IS 蒼き宙の向こうへ   作:虚無の魔術師

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第28話 破滅の光花

無数の光が、弾ける。まるで花火のように満開に咲いた光線は全てを消し飛ばすように、直線的な軌道で黒いISを纏う『モザイカ』へと群がっていく。

 

 

界滅神機 クリサイアの主要武装は超高出力熱線である。小型化されたビーム砲は八十メートル以上の巨体の至るところに搭載されており、一斉放射するその姿はまさに浮遊する巨大要塞である。

 

 

何より、恐ろしいのは放たれた熱線の操作が可能であること。相手が逃げようとすれば、即座に熱線の軌道を切り替え、相手を殺そうとする。正体不明の力を用い、どんな敵も殺すという目的を果たそうとしている。

 

 

 

カチリ、とモザイカが魔剣の鍔の部位のサイドパーツをスライドさせる。一回、二回と。直後、魔剣に組み込まれた宝玉が二色に点滅し、ナックルガードに内蔵された五つのコアへと移り変わる。

 

 

 

【ABILITY CHANGE!ZENOSU BLAKE!】

 

 

突如として、モザイカが空間へと落ちた。深く、空間そのものに沈むように姿が消えていく。全方位から迫る光線は消え行くモザイカを捉えられず、互いに相殺し合う。

 

 

すぐさまクリサイアは全方位へと生体スキャンを開始する。センサーのように見逃さぬように張り巡らされたスキャンに、生体反応は感知されない。

 

 

【ABILITY CHANGE!────ZENOSU BLAKE!】

 

 

その音声が響いたのは、クリサイアが衝撃に揺れた直後だった。

 

 

空間が這い出るように上半身を見せたモザイカの片手には、三メートル以上の長さを誇る大型キャノン砲があった。爆発のような砲撃に対し、モザイカは仰け反ることなく平然と砲射する。

 

 

表面の装甲に炸裂した砲弾は、クリサイアに大した損害は与えない。それでも、装甲の隙間に搭載されていた砲台の大半が使い物にならなくなるほどだった。

 

 

【───損害重度、敵性対象をレベルSへと格上げ。対象の抹殺を最優先、『クリーシャ』を起動】

 

 

ガシャコン! と、ドレスのように展開する巨大バインダーの下から何かが落とされていく。種のように落とされたそれらは空中で変形し、海面ギリギリで浮遊する。

 

 

人間サイズの大きさをしたドローンらしき物体。全身が結晶のような金属で構成されたその機体は、槍のようなビームキャノンを左右に搭載している。

 

 

まるで蜂の大群のように増幅していくドローンは一斉に射撃を始める。魔剣の柄頭を自身のコアへとかざし、モザイカは空いた片手を突き出す。その手から光が伸びたと思えば、巨大な盾がビームの雨を防いでいく。

 

 

『ビット、いや小型戦闘機か。それも、攻撃型だけではないな』

 

 

フルフェイスのバイザーが、視界内の情報を正確に捉える。大群から外れた一部のドローン達。武装すら持たず、左右にアームを取り付けたドローン達はクリサイアの破損部位に群がっていく。

 

 

キチキチ、と無数の虫が蠢くような光景の中で、モザイカは確かに見た。ドローン達は破損した部位や砲台を、自分達の手で修復しているのだ。彼等が離れた時には、爆発によって半壊した砲台の全ては新品同様に戻っていた。

 

 

(───メンテナンス型。ということは、他にも能力に特化したドローンもいるかもしれない)

 

 

『面倒だな─────まとめて蹴散らさせて貰う』

 

 

サイドパーツに手を掛けたモザイカは断言すると共に、ニ回スライドする。宝玉に点滅した光の色がナックルガードのコアへと変換される。すぐさま自身の魔剣の柄頭をコアへと押し当て、新たな武装を呼び出す。

 

 

大型の騎馬槍、槍の刀身と言える部位がドリルのような構造をした巨大な武器を。それを片手に持つモザイカは、同じく片手にある魔剣のグリップを指で押し込む。

 

 

【ABILITY CHANGE!ZENOSU BLAKE!】

 

 

