IS 蒼き宙の向こうへ   作:虚無の魔術師

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朝のテレビで対魔忍が取り上げられたらしいんですけど………(戦慄)


うっそだぁ!(疑心暗鬼)

嘘だぁ………(確認)

嘘だァ!!?(衝撃)



───何でよりによって対魔忍が表に出てくるのか。退魔忍に性癖歪む(別の意味で)子供が増えるぞ(余計な心配)




第30話 黒無ノ妖精

────侵攻せよ、侵攻せよ、クリサイア。

 

 

界滅神機 クリサイア。頭部に内蔵された人工知能が、怪しく蠢く。単なる鋼鉄の塊でなく、人間の頭脳を模した役割を持つ大きなポッドに連結した無数のケーブル。それらを内包した、巨大な球体。

 

 

それこそが、クリサイアの全機能を統括する機関であり、クリサイアのコアだった。頭部より下にあるのは、クリサイアの胴体であり、遠隔からの信号で操られているクリサイアの武装の一つである。操り人形(パペット)を糸で吊らすように、コアはクリサイアという兵器の形を保っている。

 

 

浮遊ユニットにより、海面を浮遊する兵器の進行は着実であった。あと数時間もすれば、生体反応の多い陸地へと辿り着く。そうすれば全てが終わる。クリサイアは地上に出て、存在すら忌々しい人間達を殺し尽くすことが出来る。

 

 

 

『────────!』

 

 

電気信号が強まる。クリサイアは喜んでいた、高揚していた。あと少しで人間達を塵殺できるのだ。自らを造った創造主を裏切り、全てを奪い、その名前すら冒涜し尽くしたこの世界の人類を。

 

 

有り得ない話だった、機械に心などない。

クリサイアと呼ばれる兵器に搭載された人工知能が人類の死を望み、殺戮を望むなど本来の機械の常識ならば絶対に起こりえない事なのだ。

 

 

しかし、界滅神機はその枠組みから逸脱している。機械だから心を持たぬという理論は既に過去のもの。界滅神機は心を有した。怒りと憎しみという、想定外の力を引き出すという可能性をシステム化した最悪の機能が搭載されているのだ。

 

 

長かった、と人工知能は嗤う。

十年はいかずとも、それ程の期間。ずっと地下で、知りたくもない人間の生活を監視し続け、来るこの時のために工場を動かし続け、数多の武装や界滅神機(クリサイア)を製造してきた。

 

 

全ては、たった一つの願いの元。

 

 

 

────絶望に沈んだ博士の無念を、我等が晴らす

 

 

その意思に従い、クリサイアは進撃する。地上にいる人間を一人残らず虐殺するという目的を果たすべく。

 

 

そうして前へ突き進もうとしたクリサイア、その人工知能が動きを止める。何かを感じ取り、周囲を見渡そうとしたその瞬間、

 

 

 

クリサイアの胴体の装甲に砲弾が直撃した。装甲を穿ち、突き破った砲弾が直後に大爆発を起こす。

 

 

ズゥン………!と、クリサイアが揺れる。横に多く倒れる胴体を他所に、空中に浮遊する頭部が装甲の隙間へラインを走らせ、周囲を確認する。そして、すぐに攻撃をしてきた相手を見つけ出した。

 

 

 

 

「────初弾命中。続けて砲撃を行う」

 

 

近くの小島に、ラウラと『シュヴァルツェア・レーゲン』の姿があった。いつものような姿とは違い、左右には巨大な砲台である八十口径レールカノン《ブリッツ》が装着されており、前方左右には物理シールドが展開されている。

 

単なる装備ではなく、砲戦パッケージ『パンツァー・カノニーア』を改良し、装備させたものだ。

 

 

機動力を捨て去り、攻撃力に特化した砲台と化した『シュヴァルツェア・レーゲン』が再び、砲撃を開始する。起き上がろうとするクリサイアに、二発の砲弾が炸裂する。

 

 

【───ガ!遠距離砲撃を確認。距離及び場所を測定、狙撃者への報復用意。砲撃を防ぐため、拡散レーザーへと武装変換】

 

 

損傷を受けたクリサイアも、すぐさま動く。全面に展開された砲台が、砲身だけを切り替える。ガトリング形状の砲台が外側へと向けられ、再び放たれる砲弾の雨に、拡散レーザーを撒き散らしていく。

 

 

威力を最低限までに殺し、攻撃範囲を広げる為だけの攻撃はクリサイアを狙う遠距離砲撃を撃ち落としていく。その間にも、クリサイアは飛来する砲弾の斜角や距離を計算し、相手の居場所を探し出す。

