IS 蒼き宙の向こうへ   作:虚無の魔術師

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筆が乗った(クオリティは保証しない)


第26話 紅蓮の不死鳥

「───ふぅ、識別反応の偽装はもういいか。どのみち、奴等がイルザから逃げ切る事も出来ないし」

 

 

輸送機の最新部。ジールフッグ専用の部屋で、彼は無数の機械に囲まれていた。彼の扱うグレムリンの能力、電脳への干渉を生かすための環境、彼が用意した力を引き出すための舞台装置であった。

 

 

そこでジールフッグは、IS学園側を嵌めることに成功した。飛び立つイルザの反応をわざと見せることで、現時点の戦力を二分割することが出来た。

 

 

その作戦は、自分の考えたものではない。立案したのは他ならぬイルザであった。

 

 

『───俺の反応を偽装しろ。奴等が俺に気付いて行動するようにな。そうすりゃ敵も分断できるし、都合が良いだろ』

 

『来てるのは三人って話だけど、二人が来たらどうする?お前が興味あるのは一番強い蒼青龍夜でしょ』

 

『これ以上、我が儘は言わねぇよ。誰が来ようがまとめて相手してやるさ。お前に力を尽くしてもらってる訳だしな────頼めるか?』

 

 

 

「頼めるか、ね────ここまで嫌な言葉なのに、嬉しいのは変わったからかなぁ」

 

 

面倒事を嫌い、憂鬱に生きてきた自分が頼られることを望むどころか、嬉しく感じるとは思わなかった。仲間と馴れ合い過ぎたか、と毒つくジールフッグの顔は不快に満ちたものではなく、慈しむような微笑みに染まっていた。

 

 

そんな彼の耳に、部下からの報告が入る。

 

 

『ジールフッグ様!敵が一人、此方へと接近しています!ISからして、蒼青龍夜です!』

 

「────ごくろーさま、君たちは撤退に専念しなよ。僕の方で、蒼青龍夜を止めておくしー。手出しは無用ってやつだね」

 

『ハッ!畏まりました!』

 

 

答えると共に、ジールフッグは嘆息する。とは言ったものの、ジールフッグ自身が動くつもりはない。自分の役割はあくまでもバックアップ側、相手が学生とはいえ明らかな戦闘員、オマケに学生の中でもトップに割り込むほどの実力の相手に太刀打ちできる訳がない。数秒で撃沈するだけだ。

 

 

「ま、別に手段がない訳じゃないしぃー」

 

 

両手の指が複数のディスプレイをタップ、スライドを行う。輸送機内のシステムへと干渉した電脳の悪戯妖精の力は、格納庫に収納されていた巨大な鉄の塊へと接続した。

 

 

「───イクシード・スカイライダーの制御を掌握。パルス・スフィアによる遠隔操作式を構築。目標を設定後、攻撃を開始せよ」

 

 

スライドの複数が消滅する。一仕事終えたように面倒そうな一息を吐いたジールフッグは画面に移る外の景色を見て、小さく笑う。

 

 

 

「八神博士の残した遺産、それが造り出した新世代の無人兵器。その真髄、見せてもらおーかな」

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「見つけたッ!アレが奴等の輸送機か!」

 

 

一夏達と離れてすぐ、プラチナ・キャリバーの加速を経た龍夜の視界に大型輸送機の姿が見えた。アレだけの大きさでありながら、ここまで近付かないと視認すら出来なかった。どうやら機体からステルスを発しているらしい。

 

 

「───そこまでして隠れるということは、此方が本命か」

 

ということはだ。一夏達の方の反応は偽物だったのだろうか、或いは黒いISが現れでもしたか。それを思い浮かべただけで苛立ち、思考がまともに動かなくなる。

 

一夏達との連絡を取ろう、そう思いオープンチャンネルを繋ごうとした彼の目の前で、輸送機に変化が起きた。

 

 

後方のハッチが開き、巨大な鉄塊が落とされる。荷物を減らしてスピードを上げようとしているのか、と判断した龍夜が加速を行おうとしたその瞬間、

 

 

 

ガシャコンッ! と、鉄塊の装甲の一部が剥がれる。細長い筒状のものが向けられた龍夜の意識が一気に集中する。筒の奥から、膨大なエネルギーが蓄積されたのを感知したのだ。

 

 

 

「ク───ッ!」

 

