IS 蒼き宙の向こうへ   作:虚無の魔術師

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新章開幕。取り敢えずオリジナルなのでそこだけは把握よろしくです!


第三章 episode1 ヴァルサキス・ミハイル
第36話 白雪の少女


「着いたー!ロシアーッ!!」

 

 

飛行機から降り立ち、空港に足を踏み入れた鈴が楽しそうに叫ぶ。余程退屈していたのか彼女の様子は活気に満ちていた。

 

 

「鈴………平気なんだな」

 

「大丈夫って………こんくらい何ともないっての。むしろ、こんな感じってくらい…………というか、アンタの方が大丈夫なの?一夏」

 

「へへ────正直キツイ」

 

 

因みに、この場にいる一同は全員が私服姿である。各々が厚着などをしている中、一夏は軽い薄着である。そこまで薄いという訳ではなく、半袖に長ズボンという感じだが、寒さを誤魔化すことは出来ないらしい。

 

 

「夏真っ盛りだから少しは暑いって思ったけど………普通に冷えるな………」

 

「まぁロシアだからな。北海道よりも雪国してるって言われてるぐらいだ。このくらいの気温ならまだいい」

 

 

隣で大きなコートを着込んだ龍夜が達観したように話す。体を完全に覆い被さるその姿はミノムシみたいになっているが、唯一無防備なのは頭部だけである。

 

 

そんな風に話している一夏達に、千冬が声を掛けようとしたその時だった。

 

 

 

「───お待たせしました。織斑千冬様、そして生徒御一同」

 

 

カンッ! と床を擦る音は、靴によるものだった。振り返った先に居たのは、白い軍服に身を包んだ糸目の男性。将校であるのか勲章をポケットや帽子に着けたその人物は帽子を取り、丁寧なお辞儀をする。

 

 

「本日皆様の案内を任せられました。将軍閣下の右腕、イレイザ・レフコフと申します。皆様、此度は我が祖国ロシアに訪れていただき、感謝をさせていただきます」

 

「しょ、将軍の右腕………!?それって、普通に偉い立場の人じゃあ!?」

 

「………そこそこだが、確かにそうだな」

 

 

驚く一夏に、横でそう言いながら頷く。紳士的なイレイザの対応に千冬が大きく笑った。来やすく語り掛けるように、話し出す。

 

 

「久しいな、イレイザ。もう将軍の片腕か、将軍になるのも後少しじゃないか」

 

「これはこれは。織斑千冬様もご冗談を。私が将軍になれるとしたら、現将軍閣下がご逝去されるか失脚するかです。このままならば、きっと数十年も先でしょう」

 

 

しかしその瞬間、イレイザの糸目が大きく開眼した。綺麗な葵色の瞳を輝かせながら、イレイザは先程までの落ち着いた態度を取り消すように口を開き捲し立てる。

 

 

「ですがしかし!もし将軍が運悪く多大なミスを犯し、信用を失い席を失うのであれば!次期将軍は私以外にありはしませんとも!ええ!大統領閣下や官僚の皆様にゴマ────ゴホゴホ、信用を貰ってますので!出来るなら今すぐ将軍閣下には失脚して─────ゲフン!ゲフン!お暇をいただいて、ゆっくり休んで欲しい次第ですとも!ええ!」

 

 

 

「………先生、この人」

 

「まぁ元々こういう奴だ。目に見えて分かる通り野心家だが、私達に害はない。コイツが相手するのは、いつでも自分の政敵だけだ」

 

 

純粋に戸惑うシャルロットの疑問に、そう答える千冬は妙に落ち着いている。やはり慣れているのか、これ以上の変人を知っているから差程気にする必要もないのか。両方の可能性もある。

 

 

コホン、と咳き込んだイレイザは姿勢を正しくする。そして、一夏達へと視線を向けて、口を開いた。

 

 

「それはそれとして、皆様の本日のご用は伺っております。基地までの列車は此方です、着いてきてくださいませ」

 

 

丁寧な言葉と共に案内され、その後を着いていく一夏達。ざわざわと此方に視線を向けてくる人混みの前に複数人の警備員と軍人が立ち、まるで有名人でも通すかのように道を作っていた。

 

 

「あ、あの……?イレイザ、さん?」

 

「はい、イレイザです。何でございますか、織斑一夏さん」

 

「この道って、列車のあるホームから離れてますけど………基地に向かうんですよね?乗らないんですか?」

 

