IS 蒼き宙の向こうへ   作:虚無の魔術師

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第32話 白雪・金火

「一夏……、一夏っ!一夏なのだな!? 体は、傷はっ………!」

 

 

受け止められた箒は戸惑い、言葉を詰まらせる。そんな彼女を安堵させるように、一夏は笑って答えた。

 

 

「ああ、無事だぜ。箒の方も、無事でよかった」

 

「そ、それは………此方の台詞だ………」

 

「なんだよ、泣いてるのか?」

 

「な、泣いてなどいないっ!」

 

 

止めどなく溢れる涙に、箒は目元をぐしぐしと拭う。漏れそうな嗚咽を抑え込み、箒は気を引き締めようとする。一夏はそんな彼女に微笑み、頭を優しく撫でていた。

 

そこで、気付いたように言う。

 

 

「箒、リボン失くしたのか?」

 

「………ああ、少しな。だが、気にすることなど───」

 

「いや、そんなこと言うなよ。これやるからさ」

 

 

一夏が取り出したのは、白いリボンだった。手渡されたものを受け取った箒は、困惑しながら一夏の顔を見る。

 

 

「こ、これは………?」

 

「誕生日おめでとう、こんな時に言い出してごめんな」

 

「あっ………」

 

 

七月七日、今日は箒の誕生日だった。

プレゼントを何にするか悩んだ一夏はシャルロットに手伝ってもらい、このリボンに決めたのだ。あくまでも助言を受けただけで、選んだのは一夏本人だった。

 

 

「今のうちに使ってみたらどうだ?」

 

「あ、ああ………」

 

「少し待ってろ、アイツを止めてくる」

 

 

言い終わり、一夏は飛翔と共に加速する。飛来してきた黒と銀の鎧と激突する───直前で、互いに動きを止めた。

 

 

無機質に立ち尽くすクロム・ルフェ。

何時でも相手を殺せるように身構えるその鎧からは、自分以外の存在への敵意しか感じられない。

 

 

『────』

 

「龍夜、聞こえてるか」

 

 

自分に向けられる敵意にも、一夏は臆することはない。そんなもの気に掛ける必要などないと言うように、彼は言葉を続けた。

 

 

「箒もセシリアも、鈴もシャルもラウラも、千冬姉も山田先生も、心配してる────もう、帰ろうぜ」

 

 

ピクリ、と指が動いた。

途端に、クロム・ルフェの全身が震え始める。目に見えて震え出したと思えば、無機質なその動きが崩れた。

 

顔を押さえ、腕を持ち上げるその姿は、人間的なものへと変わる。同時に、フルフェイスの内側から声が漏れ出してきた。

 

 

『────ぅ、あ』

 

「龍夜」

 

『悪い………一夏、身体が言うことを………アイツは、俺を、守ろうと…………話を、聞かな──────』

 

 

ガクン! と、全身から力が抜けた。

直後に、ゆっくりと。人形を糸で動かすように、腕や脚が、胴体が、そして首が、ギチギチと持ち上がる。

 

フルフェイスの中心の結晶に、再び光が灯った。その不気味な現象に、一夏は慌てることなどない。何が起こっているのか、彼は既に正解を見つけていた。

 

 

「お前は、守りたいだけなんだな」

 

『────』

 

「俺も同じだ。だから、お前を止める。そして龍夜を助け出す」

 

 

瞬間、クロム・ルフェが飛び出した。

一夏を完全に敵と認識したのだろう、振り上げた両手を一夏へと叩きつけようとする。

 

 

だが、その攻撃を───一夏は雪片弐型で打ち払った。軽々しく、右手だけで振るわれる一撃に、クロム・ルフェは追撃の拳を放とうとする。

 

 

それに応じ、一夏も左腕を持ち上げる。

彼の意思に答えるように、籠手が動き出す。白式の第二形態、その武装である『雪羅』であった。

 

