IS 蒼き宙の向こうへ   作:虚無の魔術師

4 / 116
GW中、ほぼ全部バイトで疲れた…………


第3話 専用機

「………あー、そう言えば今は朝食の時間か」

 

 

眠そうに髪を掻き食堂の前を通った龍夜は、目の前の食堂に殺到する人混みにそんな感想を抱いた。

 

 

朝八時、一年生寮の食堂。やはり朝の食事は必要と思う者が多いのだろう。眠そうな者も、ちゃんと列に並んで食事を取ろうとしている。基本的に自由な昼食とは違い、朝食の時の食堂は決められた時間でしか解放されないのだから、当然ではあるだろう。

 

 

────時間が掛かるな、そう判断した龍夜は食堂に背を向ける。自習や学習に専念するために、教室に一足先に行こうとしたその時。

 

 

 

「あー、りゅーやんだ~」

 

「?」

 

 

おっとりとした声で、誰かを呼ぶ声が聞こえる。それも真後ろから。自分に向けられたものではない、と思いたいが、少し気掛かりになる点がある。振り返った先には、複数人の女子が入り口の前にいた。

 

 

彼女達はこの場から立ち去ろうとした龍夜を、食堂に入ろうと考えていると思ったのか。彼女達は此方の反応を伺うように待ち構えていた。

 

 

その内の一人が、臆することなく龍夜に近付いて制服の裾を引っ張っている。

 

 

 

「ねー、ねー、ねー、りゅーやんもご飯に来たのー?」

 

「…………りゅーやん、とは一体………いや、俺のことか」

 

 

吐き出そうとした疑問を、瞬時に飲み込む。明らかに自分の愛称で間違いないだろう。そんな風に呼ばれるのは慣れないが、少女の方は気にした素振りはない。

 

 

ふと、おっとりとした少女と一緒であった他の少女達も龍夜に声をかけてくる。

 

 

「りゅ、龍夜、おはよう!」

 

「今から私達も朝食を取るつもりだけど……一緒にどう?」

 

「………いや、偶々通っただけだ。食事の必要はない」

 

「?でもぉー、それだとお腹空いちゃうよ~?」

 

「─────これで充分だ、食事は時間を多く浪費するからな」

 

 

やんわりと断ると、相変わらず距離感の近い少女が首を傾げる。怪訝そうな彼女達の前で、龍夜は自信満々の表情と共にポケットからある物を取り出した。

 

 

 

 

────カロリーメイト、とアルファベットで記された小さな箱を。

 

 

「─────え?」

 

 

硬直する空気。途絶える呼吸。

明らかに制止した世界の中で、たった一人の男だけが何も分からずにいる。

 

 

そこで、更に空気を変化させるような爆弾を落とした。

 

 

 

 

 

「安心しろ。別に全部食べるつもりはない。一、二本で終わりにするつもりだ。夕食の分にも残しておきたいしな」

 

 

尚、言った本人は異変に気付かない。三人の少女達は互いの顔を見合い、無言で頷く。一人の少女が口を開いた時には、既に動き出していた。

 

 

 

「…………本音ちゃん、丹理ちゃん」

 

 

 

「あいよー」

 

「任せといて」

 

 

ガシリ、と。

少女達の両腕が、龍夜の腕を押さえ込む。は?と疑問の声をあげるよりも先に、少女達はそのまま食堂へと進んでいく。拘束した龍夜を引き連れるように。

 

 

「………いや、待て。何で腕を掴む……止めろ、待て。連れてくな─────分かった、分かった!自分で歩くから!」

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

「────それで無理矢理、朝食を取るように言われたんだ。俺はカロリーメイトで事足りるって言うのに」

 

 

「…………いやー」

 

 

テーブルに座らされ、目の前の多く盛られた食事を前に、手を付けることなく目の前で座る一夏達に愚痴を盛らす。が、二人は龍夜の意見に納得する様子は見せず、むしろ呆れているようであった。

 

 

 

意を決したのか(少なくとも龍夜にはそう見えた)一夏が龍夜に聞いてくる。

 

 

「なぁ、龍夜。昨日の時点で気になってたから、改めて聞くんだけど………」

 

「何だ?」

 

「お前って、食事が嫌いなのか?」

 

 

昨日の昼食の際にも、龍夜は一切食事を取ることなく自習に明け暮れていた。その様子を一夏は既に食事を終えた後かと思っていてたが、彼と彼を連れてきたクラスメイト達の話により実際に違うことが判明した。

 

 

