IS 蒼き宙の向こうへ   作:虚無の魔術師

40 / 116
第39話 神を求める狂気の光

それから数分が経ち、合流したイレイザ中将と情報を共有した龍夜達は、例の地下通路へと踏み込む。坑道のように軽い留め具と証明に照らされた通路が続くと思っていたが、それは数メートル先になってから一気に変化する。

 

 

 

進んでいく通路は、整備されていたものだった。周囲の壁や床、天井はコンクリートで塗装され、電気とは違う不可思議な素材による照明が、通路一帯に影が射さないように設置されている。

 

通路の大きさにも、若干の違和感がある。人が入るというよりも、それよりも大きいものを運ぶための広さをしているように思えた。

 

 

「…………まず我々が先導します。皆様は後方の警戒を。情報共有を忘れないように、お願いします」

 

 

事務的かつ気遣いの籠った言葉で話すイレイザが、複数の無人兵器を率いて進む。代表候補生一行と同行者のエヌはそれ続くように、後方に配備された無人機の前を歩いていく。

 

 

 

曲がり角、斜め坂の通路、何度も見たであろうその光景に僅かに意識が麻痺してくる。本当に目的の場所まで進んでいるのか、実際は迷路に囚われているのではないか、という不安が少女達の心を苛んでいた。

 

 

しかし、龍夜は確信していた。自分達は着実に、進んでいると。一見すれば複雑な迷宮のように入り組んでいる通路だが、正確に把握すれば間違いなく地下深くへと進んでいるのが分かる。

 

 

「…………なぁ、少し気になることがあんだけどさ」

 

「………何だ」

 

「なんかここ、おかしくね?」

 

「さぁ、どういう意味だか」

 

「誤魔化すな。ここの雰囲気が普通じゃないことくらい、お前らも分かってるだろ?」

 

 

こんな状況でも笑顔を衰えさせないフロルに呆れながらも、龍夜は周りを見渡す。この地下通路はあまりにも広く、大きすぎる。人力で作るにはどれだけの数と、資源を要するか。

 

 

少なくとも、つい最近造られたものとは思えない。これは数年も前に開発されたものだ。それも一、二年などという単位ではない。五年以上の時期から、緻密な計画と多大な人員をもって成されている。

 

 

ロシアが、その前にあったソビエトが秘密裏に造ったものか。そう思うが、一瞬で否定する。彼等はこの地下の存在に気付けなかった。つまり、それに関する情報が無かったのだ。

 

 

ならば隠蔽でもしたのか。そんな推測を打ち破ったのは、たった一つの答え────ありきたりな通路からあらゆる天井や壁が消え去った、薄暗い世界だった。

 

 

 

 

「─────なんだ、ここは?」

 

 

そこは、巨大な空間だった。ニ百メートルを越える規模のドーム。自分達が進むべき通路はガラス張りになっており、水族館や動物園のように、周りを見渡せるような構造であった。

 

 

それも無理はない。いや、当然と言うべきか。

 

 

 

 

 

ドームの一体にあったのは、巨大な機械だ。一つ一つが積み重なり、一体と化した機械の塊は、一つの城、街のように展開されていた。そこはまるで、工場都市そのものだった。

 

 

 

広がる光景に、心ある者全員が立ち尽くす。無理もない。その機械が何かを造っている最中なのか、辺りにはコンベアに吊るされたモノが並んでいる。

 

 

────嘗ての大戦で、人類に牙を剥いた無人機と、全く同じものが。造られた途中で全てが停止し、残骸として在り続けていた。

 

 

 

「………ば、馬鹿な────これは、八神博士の、無人兵器だ……………それが何で、ロシアの地下に………?」

 

 

動揺を隠せず、イレイザが喉を震わせる。目の前の光景は、大の大人であろうとも狼狽えるほどに異質であり、恐怖そのものであった。

 

 

無理もない。人類を滅ぼそうとした悪魔の尖兵である無人機は全て無くなっているはずだった。それが、自分達の真下に遺してあるとは思えない。

 

 

 

────いや、違う。

 

 

「まさか────そんな、馬鹿な」

 

 

真相を察知したイレイザは、理解出来なかった。脳がその考えを受け入れたくないと、拒絶反応を取ったのだ。

 

 