「ああ、いえ。乗りますとも。ですが、普通のではありません。軍用列車です。勿論、ただの軍用列車ではありませんよ」

 

 

したり顔で笑うイレイザは困惑する一同を他所に、本当に好奇心に満ちた様子で前へと歩いていく。人の気配が無くなった通路を渡り、一番奥に進んだ途端、ようやく広間へと辿り着く。

 

 

そこで、彼等は衝撃的なものを目にした。

 

 

 

 

「こ、これは───」

 

「で、でっか!?」

 

 

一面黒に染まった巨大な鋼鉄の塊。数メートルも続くその長い体躯が連結された車両と気付くのには時間を要した。車両自体にも窓らしきものが見えず、ドアすら存在しないと思われる。

 

前方の車両は人が乗れる場所など無いような程に武装が詰め込まれており、正に巨大要塞と言っても過言ではない全貌であった。

 

 

「な、何だよ………これ!?」

 

「───『ガングレイヴン』、か」

 

 

漏れ出した龍夜の呟きに、ほとんどがその意味を問おうとする。しかしそれよりも先に、話を始めた者がいた。イレイザだ。

 

 

彼は待ってましたと言わんばかりに絶好調な様子で、勢いよく語り出した。

 

 

「ええ!これこそ我がロシア陸軍が総力を以て開発し、大戦を勝ち抜いた重装甲機関列車『ガングレイヴン』!その三番目である『ポレヴィト』です!装甲は勿論のこと、速力も並大抵の列車すら凌駕する!正にロシアが誇る戦力が一つ!因みにポレヴィトという名は三体の戦神から取られておりまして───」

 

「─────だが、『ガングレイヴン』はISの発展と共に衰退し、『ポレヴィト』が運用される前に大戦が終結したことでその価値が試されることなく、『栄光なき戦神』と揶揄されてると聞くな」

 

「────ブフゥ!?」

 

 

しかし、割り込むように補足されたラウラの言葉が余程突き刺さったのか膝から崩れ落ちる。ブツブツと空に消えるような細い声で呟くイレイザに困惑する候補生達。そんな彼等に、千冬が呆れながらも続けた。

 

 

「コイツの親はな、『ガングレイヴン』の製造に関わった責任者でな。『ガングレイヴン』関連になるとこんな感じ五月蝿くなるから、不用意に口を滑らすなよ。数時間も長話をされるぞ」

 

 

そう言われて流石に黙る。数時間も興味ない話をされ続けて耐えられる気がしない。項垂れていたイレイザは千冬に蹴り上げられ、不服そうにしながらも起き上がる。

 

 

「えぇっと、皆さん。今から『ポレヴィト』に乗ってください。基地までの時間は一時間ちょっとですので………車内では気楽にしてくださいね」

 

「乗ってくださいって言っても………扉は何処に────」

 

「あ、失礼。まずは開ける必要がありました」

 

 

そう言うと慌ててイレイザが車両の壁である鋼鉄の壁に触れる。掌を押し当てた瞬間、浮かび上がった光が点滅してすぐに、隣の壁がゆっくりとスライドしていく。

 

 

「それでは皆様、どうぞこの中に」

 

 

愕然とする一夏達に、イレイザがそう促す。慌てながらも彼等は車両の中へと足を踏み入れる。全員が乗ったのを確認してから、イレイザが入った途端にスライドした壁が戻り、扉は再び閉ざされる。

 

 

 

 

 

 

 

その時、真後ろの『ガングレイヴン』の車両。彼等が姿を消した直後に、コッソリと人影が表れる。見つからないように隠れるその人物はすぐさま『ガングレイヴン』へと飛び付き、その手を動かす。

 

 

瞬間、その腕が光に包まれ───水色と青色の混じった装甲が展開されていた。ISの部位顕現、そういう技術の賜物である。

 

 

少女がISの籠手で壁に触れた途端、音声が響く。

 

 

『専用機 「クローム・オスキュラス」、接続が確認されました。警告、認識システムに機体の設定が存在しません。警告します、この機体の設定────がッ、ガガガ、ガ────承認を確認ゲートを解放します』

 

 

システムの音声が一瞬乱れたが、すぐに正常に戻る。直後に壁が展開し、その隙間に人陰が飛び込む。壁が再び閉まった時には、列車が進んだのか動き出していた。

 

 

