IS 蒼き宙の向こうへ   作:虚無の魔術師

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夏休み編………というよりは、前章の情報を色々まとめた話になります。


第34話 十年後の遺産

七月下旬。

福音強奪事件から数日が経ったIS学園では、ようやく夏休みという事になった。生徒の多くが世界各国から来ているため、大半が帰省中である。

 

 

しかし、蒼青龍夜は自宅に帰ることはなかった。

どうせ家に帰る理由などない。家族のほとんどがいない、唯一残された実の姉は入院中────だが、当分会わないことを約束しているし、政府の力によって姉は別の場所で落ち着いている。

 

 

だから、仕方ない話なのだ。寂しいという思いは少なからずあるが。

 

 

「……………」

 

 

そんな感情を押し殺すように、龍夜は学園寮の自室で無数の部品を弄っていた。分解された形状のパネルを開き、内部に組み込む装置の一つを造ろうとしていた。

 

 

因みにだが、電子妖精ことラミリアは今遊びに出掛けている。他の生徒達のデバイスに乗り移り、学園の外の町で楽しく休みを満喫していることだろう。

 

他の皆も、故郷の国に帰国する予定であったり、龍夜のように学園に残る者もいる。

 

 

「────よし、パーツやシステムは大体完了した。組み立てと連結でようやく、完成…………とはいかないな。デバック作業に試運転も必要だ」

 

 

そう言いながら、龍夜は目の前の装備を見る。プラチナ・キャリバーの外付け武装であるそれは、変形機構を要した大型銃であった。

 

二つのフォームの変化に応じ、弾丸自体を変えるその銃だが、唯一の欠点は普通のISのように粒子化出来ない所だ。ただでさえ大きいのに、持ち運ぶなんてどれだけ苦労することか。

 

 

(………少し試すべきだな。よし、一夏達の誰かでも呼ぶべき─────いや、止めておくか。どうせ迷惑を掛けるだから)

 

「────実践は後にしよう。取り合えず、今は寝るか」

 

 

全身から力を抜き、ベッドに背中から倒れ込む龍夜。蒸し暑い外とは違い、冷房によって冷えきった部屋の中で、彼は静かに眠ることにした。

 

 

◇◆◇

 

 

「────以上が、今回の事件についての報告です」

 

 

IS学園、一般生徒や教師も場所を把握できてない理事長室。そこで千冬はキッチリとしたスーツ姿で立っていた。豪華な机と椅子に腰掛ける十六歳程の少年、この学園の理事長である時雨は千冬からの話を聞き終え、ゆっくりと口を開く。

 

 

 

「…………なるほどね。織斑先生、よくやってくれたね。今回の事件については、国連内部からも賞賛の声も大きかった」

 

 

ニヤリと不敵な笑みを浮かべる。椅子をくるくると回転させていたが、動きを止めて指を突きつけた。

 

 

「───ま、アナグラムと共同戦線を共にしたことは黙っておいたけどね。良かったかな?」

 

「………感謝します。理事長」

 

「何、君達が頑張ってくれたんだ。僕も多少は無理は通すさ。それに、アナグラムと協力したなんてあの老害達が知ったら調子に乗ったように批判してくるのは目に見えてるし」

 

 

国連はあの事件の全てを把握していなかったらしい。マスコミや世間の隠蔽に夢中でIS学園の作戦に目がいってなく、無事に二つの脅威を打ち倒したという報告に愕然としていた。圧倒的な功績に、言葉も出ない老人達には少し胸が空いたが。

 

 

「それで?お客人は入れなくてもいいのかい?」

 

「………気付かれていたのですか」

 

「まぁね。大方予想は着いてるし、呼んでも構わないよ」

 

 

軽く頭を下げた千冬が扉の元へといき、手を掛ける。開いた途端に「失礼します」という明るい声が聞こえてきた。

 

 

正しい軍服を着込んだ金髪の女性が部屋の中へと足を踏み入れる。陽気な雰囲気を醸し出す彼女の顔を見て、時雨は口を開いた。

 

 

「ナターシャ・ファイルス候補生、君と福音はもう大丈夫かい?」

 

「ええ、心配していただきありがとうございます。時雨さん、いえ学園理事長とお呼びするべきですか?」

 

「好きなように構わないよ。貴方は客人だからね、無理に理事長呼びに固執する理由はないさ」

 

 

