IS 蒼き宙の向こうへ   作:虚無の魔術師

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頑張って書いた三千字が飛んで発狂し、徹夜して取り戻そうとして爆睡して、朝からブッ通しで書き終えた馬鹿が一人です(自虐)よろしくお願いします


第24話 紅椿

「────ま、こんなもんか」

 

 

大柄の兵士が、投げ飛ばされる。地面に転がった兵士の装備はボロボロで、使い物にならない程に完全に破損していた。イルザは片腕で投げた兵士には目に暮れず、前を見て歩く。

 

 

彼を中心にした周囲は、酷い惨状であった。ミサイルでも着弾したような爆発の痕跡と、綺麗に切り裂かれた特別な物質の防壁、そして兵士達の装備や辺り一帯に残る炎が、イルザのによって引き起こされたものばかりであった。

 

 

様々な怪我や重傷を負っている兵士達、しかし彼らに唯一共通する点が一つだけあった。

 

 

 

全員が、生きていた。これだけの破壊の地獄にいながら、誰一人死者は存在していない。手首を折られていようと、火傷を負っていようと、致命傷の者はいない。誰もが今後の生活に支障をきたさない程の状態に収められていたのだ。

 

 

それ程までに、歴戦の兵士達と隔絶した力の差が存在していた。無傷でありながら、相手全員を生かして無力化する程の圧倒的な差が。

 

 

 

「よぉ、ジールフッグ。()()()様はどうしてる?」

 

『問題なく、司令室に閉じ込めてるよ。相手方も対応できずに困ってるね……………あ、右の方だよ』

 

 

耳に取り付けたイヤフォン型のマイクによる音声通信で言葉を交わす。生き残っても尚、突撃する兵士を薙ぎ払い、封鎖された隔壁を蹴りや翼で破壊していき、先へと進む。

 

 

そんな彼も、通信の先にいる青年も、一つの違和感を覚えていた。

 

 

『順調も順調。けど、なんか引っ掛かるんだよね』

 

「…………お前もか」

 

『なんつーの、全部が全部上手くいき過ぎてる。まるでどっかの誰かさんが影で暗躍してるっていうか、操られてるみたいな感じ』

 

 

計画が完璧に果たされること自体、問題はない。だが、自分達以外の人為的な何かが感じ取れる。それが味方のものだけではないと、彼等は理解していた。

 

 

黒幕のような存在が、裏で自分達を都合よく利用しているという確信が明確に存在していた。ジールフッグは短く聞いた、どうする? と。

 

 

 

イルザの答えは、簡単だった。

 

 

 

 

 

「関係ねぇよ」

 

 

吐き捨てるような一言は、深く刻まれた笑みと共に告げられた。楽しんでいるのか、何かへの怒りに高揚しているのか、正しい感情は読み取れない。

 

 

「誰が何の目的で動いてようが、俺には知ったことじゃねぇ。俺達を利用するつもりってだけの奴なら、後で叩き潰してやるだけだ」

 

 

カンッ! とイルザの足が床を大きく踏みつける。巨大な隔壁が、道を閉ざすように鎮座していた。再び重い蹴りを放とうとしたイルザは、それだけは打ち破れないと予測する。

 

 

「抉じ開ける、しか無いよな」

 

 

【────翼撃体勢】

 

 

黄金の装甲で形成された巨大な翼が、可変していく。槍のように、刃のように大きく広げられた羽が翼の内側へと格納されていき、巨大なブレードのような形へと変化を終える。

 

 

イルザが両手を上げると、両翼が動き出す。隔壁と隔壁の間にある数センチにも満たない隙間に翼を入り込ませ、力ずくで左右に押し出そうとする。

 

 

ギギギ、と五十センチ以上の厚さであり、大型の駆動鎧二体でも動かすのも容易ではない大型の隔壁が抉じ開けられていく。使用不能になるほどの破壊を起こし、入り口全体を爆発させたかのように吹き飛ばす。

 

 

ふぅん、と興味もなくイルザが前を見た瞬間───目を見開いた。

 

 

 

視界の先、眼前に光が殺到していた。いや、エネルギーの光弾の雨。隔壁を破ってきたイルザに放たれたそれは、至近距離まで迫り、連鎖爆発を引き起こした。

 

 

 

 

(─────直撃した!)

