

「織斑先生の………全盛期を!?」

 

「───いや、それはない」

 

 

驚愕するシャルルの呟きを否定する。確かにあれの強さは普通ではない。かつての織斑千冬の戦闘パターンをトレースしているのであれば、今までの相手とはレベルが違うだろう。

 

だが唯一、致命的な部分が奴には存在しない。織斑千冬を最強足らしめる要素の一つ────

 

 

 

 

「織斑千冬の意思が、心がない。単なるコピーだ」

 

「………龍夜の言う通りだ。あんなの、千冬姉の足元にも及ばねぇ」

 

 

『プラチナ・キャリバー』を握り直し、一歩前に出る。振り返り、一夏とシャルルに告げる。

 

 

「奴は俺が倒す。お前達は下がっていろ………それで構わないな?」

 

「分かってる。あんな風に説教されて、我が儘言える程自分勝手じゃねぇさ」

 

 

さっきの事が身に染みているのかアッサリと引いた一夏、シャルルも二人の顔を見て静かに頷く。立ち上がり、その場から離れていこうとその時、一夏が声をかけた。

 

 

「龍夜」

 

 

「何だ?」

 

 

「───勝てよ」

 

 

「誰に物を言ってる」

 

 

軽口を交わしてから、すぐに前を見る。避難する二人を見届けることはしなかった。やるべき事を、果たすべき事を、実行するために。前へと歩みを進め、黒いISとの距離を詰める。

 

 

 

 

「────待たせたな」

 

 

足を止め、黒いISに向き直る。それは龍夜が持つ武器に警戒しているのか、刀を前へと突き出し、姿勢を整える。持ち上げた剣の柄を握る手に力が入る。今まで迷っていたが故に、この剣が何のためにあるのか、信じていいのか疑っていた龍夜だが、今は違った。

 

 

 

「─────《プラチナ・キャリバー》、俺はお前を信じる」

 

 

「お前が何であろうと、俺が、俺達がするべき事は変わらない。俺はお前と共に最強に至る」

 

 

 

「奴はその前座だ。あの黒いISを潰して、ラウラを助ける。それが俺達の今回の目標だ。やれるだろ?」

 

 

口にしていると、剣の宝玉の光が強まる気がした。己の言葉に呼応しているかのように、反射した光がキラキラと輝く。

 

 

自然と、不適な笑みが溢れる。目の前の敵を見据える時には、その様子を消し、本格的に戦意を伴う顔つきに変える。《プラチナ・キャリバー》を右腕に固定させ、告げた。

 

 

 

 

「─────キャリバー、装着」

 

 

形成された鎧が、全身を覆う。『ナイト・アーマー』フォーム。重装騎士のような見た目と、展開した装甲による形を変えた『銀光盾(プラチナ・シールド)』と、同じように装甲を取り付けた大剣を両手に、顔を隠すフルフェイスの奥底で、彼は一息つく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「決着、今つけるぞ。ラウラ」

 

 

背中のブースターで加速し、地面を滑るように突貫する。『銀光盾』を前に突きだし、初撃として打ち込まれた一刀を受け止める。刃と盾が接触し合い、火花を散らしていく中、龍夜は盾から手を離した。

 

 

ダンッ! と、盾の横から回り込むように、大剣による軽い一振を放つ。装甲の一部を削る攻撃に、無機質ながらも黒いISは振り返り様に振り上げた斬撃で迎え撃つ。

 

 

 

しかし、その一撃は鎧で受け止めた。右腕に取り付けられた手甲が刃を不覚まで食い込ませていたが、内側までは届いていない。刀を引き、次の動作に入る前に、龍夜は壁のように配置していた盾へ右手を伸ばす。

 

 

意思を持ったように、『銀光盾』がロケットのように空を翔る。再び右腕に固定された瞬間に、龍夜はそのまま盾を水平に構え────打ち付けるように、付き出した。

 

 

営利な盾の先が、黒いISに直撃する。目に見えてよろけたが、目立った損傷はない。理由は単純、一瞬で再生しているからだ。溶けた装甲が形を変え、元に戻るように。

 

 

(物理が、効かない!液体状に変化して修復している!やはりアレを破るには高火力による突破、だが中身のラウラが無事である保証はない!

 

 

 

 

 

 

ならば、まずは奴とラウラを分離させる!)