事件の顛末、ナターシャ・ファイルスと福音は結果的に無事であった。『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』が強奪された件を引き合いにしてアメリカに責任を取らせようとした国もあったが、エレクトロニクス機社の圧力を受けて引き下がったらしい。

 

国連内部では、銀の福音が界滅神機に有効打を与えていたという話により、責任を相殺できるという事態になっていたのだが。

 

 

「それよりも時雨さん、例の話はどうした?」

 

「国連内部を調査してみた。────結果、アナグラムに流れた情報は偽物だった。けど、国連の誰かが偽装したものだいう証拠もあった」

 

 

アナグラムが福音を強奪するに至った理由。彼等が入手した、一般人を攻撃するという作戦の極秘資料。アナグラムのメンバーの身内でもある集落を攻撃するというそのデータはアナグラムだけではなく、ナターシャを含むアメリカ軍にも流されていた。まるで、一目見ればその作戦が本当の話であるというように。

 

だが、結果としてそんな作戦は存在しなかった。

 

 

「やはり、この事件の黒幕は許せないか」

 

「当たり前じゃないですか。あの子に人殺しの道具にしようとした挙げ句、アナグラムをけしかけてあの子を奪わせようとしたんですもの。黒幕さんは必ず取っ捕まえて、報いを受けさせてやりますから」

 

「──────」

 

 

時雨が、重苦しい沈黙を背負う。体を動かし、姿勢を正した彼は両手の指を交差させ、机に乗せる。自身の顔を隠すようにして、ナターシャを見据える。

 

 

「………黒幕については、おおよその答えは出てる」

 

「………」

 

「でも、連中に近付くのは危険な話だ。僕としてはオススメはしない。出来ることなら諦めた方がいい────と、言っても無駄か」

 

「当然」

 

断言するナターシャに、時雨は一息漏らした。彼女の覚悟が強い、そう判断してすぐに自分の知る情報を明かし始めた。

 

 

 

「黒幕は国連にいる。より厳密には国連の最も上に位置する最高機関に」

 

「っ!まさか────」

 

「『楽園の実(エデン・シード)』。僕の所属する合計二十一人の中に、今回の事件の黒幕が存在していると見ていいね」

 

 

平然と言い切った時雨の言葉に、ナターシャだけではなく千冬も驚きを隠せずにいた。相手を覚えるように噛み締めるナターシャとは違い、千冬は顔をしかめながら問いかける。

 

 

「理事長、何故そう言い切れる。相手は国連の人間などではなく───「『忠臣』と名乗ってた相手だろう。知ってるさ」ッ!」

 

 

思わず、息を呑む。

国連の名で圧力を掛けた男の存在は話したが、男が名乗っていた名だけは明かさなかった。仮にも国連の人間である時雨が本当に、関係していないのか疑った千冬の行動だったが、時雨はそれを問い詰めることもしない。当然のものとして受け止めているようだった。

 

 

話を聞く様子である二人を確認し、時雨は話を続ける。相手の存在、それを示す名を。

 

 

 

「『三皇臣(トライアル・インペル)』、それが福音事件の根幹に関わる者達だ」

 

 

『三皇臣』。

その単語に、千冬やナターシャも気を引き締める。ソイツらが、今回の事件の糸を引いた元凶。裏側で狡猾に暗躍し、アナグラムを翻弄し、IS学園の生徒達を危険に晒した勢力であったからだ。

 

 

「けど、彼等について大きな問題がある。実情が掴めないんだ、僕の手を以ても」

 

「………」

 

「分かるのは、『忠臣』と『賢臣』、『諫臣』の三人で構成された少数の面子である。国連の権威で思い通りに立ち回れること。そして、国連の人間であるにも関わらず国連の最高機関であっても彼等について探ることも、従わせることも出来ない」

 

「まさか上の人達ですら、そのトライアルなんとかを把握出来ていないと?」

 

「トライアル・インペルね。まぁね、連中も中々やり手のようで────でも、重要なのはここからだ」

 

 

軽い調子で語る時雨だが、すぐに顔を歪ませる。苦々しい様子で。

 

 

「奴等が国連の権威を好き勝手に振るえる理由は、特権持ちだからさ。それに、彼等には上がいるらしい。『(おう)』と呼ぶ存在が」

 

「ッ!それって───」

 