彼がそこまで料理を取らない理由が何なのか、一夏なりに考えてみた。彼のその疑問に、龍夜は首を横に振り否定する。

 

 

「いや、嫌いじゃない」

 

「?なら、何で…………」

 

「俺としても、食事は無駄が掛かると思ってな。時間や費用、食事を最低限のものにすれば俺の作業に費やす時間や経費も増えるから………そうしていただけだ」

 

「経費………?まさか、学園に入る前からもか?一体何時からちゃんとした食事を取っていないんだ?」

 

「三年前」

 

 

ついに目の前でドン引きし始めた。未だ何故なのか理解できていない龍夜は、二人の様子に眉をひそめるしか出来ない。

 

 

ふと、箒が気になったのか、疑問を投げ掛ける。

 

 

 

「じ、自分で料理は作らなかったのか……?」

 

「台所が爆発した時点で、料理を諦めたな」

 

「………えぇ………?」

 

 

特に気に掛けてないのか、あっさりと言い切る龍夜に箒はおろか一夏も目に見えて引く。三年前から食事を取ってないと聞き、料理が出来ないのはあらかた予想できていたが、それは規格外過ぎる。

 

 

正直、ある種の才能じゃないかと呟く一夏だが。それを聞いた龍夜はどこか自嘲するように漏らした。

 

 

 

「───天は二物を与えず。俺にあらゆる才能はあっても、料理を出来る才能だけはないという訳だ」

 

 

「いや、自慢できないだろ」

 

 

そんな風に口を滑らした一夏だが、そうかもな、と言う龍夜は差程気にしてないように見える。

 

 

「なぁ、龍夜。ご飯食べないでいいのか?」

 

「言われずとも、食べるつもりだ………あの子達に連れてこられた訳だしな」

 

 

最初のように抵抗していた素振りも見えず、龍夜は目の前の朝食に向き直る。メニューは和食セット。あの三人組の少女達が全員日本人だからか、一緒にして欲しいと言って強制的に決められたのだ。

 

因みに今現在の少女達はというと、列に並んで待っている。先に龍夜を行かせたのは早くご飯を食べて欲しいという考えらしい。あと、自分達の分の席を取って欲しいとのこと。

 

 

箸を手に取る龍夜だが、全体的に震えている。三年も滅多な料理を取っていないからか、米をつまみ上げる手が小鹿のように揺れている。

 

 

パクリ、と一気に箸でつまんだ米を口の中に飲み込む。少し咀嚼していた龍夜だが─────彼の目の色が変わる。

 

 

「───?────っ!」

 

 

最初は手を止めていた龍夜だが、すぐさま箸を動かし、白米を口に含んでいく。鮭の切り身を箸で切り分け、ご飯に乗せてかきこむ。ごくりと、喉を鳴らした龍夜が信じられないといった表情で、感想を口にする。

 

 

 

「…………美味しい」

 

「だろ?こんなに美味しいなんて国立って凄いよな」

 

「…………これが料理か、久しぶりの料理はこんなに美味しいものなのか?」

 

 

感動したと言わんばかりに朝食に食らいつく龍夜。その様子をどこか微笑ましいとでも言うように見る二人に、龍夜はすぐに気付いた。

 

 

コホン、と咳き込んで、彼は言う。

 

 

 

「───確かに、料理は美味しいな。だが、俺はまだ効率や合理的に考えている。普通に料理を食べるよりも、カロリーメイトやインスタントの方が手軽で楽だ」

 

「………」

 

「…………」

 

「…………だが、合理的に考えて、料理の方がメンタルの安定や栄養の補充に相応しい。時間は有限で無駄にしたくはないが、他の皆と同じ時間で強くなるのも悪くはない。健全な肉体を鍛えるためにも、これからは料理を取っていくことにしよう」

 

 

いつも通りの、余裕な態度。

しかしそれとは裏腹に、彼の発言はまるで自分自身に言い聞かせるようなものだ。その理由とでも言えるように、龍夜はすぐさま味噌汁をゆっくりと飲み干していく。

 

 

そんな龍夜の様子に、クスリと笑う一夏。そんな時、ふと箒が思い出したかのように一夏に声をかける。

 

 

「む、そうだ。一夏」

 

「何だ?」

 

「暁は、元気にしていたか?」

 

「あぁ、あいつなら普通に元気にしてたぞ。久しぶりに箒に会いたいなぁ、って前にも言ってたな」

 

「………そ、そうか」

 

 

 

「………暁?」

 

 