二色に発光する魔剣から一つの光が体を渡って、反対側の大槍へと溶け込んでいく。モザイカが槍のグリップを握り締め、シャフトがドリルのように大きく回転し始める。

 

 

その瞬間、槍から凄まじい風が吹き荒れる。それだけでは済まない、槍によって引き起こされた旋風は徐々に大きくなっていき、一つの嵐にまで肥大化していく。

 

 

『受けろ!【テンペスト・スクライド】!』

 

 

槍を振るった直後、嵐そのものが槍から分離し、凄まじい速度で射出される。強烈な風の竜巻が槍として、無限に群がるドローン達を撃墜していく。

 

 

クリサイアは即座に、超高出力熱線を乱射する。辺り一帯に撒き散らすその姿はがむしゃらなようで、自身に近付くもの全てを破壊し尽くす計算された攻撃であった。

 

 

そして、ドローンの壁を突き破った嵐の大槍がクリサイアへと突撃していく。しかし、クリサイアの装甲に届くまではいかず、目の前に張り巡らされた防御障壁により、打ち消される。

 

 

消え行く嵐の槍を無視し、クリサイアは敵を探す。だが、どれだけ探しても反応が見つからない。また、先程のような空間に沈む力か、と考えたが、違かった。

 

 

 

 

【ABILITY CHAIN!TWIN ZENOSU BLAKE!】

 

 

吹き荒れた風に紛れた音声を、クリサイアは聞き逃さなかった。同時に、思考がエラーを起こす。声がしたのは間違いない、クリサイアが無害と判断した消え行く嵐の内側からであった。

 

 

そして、大風の中から飛び出したモザイカが大槍を振るう。そこから引き起こされる旋風。槍のシャフトであるドリルの隙間から風以外に、水が吹き荒れる。水と風が、槍の表面を覆い、二つの螺旋を作り出すと共に、モザイカは防御障壁へと突き立てる。

 

 

障壁と槍の先の間に、火花が飛び散る。ギャリギャリギャリッ! と破壊音も続く。しかし、モザイカはバイザーの奥で眉をひそめる。

 

 

『───クッ!能力二つ分でも破れないか!─────ならば!』

 

 

魔剣の絵柄をコアへと押し当て、武装を呼び出す。より正確には、呼び出されたのは武装ではなく、隠し腕のようなアームであった。伸びたアームが槍のグリップを掴み、モザイカが手を離しても力を込め続ける。

 

その間に二回スライドさせ、グリップを二度押しした。コアから伸びた赤と水色の光が槍へと渡り、

 

 

『更に二つ!追加だッ!』

 

【ABILITY OVER CHAIN!FORCE ZENOSU BLAKE!】

 

 

槍からは風と水、そして炎と氷が一気に吹き荒れる。四つの属性を宿した強力な螺旋を纏う槍が放たれ、クリサイアの障壁にヒビを入れ─────突き破る。

 

 

【危険!危険!防御障壁を突破!対象を抹殺するための戦術や武装を検索────】

 

『遅いッ!終わりだ──────ッ!?』

 

 

更なる一撃を放とうとしたモザイカ。その瞬間、範囲内に超高速の反応が見える。それは可視化出来ない速度で此方の方まで距離を詰め、クリサイアの機体へと突進する。

 

 

防御障壁を破られたクリサイアは突然の飛来物に反応も出来ず、大きく倒れ込む。海面から津波のように巻き起こされた水飛沫が消え、視界が晴れたモザイカは『ソレ』を見て驚く。

 

 

『アレは────』

 

 

銀と黒の装甲に包まれたクロム・ルフェ。超加速をした来たであろう背中の四枚の羽はエネルギーの放出の残滓が目立ち、静かに羽を格納する。

 

 

ギチ、と首だけが向いた。此方を見据えるようなフルフェイスにモザイカは殺意と敵意の混ざった気迫を感じ取り、魔剣を静かに持ち上げる。

 

 

瞬間、高速で突撃したクロム・ルフェが、モザイカの魔剣によって腕を打ち払われた。横振りの斬撃に弾かれた黒い爪を、もう一度振り下ろす。

 