ゴゥン、ゴゥンと大きく揺れる車内に入った人影は自分の姿を隠していた黒い布を剥ぎ取り、立ち上がる。

 

 

「────何とか、列車に乗り込めた」

 

 

薄い、と言うよりも白に近い金髪。藍色に輝く瞳に、透き通るような白い肌。ISスーツに身を包んだその人物───否、少女はキョロキョロと回りを見渡す。

 

 

前方の車両に人の気配がすると感じ取った彼女は背を低くし、現在いる車両────倉庫の中の影へと姿を隠す。隠れる瞬間、彼女は自分の手首を静かに見つめる。

 

 

 

何か大事なものを思い出したのか、少女は顔を険しくする。決意と覚悟に満ちた表情を和らげること無く、強い意思と共に呟いた。

 

 

 

「絶対に、助けるから。待ってて」

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

時は、数日前に遡る。

夏休みを満喫していた一夏達に、理事長からの召集が掛けられた。急いで学園へと戻った彼等が聞いたのは、意外な指令であった。

 

 

「突然だが、君達にはロシアに向かって貰う」

 

 

ふふん、と大人ぶりながら話す理事長 時雨の言葉に、全員が互いの顔を見合う。驚き呆然としている一夏を他所に、他の全員は困ったように笑う。

 

 

「ほ、ホントに突然ですね………」

 

「まぁね。特権を与えてしまった以上、やるべきことを果たす必要があるからね。申し訳がないけど」

 

 

IS学園外部で、ISの展開が許された特権。国連のトップしか与えることの出来ないその権限は、候補生達に行動制限を与えられぬように時雨が与えたものだった。

 

 

代表候補生は、国家代表とは違いISを許可なく外で展開することは出来ない。非常事態でもないのに街中で展開したと知られれば、厳重に処罰されるのは免れない。特権は、悪用さえしなければどんな状況下でも許可されるからこそ、対応が早くなるという目論みでもある。

 

 

「それで………どうしていきなりロシアなんですか?僕たちが出向くって、そんなに余裕の無い事態じゃ────」

 

「ロシアのとある軍事基地の近辺で、アナグラムの存在が確認された」

 

 

すぐさま全員が気を引き締めた。国際革命組織 『アナグラム』、表向きには革命組織でありながらテロリストとして扱われているその組織は、IS学園にとっても無関係とは言い難い。

 

数か月前の、学園襲撃事件や福音強奪事件、アナグラムが主導し引き起こした戦いに巻き込まれ、何度も戦ってきたのだから。

 

 

「つまり、私達はまたアナグラムとの戦いをする為にロシアに向かう、ということですか」

 

「いやぁ、何も最初から戦う訳じゃないさ。連中の目的を把握してから、それを阻止して欲しいだけ。…………ただ、少し厄介な事が起きているらしくてね」

 

 

箒の問いに答えた時雨は、悩んだような顔のまま話を続けた。その報告に、全員が愕然とする。

 

 

「軍事基地の近辺の集落の一つから、住人が全員失踪したらしい」

 

「…………え?」

 

「その後、近くの廃工場で彼等の遺体が回収された。ほとんどが、凄惨な殺し方をされていたようだ。ロシア軍の捜査の結果、付近でアナグラムの構成員と思われるメンバーがいたとのことで、今回の事件がアナグラムによる行いだと断定された」

 

「ま、待ってください!」

 

 

一夏が慌てるようにして、時雨の話に噛みついた。止めることなく口を閉ざし、耳を傾ける時雨に一夏は捲し立てるようにして喋り出す。

 

 

「まさか、本当にアナグラムがやったんですか!?あいつらが本気で人を殺したって言うんですか!?」

 

「ちょっと!落ち着きなさいよ!」

 

「そ、そうだよ一夏!冷静になって!」

 

 

一夏がここまで感情的になるのは、アナグラムに対して僅かにも思うところがあったからだろう。

 

理不尽な差別や犠牲を好まず、より良い世界へ変えようとするのがアナグラムであり、彼等に対する世間の評価は悪くないどころか高評価と言ってもいい。何故なら、彼等は人を傷つけない。人々を守るためにある彼等は国連との戦いで、一般人の犠牲者を出したことすらいない。

 

 

かつて『反逆者(リベリオン)』の名を冠した一人と相対した一夏も、そう信じているのだろう。どんな理由があろうと、自分達よりも弱い人間に手を下すような人間の集まりではない、と。

 

 