 

加速を強引に引き止め、前方へとスラスターを噴かす。直後、彼の目の前をオレンジ色の光の弾丸が通過していく。保護されたとはいえ、空気自体が焼かれたような砲撃の正体は、疑うまでもない。

 

 

電磁砲(レールガン)か!」

 

 

睨んだ先にある、鋼鉄の塊。だが、それは先程までの塊としての形ではなく、全く別の姿へと変形を終えていた。

 

 

左右に展開された刃のような翼。機体の下に取り付けられたレールガンと機関銃。これだけ見れば戦闘機に見えるその造形だが、全てを無意味にさせる存在が操縦席の部分に鎮座していた。

 

 

人の上半身を模した機械。二メートル以上の腕を両方に携え、深紅のモノアイを事細かく動かすそれは龍夜の姿を捉えると、唸り声を轟かせた。

 

 

 

「『アルザード』と同じ無人兵器───やっぱり別の兵器もあるか。厄介だな」

 

舌打ちをしながら、龍夜は密かにオープンチャンネルを繋げる。今も別行動している二人と、観測しているであろう千冬達へと連絡を取ろうとする。

 

 

しかし、

 

 

「一夏?箒?俺だ!返事をしろ!…………クソッ!繋がらない!プライベートチャンネルも切断され────まさか、ジールフッグの仕業か!?」

 

 

だとすれば不味い、と龍夜は焦る。この無人機が輸送機を護る盾ならば、黒いISはこの場にはいない────一夏達と接敵している可能性が高い。全貌すら読めない黒いISとはいえ、二人がそう簡単に負けるとは思っていない。

 

 

だが、嫌な予感がしていた。

学園でも何度も感じた。自分の周囲で誰かが傷付きそうになる時ほど感じた予感。それが高らかと警鐘を鳴らし続けているのだ。

 

 

 

「───邪魔だ、鉄屑ッ!」

 

 

龍夜は、その可能性を振り払った。二人ならば問題はない。自分は当初の目的通り、福音を取り返すまで。そう判断してからすぐに、無人兵器『イクシード・スカイライダー』を倒すべく、光剣を抜き放つ。

 

 

────その判断を後悔することになるとは、この時には思いもしなかった。

 

 

 

◇◆◇

 

 

龍夜とは離れた空域にて。

雲が所々に浮かぶ青空に、凄まじい程の衝撃と軌跡がとめどめなく刻まれる。その一つ、金色の光が縦横無尽に景色を薙ぎ払っていく。

 

 

「────ォラオラァッ!!どォしたァ!逃げてばっかじゃあ俺を倒せねぇぞ!?学生どもよォ!!」

 

「───ッ!舐めるな!」

 

 

超音速同士で飛翔するイルザと箒。背を追われていたのも一転し、戦意を示す表情のまま、箒はイルザへと突撃する。

 

 

二本の刀を両手に握り、左右からの斬撃を繰り出す。鍛え上げ、学び続けてきた剣術も組み合わせることで普通に対応するのは厳しい程の技となる。

 

 

だが、イルザは片腕を軽く振るうだけでそれを止める。より正確には、背中から伸びる黄金の翼の一枚が。強靭な羽根を無数に束ねた翼は、巨大なブレードへと様変わりする。

 

 

眼前へと振り下ろされる刀の形状をしたブレードを、一枚の機械の翼が受け止める。火花が散る視界から判断し、イルザはもう一枚の翼を御し、箒を貫かんと突き立てる。

 

 

「オオオオオッ!!!」

 

 

横から割って入った一夏により、その攻撃が制止する。背後からイルザを止めようとする彼の動きを察知した翼が動作を強制的に切り替え、迎撃する。

 

 

唐突に行動を変えてきたことで、一夏もスラスターを放出し、何とか避けきる。あのまま直進していれば弾かれた挙げ句に追撃を受けていたかもしれない。

 

 

加速しながら接近してきた箒の顔を見ながら、一夏は再び決意を深める。戦いを避けれるような相手ではない、既に分かりきった話だった。

 

 

「箒!援護を頼む!一緒に倒すぞ!」

 

「あ、あぁ!当然だ!」

 

 

 

「おいおい、勝つ気でいるのかよ。嬉しいなぁ、ますますやり甲斐があるじゃねぇ─────かァッ!!」

 

 

