IS 蒼き宙の向こうへ   作:虚無の魔術師

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《注意》この話からインフィニット・ストラトス アーキタイプ・ブレイカーのキャラが登場します。以上の事を確認の上、よろしくお願いします。


第38話 別行動

「………」

 

「…………」

 

 

ロシアの人気の少ない基地。本来列車で目指していた巨大基地とは離れたそこで待機していたのは、龍夜とセシリアの二人だった。

 

巨大な施設の入り口の前で待つ二人。冷えきった空気に晒される中、龍夜が横に立つセシリアへ声をかけた。

 

 

「………寒くないか?」

 

「し、心配ありませんわ………私とて代表候補生の端くれ、これ以上の厚着など問題ありません。むしろ心地いいくら────くしゅんっ」

 

「……………そうか」

 

 

因みにだが、この下りは少し前にもやった。毛皮のコートでも貸してやろうかと聞いたが、顔を真っ赤にした彼女に断れた。意地を張っているのか呆れはしたが、素直に尊重することにした。

 

 

「それにしても、私達だけで大丈夫なのでしょうか……?」

 

「意外だな。こういう時、自信もってやるタイプだと思っていたが」

 

「え、えぇ………ただのテロリストなら、問題無いのですけれど。相手はアナグラムかもしれません。ISを持っているからと言って、安全だとは言い切れませんわ」

 

「………それはそうだ」

 

 

何故二人が、他の面子とは離れて行動しているのか。それは数時間前の事が関係していた。

 

 

◇◆◇

 

 

列車が大規模な基地へと到着した後、人気のない大広間へと着いた千冬や一夏達を待っていたのは、椅子に腰かけた将軍だった。

 

 

「ようこそ、IS学園の諸君。早速だが、我々の事情は聞いているな?」

 

「ええ、心得ております。この基地の護衛と、周囲で起きている異変の調査でしょう」

 

「結構。ならば人員はどうする気か、聞かせて貰おう」

 

「基地の護衛には三人、織斑と篠ノ之、デュノアを配属します。残り四人に異変の調査を任せていただきます」

 

 

そう言って残りの四人に視線を配る千冬。全員がそれに応えようとした瞬間、

 

 

「────待て」

 

 

険しい顔つきの将軍がそれを呼び止めた。

 

 

「何か?」

 

「調査程度に四人も必要もないだろう。その中でも優れた二人だけでいい」

 

「…………しかし、敵はアナグラムであり、交戦する可能性もあります。いくらISを所有する候補生と言えど、生徒二人だけで向かわせる訳にはいきません」

 

「案ずるな。此方もイレイザや本国の候補生を送る。戦力としては十分だろう。他の全員はこの基地の警護をして貰う。それで構わないな?」

 

 

有無を言わない勢いと様子のまま告げる将軍。反論すらも無視する将軍の気迫に、千冬はすぐさま引き下がった。

 

 

「分かりました。そのようにさせていただきます」

 

「うむ………感謝する。ラフコフ中将、貴様は本国の候補生と候補生から二人を連れて事件の調査に向かえ。いいな?」

 

「ハッ、畏まりました。…………して、お二人はどのように決めますか?織斑先生」

 

 

チラッ、とイレイザの視線が千冬に向けられる。僅かに悩んでいた千冬は、即決するように口を開いた。

 

 

「────蒼青、オルコット。任せていいか?」

 

「………了解」

 

「ええ、分かりましたわ」

 

「では、お二人方着いてきてください」

 

 

近くに座する将軍に丁寧に頭を下げ、イレイザは龍夜とセシリアを連れていく。部屋へと出る直前に、イレイザが思い出したように二人に声をかける。

 

 

「…………お二方、暖かいものは要りますか?」

 

「いや、不要です。つい先程飲み終えたものを捨てた後ですので」

 

「そうですか。それが分かっただけでも幸いです。手間が省けました」

 

 

軽く話しながら、部屋から出ていく。廊下を歩いていくイレイザは足を止めることなく、静かな声で呟いた。

 

 

「………なるほど、彼女は無事別行動出来ましたか。その調子だと、連中にも気付かれていないようだ」

 

 