そして、一夏の言葉に頷く者もいた。

 

 

「────俺も、一夏の言いたいことは分かる」

 

 

険しい顔をする龍夜が、腕を組みながら答える。冷静沈着にら賛同した理由を明かしながら。

 

 

「アナグラムの連中は戦いの中で相手を殺すことはあれど、一般人を率先して殺すような事はしない。それは誰もが理解しているはずだ。あいつらが正義を名乗っている以上、無意味に人の命を奪うはずがない」

 

 

その通りだ、時雨は首を縦に振った。

龍夜達同様、彼も今回の事件がアナグラムによって引き起こされただけのもの─────とは、微塵にも思っていないらしい。

 

 

「僕はある可能性を感じている。アナグラムとは違う別の勢力が、アナグラムの名を騙って集落の事件を起こしたこと。そしてもう一つ、

 

 

 

 

アナグラムの中でも────組織の方針に背き、苛烈な手段を取るメンバーが暴走しているという可能性だ」

 

「暴走………そんな事が有り得るのですか?」

 

「まぁね。規律正しい国連の兵士からも何人か裏切り者や犯罪者が出たりする。アナグラムのような正義感のある組織にも、殺しを楽しむ奴も紛れ込む事もあるだろうね」

 

 

実際にそういう人間を見たのか、時雨の口調は推測のようなものではなく、確信に満ちていた。

 

 

「なら、今回の私達の任務はアナグラムが今回の事件に関係しているのかの調査ですか?」

 

「その通りだけど、厳密には違う。確かに調査はして貰うけど、君達にはもう一つの仕事────その軍事基地の防衛が求められている」

 

「求められてる………?国連からの指示じゃないんですか?」

 

「勘が鋭いね。僕達に援助を求めてるのは、他でもないロシアの人間。その軍事基地を管理する将軍様さ」

 

 

その話を聞いて、大半が首を傾ける。ロシアの大統領なら分かるが、将軍まではよく知らないのだろう。殆どが分からずにいる中、学生でありながら軍人でもあったラウラだけが理解していた。

 

 

「将軍程の権力者が外国、よりによってIS学園の学生の力を借りようとしてる、か。予想以上に切羽詰まってるらしいな」

 

 

それはそうだ、と龍夜も同調する。軍人など上の人間になればなるほどプライドが高い者もいる。自国の問題に外国の力を借りるなど誇りからして有り得ない。最も、手に負えない事態なら、それも意味を成さないだろうが。

 

 

 

「まぁ、将軍としてはなりふり構ってる場合じゃ無いんだろうねぇ。よりによって、この時期にあの基地を狙われるんだから」

 

「…………?」

 

 

 

「将軍が主体となって開発している大規模プロジェクトがあるんだよ。今現在、あの基地で最終段階となっている。だから、将軍は慌ててるのさ」

 

 

 

「────名を、『ヴァルサキス・プロジェクト』」

 

「ヴァ、ヴァルサキス………」

 

「具体的にどんなものか、僕は言えないね。けど、一つだけは教えられる。

 

 

 

 

 

 

 

後にアナグラム殲滅作戦として運用される兵器、だってことさ」

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「アナグラム殲滅作戦、か………一体どんな兵器なんだろうな」

 

「さぁ、俺に聞かれても困る」

 

 

列車の中で、前の席に座った一夏の疑問に龍夜はそう言う。因みに一夏の隣にいるのは箒、龍夜の隣はラウラだ。隣を奪うために言い争う少女達が一喝されたことで、最終的にこうなった訳だ。

 

 

少し経ってから雑談をする少女達を見ながら、一夏が目の前にいる龍夜へと話しかける。

 

 

「なぁ、少し気になったんだけどさ」

 

「あ?何の事だ?」

 

「国連は何でアナグラムを野放しにしてるんだ?自分達の邪魔をされて、殲滅したがってるんなら、それこそ早く倒した方がいいだろ………?」

 

 

国際的にはテロリストとはいえ、人々からの人気も多く影響力の強いアナグラムに敵対したくないという事なら分かる。だが、アナグラム殲滅作戦なんてものを立案する時点で彼等を疎ましいと思っている以外有り得ない。

 

 

理事長の小言によると、かつてフランスが主導し、失敗した『戦闘人形(DOLL.s)計画(プロジェクト)』もアナグラム殲滅作戦の一つだったらしい。一つの組織のために、大国や世界が揺るぎかねない程の実験や計画を隠れて推し進める理由が分からない。そんなことしても、危険なのは目に見えているだろう。

