IS 蒼き宙の向こうへ   作:虚無の魔術師

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タイトルに捻りがない。-114514点(華麗にスベる)


第20話 後日の話

「う、ぁ…………」

 

 

閉ざされたまぶたが開いた途端、眩しい光が視界を覆う。ずっと暗闇にいたような感覚なので、窓から照らされた光に慣れるのはすぐにはいかない。

 

 

意識を覚醒させたラウラはベッドの中にいた。何故ここにいるのか、という疑問が生じる。自分の記憶にあるのは一夏とシャルルのタッグに負けた直後と、それから龍夜との短い対話だけ。

 

その間の記憶だけが思い出せない。ぽっかりと開いた空白は、抜け落ちたというよりも最初から存在しないようなものだった。

 

 

戸惑っていたラウラだが、そんな彼女の脳裏に過る考えを遮ったのは、自分に掛けられた一声だった。

 

 

「ようやく気がついたか」

 

 

「教、官………」

 

 

「織斑先生と呼べ、と言っているだろう」

 

 

言葉を失い硬直するラウラに、千冬は落ち着いた様子で呼び方について正す。いつもの調子で叩いたりしないのは、彼女が寝込んでいたのを配慮したものだろう。

 

 

恩師と対面してからようやく、敬礼を忘れていたことに気づく。同時に、この人なら何か知ってるかもしれない、と。

 

 

「教官!私は何が────ッ!」

 

「無理をするな。全身を無理矢理動かされたことで筋肉疲労と軽い打撲がある。場合によってはこれ以上酷くなる可能性があったが、今回はしばらく動けないだけで済んだ」

 

 

咄嗟に身体を上げて起き上がろうとした途端に、全身に強めの痛みが走る。苦痛に顔を歪めるラウラ、しかし彼女は千冬の説明を受けても尚、納得した様子ではなかった。

 

 

 

観念したのは千冬の方であった。

 

 

「………一応、今回の件は重要案件だ。ここだけの話だと理解して聞くといい」

 

 

それだけ言うと、千冬は言葉を続ける。まず最初に、彼女はとある単語を紡ぎ出す。

 

 

「VTシステムは知っているな?」

 

「は、はい。………正式名称はヴァルキリー・トレース・システム………過去のモンド・グロッソの部門優勝者(ヴァルキリー)の動きをトレースするというシステムで、あれは確か────」

 

「そう、国連の取り決めたIS条約で世界中の国家・組織・企業の全てに研究、開発、そして使用を禁止されている。それがお前のISに搭載されていた」

 

「…………」

 

 

今でもその事情が読み込めずにいる。だがこの場にない自らの機体、シュヴァルツェア・レーゲンの存在が欠けている事が証拠の一つであった。自分の機体に使用禁止のシステムが組み込まれていたという信じられない事実に、ラウラはあまり戸惑わなかった。

 

 

「ただ使用されていたなら事態解決は早く済んだが………厄介な問題が分かってな」

 

「厄介な、問題?」

 

「お前の機体に組み込まれていたVTシステムは改良型だった」

 

「改良型………ッ!?」

 

 

話した通り、VTシステムは違法と判定されたシステムであり、開発、使用は勿論、改良するなど許されるはずがない。困惑するラウラを他所に、話は続く。

 

 

「本来VTシステムはトレースされた者の動きや対応をコピーしているもので、それに応じた自立的に動くシステムだ。だが、あの改良型は違った。私のデータを投影されていながら、生身の人間を殺そうとしていた動きがあった。───その後、遠隔操作だった事が判明した」

 

「………っ」

 

「機体内部に巧妙に隠されていた。普通にメンテナンスしていてはアレに気付けないのも仕方ないがない話だ。操縦者の精神状態、機体の蓄積ダメージ、そして何より、システムをコントロールする者の承認と、操縦者の意志………或いは、願望か。それらが揃ってようやく、発動する仕組みであったらしい」

 

 

それだけの言葉を聞き、ラウラは視線を下げる。シーツを握り締める手を開き、掌を見つめている。

 

 

彼女の脳裏に、記憶の一部が流れ出した。重要なデータだけを再生させるように。

 

 

 