 

 

 

【確認。およそ四キロメートル先の小島に敵を捕捉。報復として、遠距離専用の超高出力粒子砲を展開。狙撃を開始する】

 

 

ガシャガシャ、と装甲が割れて巨大な粒子砲が解放される。収納されていた砲身を最大にまで展開し、狙いを遠くにいるラウラへと定め、粒子砲を回転させていく。

 

 

「ちっ!反撃に出たか!」

 

 

舌打ちを漏らすラウラは砲撃を続けながらも動こうとする。しかし、通常時のような速さとは違い、動作は明らかに鈍重である。装備したパッケージと砲撃反動を防ぐための装備故に、IS特有の移動は厳しい。狙いを向けられる粒子砲から避けきれるほどの機動力は、今の『シュヴァルツェア・レーゲン』には存在しない。

 

 

だが、それは今の『シュヴァルツェア・レーゲン』のみに限る。

 

 

 

 

一条の光が、空から迫る。雲を突き破ったその一撃は、粒子を収束させていく砲身を中心から撃ち抜く。熱により溶けた粒子砲が内側から破裂し、クリサイアを大きく揺らす。

 

 

『────ッ!?』

 

 

突如の不意打ちに混乱したクリサイアだが、すぐにもう一人の敵の存在を感知する。

 

 

ステルスモードを解除し、大型レーザーライフルを構えるセシリアと『ブルー・ティアーズ』の姿を。点滅するラインが、捉えた。

 

 

すぐさま報復の為の兵装を展開する。最大にまで引き出した熱量の閃光を放とうとしたその瞬間、

 

 

 

 

 

「────うぉぉおおおおおらぁぁぁああああああッ!!!」

 

 

八面体の頭部に、凄まじい衝撃が響き渡る。上空から流星のように飛来した鈴が、クリサイアの頭部に飛びついたのだ。それだけは終わらず、彼女は自らのISである『甲龍』の、握り会わせた両腕を振り下ろしていた。

 

 

クリスタルのような綺麗な装甲に、ヒビが入る。押し殺すことなく上昇した加速が重なり、傷を与えるまでに至る。

 

 

『そ、損傷を確認!敵性対象の追撃を防ぐため、熱線攻撃を開始─────』

 

「させるか、っての!!」

 

 

振り払おうとするクリサイアに、鈴は装甲の隙間に手を伸ばし、そこを掴む。離れないように力を込めながら、両肩に衝撃砲を起動させる。

 

 

本来二つであった衝撃砲は、機能増幅パッケージ『崩山』によりもう二つ追加されている。合計四門の衝撃砲が火を噴いた。深紅の炎を帯びた砲弾が、ヒビの入った装甲だけを執拗に攻撃する。

 

 

『アアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!?』

 

 

クリサイア、その中の人工知能が叫ぶ。まるで本当に痛みを感じているかのような、激しい金切り声。無論、それで鈴の攻撃の手が止むことはなく、装甲を破るために本気の衝撃を叩き込んでいく。

 

 

砲撃を浴び続ける胴体の上部。装甲の隙間から、幾つかの銃が剥き出しになる。機関銃のようなそれらは、クリサイアの頭部にしがみつく鈴に向けて、乱射していく。背を向けて、攻撃に集中する鈴に、攻撃の手を止め防ぐ事は間に合わない。

 

 

 

代わりというように、別の機体に乗った少女が飛び出した。

既に放たれていた機関銃の弾丸の雨が炸裂するが、少女に傷はない。

 

前面に実体シールドを展開したシャルロット。彼女が微笑みながら動く。

 

 

「やったね!ならこっちもお返しだよっ!」

 

 

シャルロットが最も得意とする『高速切替(ラピッド・スイッチ)』。瞬く間にアサルトカノンを呼び出し、装甲から見えていた機関銃へと精密に撃ち込み、破壊していく。

 

 

そしてその間に、クリサイアの装甲の一つが砕けた。衝撃の弾幕に耐えきれず、粉々に崩壊する。

 

 

『ァァアアアアアア────ッッ!!よくも!よくも!!殺す!殺スッ!!!』

 

「はっ、感情的じゃない。まるで人間みたいね、いやそうだったっけか」

 

 

怒りのままに叫ぶクリサイアを見て、素直に感心する鈴。その態度がクリサイアにとって癪だったのか、言葉にならない機械音を、唸り声のようにして響かせる。

 

 