列車で遭遇した少女、シエル。『ヴァルサキス・プロジェクト』の関係者であり、兵器として利用される友達を助けようとする少女。IS学園はその計画の闇を無視できず、彼女に力を貸すことにした。それはロシア軍直属であるイレイザも同意のもとであった。

 

 

だが、それは全面的に協力するという訳ではない。まず、シエルには別行動をして貰う必要がある。確実な証拠も無しに、彼女の味方は出来ない。下手なことを仕出かせば、それを理由にIS学園が批判される可能性もある以上、これが最善なのだ。

 

 

「───それにしても、本当に厄介ですわね。まさかあそこまで警護の数に拘るとは」

 

「考えるのなら、将軍も焦っているんだろうな。それ程に、失敗は許されないという訳か」

 

「えぇ、部下からの情報によると、上からの圧力があったらしいですね。早めに動き出すつもりのようです」

 

 

計画通りとはいかないのは悩ましいが、ここは一夏達に任せる事にする。自分達はただ、目の前の障害を打ち破る事に集中するべきだ。

 

 

「俺とセシリアは予定通り、事件の調査に移るということですか」

 

「はい………ですが、お時間をいただきたい。今から代表候補生を呼び出してきますので。先にこの場所に向かってください」

 

「…………これは?」

 

「次の標的になると思われる集落の近くの基地です。警備の兵士や関所で止められたらその紙を見せるようにお願いします」

 

渡された書類を受け取ると、イレイザはお辞儀をして近くの曲がり角を通っていく。

 

 

此方を伺うセシリアに無言の視線を送った龍夜は、考える間もなく飛び出したのだった。

 

 

◇◆◇

 

 

「さて、お二方。こんな寒い場所で待たせてしまい申し訳ありません」

 

 

そんな風に少し前の事を思い返していた瞬間、複数の車両と共にイレイザがその場に着いた。会った途端に礼儀正しく振る舞われる事に少し鬱陶しいと思うが、実際にそう言う事はなく、龍夜は話題を切り出した。

 

 

「ここから行くってことは、目的の集落はどのくらいですか?まだ問題ないとはいえ、時間の問題かと思います」

 

 

言外に早く行こうと示す龍夜に、イレイザは困ったように周りを見る。明らかな変化に怪訝そうになる二人に、彼が本気で困り果てた様子で溜め息を漏らす。

 

 

「えっと………少々、お待ちください。もう少しで来ると思いますので」

 

「来るって、例のロシアの代表候補生ですね。まだ来ていないんですか?」

 

「ええ、本当に申し訳ありません。もう一人は大丈夫なんですが、あと一人の方が少し─────」

 

 

そう口走ろうとしたイレイザが、ふと全く別の方へ顔を向ける。二人もそれに従うように、イレイザの視線の先を見た。

 

 

少し薄暗い雲が広がる空。大きなキャンパスに広がる灰色の景色の一点が、別の色へと染まる。何かが、凄まじい勢いで飛んで来ているように思えるそれが何なのか、すぐに分かった。

 

 

(────IS?)

 

 

むしろ、それ以外有り得ない………というのは大袈裟だが、その方が可能性も高い。ハイパーセンサーを起動し、飛んできたものを計測してみようとした瞬間、それが音速に包まれながら此方へと突っ込んできた。

 

 

ボサボサとした風に見えるが元からそういう髪型に整えたらしい真っ白な髪が特徴的な少女。全身に纏うのはロケットらしき装置を背中に搭載し、腕や脚に鋭い半透明な刃を展開したISであった。

 

 

地面ギリギリでホバリングしたであろうISはゆっくりと地面へと降り立ち、少女は活発的な笑いを刻みながら叫ぶ。

 

 

「よっしゃ!ギリギリセーフッ!」

 

「遅刻ですよ。1分18秒の遅れ、です」

 

 

目の前の出来事に、笑顔を引くつかせたイレイザが冷たい声を発する。

 

 

「おっ、旦那!早かったじゃんか、もっと時間が掛かると思ってたけど、大丈夫そうだな!」

 