『強さこそが全て!力こそが絶対!君があの強き人に憧れたのであれば、強き彼女が失われてはいけないだろう!?ならば、君も力で止めるべきだ!』

 

 

「私が、望んだからですね………」

 

 

憧れてはいないが、信じていたドレイクホーン大佐。今思えば自分は彼の言葉に誑かされていたのだろう。そして、強さを履き違えて、自分勝手な理想に溺れた。だからこそ、手を取った事にも気付かなかったのだ。

 

 

───織斑千冬になることを、望んだという事実に。

 

 

 

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ!」

 

「は、はいっ!」

 

 

突如として、強い声で名前が呼ばれる。驚きよりも先に身体が引き締まる。俯かせていた顔を上げたことで、真剣な千冬の瞳に自分の顔が写る。

 

 

呆然としていたが、短い問いが投げ掛けられた。

 

 

 

「お前は誰だ?」

 

 

「わ、私は………。私………は、………」

 

 

どれだけ考えても答えられなかった。

 

自らを空っぽと定め、自分自身を捨ててまで憧れの人になろうとした少女。そうである自分は、一体誰なのか。ハッキリと明言することも出来ず、彼女はその事実に対しただ迷うことしか出来なかった。

 

 

「誰でもないのならちょうどいい。お前はこれからラウラ・ボーデヴィッヒになるがいい。何、時間は山のようにある。学園で三年、人生は数十年。そのくらいあれば、自分で考えた答えくらいは見つけられるだろう」

 

 

ニヤリと笑う千冬に、ラウラは黙っていた。ふと、窓ガラスに映る自分を見る。赤い左目と金色の左目、それぞれの瞳を持つ自分の姿に、何か思ったのか深く考え込む。

 

 

 

 

 

 

 

そして、医務室の前で話を聞いていた青年───龍夜が一息漏らす。自分が関わり、自分が助けた少女だ。因縁があったとしても、見過ごすほど薄情でもないし、自分のやることには責任を持つ人間だと自覚している。

 

 

だから、眠っているであろう彼女の様子を何度か伺っていた。今来てみれば意識は覚醒し、恩師である千冬から色々教えられているらしい。

 

 

ならば、自分は何もすることはない。織斑千冬が尽くすのならば、余計なことをするだけだろう。そう判断した龍夜はゆっくりと立ち上がり、医務室の前から立ち去っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、龍夜は気付かなかった。千冬は最初から医務室の前で話を聞いていた龍夜を認知している事実を。

 

 

 

 

廊下の奥に消えた気配に、千冬は呆れたような表情を浮かべる。扉の方に視線を向け、面倒そうに呟く。

 

 

「…………ふん、相変わらず気難しい奴だな」

 

「?教官………誰か居たのですか?」

 

「────あぁ、そうだな。お前にも少し教えてやろう」

 

 

純粋に聞いてきたラウラの言葉に、千冬はどこか面白いことを考えたように笑った。

 

 

───盗み聞きをしていた優等生兼問題への意趣返しだ。力を尽くして助けたのだから、責任ぐらいは取らせてやろうと。

 

 

「蒼青だ。お前の様子を確かめに来たらしいな、平気だと知って帰ったらしいが」

 

「…………え?」

 

「一日も寝ていたからな。そんなお前の見舞いに来ていたのがあいつだ。あいつなりにもお前の事を心配していたんだろうな。本人に言っても否定するだろうがな」

 

「………………」

 

 

明らかに困惑するラウラ。無理もない、本人からして龍夜との仲は険悪であった。龍夜自身そこまで嫌っている印象はなかったが、仲良く出来ていたと聞かれれば否定するしかない。

 

 

「ま、世間話はこれくらいにしておこう。明日から体調が良ければ復学して貰う。今日は忙しくなるが、青春を謳歌するという事を忘れるなよ?」

 

 

そう言って医務室から去っていく千冬の姿を見送り、ラウラはずっと考えていた。何をどうするべきか、これからの事を。

 

 

真剣に考えても、答えは出ない。すぐに、今更考えても仕方ない、と思う。そんなものはそう簡単に分からない、と自然に納得していた。

 

 

 

「────もしもし、私だ────」

 

 