八神博士の始めた戦争。彼が起こした悲劇と殺戮。それを実現した無人兵器達は何十万、何百万も存在していた。誰も、そんな量の兵器が造られている事実を知らなかった。

 

 

その理由が、明白となった。

 

 

 

「あの日から、あの大戦の時から!我々の足元より深いこの場所で、工場を造り、無人機を量産していたのか!?我々はそれに気付かず、十年の時を過ごしていたというのか!?」

 

 

何故、第三次世界大戦が一年以上も続いたのか。本来ならば戦いによって破壊され、減少するはずの無人機が逆に増え続け、世界中を蹂躙できたのか。

 

何故、それだけ量産された兵器が近くにあることに気付けず、容易く蹂躙されたのか。

 

 

その答えが、この場所───地下工場が証明していた。これは恐らく、軽く生み出された拠点の一つ。世界中の地下に八神博士の作った工場が存在しており、誰も気付かぬ間に稼働された工場から無人機が造り出され続けていたのだ。

 

 

これが、八神博士しか造れないはずの無人機の新型が生まれた正体だった。八神博士がインプットしたデータを基に、工場が無限に兵器を造り、保管し続けていた。

 

 

 

しかし、これだけではなかった。

彼等が愕然とするものは、それ以上の衝撃は、すぐ近くに存在していた。

 

無数の機械アームと、固定具によって宙に浮かんだ巨体。異形でありながらも、神とも呼べる神々しさを持つその全形を見た龍夜が、自然と呟いていた。

 

 

「────界滅、神機」

 

 

恐らく、セシリアも同じ感想を出していただろう。

かつて体面し、後々から確認した二人だけが、その不気味さを感じ取っていた。機械でありながら、神秘さを有し、 人類を滅ぼすという使命を持ち得たような体躯に。

 

 

かつての事件で猛威を振るった、クリサイアと同じものだと確信したのだ。

 

 

 

他の全員がその言葉に戸惑う中、顔色すら変えてない(ように見える)エヌが興味深そうに口笛を鳴らす。

 

 

「へぇ、知ってるんだ。いや、そりゃ当然か。例の福音事件を解決したんだし………アレの相手をしたって話だから分かるもんだよな」

 

「…………お前もアレを、界滅神機を知ってるのか」

 

「まぁね。少なくとも、BRO達よりは知ってるつもりだぜ?」

 

「教えろ」

 

 

問い詰めると、エヌは少し悩ましそうに考えていた。だが、別に気にする必要ないと感じたのか、淡々と語り出した。

 

 

「───十年前、戦争を始めるよりも前に、八神博士は工場を造っていた。しかし、その用途は無人兵器の量産なんかじゃない。工場に接続したモノの為にあった」

 

「接続したモノ、とは?」

 

「──────『地中の星(アヴェスター)』と呼ばれた、百体以上の人工知能。八神博士が生み出した、人に近い心を宿す魂のプロトタイプ達だ」

 

 

思わずその話を詳しく聞こうとしてしまう龍夜。自重はするが、それでも興味があった。人に近い心を持つ人工知能。

 

 

それはまるで、自らのISの片割れと呼べる剣にいる少女 ルフェのようであると。いや、無関係ではないと思っていた。だが、その話を簡単には明かせないと、今は黙って話を聞くしかなかった。

 

 

「八神博士の死後、博士を慕っていた人工知能達は思考を巡らせ、憎悪という────博士が与えた感情に囚われた。そして彼等は自らの手足であり、胎内とも言える工場を操り、戦力を造り続けた。その果てこそが、界滅神機。世『界』を『滅』ぼす『神』の兵『機』ってわけ」

 

 

人を憎む心が、人を殺す兵器をより効率的に造り出せる。そうやって人類の歴史は武器を生み出し続け、憎しみによって強くなっていった。命を奪うことに特化し、相手を苦しめることに特化した兵器を造るのを繰り返し、人間がその技術を高めてきた。それこそが、否定も出来ない事実だ。

 

 

そんな人類を滅ぼせるのは、神だと思ったのだろう。だから、界滅神機と名付けた。人類を滅ぼす無機質な厄災に。

 

 

 

「…………それにしても、ホントに恐ろしい人だな。八神博士ってのは」

 

「恐ろしい、か?」

 

「だってそうだろ?世界中の地下にこんな工場を造って、そこで私達を皆殺しにするような兵器を造らせ続けてたんだろ。そんなの正気とは思えない、よっぽどのことじゃないか」