籠手の指が開き、指先からエネルギー刃のクローが伸びる。五爪を突き立てようとしたクロム・ルフェの掌と激突し、弾かれる。

 

 

ダメージは受けたのか、黒銀の装甲には傷痕が残っていた。しかし瞬時に再生したクロム・ルフェは反対の腕を突き出す。掌に収束したエネルギーが一塊となり、光線として放出される。

 

 

「させるかッ!」

 

 

避けることなく、そのまま突撃する一夏。突き出した左手の『雪羅』が組み変わり、変形を始める。光の膜が広がると共に、直撃した閃光を綺麗に消し飛ばす。盾で伏せいでるように見えるそれは、零落白夜を受け方をしていた。

 

 

『雪羅』の機能は、単なるエネルギーの展開ではない。零落白夜と同じエネルギーである、アンチ・エネルギーを利用したクローモードとブレードモード、シールドモードなどの複数のモードを運用する多用途武装だ。

 

当然ながら、エネルギーの消費は激しいが、それで絶大な強さであるのは変わりない。エネルギーを奪い、増幅させるクロム・ルフェにとっては唯一の天敵と言っても過言ではない。

 

そう判断したからこそ、いち早く排除を実行しようとしたのだ。クロム・ルフェは、目の前の青年を。

 

 

『───ッ!』

 

 

エネルギーを纏わせた両手で、クロム・ルフェは勢いよく飛び掛かる。背中のスラスターから噴出したエネルギーの残粒子が曲線を描き、真上から強襲する。

 

 

振り返り様に、一夏が雪片弐型を振り上げる。弧となる斬撃を、クロム・ルフェは身体を捻り回避する。至近距離まで近付いた黒銀の妖精が掌のエネルギーを握り潰し、拡散する光の雨を放出させた。

 

 

その合間を狙い、荷電粒子砲『月穿』で狙いを構え、狙撃する。胴に直撃したオレンジ色の閃光が空間を焼き、クロム・ルフェが大きく動きを止める。

 

 

『ッ!ッ────!!』

 

 

瞬間、一夏の追撃よりも早く、真下へと超加速する。は!?と唖然とする一夏が気付いた時には、クロム・ルフェは海面へと激突していた。

 

 

ドバァァンッ!! と海面が荒れる。

引き起こされる津波が大災害のように周囲の海へと広がっていく。呆然と海を見つめた一夏が、疑問を漏らす。

 

 

「アイツ、何がしたいんだ?」

 

 

そこで、ハイパーセンサーが何かを感じ取る。エネルギーの総量が、異様なほどに増幅していた。海面の方を観測すると、クロム・ルフェの姿が見えた。

 

 

一瞬踞っているように見えたが、実際には海面に両手を押し付け、何かをしている。よく凝視すると、クロム・ルフェの手を起点として、海水が大きく荒れていた。

 

 

いや、違う。

 

 

 

「────水を、吸い上げてるのか………!?」

 

 

クロム・ルフェの能力、その真価にまでは気付いていなかった。掌からエネルギーを吸収し、放出する機能。そして外部から接収したエネルギーを特殊なリアクターで増幅させるもの。

 

 

────あらゆる物質や存在を、エネルギーへと変換し吸収する機能。太陽光や空気、汚染物質までも動力へと変える力は人類がどれだけ掛けても造れなかった変換炉そのものである。

 

そして、水も。クロム・ルフェにとってエネルギーへと変える資源の一つに過ぎない。だが、それだけではなかった。

 

 

『─────!!』

 

 

クロム・ルフェの身体が、大きく揺れる。全身の装甲が軋み始め、膨張するエネルギーを受けとめていた。膨れ上がる黒銀の装甲の背中から─────複数の触手が生えた。

 

 

いや、黒い骨格が複数の間接を折り曲げている。それらの骨格が膨れ、形や質量を別物へと書き換えていく。変化していく二本の触手は、腕の形となっていた。

 

 