「三皇臣に特権を与えたのが『皇』って奴なら、ソイツは僕達『楽園の実』の誰かだ。つまり、最高機関の一人が君やIS学園の本当の敵って訳さ」

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「………何故、ナターシャ・ファイルスに情報を流した?」

 

 

話を聞き満足して帰っていったナターシャ・ファイルス。彼女を直属の兵士に付き添いさせ学園の外まで送らせる様子を確認した直後に、千冬は口調を切り替えて問い質す。

 

 

両腕を組み、真意を理解しようと睨みを利かせる彼女に、時雨は笑顔を浮かべる。軽い調子で弾んだような声で、冗談のように言う。

 

 

「おや。織斑先生も彼女に教えてあげたいんじゃなかった無いのかな?だから僕の元に連れてきたんじゃないの?」

 

「時雨理事長」

 

「ごめんよ、からかったのは悪いと思う。織斑先生の言いたい事は理解できる。三皇臣が彼女に手を出す可能性があるってことだろう?」

 

 

何故、国連が彼等の足取りが掴めないのか。それほどまでに恐ろしく、不気味な力を有している可能性があるからだ。たった一人のIS操縦者が、一つの組織と思われる勢力に狙われれば堪ったものではない。

 

 

その点でいえば、情報を与えた時雨は無責任と言われるかもしれない。それが原因で彼女が殺されたとなれば、全ての責任は彼に向くと思われる。それを知ってて、何故話したのか。

 

 

そんな千冬の疑念に、時雨はあっさりと答えた。

 

 

「何、心からの善意ってのは嘘じゃない。………まぁ、君の考え通り、考えてることはある。『三皇臣』の奴等はIS学園を巻き込んだ。つまり、奴等にとって僕達は敵な訳だ。潰すことは確実だが、相手のことが全く分からない。正面切ってやろうにも、不利なのは僕達だ。なら、味方を───奴等にとっての敵を増やすだけさ」

 

「…………それは」

 

「冷たい、ってだけじゃ済まないね。でも、僕は本気だよ。綺麗事だけじゃIS学園も世界も守れないから。この二つを護るためなら、僕はどんな手段すら問わないし、迷わない。負けないために、誰かを犠牲にさせないために、全ての手段をもって敵を追い詰めて始末する。それが僕のやり方だ」

 

 

およそ十歳で国連に入り、あらゆる手段を用いて彼はトップの組織の一人へと成り上がってきた。綺麗事を、善意を信じてきた兄 村雨とは違い、彼は迷うこと無く相手を潰し、頂点を目指した。

 

 

兄が望み、挫折した未来────本当に平和な世界を作るために。

 

 

「…………だから、貴女にも力を貸して貰います。織斑先生。僕の目指す未来のために」

 

「───ああ、お前には借りがあるからな。学園の一つや二つくらい、守ってやるさ」

 

「ええ、頼りにしてますよ。世界最強のブリュンヒルデ」

 

 

互いの視線を、顔を合わせ、そう言葉を返す二人。そうやって笑っていた時雨がふと、席から立ち上がる。

 

 

「さて、僕も少し用があるんで。付き合って貰いますよ、織斑先生」

 

「今になって、一体何処に用がある」

 

「貴女達が保護してきた例の少女について、個人的に話したくてね。…………知りたいんじゃない?あの娘が何者なのか」

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

IS学園の地下区画。

教師でも知らされているのは数人程───ではあるが、極秘レベルとしては最大の次くらいの特殊エリア。

 

 

「…………そんな」

 

 

そこで真耶は、目の前の機器が表したデータに戸惑いを隠せずにいる。機器に連結された大型装置が真っ白なベッドに取り付けられ、何らかの作業を行う複数のアームが動きをピタリと止めている。

 

そして、ベッドに寝かされているのは────少女と、言うようには大人に近い人物だった。

 

 

燃えるように赤い長髪に、ISスーツに類似したものを纏う彼女は息ひとつしない。安らかに眠っているように見えるが、大型装置は彼女が生きていることを証明している。

 

 

いや、アレを生きていると言っていいのか。どれだけ思い悩んでも、否定する言葉が見つからなかった。

 

 

「────少しは休んだらどうだ?山田先生」

 

「あ…………織斑先生─────えっと、そちらの子は、どちら様ですか?」

 

 

部屋に入ってきた千冬に反応したが、すぐに彼女の視線が時雨を捉える。千冬に着いてきているからか警戒はないが、不思議そうに見てくる彼女に、時雨はああと一息吐きそうになる。