少なくとも、これからがラウラ・ボーデヴィッヒのはじまりだ。そう決意を胸に、彼女はベッドの隣に置かれていた通信機で誰かに連絡することにした。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

それから一日が経ち、龍夜としては何事も問題はなかった。あったとすれば学年別トーナメントの中止により優勝を逃した(というより自分達と交際できることに期待していた)女子達が死屍累々といった感じで落ち込んでいた事と大浴場が使用できるようになったということくらいだ。

 

 

前者はともかく、何故後者が問題なのか。それは後で分かる。大体察していた龍夜は憐憫を思い浮かべ、脳裏に過る相手に黙祷を捧げている。

 

 

 

能天気に世間話をしている朴念仁は気付かないのだろう。何故シャルルがSHRが始まるまで教室にいないのか。

 

 

 

「み、みなさん、おはようございます………」

 

 

本気で疲れ果てたのであろう山田先生が教室に入ってくる。いつもは気軽に接する女子達も心配の声を投げ掛けるが、大体その理由は掴めていた。この予想が正しければ、山田先生の気苦労は図れないものだろうから。

 

 

「えー……おはようございます。朝のSHRの前に、皆さんに転校生を紹介します…………転校生というか、なんと言っていいか…………」

 

 

山田先生の迷った様子から一気にクラスが混乱に包まれる。最近、転校生が何かと多い。なのにまた新しい転校生が来るのかと。

 

 

「ねー、龍夜くん!また転校生だってさー!うちのクラスも実力者揃いになるかもね!」

 

「………学園の外から来た転校生って言うなら、違うと思うけどな」

 

 

えー?と首を傾げる明るそうな女子。最近絡んでくることに不満を持つこともなくなってきた。慣れというものは凄い。

 

 

 

そんな風に騒いでいたクラスだが、ドアが開かれた途端に一気に静かになった。現れたのは、女子の制服を着たシャルルであった。男装らしきものはせず、普通に見て女子である。

 

彼女は教卓の前に立ち、元気な笑顔と共に口を開く。

 

 

「シャルロット・デュノアです。皆さん、改めましてよろしくお願いします」

 

「デュノア君はデュノアさん、ということでした。………はあ、また寮の部屋割りを組み合わせ直さなきゃ………」

 

 

対称的に落ち込む山田先生に心から憐れみを送る。教職員は忙しいことが多いと聞くので、今回の件で先生にどれだけ仕事が増えるのか、考えるだけでも可哀想である。

 

 

………さて、次は問題の方を気にするべきだ。

 

 

「え?デュノア君って女………?」

 

 

「おかしいと思った!男子にしては少し綺麗すぎだもん!」

 

 

「男の時と胸が違う………違うんだけど」

 

 

「って、織斑君は同室だよね?知らないってことは───」

 

 

「ちょっと待って!昨日って確か、男子が大浴場使ったわよね!?」

 

 

そう、これが問題であった。

昨日、大浴場にて一夏とシャルロットが一緒に入ったのだ。龍夜は邪魔をしたくないという理由と、後々面倒事に巻き込まれたくないという理由で断ったからいいとして、表向きに男子と明言されているシャルロットは二人で入る事になったらしい。

 

 

疑念が一気に増えていき、喧騒が広がっていく。明らかに青ざめていく一夏を他所に、龍夜は立ち上がる。それに気付いた全員が一斉に視線を向ける。一夏も一抹の希望を見たような目で見つめてくる。

 

 

 

しかし、何を勘違いしているのか。自分が助け船を送れるとでも思っていたのか。

 

 

 

 

 

「───シャルロットと一緒に風呂に入ったのはコイツだけだ。俺はシャワーで済ませた」

 

 

 

一際大きな声で、身の潔白を証明する。しかし同時に、それは一夏が女子と混浴したという事実を示していることになる。

 

 

 

「なぁッ!?待てよ!龍夜!そこは誤魔化してくれよ!?」

 

「女子の裸体を見たんだ。少しくらいは度胸を見せろ」

 

 

青い顔を白くさせて叫ぶ一夏をバッサリと切り捨てる龍夜。事実なのだから当然だろう、という眼を向けられて、一夏は反論できてない。その一連の出来事が龍夜の密告が事実だと明言しているようなものであり、クラスが大いに盛り上がる。