エネルギーを吸収、その他のものをエネルギーへと変換するだけではない。エネルギー自体を物質へと変換することが出来るのだ。クロム・ルフェの装甲を構築する特殊な物質へと。

 

 

光が消えた時には、クロム・ルフェは首を持ち上げる。背中から伸びる、二本の腕を不気味に動かしながら。起き上がると共に、限界を超えたエネルギーを周囲へと解き放った。

 

 

『─────!!』

 

「ッ!」

 

 

合計四本の腕を構え、咆哮と共に突進してくるクロム・ルフェに、一夏は雪片弐型に『零落白夜』、左手の雪羅を稼働させ迎え撃つ。

 

 

白と黒の光が、空を駆け巡る。縦横無尽に飛来する二つの閃光は衝突し、膨大なエネルギーを辺り一帯に撒き散らしていく。

 

 

◇◆◇

 

 

(───一夏が、駆けつけてくれた)

 

 

胸の中で、心が躍動する。

激しく脈打ち、跳ねるその気持ちは喜びであった。意識不明であった一夏が無事に戻ってきてくれたことに対するものであるのは確かだ。

 

 

それ以外にも、他の思いが彼女の胸に芽生えた。

今も尚、戦う青年の背中を見て────願っていた。

 

 

(私は、共に戦いたい………あの背中を、守りたい!)

 

 

強く、より強く願う。

その思いに応えるように、紅椿から光が滲み出す。展開装甲から溢れていた赤い光が強くなっていく。

 

 

「これは………!?」

 

 

黄金の粒子を微かに混じらせる赤き光に戸惑う箒。ハイパーセンサーからの情報で、消失したはずの機体のエネルギーが急激に回復していくのが分かった。

 

 

────『絢爛舞踏(けんらんぶとう)』、発動。展開装甲とのエネルギーバイパス構築、完了。

 

 

情報ウィンドの項目にあるのは、ワンオフ・アビリティーを示す文字列であった。突然のことに混乱してしまいそうになるが、それでも一つだけ分かる事実があった。

 

 

(まだ、戦えるのだな?ならば───)

 

 

手渡されたリボンで自らの髪を結い上げ、覚悟と共に空を見上げる。

 

 

「ならば、行くぞ!紅椿!」

 

 

赤と黄金の輝きを灯す真紅の機体が、空を裂くように駆ける。今も尚囚われた友人を、今も尚戦う想い人を助けるために。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「─────おーおー、やってるやってる。アイツら思いの外強くなってんじゃん。ああクソ、マジで羨ましい。あんな風にやり合えたら盛り上がるよな」

 

 

黄金の翼が四枚。燃え盛る焔と火の粉を撒き散らし、イルザは興味ありげに遠くを見つめていた。熱を帯びた空気に肌を焼かれることなく、残念そうに一息吐いた後、彼はゆっくりと振り向いた。

 

 

 

「オマエも、そう思わねぇか?」

 

【────ギ、貴様ッ】

 

 

クリサイア・アヴェスター。

黒い球体を中心として回転する結晶を十も有するその兵器は、ボロボロに半壊されていた。黒い球体の表面にはヒビが入り、結晶の一部は完全に破壊され使い物にならなくなっている。

 

 

復活───そう言いながら登場したイルザに、クリサイアは不意打ちを実行した。確実に殺すために放たれた熱線を浴びた青年は死んだ。確実に死んだ。

 

 

そう思った直後に、五体満足で姿を見せたイルザにクリサイア・アヴェスターは戸惑った。何故生きているのか、その疑問に答えながら、イルザはクリサイア・アヴェスターを完膚なきまでに叩き潰した。

 

 

アッサリと、一瞬で。

セシリア達が苦戦しながらも撃破したクリサイアの変化した姿であるその兵器を、意図も容易く手玉に取っている。平然と余所見をしている青年に、油断なんてものが感じられない。

 

 

【あ、有り得ん!私は、クリサイア・アヴェスター!人類を滅ぼし、駆逐させる界滅神機!世界を滅する神の機体だ!その我等が!何故、こんな人間なんぞに───】

 