 

 

上空から先手を取ったナターシャ・ファイルスはそう確信した。司令官、もとい父親との通信が切断されたことと、自分がハッチ内部に閉じ込められたその時から、標的は自分────ではなく、『福音』だと理解していた。

 

 

ならば、侵入者は間違いなく自分の元へと現れる。どんな相手だろうと、軍事基地を一気に制圧し、ISを強奪しようとする連中だ。警告なんてしてはいられない。ナターシャの判断も攻撃も間違ってはいない。

 

 

 

 

だが────相手が悪かった。

 

 

 

 

 

「────イイ攻撃じゃねぇか、響くぜ」

 

 

思わず、息が詰まるナターシャ。彼女の視線の先で、煙を払った四枚の黄金の翼が大きく広がる。翼を背中から生やしたように伸ばすイルザは、首の骨を鳴らしながら歩き出す。

 

 

当然、彼の体に傷らしきものはない。そもそもダメージすら負ってない、そう証明するように。

 

 

 

「随分な破壊力、そして機体の性能だ。()()()からの情報通り、『福音(ソイツ)』を放置する訳にはいかなくなった」

 

 

「───何が目的なの?テロリストの君」

 

 

「最新型のIS『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』と操縦者のアンタを奪いに来た────って言ったら、大人しく着いてきてくれるか?」

 

 

「告白みたいでちょっと嬉しいけど、お断りさせてもらうわ」

 

 

クスリと笑うその声とは対称的に、彼女からは戦意が滲んでいた。やんわりと断ったが、実際は応じるつもりすらないのだろう。

 

 

イルザは軽く肩を竦め、嘆息する。

 

 

「交渉決裂か、残念だが仕方ねぇか」

 

 

「その割には、楽しそうに見えるのは気のせい?」

 

 

「いいや、間違いないぜ。正直な話、俺も期待してるってのが本心だ。戦えることこそが、何よりの楽しみでね」

 

 

鋼鉄の床が、轟音を響かせて砕けた。灼熱という程の熱が彼を中心として放たれ、空間そのものの温度が上昇していく。あまりの熱量に空間に火花が吹き荒れ、イルザの体から炎が発火していく。だが、彼は気にしてすらいない。

 

 

周囲の熱同様に、興奮した感情を剥き出しに、笑顔というにはひきつった表情でイルザは叫んだ。

 

 

 

「久しぶりにISが相手なんだ!世界最高の兵器、その中でも軍用として開発された新型なんだろ!心が踊る!滾る!興奮するッ!さぁ!俺を楽しませてくれよ、俺を殺してでも!!」

 

 

 

四枚の黄金の翼が、光焔を纏い大きく振るわれる。その瞬間、イルザは炎に包まれながら上空にいる『銀の福音』を纏うナターシャへと突撃した。

 

 

その様子を認視した彼女も、迎え撃つように突貫していく。白と赤、翼を伴った二つの光が激突した。瞬間、全てが吹き飛んだ。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

合宿二日目。今回の実習は昨日のような休みありではなく、本格的なISの訓練を行う予定であった。各種装備の試験運用などを主体としたこの訓練は、朝から夜まで丸一日使うらしい。

 

 

 

「ようやく全員集まったか────おい、遅刻者」

 

「……………ふぁい」

 

 

寝ぼけたような返答が聞こえた。全員の視線が一気にその一人に集まる。眠そうな眼を瞬きさせる龍夜は………ん? と不思議そうに首を傾げる。

 

 

直後、頭部を盛大に叩かれた。

 

 

 

「ちゃんと返事をしろ、馬鹿者」

 

「ぐ………っ、はい………」

 

 

眠気が一瞬で覚める程に痛みに、頭を押さえて悶える。千冬は軽々しく振るった出席簿を仕舞い、続きとでも言うように説明へと戻る。同情の視線を受けながら、龍夜は真面目に振る舞いながら、思案に暮れる。

 

 

(………クソ、少し考えすぎたか)

 

 

昨日、(露天風呂に現れた)篠ノ之束と対面し、彼女から話を聞いた龍夜は夜中の間までずっと考えていた。途中山田先生に寝るように促されたが、一応布団の中に入ったものの、結局山田先生に起こされる結果になった。(先生には後で感謝と謝罪をした)