しかし、次なる攻撃が来るよりも先に、モザイカは大槍を深く突き込んだ。風水炎氷、四属性を纏めた神秘的な槍の矛先が、腹部を狙い放たれる。

 

 

だが、間一髪滑らせたモザイカの掌が矛先を容易く止めていた。驚きはしたが、あくまでも冷静だった。槍に通した複数のISの能力を限界まで高めれば、受け止めきれないだろうと判断し、力を上昇させようとする。

 

 

そこで、気付いた。

威力を高めるはずが、逆に能力が弱まっていることに。異変に気付いたモザイカは、すぐにその答えを理解した。

 

 

『────まさか、エネルギーを吸収しているのか!?』

 

 

矛先と接触した掌に組み込まれた装置、あれは恐らく変換装置なのだろう。あらゆる攻撃を掌で受け止め、その際に発生した衝撃や能力をエネルギーへと変換する。それだけで相手の攻撃を無効化し、それだけで自分の力へとする。

 

 

槍の矛先を受け止めた掌とは反対の手に禍々しいエネルギーが収束していく。それを見ただけで危険と判断したモザイカは逃げようと後方に飛ぼうとするが、クロム・ルフェは槍を掴み離そうとしない。

 

 

そのまま、振り上げた拳を叩きつける。

 

 

【───『メテオ・ブレイカー』】

 

 

再び、破砕の一撃が炸裂する。

しかし、クロム・ルフェは手応えを感じなかった。破壊できたのは、彼が最後まで掴んでいた大槍だけであり、相手のISではない。

 

 

そして────いつの間にか上空に移動していたモザイカの姿を捉えた。マントをたなびかせる魔剣士を魔剣を振り払い、思考を働かせる。

 

 

(不味いな。界滅神機と同時に相手するのは俺でも厳しい。何より、ここで下手に『切り札』を使うわけにもいかない。『奴』との戦いに、取っておきたい─────仕方がない、か)

 

『悪いが、ここは退かせて貰おう』

 

 

そう言い、マントに姿を包むモザイカ。そんな彼を見て、クロム・ルフェは躊躇い無く突撃する。翼を展開し、飛翔するクロム・ルフェの速度はISの最高速度を軽く越えている。

 

 

その敵に、モザイカは魔剣を大きく薙ぐ。光を帯びた刀身を振るい、黒いエネルギー刃を飛ばした。クロム・ルフェは片手でそれを吸収し、速度を緩めること無く片腕を抉るように突き出した。

 

 

 

 

だが、次の瞬間。モザイカはクロム・ルフェの前から消えていた。僅かな時間、斬撃を放ったモザイカが続けて空間を斬り、開いた亜空間へと滑り込むのは見えたが、クロム・ルフェに消えた相手のことを考える暇はなかった。

 

 

 

倒されていたクリサイアがゆっくりと起き上がる。頭部の光のラインが、クロム・ルフェの姿を捉えた。

 

 

【───ギギギ、生体反応を確認。対策レベル測定───Aクラス。危険性有りと判断し、殲滅行動を開始。目標の生命反応の停止させ、確実に抹殺します】

 

 

『更なる、敵性を確認。適合者への殺意を確認』

 

 

憎悪と殺意に塗り固められた巨大兵器と、無慈悲に敵を滅ぼし尽くす黒銀の鎧が向き合う。互いにあるのは、目の前の敵への純粋な殺意。自分達の目的の邪魔になるであろう敵に対する彼等の反応は、簡単なものだった。

 

 

 

直後に、爆音が連鎖する。人の命を容易く奪う兵器達が、ぶつかり合う。目の前の光景は、日常から欠け離れた本格的に異質な世界であった。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

亜空間を通り、モザイカは退避している密漁船へと降り立つ。目の前に現れた黒いISに、密漁船の男達は驚きながらも、すぐさま話し始める。

 

 

「く、黒の旦那か!?無事だったのか!?」

 

『────あぁ、だが不味い事態ではある。それよりも、二人は大丈夫か?』

 

 

武装を解除したモザイカに、男の一人───密漁船の一団のリーダー格らしき男が、言い難そうに口を開く。

 

 