「オマエが弱いからだろ?俺に負ける理由なんて」

 

 

カラカラと笑う。

良心はある、善意もある。だが躊躇いなくイルザは目の前の兵器を侮蔑する言葉を吐き捨てた。試すような物言いに、界滅神機───その内部にある人工知能の頭脳が破裂した。

 

 

耐え難い怒りと屈辱によって。

 

 

【ほざけェ───人間如きがァッ!!】

 

「感情的だ、兵器らしくねぇな」

 

 

翼を大きく振るい、イルザは飛翔する。そんな彼に、クリサイア・アヴェスターは動きを見せる。黒い球体にキチキチと光のラインが通っていく、それは結晶の先にまで通っていき───適応するかのように広がる。

 

 

破損が一瞬で全快した直後に、光の雨が降り注ぐ。膨大な熱量を有する光線がうねり回り、空中に飛んだイルザを囲んでいた。

 

展開した黄金の翼を広げ、加速するイルザ。全方位から迫る閃光を避けていき、唯一狙いを定めてきた一発を片手で受け止める。

 

 

バジュンッ!! と熱が空間を肉と共に焼き尽くす。イルザが容易く弾こうとした閃光は予想以上の威力であった。レーザーを消し飛ばした代償として、片腕が綺麗に消し飛んでいた。

 

 

表面すら焼き尽くされた肩に焔が纏われる。腕を失ったにも関わらず、顔色すら変えないイルザ。チラリと、視線を向けながら考えを働かせていた。

 

 

(………さっきよりも出力が上がってる。威力も段違い)

 

「やるじゃねぇか、鉄屑!ならお返しだ!」

 

 

もう片方の手を突き出せば、翼からミサイルが射出される。熱線により破壊されても尚、弾頭を切り分け、数を増やしながら迫る爆弾の波にクリサイア・アヴェスターは晒された。

 

 

しかし、無傷であった。

コォォォ────!と、共鳴するような音を鳴らすクリサイア・アヴェスター。ダメージすら与えられない様子にイルザはある可能性を確信した。

 

 

(やっぱ、そうだよな。全部の機能が明らかに上昇してやがる。さっきのぶちギレからだな────火事場の馬鹿力ってヤツか?或いは、そういう機能か!)

 

 

肩を焼く焔が、一気に膨れ上がる。破裂するように弾けた火が形を作り出し、腕の形状へとなるまで増幅する。火炎が消え去った時には、イルザの腕は再生を終えていた。

 

 

両手を閉じたり開いたりし、感覚が戻ってくるのを確認しながらも、細めた瞳はクリサイア・アヴェスターへと向けられている。

 

 

(それに、アイツの動きが可笑しい。決定打を打ってこねぇ、そして俺の攻撃に反応できるようになったのを見るに…………学習してんな!伊達じゃねぇなぁ、ロボってのは!)

 

 

「前言撤回、やっぱ面白そうだなオマエは」

 

【見下すな人間───私に殺される可能性を恐れたか?】

 

「な訳。俺のやり方を完全に学習(ラーニング)される前にやるって話だ」

 

 

手首に取り付けたアイテムのサイドカバーを指で押し、見せつける。白い光が、呼応するように点滅していた。

 

 

「───俺の伝説幻装(エンシェント・レガリア)フェニックスは強力でな。やり過ぎると周りもまとめて焼き尽くしちまう。全力を引き出しちまえば俺も無事じゃすまねぇし、何かと面倒なんだ」

 

【…………自分が負けた時の言い訳か。それが最後の遺言か】

 

「話はちゃんと聞けよ、モテねぇぞ?………ま、全力を出せねぇのは事実だし。だから、封印した。戦いが好きだからって戦った結果、周りを更地にするのは割に合わねぇしな。つまり、今の俺はメチャクチャ枷を掛けたフェーズ4って事だ」

 