 

 

なのに、何故無駄な手間を増やすのか。そんな疑問に対する龍夜の答えは、彼なりの憶測であった。

 

 

「アナグラムを刺激したくない理由があるんじゃないか。下手に追い込んで、奴等が何かを使う可能性を恐れてるとか」

 

「………けどさ、ここまで慎重になる程なのか?」

 

「さぁな。俺だってそんなこと分からない。情報でもあれば、話は別だが」

 

 

不安そうに引き下がる一夏に、冷徹極まりない龍夜が意識を外す。実際、全貌すら見えない事に一々気に掛けるタイプではないのか、案外割り切りがいいだけか。

 

 

「ところで龍夜。さっきから何いじってるんだ?」

 

「…………見れば分かるだろ」

 

 

呆れたように目を細める龍夜。彼の手にあったのは、ゴム製の取っ手がある刃物だ。キラキラと光る刃の形からして、何度も見たことがあるものだ。

 

 

「な、ナイフ………だよな?」

 

「そう見えるか?────こうしても?」

 

「あ、あれ?消えた?」

 

「消えてない………ちゃんとここにあるだろ」

 

 

クルクルと指で回していた刃物が一瞬で消える。戸惑う一夏に、龍夜が手首に嵌められたチョーカーを見せた。理解が追い付かず茫然としていた一夏だが、すぐに答えを理解する。

 

 

「それが、さっきのナイフなのか!?」

 

「正解。俺のガジェットのプロトタイプだ。使い方は単純、持ち主の脳波を察知して変形する。無論、俺の手になくても変形できる…………試しに持ってみろ、気を付けとけ」

 

 

放り投げられたチョーカーを受け取った一夏は不思議そうに触る。龍夜が指を鳴らした瞬間、手首に固定するはずのチョーカーが一瞬でナイフへと変形した。慌てて掴み直した一夏だが、またすぐにチョーカーに戻る。

 

 

感心していたのは一夏だけではなかった。他の全員も話を止め、龍夜の発明品に目を光らせている。チョーカーを凝視して、扱うとする一夏に龍夜は淡々と話していく。

 

 

「ま、ソイツは単なるプロトタイプ………正しく、試作品だ。軍人向きではあるが、IS関連のサポートアイテムとしては致命的に役に立たない代物だ。ナイフ自体の強度も低いし、一回壊して造り直そうとも考えてる」

 

 

「役に立たないって、普通に使えると思うけど─────『パキ』あ」

 

 

一夏がいじっていたチョーカーが割れた。

まるでプラスチックのような音を響かせ、二つに砕けたそれを見た全員が硬直する。造った張本人である龍夜も、顔を俯かせながら制止していた。

 

 

「………龍夜」

 

「…………」

 

「これ、壊れやすくないか?」

 

 

ブチッ!! と何か盛大に千切れる音が少女達の脳裏に響き渡った気がした。あ、不味いと思ったが一瞬、龍夜が顔を上げる。

 

 

凄い笑顔だった。

今まで見たこともないくらいに満面かつ爽快な顔は、惚れ惚れするものである。…………ピクピクと、浮き出た血管のあとさえ除けば。

 

 

 

「───ああ、安心しろ。俺がちゃんと直すさ。だが、その前に─────お前の頭のネジも締め直してやる!」

 

「か、確保ォ─────ッ!!」

 

 

立ち上がった龍夜は、隣にいたラウラや後ろの席にいたセシリアを筆頭に両腕を抱き抱えられ、抑え込まれた。憤慨していたであろう龍夜だっだが、すぐに何かを思い付いたのか動きを緩め、一夏に問い掛ける。

 

 

「おい」

 

「あ、龍夜………わ、悪い、壊す気は無かったんだ。本当に、悪い」

 

「いや、少し聞きたい。お前はこのチョーカーを壊すつもりじゃ無かったんだな?」

 

「………ああ、そうだ」

 

「…………分かった。ならいい。どうせ壊れかかっていたんだろうな、これも」

 

 

何故か大人しく納得した彼は、一夏から壊れたチョーカーを受け取った。一瞬、チョーカーを見て龍夜は目を細めていた。凝視し、確認した後、彼はすぐにその感情を消し去る。

 

 

 

「………まぁ、試作品は置いておくとして───今使えるのは、コイツ位だな」

 

 

