IS 蒼き宙の向こうへ   作:虚無の魔術師

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第27話 暴走のディザスター

「────何が起きた、いや何がどうなったんだ?」

 

 

呆然と、イルザは疑問を口にする。答えが返って来ることはないが、気にすることはなかった。その場を支配するのは、静寂だけであった。

 

 

目の前に立ち尽くす黒と銀の鎧。いや、装甲に包まれたヒト型に、イルザは危機感を感じない。無気力に、力なく棒立ちになるその姿は、敵意なんてものを放つ素振りすらなかった。

 

なのに、イルザの第六感───戦闘でよく発される感覚だけが、警鐘を鳴らしている。目の前のアレは、さっきまでの青年とは違う。異質な雰囲気を放つ異形の鎧に、イルザは相手の出方を図ることにした。

 

 

 

「────」

 

 

ゆっくりと、【クロム・ルフェ】が歩き出す。一歩一歩が重いもので、まるで無理矢理にでも動かされているような感じである。

 

 

一瞬警戒したイルザも、思わず気を抜く。あんな鈍い動きでは戦いにはならない。精々歩くのにも、時間が掛かるだろう。だが、まだ何かが隠されているように見えた。

 

 

(まずは、攻撃をしてみるか)

 

 

相手の装甲が強力なのか、或いは能力があるのか。それを確認するためにも、相手に動いてもらう必要があった。イルザは翼を動かし、能力により生成した爆弾を射出する。

 

 

T.I型榴弾。

爆発と共に発生した衝撃を周囲に拡散させるその爆弾は、IS相手には、それ以前に人間を殺す為に造られたものではない。あくまでも、相手を傷付けるというコンセプト。生きたまま負傷させることで怪我人を生み出し、相手に被害だけを残す戦術を体現した地雷の応用系。

 

 

カンッ! と装甲に当たり、弾かれる。瞬間、爆弾を中心として、衝撃が爆発して広がった。中心に近い位置に立つクロム・ルフェは爆破を避けることもなく、直撃する。

 

 

けれど。

 

 

「無傷、か」

 

 

当然だ、と呟く。だが、妙なのはシールドの存在すら見えない。流弾は確かに鎧に触れた。至近距離での威力に、ISのシールド越しにでも反動は受けるはずだ。それすらないのは、あの鎧には何かの機能があるのか。

 

 

そう思っていたイルザに、クロム・ルフェが首を向けた。フルフェイスが此方を見据えたその瞬間、

 

 

 

『────敵性を確認』

 

「あ?何を──────」

 

 

ワンテンポ遅れたイルザの視界が、ズレた。思わず疑問を抱くが、瞬時に理解する。

 

 

殴られていた。至近距離まで近付いていたクロム・ルフェが握った拳を振り抜き、イルザの顔を殴り飛ばしていたのだ。よろけるイルザに、クロム・ルフェは躊躇いなく追撃の拳を叩き込む。

 

 

「ぐッ!────ごッ!───がぁッ!?」

 

 

隙のない連打に、流石のイルザも抵抗できない。痛覚を感じない彼だが、ダメージは確かに存在している。脳が痛みを認識しないだけで、受けた威力だけは脳内で感じ取れている。だからこそ、その威力に愕然とする。

 

 

(嘘、だろッ!?パンチ一つ一つが、普通のISを越えてやがる!?)

 

 

パンチの一つを受け止めようと、イルザが顔を守るように腕を構える。その真ん中に、深く構えた必殺の拳が突き刺さる。

 

 

グシャリ、と音がした。

骨が折れた、なんて話ではない。直撃したイルザの腕が砕けた。肉が抉れ、骨が粉微塵になったのを理解する。相手が拳を振り抜いた隙を見て、全力の爆撃を放つ。

 

 

「…………ハッ、こうも簡単に腕を潰されるとはな」

 

 

そう言いながら、炎を纏い再生させようとする。だが、爆炎の中から伸びた黒い手が、グシャグシャになったイルザの腕を掴む。

 

 

至近距離の爆撃を突破したクロム・ルフェは、掴んだ腕を引っ張る。無理矢理に引き寄せられたイルザの腕から血が噴き出る。お構い無しと言わんばかりに、クロム・ルフェはイルザの腕を引きちぎった。

 

 

「ぐ、おオッッ!!?」

 

 