 

端から見たら子供である自分が理事長であるという事実は、数少ない教師や限られた生徒しか知らない。滅多な事態を懸念して情報統制していたから、彼女が自分を知らないのも当然だろう。

 

 

なので、簡潔に自己紹介することにした。

 

 

「あー、僕理事長。よろしくね、山田先生」

 

「……………え、え?理事、長………?で、でも、まだ小さい子、ですよね…………え?」

 

 

余計に混乱する真耶に、時雨は特に気にした素振りもなく前へと進む。ガラス張りの向こうにある少女の姿を見た彼は少しの間沈黙を重ね、ようやく口を開いた。

 

 

「────山田先生、彼女の事を調べて何か分かったことは?」

 

「は、はいっ…………精密機器を用いた検査をした結果、彼女に怪我などはなく、命に別状はありませんでした。ですが、それ以上に信じられないものを確認しました」

 

 

ディスプレイを両手に持ち、千冬と時雨に見せる真耶。顔を真っ青にしながらも、震える声で説明を口にした。

 

 

「彼女の全身の全てが、機械で構成されています。体内の臓器も全部無く、全く別のパーツで補われているんです。肌も普通に似てますが、実際には人工的に造られた繊維のもので間違いありません。人間として部分はありますが、ほとんどが別種のものとなってるんです」

 

 

それが事実であることは、ディスプレイに表示された解析結果が証明していた。少女の全身を透過した画像には人間にあるべき臓器は綺麗に失くなっており、あるのは機械で造られた部品が多くだった。

 

 

明らかに顔色を変えた二人、千冬の方を見ながら真耶が困惑を隠せずに言葉を漏らす。

 

 

「………お、織斑先生────これは一体」

 

「サイボーグ、という奴か。まさかあそこまで精巧なものを造れるとはな」

 

「────サイボーグ、ね。少し違う。アレがただの機械人形だったらどれだけ良かったか」

 

 

そう切り出した時雨に、二人の視線が集まる。調子の軽い声音とは別に、少年の顔は険しいものへと切り替わっていた。何か強い感情を滲ませる彼は、今も眠る少女の顔を見つめている。

 

 

「どういう意味だ、理事長」

 

「説明をする前に、彼女と挨拶をしてくるよ。その為に来た訳だしね」

 

「───ま、待ってください!危険です!彼女が敵であるかも分からないですから────」

 

「大丈夫。あの子はそんなことしないよ」

 

 

慌てて制止する真耶を軽くいなし、時雨は扉から眠る少女の部屋へと立ち入る。戸惑いながらも彼を連れ戻そうとする真耶を片手で止め、千冬はガラス越しに険しい顔で見据えていた。

 

 

ベッドの中央で静かに眠る赤髪の少女。発育の良い体型に、機械的なスーツ。死んだような静寂の中で、時雨はゆっくりと口を開いた。

 

 

「────やぁ、久しぶりだね。花蓮」

 

「───────ぅ、ん………」

 

 

その名を聞いた瞬間、少女の意識が覚醒した。眠そうに瞼を細め、目元を擦りながら少女はゆっくりと起き上がる。

 

体を上げて周りを見渡そうとする少女だが、目の前にいる時雨を見ると不思議そうな顔で、

 

 

「─────村雨、お兄ちゃん?」

 

「いや、兄じゃないよ。僕、僕さ」

 

「え…………?でも、村雨さんと同じ…………あれ?」

 

 

ボーッ、と呟いた少女に、時雨は困ったように笑いながら話す。首を傾け本気で考え込んでいた少女は次第に目を大きく見開いた。

 

 

「もしかして………時雨君、なの?」

 

「うん、そうだよ。花蓮」

 

「…………うそ。でも、時雨君とソックリなのに、時雨君よりも大きい。なんで?」

 

「まぁ、十年も過ぎたんだ。少しくらいは成長してるさ」

 

 

ベッドに腰掛け屈託のない笑顔で喋る時雨の顔は年相応ではあるが、その様子は大人びたものである。理解できずに困惑している少女、花蓮は目をパチクリさせる。

 

 

「時雨君、変わったんだね。まるで村雨お兄ちゃんみたい」

 

「…………兄みたい、か。実際、僕にとって尊敬できる兄だったしね、無意識に真似してるのかな」

 