 

 

千冬の指示を受け、全員が行動に移る。普通の学生は班に分かれて振り分けられた装備の試験を行うように、そして専用機持ちは専用パーツのテスト、ということになる。

 

 

すぐさま動き出す龍夜達だが、千冬がふと誰かを呼び止める。

 

 

「篠ノ之。お前はこっちに来い」

 

「はい」

 

 

自分が装備するであろう打鉄(うちがね)の武装を運んでいた箒は、すぐに向かう。千冬は冷静に彼女に話し始めようと、

 

「お前に今日から専用─────」

 

 

 

 

 

 

 

「ちーちゃーーーーーーーーーーん!!!」

 

 

した直後に、大声と共に凄まじい速度で走ってくる影が見えてくる。は?と龍夜は思う。ここはIS学園の学生だけが訓練をするため、部外者は立ち入り禁止という話になっている。だが龍夜は知っている、あの声の主は学園の人間ではない。部外者かと言われれば否定できない。何故なら───

 

 

 

「………束」

 

「やあやあ! 会いたかったよ、ちーちゃん!さあ、ハグハグしようよ! 久しぶりの愛を確かめ────はぶっ」

 

 

飛び掛かり、抱きつこうとした天災 篠ノ之束を千冬は片手で掴む。それも顔面を、アイアンクローで。どれだけ力が込められているのか、自分達では受けたことがないような音がしている。

 

 

「うるさいぞ、束」

 

「イタタ………相変わらず容赦の欠片もないアイアンクローだねっ!」

 

とか言いながら、軽々しく抜け出す束。砂浜に着地した彼女は周りを見渡して、今度は箒を見つけるとすごい勢いで駆け寄る。

 

 

「やあ!箒ちゃん!久しぶりだね!」

 

「………どうも」

 

「直接会うのは何年振りかなぁ。本当に離れた間に大きくなったね。特におっぱいが」

 

 

躊躇いなく、殴った。

それも日本刀…………鞘でとはいえ、身内に対して容赦がない。これくらいしないと堪えないというのは古い付き合いと家族であるからか。

 

氷のように冷えた顔で、箒は一言。

 

 

「殴りますよ」

 

「な、殴ってから言ったぁ………。しかも日本刀の鞘なんて! ひどい!箒ちゃんひどい!」

 

 

鞘で殴られているにも関わらず、平然と起き上がる束。涙目で必死に訴える彼女だが、ふとその目が龍夜の目と合う。

 

嫌な予感を感じ取った龍夜だが、時既に遅し。

 

 

 

「ちーちゃんも箒ちゃんもいじわる!りゅーくん慰めて!ついでに私との愛を確かめてね!」

 

 

「え、は────え、えッ!?」

 

 

唐突に抱きつかれる龍夜。予想外のことに言葉が出ない彼に、束は躊躇なくハグしてくる。その光景を見た一同、というか全員が驚いていた。

 

他の女子達は勿論、一夏やセシリアにラウラ、そして淡白な対応をしていた千冬や箒ですら、唖然とした顔で二人を見つめている。

 

 

「うはー、りゅーくんの胸筋もがっしりとしてるねー。束さん男に近付いたことあんまりないから興味があるんだよ。あ、あと顔赤いけど照れちゃってるー?」

 

「あ、あばばばばばばばばばば────ッッ!?」

 

 

至近距離まで近付かれた挙げ句ハグされた方は平気ではなかった。羞恥と興奮、激しい困惑と僅かな喜びが螺旋を描き、思考がまとまらない。顔が沸騰したように真っ赤になった龍夜は、

 

 

「───(ぼすんっ!)」

 

「あ、りゅーくん気絶した」

 

「嘘だろ!?龍夜!束さんに耐性無さすぎだろ!?」

 

 

電気系統がショートしたように一瞬で崩れ落ちた。慌てて駆け寄った一夏が具合を確かめるが、普通に意識を失ってる。何とか近くの日陰に運ぶが、寝言か呻き声のようなものを何度か口にしていた。

 

 

「…………う、ぅ…………や、柔か………感触………すご、う……………」

 

「………何か元気そうだなぁ」

 

 