脳内の信号が激しく点滅する。負傷による痛みは感じない。それでもイルザが笑える状況ではなかった。クロム・ルフェは引きちぎったイルザの腕を投げ捨て、片腕を失った相手を容赦なく殴り、蹴り飛ばす。

 

 

防戦一方であったイルザも、余裕を消す。目の前の相手を倒すことだけを考えることにした。この敵は、危険すぎる。

 

 

「調子にィ!乗るなぁぁッ!!」

 

 

背中の翼に意識を宿し、左右から貫くようにして放つ。即座に攻撃を止め、両手で翼を防ぐクロム・ルフェ。無防備になった胴体を蹴り飛ばし、隙を突いたイルザは空へと飛翔した。

 

 

『────』

 

 

それを凝視したクロム・ルフェは、チラリと視線を移す。既に半壊し、機能しなくなった遠距離機動補助装置『アヴァロン・ストライカー』を片手で掴み────粉々に粉砕する。

 

 

部品だけとなったその装置の残骸にクロム・ルフェが手を翳した瞬間、光の粒子へと変換されていく。無数の粒子になったそれはクロム・ルフェの手の中へと吸い込まれるように消えた。

 

 

腕から胴体へ、光のラインが移動していき、背中に辿り着いた時には、新しい装甲が形成されていく。アヴァロン・ストライカーの名残のある円形の大型スラスターは、完全にクロム・ルフェの装備の一つへとなっていた。

 

 

 

背中のスラスターからエネルギーを放出し、空へと飛び立つクロム・ルフェ。驚きながらも、イルザはその顔に笑みを刻み込む。戦意に満ちた笑みで、クロム・ルフェへと集中爆撃を開始した。

 

 

今度は本気かつ容赦のない爆撃。超高速で翼を広げ旋回するイルザは絶え間なくミサイルや爆弾、爆雷を放出し、瞬時に連鎖爆発を繰り返す。

 

中心にいるクロム・ルフェに行動の時間すら与えない、全方位から放つ集中砲火の爆撃。空間すら消し飛ばす程の高密度の爆発が炸裂し、爆煙が辺り一帯に立ち込めた。

 

 

飛翔を止め、爆煙に意識を集中させるイルザ。何時あの瞬間移動のような超加速を行うかは分からない。爆煙から動きがあれば、何時でもそこから攻撃を行うように動く準備はする。

 

 

 

だが、相手は動かなかった。何時までも姿を見せないクロム・ルフェに怪訝そうになるイルザは、爆煙が晴れたその先の光景を見て────驚愕した。

 

 

 

 

 

空中に滞空するクロム・ルフェ。相変わらず無傷である黒と銀の装甲。問題は、クロム・ルフェを中心として展開される膨大なエネルギーの渦であった。

 

 

可視化できる程の量のエネルギー。その規模がどれだけのものか、イルザにとっても理解できる。一つの大国を動かせる総量が、今あの鎧へと収束している。アレだけの力を、一帯何処から引き出し────

 

 

 

 

 

 

─────いや、違う。引き出したのではない。あのエネルギーは今も増え続けている。クロム・ルフェを基点とする渦はエネルギーをひたすらにも引きずり込もうとしているようにも見える。コアのリアクターが呼応するように光り、エネルギーの波が大きくなっていく。

 

 

ふと、空を見上げた。

光り差す輝かしい太陽、そこから照らされる光に目を閉ざしそうになる。そのまま、クロム・ルフェに視線をずらし、確信した。

 

 

 

 

「コイツ、まさか─────」

 

 

 

 

何故、クロム・ルフェがダメージを受けないのか。何らかのシールドがあり、攻撃を無効化しているとは考えていた。違った。シールドなんて単純なモノではない。

 

 

 

むしろISすら越える、規格外過ぎる力だ。

 

 

 

「俺の攻撃や周囲の太陽光を、エネルギーへと変換してるのか!?」

 

 

イカれてる、イルザですらそう思う程だ。

 

自分が受けた攻撃を吸収し、それを自らの力として蓄える。相手が攻撃せずとも、周囲の環境から光や水、あらゆるエネルギーとなる物質や存在を吸収する。そのエネルギーで超加速や、絶大な破壊力を引き出す。

 

 

攻撃すら通用しない相手など、倒せるはずがない。そう思うイルザはすぐさま別の手段を取ることにした。

 

 