 

他愛な会話を何度か繰り返した二人。まるで親しい友人のように語り合うその光景は微笑ましいものであった。

 

しかし、何か悩んでいた花蓮が俯きながら声を発した。

 

 

「ねぇ、時雨君」

 

「何?花蓮」

 

「私って、なんで生きてるのかな」

 

 

答えは返ってこない。時雨は一気に笑顔を消し、真顔で花蓮の話を聞いていた。彼女は、自身の手を見下ろしながら、困惑を宿す声で呟く。

 

 

「パパやママも、皆死んじゃった。私も皆と一緒に死んじゃったはずなのに、どうして生きてるんだろう。どうしてこんなに大きくなってるのかな。私、どうなっちゃったのかなぁ」

 

「…………花蓮」

 

 

彼女の名を呼び、時雨は立ち上がる。静かに近くの機器に手を添え、情緒が不安な花蓮に優しく語りかけた。

 

 

「全部夢さ。悪い夢だよ」

 

「そうなの、かな」

 

「ああ、きっと悪い夢だ。だから無理に考えなくていい。今はゆっくり、休んでて」

 

 

それだけ言うと花蓮は本当に眠気に誘われたのか、ベッドに倒れるようにして意識を失う。近くの装置で強制的に眠らせたのを確認した時雨は、複雑そうな顔を切り替えてすぐに部屋から出ていく。

 

 

待ち構えていた千冬が無言ながらも、早く説明しろという風に圧力をかけている。その空気に動揺しながらも真耶が時雨を話しかけた。

 

 

「…………あの、理事長?あの娘のこと、知ってるんですか?」

 

「─────雨宮花蓮。僕の幼馴染みでね、昔からよく遊んでたんだよ」

 

「幼馴染み、ですか?で、でもあの娘の方が年上に見えますけど………」

 

「いいや、僕と同年代だよ。十年前にいなくなった日から、それは間違いなかった」

 

 

そこまで話す時雨の言葉に、真耶があれ?と首を傾げる。一方で千冬はその言葉の意味に気付いていた。

 

 

答え合わせのように、時雨は口を開いた。

 

 

「花蓮はね。第三次世界大戦で死んだはずの人間なんだ」

 

「……………え」

 

「家族と一緒に無人機に殺されたって話。ま、報告だと押し入れに隠れてたけど出てきた所を狙われて殺害されたということになってるね」

 

「で、ですけど、あの娘は………今、生きてるんじゃないですか?」

 

 

困惑しながら、今も眠る花蓮を見る。彼女が死んだ人間であるはずがない。時雨と話していた所から見ても偽物ではなく、張本人であることは確かだが、一体どういう意味なのか。

 

 

「第三次世界大戦で、行方不明の人間が多かったのは覚えてる?」

 

「は、はい………遺体が見つからなかったのが数万人以上、戦争の際に爆発などで吹き飛ばされたという話でしたが」

 

「見つからないのも当然さ。回収されたんだからね、無人機に」

 

 

言葉が続かなかった。

絶句してしまった真耶に、平然と話を聞く姿勢の千冬。しかし思うところがあるのか、その顔はより険しく引き締まっていた。

 

 

「無人機達は殺した人間の遺体────その中で、幼い子供達。四歳から十八歳の子供達の遺体を回収し、自分達の工場へと運んだ。そして、改造したんだ。自分達の造る対人類用の兵器のパーツとして」

 

「────界滅神機。そのコアは人間を、生体ユニットとして作り替えたものというわけか」

 

 

納得する一方で、千冬はもう一つの疑念を抱いていた。

 

 

「それよりも、よく知っていたな。私達よりも前にでもこの事を認知したのか?」

 

「…………五年前から、世界各地の地下深くに施設が確認されてね。そこから発見された少年少女達は行方不明になった人間であり、改造されていることが分かった。

 

 

 

 

議会による談義の結果、彼等は『リゾネーター』と呼ばれる兵器に仮定されることになった」

 

 

淡々と話す時雨は、冷徹そのものだった。無邪気な笑顔を浮かべる気力すらないのか、感情が滲む様子すらない。

 

ガラスの奥で眠る花蓮の姿を見ながら、真耶が震えた声で聞く。

 

 

「あの娘は、その子達はどうなるんですか」

 