そう言い、龍夜が取り出したのは小さい缶詰のようなポッドだった。一夏の手に渡した後、龍夜は缶詰のプルタブの位置にある部分を指差す。

 

 

「そこのスイッチを押してみろ」

 

「スイッチって………こうか?」

 

 

一夏がそれを指で押した瞬間、ポッドが機械的な音と共に光る。驚いた一夏の手の中で、ポッドから声が響いた。

 

 

『指紋、声音認証を確認─────初めまして、織斑一夏様。貴方の行動をサポートするトライポッドであります』

 

「ま、マジか……これって、もしかしてA.I.とか搭載してるのか?」

 

「A.I.って言っても、小型だけどな。基本的に自動学習で俺は一々手は加えていない。それだけの話だろ」

 

 

それでも十分異常であるのは確かだ。

普通の企業でも自己学習するA.I.を作るのにどれだけの時間と費用を要するのか。それをこの青年は容易く実現する時点で、他との格の差が明確であった。

 

 

「行動をサポートって、たとえばどんな事が出来るんだ?」

 

「まぁあくまでもサポートだ。ISが使えない場合での通信、ロックの解錠、危険物や敵の捜索とかな」

 

 

そう言った途端だった。

ピーッ! と激しいブザー音を鳴らしたポッドが赤く点滅する。一夏の手元で大きく反応したトライポッドが彼の手から離れ、地面へと落ちる。

 

 

『────未確認の生命反応を確認、これより迅速に対処を開始します!』

 

 

円柱の側面が伸び、タイヤのようになったと思えば列車の床を転がっていくトライポッド。ゴロゴロと突き進んでいく物体に、一夏は一泊遅れながらも飛び出した。

 

 

「やれやれ、相変わらず騒がしいな」

 

「…………」

 

「?どうした?我が婿」

 

「ラウラ、警戒はしておけ。何時でもISを展開できるように」

 

「………ああ、分かった」

 

 

一足先に追いかけた箒や鈴達の背中を見ながら、龍夜とラウラも動き出す。何か良からぬものを感じ取りながら。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「ちょ、ちょっと待てよ!」

 

『ピー!ピー!ピー!』

 

 

転がり進むトライポッドを追いかけた一夏が辿り着いたのは、後方の車両だった。倉庫であるのか、荷物らしき箱が無数に詰め込まれたそこは人が通れるような場所など少なく、誰一人としていないように見える。

 

 

だが、何故だろうか。

 

 

そこに着いた時、一夏は何かの気配を感じ取っていた。そして、考える間もなく声が出ていた。

 

 

 

 

「───あの………誰かいるのか?」

 

 

 

 

返答はない。

その代わりに、倉庫の中に僅かに擦れる物音と息を呑んだ呼吸が聞こえた。その瞬間だった。

 

 

 

 

バッ!!、と。

近くの箱の山が吹き飛ぶ。その中から飛び出してきた少女。彼女は一夏の姿を見ると、迷うことなく自らの腕に光の粒子から生じた装甲を纏わせる。

 

 

それがISの部分展開だと気付いた時には、少女が凄まじい勢いで飛び込んできた。

 

咄嗟にISを展開し、受け止めようとする一夏。しかしその心配は杞憂に終わった。誰もが予想もしないモノによって。

 

 

 

「────え?」

 

 

誰が呟いたか、呆然とした声が響く。

駆け出した少女の身体が宙に浮いていたのだ。その理由はすぐに分かった。一夏への攻撃感知したトライポッドが少女の足元へと移動し、それに少女が躓いた訳だ。

 

 

さて、問題は一つ。前方へと駆け出していた少女が転けそうになったら、目の前に人がいた場合、一体どうなるのか。

 

 

 

「うおおおっ!?」

 

「きゃあっ!」

 

 

激突した二人が床に転がる。ドンガラガッシャン!と盛大な爆音を響かせて、列車の壁を揺らした。

 

 

余程古臭い倉庫だったのか、埃のような煙が立っている。軽く打った頭を擦る一夏は身体を上げる。その為に腕を伸ばし、床に触れようとする。

 

 

「いたた………何だってんだ、一体───」

 

「ひゃうっ!?」

 

「?何だ、柔らかい床だ────え?」

 

 

自分が触れたはずの床の感触が予想とは違うことに疑問を覚えたのも一瞬。目の前の現実に一夏は大きく理解が遅れた。

 

 