 

 

 

直後、扉が吹き飛んだ。物理的に。被害はそれだけだったが、事はまだ続いていた。

 

 

「───いぃぃぃぃぃぃちかぁーーーっ!!!」

 

 

怒号を轟かせ、現れたのは鳳鈴音(ファン・リンイン)。クラスの喧騒と龍夜の告白を聞いたであろう彼女は既に堪忍袋の緒が切れる、どころか弾け飛んでるのだろう。恋心故の憤激だと思うと恐ろしいものである。

 

 

修復されたISのアーマーを展開し、同時に武装を展開する。両肩の衝撃砲が実体を作り出した途端に、漢一夏、背を向けて逃げ出した。

 

 

興味なさげに観察していた龍夜だが、その目を大きく見張ることになる。全力疾走してきた馬鹿が一人、此方に狙いをつけて突撃してきていた。

 

 

「龍夜ァーーーーーッ!!」

 

「おい、おいおい!待て待て待て一夏!狙いはお前だけだろ!ほら!教室の外に跳べ!今ならお前一人だけで被害は軽く済む!」

 

「そうはいくか!死ぬならせめて道連れだ!!」

 

「ふざけんな!一人で死ね!無駄死にしろ!」

 

 

親指を下に突き立てる龍夜に一夏は飛び掛かる。ぶつかった二人に怪我はないが、なんか絡み合っていた。一部の女子が顔を赤らめて興奮している。「織斑くん×蒼青くん」とか抜けてしてた女子、顔は覚えた。

 

 

一夏の頭にアイアンクローをかけ、無理矢理にでも引き剥がす龍夜。「あだだだだだッ!?」とあまりの激痛に涙目で訴える馬鹿をそこら辺に放り捨てようとするが、もう遅い。鈴の衝撃砲がフルバースト、二人に目掛けて放たれた。

 

 

あ、終わったと二人が硬直する。脳裏に走馬灯でも過っていたのか、目の前に飛来する衝撃弾を前に狼狽えてはいなかった。

 

 

そして、着弾したであろう爆音が鼓膜を叩いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あれ………?」

 

「ん………?」

 

 

衝撃砲を受けたはずに自分達は生きていた。というか普通に無傷だった。困惑して互いの顔を見合うが、すぐにその理由に気付いた。

 

 

「────」

 

「ラウラ……!?」

 

鈴と二人の間に入ってきたラウラが、ISを展開して衝撃砲を受け止めていたのだ。空間が歪んでいるのを見るに、おそらくAICを使用したのだろう。

 

 

「助かったぜ………サンキュー、ら、ラウラ」

 

「何、気にするな。今までの借りを返しただけだ」

 

 

不安そうに感謝を述べる一夏だが、杞憂だったらしく、ラウラは平然と受け答えしていた。聞いていた龍夜の方が戸惑いを見せるぐらいである。

 

 

そんな風に思っていると、ラウラが龍夜に視線を向けた。距離を縮める彼女と龍夜、見合った二人だったが─────、

 

 

 

 

 

 

 

 

パシンッ!! と、乾いた音が響く。

ラウラが伸ばした腕を龍夜が掴んだのだ。自分の胸元へと手を伸ばそうとした彼女の手首を握る龍夜は、冷たい声で詰問する。

 

 

「…………何のつもりだ、ラウラ・ボーデヴィッヒ」

 

「…………」

 

「何を考えてるのかは知らないが、俺に何かをするのならそれ相応の覚悟があるんだろうな?」

 

 

警戒は緩めていたが、ISを装備した状態で接触してくれば話は別だ。彼女自身とは前々から因縁があった。ここで晴らそうとしても可笑しくはない。そう判断した龍夜はいつでも対応できるように、『プラチナ・キャリバー』を格納したケースを取れる動きを脳内で計算し尽くす。

 

 

 

「────蒼青龍夜」

 

 

「…………何だ?」

 

 

何かイヤな予感がした。敵意や悪意、そんなものは感じられないが、何故か背筋に悪寒が走る。氷を直接服の中にぶちこまれたように。

 

 

理解できぬ予感は、蒼青龍夜の想像を越えていた。

 