【そのフェーズを解放するつもりか?私が貴様のパターンを学習するよりも先に】

 

「正・解」

 

 

再び、サイドカバーを押し込む。直後に光は強まり、足元から黄金の焔が燃え盛り始めた。

 

 

【───Ancient!phase、down!】

 

 

「────フェーズ3、移行」

 

 

 

業火に包まれたイルザの周囲に、黄金の装甲が顕現する。空中で形成されたパーツは、瞬時にイルザの全身に装着された。頭部以外の全てが覆われた黄金の鎧。背中の翼もより装甲を纏い荘厳となり、その姿は神々しい不死鳥を体現しているようであった。

 

 

「………久しぶりのフェーズ3だなぁ。フェーズ4より上なんて久しぶりだ。フェーズ2まで引き出した相手がいるんだよ、アリーシャ・ジョセスターフってヤツ。知ってるか?バカ強いだぜ、あの隻眼女」

 

 

不毛、と判断した。

いい加減、相手に疲れたのであろう。クリサイア・アヴェスターは話を聞かずに、殲滅を優先する。全ての結晶を回転させ、各々から放つ閃光を一つに束ね、一気に解き放つ。

 

 

現時点での最高峰の威力が、牙を剥く。話を続けていたイルザは振り向いた直後に、それを直に受けた。決まった、と人工知能による意識が確認する。

 

 

だが、油断はしない。相手は削っても再生する不死者。先程の一撃を耐えてる可能性すら有り得る。

 

 

【貴様があの一撃を耐えたのならば!また殺────】

 

「────受けて欲しかったか?残念、当たっちゃいねぇよ」

 

 

囁くような言葉に、思考の全てが停止する。有り得ない、間違いない、何が起こった。それらの言葉が、人工知能の中で渦巻く。現状を理解するまでに数秒を要するはずであったが、相手はその隙すら許さなかった。

 

 

「残念だったな、オマエはもう俺に追いつけない」

 

【ッ!?いつの間に真上へ────】

 

「追いつく前には、ブッ壊れるだろうぜ」

 

 

パチン!とイルザが指を鳴らす。

瞬間、クリサイアの周囲の空間が熱を帯び始めた。いや、球体の形をした物体が、クリサイア・アヴェスターの周りに配置されている。外の装甲を溶かす程の熱量が、内部から膨れ出す。

 

鳴らした指を握り、親指だけを持ち上げる。スイッチでも押すように、構えを取った。

 

 

「───『陽解(プロトゥ)融爆(ゴア)』」

 

 

気付いたその時には、彼に手によって起爆された。

 

 

 

 

無音の爆炎が、炸裂する。

音すら消し飛ばす爆発が連鎖し、クリサイア・アヴェスターを圧倒的な破壊で潰し、抉る。強力な衝撃が感覚を伝い、人工知能の意識を完全に吹き飛ばす。

 

 

【ガッ、ギ──────────ッ?】

 

 

シャットダウン寸前に追い込まれる程の熱と圧力。クリサイア・アヴェスターを僅かに機能停止に追い込んだ。

 

 

ガシャンッ! と、黒い球体の表面が砕かれる。内部に打ち込まれた腕が、目的のものを捉え───そのまま引きずり出す。

 

 

「────よぉ、オマエが本体か。意外とこんなものか、人工知能ってのは」

 

 

数十センチ程、掌に収まるサイズのコア。それこそが、クリサイア・アヴェスターの脳とも言える核であった。心臓に繋がった血液のように垂れたケーブルのさきから火花が散る。

 

 

「ホントは全部ブッ壊そうと思ってたんだけだよ、()()()()()()()()()()。仕方なく、オマエだけを潰すことにしたんだ。俺の手で」

 

 

グシャリ、と。

その手でコアを握り潰した。人類を憎み、滅ぼすと誓ったアヴェスターの一つ、他の個体よりも先に目覚めたクリサイア・アヴェスターの最後はあまりにも呆気ないものだった。

 

 