「あぁ………あの二人か。一人は酷いもんだ。俺達で手当てはしたが、火傷が酷くてもっとちゃんとした設備じゃないとダメだ。それに、もう一人は怪我もないけど、目に見えて落ち込んでてよ」

 

『…………そうか』

 

 

チラリと、密漁船の一室を見る。そこでベッドの上に寝かされ、応急処置を施された一夏と彼の隣で蹲ったまま箒がいた。モザイカはそれに何を思ったのか、無言であった。

 

 

そしてすぐに、密漁船の全員に向けて告げた。

 

 

『彼等を学園の関係者のいる場所へと連れていく。学園ならば整備は充実しているだろうし、彼の重体も何とかなるだろう。場所は此方の機器に送るが、構わないか?』

 

「ああ、大丈夫だ。あの二人、まだ若いしな。死なせる訳にはいかねぇよ。皆、同じ意見だ」

 

『………もう一度聞くが、構わないのか?お前達は犯罪者だ。学園に保護された後は、厳重な処罰を受けるかもしれんのだぞ?』

 

「保身で子供を見捨てたくない、それが俺達の意見だ。それに、自業自得さ。脅されたとはいえ、俺達が余計な真似したせいでこうなったんだしな」

 

『────感謝する』

 

「いいや、旦那のお陰さ。旦那があのデカブツを止めてくれなきゃ俺達は全員あの世に言ってたからな」

 

 

密漁船が、陸上へと向かっていく。後方に響く激しい戦闘から逃げるようであり、怪我人を早く連れていくように、急ぎながらも。

 

 

 

◇◆◇

 

 

海岸、いや旅館近くの浜辺に辿り着いた密漁船。彼等を待っていたのは、複数の武装したISであった。

 

 

「───止まりなさい、そこの船」

 

 

全て、IS学園の訓練機。それに搭乗しているのは教師陣であった。ピリピリとした空気は張りつめており、今すぐにでも爆発しそうな程である。

 

銃口を向けられ、両手を挙げて無防備を示す男達に、教師の一人が険しい顔で口を開く。

 

 

「この海域は非常事態の作戦で封鎖されています。作戦海域へ無断で侵入したとして、貴方達を捕縛し────」

 

「怪我人を連れてる、そちらの生徒だ」

 

 

マニュアル通りの言葉を遮り、リーダー格の男が口を開く。教師達が明らかにざわつき始める。

 

アナグラムとの戦闘の結果、学生の一人が暴走し、二人が撤退しているのは周知の事実であった。だがその後、様々な混乱により通信が繋がらず、行方不明という状態になりかけていた。

 

その最中、生徒達が見つかったというのだ。ISを纏う教師達の顔に僅かな喜びが滲む。それ以外に、本当に信じていいのかという疑念を。

 

 

 

「俺達は彼等がいなきゃ助からなかった。だからこそ、二人を連れてきた。一人は酷い重傷だ、どんな重い罰でも受ける。だから早く彼を治療して欲しい」

 

「ま、待ちなさい。今織斑先生と連絡を────」

 

「連絡なんて必要ないだろう!?応急処置はしたが、酷いのは事実なんだ!早くしないと間に合わなくなる!」

 

「ッ!動くな!」

 

 

必死に叫ぶ男に教師達は一斉に銃口を向ける。銃を構えた彼女達の顔には生徒の生存に期待するよりも、目の前の男達を敵だと疑う警戒心の方が強かった。あと少し、アクションが起きてしまえば、すぐにでも攻撃してしまうような予感が。

 

 

「まぁまぁ、信じようよ」

 

 

だが、それを引き止める者もいた。黒い長髪の女教師、霧山友華(きりやまゆうか)がISの前へと出て、教師達へと振り返る。

 

 

「彼等の言う通りだ。武器を下げて」

 

「ですが、霧山先生。罠の可能性も………」

 

「無防備でここまで来たのに?悪意を疑うよりも善意を信じよう。人の命が掛かってるなら、尚更さ」

 

 

彼女の言葉に教師達はすぐさま武装を解除する。その瞬間、離れた方にいた教師達が担架を持って走ってくる。船の室内へと向かう彼女達を他所に、友華は男達の方へと歩み寄る。

 

 