「………何処がですか。遅刻は止めてくださいと、せめて私の前でやらないようにと言ったはずでしょう。───それと、また無許可でISを展開しましたね。それも訓練場以外で」

 

「へへッ、まぁ良いじゃん。ISで移動する方が速ぇんだし」

 

「─────それで責任を取るのは私なんですから、勘弁してください。貴女が始末書を書いてくれるんなら、私もこんなに言いませんがね」

 

「…………適材適所ってヤツがあるだろ、旦那」

 

 

口笛を吹いて誤魔化そうとする少女。あっけらかんと振る舞う彼女にイレイザは本当に疲れたと言わんばかりに頭を抱える。

 

 

「それよりも、お二人に自己紹介をしてください。時間は有限ですから」

 

 

「はいはい、分かったよ。…………はじめまして、アタシはフロル・ロクスレイ。ロシア代表候補生の一人さ。ま、よろしく!」

 

 

気軽に挨拶をする少女、フロルを前に、二人は互いの顔を見合う。密かに、龍夜が個人回線を繋げた。

 

 

『───セシリア、フロル・ロクスレイについて知ってるか?』

 

『ええ、少しだけ知っていますわ。ロシア最速と呼ばれるIS操縦者、世界有数の速度を誇ると聞いてます』

 

『………ただの速さだけで候補生になったって訳でもない。どうやら実力は遜色ないらしい』

 

 

そう確信した龍夜は僅かに警戒を解いた。その瞬間、それを察知してか、フロルが龍夜の隣へと駆け寄ってくる。

 

 

「んで!アンタがアレだろ?数少ない男の操縦者の一人だろ?名前は?」

 

「…………蒼青龍夜だ、よろしく」

 

「なんだよ、固ぇなぁ。同年代なんだし、仲良くやろうぜリュウヤ!」

 

 

余程男に対してそういう感情が薄いのか、肩に腕を回しくるフロル。素で触れ合う距離にある彼女に半ば抵抗するべきか迷ってしまう。

 

 

そうこうしていると、顔を真っ赤にしたセシリアが憤慨するように怒鳴ってきた。

 

 

「お、お待ちなさい!いきなりなんですの!?龍夜さんに馴れ馴れし過ぎではありません!?」

 

「あん?こんくらい普通だろ?昔の旦那もそう言ってるぜ」

 

「流れ弾止めてください。私がそんな事教えた覚えも記録もありませんよ」

 

 

ガーッ! と威嚇するセシリアを見て、軽い調子でからかうフロリア。余計な真似をすると巻き込まれると判断し、静観の姿勢に入る龍夜。ふと、とあることに気付いた。

 

 

「………イレイザ中将、もう一人の方は?」

 

「ああ、ご心配なく。既にこの場におりますので」

 

「?」

 

 

突然乱入してきたフロルとは違い、全く姿が見られないもう一人の候補生を探そうとしたが、すぐにそれらしき影を見つける。

 

 

 

イレイザ中将。その後ろから覗き込むように立つ、幼い少女。本来なら迷子かと思われるその子を、龍夜は候補生だと判断した。

 

 

「…………………」

 

「……………」

 

 

睨むように目を細め、観察する龍夜。それを感じ取ったのか、ビクッと全身を震わせてイレイザの後ろに隠れようとする少女。

 

自分のズボンを引っ張る少女に、イレイザは彼女の頭を優しく撫でながら頬笑みを作る。

 

 

「失礼。この娘はあまり他人との交流が少ないのでして、私が代わりに紹介します。

 

 

 

 

彼女はクーリェ、クーリェ・ルククシェフカ。予備代表候補生という立場でもあり、私の姪っ子です。どうか仲良くしていただければ幸いです」

 

 

「………だそうだ。よろしく」

 

「……………っ」

 

 

手を差し出すが、少女 クーリェはそれに答えようとはしなかった。小刻みに震えるその姿からして龍夜に怯えていることだけは明確だ。

 

 

思うところはない。

嫌われたものだな、と心の中で呟くだけで、それ以外の感傷はなかった。誰に嫌われようが、誰から恐れられようが知ったことではない。故に、問題はない。

 

 

 

…………ないはずだ。何一つ。

 

 