知らない名前が出てきたことに、味噌汁を飲み終えた龍夜は疑問を示す。ただ聞いただけならそこまで興味はなかっただろう。だが、織斑一夏と篠ノ之箒という身内が有名人な二人な気に掛ける相手だ。

 

 

興味がない、というよりも。むしろ気になってくる。

 

 

 

「海里暁、私達の幼馴染みだ。一夏と私、そして暁とは子供の頃から仲が良くてな」

 

「箒が引っ越した後も、中学校でもずっと一緒だったんだ。一緒の高校受けるって約束してたけど、守れなかったなぁ」

 

 

どこか感傷的な様子で語る箒と、後悔しているのか深い息を漏らす一夏。しかし龍夜は二人の話を黙って聞いていたが、すぐにある単語に気付く。そして、平然としていた態度から一転、驚いたように聞き返す。

 

 

「…………海里、まさかあの『海里』か?」

 

「知ってるのか?暁のことを」

 

「暁と言う親友は知らないが、父親は知っている。海里浩介、十年前、ISの有用性を評価した功績者の一人。第三次世界大戦の後に、篠ノ之博士を全面的に支援した数少ない人物だ。…………その後、原因不明の事故で死亡しているが」

 

 

昔、ネットで知った有権者の一人であると語る龍夜。口にしている間に、一夏と箒、そして暁なる幼馴染みの共通点が判明する。全員、有名な人物が身内にいるのだ。

 

 

これは面白いな、と感心する龍夜。しかし話を戻して、内容を振り返ると、一夏と暁はずっと同じ学校だったらしい。そこでようやく、ある事実を理解する。

 

 

 

「一夏の幼馴染み、ずっと同じ学校か…………苦労してただろうな」

 

「…………確かに、それはそうだろう」

 

「?」

 

 

大方、お得意の朴念仁で多くの女子を勘違いさせてきた一夏と過ごしてきたのだ、中々に波乱に満ちた青春を過ごしたんだな、と龍夜は思い浮かべ、一夏の朴念仁さを理解している箒は、暁という人物に同情するしかない。

 

 

友人を困らせた遠因であろう一夏はどういう意味か分からないのか首を傾げるしかない。

 

 

 

その後、食事を持ってきた少女達の世間話を聞いていたが、それから少し経ってから織斑千冬──もとい魔王が厳しい叱咤を飛ばしてきた。

 

 

彼女の声が食堂に響き渡り、全員が慌てて朝食を取り始める。相変わらず恐ろしい、と呟きそうになった龍夜は肩を震わせるとすぐさま食事をかきこんだ。

 

 

 

────立ち去ろうとしていた歩みを止め、此方を静かに睨み付ける教師の姿を視界に捉えたからであった。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

そして一時間目、二時間目の授業が終わり。休み時間の間、次の授業の用意をしている龍夜であったが、教室に入ってきた織斑千冬が龍夜の居る方に眼を向け、

 

 

 

「蒼青、次の授業は無しでいい。着いてこい」

 

 

その言葉を聞き、龍夜は狼狽えることもなくすぐさま準備を始めた。むしろ驚きを示していたのは周囲のクラスメイトの方であった。

 

 

「用件は…………なんですか」

 

「移動の際に話す。何分、此方も急な事だからな」

 

「何か用意するものは、ありますか?」

 

「いや、不要だ。お前だけでいい」

 

 

了解、しました。と慣れない敬語を使いながら、教室から出ていく千冬の後を追いかける龍夜。それからすぐに、教室が喧騒に包まれる。

 

 

少しだけ不安そうに様子を伺う龍夜に、千冬は放っておけと先を歩いていく。後ろを着いている中、最初は他のクラスが興味の眼差しを向けてきていたが、チャイムが鳴ってから少し経ち、教室から離れてきたことで、自分達への視線は完全に消えた。

 

 

頃合いを見計らったと言うべきか。千冬は歩きながら、唐突に先程の疑問に答える。

 

 

 

「お前の専用機が届いた」

 

「………なるほど」

 

 

疑問も、困惑も示すことなく、ただ納得した。授業を優先させる程のものかと思っていたが、千冬曰く専用のISの登録を優先させろ、と理事長からの御達しとの事だ。

 

 

しかし同時に、新たな疑問が生じる。

 

 

 

「それで、何処の会社、いや国が造ったんですか?一夏よりも先に出来上がるなんて、余程の大国だと思うんですが────」

 

「造ったのは、篠ノ之束本人だ」

 

「……………は?」

 

 