 

 

結論は付いたが、そう上手くいく話ではない。ISだけを無事解除させるなんて芸当が出来るのは一夏だけだ。アイツのISがまだ動かせたら問題は単純だったが、エネルギーのないアイツを出す訳にもいかず手詰まりに近い。

 

 

しかし、可能性はある。ラウラを無傷で、あの黒いISから引き剥がす手段が。

 

 

(その為にも────奴を弱らせる!対人に特化したその技で対処できない程の圧倒的な威力で)

 

 

決意するや否や、『銀光盾』に接続された鞘に剣を押し戻す。トリガーを押さえ、分離させた剣を背中に固定させる。

 

 

 

「キャリバー!装動!」

 

 

光となって消失した鎧の代わりと言うように、装甲がその身を包み込む。背中に展開された四枚の羽のような大型バインダーが特徴的な『アクセル・バースト』にフォームチェンジを終えた。

 

 

背中の鞘に剣を仕舞う龍夜は軽く持ち上げた剣を、再び鞘へ差し込む。光が宿る剣から手を離し、両腕を振り上げる。

 

 

【ENERGIE CHARGER!】

 

 

バチバチ! と全身に力が流れ込んでくる。何時のように剣にエネルギーを蓄積させるのではなく、全身に行き渡らせているのだ。剣を使わず、もう一つの武装を使用するために。

 

 

 

事前に確認していた詠唱式を、躊躇うことなく口にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────咲け!『アヴァロン・フェアリス』!」

 

 

背中の大型バインダーが、音を立てて分離する。四枚の羽が自我を持ったように龍夜の周囲を旋回する。複数の花弁であるかのように。

 

これこそが、《プラチナ・キャリバー》に搭載された特殊兵装の一つ、『アヴァロン・フェアリス』である。

 

 

 

「…………ふんッ」

 

 

両手を払った途端、攻撃の合図と判断したのか四枚のバインダーが動き出す。背中に回ったと思えば円の形を作り、激しく回転していく。

 

 

増幅されたエネルギーを収束させた四枚の羽が、そのまま解き放つ。回転を繰り返しながら放たれた閃光は、爆弾のように固体化されたエネルギーそのものであった。

 

 

鱗粉と言うべきか、降り注ぐ光の雨に、黒いISは対処らしき行動は取れなかった。そのまま爆撃を直で受け、激しい損傷を負うことになる。流石の再生力も追い付かないのか、装甲が弾き消されていく。

 

 

明らかに弱まった相手の動きを確認し、高速で接近する。弾幕に当てられ、反応が遅れた黒いISに目掛けて伸ばした手で、顔を覆い隠すバイザーに触れた。

 

 

「────ッ!」

 

 

指先で装甲を押さえ、飛びついた龍夜は腕に集まるエネルギーを増幅させる。指先から伝わっていくエネルギーは黒い機体に浸透していき、その動きを完全に停止させる。

 

 

力そのものを腕に内蔵されたナノマシン型のマニピュレーターで機体そのものにハッキングを掛ける。狙いはただ一つ、この機体にラウラとの接続を分離させること接続さえ絶てば機体の方からラウラを放出することになる。

 

 

深く、より深く、機体のシステム内部に力を送り込む。上手く行っていたその時、頭に何らかの情報が流れ込んできた。単なるデータではないものに困惑していたが、すぐに正体を理解する。

 

 

 

「ッ!?これは───ラウラの記憶、かっ!」

 

 

投影された記憶に半ば納得する。同時に、彼女の思いが、情報量の波となって押し寄せてくる。苦々しく顔を歪めたのは、情報が多い訳ではなく、彼女の心らしきものが見えてきたからだ。

 

 

織斑千冬への絶対的な憧れ。絶望的な状況下に陥っていた彼女はあの人に救われ、純粋な尊敬と憧憬を覚えていた。しかし、自分を保てぬ不安と外部からの作為により、それは心酔となった。自分自身に意味を持たせたいがために、矛盾に気付く心を無理矢理に押し殺して。

 

 

それが、ラウラ・ボーデヴィッヒという少女であった。彼女がどんな状況で生きてきたのか、どんな世界を見ていたのか、それを見た上で────

 

 

 

 

 

 

 

「────知ったことかッ!」

 

 

関係ないと、声を張り上げた。同情なんかしない。憐れみなんかしない。それよりも先にやるべきことがある。理想だけを見て、今も無意味な虚像に縛られている少女、虚像から引きずり出すのみ。

 

彼女が何を考え、彼女がどんな現実にうちひしがれるかなど興味などない。

 

 

 

救うと決めたのだ。助けると明言したのだ。そんな事すら守れなければ、自分は天才を名乗る資格などない。少女一人救えない自分に、世界を変える程の、最強になれるはずがない。

 

 

だから、自分勝手な傲慢を通す。ただ一人の少女を救い出すという、合理的ではなく、感情的な理由で。

 

 

 

 

「────これで!終わりだ!!」

 

 

 

バヂンッ!!