どういう状況なのか、と言われれば、先程の少女の上に一夏が乗り上げていたのだ。奇跡的に少女を押し潰すような状態ではないのが幸い………ではあるが、ある意味では最悪である。

 

地面に触れようとしていた一夏の手が少女の胸を掴んでいなければの話だが。

 

 

 

 

そして、理解が遅れたことで更なる悲劇が生ずることになった。

 

 

 

「一夏!どうした!?さっきの大きな音、は…………」

 

 

いち早く駆け付けてきた箒。車両に踏み込んできた彼女の足がピタリと止まる。目の前の状況───一夏が見知らぬ少女に跨がり(ように見えるだけ)あろうことか胸を揉んでいるように見える現実(これは事実)を見たら、誰しも硬直する。

 

 

後々から来た面々も、様々な反応をする。

 

 

「な、何をされてるんですか………」

 

「おお、あの構図は見たことがあるな。ラッキースケベというヤツだ、日本のジャンプとかいう雑誌でよくある現象らしい。婿、実際にあるものなんだな」

 

「……………ハァ」

 

 

戸惑いながらも、目の前の現状に呆れるセシリア。かつての部下に見せられた漫画の事を思い出し感心しているラウラ。目を離した先にこんな問題事を起こしている青年とこれから起こるであろう惨事を予想して、こめかみを指で押さえながら深い溜め息を吐き出す龍夜。

 

 

そんな彼等とは違い、同じ反応をする三人。箒、鈴、シャルルは長い沈黙を続けた。全てを察した龍夜が深呼吸をしたその瞬間、

 

 

 

 

「「「死ねェェッ!!一夏ァァァァァッッ!!!」」」

 

「「「確保ォォォ!!!」」」

 

 

暴走した三人を、他二人と共に一気に取り抑える。呆然とする一夏と少女。渦中の二人を無視する形で、暴発するであろう乙女達は友人達によって静められた。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

「………さて、早速だが聞きたいことが山程ある。素直に答えてもらうぞ」

 

「こ、答えられる範囲なら………」

 

 

両手に手錠を掛けられた少女を前に、千冬が険しい顔つきで見下ろす。少女は不法侵入であったらしく、その後すぐに龍夜達に捕縛され、千冬によって尋問されていた。

 

 

「名前は?」

 

「シエルです。ファミリーネームはありません」

 

「………お前の所持していたIS、『クローム・オスキュラス』は何処から手に入れた。確かはロシアの企業の開発していたものだと聞いているが」

 

「ある人から貰いました。名前は言えません」

 

「………何故、この列車に乗り込んだ。目的は私達か?それとも他にあるのか?」

 

「………………」

 

「やれやれ、黙秘か」

 

 

沈黙を貫くシエルに、千冬は一息吐き出す。しかしその瞳は鋭いものであり、眼差しを向けられた少女は心なしか怯えている。

 

 

「織斑先生、この娘をどうするんでしょうか?」

 

「基地に辿り着いてからロシア軍に引き渡す。ISを持っている以上、アナグラムとは関係無さそうだしな」

 

「ッ!待ってください!軍隊には渡さないでください!アイツらに、アイツらに捕まる訳には───!」

 

「そういう訳にはいかん。この列車に無断で乗り込んだ時点で貴様は犯罪者だからな。私達が助けてやる義理もない」

 

「………うぅ」

 

 

返す言葉もなく俯いてしまうシエル。今もにも泣きだそうな少女を見据える千冬は冷徹極まりなく、容赦が感じられない。

 

そんな様子に、助け船を出した者がいた。何か思う所があった一夏であった。

 

 

「なぁ、千冬姉。話だけでも聞いて良いんじゃないか?」

 

「………」

 

「その子、何か大事な目的があるんだと思う。俺のこと襲おうとしたけど、武器を展開すらしなかったから、傷付けるつもりは無かったはず………だから、少しは話を聞いてやりたい」

 

「……………フン」

 

 

座席から腰を上げた千冬が、一夏に近寄る。気になっているのかチラチラと意識を向ける一夏の頭へ手刀を打ち込んだ。

 

 

「痛ッ!?」

 

「織斑先生と呼べ、と言っているはずだ。馬鹿者が」

 

 

悶える弟に厳しい言葉を投げ掛けた千冬は再び座席に座り直す。口を閉ざしたシエルを見て、告げた。

 

 

「話せ」

 

「………え?」

 