「まだ、話し合いの最中さ。結局、八神博士の負の遺産の一つとして処分するか、兵器らしく運用するかっていうふざけた事をいう奴が多い。

 

 

 

 

神にでもなった気なのかね、人間ってのは」

 

 

唾棄するような言葉に、誰も応じることはできなかった。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

エレクトロニクス機社、本部。

巨大なビルが複数並んだその建物の全てが、エレクトロニクス機社の施設であった。地下を含めれば、その規模は一つの都市に並ぶほど。

 

 

数年前にとある事故で半壊したこの街はエレクトロニクス機社の手で復興しており、アメリカの主要都市に並ぶほどの経済力や賑わいを持つ。街の名も、エレクトロジアという会社の名を用いたようなものになっている。

 

話は逸れたが、巨大な本社の中央。一際一番大きなビルの頂点、そこに社長であるアレックス・エレクトロニクスが鎮座していた。

 

 

「それでは、今月の成果───新兵器の進捗を聞こうか」

 

 

見れば分かる豪華な椅子に背を預けるアレックス。彼の目の前にいるのは白衣を着た青髪の女性であった。アレックス直属の研究班アルファチーム。エレクトロニクス機社の為に多くの開発を行う科学者のチームの中で青髪の女性が担当するアルファチームは、表向きには秘密裏である新兵器の開発を携わっていた。

 

女性がタブレットを手に、近くのディスプレイを空中に投影させながら説明を始めた。

 

 

「ウロボロス・ナノマシンを無尽蔵に形成する炉心、『ヴォルガニック・ゼノリアクター』は無事に完成しました。ですが、新しい問題が」

 

「………不具合でもあったのか」

 

「いえ、リアクター自体は問題ないのですが………」

 

 

言い淀む女性に続けろと促す。そうすると、ディスプレイに別の映像が映った。

 

 

全身から赤い雷を放ち、直後に爆散するヒト型兵器の映像が。

 

 

「炉心の出力が、強力すぎるんです。先程無人ヒト型兵器に搭載させて起動させましたが─────エネルギーの増幅を制御できず、自爆しました」

 

「………」

 

「社長?」

 

「それも当然だな。『ヴォルガニック・ゼノリアクター』はこのエレクトロニクス機社全ての電力を賄う大型リアクターの最新型。その中でもISのコアに近いものを再現したものだ。この程度の障害など、分かりきっていた」

 

「ですが、社長。これでは難しい話ではないのですか。ISを越える戦闘用のマルチスーツなんて────」

 

「不可能、じゃないはずだ。八神博士という天才は人類の技術を覆す無人兵器を生み出し、篠ノ之束という天才はそれらを圧倒するISを作り出した。それを前に、どんな人間も不可能だと馬鹿にして、理解しようとはしなかった。

 

 

 

諦めるというのはオレの好みじゃあない。オレは彼等のような天才ではないが、努力や積み重ねの天才だと自負している。何年かかろうが地道に着実に完成させるまでだ」

 

 

堂々と宣言したアレックスはタブレットを片手に立ち尽くす研究チームのリーダーの女性を見据える。雰囲気を保ちながら、若手のエリート社長は続けた。

 

 

「実験を続けろ。理論上のデータで駄目なら、細かい部分を別物へと変えて試してみろ。我々には見えない答えが、原理が存在しているはずだ。それをどうにかしてしまえば、結果は早い」

 

「────ハッ!失礼します!社長!」

 

 

慌てるように、部屋から飛び出していった女性を見送るアレックス。直後に全身から力を抜き、崩れ落ちるように椅子にもたげる。

 

 

「……………ホントに、大変だな。社長ってのは」

 

 

胸元のネクタイを緩め、アレックスは社長モードを消して溜め息を吐き出す。無気力に満ちた溜め息は本当に疲れを宿したようなものであった。

 

 

アレックスにはとある野望がある。

その為に彼は、エレクトロニクス機社という会社を動かし、自分の野望のために力を蓄えていた。その為の新兵器、ISを超越する兵器の開発なのだ。

 

 

だが、自分が気にするべきは内側だけではなく外側もだ。世界情勢はこれから一気に変化していく。ロシアを含む大国は大規模なプロジェクトを進めていき、アナグラムもそれを阻止するべく行動を起こすだろう。

 

 