 

 

博士本人を嫌うような発言ではない。だが、擁護する気は微塵もない言葉だ。当然だろう。大戦を引き起こし、数億の命を奪った八神博士は人類にとっては世界的な極悪人であり、今の時代になっても八神博士は人々に嫌悪と侮蔑を向けられている。

 

 

そんなフロルの発言に、エヌがふぅんと興味の薄い目を向ける。彼女の言葉を噛み砕くように、彼は呟いた。

 

 

「……………正気じゃない、か。ま、そうだったんじゃない?八神博士からすれば、正気じゃ居られなかったってのが正しいと思うけど」

 

「────何?」

 

 

まるで真相を知っているような言い方だった。全く違う答えを平然と話す相手を小馬鹿にするような雰囲気が感じられる。それとは正反対の結論が答えだと自覚しているような、異様な感覚が。

 

 

「………お前は、一体何を知ってる?」

 

「んじゃ、こっちから質問。何で八神博士はそんな正気じゃない真似をしたと思う?」

 

 

誰も、その質問に答えられる者はいない。龍夜は僅かに疑問は覚えたが、そこまで疑うようなことはなかった。誰もが、八神博士の行いを狂気と捉え、それに疑問を抱くことはなかった。言われてみれば、不自然すぎる。一体、どんな理由があれば人類を滅ぼすというイカれた大事を成そうとするのか。

 

 

八神博士に、どんな動機があったのか。それに答えられない全員に、エヌが鼻で笑う。侮蔑の意図はなく、無理もないだろうという納得であった。

 

 

「ま、分からねぇよな。仕方ねぇさ、誰にだって分かる話じゃない。んな訳で、ヒントやるぜ。────一つ目は、『家族』」

 

「…………『家族』」

 

 

瞬間、スマホ───その中にいるラミリアに指示を送り、ネットワークに検索を掛ける。求めていたであろう答えはすぐに見つかった。

 

 

八神博士の家族、奥さんと娘と息子。おそらくは八神博士の残した家族写真だろうか。天真爛漫に振る舞う少女と、陰鬱というより他人を近寄らせがたい雰囲気のある少年。そんな二人を抱き締める優しそうな女性、そして不器用な笑顔を浮かべる男性───八神博士の姿がある。

 

 

その写真を目にした瞬間、龍夜はふと既視感を覚えた。

 

 

(────何だ?何処かで見たことがあるような、いや、会ったことがあるのか?)

 

 

この写真に写る少年───黒髪の子供に見覚えがあった。いや、この少年自体は知らない。けれど、似たような顔立ちを目にしたことがある。しかし、記憶が浅いのか、誰だか確定することが出来ない。

 

 

最近会ったことがあるのかと思ったが、詳しく調べてみるとそれが否定されることになった。

 

 

(────十年前に、死亡している………?)

 

 

記事にすれば、テロリストにより襲撃されて三人とも死亡したらしい。惨たらしく殺され、あまりにも残虐な事件だったと書き記されている。国連が捜査していたが、遺体は見つからないとの事で──────

 

 

 

 

 

────待て、おかしい。

 

(見つからないだと?惨たらしく殺されたと言ったのに、遺体が不明だって言うのか?)

 

まるで遺体がどうなったのか知ってるような口振りだというのに。何故、見つからない遺体が凄惨な殺され方をしたのか分かっているのか。

 

 

そこまで考えて、思考を無理矢理に止めた。これ以上、全く無関係なことに頭を使う訳にはいかない。自分がやるべき事は、目の前にある問題だ。

 

 

そう思った矢先、前を進んでいたイレイザ中将と無人機が停止する。振り返った彼が小声で全員に語り掛けた。

 

 

「─────皆さん、ここからは気を付けてください。この先に生体反応が多く存在しています」

 

「ッ!それって────!」

 

「ええ、集落の人々か、敵です。ISの展開準備をお願いします」

 

そう声を聞けて、全員は光の先にある世界へと踏み込んだ。

 

 

◇◆◇

 

 

彼等がいた通路の先にあったのは、先程の空間よりも広がったホールであった。恐らくは、シャフト。完成した界滅神機を地上へと打ち上げるための巨大空間。

 

 