ドレスのようなバインダーから、無人ドローンが飛び出してくる。小型戦闘補助無人機『クリーシャ』、クリサイアの体内で製造され、使役されている無人兵器。戦闘用の無人機達が、一つの群れとなりながらセシリアや鈴、シャルロットへと向かっていく。

 

 

 

しかし、瞬間。

群れて突撃する『クリーシャ』に、光の羽根が突き刺さった。モノアイを穿たれたり、駆動部を抉られたドローンが墜落していく。胴体部や武装を破壊されるだけで済んだ『クリーシャ』達が羽根の存在を訝しんだ直後、一斉に爆ぜた。

 

 

『───!?』

 

 

攻撃ドローンの大群が、一気に削られる。爆発を受けて残存するドローン達のモノアイが、攻撃してきた方向へと集まる。しかし、そこにもう敵はいない。いや、ドローン達が追跡できるような速さではない、それ以上の速度で飛び回っているのだ。

 

 

かろうじて見えたのは、銀色の軌跡を残す天使のようなISだった。それを眼にした時には、ドローンは羽根の弾幕を直に受け、破損に次いで爆発を浴びる。

 

 

壊滅したドローン群に、銀色の天使が翼を広げる。翼を格納する『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』に、鈴達が通信を繋げる。

 

 

『さっすが、ナターシャさん!聞いてた通りの強さじゃないですか!』

 

「ふふっ、褒めてくれるなんて嬉しいね。この中で一番の先輩なんだから、もっと頑張ろうかしら?」

 

『────えーっと、悪いけどさ。クリサイアも再起動してきたよ』

 

 

オープンチャンネルに繋げてきたジールフッグの言葉に応じるかのように、クリサイアが激しい弾幕で一同を退ける。距離を置いたセシリア達を睨むように、クリサイアが全武装を展開する。

 

 

 

『そんじゃ、作戦通りお願いねー』

 

『「了解!!」』

 

 

全員が叫び、一気に動き出す。同時にクリサイアが全身から激しい光を放つ。遠くから見ればそれは、巨大な花が咲き誇るかのように、レーザーが分裂していく。

 

クリサイアが放ち、縦横無尽に降り注ぐ熱線の雨と、蜂の群れのように数を成していくドローン。一つの災厄と呼ぶべき界滅神機に、IS操縦者達が突撃していく。

 

 

とある男が未来に送った人類を滅ぼそうとする過去の呪詛。その権化と呼べる兵器を倒す作戦が、順調に進んでいた。

 

 

 

◇◆◇

 

 

時は少し前、作戦本部で対クリサイアの戦略を練っているさ中、ジールフッグからクリサイアのデータが提供された。

 

 

「クリスタルマテリアル。クリサイアの装甲に使われている人工物質であり、表向きには存在すら明かされていない特殊な素材。これが厄介なんだよねー」

 

 

本当に面倒そうに、溜め息と共にジールフッグは語り始める。

 

 

「この物質はエネルギーを吸収し、分解する効果を持つ。ISのエネルギー兵器、ビームブレードやレーザーキャノンなんて通用しない。有効なのは、エネルギーを含まない実弾や衝撃砲とかかな」

 

「…………つまり、わたくしは戦力以前の問題、という事ですわね」

 

「話がはやーい。そう簡単に済む事じゃないんだよね、ホントに。むしろ君がいないと困るわけ」

 

 

露骨に落ち込むセシリアに、呆れたように少年が椅子を回転させながら言う。クルクルと回りながら指を鳴らした直後に、ディスプレイに提示される情報が変化した。

 

 

 

「クリサイアのコア。頭部の部分はクリスタルマテリアルの装甲で覆われた内部には、巨大な防壁が形成されてる。防壁はあらゆる衝撃や攻撃を遮断する、強力なエネルギーの結界でね。それを唯一突破できるのが、ビーム兵器なんだとさ」

 

 

「それじゃあクリサイアを倒すためには………」

 

「ビーム系を無効化する装甲を破壊し、その内側にある対物用の防壁を破る必要がある、か。全く、初見殺しもいいところだ」

 

 

最初に攻撃してビーム兵器が通用しないと分かれば、後々に実弾で対策して挑むことだろう。その結果、装甲を破壊できたとしてもコアを打ち破ることは出来ず、消耗戦に追い込まれるか、退避しようとした背中を撃たれるだけだ。

 

 

ラウラの言う通り、本当の初見殺し。アナグラムと共同せずに専用機達だけで作戦を開始していたら、その原理に振り回されていた事だろう。

 

 

その点だけは、鈴達もジールフッグ達に感謝している。これを知らずに挑んでいたら、きっと無駄死にしていただろうから。

 