「貴方達を拘束します。事情聴取の後に、貴方達への処罰が下ります。それでいいですか?」

 

「あぁ、俺達全員そのつもりだ」

 

 

数人のISを纏う教師が付き添い、友華はそう問い掛ける。しかしリーダーがそう断言し、男達は互いの顔を見合い頷く。抵抗の仕草がないと確認した彼女は姿勢を正し、引き締める。

 

 

「───教師として貴方達に一言失礼します」

 

「?」

 

「私達の生徒を助けていただきありがとうございます。学園の教師を代表して感謝します」

 

 

その感謝を、男達は無言で受け止めた。それからして、彼等は教師達によって連れていかれた。その場から去ることになった彼等は、担架に乗せられた一夏と俯きながらも付き添う箒を一瞥し、前に向き直って進んでいく。

 

 

 

 

 

「────動くな、『魔剣士』」

 

『…………』

 

 

一方で、専用機持ち達は一夏の無事を安堵している余裕はなかった。セシリア、鈴、シャルル、ラウラの四人が自らの武器を構え、たった一人の敵へと向ける。

 

 

黒いISを纏うモザイカへと。

 

 

『…………この場に、もう用はない。長居をする気もないので、大人しく去るつもりだ。それでいいのではないか?』

 

アナグラム(テロリスト)の協力者を?冗談でしょ。こっちはアンタを捕縛する理由まであるのよ」

 

「そのIS、未確認ではありますけれど。個人がIS有する事は条例により禁止されていますの」

 

「────僕達はね、何も出来なかったし。けど、学園の敵を見逃す程、馬鹿じゃないんだよね」

 

「そういうことだ、『魔剣士』。大人しく投降するのであれば、無傷で済むだろう。いくら貴様のISが強力であろうが、専用機四機を相手に立ち回れるか?」

 

 

全員が、モザイカへの敵意を隠さない。当然だ。相手は国際社会から逃れ続け、テロリストに手を貸し続けた犯罪者なのだ。何より、今回のアナグラムとの戦闘で男性操縦者の内一人が重体となり、もう一人が機体の暴走に取り込まれているのだから、彼女達も関係者である目の前の存在に怒りを覚えているのだ。それが八つ当たりであったとしても、簡単に抑えきれるものではない。

 

 

それを聞いたモザイカが肩を竦める。バイザーの奥には、達観の色があるように思えた。

 

 

『───成る程。君達に勘違いをさせたようだな』

 

「何?」

 

『見逃す側のは君達の方ではない、この私だ』

 

 

それと一つ、とモザイカが人差し指を突き出す。軽く持ち上げた魔剣の剣先を地面に向けながら、彼女達に勘違いを正すように言う。

 

 

『ISは万能ではあるが、全能ではない。それは致命的な(おご)りだ』

 

 

カンッ! とモザイカが魔剣を地面に落とす。それだけの動作だった。たった一瞬、剣先が地面と触れた直後に深紅の雷が一帯へと走る。

 

 

雷が消え去ってからすぐに、異変は起き始めた。

 

 

「!?ISの出力が───」

 

「落ちている、だと!?クッ!何が起こっている!」

 

 

ISの機能が明確に下がったことに困惑するセシリア達。ただ出力が落ちているだけなら良かったが、最低限まで下げられていたのだ。

 

これでは満足な戦闘も出来ない。モザイカはそんな彼女達を見据えながら、魔剣を上空へと向ける。

 

 

『二秒、今の君達に出来る最速の攻撃、その限界だ。二秒もあれば、君達全員のシールドを削るなど容易い』

 

「貴様!一体何をした!」

 

『コード・ゼノス。今の君達が理解するには、まだ早いようだ』

 

 

そう言いながらも魔剣を振るうモザイカ。綺麗な斬撃により、空間に大きな亀裂が走る。開いた亜空間へと歩み、この場から消えようとするモザイカ─────その足元に、一本の刀が突き刺さる。

 

 

「そこまでだ。テロリスト」

 

『────』

 

 

首を動かしたモザイカ。

その顔の前に、日本刀の先が向けられていた。遠くから刀を投擲し、一瞬でモザイカの元へと近付いた千冬。世界最強の名を体現した彼女は、目の前の敵へ本気の敵意を向けていた。