そこに────集落の人々、合計二百人以上の老若男女が集められていた。混乱を隠せずにいる彼等はざわめきながらも、互いに抱き合うように一塊となっていた。

 

 

理由は単純。彼等を囲むように武装した兵士が銃を構えているからだ。目の前の脅威に一般人である彼等は震えるしか無かった。

 

 

「─────二百人、全員をこの場に集め終えました。各機動隊長方」

 

「良くやった。もう少し待機していろ、動くのはそれからだ」

 

「ハッ」

 

 

重装備の兵士が報告を終え、再び警戒体制を行う兵士の一群に戻っていく。それを尻目に、何人かの兵士がヒソヒソと話し始めていた。

 

 

「………あー、クソ、ダリぃな。何時になったら殺せんだよ」

 

「そう言うなよ、『指導者』の、レギエル様からのご指示だ。文句を言わずにやってれば、後で殺せるだろ」

 

「何でよー、ヴォルガ様じゃあねぇんだ?あの人が一緒なら関係なく、女もガキもブッ殺せるってのによぉ───ゴチャゴチャ言わねぇでさっさと殺れば良いのによぉー!」

 

「馬鹿!声が大きいぞ!エイツー隊長にでも聞かれたらどうすんだ!?」

 

「おっと、危ね。危ね」

 

 

そんな兵士の会話に顔を歪めたのは、高台に置かれた椅子に座る三人の一人。大型の狙撃ライフルを近くに備えた、眼帯の目立つ歴戦の兵士に見える男だった。

 

 

「─────フン、下衆どもが」

 

「………また連中か。『シュコー』ヴォルガ様に付き従う『シュコー』野蛮な無法者ども。相変わらず『シュコー』殺しに酔いしれいてるようだな『シュコー』」

 

「正直、理解できん。あんな奴等を従えるヴォルガ様と、エーゼル様が同じ立場にあるなど…………私には、納得できない話だ」

 

「所詮『シュコー』奴等は使い捨てという奴だ。汚れ仕事を進んでやってくれるんなら『シュコー』喜んでさせてやれ。それで死ぬなら本望だろ、奴等も『シュコー』」

 

 

体面に座る男────口をガスマスクのような装置で隠し、呼吸を整えている青年。ロングコートで体を隠し、露出されているのは顔の上部分だけということになっている。

 

 

「────二人とも。そろそろ時間、です」

 

 

もう一人、法衣の纏う神父のような男性が告げる。読んでいたであろう聖書を片手で閉じ、懐の中へと仕舞い込む。立ち上がった彼に応じるように、二人も遅れて並ぶ。

 

 

タン! と大きく足踏みした男性。深く、より深く息を吸い込み、

 

 

 

 

「─────ハァーーーーーーーーイッ!皆様、静粛に!静粛にぃ!お願い致しまァーーーすッッ!!」

 

 

 

高らかと、叫ぶ。

ホール全体に響き渡る声に、ざわめきが一瞬で収まった。全員の視線が声の主である男に集まる。それを確認してから、男は軽く背込んだ。

 

 

「────エー、オホン。皆様、驚かせてしまい申し訳ありません。私はオスカー・マクスウェル。こう見えても聖職に着いていた身でもあります。我々は意味もなく危害を加えるような逆賊ではありませんので、どうか御理解いただきたく」

 

 

丁寧な口振りに人々は思わず安心していた。見掛けからしても聖職者のようであり、穏やかかつ優しい雰囲気の漂うオスカーから害意を感じなかったのだろう。

 

しかし、安堵に包まれる一方で、不安から解放された余波からか、大人の一人が不機嫌そうに声を荒らげた。相手が大人しいと判断したから、だろう。

 

 

「ふざけんな!銃で脅しといて何言ってやがる!てめぇら俺達全員をここで殺すつもりだろうが!」

 

「…………それは心外です。我々は無意味な殺戮などはしません。貴方達をここに連れてきたのは殺すためではありません。選ぶためです」

 

「知るか!いいからここから出せ!俺達だって生活が、仕事があるんだ!アンタらの事情に構ってる暇なんか無いんだ────」

 

 

その言葉が最後まで続かなかった。

響いたのは一発の銃声。放たれた弾丸は、オスカーに怒鳴っていた大人の眉間へと撃ち込まれていた。

 

 

 