四枚の黄金の翼を大きく広げたイルザが、一気に飛び出す。凄まじい加速を引き出したそれは、鳥と言うよりも砲弾そのもののように飛来してくる。

 

 

一夏と箒はそんな相手に対し、左右から回り込むように飛翔する。イルザの加速に対応するように、逆に返り討ちにする気らしい。

 

 

「面白ぇ!斬って見ろよやァ!!」

 

 

瞬間、イルザは自らの体を勢いよく捻る。コマのように体を回転させることで、背中の四枚の翼もそれに応じて回転する刃へとなる。ただでさえ、広げれば五メートルも翼が左右に二枚もあるのだ。その動きを見た瞬間、一夏達は攻撃を止めて距離を置くことしか出来なかった。アレを受ければISシールドだけでは済まない、シールドを打ち破り生身にまで届く程であるのだ。

 

 

 

だが、それを理解しているにも関わらず箒は飛び出した。迫り来る刃の旋回を止めるように、二刀で受け止める。イルザは動きを止め、急停止するが、それを利用するように遠心力を脚に蓄積させ、蹴りとして放つ。

 

 

横腹に食い込んだ脚に、箒が苦痛に顔を歪める。ISのシールドがありながらの威力。生身であれば骨を砕き、分断していたであろう一撃に、遠くまで吹き飛ばされた。

 

 

 

 

「う、おおおおおッ!!」

 

その間、僅かに生じた隙を狙い、一夏が動く。瞬時加速により、イルザとの間合いを縮め、至近距離まで接近する。驚いたイルザだが、簡単には対応できない。

 

翼での攻撃すら間に合わない程の早さで、雪片弐形を振り抜き零落白夜を展開させた刀身で斬りかかる。

 

 

あらゆるエネルギーを消し去る必殺の一撃。『幻想武装(ファンタシス)』すら強制的に解除させる刃が、伝説の幻想を構築するエネルギーに包まれたイルザへと迫り来る。

 

 

それを、イルザは手で掴んだ。刀身を指で押さえ込み、顔の前で止める。攻撃を受け止められても、一夏の顔には不安はない。むしろ、好都合であった。零落白夜の力で、イルザの装備を消滅させようと思った────が、気付く。

 

 

 

「───零落白夜はエネルギーを消滅させる。ISや幻想武装の天敵、って聞いてたぜ」

 

 

イルザの手から何かが垂れる。とめどなく溢れ出す赤い液体。ギョッとしてしまったのは、普通で見ることのないだろう人間の血であったからだ。そして、全てを理解して、信じられないと言う顔で彼を見る。

 

 

イルザは笑顔を消すこともなく、顔を上げる。痛みなど、微塵もないと言うように。

 

 

「だがよぉ、生身は無理だろ?どれだけエネルギーを消せる力だろうが、エネルギーそのものに当てなきゃあ効果がない!なら、刀身を素手で掴めばイイって訳だッ!」

 

「嘘、だろ───!?解除して腕で掴んだのか!?」

 

「おいおい、驚くようなもんでもないだろ。こっちはISなんて最強の兵器を何機かぶっ倒してきたんだ。腕の一本や二本潰すのなんざ惜しくもねぇよッ!!」

 

 

叫び、もう片方の腕を振りかざすイルザ。指を折り曲げ、爪を立てるその様子から、尋常ではない一撃が放たれると予測する。咄嗟に避けようとするが、イルザが刀身を強く握る為に離れることすら出来ない。

 

 

 

「一夏ぁッ!!」

 

 

それを止めるように、一つの弾丸のような超音速で箒が加速する。ニヤリと笑ったイルザは翼二枚を重ね、自分の姿を隠すことで箒の二刀流を防ぐ。

 

しかし、その僅かな隙間を箒は狙う。腕部分の展開装甲を開閉させ、そこからエネルギー刃を生成させると同時に射出する。

 

 

それがイルザの、雪片を掴む方の腕を切り裂いた。生身の人間に向けるべきではない武装が、生身の部分に直撃したのだ。簡単に肉を切り裂き、腕を吹き飛ばした。

 

 

雪片を掴んでいた手が緩み、海の方へと落ちていく。離れていく二人から視線を移し、イルザは自分の切断された腕の断面を見る。へぇ、と彼は笑った。ただ単純に、面白いとでも言うように。

 

 

「やるじゃねぇか、期待通りだぜ」

 