「────ジールフッグ!悪いが力を貸せ!」

 

『───あぁ、分かってる。ってか凄い量のエネルギーが集まってるけど?もしかして不測の事態?』

 

「そうだな。俺も、恐らく学園側も予想外だ。………お前の電波で奴にハッキングしろ。あのエネルギーの量は流石に被害が大きすぎる。戦いを楽しむ暇すらないぞ、アレは」

 

 

通信越しにそう会話する。相手はISを纏って戦っていた。ならば、あの正体不明の敵もISである可能性はある。ジールフッグの電波越しのハッキングは時間が掛かるとはいえ、無力化する事も容易いはずだ。

 

 

ジールフッグも文句は言わずに、すぐさま動いた。解析し、無力化をしようとアクセスを開始したのだろう。数秒の間、沈黙が続く。しかし、

 

 

『───ダメだ!ハッキングが、ウイルスが通じない!?なんだよこれ、本当にISかよ!?』

 

「ジールフッグ、落ち着け。干渉自体は出来るだろ」

 

『無理!無理無理!コイツ、IS特有の既存のネットワークじゃない!全く別の、ISを越える独自のネットワークを構築してるんだ! こんなの、馬鹿げてる! 篠ノ之博士以外に、誰がこんなものを作れるんだよ!?』

 

 

すぐさま(さじ)を投げ、錯乱しているジールフッグに、イルザは舌打ちを漏らす。無論、仲間である彼に向けてではない。

 

ジールフッグがハッキングに手を上げるなんて事はない。況してや、()を上げるなんて有り得ないほどの話だ。世界最高のハッカーがアクセスすら出来ないネットワークを形成する目の前の存在。何より、ジールフッグの話からイルザは確信した事実を口にする。

 

 

 

「目の前のヤツはISじゃない。じゃあ一体、誰があんなもん造りやがった?」

 

 

疑問に答えられる者はいない。

 

 

その代わりというべきか、クロム・ルフェの纏うエネルギーが膨張していく。渦を巻く球体へと変化した莫大なエネルギーは球体の中へ、空間に漂う全てのエネルギーを引きずり込んでいく。

 

 

何をする気だ、という問いは必要なかった。

エネルギーの行き先は、クロム・ルフェのコアであった。コアから還元され、純濃度の力として全身に行き渡っている。

 

 

【エネルギー許容量超越。リアクター稼働速度上昇、制御機関部位出力最大。稼働に充分なエネルギーを除く、全エネルギーを集中】

 

 

フルフェイスのラインが点光する。カチリ、と何かを嵌め込むような音の直後に、

 

 

 

【広範囲殲滅────『クロム・インパクト』の発動を開始します】

 

 

『───キ、アアアァァァァァァァァァァッッ!!!』

 

 

発狂。いや、金切り声か。

何かを引き合わせたような甲高い音が周囲に響き渡り、クロム・ルフェは自らに内包されたエネルギーを一気に増幅させる。膨大な力が辺りの空間にまで可視化されたエネルギーが変質し、軋ませていく。

 

 

あまりの質量に汗を滲ませるイルザに、焦ったジールフッグからの声が聞こえてくる。

 

 

『エネルギー量増幅!周囲一帯に高エネルギー反応!なんだ、ソイツは一体何をしようとしてるんだよ!?』

 

「攻撃、いや。ありゃあ────」

 

 

身体を包む装甲が、発光する。質量を増やしていくその装甲はエネルギーを限界まで蓄積させているのか。膨張していくエネルギーの中心で、その身をギチギチと軋ませるクロム・ルフェを見て、呟く。

 

 

 

「自爆───じゃねぇか」

 

自らを起点としたエネルギーの暴発。活性化した力を解き放つそれは普通であればそこまで危険ではない。厄介なのは、爆発の素となるエネルギーの総量が濃厚なものであることだ。

 

 

それ故に、威力と規模も飛躍する。エネルギーの量から爆発規模を演算し、ジールフッグが言葉を失う。数キロどころの話ではない。その一帯を粉微塵に吹き飛ばす、水爆以上の威力が目の前にあった。

 

 

『イルザ!今すぐ退避しろ!このままじゃあの爆発に巻き込まれる!いくらお前でも、アレには耐えきれないだろ!?』

 

「そうしたいが…………無視するわけにはいかねぇ事情があってな」

 

 

チラリ、と視線を後方に移す。

 