血を噴き出し倒れたの皮切りに、甲高い悲鳴が響き渡る。混乱という空気に染まった一般人達を兵士達は銃で牽制し、静めようとする。

 

 

そんな光景の最中、オスカーが能面のような表情で首を動かす。その視線の先にいたのは、すぐ近くにいた兵士。先程、反抗的な大人を撃ち抜いた元凶であった。

 

 

「何故、殺したのですか」

 

「我々に反抗の意思を示していました。これ以上無駄な抵抗をされるくらいなら、一人ぐらい殺しても問題ないでしょう。我々の本気を理解して貰う為にも」

 

「なるほど、そのような理由でしたか────」

 

 

その兵士の言葉に、納得したように笑うオスカー。安心したように一息吐き出す兵士だが、気付かなかった。

 

 

金色の光を照らす瞳が、何一つ笑っていなかったことを。

 

 

「で?それだけですか?」

 

「───は?そ、それだけですが…………」

 

「貴方は、我々の目的の一つをお忘れのようですね」

 

 

二つの眼孔に輪っかが浮かび上がる。それを眼にした兵士が震え上がる中、オスカーは話を続けた。

 

 

「『適合者』を探し出す。その為にわざわざ、彼等を生かして連れてきたのです。一人でも欠けては意味がありません。故に、貴方の行いは我々の目的に反すること、です」

 

「で、ですが────」

 

「それと、質問に答えられてませんよ。

 

 

 

 

 

────何故、我々の許可を聞かずに殺したのか。私はそれを聞いているのですが?」

 

 

その瞬間だった。

兵士の片腕がガクン! と跳ねる。………は? と理解できずにいる兵士の腕がアサルトライフルを片手で持ち上げ、その銃口を頭へと押し当てようとしていた。

 

 

当然ながら、彼の意思ではないように見えた。

 

 

「あ、え?………う、腕が、勝手に…………イヤ、嫌だ!待って!待って、待ってください!助けて!助け────」

 

 

パァン! と自分の指で引き金を引いた。必死の悲鳴をあげていた兵士はその場に崩れ落ち、オスカーはそれから意識を消した。

 

 

「────皆様、申し訳ありません。我々は無意味な殺戮を望みません。どうかそれだけは御理解戴きたく、我々の目的に従って戴きたい」

 

「…………あ、アンタ達は───何をする気なんだ!?」

 

 

丁寧なお辞儀をするオスカーに怯える市民の声が投げ掛けられる。そんな彼等に、オスカーは優しく、慈悲深い笑みを浮かべる。

 

 

「『適合者』を、探しております。救済と破壊を思うがままに成せる者、『八神博士の遺産に選ばれし者』を」

 

 

軽く手を叩くと、複数人の兵士が大きな箱を運んできた。分厚い材質の物質で構成されているその箱は、中身すら感知できない。

 

しかし、よくない物が存在していることだけは分かっていた。

 

 

「────さぁ!選びなさい!この中に、貴方の担い手はいますか!?いるならば!その者の元へ向かい!覚醒してください!─────世界を焼いた『終末の王の剣』よ!!」

 

 

そう叫び、オスカーはその箱を力強く叩いた。いや、より正確には内側にいる何かを起動させるように、触れたのだ。直後、箱の中にある『モノ』が反応したのか、未知の素材を通して、床へと何かラインが走り出した。

 

 

深紅の色をした不気味な光の筋。それはまるでこの場にいる人間を一人一人確認するように広がっていく。困惑し、恐怖に震える人々の足元へと通っていき─────何事も無かったように、その光を消した。

 

 

不気味な静寂だけが残る。

沈黙を貫き、変化の起きない現状に、オスカーは本当に残念そうに溜め息を吐き出した。

 

 

「…………どうやら、この場に『適合者』はいなかったようですね。残念、実に残念です」

 

「───どうしますか?オスカー隊長」

 

 

対応を求める兵士に、オスカーが優しく微笑む。胸元に手を添え、空を見上げながら告げた。まるで祈るように、自分の言葉に間違いなどないというように。

 

 

 

 

 

「全員殺してください。彼等にはいずれ目覚めるであろう機神、その贄となって貰いましょう」

 

 

残酷かつ無慈悲な命令を。

絶望する市民達に兵士は迷いもしなかった。全員が銃を構え、囲まれた人々へと狙いを向ける。

 

 