クリサイア・アヴェスターだった黒い球体を片手で掴みながら、イルザが別の方向を見る。そこで起こる戦いを、観察するように。

 

 

「そろそろ、アッチも終わるか?」

 

 

 

◇◆◇

 

 

「う、おおおおおおッ!!」

 

 

零落白夜の光刃を振るう一夏。しかし、クロム・ルフェはその攻撃を受け止めることも弾くこともなく、ただ全速力で避けていく。

 

 

あらゆるエネルギーを消すことが出来る零落白夜。その弱点はエネルギーの激しい消耗である。故に、零落白夜は攻撃が確実に当たる時に発動させるべきなのだ。

 

その特性を理解したクロム・ルフェの対抗策こそが、わざと零落白夜を無駄打ちさせる。敢えて隙を見せて一夏がその隙を狙おうとした瞬間に逃げる。それを繰り返し、エネルギーの消滅という自滅を狙っているのだ。

 

 

『────』

 

 

背中の骨格腕の掌が変形し、放出口となる。リアクターから増幅させ蓄積させていたエネルギーを勢いよく放出し、遠距離から攻撃を行う。

 

 

「くっ!」

 

 

何とか回避を繰り返すが、クロム・ルフェが更なる動きに出る。両手の腕を持ち上げ、骨格腕を含めた四つの砲台から濃粒子のエネルギーを解き放つ。巨大なレーザーが四つ、ISでも受ければ一撃で破壊するかもしれない閃光が一夏へと収束される。

 

 

雪羅のシールドモードで避けきれない攻撃を防ぐ。それだけでも、エネルギーの消耗は激しい。

 

 

「っ!」

 

(くそっ!このままじゃエネルギーが底を突いちまう!)

 

 

そうなってしまえば、本当に為す術が失くなる。少しずつ一夏の心を、焦りが蝕んでいく。それがクロム・ルフェの作戦であるのは分かるのだが、どうやってもここから突破口を見つけ出せる気がしない。

 

クロム・ルフェが再び、攻撃を始めようとして───止めた。急接近してくるもう一つのISを気取り、距離を置いたのだ。

 

 

「一夏!」

 

「箒!? お前、ダメージは大丈夫なのか!?」

 

「問題ない! それよりも、手を貸せ!」

 

 

突如現れた箒は有無を言わさぬ勢いで一夏の手を握る。紅椿が放つ黄金の光が白式へ、一夏へと伝わっていく。瞬間、全身に電流のような衝撃と炎のような熱が広がる。

 

 

意識が僅かに揺らいだが、何とか戻った。そして常時投影されているISの状態を確認して、愕然とした。

 

 

残り三割程度であった白式のエネルギーが、最大値まで貯まっていたのだ。

 

 

「な、なんだ………?エネルギーが────回復!?ほ、箒、これは───」

 

「今は考えるな! 行くぞ、一夏!」

 

「───おう!」

 

 

その会話を、その出来事を、クロム・ルフェは危険と判断した。目の前で起きたエネルギーの自動増幅、そして相手への譲渡。たった数十秒の合間の出来事は、クロム・ルフェに危険信号を働かせるに十分であった。

 

 

『────ッ!!』

 

 

軋む装甲から咆哮を轟かせ、クロム・ルフェは突貫する。最早持久戦は考えていない。相手がエネルギーを補給するよりも早く叩き潰す。それだけしか、先にある勝利は見えない。

 

 

「うおおおおっ!」

 

 

そんなクロム・ルフェに、一夏は巨大なエネルギーの刃を展開する。最大出力まで高められた光刃を両腕で支え、勢いよく振るう。

 

横薙ぎの一撃を、クロム・ルフェは身軽な動きでホバリングする。刃を通り過ぎるように避けてすぐに、背中の骨格腕を伸ばす。エネルギーを放出する為の機構に、一瞬で切り替えながら。

 

 

「箒!」

 

「任せろ!」

 

 