瀕死の重傷を負った一夏と彼を抱えながら避難する箒。それと同じく、全速力で逃げようとする密漁船。それらを目にして、苛立ちを隠さない舌打ちを漏らす。

 

 

彼は相手を殺すことに拘らない。むしろ殺す自体好きではない。戦いの中で殺害してしまうことはあれど、勧んで殺しをするほど落ちぶれていない。何より、危なければ庇うことも辞さない。

 

 

それ故に、怒りを隠せない。

仲間がいるにも関わらず、自分を吹き飛ばそうとする目の前の敵を。あることを確かめるためにも、鋭い怒声を響かせた。

 

 

 

「味方を───巻き込む気かテメェ!仲間諸とも吹き飛ばすってのか!?あ゛あ!?おいッ!!」

 

『────』

 

「クソ!暴走してやがるのか!?それか、アイツ本人じゃないってか!」

 

 

恐らく後者だろう、とイルザは推測する。

クロム・ルフェの攻撃に最初対応しきれなかったのは、先程の青年のものは大きくかけ離れていたからだ。感情すら見えない、自分達とは違う機械的な行動。

 

 

確信した。

今、蒼青龍夜の上に展開された鎧は、彼の意思ではない。全く別のモノが干渉し、支配しているのだろう。だからこそ、自分の仲間でも葬る判断が出来るのか。

 

 

 

フン! と笑い直す。

冷静に考えたが、自分にやれることは変わらない。今も逃げる者達を助けることだ。たとえ自分の命を損なおうとも、アナグラムの誇りにかけて果たすべきなのだ。

 

 

 

「今出来るフルスロットルだ!受けやがれぇぇぇええええええッッ!!!」

 

 

四枚の黄金の翼を、力の限り広げる。滾る焔炎を身体に纏わせ、増長させる。後方への被害を最大限に減らすためにも、相殺するためのミサイルなどの爆発物を生成し、放射する。

 

 

飛来する爆発物の弾幕だが───無意味な灰塵と帰す。

 

 

 

 

 

 

【『クロム・インパクト』────発動】

 

 

圧縮されたエネルギーが煌めいたその瞬間、全てを飲み込む爆発と化す。爆発物の効果が薄いのを理解したイルザは炎を全身に纏い、全力を以て爆発のエネルギーを受け止めた。

 

 

 

「ぐッ、オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ─────ッッ!!!」

 

 

火焔を纏う腕が、エネルギーに耐え兼ねて爆裂する。しかし炎を纏い、瞬時に再生させる。それを何度も繰り返し、エネルギーを抑え込もうとする。だが、圧倒的な程に爆破の力の方が強く─────両腕を消し飛ばされたイルザが、爆発に巻き込まれる。

 

 

 

ほんのギリギリ、一夏と箒、密漁船が範囲から逃れた直後に爆発が最大限まで広がる。円形に広がるエネルギーが消失し、表面をゴッソリと削り取った海原が残り続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「───────ぁ、が……………ぅ、おぉ」

 

 

その空で、死に瀕した不死鳥が現存していた。全身に純濃度のエネルギーの爆発を浴びた彼は大量の吐血をする。常時であれば数秒も必要ない再生は全く機能せず、肩から失われた両腕は再生する兆候すら見えない。

 

黄金の翼も見違えたようにボロボロである。主を護るために全身を包んだのか、三枚の翼の先が失われ、残った翼からは黄金が剥がれ、旧世代のメッキのようになっていた。

 

 

「……………はぁ、アイツら………逃げれたか………ハァ、ハァ……………ホントに、世話を掛けてくれやがる……ぜ」

 

 

瀕死でありながら不適に笑うイルザの首が、唐突に掴まれた。唯一機能する片眼が見たのは、自分を持ち上げるクロム・ルフェの姿であった。

 

 

無機質かつ感情を示さないフルフェイスが日光に照らされて輝く。装飾やデザインからは神々しくも見えるはずの姿は、死神のようなおぞましさしか感じられない。

 

 

両腕もなく、抵抗できないイルザは達観したように笑う。そのまま、クロム・ルフェへと告げる。

 

 

 

「───やれよ」

 

 

無言で、クロム・ルフェが片腕を持ち上げる。振り上げられた右手にコアから作り出されたエネルギーが収束し、オーラとして纏われる。可視化され、形となる程の力を、先程以上に凝縮させ───禍々しいエネルギーへと変わり果てる。