本人が聞いたら「んな訳あるか馬鹿」と呆れられそうだが、その本人が気絶しているので特に問題はない。龍夜を近くに休ませた一夏だが、戻ってみると大変なことが起きていた。

 

 

「───おい、発情兎。うちの生徒に手を出すとは良い度胸だな? あぁ?」

 

「イタッ!イタタタタタタタタッ!!ごめんよ、ちーちゃん!ちょっと悪戯し過ぎちゃったとは思うからさ!束さん本気で反省してるし!」

 

 

頭を鷲掴みにされ、強力なアイアンクローを決められる束。流石に痛いのか、或いは龍夜を気絶させたことが余程気にしているのか、素直に反省したような束。

 

 

何とか解放され、安堵したように息を漏らす束に、やや距離を離した箒が尋ねた。

 

 

「それで、頼んでおいたものは………?」

 

「ふっふっふっ!それはキチンと準備してあるよ! さあ、大空をご覧あれ! ってね!」

 

 

そう言いながら、束は上空へと視線を促す。全員が従って空を見上げたその瞬間、巨大な鋼鉄の塊が空から飛来し、地面へと突き刺さった。銀色の金属板で覆われた物体は、次の瞬間に形を折り畳んでいく。姿を見せたのは、一つのISだった。

 

 

 

赤い装甲に包まれたその機体は、深くその場に鎮座していた。普通のISとは違い、まるでサナギのように固まったそれは、主を待っているような雰囲気を連想させる。

 

 

呆けることしかない全員に、束は楽しそうに笑いながら口を開いた。

 

 

「じゃじゃーん! これぞ箒ちゃん専用機こと『紅椿(あかつばき)』! 全スペックが現行ISを上回る束さんお手製のISだよ!」

 

「何ッ!?束さんお手製IS!?つまり最新作ッ!?」

 

「起きるの早ッ!!」

 

 

途端に、跳ね起きた龍夜。更に驚く一同を他所に、龍夜は目を光らせると鎮座した『紅椿』へと走り出す。そして、目の前まで移動すると、硬直し、すぐさま震え始めた。

 

 

 

「こ、これが…………篠ノ之博士の、いや、束さんの最高傑作にして最新作────凄い、これが新型、『紅椿』!あぁ!クソ!悔しい!俺もこれ以上のISを造ってみたい!けど、やっぱりこれが俺以上の天才の実力と片鱗! 凄まじすぎて興奮が止まらない!!」

 

 

早口で捲し立てる龍夜は、本当に嬉しそうであった。発明を造る身としては圧倒的な差にうちひしがれる一方で、純粋に好奇心と尊敬に心を踊らせているのも分かる。

 

 

龍夜の反応が余程嬉しいのか、物凄く元気になる束。是非とも詳しく語りたいと話し合おうとする二人だが、結局千冬の拳骨で止められ、作業を進めることになった。

 

 

『紅椿』に箒のデータをインプットし調整を行い、自動処理の合間に一夏のISについて本人に説明する束。

 

 

僅かに時間が空いたその時、セシリアが緊張しながらも彼女に声をかけた。

 

 

「あ、あのっ! 篠ノ之束博士のご高名はかねがね承っておりますっ! もし、よろしければわたくしのISを見ていただけないでしょうか!?」

 

 

 

 

「ん?いいよ、けど見るだけ弄るのは無理だからねー」

 

 

気さくにそう答えた束は掌を差し出す。ISを見せるようにと示す事だと理解したセシリアは遅れた動きで『ブルーティアーズ』の待機状態であるネックレスを差し出す。

 

 

それを手に取り、静かに観察する束。数十秒もの間、沈黙が広がっていた。不安になったセシリアが声を出そうとしたその時、束が話し始めた。

 

 

「ふぅん、中々扱いなれてるようだね。でも、やっぱりまだ成長の余地はあるって感じだよ」

 

「成長の、余地………つまり、もっと強くなれるという事ですか!?」

 

「まぁ、そうだね。ISだって自己進化するようなものだから、ISとの絆さえ高まれば可能性はあるよ」

 

「ッ!ありがとうございます!篠ノ之束博士!」

 

「いいよ、いいよ。いやー、教えるってのも悪くないねー」

 

 