 

 

「織斑先生!気を付けて下さい!敵はISを───」

 

「分かっている。アレはそういうISだ」

 

え? と、全員が愕然とする。驚きもせず、平然と答えた千冬の言葉に、違和感があった。

 

 

世界中の何処でも開発されたか不明な未確認のIS。まるでそれを前々から知っているような口振りに、誰もが硬直するしかなかった。

 

 

生徒達に目を向けず、モザイカを睨む千冬。彼女の口から、次の言葉が放たれた。

 

 

 

「───()()()()I()S()()()()()()()

 

『…………』

 

「答えろ。何故貴様がそのISを手に入れ、扱えている。偶々見つけたとは言わせんぞ。それは()()()が、厳重に保管したというISのコアだ。男は当然とはいえ、女であろうと使えるようなものでは──────」

 

 

 

 

 

 

 

 

『───その「()()」から託された。という答えでは不服か?』

 

「────ッ!!?」

 

 

その単語を聞いた千冬が、大きく動揺する。警戒心の籠った瞳が鋭くなり、射殺すような睨みを向けている。

 

 

だが、少しずつ。何かを理解したのか、千冬の瞳から敵意が消える。微かに、言葉を発そうとする口元が震え始めた。

 

 

「いや、まさか────そう、なのか?」

 

『────』

 

 

黒い剣士は答えない。一歩だけ動き、その身を亜空間へと預けた。逃げようとする敵に、千冬は追撃を行わなかった。亜空間へと沈むモザイカの姿を見続けた千冬が、日本刀をゆっくりと下ろす。

 

 

「…………総員、各自現状待機を。今から巨大敵性兵器と暴走したプラチナ・キャリバーの監視を開始する」

 

 

全員に向けられた厳格な言葉。凛としているはずの声音に覇気はないが、誰もが意見をすることもない。

 

 

こうして福音奪還作戦は失敗した。それだけではなく、更なる災禍が彼女達の前に立ち塞がるのだった。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

それから三時間が経った。

旅館の一室で箒は、椅子に座ったまま項垂れていた。ずっと目を覚まさず、全身に包帯を巻いた一夏の隣で。

 

 

背中を爆炎に焼かれ、爆破の衝撃を浴びた一夏は外側も内側もボロボロになっていた。そうなったのも全部、自分を庇ったからだ。

 

 

あの時、ちゃんと動けていればこうもならなかった。何度もそう思ってしまう。

 

紅椿の全能感に酔いしれ、龍夜もいないことに危機感を覚えず、自分達ならイルザを倒せると自惚れていた。そのせいで、自分が力に、紅椿に振り回されているだけという事に気付けなかった。

 

 

いつも、そうだった。

昔から力を手にすると、それに酔ってしまう。自分の力なら何でも出来ると、嫌悪するべき暴力に支配されてしまう。

 

 

───その時、自分が自分ではない感覚がするのだ。まるで誰かに唆され、赴くままに暴れてしまい───気付いた時には、衝動に駆られてしまったという絶望と後悔、そして誰かに入り込まれたような不快感だけがある。

 

 

(…………いや、自分を正当化してるだけだ。私が感情を押さえきれないのは、他ならぬ私のせいだ)

 

 

どこまで浅ましいのか。

激しい自己嫌悪でおかしくなりそうだった。自分は常に、自分のことしか考えていない。結局、こうなったのは自分のせいであるのに。

 

 

どうすることも出来ず、泣きたい気持ちを抑え込み、うちひしがれるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

パタン、と扉が開く。

真後ろから人の気配がしたことを感じ取りながらも、箒は視線を向けない。向ける気力も、答える余力もない。

 

 

箒の隣にまで足音が続く。一言も言葉が掛けられないことに気まずさすら感じる。隣に立ったのが誰なのか。確かめようとしても、その資格がないと躊躇ってしまう。

 

 

仲間から、どんな言葉を言われるのか。甘んじて受け入れる箒に、隣の人物が声をあげた。

 

 

 

 

 

「─────あー、これは中々に酷い。未だ生きてるってのが素直に驚きですね」

 