 

 

それほどの力を手で掴み、潰すように握り締める。エネルギーが破裂し、霧散することなくクロム・ルフェの拳に纏われていく。

 

 

躊躇いなく、拳を振り上げ、構えた。

 

 

 

『待て!止めろ!イルザ!止めろよ!止めろぉぉおおおおおおおッ!!』

 

 

 

必死の叫びを響かせ、ジールフッグはハッキングを繰り返す。クロム・ルフェの機能を停止させようと、自らの機能を全解放させ、アクセスを続ける。だが、それでもプロテクトを破ることも、ネットワークに介入することすら出来ない。

 

 

そして、破滅の一撃はイルザへと迫る。

 

 

 

【───『メテオ・ブレイカー』】

 

 

流星を破壊する為の一撃が、イルザの首に炸裂する。禍々しいエネルギーがイルザの全身を破壊し尽くす。最後まで戦意を消さなかった瞳から光が消え、イルザの全身に展開された伝説幻装(フェニックス)が光の粒子となって霧散する。

 

 

物言わぬイルザを海へと投げ捨てるクロム・ルフェ。海面に沈む死体にすら意識を向けず、その場に立ち尽くしているだけだった。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

「イルザ様!?イルザ様ぁ!?」

 

「そ、そんな───イルザ様が、殺された!?」

 

「う───嘘だ!アナグラム最強であり、シルディ様の双対とされたあの方が死ぬなど────」

 

 

ジールフッグの飛空艇では、構成員達の混乱が目立っていた。当然だ。イルザは負け知らずとしてアナグラムの構成員達のからも憧れられる程であり、リーダー格のシルディに並ぶリベリオンの中でもトップに位置する存在だ。

 

 

それが、呆気なく殺されたのだ。イルザを信じていた者達のショックは図り知れず、ある種の騒ぎに成り果てる程であった。

 

 

だが、冷静な者もいる。

 

 

 

「────狼狽えるな!貴様等!」

 

 

そう吼えたのは、ジールフッグの補佐を務める副艦長であった。厳しい怒声をあげる強面の男に、全員が騒ぎを納める。腕を組みながらも、副艦長は一同は落ち着かせるように、或いは勘違いをしている彼等の考えを正すために。

 

 

「イルザ様はそう簡単に死なん!俺は、あの人の異名、不死鳥の由来を知っている。死しても尚立ち上がり、再起するからこそあのお方は不死鳥と呼ばれ、敵からは恐れられていたのだ!心配など不要だ!今、我等に果たすべき使命を忘れるな!イルザ様のためにも!」

 

『────その通り、それが僕たちのやるべきことだ』

 

 

モニターにジールフッグの姿が浮かぶ。司令室へと連絡を繋げたのであろう。副艦長に遅れて敬礼する全員を見て、彼は宣告する。

 

 

『僕たちは予定どおり、この海域を離脱する。IS学園の追手は無いと見ていい。学園側にとってもクロム・ルフェの存在は無視できない。一刻も早く対策を取るだろうから、僕たちも逃げるべきだ』

 

「ジールフッグ様……!?イルザ様は、助けないのですか!?もし生きているのなら、いち早く治療をするべきだと思うのですが───」

 

『クロム・ルフェが、それを見逃すとでも?僕たちが救助に向かえば、奴はイルザの回復の可能性を、生きていると判断する。そうなったら、本気でイルザに止めを差すはずだ。だから、僕たちは手を出してはいけない』

 

 

そう宥め、ジールフッグは通信を切る。無言の信頼を受け取り、副艦長が急ぎ撤退を行おうとしたその瞬間、

 

 

 

「ッ!高エネルギー反応!クロム・ルフェとは別の、この付近の海域から原子炉レベルの反応が確認されます!」

 

「ッ!急ぎ対象の特定を!敵の姿を中央モニターに映せ!」

 

「そ、それが────」

 

 

言い淀む部下に、副艦長も言葉を失う。彼自身、全ての機器が提示する異常な数値を見て、現実を疑うことしか出来なかったからだ。

 

 

「か、海底です!海底から高エネルギー反応が上昇!クロム・ルフェと同量のエネルギーを有した巨大物体が浮上して来ています!」

 

 

何が起こっているのか、副艦長は絶句するしかなかった。

 