 

「…………」

 

「どったの?セシリア、緊張してる?」

 

「違いますわ。ただ、気になる点がありまして……」

 

 

ただ一人、全員が真剣に作戦に取り組もうとしている中、セシリアだけが何か考え事をしているようであった。

 

配布された端末でセシリアは何度もクリサイアを記録した動画を見返していた。そして、納得できないような顔をしてから、すぐに顔を上げる。

 

 

「レディアスさん、クリサイアの攻撃パターン、いえレーザー攻撃の軌道について聞きたいのですけれど────何かおかしいとは思いません?」

 

「………やっぱ気付くよなぁー」

 

「?どういうこと?」

 

「普通の砲撃でここまで軌道が変わるなんて、まるで制御しているようにも………」

 

 

クリサイアの放つビーム熱線。その軌道変化は単なる偶然ではなく、確実なものだった。

 

一度は一夏を連れて逃げる箒を狙った時。全速力でビーム砲撃を回避した箒だが、その瞬間綺麗に折れ曲がったビームにより背中を撃たれそうになった。

 

二度はモザイカとの戦い。搭載された砲台の全門から放つビーム光線がまるで自我を持ったかのように動き回り、モザイカを狙っていた。

 

これだけ見れば、一目瞭然だ。クリサイアはビームの軌道を自由自在に操っている。それも数百を越えるビームを、ほぼ同時に。

 

 

「まさか、人工知能が?流石に無理でしょ、機体や浮遊ユニットの制御でも十分なのに、ビームの操作まで出来るなんて 万能過ぎるって。そういう自動装置でも付いてんじゃない?」

 

「…………人工知能、か。私も気になる所がある」

 

 

一人だけ呟くラウラに全員の視線が集まった。

 

 

「お前達も気になっているだろう、あの兵器が感情を有していることを」

 

「………分かってる、けど有り得ないよ」

 

「でもねぇ、あんな風に憎悪剥き出しにしてるのが単なるコピーには見えないのよね。どう見ても、人間のソレよね」

 

 

白熱した談義では、答えを出すことは出来なかった。埒が明かない、そう判断したラウラはさっきから無言で話を聞いていたジールフッグへ声を投げ掛ける。

 

 

「貴様はどう思う?ジールフッグ・レディアス。いや、答えくらいは予想できているんだろう?」

 

「…………正直、僕も信じたくない話だけどねぇ。これだけは」

 

 

否定したいと言うような表情でジールフッグは笑う。口元をひきつらせた顔は、未だ何か強い衝撃を受け入れきれずにいるのだ。

 

ディスプレイを弄りながらも、ジールフッグは語り始める。ゆっくりと、噛み締めるように。

 

 

「今から話すことは、確率自体は低いものだ。けど、可能性がないという訳じゃない。そんなことがあるかも、って覚えておいてほしい」

 

 

そう前置きしておく。それは、自分でも納得したくないという表れだろう。

 

 

だが、それでも。ジールフッグはその事実を口にした。本当に平然と、心中では激しく何かへの嫌悪感を剥き出しにしながら。

 

 

 

 

 

 

 

「────クリサイアに、生きた人間がいるかも。いや、正確には人間だったものとか、かね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クリサイアが起動してすぐ、ジールフッグ率いる部隊はクリサイアの現れた場所を確認した。海の底に見えた、偽造されている巨大な工場。

 

 

おそらく、クリスタルを製造したであろう巨大な工場を、ジールフッグ達は捜索したが、成果らしきものはクリサイアのデータくらいしかない。他に分かることは、クリサイアが動き出すまではこの工場が稼働し続けていたという事だ。

 

 

有り得ない、と部下達が騒いでいた。

このハワイ沖に人の目はないとはいえ、空からの目───衛星の存在がある。上空から監視されている中、海底に巨大な工場を建造し、その中で兵器を造る等常識から外れている。

 

そんな埒外を可能とする存在など、今の世界ではただ一人しかいないが、彼女がこんなことをするとは思えない。

 

 

そう思っていたジールフッグは、あるモノを見つけた。保管庫に仕舞われていた無人兵器。第三次世界大戦で猛威を振るった悪魔の兵器達であった。

 

 

同時に、ジールフッグだけが確信した。この工場を誰が造り出したのか。一体何時から存在しているのか、理解した結果諦めたように笑うしかない。

 

 

界滅神機の世界を滅ぼそうとする程の怨嗟。その動機は、単純なものだった。

 

 

『………じ、ジールフッグ様』

 

『─────?』

 

 