「────イレイザ中将、さっさと任務を遂行しましょう。例の場所へと移動は?」

 

「此方の装甲車にお乗りください。移動の際に、今回の任務の確認をします」

 

 

◇◆◇

 

 

「────今回の事件については大体把握できていると思いますので、我々の目的と方針から確認させていただきます」

 

 

大型の装甲車に乗り込んだ一同に、イレイザが作戦の内容についての情報を通達していた。

 

 

「我々の目的は、一般人の集団誘拐及び殺人事件の調査です。犠牲者数百人となったこの変異事件の解決の為、君達に集まってもらいました」

 

「………」

 

「お二人はご存じでしょうが、改めて確認します。将軍はこの事件をアナグラムが関係したものだと警戒しており、事件の犯人がその一党であった場合、彼等を即急に捕縛するようにとも指示を受けております。ISの展開も、許可されておりますので」

 

待機状態のISを確認する四人に、イレイザは話を続ける。

 

 

「我々の戦力は代表候補生、およそ四名。そして私を筆頭とする無人機兵団五十体。今回の事件の犯人の数は推定二十数人以上なので、容易く制圧は可能です…………相手がISに対抗できる兵器を所持している可能性もありますが」

 

 

ふと、龍夜がスマホの画面を見下ろす。話がされている間、無口でスマホの画面をスライドさせたりしていたが、すぐにその指が止まった。

 

 

「まずはこの先にある集落で、民間人からの情報を集めます。それによっては、その集落が襲われる時まで待つ事も視野に入れていますので、警戒を」

 

「…………」

 

スマホの画面に目線を集中させた龍夜。話を無視しているように見えたイレイザは呆れたのか溜め息を漏らそうとして、すぐにそれを止めた。

 

 

真剣な顔つきで、スマホを見つめる龍夜の顔に、何か理由があると感じたからだ。

 

 

「どうしました?」

 

「────質問ですが、その集落の総人口は?」

 

「推定ですが、二百は越えていますね」

 

「…………外の温度からしてそこまで寒くはない。全員が家に籠っている可能性は少ない、と」

 

「………………まさか」

 

 

イレイザの漏らした息が白く染まる。装甲車の内部も冷えているのか、冷えた吐息が凍っていくのも無視して硬直するイレイザ、そして理解が追いつかない三人、龍夜は忌まわしそうに事実を告げた。

 

 

 

 

「───その集落から、人間の反応が感知できない。恐らく手遅れ、一足先を行かれたらしいな」

 

 

 

◇◆◇

 

 

数分後、目的の集落に辿り着いた一同が目にしたのは、人の気配だけが消え去った世界だった。

 

 

生活の跡はある。さっきまではその場にいたというのもが分かるように、子供達が遊んでいたであろうオモチャが外に転がっていたり、家の扉の殆どが開け放たれている。

 

 

「──────」

 

 

周りを捜索していた龍夜は、上空を旋回していた『レイグライダー』を回収する。視界を連結させ、周囲一帯を探し回ったが、結果は何一つ得られずにいた。

 

 

「クソッ、影も形無しか」

 

 

途方に暮れる龍夜は、中央の広場へと向かう。彼がそこに着いた時には、ISを展開して周りを捜索していたセシリアとフロルが戻ってきていた。

 

 

「セシリア、フロル、どうだった?」

 

「………駄目ですわ。集落の外に飛び出したという訳でもないようです」

 

「アタシの方も大した成果はないな。しっかし、どういうことだよ。この状況は?」

 

 

イレイザ中将は無人機兵団を率いて集落の付近を周回している。だが、それでも行方不明となった集落の人々は見つからず、手詰まりのようだ。

 

 

「まるでオカルト、神隠しって奴だな。こんな綺麗に消えるなんて、もしかして神様が何かしたって話じゃないよな?」

 

「……………現実の出来事だ。たとえ俺達に分からなくても、物理や科学で説明できる────なら、答えはあるはずだ」

 

そう言いながら、龍夜はふと地面に残った足跡に気付く。静かに観察し、重要なことに気付いた龍夜は両目を閉ざす。

 

そして、もう一つ────他に気付いた事に対応することにした。

 