嬉しさを隠せてはないが、引き締めながら頭を下げるセシリアに気にしてない様子の束が軽く手を振った。満足そうに戻っていくセシリアを見た龍夜は、隣にいた一夏を見ないまま、声を投げ掛ける。

 

 

「………流石は篠ノ之博士だ。お前もそう思うだろ?………一夏?」

 

 

返答がなく、気になった龍夜が顔を上げる。作業をしているはずの一夏は動きを止め、信じられないと言わんばかりの顔で束を見つめていた。それは『紅椿』を纏っていた箒も同じだった。

 

 

「どうした、一夏。何かおかしい事でもあったか」

 

「……………あ、いや。束さん、昔と変わったなぁって」

 

「昔と変わった?今は違うのか?」

 

 

怪訝そうに聞くと、一夏は思い悩んだような顔をしてから、答え始めた。

 

 

「昔はな、凄い人間嫌いな人でさ。俺や千冬姉、箒以外の人は本気で無視してたんだよ。他の人間なんて区別できないとか言ってし………」

 

「なるほどな、変人とは聞いていたが、それが理由なのか。俺もそういう時期があった訳だし、気持ちは分からなくもないな」

 

 

昔の自分────家族以外の人間、自分の才能を認めない奴等を凡愚と、頭の悪い馬鹿ばかりと見下して、外の世界を拒んでいた時の自分を思い出す。思えばあの時、唯一憧れた家族以外の他人が篠ノ之束だった。

 

 

そんな風に思っていると、何処からか慌てた様子の山田先生が走ってきた。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「はぁ─────ッ!」

 

「フンッ!」

 

 

ハッチ内部を吹き飛ばした二つの影は、外へと飛び出していた。銀色の天使と、黄金の不死鳥。そう体現する二人は、互いを攻撃しながら、空を翔っていく。

 

 

凄まじい速度で旋回し、追撃のように腕を振りかざす『銀の福音』、もといナターシャ・ファイルス。高出力の多方向推進装置(マルチスラスター)である翼が、速度ともに威力を高めた一撃を放とうとする。

 

 

しかし、それはイルザも同じであった。人体をはるかに上回る四枚の翼は福音同様、凄まじい程の加速を引き起こし、意図も容易く彼女の動きに追いつく。そのままの勢いで、脚による蹴りを打ち込む。

 

 

爪と蹴りが、衝突した。

金属と金属が接触し合い、膨大な熱と衝撃を巻き起こす。弾かれた二人は大きく吹き飛ばされ、再び動き出す。

 

 

「ッ!遠距離からならば!」

 

 

翼の装甲が展開し、砲口が露出する。高速で飛空していくイルザに向けて翼が前に向けられたその瞬間、光の雨の弾幕が放たれた。

 

 

「ッ!話に聞いてたメインウェポンか!」

 

 

イルザも掻い潜ろうとは思わず、回避行動を取る。羽根の形状をしたエネルギーの塊の弾丸は、機関銃のような連射速度で避けていくイルザを追尾する。

 

 

身体を捻ったホバリングにより加速を緩め、羽の雨をギリギリ避けきった。

 

 

「羽根ばっか飛ばしやがってよ!飛び道具はお前だけの専売特許じゃねぇんだよなぁ!」

 

【────武装展開、後翼変形】

 

 

ガチャガチャ、と下側に位置する二枚の翼の装甲が組み変えられ、変化を終える。後翼と称された二枚の翼は大型の二対の砲台になっていた。

 

 

光の雨を避けきったその瞬間に、イルザも攻撃を開始する。二つの砲口から膨大な炎を収束させた熱線と、徹甲弾が機関銃のように放射されていく。

 

 

攻撃を止めて、回避へと移るナターシャ。急加速して空を駆け巡る彼女に機関銃や砲撃の弾幕が降り注ぐが、当然追いつくはずがない。イルザもそれを理解してか機械翼を変形させ、四枚となった翼で再び飛来していく。

 

 

「面白ぇ!こんなに滾ってきたのは数か月ぶりだなぁ!やっぱISの相手は気分が高揚する!」

 

「っ!」

 

「終わらねぇだろ!こんなんじゃ終わらねぇだろ!?もっと俺を、楽しませてみろよ! ナターシャ・ファイルスッ!!」

 

 