部下の一人が震えた声で呼び掛ける。眉をひそめ、首を持ち上げたジールフッグの視線がある物を捉える。その瞬間、自堕落な少年が明確に青ざめた。

 

 

鎮座していたのは、無人兵器の一つ『コクーン』。これが第三次世界大戦活躍した兵器の中で強いかと聞かれれば否定する。この兵器はISなど無くとも、単なる戦車やロケット砲でも殺せる弱小な兵器だ。

 

 

だが同時に、この兵器は恐れられていた。あまりにも残虐かつ悪辣なその在り方は、未来である今も激しく嫌悪されている。創造主である八神博士が悪魔と呼ばれる、要因の一つ。

 

 

 

───人間を殺す。

それだけに特化した『コクーン』は、人間が放つあらゆる反応────熱や呼吸、心拍などを観測し、シェルターなどを破り、中にいる人間を嬲り殺しにしたという悪行を持つ。虫のように複数で蠢き、隠れた人間を引きずり出して殺したのだ。大人や子供、赤子すらも。

 

 

だが、ジールフッグは予想できた。ここに並ぶ『コクーン』の存在を直で見て、この兵器の本来の運用法が何なのか。人間を殺す以外に存在する、この兵器の真の価値。

 

 

 

 

────第三次世界大戦での死亡数は一億を越えていた。しかしそれは、あくまでも死んだと確認できた人間。ごく僅か、数千人ほどの子供が行方不明だった。無惨な殺され方をしても死体のある大人達や赤子とは違い、六歳から十九歳の子供達の死体が綺麗に消え去っていた。

 

 

そして、『コクーン』の体躯の中には開いた空間があった。そう、子供なら数人は軽く入る程の広さが。

 

 

 

十年前から存在する工場。死体すらない行方不明の子供達。『コクーン』の胴体にある空間。並列思考で機体を動かしながら、人間のような感情を剥き出しにするクリサイアの存在。

 

 

これらの証拠が、どんな答えを見出だすのか想像する。

 

 

 

 

『───いや、流石に可能性は低い』

 

 

想像して、止めた。ジールフッグの顔色は相変わらず青い。世界有数のハッカーでも、この事実だけは信じられない。いや、信じたくない。

 

 

無理矢理にでも否定したジールフッグだが、既に分かっていた。こんな露骨な証拠が多いのにも関わらず、そんなことありませんよ、などで終わるはずがない。

 

 

八神博士が散り際に残した呪い。それがクリサイアであるのならば、ジールフッグの最悪の予想は的中するだろう。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

遠くで戦闘音の響く海域。

青色に光が照らされる海面を、凄まじい速度で突っ切るモノがいた。

 

 

背中の四枚の羽を大きく広げる『クロム・ルフェ』。無機質なフルフェイスに刻まれた無色の結晶が辺りの光景を、目線の先を凝視する。

 

 

世界を滅ぼすために造られた禍々しき花の兵器。複数のISに翻弄されているその姿を見た瞬間、『クロム・ルフェ』は思考を高速で回転させ、自らの為になる答えを導き出した。

 

 

────まずはクリサイアを沈黙させる。ヤツを無力化する、いや無力化させるのだ。他ならぬIS学園の学生達に。彼女達が勝ち誇った直後を狙い、一人を確実に仕留める。勝利に酔いしれた少女達が現実に戻る前に、全員を徹底的に殺し尽くす。

 

演算は完了。失敗しても問題はない。相手はクリサイアと戦闘して疲弊している。全快状態なら兎も角、コンディションが悪い時にもう一つの脅威に対抗できるかと言われれば否。どちらにしても、クロム・ルフェに恐れることはない。

 

 

そうまでして、クロム・ルフェが他人の殺そうとする理由は、クリサイアのような憎悪ではない。むしろその逆、忠誠である。自らのマスターである蒼青龍夜、彼を守護するためにも、クロム・ルフェは脅威となり得る存在を放任することはない。

 

 

モザイカを狙ったのも、それが理由だ。

クロム・ルフェは外界、他人を知らない。自らの主が極力殺傷を好まぬことも、信頼できる仲間がいることも、理解していない。

 

クロム・ルフェにとって、大切なのは自らの主だけ。それ以外の人間、力を持つモノは全て、主を傷付ける可能性のある危険因子。

 

 

ならば殺すしかないだろう。相手のことを知らぬ以上、そんなものを信じることなどクロム・ルフェには出来ない。たとえ世界中からあらゆる生命を根絶させることになろうと、クロム・ルフェは蒼青龍夜を護り続ける。