 

一際大きな電撃が、黒いISに走る。その瞬間、液体のように淀んだ機体の中から、銀髪の少女が姿を見せる。這い出た途端に崩れ落ちそうになる彼女を、もう片方の腕で支える。

 

 

 

頭部を押さえていた手を離し、両手でラウラを抱き抱える。意識が朦朧としている彼女を見て、小さく笑う。無事であることを確認し、安堵したように。

 

 

 

 

だが、その後ろで。

泥のように崩れていた黒いISのなれの果てが揺れ動いていた。形が不安定になっていく刀を振り上げ、最後の悪あがきとでも言うように、龍夜に一太刀与えようとする。

 

 

それに気付いていながら、龍夜は振り返らない。呆れたような、冷たい声音で告げる。

 

 

 

「言ったはずだ────終わりだ、と」

 

 

瞬間、黒いISのなれの果てが爆発音と共に弾け飛んだ。龍夜が接触した際にハッキングしながら流し込んだエネルギーが、過剰なまでに増幅していたのだ。機体自体が限界を迎える程の量まで倍増させたシールドエネルギーにより、黒いISは自滅のような形で幕を下ろした。

 

 

抱き抱えられたラウラは意識を失ったのか、静かに寝入っていた。そんな彼女の姿に何を思ったのか、ボソリと囁くように呟いた。

 

 

 

 

「…………決着は、次にするか」

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

気が付いた時、ラウラは何処かの家の中にいた。彼女自身、こんな家は見覚えがない。生まれが特殊であり軍人でもある彼女は普通の家など知らず、常に冷たい部屋で自主鍛練に明け暮れていた。だからこそ、この環境に不安を抱いてしまう。

 

 

周りの様子を確認しようと、辺りを見渡すラウラ。そして、その視線がピタリと止まる。

 

 

リビングらしき一室で、一人の少年が静かに本を読んでいた。分厚い本を黙々と読んでいる少年が視界に入ったその瞬間、ラウラは目を疑った。

 

 

 

「───蒼青、龍夜!?」

 

 

その子供と、青年の姿が綺麗に重なる。歳は離れているが、本人であるのは間違いない。子供ながら、似た風格を醸し出している。

 

 

だが、すぐさまおかしいと判断した。何故子供の姿をした龍夜がいるのか、という疑問も浮かぶが、目の前の少年が近寄りがたい圧を剥き出しにしているのも気になった。

 

最近行動を共にしていた龍夜もそんな雰囲気はあったが、ここまで露骨ではない。この少年のそれは、自分以外の全てを軽蔑し、唾棄するような純粋な嫌悪と侮蔑が込められている。下手すれば、学園転校時の自分以上かもしれない。

 

 

それ以上に。よく考えれば気付けたかもしれない。何故あの少年が自分に意識を向けてこないのか。思考が疑問を抱こうとしていた、その瞬間。

 

 

 

 

 

 

『───龍夜、今日も学校休んだのか?』

 

 

ラウラの後ろから声が響いた。不思議と気の抜けたような一声。だがラウラにとっては思考の全てを振り切る程の事であった。他人に後ろを取られた、すぐさま対処に動こうとした彼女だが、

 

 

 

 

 

振り返り際に、歩いてきた男が彼女の体を通り過ぎた。

 

「ッ!?」

 

 

そこでラウラは自分が実体を持たない思念体らしき状態だと実感した。戸惑う彼女を他所に、男は少年の前に向き合うように腰掛ける。少年は男の顔を見るなり、表情を緩和させた。

 

 

『………お父さん』

 

『おう、龍夜。早速だが今日はどんな本読んでるんだ?パパも読めるヤツか?』

 

『……………相対性理論の本』

 

『そう、たい────せい?』

 

 