そう言いながら、イルザが勢いよく機械翼のスラスターを噴かし、加速する。ナターシャも対抗するように前へと飛び出し、二つの光が距離を縮めていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、直後。

 

目の前の倒すべきを見据えたナターシャの視界に、異質なものが入ってきた。

 

 

 

視界いっぱいに広がる青空、所々に浮かぶ白い雲。何度も見てきた広大な世界に、ヒビのような亀裂が走っている。目を細め、ハイパーセンサーで確認した瞬間、その隙間から何かが突き出してきた。

 

 

 

────大剣。

空間を容易く貫いたそれを、ナターシャと『福音』は剣として判断した。全体を漆黒の素材で加工され、左右に刃を展開したその剣の刀身には謎のエネルギーが全体に広がるように流れている。

 

そして、ゆっくりと大剣が動き出し、空間を引き裂いた。比喩などではない、理解不能ではあるが目の前で起きている現象は現実であった。

 

 

そして、大剣を持ったナニかが、裂けた空間の合間から姿を見せた。

 

 

「────黒の、IS?」

 

 

全身に展開された兵器に身を纏うそれを、すぐにISと判断した。だが直後に、自分の考えを疑ってしまう。眼前にいる存在がISなのか、と困惑が生じていた。

 

 

肌を露出させず全身を包み込む全装甲(フルプレート)。黒曜石のような色合いの装甲は、正に中世の騎士のような鎧であった。そして、背中と肩当てに取り付けられたマントをたなびかせたその姿は、ゲームに登場する『魔剣士』であった。

 

 

だが、アレがISであるのは確かだ。『福音』は、そう識別している。見たこともない機種、機体であり、どの国が開発したかも分からない。

 

 

ナターシャは知らないが、その連想の通り、その機体は国連により『魔剣士』と呼称されていた。正体不明、製造元すら掴めない謎のISとして。

 

 

 

警戒して睨むナターシャの前で、直立している『魔剣士』にイルザが興奮を押さえきれない様子で詰め寄る。

 

 

「おいおい、『モザイカ』!邪魔するなよ!折角滾ってきたってのに!」

 

『………話によれば、福音の回収が今回の作戦だった筈だが。君もそれを理解して、私を連れてきたのだろう』

 

「────そうだったな。興奮し過ぎて忘れちまう所だった。悪いな」

 

 

呼吸を整え、落ち着いたイルザが言う。『魔剣士』は感情を見せないバイザーを向ける。正確には聞き取れないが、合成された男の声であることは確かだ。

 

 

『構わない。それよりも、彼女の相手は私が努めよう。それで問題はないか?』

 

「あぁ、任せた。元より、IS相手ならアンタ以上に特化した奴はいねぇからな」

 

『では────始めるとしよう』

 

 

イルザが離れたのを確認してから、『魔剣士』が動き出した。事態を把握しきれないナターシャと離れた場所で、大剣、否魔剣を振るう。

 

 

瞬く間に、黒い影が目の前に現れる。空振った斬撃と同時に、『魔剣士』はナターシャの鼻の先にまで接近していた。

 

 

「く───ッ!」

 

 

驚きながらも、先手を打とうとするナターシャ。翼に搭載された武装を展開し、先程のエネルギー砲撃を開始しようとした。

 

 

『させん』

 

【ABILITY CHANGE!ZENOSU BLAKE!】

 

 

魔剣のサイドパーツをスライドさせる。中心に内蔵されたコアらしき宝玉が発光し、色を変化させる。そのまま魔剣を振りかざすと、剣先から伸びた深紅の光が弾け、周囲へと飛んでいった。

 

 

その光が辺り一帯に行き渡ったその時、明確な異変をナターシャは体感した。

 

 

「ッ!『銀の鐘(シルバー・ベル)』が起動しない!?」

 

『その兵装はエネルギーを使うのだろう。ならばこの結界の中では機能すらしない────そして』

 

 

黒いISが、魔剣を構える。直立させるように掴んだその剣を深く握り締めた直後─────その背中に、十本の剣の形をした黒い闇が存在していた。

 

 

青紫のバイザーを光らせながら、告げる。

 

 

『───これで、終わりだ』

 

 

そして、魔剣を深く突き立てるように押し込む。剣の先が、沈んだ。空間に開いた全く別の、亜空間へと。

 

 

 