子供だけは助けてください! と叫ぶ大人がいた。 しかし兵士達は何一つ気にかけることなく、銃口を正確に定める。引き金に掛けた指に力を込めようとした、瞬間。

 

 

 

 

 

 

蒼い光が、近くを吹き飛ばした。

 

 

「がァッ!?」

 

「な、何だ!?何が起こった!?」

 

「───敵襲!敵襲だ!」

 

 

至近距離で炸裂した衝撃に薙ぎ払われる兵士が数名。市民を殺そうとしていた全員が慌てて照準を外し、攻撃のしたであろう方向を探ろうとする。

 

 

混乱に包まれるその空気の中、並んでいた他の二人がオスカーへと視線を向ける。二人の視線を受けながらも、オスカーは反応すらせず、ただ不気味な雰囲気を纏わせながら笑っていた。

 

 

「────来ました、ねぇ」

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「……………」

 

「…………セシリア」

 

 

密かに通路の影に隠れていた一同、その一人だったセシリアがISを展開したまま、口を閉ざす。スターライトMarkⅢを構えている彼女の行為は、当然誰も命令も受けていないものだ。呼び掛ける龍夜だったが、すぐに個人通話(プライベート・チャンネル)を開く。

 

 

それを理解したのか、セシリアは通話の中で漏らすような声で話した。

 

 

『───申し訳ありません。ですが、見ていられませんでした』

 

『いや、正しい判断だ。一般人の身を守るという点ではな。合理性は気に掛けなくていい』

 

 

そう言いきった龍夜は通信を解除し、イレイザ中将達へと振り向くと────深く頭を下げた。

 

 

「申し訳無い、イレイザ中将。俺の判断で、彼女に攻撃を許可をしました。命令無視の責任は俺にあります」

 

 

驚愕の表情を浮かべるセシリア。龍夜が率先して自分を庇う事を予想していなかったのだろう。

 

そんな龍夜の対応に、イレイザは特に気にしてはいない様子だった。

 

 

「いえ、お二人ともに責任はありません。お気になさらず」

 

「………じゃあ、旦那。もう黙って見てる訳にはいかねぇよなぁ、お嬢様が先陣切ってくれたんだ。アタシ等も本気で開戦しても良いだろ?」

 

「その前に、確認しておくことがあります」

 

 

やる気が満ちているであろうフロルに、イレイザが人差し指を立てたがら話す。

 

 

「敵がISに匹敵する兵器を有している話は既に把握してます。恐らく、リーダー格と思われるあの三人が所持している可能性が高いです」

 

『隊長』と呼ばれていた三人組。あの三人が生身でいるとは思えない。何より、連中がアナグラムから離反してきた面子ならば、『あの兵器』を有している可能性が高い。

 

 

「蒼青龍夜様、セシリア・オルコット様、そしてフロル。貴方達にはあの三人の対処をお願いします。もし彼等に危険性がない場合は、各々の判断で捕縛し報告してください」

 

「了解」

 

 

そう言いながら、三人はISを展開する。彼等が外へと飛び出し、先陣切って出向く。

 

 

その間に、イレイザは後方にいる二人に声をかけた。

 

 

「クーリェ、君は私と共に敵兵の排除及び一般人の救出・護衛を頼みます。無論、貴方もですよ、エヌ」

 

「…………うん、わかった」

 

「ま、やるからには完璧にやるから。任せてくれよ、司令官様」

 

 

瞬間、微笑みを消したイレイザが指を鳴らす。彼の動作に反応するように、無人兵器群が一気に起動する。指示を待つ兵器達を従えながら、イレイザ達は戦場へと踏み込んだ。

 

 

「それでは、本作戦を開始します。皆様、どうか気を付けて、最善を尽くしてください」

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

戦闘が始まり、兵士達と無人機が激突した。

機関銃より強力な新型ライフルを用いる兵士達の弾丸の雨に、大型の盾を有した無人機『フォール』が横に並び、名前の通り『壁』を作っていた。

 

 

『壁』の背後から砲台を有した無人機『カノン』がその場に両足を固定し、何発もの装弾を打ち上げ、兵士達の至近距離で空気の爆裂を響かせる。

 

 

「こ、このままでは!────『隊長』方!どうかお力を!このままでは全滅してしまいます!」

 

「────ふん、『シュコー』何をしている『シュコー』」

 