今度こそ、龍夜は信じられない事を聞いた。専用機は本来、国家や企業が開発し、限られた代表候補生に与えるものである。

 

 

例外として、ただ一人、篠ノ之束だけがISを造れる。どんな事情も国政も気にすることなく、己の気の向くままに生きる天災と呼ばれる彼女だからこそ。彼女が造ったのならば、ここまで早いのは納得できる。

 

 

 

だが、有り得ない点がある。篠ノ之束が自分専用のISをわざわざ造ったという事実。身内や親戚ならば分かる。だが、顔も知らない赤の他人の為にISを創造する理由は、どれだけ考えても納得できるものではない。

 

 

「────その篠ノ之束について、お前に聞きたいことがある」

 

 

歩みを止めた千冬が、エレベーターの前に立つ。同じく彼女の横でエレベーターを待つ龍夜。口にした言葉から、時間は少しあった。

 

 

しかし、続きが来るのはエレベーターが着くよりも早かった。

 

 

 

「お前は束と面識はあるか?」

 

 

 

 

 

 

「いえ、自分はないです」

 

 

断言だった。

何ら躊躇することも、思い悩むこともなく、蒼青龍夜はあっさりとその事実を言い切った。

 

 

ポーン、と機械音と共にエレベーターが辿り着いた。

さっさとエレベーターの中へと入る二人。扉が閉まった瞬間に、応答は繰り返される。

 

 

「………過去に接触していた可能性はないのか?」

 

「有り得ない、です。それほどの人物が俺に干渉してきたなら、絶対に忘れることも認識してないこともないです。何より、あの人は俺にとって憧れの人ですから」

 

「憧れだと?あいつが?」

 

「…………別に、大した理由じゃないですよ。天才として、あの人に思うところがあるだけです」

 

 

冷徹な顔に、全く別の感情が浮かんだ。その違和感を千冬が読み取った瞬間、彼はすぐさま自らの意識を他の話題へと切り替えた。

 

 

「────さっきから疑問なんですけど、専用機を取りに行くのに何故地下に降りる必要があるんですか?」

 

「機密の為だ。あいつが全力で完成させたISを空路や海路で届ければ、そのデータを傍受する者がいるかもしれん。その為に地下────いや、海中でお前の専用機を届けることにした」

 

「誰がそんな二度手間を?」

 

「この学園のトップ、理事長ただ一人だ」

 

 

その話に、ふとある事を思い出した。

 

 

 

IS学園理事長。

孤島に存在するIS学園のトップを勤める人物。その名前や容姿は普通に学生には把握することすら出来ない。そもそも、実在してるのかすら不明─────と、噂好きなクラスメイト達が話していた。

 

 

千冬の話からするに、理事長と面識があるのかもしれない。僅かな好奇心から、その理事長のことを少しでも聞こうとした龍夜だが、

 

 

 

 

「────お待ちください」

 

 

エレベーターから出た瞬間、目の前に六つの鉄塊だ。いや、それらは物体ですらなく、パワードスーツを纏った何者か達であった。

 

全身を黒一色の装甲に包んだ兵士達は両手にアサルトライフルと呼ぶには重すぎるような機関銃を軽々と持ち、何時でも戦えるような気構えが読み取れる。

 

 

突然、彼等のフェイスヘルメットの画面が緑色に点滅する。すると警戒と共に銃を下ろし、静かに道を開ける。

 

 

『織斑千冬様、蒼青龍夜様。此方の部屋になります』

 

「あぁ、助かる」

 

 

機械的な扉が無音と共に開き、ガラスに包まれた廊下が目の前に現れる。ツカツカと、進んでいく千冬に着いていく龍夜は真後ろの扉が閉まった瞬間に、疑問を口にした。

 

 

 

 

「…………今のは?」

 

「理事長の私兵だ。心配するな、味方には違いない」

 

 

海中の景色を映したガラスの通路を見渡し、龍夜は感嘆する。ここまでの技術やシステム、そして厳重な警備は並みのものではない。最高峰の防衛システムを誇るIS学園だからこそなのだろうが、それも理事長の手によるものか。

 

 

 

ふと、視線が真下に続く。

 

 

自分達が乗ってきたエレベーターが、更に真下に続いていた。海底深くまで存在しているエレベーターの奥には何があるのか、気になるが今はそんな暇はないらしい。

 

 

 

「着いたぞ」

 

 

厳重な扉が開き、千冬が部屋へと踏み入る。続いた龍夜の視界に写ったのは─────真っ白な光景であった。

 

 

 

部屋というにはあまりにも簡素すぎ、大した家具も備わっていない。あるのはただ一つ、部屋の中央に配置された四角形の台座だけだ。

 

 

そして、その台座の上に『目的のもの』と思われるものは存在していた。

 

 

 

一目見れば、それはアタッシュケースであった。

しかし素材や皮などではなく、不思議な物質で構成されているようであった。大きさはヴァイオリンのケースよりも少し大きく見える。

 

 

そのケースの上に、何か付箋が張り付いていた。剥がした龍夜は手に取って、確認をする。

 

 

 

 

───愛しのりゅーくんへ!