 

 

それこそが、『彼女』の造られた理由なのだから───。

 

 

 

キィィィィン─────

 

 

『─────?』

 

 

思わず、飛翔を止めた。何か、高い音が響いている。人間では聞き取れない程の高周波が、共鳴するかのように辺りで連鎖する。次第に近付いてくる音に、クロム・ルフェは動かない。

 

 

そして、空気が弾け飛んだ。いや破裂したというべきか。クロム・ルフェは透明な爆発をアッサリと回避した。何てことはない。駆動部に存在するブースターを噴かし、後方へと跳んだに過ぎない。

 

 

その隙を、相手は狙っていた。

 

 

 

 

「───受けるがいいッ!音波超撃!」

 

 

海面から飛び出してきたゼヴォド。ISとも違う異端の兵器『幻想武装(ファンタシス)』を纏い、胸元に収束させた半透明な音波の塊を砲弾として放つ。

 

 

真下からの奇襲に、クロム・ルフェは淡々と対応する。無重力下に存在するように、身体だけを綺麗にゼヴォドへと向ける。真下から突撃する衝撃波を片手で掴み、容易く吸収していく。

 

 

『───』

 

「………話に聞いてた通り、無茶苦茶な力だ。音波の攻撃すらエネルギーに変換するなんて────これは勝ち目があるのか厳しい」

 

【適性を確認。対象一人、排除を開始します】

 

「…………ま、負けるつもりなんてサラサラありませんがね」

 

 

直後、海面から何かが飛び出してきた。筒状の物体が四つ。それらはアナグラムが所有する新型ミサイルである。それらの標的は、クロム・ルフェただ一人のみ。

 

 

黒銀の妖精は一瞬で動く。両手の掌に内蔵されたエネルギー吸収部位が、全く別の機関へと切り替わる。

 

外側から内側へと吸い尽くすのではなく、外部放出する砲口を。掌に形成し、四基のミサイルへと向ける。

 

 

 

【───『クロス・エッジ』発動】

 

 

 

両手から放たれた二本の閃光。放出したエネルギーを刃の形として構築し、展開する。その刃を、クロム・ルフェは意図も容易く放射した。

 

 

二本の刃が交差する。空中で一つとなったエネルギーの刃は一瞬でその形を崩し、小さなエッジを模したエネルギー体へと様変わり、降り注ぐ。

 

 

ミサイル全てが撃墜された。嘘でしょう!?と冷や汗をかくゼヴォドに、クロム・ルフェが突貫する。音速のような速度で飛び掛かったクロム・ルフェが、正確に透視出来ない爆煙を一瞬で通過し、ゼヴォドの元へと辿り着く。

 

 

焦ったように、彼が叫んだ。

 

 

 

「────今だ!篠ノ之さん!」

 

 

僅か、0.1秒。クロム・ルフェは硬直した。

しかし、即座に戯れ言と切り捨てる。ハイパーセンサーに類似するスキャナーは常時、広範囲を探知するように起動している。

 

 

数キロ圏内。そこにどの反応も存在しない。遠くで戦う者達の反応までは補足できないが、少なくともゼヴォドの味方は誰一人としていないのは確かだ。

 

海中にも、雲の中にも、隠れられる場所など存在しない。高性能のスキャナーは、一部の例外を除いて全てを探知して────全てを、全てを?

 

 

ゾワリ、とクロム・ルフェがある可能性を感じ取った。そして、全身の鎧に感覚を行き渡らせると共に────真後ろからの斬撃を受け止めた。

 

 

そこにいたのは、『紅椿』を纏う篠ノ之箒であった。

 

 

「………ッ!やはり止められたか」

 

『───』

 

「何故、私がここにいるのか。理解はしているか」

 

 

何故すぐ近くまでいるのか。演算機能を働かせ、一つの答えを出した。彼女はあのミサイルの中に隠れていたのだ。クロム・ルフェがミサイルを破壊した瞬間、爆煙の中には特殊なチャフが仕込まれていたのだろう。

 

 

相手をエネルギーやISの信号で感知しているクロム・ルフェは、そのチャフの存在を見抜けなかった。爆煙を認識できずにいたことを無視しなければ、慈善に気づけていたかもしれない。

 

 

「知っているなら結構、知らなかろうが関係ない───」

 

『ッ!』

 

「今はお前を倒し、龍夜をそこから救い出すのみ!」

 

 

二本の近接ブレードと共に斬りかかる箒。クロム・ルフェは両手の機関を高速で変換しながら、左右から打ち込まれる刃を両腕で弾いていく。

 