目の前のモニターに写るグラフが限界値を越え、相手を可視化する熱センサーが示す敵の姿は数キロに広がる程のものであり、相応の巨体であるのを意味している。

 

 

ただ一つ、言えるのは。

この戦いが、自分達の予想していたものよりも大きくなるということだけだった。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

「────おや、おやおや。もう死んだのか、不死鳥も大したことない」

 

 

小さな無人島の砂浜で、大木に背を預けていた何者かが笑う。今しがた起きた出来事を、互いを傷つけ合う学生とテロリストの戦いを、滑稽なものと嘲るような無慈悲な感情が裏側に潜んでいる。

 

 

ふと、ガラスのように無機質な瞳が海面を捉える。キチキチと瞳孔が形を変え、半円形がリボルバーみたいに回転していく。

 

何かを見定めた何者かは、肩を竦める。

 

 

「いや、まだ生きてるか。強化人間としては()()()()()の耐久力だ。まぁいい、死に損ないに興味なんてこれっぽっちもない」

 

 

木陰から歩き出した何者かは、男であった。年齢は二十歳前後。装飾のある、ロングコートというより貴族が着るようなその制服を纏うその男は、国連内部でも正体不明とされる人物であり、圧倒的な権限を有する者であった。

 

 

 

コードネームは、『忠臣』。

 

 

外部、表向きの国連すら掴めなかったアナグラムの福音強奪事件をIS学園に対処するように命令した、今回の騒動のある種の黒幕。

 

 

「アナグラムは無事離脱。IS学園は暴走したクロム・ルフェを止める。結果、全員でクロム・ルフェを制圧しIS学園の失敗で終わる─────それでは困る。困るんだよ」

 

 

諸悪の根源と呼ぶべき存在は、笑う。あまりにも、正義とは乖離した邪悪さを滲ませながら。

 

 

「そう簡単に作戦を終わらせられては此方の計画に支障が出る。IS学園には出来る限り困難を乗り越えて貰わねば、()()()()の偉大なる目的の為にも」

 

 

そう告げ終え、『忠臣』は虚空へと手を突き出す。一瞬、空間そのものが捻れたかと思えば、その手の中に一本の杖が収まっていた。

 

複数の色をした結晶を内包した三つオーブを各々の輪に繋げた形は簡易的な天体を模倣してるらしく、その中心に槍のように鋭く尖ったプリズムを配置した、神々しい杖。

 

 

それを軽く振るい、杖の先を海へと突き付ける。より正確には、海底の奥深くに存在するモノに向けているのだ。

 

 

 

杖の先のプリズムが、光る。鮮血のような綺麗な赤色の光を浴びながら、『忠臣』は謳うように言葉を続けた。

 

 

絶対的な、命令を。

 

 

「────さぁ、目覚めろ。界滅神機。八神博士の遺した憎悪に従い、人類を殺し尽くす災厄と化せ」

 

 

 

より深い、海の底から呪詛のような呻き声が、同じような赤い光と共に生じる。ISですら感知できない現象を理解した『忠臣』は満足そうに笑い、無人島の森の奥へと姿を消す。

 

 

 

新たな災厄が、地上へと這い出ていく。全てを怨み、呪う怨嗟の声を響かせ、憎悪を宿したモノは水中からでも見える太陽の光を目指し、進んでいく。

 

 

 

◇◆◇

 

 

飛翔する箒の速度は遅い。エネルギーの残存が少なく、後少しで尽き欠けている以上、無意味な消耗は出来ない。急ぎこの場から離れたいのに、それをすればエネルギー切れで間に合わなくなる。

 

 

故に、消耗を押さえながらも今出来るスピードで彼女は避難していた。重体となった想い人を抱えながら。

 

 

「────一夏」

 

 

振るえた声の呟きに答えない。完全に意識を喪失した一夏は反応すらしなかった。彼の背中はISのシールドを貫通するほどの爆破に晒され、激しい火傷の痕が目立つ。こうなったのも、戦闘中に動けなかった自分を庇ったからだ。

 

 

そして、後ろの方に視線を向ける。

 

 

 

「…………龍夜」

 

 

正体不明の銀と黒の鎧に包まれた自分達の友人は、圧倒的であったイルザを意図も容易く葬った。なのに、喜ぶことすら出来ない。あの姿に、かつてセシリア達を傷つけられたことに激怒していた龍夜を思い出す。