 

チリチリ、とイルザの周囲の空気が熱されていく。瞬間、イルザの体が発火し始め、炎が燃えていく。出血が止まらない断面も炎にさらされていき、いつの間にか出血は収まっていた。

 

 

 

「俺の神話幻装(エンシェントレガリア)、フェニックスの能力を教えてねぇよな?複数あるんだが、その一つ。フェニックスには絶対にして唯一の能力がある─────それが、再生能力だ」

 

 

煌々と燃える炎が、腕から形を作っていく。柱のように、少しずつ形成された炎が金色に光ったその瞬間、弾け飛んだ。火の粉が散る中、イルザは傷一つない腕を見せびらかすように前に出した。

 

 

信じられない、いや現実的にも、科学的にも有り得ない光景だった。炎で焼かれた途端、腕が再生するなど物理学的に考えられる話ではない。文字通り、神話や伝説に存在する不死鳥 フェニックスの名を体現するような、現象そのものである。

 

 

「───この通り、フェニックスの力なら俺はどんな怪我だろうと治せる。顔や半身を吹き飛ばしても、再生できる自信はあるぜ?ま、相手にした奴等が不甲斐なさ過ぎてそこまでやれる奴はいなかったがな。で?どうした?まさかやる気失くしたとか言わねぇよなぁ?流石につまらんねぇぞ?」

 

 

自身の首を消し飛ばすように、手で銃の形を作る。人差し指でバーン! と軽く言うが、笑えるような話ではなかった。もし、首が消し飛んでも再生するなんてしたら対処のしようがない。彼が自らをアナグラム最強と自負する理由を実感したと共に、勝利の可能性が一気に消失していく。

 

 

忌々しいのか、箒はイルザを睨み付けながら、悪態をつく。彼女をよく知る一夏ですらそんな一面があることを知らなかったのか、酷く驚いていた。

 

 

「────化け物め」

 

「化け物、か………」

 

 

その一言を、イルザは笑いながら復唱する。瞳だけは感情を宿らせず、濁った水晶のような色で一夏達に視線を向けていた。恐怖を感じる二人に、彼は同じ調子で語っていく。

 

 

「確かに俺は化け物だ。腕が消し飛んでも痛みすら感じないものなんて普通じゃあない。慣れてるぜ? そう言われるのは。だって、実際に人間辞めてるしな」

 

「人間を辞めてる……?どういう意味だよ?」

 

DOLL.s(ドールズ)って言っても、知らねぇよなぁ」

 

 

いや、知っていた。

その単語を聞き、一夏の心臓が大きく高鳴る。フランス政府が欧米で立場が低くなっているのも、間接的にシャルロットをスパイとして学園に送り込むという無謀すぎる賭けをしたのも、全てその計画が原因であった。

 

 

DOLL.s計画。

行く宛もない子供達を洗脳、薬物により感情や痛覚を欠落させ、死の恐怖すら感じない強化人間の製造。フランスの失墜も納得できる程、凄惨かつ悪烈な計画。

 

 

イルザはその計画の関係者どころではない。その成功体、心と自我を奪われた人形達(ドールズ)の一人であったのだ。

 

 

 

「感情を持たない人形のような強化人間。俺もその一人でさ、軍の奴等に囮にされて偶然生き残るまで、俺に心なんてものは芽生えなかった」

 

「軍の奴等………フランス政府が関係しているのか?」

 

「知ってんのか、早く言えよ。ま、別に話すことでもねぇし、あいつらについては割愛しとくわ。俺達の存在を知ったアナグラムは憤慨してなぁ。施設を全て半壊させ、俺を人間に戻そうとしてくれた。────ま、失敗したけどな」

 

 

用済みとして切り捨てられ、死にかけたイルザは助けられ、多くの人たちに支えられて、ようやく自我を取り戻すことまでは出来た。

 

 

あらゆる方面でも救われた彼だが、やはり彼は人形になった身。かつては人間だったとはいえ、人形がそう簡単に幸せになれる筈がなかった。

 

 

「ああ、勘違いすんな。心は、感情は取り戻せた。けどな、神経と脳細胞の一部がイカれたらしくてな。一部の感情、悲しみとかが欠落して、痛覚味覚、それが分からなくなっちまったのさ。

 

 

 