 

明らかに圧倒されていく兵士達の悲鳴に、『隊長』の一人が呆れたように侮蔑の色を見せる。口元を覆うマスクに接続されたチューブを外し、青年は空へと手を翳す。

 

 

 

 

 

それを真下に振り下ろした瞬間、無人機の一部が吹き飛ばされた。暗闇から放たれた、衝撃波の塊によって。

 

 

青年は、簡単に倒せた無人機に興味などはなく、それに追い込まれていた兵士達を見下すような、嫌悪感剥き出しの顔で吐き捨てる。

 

 

「機械如きに遅れを取るとは。殺しを楽しませてやったんだ。少しは役に立て、屑どもが」

 

 

そう言いながら、青年は残りの無人機を一掃するために腕を再び振り上げる。

 

 

「────消えろ、鉄屑ども」

 

「そうは────させるかよッ!!」

 

 

音速のISが、突っ込んできた。瞬間、無人機を消し飛ばそうとした攻撃をISへと切り替える。しかし、放ったはずの空気の砲弾は凄まじい速度で旋回するISに軽々と回避された。

 

 

ブォンッ! と空気を蹴るように、フロルは風となった。爆音と風を率いて、無防備な青年を捉えようと手を伸ばす。

 

 

 

 

「────サマエルッ!」

 

青年がそう叫んだ瞬間、新しい動きを察知したフロルが空気を蹴り飛ばす。空間の炸裂と共に弾け飛んだ彼女のいた場所を、巨大な何かが通り過ぎた。

 

 

足を止めたフロルは、巨大な何かを改めて確認する。

 

 

金属で構成されているが、手足がなく、不気味にうねるような形。頭の部分はモノアイを搭載した装甲を纏っているが、その全体像から巨大な蛇のように思えた。

 

 

「デッカイ蛇だな、ソイツがアンタの武器か?」

 

「───答える義理はない」

 

「そうかよ。なら、名乗り合おうぜ、アタシはフロル。ロシア最速の代表候補生さ!」

 

「─────イヴ、お前を殺す敵の名だ。それだけ覚えて死ね」

 

 

それが皮切りとなり、フロルが動く。超速で突撃するISに、青年 イヴはサマエルと呼んだ機械蛇を操り、衝突させる。

 

 

 

◇◆◇

 

 

その一方で。

椅子に腰かけたオスカー。彼の前に、『プラチナ・キャリバー』を纏った龍夜がいた。迷うことなく彼は、目の前の敵に銀剣を突きつける。

 

 

「────お前がこいつらの司令官だろ」

 

「………ええ。察しがよろしいようで」

 

 

オスカーは不適に笑い、目の前の龍夜を見据える。それからすぐに周りを見渡してから、溜め息と共に立ち上がった。

 

 

「さてさて、イヴも、エイツーも動いたからには、私もどうやら本気で戦わなければいけないようだ」

 

「────『幻想武装(ファンタシス)』、か」

 

「おや、そこまで認知されているとは…………しかし残念、正確ではありませんね」

 

 

何? と顔をしかめる龍夜。そのままオスカーは淡々と話を続けた。

 

 

「我々はアナグラムのような、我が身可愛さの為に力を求めぬ愚者とは違います。我々は彼等とは違い、変革と進化を求め、新たなる力を手に入れたのです」

 

「…………」

 

「幸運な貴方にお見せしましょう!力をもって世界を変革する我々の新たな力!『幻想武装(ファンタシス)段階覚醒(オーバーシフト)』を!!」

 

 

直後に、オスカーの瞳から眩しい光が溢れ出す。その光は形を持ったように大きな輪を作り、天空に咲き誇る。薄暗い空間を照らし出す激しい光に龍夜の視界が覆われるが、すぐに光が消え去ったのか、視界が元に戻っていく。

 

 

目の前に立っていたのは、光を纏ったオスカーだった。両腕や両足には縛りつけるように光の輪っかが何重にも並んでおり、その背中にはカーテンのような翼が左右に取り付けられている。

 

 

 

 

極め付きには、頭の上に浮かぶ光の輪。その姿は正に、『天使』であった。

 

 

「ご覧なさい!この姿こそが!神に選ばれし御使いたる私の姿!聖なる執行者の、偉大なる姿を!そして、貴方を滅する者の姿を!!」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。