 

 

 

 

 

「私はお前に惚れたらしい」

 

 

「───────は?」

 

 

 

 

 

───何を言っているんだ?コイツは

 

 

 

 

 

「ということで、お前を私に嫁にしたいと思う。異論は認めない、決定事項だ」

 

 

 

 

 

────何を言っているんだ?コイツは(二回目)

 

 

 

 

 

「…………待て、ラウラ。少しだけ待て、落ち着け」

 

「?私は落ち着いているぞ」

 

「じゃあ俺から距離を置け!…………いいか?まず、お前は間違えてる」

 

 

手を離し、話を聞く様子のラウラと対面し、彼女の認識を直そうとする。だが、あまりにも予想外すぎて龍夜も困惑していたのだろう。

 

 

訂正すべきところとは、全く違うことを言い出した。

 

 

 

「───嫁とは本来、婚約関係にある女性の別称にある。本来俺とお前は結婚すらしてないからこれに該当しない。そもそも根本的な話だと、男性を嫁とは呼ばない。性別的に格付けするなら俺が婿でお前が嫁だ、分かったな?」

 

 

「なるほど、私が嫁というわけか。ではこれからもよろしく頼むぞ、我が婿」

 

 

そういうことだ、と納得する龍夜。いやそこだけ注意してどうするんだよ、と全員が心の中で突っ込む。

 

 

「……………ん?いや待て。今の例えだ、本気にするなよ。おい、話を聞け。おい!聞け!おい!?───ってかお前何をする気だ!?」

 

 

すぐに気付き慌てて言い直そうとした龍夜だが、納得した様子のラウラが龍夜に近寄り、顔を近付ける。両手を掴み返し、拮抗する中、ラウラは顔を仄かに赤らめながら告げる。

 

 

「見れば分かるだろう、キスだ。婿や嫁には必然のものと聞いていたからな」

 

「頭のネジが飛んだのか………ッ!?誰が何時結婚した!?俺の記憶に覚えはないから、お前の妄想だとは思うんだが………!?」

 

「私のことを気にかけてくれてたんだろう?相談したら脈アリだと教えられてからな」

 

「違ぇよッ!誰だそんなふざけた事を教えたのはッ!?」

 

「自分で考えて行動しろと言われたのでな………私は私の心に従わせて貰う事にした。責任は取ってくれ、我が婿」

 

「俺の事も考えてくれないのかねェ……ッ!?」

 

 

ISを纏うラウラと掴み合い、彼女を押し返す龍夜。会話で説得はできない。というか重要なところは通じない。

 

 

「お、お、お、お待ちなさい!ボーデヴィッヒさん!龍夜さんに、き、き、き………きすなんて、わたくしは許しませんわ!力ずくでするのならば、わたくしが────」

 

 

「ストップだ!止まれ!セシリア!お前まで参戦すると余計に戦況が悪くなる!コイツの非常識な知識は俺がどうにかする!これ以上俺を困らせるな!」

 

 

激しい怒りを宿しISを展開するセシリアを何とか説得する。冗談じゃない、ISでの戦闘に巻き込まれるのはごめんだ。今も鈴と箒の二人に追い回されているが、知らん。

 

 

 

結局、騒動が終わるのは、霧山友華が連れてきた千冬による怒声が響き渡るまでであった。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

それから放課後の屋上。

人気のないその場所で、一人の女子生徒が携帯を扱っていた。その番号を打ち込んでいく手が、躊躇うように止まるが、すぐに全部打ち込まれた。

 

 

繋がることを示すコールは、一回で済んだ。電話の相手は繋がるや否や口を開いた。

 

 

 

『───やあやあやあ!久しぶりだね!まさか箒ちゃんからかけてくれるとは思ってなかったよ!』

 

 

「────、…………姉さん」

 

 

『うんうん、言わなくても箒ちゃんが言いたいことはわかっているよ。―――欲しいんだよね? 君だけの専用機、箒ちゃんの力であり、箒ちゃんを守る盾。勿論用意してあるよ、ずっと前からね。最高性能(ハイエンド)にして特別仕様(オーバースペック)。白と並び立ち、漆黒を越えるその機体の名は―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紅椿(あかつばき)」』