泣けてくるぜ、どれだけ皆が美味しい料理を食べても、それを共感できない。取り繕うことしか出来ないんだぜ?美味しかったって、分かりもしねぇ味をな。自分が死ぬかもしれねぇのに、恐怖すら分かねぇ────そんな奴が、人間な訳ねぇだろ?」

 

 

カラカラと笑うイルザ。それがどれだけ悲しいことか、分かっていてても感情が失われているため、うちひしがれることも出来ない。泣きたい程の悲劇にあおうとも、泣きたい心や、悲しむ部分がポッカリと空いているのだ。ただ目の前の現実的を受け入れるしか、そうするしかなかった。

 

 

 

 

「まぁ、何も悲哀的に考えるわけでもねぇよ。そんな俺にも守りたいもあるし、恩義がある組織もある。何より、俺が唯一楽しめるのは戦いだ。─────本気の戦いが、殺し合いが!俺の心を滾らせ、燃やすことが出来るんだ!殺すことはアナグラムの心情に反するしやらねぇつもりだが、それでも満足できる戦いもあるさ。今も、やる気が湧いてきたしなぁ!」

 

【─────限定武装解放、『爆撃制御機能』展開】

 

 

両腕を大きく振るうイルザに連動してか、機械翼が組み変わっていく。先程までは、イルザにとっては本気であれど完全な手加減である。彼の持ち得る力の一端、その一つで相手をしていたように、更なる一端を解放しようとしていた。

 

 

「───さぁ!俺も少し全力の一部を出してやるよ。命くらい賭けてこいよ?テメェらじゃあ、そうでもしねぇと俺を、不死鳥を殺せねぇぞォ!!」

 

 

昂りに満ちた咆哮。戦闘狂という言葉が過言ではなく、的確なものである。戦いの中でしか楽しみを見出だせない、故に戦いを望む青年は、より一層輝く黄金の翼に包まれていた。

 

 

 

瞬間だった。

イルザの機械翼から、何かが放出された。訝しみ、ハイパセンサーで確認した二人は───一瞬で青ざめ、慌てて退避する。

 

 

空気を吸い込み、複数の物体が爆発した。その規模は絶大、遠くで『イクシード・スカイライダー』を撃破した龍夜ですらその波動を感じ取る程であった。当然、一夏達は気付きもしないが。

 

 

「な、なんだよあの威力………!あんなの直撃したら、シールドが一瞬で削られるぞ!?」

 

「一夏!もう一度来るぞ!」

 

 

戦慄する一夏の前で、イルザが再び爆弾を放出する。その量は二十発、一夏達のいる方に放たれた爆弾は感覚が狭く、確実に一帯を消し飛ばす程の威力と範囲での計算がされている。

 

爆撃の名に違わぬ蹂躙。自分達がどれだけ手加減されていたか悔しく感じる暇などなく、ただひたすら爆撃の雨から逃げるしかなかった。

 

 

「おいおいどうしたぁ!逃げないで掛かってこいよ!倒すんだろぉ!?この俺をォ!!」

 

「ッ!?ミサイルまで出せるのかよ!」

 

 

両手を突き出したイルザの横に、巨大なミサイルが展開されている。もはや爆撃機どころか、巨大戦艦である。躊躇いなくミサイルを放つイルザ、先程までの爆弾とは桁違いであろう威力が蓄積したミサイルが上空から迫ってきた。

 

 

当然、当たる筈もなく二人は回避する。イルザが再び爆撃を開始する前に攻撃を行うと箒が動いたその瞬間に、一夏が高速で加速する。

 

 

───イルザとは正反対の、ミサイルの向かう方へ。

 

 

「一夏!?」

 

「アイツ、何のつもり─────おい、マジか」

 

「───うおおおおおっ!!」

 

 

愕然とする味方と敵の声を無視し、一夏は更に加速していく。瞬時加速によりミサイルの前方へと回り込んだ一夏は零落白夜を発動させた刃でミサイルを切り裂いた。エネルギーで作り出されたものなのか、表面は消滅させることが出来た。内部のは爆薬を除いて。

 

 

外気に触れ、起爆する。連鎖して生じる凄まじい爆炎に一夏が吹き飛ばされる。シールドエネルギーを一気減少させる威力は、鈍い痛みを与えてくるだけで済んだ。

 

 

「何をしている!?攻撃のチャンスだったのに───」

 