放出される寸前の二つの砲口を、紅椿の二刀が斬撃で切り臥せる。エネルギーの誘爆が視界を打ち消す。その爆発を利用するように、クロム・ルフェはすぐに追撃に移ろうとした。

 

 

しかし、それが間違いであった。本来ならば、先程までのクロム・ルフェならばここで距離を取ってから狙撃を行っていた。自分の主を守るために、エネルギーを消滅させる刃が自分に当たる可能性を消すために。

 

 

しかし、相手が無尽蔵と思われるエネルギー源を有した瞬間からクロム・ルフェの思考を焦りが支配した。故に、短期決戦をしようとしたのだ。

 

 

だからこそ、目の前から飛んできた光刃に直撃してしまった。攻撃の姿勢から避けきれず、胴体の装甲を光の刃が綺麗に切り裂く。

 

胴体の装甲が光の粒子に変化する。クロム・ルフェはようやく、さっきの光刃が零落白夜のものだと理解した。しかし、エネルギー刃だけを飛ばせるとは思わなかった。

 

 

機械的ではなかった感情が、敗北の引き金を引いた。クロム・ルフェは、もうこの鎧を維持できない。

 

 

 

『────ッ!!』

 

 

叫ぶ。吼える。

光に包まれたクロム・ルフェは咆哮を響かせ、拳を振り上げる。一瞬で禍々しいエネルギーが収束し、圧縮された。

 

 

【メテオ・ブレイカー】

一撃必殺の火力を誇る技。ISすら貫通するであろう黒い光を纏った拳が、一夏に炸裂しようとしていた。一夏はそれを防ごうと雪片弐型と雪羅を構え、迎え撃とうとする。

 

 

 

 

────しかし、動きが止まる。

全身が消滅を始めたクロム・ルフェは身動きをすることなく、拳をゆっくりと振り下ろした。黒い光も、それに応じて自然消滅する。

 

 

一夏は何故か、分かった。

クロム・ルフェに何が起きたのか。何故攻撃を止めたのか。

 

 

答えは、簡単。クロム・ルフェ本人の意思だったのだ。自分の主を排除しようとした考えを改め、敗北を受け入れている。理由は分からないが、きっとそうだと一夏は思う。

 

 

鎧が、完全に消え去る。光に包まれた先に、生身の龍夜と納刀状態であるプラチナ・キャリバーが姿を見せた。その瞬間に、彼が海へと墜ちていく。

 

 

「!しまった!龍夜────ッ!?」

 

 

二人が急いで、彼を助けようとする。しかしそれよりも先に、真下に移動していた影が龍夜とプラチナ・キャリバーを受け止めた。

 

 

「やれやれ、流石に骨が折れる。いや、多分マジで折れてるかもしれないですけど。肋骨とか」

 

「ぜ、ゼヴォド!?」

 

「ああ、織斑一夏さん。お仲間は無事ですよ、私は無事じゃないですけど」

 

「待て、一夏。ゼヴォドは敵じゃない、一応私達の味方だ」

 

「え?ゼヴォドが?………ちょっと待ってくれ、何がどうなってるんだ?」

 

 

明らかに戸惑う一夏に、二人は互いを見合い溜め息を漏らす。どうやら戦いが終わった後にも、説明という面倒なことがあるらしい。気絶した龍夜を連れて、三人はその場を後にする。

 

 

こうして、激しい乱戦と化したこの作戦は成功ということで終わった。

 

 

 

◇◆◇

 

 

その場所、一夏達のいる場所から数百メートルも先。突如として、空間が乱れる。残像が浮かんだと思えば、黒い影が浮かび上がる。

 

 

黒いボディをした、禍々しい機体。

全体的にガッシリとした体格、全身から伸びる刃のような棘。悪魔のような造形したフルフェイス。

 

 

それは、ISだった。表向きには存在すら明かされていない。新型のIS。その機体を示す名前は、『ディアボロス・オメガ』。正しく、悪魔を体現しているようだった。

 