「お前の話次第では、引き渡すのも考えよう。私自身、今回のことに色々と引っ掛かるものがある。場合によってはだが、力を貸してやらんこともない」

 

「…………で、でも、私が頼れるのは世界最強って人だけ」

 

「その世界最強が目の前にいる」

 

 

断言した千冬に、シエルの方が呆気に取られた。一瞬迷っていたシエルだが、一夏と千冬の顔を見た後────重い口をゆっくりと開き、話し始めた。

 

 

 

「────私は、あの基地に向かいたいんです」

 

「何故だ?お前一人で向かうなど無謀だ。そこまでする理由が、あの基地にあると言うのか?」

 

「友達が、いるんです」

 

 

その一言に、全員が言葉を呑み込む。

次に少女の話した事実は、自分達の目的を前提から覆しかねないものだった。

 

 

 

「ずっと一緒だった友達が、あの基地に囚われているんです。ヴァルサキスっていう兵器に組み込まれる前に、助けたいんです…………!」

 

 

 

◇◆◇

 

 

巨大基地の地下。

無数の装置が有象無象のように並ぶ巨大な空間。そこで一際大きな影、巨体が存在していた。

 

 

全長十五メートル程。

人間を優に越えた異様な巨体は、人間のように手足が備わっている。

 

顔や頭部は胴体と連結しているらしく、見えるのは膨らんだような形状の装甲と隙間から覗く不気味な光だけ。

 

 

その巨人を異様とする要素はもう二つ、その一つは脚であった。細長い板を厚くしたものをスキーボードのように連結した形になった脚部は複数の間接を有したものになっている。

 

 

もう一つは、背中に浮かぶ巨大な光円陣。地球上の物質には存在しないものを使ったような光の円は今も輝きを衰えさせることはない。

 

 

「────人が造りし、天体。星帯を廻る天裁の機神」

 

 

それを見ていた者が、謳うように呟く。

豪華な部屋。部屋にある家具や壁紙、全てに金が掛けられたような印象が見られるその一室に、一人の男がいた。

 

 

壁一面に広がるガラスに映る巨大兵器 ヴァルサキスを見ながら、その男は嘲笑を浮かべる。

 

 

「人間ってのは、実に愚かだ。自分達ならば神を造れると、その傲慢さが世界を破滅に導く。だからこそ、我が『皇』や俺達が救ってやらなきゃいけない。哀れで醜く、滑稽な生命達を」

 

 

傲慢極まりないその発言は、当然という感じで発されていた。男は自分の言葉に間違いなどないと断言するように、持っていた杖を床に打ち付ける。

 

 

───かつてハワイ沖で見られた者が持っていたような、神々しくも次元の違う異質な杖を。

 

 

 

直後、ノックが大きく響き渡る。

それに反応するも、男は動かない。必要すらないというように、堂々と豪華な椅子に全身を預けている。

 

 

ガチャリ、と開いた扉から何人かの男達が現れた。軍服を着込んだ一同の中で、一際険しい顔つきと荘厳な軍服を纏う男が前に歩み出る。

 

 

ロシア陸軍のトップ、将軍と位置付けられる男が、動いた。

 

 

ザッ! と床に膝をつけ、目の前の男に頭を下げる。敬服するような姿勢には、畏怖が滲んでいた。それを誤魔化すように、張り上げた声を響かせる。

 

 

「お待たせしましたでしょうか!『忠臣』殿ッ!」

 

「────違うなぁ、少し違う」

 

 

コキ、と首を曲げた音が静かに消える。

不適に笑う男の言葉に、跪いた将軍は信じられない程に青ざめていた。まるで極寒の中にいるかのように、震えを抑えきれない将軍の前で、男が立ち上がった。

 

 

「それはあくまでもコードネーム。俺達の名を知らしめる為の仮名だ。俺には本来の、ハイルゥという名前がある。

 

 

 

 

 

 

 

どうせなら、ちゃんと敬意を示して呼んで欲しいよね。『三皇臣(トライアル・インペル)』、『忠臣』のハイルゥ様と」

 




将軍の右腕 イレイザ

ロシア軍将軍の側近をしてる中将。穏やかかつ紳士的な性格だが内面は非常に腹黒く、野心家。気が緩むと野心に満ちた本音を何度も口走る。

愛国心が強くロシアの為に将軍になろうとしている。そのため、現将軍は心の底で見下しており、いつか引きずり下ろそうと画策している。


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