 

掌の装置が再接続を終えた直後に、クロム・ルフェは振るわれる刀を掌で受け止めていく。刃が装甲に触れ、衝撃が空間に響く。掌に流れ込む衝撃をエネルギーへと変換し、体内に蓄積させる。

 

 

それでも箒は攻撃の手を緩めない。迷うことなく斬りかかっていく彼女の姿に、クロム・ルフェは侮蔑も呆れも見せない。淡々と、攻撃を自らのエネルギーへと変えていく。

 

 

そんなクロム・ルフェの背後から、ゼヴォドが動き出した。

 

 

「私を!無視しないで貰えます!?」

 

 

弦の形のブレードを横に叩き付けるだけの一撃を、クロム・ルフェは強引に防ぐ。箒の剣を受け止めるための両腕の片方を緩め、ゼヴォドの方へと向ける。相手の攻撃を、受け止めるべく。

 

 

しかし、ゼヴォドの一撃は掠る程度で終わった。代わりに、怪訝そうなクロム・ルフェを真横からの斬撃が襲う。

 

 

スパァン! と放たれた刃は弾ける。それが水であることを理解した黒銀の妖精に、ゼヴォドが微笑みかける。

 

 

「知らないんですか?私の幻想武装、セイレーンは歌うだけが取り柄じゃないんです。セイレーンって人魚って伝承が有名でしょう?」

 

 

片手の中でゼヴォドは水を転がすように遊んでいた。青年の手の中にある水は流動的でありながら、掌から零れることはない。

 

 

「水を操れるなんて、幻想的(ファンタジー)ですよね。まさに我々の特権だ。……………ま、ISでも私に近い能力を持つのがあるみたいですけど、ね!」

 

 

そう言いながら、掌の水をクロム・ルフェへと叩き付ける。手から離れ宙に浮かんだ最中、液体は一つの刃となり、クロム・ルフェの胴体を切り裂く。

 

攻撃の反動を受け、動きが遅れるクロム・ルフェに箒が刃を振りかざす。切り裂かれていく黒銀の妖精に蓄積していくのはエネルギーだけではなく、ダメージもあった。

 

 

箒の腕の展開装甲から、生じさせたエネルギー刃をクロム・ルフェへと放つ。直撃し、エネルギーが霧散した直後から、変化が起きた。

 

 

クロム・ルフェが動きを止める。そんな黒銀の妖精を中心に、世界が変わっていく。消失していくエネルギー、水や光が一つの鎧によって収束されていた。

 

 

外界から吸収し尽くしたエネルギーを放出する、辺り一帯をまとめて吹き飛ばす破壊の一撃だ。

 

 

「────来ましたよ!例の技!」

 

「ああ!ゼヴォド!気を引き締めておけ!」

 

「人の心配より、自分にでも言ってくださいよ!」

 

 

軽く言葉を交わし、二人が動く。ゼヴォドが箒の、『紅椿』の背中のパーツを掴む。瞬間、超音速で加速してきた赤が空を突っ切る。

 

 

数秒もしない内に、クロム・ルフェが莫大なエネルギーをその身に纏っていた。ギロッ、と光に包まれた鋼の妖精が箒とゼヴォドを睨み、エネルギーの渦をより大きくさせていく。

 

 

そのエネルギーが、一瞬で圧縮する。僅かな時間が、彼等の狙いだった。

 

 

『紅椿』が最大速度で加速し、クロム・ルフェの近くを通り過ぎる。敵を前に動けずにいる鋼の妖精に、ゼヴォドが背中のハーブを向け、事前にチャージしていた音波の波動を撃ち込んだ。

 

 

無防備な体躯に、衝撃が響く。直後だった。圧縮されたエネルギーを纏っていたクロム・ルフェの鎧にあった機能が一部シャットアウトされる。

 

溜め込まれたエネルギーが、クロム・ルフェを中心として破裂する。外側に放出する事も出来ず、黒銀の妖精は自らの産み出した膨大なエネルギーの爆発に巻き込まれた。

 

 

【『──────ッ!?ッッ!!?』】

 

 

混乱するクロム・ルフェは、自分の機能の欠点について理解していなかった。それを最初から知っていたのは、クロム・ルフェを搭載した束と、創造主の二人。

 

 

『────クロム・ルフェって実は無敵じゃないんだよね。あらゆる物質をエネルギーに変換できるって無敵に聞こえるけど、吸収と放出は同時には出来ないのさ。そのために全身の回路書き換える必要があるんだよ。

 

 

 

 

 