 

『────セシリア、右方向四十度に狙撃』

 

『龍夜さん?突然何を────』

 

『ハイパーセンサーを稼働しろ。透明の何かがそこにいる』

 

 

そう言ってからのセシリアの動きは早かった。龍夜の言葉を疑う間もなく、セシリアはスターライトmkⅢを呼び出し、龍夜の指示した場所へとビームを放射した。

 

 

命中、してはなかった。セシリアの放った閃光は近くの地面を削り、吹き飛ばしただけに過ぎない。しかし、攻撃の意図は別にあった。

 

 

「───おわっ」

 

 

空間が揺らぐ。

周囲に舞う雪と砂の混じった粉塵が広がった時には、その影が異物のように浮かび上がっていた。輪郭を伴っていくそれは、慌てたように空中へと飛び退く。

 

 

「ッ!逃がしません────」

 

「待て!セシリア!待機しろ!」

 

「!どうしてです!?アレが敵である可能性も────」

 

「ああ、少なくはない。だが、敵がわざわざこの場に残るか?そういうことだ」

 

 

追撃を行おうとするセシリアを制止する龍夜。その僅かな会話に反応し、透明な影はその場から逃走しようと走り出す。

 

 

「─────動くな」

 

 

その前にある地面を、閃光が貫いた。龍夜は展開した『プラチナ・キャリバー』、厳密には銀の光剣を透明な影へと差し向ける。

 

 

下手な動きを見せれば、今度は当てると。断言するような雰囲気を纏いながら。

 

 

「俺達は今、テロリストのものと思われる事件の調査を行っている。お前が何者か、説明してみろ。出来なければ、武力でお前を無力化し、尋問する」

 

 

僅かな沈黙を経て、動きを止めた透明な影が形となる。プラズマと共にステルスが解除され、その全貌が明かされる事になった。

 

 

「あー………もしかして、俺が容疑者って感じか……?」

 

 

落ち着いてはいるが、困惑を隠せない様子の人物は、顔を深く被ったフードで隠す青年だった。髪や目の色は当然把握できず、その口調は何処か飄々とした軽いものである。

 

 

顔や全身を隠す布は、ステルス迷彩が備わっているものだと判断できる。その内側にある服装はキッチリと着込まれた黒いスーツと、それを締め付けるようなベルトの目立つ服装は、戦闘用のボディースーツだと伺える。

 

 

(問題は───あの武器か)

 

 

龍夜が意識を向けたのは、彼が各々の両手に持つ大型の武装であった。一つは全身を隠すほどの大きさであり、盾の形状をした鋼鉄の塊。もう一つは片方のものよりも小さいが片腕全体包む程のそれは、マニピュレーターと思われる装備だと思われる。

 

 

前者の方は知っている。装備開発のカタログで目にしたことがある。名は、『イコル・クァンタ』。ロケットランチャーや徹甲弾すら防ぐ装甲を備え、その内部には可変機構とそれにより展開される複数の兵装を特徴とした────強襲特化のゲテモノ兵器。

 

 

だが、郡部からの評価は良いものではなく、そこまで売れ行きが良いとは聞いていない。理由は単純。人間が扱えるようなものではないからだ。

 

 

一人の大人が持つには厳しい重量と、複雑すぎる変形機構は特殊部隊の人間ですら扱いずらいと評価するまでである。これを完璧に使いこなせるのは、最強と呼ばれるブリュンヒルデを筆頭とした超人達だけだと。

 

 

 

それを片手で持ち上げ、装備の一つとして扱おうとするこの青年は、あまりにも異質だというのは明確だろう。警戒しない方がむしろおかしい。

 

 

ふと、青年が首をかしげる。本気で悩ましいと感じていた青年は頬を膨らませるように呟く。

 

 

「あー、説明しろって言われてもさ。んー、俺実は名前を言えなくてなぁー」

 

「………馬鹿にしてるのか?」

 

「いやいや!マジ!マジ!うちのリーダー、まぁ姐さんにコードネームの方が良いからって。それを名乗れって言われてるんだ!俺達、一応暗部だから!」

 

「そのコードネームは?」

 

 