 

その声を聞いて、驚いた。

信じられなかった。箒は一度、この声を聞いている。かつて学園で起きた事件で、僅かに耳にしたことのあるその声音。

 

 

顔を上げた箒は隣に立つ相手を見て、絶句した。

 

 

「ぜ、ゼヴォド………?」

 

「こんにちは、篠ノ之箒さん。こうして顔を合わせるのは久し振りですね。あの時は本当に、世話になりました」

 

 

青色に近い長髪の青年 ゼヴォド・ヴォイス。実際に戦闘した一夏や鈴とは違い、箒は彼と話したことはない。だが、一夏達を追い詰めようとしたゼヴォドの行動から希望を見出だし、一夏達への伝えたことで彼は敗北した。

 

 

間接的に、因縁があると言っても過言である関係だ。何故ここにいるのか?という疑問が自然と沸き上がる。口に出すことも出来ず呆然とする彼女に、ゼヴォドは近くから引っ張ってきた椅子に腰掛ける。

 

 

「───何故私がここにいるか、という疑問は後で答えるとしましょう。まず私も、貴女に質問がありますので」

 

 

一夏の前に座るゼヴォド。隣でうつむく彼女に目線を配りながら、迷うことなく切り出した。

 

 

 

「貴女、戦う気はないんですか?」

 

「…………」

 

「こういう時って敵討ちだって息巻くもんだと思いますけど。他の皆もやる気出してますけれども、貴女もやるべきでは?」

 

「私は────」

 

 

彼女の心は既に折れていた。ISに乗って敵討ちと言い切る事など出来ない。最愛の人を危険にさらしたという事実が、求めていたISへの執着を断ち切らせていた。

 

 

「私は…………もう、ISに乗らない」

 

 

「…………ふぅん、そうですか」

 

 

弱々しい言葉。今にも消え入りそうなか細い声に、ゼヴォドはどうでも良さそうだった。本気でそうすればいいというように。

 

 

「別に貴方が乗らないのであれば、それでいいのでは?本人の意思は大事でしょうし──────まぁ、他の学生達が死ぬことになっても、貴女が気にするようなものでも無いでしょう」

 

「………?何を、いや、どういう意味だ?」

 

「界滅神機 クリサイア。貴女が対面したあの兵器が、此方へと向かっているようです。目的は、近くで待機している数百人の学生達でしょう。時間としては、あと二時間くらいですかね」

 

 

は?と箒は硬直する。何がどうなっているのか理解できない。あの巨大兵器が此方に来ている?待機している学生達が狙い?

 

そんな風に錯乱している箒に、ゼヴォドは畳み掛ける。

 

 

「あぁ、国連に期待しても無駄ですよ?彼等はこの事態を認識はしていても、対処に時間が掛かるらしいですよ。少なくとも、IS学園に対処させて自分達は被害を軽くしたいという考えがあるみたいですけれど」

 

「───」

 

「織斑千冬も専用機持ちと共に対応するようですけれど、厳しいでしょうねぇ。結局、作戦は失敗するかもしれません。そしたら専用機持ちは全員死に、学生も全員殺されるでしょう。────ここで寝ている彼も、同じく」

 

 

意識のない想い人の名を呼ぶ。心の折れていた箒は、どうするべきか分からずにいる。そんな彼女の肩をゼヴォドが叩く。

 

 

直後に、信じられないような言葉を彼は口にした。

 

 

 

「楽にしてあげよう、とは思いませんか?」

 

「な、に………?何を、言ってる?」

 

「彼ですよ、彼。どうせ界滅神機に無残に殺されるんなら、綺麗に殺してあげようって言うんですよ。私が」

 

 

ニヤリと笑いながら、言葉を失う箒へと言う。そんな彼女に見せたのは、カオステクターとメモリアルチップだった。今すぐ幻想武装を纏い、介錯しようか? と彼は笑顔で聞いた。

 

 

瞬間、箒の中で自己嫌悪以外の感情が破裂した。目の前のゼヴォドに対する怒りをあらわし、彼の胸ぐらを勢いよく掴んだ。

 

 