「船が、人がいるんだ! 海上は先生達が封鎖したはずなのに────ああ、くそっ!密漁船か!」

 

 

けれど、見捨てる理由にはならなかった。そもそも知らずに助けたとはいえ、知っていても選択は変わらなかっただろう。

 

 

そんな一夏に、激しい怒りで詰め寄る箒。吐き捨てるような、侮蔑するような目で密漁船を睨み、勢いに任せて捲し立てた。

 

 

「馬鹿者!犯罪者など庇うからだ!あんな奴等など、見捨てておけば良かっただろう!」

 

「見捨てて………本気で言ってるのか!?」

 

「当たり前だ!自分勝手に決まりごとを破った奴等だ!どうなろうが関係はない!まず優先するべきは奴の方だった筈だ!奴を倒し、福音を回収することが私達の────」

 

「箒!!」

 

 

強い気迫で、彼女の名を叫ぶ。

口を閉ざし、剣幕が消え去った箒に、一夏は静かに語りかける。

 

 

「そんなこと、そんな寂しいこと言うなよ。力を手にしたら、弱いヤツのことが見えなくなって………らしくないぜ、箒。一体、どうしたんだよ」

 

 

「──────あ」

 

 

瞳が大きく揺れた。

奥にある黒い色───不気味な光が薄まり、ゆっくりと消えていく。パチリと開かれた眼が理解したように広がり、焦点が合わなくなっていく。

 

 

先程までの自分の発言を、考えを、否定するように呟きを漏らす。動揺し、自らの意思が定まらず、両手で顔を覆い隠した。

 

 

「ち、違………私は、そんな、つもりでは………」

 

 

その時に落ちた刀が、光り出す。粒子へと変換され、消失する光景を見た一夏がゾッとしたように焦る。

 

 

ここは戦場だ。この場でISのエネルギーが限界に至れば、死ぬ可能性すら有り得る。何より、相手がまだ現存であるのだ。

 

 

 

「────民間人か。作戦海域に入ってくるとは………見過ごさず助けるとは良い心掛けじゃねぇか。面白ぇ」

 

 

感心したようなイルザが翼を大きく広げ、一夏の前に滞空していた。反応し、ブレードを構える彼に、イルザが笑いながら片手を突き出す。

 

 

「くだらねぇ茶番だと思って終わらせようとしたが、テメェの正義感に免じて一発勝負で終わらせてやる。俺の必殺技、耐えてみろよ。出来たらお前の価値にしてやる。

 

 

 

 

 

悪いが、返答は聞かねぇぜ。腹括って見せろよ!ヒーロー!!」

 

 

嘲笑か、挑戦的な笑みか。

それだけ宣言すると、イルザは空高くへと飛翔しだす。天空へと飛んだイルザは翼でその身を包み込み────数十の爆雷を放出する。

 

 

周囲の空間全てを吹き飛ばす威力、そして海面の密漁船が巻き込まれないように調整されている範囲。即座にハイパーセンサーが危険と判断したことを疑わず、一夏は避難しようとして、動きを止める。

 

 

 

箒が、動けずにいた。今にも起爆するであろう爆雷の展開陣の中、ショックから立ち直れないのか、彼女のISは動かなくなっている。

 

 

「箒─────ッ!!」

 

 

必死の叫びを響かせ、一気に加速する。ISのエネルギー全てを使用する覚悟で飛び出し、箒へと手を伸ばす。

 

 

 

それから数秒後。僅かな時間が過ぎた瞬間、翼に覆われたイルザの声が、白熱する爆雷の包囲陣の中で轟いた。

 

 

 

 

 

 

「───【灼熱爆雷一斉起爆(バーニング・バースト)】ッ!!」

 

 

 

 

 

直後、爆雷の全てが爆発を引き起こす。オレンジ色の光が周囲の空間を巻き込み、炸裂した。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

イクシードを撃破し、爆音を聞いた龍夜は不安と予感に従い、輸送機から離れ、一夏達の元へと向かっていた。今すぐにでも辿り着こうと加速を続ける龍夜に、絶大な熱と衝撃が殺到する。

 

 

 

「ぐッ、オオオオ─────ッ!!?」

 

 

耐えきったとはいえ、信じられない威力であった。これが爆発による余波であると判断した龍夜は思わずゾッとした。この爆発に一夏達が巻き込まれていれば、間違いなくシールドエネルギーが限界値を迎えているのだろう。