警戒を緩めることなく、質問を続ける。するとそれを待っていたと言わんばかりに、青年はフフンと鼻を鳴らす。それは嬉しそうに、楽しそうに。

 

 

 

「エヌ、アルファベットのN(エヌ)からもじられてんだ。ま、それが俺のコードネームだから、そこんとこよろしく頼むぜッ!(キラーン!)」

 

 

「…………」

 

 

何だろう、ウザいと感じてしまう。ウィンクでもしたのだろうがそもそもフードで隠れて見えないのを理解してるのか。多くの疑問と困惑に染まる中、龍夜は自信の内情を悟られぬように振る舞う。

 

 

「何者だと聞いているはずだ。お前は一体、何処の組織の人間だ?」

 

「それに関しては黙秘させて貰うぜ。俺も暗部の端くれ、組織についての情報は詳しく明かせねーのさ!」

 

「…………なるほどな、暗部という訳か。表向きではない、裏側の奴か」

 

「──────あ」

 

 

顔を青くするというよりも、ヤバいと焦る表情を浮かべている。どうやら危機感というものがないらしい。一瞬で表情を切り替え、まぁいいやと傍観するその姿勢はむしろ学びたいとすら思う。

 

 

「それと目的は?ステルスにそんな重装備まで持ってきたってことは、今回の事件について何か知ってるんだろ」

 

「さ、流石にそこまで喋れないって!アンタ等無関係な訳だし!教える義理もないし………アレ?これ俺も立場的に上になれるんじゃね?」

 

「……………」

 

「あ、あ!すいません、調子に乗りました!出来心だったんです!だからその得物を下ろしていただけませんかね!?」

 

 

無言で切っ先を向けられ、必死に頭を下げるエヌ。それでも話をしようとしない彼は、仮にも暗部と言えるだろう。徹底した情報統制に感心するが、此方が妥協する道理はない。

 

 

力ずくで吐かせるべきかと顔を険しくする龍夜の前で、エヌの顔色が変わった。何らかの通信を傍受したらしい。

 

 

「…………ん、え?俺ですけど─────はい、はーい。分かりました」

 

耳元の通信機を停止させたエヌが、一息漏らす。肩を竦め、飄々とした笑顔を消した彼は言葉を紡いだ。

 

 

「─────しゃーない。話せるところまでは全部話しますよ」

 

「………唐突だな。さっきのはお前のボスからか?」

 

「ホント、勘が鋭いなぁ。ま、そんな事なんでここまでの俺の生い立ちをペラペラ話そうと思いまーす」

 

 

オホンッ、と軽く咳き込む。そして、エヌはゆっくりと口を開き、話し始めた。

 

 

「いやー、俺氏エヌは色々と立場が低い感じでしてね。他の皆さんがISを持ったゴリゴリゴリラの強襲タイプなのに対して……………ホラ、無いじゃん?IS?だからさ、こういう雑務ばっかやんないといけないんだなー、これが!いや?別に嫌じゃないんだけど、『エム』にもカッコいい所は見せたいわけでして────あ、そうそう。エムってのは俺の妹!ホント、滅茶苦茶俺に似て可愛くてさ。ま、周りに辛辣な所も玉に瑕だけど、それを含めてもサイッコーに可愛いんだよねー、俺の最愛の妹は!写真見せてあげたいけど残念、顔見せNGなんだなぁ。えへへ、見たかったから言ってくれても構わんぜ?コピーしてくれてやるし!それはそうと今回の任務だって成功すればボスから──────」

 

「───長いッ!」

 

 

流石に苛立った龍夜が怒鳴る。

というか、全然この事件について関係した話でもない。単なる世間話というか、身内自慢というか、近所の人間と軽く交わすような内容に我慢の限界だった。

 

 

「おろー?もう止めんの?ここからが良いところなのに」

 

「お前の事情なんて知らん。重要なのは、今回の事件について知ってることを話せ」

 

「へいへい。全く、気の短い兄弟(ブロ)だなぁ」

 

 

………一瞬、理性が消えかける。今すぐこいつを殴り飛ばそうかと思ったが、すぐに自制する。

 