「ふざけるなッ!一夏に手を出してみろ!そんな真似をしたら私が──────」

 

「貴女が………どうするんです?ISに乗る気もない貴女が」

 

 

そこでようやく、ゼヴォドが冷ややかな目であることに気付いた。軽蔑するような表情と返された言葉に、箒は口ごもる。

 

 

その隙を狙うように、ゼヴォドは畳み掛ける。

 

 

「何もしようとせず、ただうちひしがれてるだけの貴女に何が出来るんですか。いや、何も出来ない。責任を周りに押し付けて、悲劇のヒロインぶって…………随分と身勝手で我が儘ですね」

 

「…………うるさい、うるさいっ!何が言いたいんだ!?」

 

「ISを、力を求めた以上、貴女に力を捨てて逃げる資格などありませんよ。いつまで可哀想なお姫様でいるつもりですか」

 

 

その言葉が、箒の沈んだ心を揺るがす。ゼヴォドの言葉は止まらない。塞ぎ込もうとしていた彼女の心に冷徹な言葉をぶつける。

 

 

「織斑一夏がこうなったことに責任を感じるのなら、貴女が代わりに戦うべきだ。そうしないのは貴女の我が儘。本来ならば、覚悟を決めて挑むべきだと理解できているはずなんです」

 

「だが、私は────」

 

「まどろっこしいですね!ここまで来て迷う理由がありますか!?貴女は何のためにその力を、ISを求めたのですか!?彼の隣に立ちたい、ただそれだけの願いでしょう!?

 

 

 

 

 

 

今の貴女は何です!?彼の、織斑一夏の隣に立てると思っているんですか!?」

 

 

厳しくも強い声でゼヴォドは怒鳴る。その通りだ、と箒は反論せずに受け止めていた。今の自分に、その願いを望むことすらおこがましいとすら。

 

 

しかしゼヴォドの言いたいこととは違うらしい。勢いよく立ち上がった彼は、鋭い声で続ける。

 

 

「絶望するのも結構!後悔するのもご勝手に!ですが、蹲って立ち止まるな! その脚は、どれだけ辛くても前に進むためにあるものだ!前へ進んで、進み続けろ!

 

 

 

 

それとも、織斑一夏がいなければ何も出来ないお姫様でいるつもりですか!?ずっと彼に守って貰う気で!?」

 

 

「───そんな訳ない!」

 

 

それだけはあってはならない。

自らの意思で否定した箒は立ち上がり、口を閉ざしたゼヴォドへと向かい合い、自身の思いを、決意を吐露する。

 

 

「私は、一夏の隣で戦いたい!だから、もう逃げない!諦めない!皆を守るのも!だから!」

 

 

言い切った箒に、ゼヴォドはふぅと一息つく。

 

 

「…………やれやれ、ようやくやる気になってくれましたか。疲れますね、ホントに」

 

「まさか、私にやる気を出させるために?」

 

「ええ、これも貴女への借りを返すため。感謝するのは御門違いってヤツです」

 

 

軽く手を払うゼヴォド。鬱陶しそうに見える態度だが、本当にそうは思ってないと箒は思う。

 

そんな最中、扉が開き入った来た千冬が箒を視線を向ける。

 

 

「………篠ノ之、少しは楽になったようだな」

 

「織斑先生、ご迷惑お掛けしました。失敗の責任は次の作戦で取らせてください」

 

「……………良いだろう。今度は油断をするなよ」

 

 

いつも通りの厳しい対応ではあるが、箒は更に気を引き締め、彼女の言葉を受け止める。

 

 

チラリ、と視線を移すとゼヴォドが壁に寄り掛かっている。どうやら無意味に割り入るつもりはないらしい。礼儀正しいのは良いのだが、気になる所があった。

 

 

「あの………織斑先生」

 

「何だ」

 

「彼がこの場にいること、驚かないのですね」

 

「………そうだな。お前にも話しておくべき事だった」

 

 

そう言いながら、千冬は重い口をゆっくりと開く。そして、衝撃的な事実を言葉にした。

 

 

 

 

「界滅神機とクロム・ルフェ。この二つの脅威に対抗する為に、我々IS学園はアナグラムと協定を組むこととなった」

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