 

 

彼の激情に応えるように変化したISは、黒い闇へと変化していた。あの鎧を形成する黒と同じであった。本人らしくない動きと躊躇なく相手を殺したその姿は、彼女が見てきた友人とは全く欠け離れていた。

 

 

何故、こうなったのかと思う。すぐに自分のせいだと判断した。生半可な気持ちで戦場に飛び出して、新しい自分の力となる専用機に酔いしれていた。最も気を引き締めるべき自分が浮かれていたことで、二人が振り回されていたのだ。

 

 

嫌っていた姉が造った専用機なのに、それを受け取った時点で気付くべきだった。

 

 

「────私の、せいだ」

 

 

最も嫌っていた、力に酔い周りを見ようとしない人間。自分がそうなっていたことに。自分も彼等のように戦えると、純粋に願った────一夏と共に戦うという思いすら、忘れていたことに。

 

 

激しく後悔していた箒だが、そんな彼女もある異変を感じ取った。

 

 

 

「?何だ、海が────」

 

 

近くの海が、暗くなる。思わず視線が釘付けとなり、ハイパーセンサーで確認する。快晴の蒼空、太陽に照らされた海原に影などあるはずがない。なのに、巨大な黒い影が海面に浮かんでいるのだ。

 

 

 

 

 

突如─────海が割れた。正しくは、海中から発生したエネルギーの光線が吹き飛ばしたのだ。内側から、食い破るようにして。

 

 

 

「な────っ!?」

 

 

突然の事に戸惑う箒。だが、困惑も束の間。海面に開いた大穴からゆっくりと、巨大な影が海上へと浮遊してくる。

 

 

 

それは、異形そのものであった。

全体的な色は、透明な青色。全体の装甲は未知の金属で構成されているのか、太陽光を反射することなく装甲へと溶け込ませている。

 

ドレスのように、反対に開く花弁のように展開された六枚の巨大バインダー。胴体の部分と思われる部位には腕など部位はおろか、頭部の部分すら存在しない。

 

 

代わりにあるのは、真上に浮遊する大型の物体。ひし形状の装甲の隙間から光が漏れ出し、眼の役割をしているのか、三百六十度回転し、辺りを一瞥しているようにも見える。

 

 

 

その光が、箒達を捉えた。

 

 

 

【────生体反応をスキャン。人間を二名確認。一人は生死不明の重体。二名とも、危険性はない】

 

 

自分達を認識しているのか、巨大な物体から女性の機械音声が響く。見逃されるか? と一瞬、箒は淡い期待を覚えた。

 

 

 

【結論、決定────抹殺】

 

 

しかしそれは、甘かった。機械であるはずの兵器から発せられた声は無機質だ。なのに、何故か。特定の感情だけが、奥深くから感じられた。

 

 

【人類は、皆殺しである。皆殺し、絶滅、殲滅、一掃、駆逐、殺す!滅す!殺す!滅す!殺す!滅す!殺す滅す殺す滅す殺す滅す殺す滅す殺滅殺滅殺滅殺滅殺滅殺滅殺滅殺滅殺滅殺滅殺滅殺滅殺滅ッッッ!!!!!】

 

 

憎悪と殺意。

機械であれば無縁であるその感情を、目の前の兵器 界滅神機は狂ったように剥き出しにしていた。プログラムされたように憎悪を叫び、殺意を吼えるその兵器には普通とは違うおぞましさがあった。

 

 

そして、頭部と思われる部位の装甲の隙間から光が収束する。海面を吹き飛ばしたのと同じ光線。あの破壊力が放たれると理解した箒は絶句し、すぐに一夏を抱えながら全速力で飛翔した。

 

 

逃げる彼女に、界滅神機の破壊の光が放たれる。先程まで彼女の居た場所を空間ごと焼き尽くした光は、突然軌道をねじ曲げ、退避する箒の背中へと突き進んでいく。

 

 

(ダメだ!?逃げ切れない!)