気さくに声をかけてきた一方で、龍夜の読む本に目に見えて絶句した父親。しかしそれは息子がそんな難しい本を読んでることにではなく、そもそも単語の意味すら理解できてない絶望的な顔だった。

 

 

この父親、息子とは違い、学問が苦手らしい。相対性理論の仕組みを理解しようと必死に龍夜と一緒にページを読み漁っていたが、数秒後には脳がショートしたらしく硬直していた。

 

 

 

───何なんだ、と呆れ返るラウラ。そんな彼女の前で、世界が歪む。いや、切り替わったというべきか。

 

 

 

家の中は賑やかになっていた。龍夜と父親以外の人間が他にも何人か増えている。

 

会話や状況から把握した限り、何処か落ち着いた様子の母親、大和撫子と言うよりも何処か男勝りしたような長女、彼女と婚約関係にあるらしい無口ながら千冬を連想させる覇気を有する義兄、そしておっとりした穏やかな次女。家族構成はそれだけらしい。

 

 

彼等はテレビを見ながら、楽しく談話していたが、ニュースの内容に眉をひそめた父親が口を開いた。

 

 

 

『────にしても、世界は変わったなぁ』

 

『………そうですよね』

 

『八神博士の開発していた兵器から一転、時代はISか。戦争で役立ったからと言って、今度はISも兵器として運用するのか』

 

 

母親と長女が不服そうにニュースに映るISを見据えている。口には出さないが、義兄も同じであった。

 

 

だが、龍夜だけは違った。テレビに映るISのニュースに本格的に不機嫌になり、口の奥で歯を砕きかねない程に噛み締めている。

 

そんな彼に気付いたのか、父親は龍夜の頭に手を置いた。優しく撫でる父親はパチクリと目を開く龍夜に笑いかけた。安心させるような優しい声で。

 

 

『心配するな、龍夜。ISを軍事兵器として利用なんかさせない。確かにISは世界を救ったが、人を殺すためにあるものじゃない。これからも俺達が皆に話をつけてくるさ』

 

 

そんな父の隣で頷く母。二人を見た龍夜はコクリと首を縦に振った。

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、外国へと出張した二人は死亡した。突如として現れた漆黒のISに殺される映像と写真を見つけ出した龍夜は静かに凝視していた。その瞳は揺らぎ、煮え滾る灼熱の憎悪を映していた。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

「見つけたぞ、ラウラ」

 

 

転換した世界で、二人は対面していた。ラウラは知らなかった。今現在、龍夜が黒いISにハッキングを行い、ラウラの意識に接続していたこと。それが理由で二人の意識から互いの記憶が流れ合い、互いに実感したということに。

 

 

────アレが、お前の家族か

 

「………見たのか」

 

────悪かったな

 

「俺もお前の記憶を見た、責めるつもりはない」

 

 

自然と敵意を覚えない。どこ悟ったような口調で、ラウラは呟く。

 

 

────お前は、どうしてそんなにも強い?

 

「………何だ、いきなり」

 

────何故そこまで強くあろうとするんだ?

 

 

 

「────決まっている。復讐の為だ」

 

 

断言した。躊躇うことなく、迷うことのない言葉。1ミリも口ごもることなく、彼は即答してみせた。

 

 

「両親を殺した漆黒のIS、それに乗る敵。奴を殺してようやく、俺の復讐は果たされる。その為なら俺は誰よりも強くなる」

 

───────、

 

「…………だが、理由はもう一つある」

 

 

────それは、何だ?

 

 

「この世界を変える。誰かが笑えないことばかり多いこの世界を、俺がこの手で変える。その為に強くなる、誰よりも。織斑千冬よりも。

 

 

 

 

 

それが両親との約束だ、世界をより良い方に変えようとして、出来なかった両親の夢を叶えることが」

 

 

そんな風に話す龍夜は自然な笑みを浮かべていた。それは前に千冬が見せたものと同じであった。

 

 

────なら、どうしたらお前のように強くなれる?

 

 

「知るか。理由くらい、自分で考えろ。他人に与えられた理由じゃなくて、お前が望んだ理由をな」

 

 

────私が、望む?

 

 

「まぁ、それくらい好きにしろ。話はこれで終わりだ」

 

 

龍夜が告げた瞬間、世界が消え去る。二人の意識も深い闇に落ち、対話は終了した。

 

 

 

今回の事件はそれで一段落ついた。後は、幕引きの話となる。




次回でこの章は終わりで、次の章にいきますね。
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