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「───がぁぁぁあああああッ!?」

 

 

街中の路地裏で凄まじい悲鳴が響き渡る。全身を炎で包まれた兵士が悶え苦しんでいた。地面に転がり、消火しようとするが止まらない。

 

 

 

「…………ハッ」

 

 

そのザマを、一人の青年が笑う。灰色の髪を乱雑にかきあげた男。黒い戦闘用スーツの上に革製のジャケットを着込んだ男は燃えた兵士を足蹴にし、目の前を睨む。

 

 

武装した外国の兵士達と、彼等に囲まれていた子供達。明らかに驚き、敵意を剥き出しにする兵士達の近くで子供達も顔色を変える。ぱぁっ! と知ってる人が助けてくれたという喜びに染まる笑顔で、子供達は希望を見ていた。

 

 

軽く首を捻り、そして手首の骨を鳴らした青年は、兵士達ではなく子供達の方に向けて告げた。

 

 

「待ってろよ、ガキども。すぐに終わらせてやるからよ」

 

 

 

 

そして、言葉通り一瞬で終わった。武装した兵士達が一斉に射撃をするが、路地裏に配置されていたゴミ箱を蹴り飛ばし、前方の兵士を何人か薙ぎ倒し、残った兵士が銃を使う前に鋭い蹴りや重い拳で装備を貫通しているかのような威力を与えていく。

 

 

或る者は骨を折られ、或る者は気絶させられている。死屍累々の状況の中で、比較的に動ける状態の兵士が、外国語で悪態をつく。その兵士の前に歩み寄った青年は、兵士の取り出していた無線機を踏み潰し、

 

 

『───今度こいつらに、この街に手を出してみろ。テメェもテメェ等のリーダーもオレが殺す。そう伝えとけ』

 

 

失せろ、と兵士のヘルメットを軽く叩いた青年。彼から背を向けると、青年は元気そうに駆け寄ろうとする子供達を静しながら適当に歩いている。

 

先程の態度に不満や怒りを覚えたのか、兵士は静かに腰から拳銃を引き抜く。気付かれぬように、体で隠しながら意識を集中させ、振り上げた瞬間に、引き金を引いた。

 

 

『───死ね!クソガキ!!』

 

 

撃鉄が鳴り、銃弾が放たれる。一発の銃声に気付いた青年が振り返るが、不意打ちの一撃であることが反応を遅らせる要因になった。それ故に、対処できない。

 

 

青年の頭に、弾丸が命中した。肉を抉り、焼くような音が空気に溶け込む。兵士は最初呆然としていたが、命中したという事実に気付き大声で笑う。頭を撃ち抜かれた青年が地面に倒れる音を聞くまで、兵士の笑い声は止まらないはずであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダァンッ! と、頭部に弾丸を受けた青年が地面を踏み締め、首を持ち上げるまでは。

 

 

空気が熱を帯びた瞬間、青年から火が噴き出した。赤々と燃える炎が揺らぎ、青年の身体を覆っていく。まるで肉体そのものが燃えていると錯覚させるように、灼炎を纏う青年が、冷徹極まりない瞳を差し向けて、口を開く。

 

 

「────馬鹿が」

 

 

向けられた腕に、火が伝う。高温の炎が収束していき、一塊の大きな火球へと変化したと思えば、砲撃のように放たれる。兵士は慌てて逃げようとするが、間に合わず火炎に飲まれ、姿が一瞬で消え去る。

 

 

炎の中で肉、骨まで焼き尽くされた死体は何一つ残らない。青年が手を握り締めれば、炎の玉はみるみる小さくなり、ヒュッ! と軽い音と共に消失する。その場に残るのは戦闘不能な兵士達とゴッソリ削り取られた地面だけだった。

 

 

熱を帯びた地面から意識を完全に外し、背を向ける。駆け寄ってくる子供達に青年は爽快な笑みを浮かべた。

 

 

「流石イルザのアニキ!カッケー!」

 

「やっぱりアニキは強いんだなー!兵隊達なんて手も足も出なかったぜ!」

 

「アニキー!お菓子頂戴ー!」

 

 

「……ったく、元気なガキどもだぜ。オレが強いなんて当然だろ。オレは、最強だからな」

 