 

せめてと、一夏を抱き締めてビームへと背を向ける箒。少しでもあの光から一夏を守ろうとする。自分がそうやって助けられたように。

 

 

 

 

しかし、その攻撃は箒にまで届かなかった。距離を詰める光線を、突如として現れた漆黒の剣が受け止める。破滅の光が刃の先、いや剣に纏われた光刃によって打ち消された。

 

 

いつまでも攻撃が来ない事に戸惑い、閉ざしていた目蓋を開く。後ろを見た箒は言葉を詰まらせたように驚いた。当然だ。彼女の前に立つのは、味方ではないからだ。

 

 

 

「黒い、IS………ッ!」

 

 

外套をたなびかせた漆黒の剣士に、箒は思わず身構える。だが振り返った黒いIS、『魔剣士』は箒に敵意を向けず、何故かプライベート・チャンネルを繋げ、言葉を紡ぐ。

 

 

 

『───アレの相手は私がする。彼を連れて逃げるんだ。君の現在のエネルギーでは陸上まで届かない。密漁船の者達には伝えている、彼等に乗せて貰うといい』

 

「何………、何故そんなことを───」

 

『早くするんだ。彼は生きている、白式に、彼女に生かされている。それも長くは続かない、助けたいのなら早く動くんだ』

 

 

諭すような言い方に、硬直する箒。信じられないものを見る目で見つめる彼女だったが、首を横に振って一夏を抱えたまま近くでスピードを緩める密漁船へと降りていく。

 

 

それを見て肩の力を緩める魔剣士『モザイカ』。二人を見守り続けた黒い剣士は唐突に魔剣を後方へと翳す。

 

 

何十にも結ばれた光線が、光の刃に振れた一瞬で崩壊する。霧散する粒子を斬り払い、彼は目の前の敵を睨む。

 

 

【対象のレベル、特定不能。演算機能展開────】

 

『界滅神機 クリサイア。人類を滅ぼすために八神博士が未来に贈った破滅の遺産、というのが表向きな扱いだったな』

 

【────】

 

『外部からの信号があっただろう。君の起動は、人為的に、悪意によって引き起こされたものだ。君が暴れれば、黒幕の思い通りになる。それでもいいのか』

 

【────関係ない】

 

 

機械的な音声が、語り始める。

界滅神機───クリサイアの本体である人工知能。コアに内蔵され人間を模したモノが、淡々と呪詛を口にしていく。

 

 

 

【博士の憎悪は、私達に引き継がれた。あの時の、大切な家族を奪われた博士の憎悪はシステムの壁を越え、一つの意志として拡散された。────博士に汚名を被せ、多くの犠牲によって成り立つこの世界を、偽りの平和を滅ぼすと】

 

ギョロリ、と光のラインがモザイカに向けられる。殺意と敵意を乗せた視線からして、睨んでいるのだろう。

 

自分達が憎み、滅ぼそうとしている人間の一人を。

 

 

【私達の憎悪、人類への怨恨は止まらない。人類を駆逐し、絶滅させるまで消えることはない。だから殺す。全ての人間を、赤子に至るまで殺し尽くす。それこそが、私達の下した最終結論である】

 

『博士の憎しみは本当だろう。しかし、彼にあったのは憎しみだけではない。使い手によっては世界を救う希望ともなり、世界を滅ぼす絶望ともなるパンドラの箱を、この世界に遺した。少なくとも、誰かを救える力を』

 

 

憎悪を唱えるクリサイアを否定するように、モザイカは続ける。

 

 

『何より、この世界をより良くしようという者達もいる。彼女達の、彼等の意志を植え付けられただけの憎悪には踏みにじれると思うな』

 

【────】

 

『それと、始める前に一つ。言っておくことがある』

 

 

腕を振るい、外套を大きく払う。小さな風に吹かれて舞うマントをなびかせ、巨大な魔剣をクリサイアへと突き付けた。

 

 

言葉通り、戦いを始める前の宣告と共に。

 

 

 

 

『───あの子達には、絶対に手は出させない。()がいる限りはな』

 




大体予想できてるけど、今回の章ボス。

クロム・ルフェ
蒼青龍夜が変化した銀剣(名称不明)を装着した姿。本人の意志はなく、何者かによって操られている。感情はないが、相手を滅茶苦茶躊躇い無く殺しに来る。


界滅神機 クリサイア
八神博士が開発した無人機の自己進化したシリーズの一体。博士の憎悪を理解し、博士を死に追いやった人類を滅ぼすために動き出す。感情のない兵器のはずなのに、憎悪だけは凄い。

ある意味では対極のボス。難易度が爆上がりした真の理由でもある(どの面)



因みに界滅神機は無人機ではなく有人機です。
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