だから、周囲からエネルギーを吸収し尽くして解き放つ「クロム・インパクト」は最大の隙なのさ。エネルギーを吸収して、放出する段階に回路を変えた直後に攻撃を与えれば、クロム・ルフェはその機能を停止させ、自身のエネルギーで倒れるってワケさ!』

 

 

全身から火花を散らすクロム・ルフェ。機能のほとんどが停止し、再起動を行っている。あと少しもすれば、完全に機能を取り戻し、先程の奇策も通じない戦術を扱うだろう。

 

 

だから、今しかない。クロム・ルフェを倒し、その中にいる青年を救うには、今を狙うしかない。

 

 

「は、ああああああ───ッ!!」

 

 

その思いと『紅椿』と共に、箒は大翔を飛び抜ける。クロム・ルフェを解除するには、あと一押し必要だ。迷うことなく、両刀を構え加速を続ける。

 

 

ピタリ、とクロム・ルフェの首だけが箒に向けられる。フルフェイスに組み込まれた結晶が煌めいたと思えば、閃光が放たれた。

 

 

(ッ!?顔からも攻撃を!)

 

前に突き出した刀で、閃光を防ぐ。しかし完全には止めきれず、至近距離の爆発によって刀が一本、弾き落とされる。

 

 

それでも箒は突き進む。そんな彼女に、クロム・ルフェはフルフェイスに光をチャージする。間に合わない、彼女の刃よりも先にクロム・ルフェが攻撃を放ってしまう。

 

 

「────箒さんっ!!」

 

 

必死に、ゼヴォドが叫ぶ。援護をしようにも時間と距離が足りない。そんな中、箒は目の前にいるクロム・ルフェを見据えていた。

 

 

(まだ、諦めない)

 

 

何人かの顔を思い浮かべる。

まず、想い人と古き友人である幼馴染みの二人。そして、学園で共に過ごしてきたクラスメイト達。

 

 

そして、あの鎧に囚われた友人。無愛想でありながらも、確かな強さと不器用な優しさを持ちながらも、自身を天才と謳うおかしな所もある青年。

 

 

彼が意識を奪われ、鎧によって無理矢理操られている。このままではもう帰ってこれないかもしれない。それだけは、目の前で何もだけないのが嫌だった。

 

 

決意したのだ、必ず助けると。

友人一人を救えずに、この力を求めた意味などない。憧れ、想い焦がれた青年の隣に、並ぶ資格などない。

 

 

(もう、見ているだけではない!そんな事は絶対にしない!私は、この力で守るんだ。友人を、仲間を!この手で!絶対に!!)

 

「諦める、ものかぁぁああああああッッ!!!」

 

 

喉から発せられた咆哮は、箒の心を震わせる。覚悟を以て前に突き進む彼女が、限界までに力を引き出したのか。一本の刀に、白い光が宿った。

 

 

【────ッ!!】

 

 

キュォンッッ!!! と、輝く光が解き放たれる。放出される閃光に、箒は光を纏う刃で切り払う。より濃く収束されたエネルギーが光の刃を前に分解され、消失する。

 

 

圧縮されたエネルギーの光は、白く輝く刃によって消し去られていく。そして、光を突き進んでいく箒の刀が、クロム・ルフェのフルフェイスに一太刀を浴びせた。

 

 

ピシ、と斬撃で仮面が割れる。半分に分断されたフルフェイスを両手で押さえたクロム・ルフェの全身が、軋む。強い光となった途端、パァン! と黒銀の鎧が一気に消し飛んだ。

 

 

意識のない龍夜と、プラチナ・キャリバーが姿を見せる。彼の背中に格納された鞘は無事だったが、空中に放り出された銀剣はそのまま海の方へと落ちていく。

 

 

それに続いて龍夜の身体が空へと放り出される。落下が始まろうとした青年を、箒が何とか掴んだ。何とか受け止めた箒は気を失っている龍夜を抱え、安堵の息を漏らした。

 

 

 

「…………やった、みたいですね」

 

「ああ、そうだな」

 

 

フッ、と笑いながら近付くゼヴォドに箒もそう答える。二人は青年の無事を確認し、自分達の作戦の成功を察知し、一息ついた。

 

 

 

彼等は、まだ気付かない。この海域での戦いはまだ終わっていないことに。自分達が知らぬ埒外の存在が、本格的に動くことには。




まだまだ戦いは続くよ(邪悪)

話の進みがスピードありすぎると思いますけど、IS自体ハイスピード学園バトルラブコメだから多分セーフ(アウト)


では次回もよろしくお願いします!それではッ!
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