早くしろ、と急かせば不満そうにしながら話を続けた。

 

 

「俺だってこの集落の人間が消えてるんのは驚いてるんだぜ?だって数十分前までこの集落の奴等がまだいるのは衛星で確認済みだしな」

 

「…………待て。数十分前?お前は衛星記録を確認できるのか?」

 

「まぁね。そこはボスの技量ってか、財力で何とか。リアルタイムってのは無理だよ、出来るとしたら十分置きくらい」

 

「十分前の衛星記録を俺のスマホに送れ」

 

「へいへい」

 

 

欠伸をかけながら、エヌが端末を軽く弄る。それからすぐに、龍夜のスマホに届いたのは少し前の記録を取った衛星写真だった。

 

 

僅かにそれを観察した龍夜は深い沈黙を貫く。だが、すぐにエヌへの警戒を怠らずにいたセシリアとフロルに呼び掛ける。

 

 

「二人とも、これを見ろ」

 

 

彼女達がそれを覗いた瞬間、両目を大きく開いて驚いている。

 

 

写真にあったのは、集落の人々が自分達のいる広場に集められている光景だった。彼等を囲むように配備されているのは、装備を有した人間達。

 

 

「三十人程、厄介ですわね………生きたまま連れていかれたとなると、人質にされる可能性もありますし」

 

「そこもあるが、問題は別だ」

 

 

スマホの写真を拡大し、写る人々を指差しながら説明をする龍夜。

 

 

「これ程の数の兵士と、それ以上の一般人。連れていくにしても大勢だ。十分間で俺達に気付かれることなく全員連れ去るのは厳しいだろう。しかも、外に抜け出した様子もない。

 

 

 

 

 

 

────なら、一体何処から逃げ出したか」

 

 

その答えを聞く必要もなかった。

無言でいる龍夜の視線の先が、自分達の求めるものであった。

 

 

「下………か」

 

「有り得ない話じゃない。地下に通路を作っておいて、迅速な勢いで拉致する。ロシアの連中がそれに気付かなかったのは、巧妙に隠されているんだろう。恐らく、通路は一つだ」

 

 

歩き出した龍夜が、近くにある廃屋の前に立つ。何重にも古びた鎖が掛けられて、何年も使われてないように見える。だが龍夜は迷うことなく銀剣にエネルギーを収束させ、光刃を振るう。

 

 

廃屋を消し飛ばした場所にあったのは、地下へと続く通路であった。それを確認した龍夜は、続けて呼び掛ける。

 

 

「フロル、イレイザ中将を呼べ。全員でこの地下通路を進む。この先に、民間人と元凶と思われる奴等がいる」

 

「ああ、分かった。任せろ」

 

 

活気に満ちた笑顔と共に応えるフロルに、龍夜はセシリアを見る。特に言うことがないのか、待っておきますとだけ言う彼女に軽く手を振る。

 

 

ふと思い出し、退屈そうにするエヌを見据える。

 

 

「………お前はどうする?」

 

「そりゃあ着いていくよ。一人よりも複数人の方が都合が良いし、ボスからの許可も出てるから」

 

「……………裏切るなよ」

 

「な訳。そこまで馬鹿じゃないって」

 

 

深くは言わない。エヌが裏切った場合、自分の対応は単純。他の敵を含め、まとめて倒すだけだ。そう割り切り、離れようとした──────瞬間。

 

 

「敵が何なのか」

 

「…………」

 

「知りたくない?連中がどんな奴等なのか」

 

「………アナグラムじゃないのか?」

 

「半分正解、半分不正解。アナグラム()()()、ってのが正しい」

 

 

含んだ言い方に、疑問は持たなかった。

意図はない。彼の話した言葉が真実として、龍夜は耳を傾けていた。

 

 

「レヴェル・トレイター」

 

「…………」

 

「それが奴等の名前。少し前にアナグラムから分離した勢力。理由は組織の方針と合わず、半ば離反という感じ。

 

 

 

 

 

 

一般人の犠牲を好まず不殺を目的とする彼等とは違い、一般人すら殺してでも目的を果たそうとする連中。『過激派』とも呼ばれてるイカれた集まりだ」

 

 

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