 

「─────アレが、白式」

 

 

そして、そのISに搭乗する少女が呟く。目線の先にあるのは、白いISとそれに搭乗する青年だ。驚きに満ちた視線が次第に落ちていく。

 

 

ポツリと、少女は自嘲するように呟いた。

 

 

「…………お父様が失敗作と断じた筈の────私を拒絶したISとは、全然違う」

 

 

直後に、コールが鳴る。少女は自分の頬を叩き、顔を引き締める。それからして、通信を繋げた。

 

 

『報告が遅いな、美怜』

 

「────申し訳ありません。お父様」

 

『いや、責めてる訳ではない。私も気が立っていた………それよりも、データは?』

 

 

事務的な言葉。それに少女は不満を思うことすらない、そんなことは許されない。通信越しに聞いてくる父親に対し、少女は気を揺るがすことなく答えた。

 

 

「IS学園の専用機、紅椿、白式のセカンドシフトのデータは入手しました。今すぐ転送します」

 

『ご苦労、よくやってくれた』

 

 

称賛の言葉を、少女は静かに受け止める。淡々とした声音に彼女は小さく唇を噛み締めていた。

 

 

『あと、例の彼等はどうだった?私の招待状を受け取ってくれたと思うが、返答は?』

 

「………考えさせて欲しいと、答えは後で出すと言っておりました」

 

『────フム。非効率的だな、全く。………まぁいい、彼等が首を横に振ることはないだろう。テスト候補生も時間の問題か』

 

 

トントン、と指を叩く音がする。いつもの仕草であるのだろうか、リズムよく響いていた。最後に軽く叩いて、音が止まる。

 

 

『さぁ、帰ってきなさい。美怜。報告を終えてから、久しぶりに夕食を一緒にしよう』

 

「………はい、お父様」

 

 

『ディアボロス・オメガ』を纏う少女は加速などせずに、その場から姿を消す。痕跡すら残さぬように、今回の収穫とも言えるデータを所有しながら。

 

 

 

◇◆◇

 

 

ガシャン! と、クリサイア・アヴェスターの残骸である球体をイルザは地面に下ろした。一緒に地面に降りたイルザ、そして遅れてセシリア達が降り立つ。

 

 

「止まれ、イルザ。貴様、何のつもりだ」

 

()()()()()だよ。お前らだって気になるだろ?本当にあるのかって」

 

 

止めようと武装を構えるラウラに、イルザはヘラヘラとしていた。イルザの体質を知らぬ彼女からすれば、馬鹿にしているようにも見えるが、死への恐れや傷付くことへの恐怖がないだけだ。

 

全員が、視線を集中させる。イルザはそれを無視して、黒い球体の表面を引き剥がす。引き千切り、邪魔なパーツを破壊していき────一つのものを引きずり出した。

 

 

棺桶のような大きなポッド。円柱状のそれにイルザは手を掛ける。開閉するためのドアやレバーなどはない、故にそのまま抉じ開ける。

 

 

剥がした鋼鉄のカバーを放り投げた途端に、イルザはその中身を目にした。

 

 

 

「────チッ」

 

 

不愉快そうな舌打ち。

本気で気を悪くしたような態度を疑問に思った一同だが、それを見た瞬間に理解する。

 

 

 

中にいたのは、自分達よりも少し年上の少女。全身をケーブルに繋げられ、部品の一つのように息すらせず静かに眠る少女。

 

 

彼女こそクリサイアに組み込まれた人間だったモノの一つ、生きた生体ユニットであったのだ。




百体の兄弟は悩んでいました。

如何に人間を滅ぼすか、如何に奴等を絶滅させるか。

ただの兵器ではダメ。それでは彼等に敵いません。もっと強力な、無慈悲なまでに殺戮に、人間を殺すのに特化した兵器が必要でした。


すると、一人の兄弟が考えを出しました。


───毒は同じ毒で制すればいい。



名案だと、彼等は答えました。
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