 

無邪気かつ純粋に声をかけてくる子供達に、青年───イルザは気軽に対応していた。彼等の頭を撫で、お菓子をねだる子にはポケットの中のクッキーをあげ、子供達の話をキチンと聞いている。

 

 

子供達と満足に話したイルザは、少し経ってから彼等に帰るように促す。元気に手を振って帰っていく子供達を軽く見送り、路地裏へと歩いていく。

 

 

 

気絶した兵士達を無視して、その先を歩いていく。ピタリと、路地のある場所で止まったイルザに、声が掛けられた。

 

 

 

 

「────やり過ぎだな」

 

「うっせ、力が相手を捩じ伏せようとしたんだ。やり返されても当然だろうが」

 

「それもそうだ」

 

 

そう言いながら姿を見せたのは、筋骨隆々な男。アナグラムの制服でも隠しきれない程に鍛え上げられた筋肉。眼に二本の傷を残した盲目の軍人。

 

 

「オルガム、政府軍の奴等はどうだ?」

 

「大したことなどない。ISもいない軍団など恐れるに足らん。今は士が奴等の掃討を行っている。撤退も時間の問題だろう」

 

 

二人が話す町から離れた場所から、爆炎と煙が上がる。気にしてはいない二人だが、遠くで戦闘が起こっている。彼等が気にする様子すらないところから見るに、味方が優勢だと分かりきっているのだろう。

 

 

「それで?オレに近付いた理由はなんだ?わざわざんな事伝えに来た訳じゃねぇだろ?お前程のヤツが」

 

 

「────協力者からの情報があった。お前にとっても無視できん話だ」

 

 

「はー、くだらねぇ。悪いがパスだ。組織にとって危険なことじゃなきゃオレは──────」

 

 

「──────────」

 

 

「……………あ?」

 

 

立ち去ろうとしたイルザが、オルガムの言葉を聞いて足を止めた。無視できない内容だったらしく、黙って聞いていたそんな彼が抱いたのは────炎のように燃え上がる怒りであった。

 

 

「───以上が、提供された情報だ。お前にとっても無視できないという理由が分かったな?」

 

「…………リセリア様は、なんて?」

 

「リセリア様はお前に作戦の立案及び実行の権限を託した。何をしても問題ない、との事だ。…………まぁ、それも当然の話だろうな」

 

「そうかよ」

 

 

ポケットに両手を突っ込んだイルザが立ち尽くす。何を考えていたのか、空を見上げて黙り込む彼は、すぐにでも口を開いた。

 

 

「ジールフッグと連絡を繋げ。リセリア様が言うなら、オレも少しは好きにやらせてもらうぜ………勿論、アナグラムの名を落とすようなコトはしねぇよ」

 

「ジールフッグだけ、か。一人でやるつもりか?」

 

「オレを誰だと思ってる?甘く見んじゃねぇよ、オルガム」

 

 

戦意に満ち足りた戦闘狂のような笑みを刻み、イルザは笑う。そんな彼のジャケットが風で払われ、隠れていた肌に浮かぶものが見えた。それは、素肌に刻み込まれた記号のようなものだった。

 

 

 

 

 

 

───DOLL.s Battletype Mark.173

 

 

無機質な単語の羅列を隠すことなく、火の粉を散らすイルザは天空に睨み付ける。空から飛来してくる金属の鳥、鳥型のガジェットを周囲に旋回させながら、全てを踏み潰すような気迫に満ちた声で告げる。

 

 

 

 

 

 

「思い知らせてやる。アナグラム最強であるイルザ様の逆鱗に触れた連中に、地獄の業火すら生ぬるい、灼熱の不死鳥の力をな」

 

 

 

 

鎮静化していたアナグラムが、再び動き出そうとしていた。幻想を束ねる組織の中でも随一とされる、最強の名を冠する男と、学園にいる者達を中心に。




これで一区切り、二巻までの内容は終わりまして、次は第三巻のお話になります。


乱入してきた個人戦の時とは違い、本格的に動くアナグラムとIS学園の話に、多分少しだけ盛り上がるのではないかと思います(自信ない)


これからもよろしくお願いします。それでは!!
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