 

 

問題は、中心近くにいたかもしれない二人が耐えきれているのか。

 

 

溢れ出す不安が、思考をかき乱す。煙に包まれた一帯へと突撃し、ひたすらに叫ぶ。

 

 

「一夏!箒!応答を、返事をしろ!おい!?」

 

 

すると近くの煙から何かが飛び出した。

その反応に思わず、龍夜は一息つく。ここから出てきたのは一夏達だ。そう判断してすぐに駆け寄ろうとする。

 

 

 

煙が晴れ、視界が明らかになり─────龍夜は言葉を失った。

 

 

 

 

 

飛び出したのではなく、それは墜ちていた。

 

 

墜ちていくそれを、飛び出してきた少女が掴もうとする。赤いIS、紅椿を纏う箒が、泣きながらそれへと手を伸ばす。

 

 

 

『それ』の形が、人であることを察知する。脳が理解が拒もうとしているのか、激しい頭痛がした。否定しようとしても、目の前の現実だけは変わらなかった。

 

 

 

ポツリ、と。

『それ』が誰なのかを知り、龍夜の思考が完全に止まった。

 

 

 

 

 

「────……………いち、か?」

 

 

 

脳内に、記憶がフラッシュバックする。

 

 

身内を失った時の記憶が、大切な姉を気付けられた時の記憶が。雪崩れ込む情報と思い出の渦に、龍夜は頭を抑える。かきむしる程の力が込められた指に、更に強くなる。

 

 

ついに、感情を制御する堤防が決壊した。

 

 

 

「あああ、ああああああああああああああああああッッ!!」

 

 

喉から迸るのは、絶望の叫び。

 

 

力を求め、強くなろうとした。復讐するために、世界を変えるために、何かを覆すために。それだけの為に強くなろうとしてきた。

 

 

なのに、守れなかった。クラスメイト一人も、助けられることも出来ず、墜ちていく光景を目に入れるしかなかった。どうすれば良かったのか、激しい後悔と自己矛盾に陥る。

 

 

 

だが、絶望と悲しみは次第に別の感情へと切り替わっていく。

 

 

「───箒ィ!!一夏を連れて撤退しろぉ!今すぐにだぁッ!!」

 

「りゅ、龍夜………だ、だが」

 

「一夏を死なせるな!奴は俺が、俺が倒す!!」

 

 

それを聞いた箒が、瀕死の一夏を抱えて飛翔する。花月荘へと撤退していく彼女を見ることもなく、龍夜はた

だ一人の敵を睨んでいた。

 

 

「白いのが瀕死になったか。だが、生きてはいるしアイツの勝ちだな。全く、もう一人を庇うとは………俺も複雑な気分だぜ」

 

「───黙れ」

 

 

呆れたような言葉を、低い声で切り捨てる。上空に立ち尽くす黄金の不死鳥を見上げ、憤怒に染まった瞳で見据えた。

 

 

怒りに囚われた青年が、告げる。

 

 

「お前は、俺が殺す。ぶち殺してやる」

 

「………オーケー。相手してやる。来いよ、ルーキー」

 

 

二つの光が、衝突する。連鎖するように響き渡る戦いは、短時間で決まるものであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「オオオオオオオオオオオオッッ!!!」

 

「ハハッ!やるじゃねぇか!期待してた分、良かったぜぇ!おい!」

 

 

激昂し、冷静ではない龍夜。しかし怒りによって引き出されたのは躊躇いもなく殺す程の攻撃を放つ冷酷さであり、戦場を優位に進めようとする冷静さも残っている。

 

 

斬撃と閃光、次々と繰り出される龍夜の猛攻にイルザは楽しむ一方で、違和感を感じ取っていた。時間が経つ度に、攻撃を行う度に、龍夜の攻撃が杜撰になっていく。その理由はすぐに分かった。

 

 

「グゥゥゥゥゥゥウウウウウウウウウウウッ!!!」

 

「………おいおい、ISってのはあんな機能まであんのか?」

 

 

銀色のISが、禍々しい黒に侵食されている。ギチギチ、と装甲を蝕み、変化していくその姿は異形のそれである。感情や自我も、機体同様に暴走状態にあるのだろう。

 

 

 

だが、イルザの僅かな期待も一瞬で消え去った。

 

 

 

 

 

───バチッ、バチィッ!!!