そんな連中よりも、アレックスが一番警戒しているのは『魔王』と呼ばれる存在であった。世界の闇に隠れた暗部の王。非公式のISを操り、大勢の人間を手に掛けてきたその存在は国連から警戒されており、アレックスもどう仕留めるべきか悩んでいる状態だ。

 

今現在、『魔王』は日本へ動いているらしい。何が目的かは知らないが、どうせロクな事にはならない。特殊部隊を動かし、監視を続けているのであまり心配はないが、警戒するに越したことはない。

 

 

────大変だな、そう一息をつこうとした直後だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「兄上!兄上はおられるかーッ!!」

 

 

ドタドタと響いてきた足音に続き、堂々と部屋が開け放たれる。入ってきたのは、濃い金髪の少女であった。アレックスよりも年下である彼女に大きな特徴がもう一つある。

 

 

右手に包帯を巻いているのだ。怪我でもしているのか、と思うが実際はしてすらない。ただ自分の右手に無造作に巻き付けているだけに過ぎない。それに、口調も英語などではなく、少しおかしな日本語であった。

 

 

力を抜いていたアレックスは顔を上げ、少女を見ると本当に疲れたような顔をする。こめかみを指で押さえながら、ものすごく重い口を開いた。

 

 

「………メリッサ。扉を開ける時は静かに開けろと言われているだろう」

 

「む、すまない兄上。しかしだな、急ぎ伝えたいことがあって……………」

 

「後、その口調は何だ?一ヶ月前までそんな話し方してなかっただろ」

 

 

メリッサ・エレクトロニクス。

今は亡き父 デムニスの残した十数人の娘の一人、アレックスの妹の八女であった。

 

アレックスの記憶通りなら彼女は、ここまで活発的な性格でもこんな口調でもなかった。比較的にも大人しく、日本史をこよなく愛する彼女とは、まるで人が変わったどころの話ではない。

 

 

「フフフ、兄上。私は気付いたんだ。日本の魅力に」

 

「………そうか、理由になってないぞ」

 

「ジャパンのマンガという文献を読んで私もサムライに憧れたんだ!ザ・ブシドー!イッツハラキリー!! 兄上!次は私もジャパンに連れていってくれ!本物のサムライやシノービに弟子入りしたい!」

 

「…………………メリッサ。日本に侍や忍者はいない。もっと昔の存在だ」

 

「そんな馬鹿な!実際にこの書物に記されているじゃないか!」

 

「────漫画だ!マンガ! これはフィクションですって書いてあるだろ!侍は一応実在していたが、忍者なんてもう廃れてるし、日本に行っても会えるわけじゃないんだぞ!?」

 

 

それだけ叫び、両手で頭を抱える。

亡き父 デムニスから十数人の娘、姉妹達を託されてから、アレックスは亡き父への恩義から姉妹達に不自由ない暮らしをさせていた。

 

なのに、妹の一人が外国の歴史(というのは流石に失礼だとは思うが)に染まり、なんかオタクみたいな感じになってるのは本当に申し訳ない。いや、元気になってるのならアレックスとしては喜ぶべきなのだが、実に複雑である。

 

 

「ああ、そうだ。兄上、これを渡したかったんだ」

 

「………?」

 

 

そう言ってメリッサが何かの紙束を机に置いた。妙に埃が被った紙に若干の忌避感と怪訝そうな顔で手に取ったアレックスは軽く手で払い、大きな文字を読む。

 

 

「────極秘資料、除外経費隠蔽について……………は?」

 

 

瞬間、アレックスは青ざめた。

資料はどうやら経費を誤魔化したものらしい。それも数年前の。次のページを読んで、除外された経費を見て青から真っ青、白へと変わる。

 

灰になりそうなったアレックスに、メリッサは困ったように話し出した。

 

 

「なんか倉庫の天井裏に隠されていたんだ。多分デルタチームの皆のものだと思うのだが…………」

 

 

「ッ!ユニオン総員に告ぐ!すぐに研究班デルタチームの馬鹿どもを縛り上げて俺の元に連れてこい!!今すぐだ!!」

 

 

襟に隠していたマイクに怒声を響かせ、アレックスは頭を抱える。表向きには外国とも多くの繋がりを持つ敏腕エリート若社長である彼は、周りに振り回されて疲れて果てていた。

 

 

因みに、経費の使い道を知って卒倒するのは一時間後の話だ。




アレックス氏、卒倒


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次回もよろしくお願いします!それではっ!
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