 

 

「………」

 

 

どう反応すべきか、悩んだ。

十秒の硬直の後に、その付箋をポケットの中へと押し込んでその内容を忘れることにする。

 

 

一応、憧れの人なのだが、そんな言葉を貰うとは想像することも出来なかった。調べた際には変人等と言われていたが、それもここまでだったのか?という疑問の一切を脳裏からかき消す。

 

 

ふと、ケースの中央に謎の部分が存在していることに気付く。真っ白な円状のパネルに、ゆっくりと手を添える。

 

 

【────承認】

 

 

機械的な音声と共に、ケースが目に見えて変化を始めた。まるで消滅するように粒子へと切り替わっていき────携帯端末という、全く別の物体へと変わっていた。

 

 

思わず、これには驚愕を隠せない龍夜。

今のはナノマシンによる物質変換であることは予想できるが、ここまでの場合は最新鋭と言っても過言ではない。流石は天災、これ程のアイテムもお手の物なのであろう。

 

 

 

そして、携帯端末から目を離した龍夜は─────もう一つ、異様なモノを眼にした。

 

 

 

その瞬間、あらゆる思考が消し飛ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「────これは」

 

 

それは、歓喜か。或いは、驚嘆か。

 

 

いや、正確には疑問だったかもしれない。

 

 

答えの分からぬ感情が集まり、渦のように巻き荒れる。果たして自分が何を思い、何を感じたのか。決して本人にも理解できぬものであった。

 

 

 

台座に浮かぶ────一振の剣。

 

 

どんな種類の剣か、と言われるとファンタジー風なものとしか答えられない。日本古来から存在してきた刀や、西洋に伝え聞く長剣、ありとあらゆる歴史の剣と似ても似つかない。

 

 

剣、というそれは戦いに用いられるものではなく、本来であれば神聖な場所に飾る為の代物に思える。

 

 

全てが金属というより、銀そのもので作られたと錯覚させるもの。しかし単なる儀式剣などではないのは、内側に込められたエネルギーの鼓動から感じ取れる。

 

 

純銀の剣、その抦へと手を伸ばし───全ての指を折り曲げ、確かに掴む。

 

 

 

その瞬間、指先に稲妻が炸裂するような感覚が襲う。思考がそれを理解する前に、全身にエネルギーが流れ込み、意識内に直接的に凄まじい情報とデータの洪水が溢れてきた。

 

 

 

気負されることも、狼狽えることもしない。

瞬時に全てが、理解できた。それに応えるように、自分の握る銀剣に神々しい光が灯り、輝きを示した。

 

 

 

感動に包まれた心の熱は衰えない。高鳴る胸の鼓動を感じ取りながら、右手に握る銀剣を見下ろす。輝きを衰えさせないそれに視線を向け、噛み締めるように呟く。

 

 

 

「─────『白銀の聖剣』、『プラチナ・キャリバー』、それがお前の名か」

 

 

手の内にある銀の聖剣は、目に見えて反応を示した。剣に流れる光の軌跡が点滅を繰り返し、まるでその言葉に応じているようである。

 

 

 

「それがお前のISか、今までのISとは違うようだな」

 

「え、えぇ。確かにそう─────」

 

 

千冬の意見に応じようとした龍夜だったが、直後に思考が働き始める。

 

 

その通りだ。

 

これは普通のISと違う。そう感じ取ったのは、龍夜が一時期ISに執着していた時期があったからだ。かつて独自のISを造ろうとして─────結局家の事情で諦めたが────だからこそ、ISを調べ尽くした龍夜には分かる。

 

 

一つは待機状態。

ISは基本的に持ち歩きが出来るサイズのアイテム…………待機状態となる。龍夜が知る大半の一例はアクセサリー全般である。

 

 