 

 

「あ、があああアアアアアアアアアアアアっ!!?」

 

 

内部から生じたであろう青いプラズマが、炸裂する。暴走を制止するかのように発生した雷は、龍夜を支配する憎悪と憤怒を打ち消した。───戦う力を奪うことを条件に。

 

 

ふらり、と揺れた龍夜がそのまま墜落していく。真下にあった無人島へ、叩き付けられるように落ちた。

 

 

「………く、そッ」

 

(また、暴走しかけた────よりにもよって、この状況で!)

 

 

解除されたISが、遠くへと飛んでいく。外付けの補助装置も半壊していた。電撃を直に受け、暴走を抑制された龍夜はその事実に歯噛みする。気を付けようと考えていたのに、また引き起こしてしまった。

 

動こうとしても、強力な電気を浴びたことで筋肉がまともに動かない。立ち上がろうと首を上げた龍夜だが、喉元を押さえ込むように掴まれた。

 

 

「───がッ!?」

 

「────安全装置でも外してなかったか?正直、本気でやりあえると思ってたから、期待外れも良いところだ」

 

 

地に脚を付けたイルザが、龍夜の首を片手で持ち上げていた。抵抗しようにも、ISを纏ってない生身、しかも電撃を浴びた直後の体では止めることも出来ない。

 

 

指が喉を圧迫し、締め上げられる。呼吸が奪われ、息苦しくなり、必死に暴れる龍夜に、イルザは話をする。

 

 

「殺しはしないさ。白いヤツの件も、あそこまでヤルつもりはなかった。武器を失った相手をなぶるのは道理に反するし。ま、邪魔されたくもないし、お前は気絶させとこうと思う」

 

「ク………ソ────」

 

「残念だったな、ルーキー。任務失敗だが、めげるなよ。敗北をバネに、強くなれば良いぜ」

 

 

そのまま首を絞める力を強める。意識が朦朧としていく龍夜が気絶するまで、続けようとした──────直後。

 

 

 

 

 

何かが横から、イルザを吹き飛ばした。

超音速で加速してきた物体が、横腹を薙ぎ払うように。

 

 

「ぐおっ!?」

 

唐突な攻撃に、イルザの力が緩む。そのまま吹き飛ばされていくイルザは翼を伸ばし、何とか体勢を立て直す。

 

 

ゴホゴホッ! と喉を押さえ、呼吸を整える龍夜は目の前に視線を動かし、目を見開いた。

 

 

「─────キャリバー?」

 

 

プラチナ・キャリバーの剣。浮遊というよりも空中で静止する銀の剣に、思わず疑問が過る。まさか、この剣が勝手に動いたのか? と困惑しながら自問する龍夜だが、更なる異変が起きた。

 

 

 

【───適合者の危険を確認。自己判断によりロックを解除、適合者防衛プログラム『クロム・ルフェ』の発動を開始します】

 

 

 

剣に組み込まれた黒い宝玉とは違う、別のコアが点滅する。その光に呼応するように、剣が分離する。バラバラになったパーツが飛び回り、龍夜の周りに配置される。

 

 

黒い宝玉がレーザーを放出し、空中で複数の黒い装甲を形成する。黒い装甲が全身に装着されていき、剣のパーツも各々装甲へと変わり、一人の人間を覆い隠すように纏われていく。

 

黒い宝玉もそれに応じるように、銀と黒に包まれた装甲の中心に組み込まれ、胸の部分に固定される。黒いコアから生成されるエネルギーが全身に流れ、装甲を完全に繋ぎ合わせ、一つの鎧へと昇華させた。

 

 

【エーテリオンリアクター稼働、クロムフレーム構築及び固定完了。適合者の意識の沈黙、確認。エネルギー回路、全武装に接続完了。オールクリア、数十秒後に疑似神経回路の起動予定】

 

 

立ち尽くす銀と黒の鎧から、声が響く。静かな少女のものであるその声は冷たく、機械的なものである。そのまま、無機質に宣告する。

 

 

 

【クロム・ルフェ。これより、適合者に接触する者全て、攻撃の危険性のあるモノを敵と判断。適合者の保護のため、全ての敵を抹殺します】

 

 

黒と銀の鎧のナニか、『クロム・ルフェ』と呼ばれるそれは、不気味なほどに静かであった。




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