瞬間、空間を破るように黒い刃が飛び出してきた。咄嗟に回避したナターシャだが、全く別の場所からも複数の刃が襲いかかる。

 

加速に加速を重ね、避けていくが、刃はまるで意思を持ったようにナターシャを追い回し、彼女を囲むように展開されていく。

 

刃が重なっていき、『福音』を球体状に包み込む。モザイカは魔剣を握る手とは反対の手を翳し、強く握り締めた。

 

 

 

『────“十刃魔剣・刺突圧滅(ソード・オブ・ギルティ)”』

 

 

詠唱に応じたように、刃が一気に牙を剥く。肥大化した黒い刃は球体すらも貫通し、トゲの玉のようになる。当然、閉じ込められた福音は無事では済まず、ボロボロになっていた。

 

 

だが、モザイカはその隙を逃さず、福音へと追撃する。傷の入った銀色の装甲へと魔剣を突き立てる。抵抗されるよりも先に、機能を発動させる。

 

 

『────「福音」、封印』

 

 

バチィッ! と、黒い電撃が走る。光を失った福音が、光の粒子へと消滅することなく、そのまま海へと墜ちる。だが、高速で飛んできたイルザが軽々と回収した。

 

 

「恐ろしいなぁ、アンタのISは。全てのISに対するカウンター、いや話通りならマスターキーと言うべきか」

 

『無駄話の時間はない。協力者とはいえ、厄介の目もある。国連が気付くよりも先に行動を起こすとしよう』

 

「そうだな。この不完全燃焼はその時に晴らすとしよう」

 

 

モザイカが刃を振るう。空間に生じた歪な亜空間を開くと、その中へと姿を消していく。イルザも軽口の割に表情を変えぬまま、福音とナターシャを連れて亜空間へと入っていく。

 

 

 

 

 

 

完全に人の気配がなくなったその場所を、遠く離れた島から見ている者がいた。その人物はポケットからスマホを取り出すと、何処かへと連絡を始めるのだった。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「たっ、た、大変です! お、おお、織斑先生っ!」

 

 

「どうした?山田先生」

 

 

「じ、実は………」

 

 

駆け寄ってきた山田先生が千冬の耳元にヒソヒソと囁く。途端、千冬の顔は険しいものへと変わった。声のボリュームを下げながら、話し始める。

 

 

「特命任務レベルA、現時刻より対応を開始せよ……だと?」

 

「は、はい………突然、そのように話されまして」

 

「───非常用連絡先を知るのは理事長と一部の教師だけだ、相手は誰と名乗っていた?」

 

「そ、それが………『忠臣』とだけ」

 

 

話を聞いた千冬は、忌々しいという顔を浮かべる。全く知らないという訳ではなく、厄介な存在だと言うような、つまり既知の存在ということになる。

 

 

「……山田先生。他の先生方に連絡を」

 

 

「わ、わかりましたっ!」

 

 

「頼んだぞ―――全員、注目!」

 

 

凛とした一声に、作業中だった生徒も手を止め、全員が視線を集中させる。大半の者はそこまでの話じゃないという様子だったが、一部の面子は状況を察知しているようであった。

 

 

 

「現時刻よりIS学園教員は特殊任務行動へと移る! 本日の実験は全て中止、直ちに片付けを開始しろ! その後各員は連絡があるまで自室内待機! 以上だ!」

 

 

一気に不安や困惑が伝播する。騒がしくなる女子一同だが、再度の一喝により片付けを始め出す。片付けを手伝おうとした一夏達だったが、

 

 

 

「専用機持ちは全員集合しろ! 織斑、蒼青、オルコット、デュノア、ボーディヴィッヒ、凰!───それと篠ノ之もだ。来い」

 

「はいっ!」

 

 

余程、専用機持ちになれたのが嬉しいのか、気合いの籠った返事をする箒。そんな彼女の様子に何処か不安を覚える一夏。非常事態に対応すべく毅然とした態度のセシリア達、代表候補生。そして、この事態に何かの予感を感じ取り、険しい顔つきになる龍夜。

 

 

 

この場の誰も知らない、気付かない。今回の事件がたった一人の手によって引き起こされた事────ではなく、複数の勢力に潜む黒幕達が、各々の目的を果たすために計画した事であることも。

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