なのにだ。

篠ノ之束が製作した龍夜のIS『プラチナ・キャリバー』は刀剣サイズの大きさだ。本来なら篠ノ之束も小型サイズまで変換できただろう。しなかったのか、或いは出来なかったのか。

 

 

何より、口には出来ない違和感。

普通に見ればISと思うであろうが、龍夜はどこか引っ掛かる点がある。それが何なのかまでは分からないが、確かに異様なところは存在しているのだ。

 

 

そして、脳裏に一つの答えが浮かび上がるが────瞬時に否定する。意味のない時間だ。これが何であれ、ISであるのは確かだろう。

 

 

ならば、それでいい。

 

 

「───そう、ですね。俺としても気になるところはありますが、差程気にすることではないと思います」

 

「そうか、ならいい」

 

 

すぐさま自分の考えを誤魔化し、話を戻す。大して気にした素振りはない千冬はそう言うと、専用機について話を少しした後に、教室に戻るぞと言い部屋から出ていこうとする。

 

 

 

それを、龍夜は引き留めた。

 

 

「織斑先生、個人的な話をさせてください」

 

「………ほう?」

 

 

歩みを止め、振り返った千冬は量腕を組んで壁に背中を預ける。龍夜が切り出したその話を聞こうとしている様子であった。

 

 

なら、と遠慮なく話を切り出す。

 

 

「俺の目標、それは最強を目指すことです」

 

「ふむ、そうだな。私もそう聞いていた」

 

「ですが、それは学生の中でという意味ではない。それは分かりますよね?『第三次世界大戦の英雄』、『ブリュンヒルデ』である織斑千冬先生」

 

 

ニヤリ、と笑う龍夜。

それは本心から出たものではない。あくまでも本人の意思で引き出した笑み。

 

 

挑戦的な態度を隠すことなく、龍夜は宣言する。

 

 

 

「俺は貴方を、最強を越える。最強を超越したIS操縦者になる。それこそが、俺の目標です」

 

 

 

 

 

 

「────生徒にそんな啖呵を吐かれるとはな」

 

 

そう言う千冬の顔には、笑みが刻まれていた。

それは純粋な戦士として喜びを隠せない様子であった。彼女としても、興味が消えないのだろう。自分に憧れ、自分に近づきたいという者達が多かった。

 

 

だが、目の前の青年は違う。

羨望の眼差しを向けられてきた織斑千冬に対し、越えるべき目標として見定め、現時点で自分を越えると宣告までしてくる。

 

 

「ならば、越えてみせろ。だが、最強というのも簡単ではないぞ?」

 

「言われずとも、そのつもり─────です」

 

 

咄嗟に本調子で断言しようとして、慌てて敬語で言い直す。何時ものように指導(物理)されていた事が肉体に染みついていたのが幸いであった。

 

 

まぁ、何時ものように出席簿など持ってないから問題ないかとも思ったが、チョップが振り下ろされる可能性が浮かび、背筋が冷え込んでくる。

 

 

 

「蒼青龍夜」

 

 

携帯端末を起動させ、『キャリバー』をケースに包み込ませた龍夜は手に取った直後に、千冬に呼び止められた。

 

 

何ですか、と聞こうとするよりも前に言葉が飛んでくる。

 

 

 

「お前は何のために強くなるつもりだ?何のために、最強を目指す?」

 

「──────決まっています。この世界を変えるためです」

 

「それが『()()()()()』か?」

 

「………質問の意味を、図りかねます。どういう意味ですか」

 

「いや、答えないならいい。だが、『()()()()』で強さを求める限り、お前は決して私を越えられないぞ」

 

 

 

そう言う千冬に、龍夜は話しても無駄と判断したのか専用機の入ったケースを片手に部屋から出ていく。その歩みには、必死に押し殺したであろう苛立ちが滲んでいる。

 

 

 

その様子を見届けた千冬は、短く息を漏らす。

 

 

「────慣れないな、教師というのは」

 

 

自身が尊敬する唯一の『先生』を思い浮かべ、深く噛み締める。それからすぐに、思考を切り替えた千冬は平静を崩すことなく、部屋から立ち去った。




専用機の名前だけは出ましたが、詳細については次回か戦闘の際に明らかにします。


解説



海里暁

一夏と箒の幼馴染み。一夏とも仲が良く、一夏にとっても親友とも言える人物。後々に出演予定。



海里博士

暁の父にしてISを世間に推し進めた有名人。尚、暁は父の話をした事がない。



理事長

原作の学園長とは違う人。IS学園の実質的なトップ。正体は不明だが、学生と同じ年齢であることが噂されている。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。