IS 蒼き宙の向こうへ   作:虚無の魔術師

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すみません!何日か遅れてたのは他の小説に手をつけてたからです!スランプとかゲームに熱中してたかとじゃありません!信じてください!!(必死の言い訳)


第40話 幻魔弾丸/天戒光輪

「ッ!皆さん!早く逃げてください!」

 

 

空中で狙撃を行いながら、セシリアは兎に角そう叫んだ。戸惑っていた市民達は明確な行動を与えられることで、すぐに動き出す。

 

 

戦場から逃げ出そうとする一般人達。彼等の無防備な背中を、敵は見逃そうとはしなかった。

 

 

「全員殺せ!オスカー様の命令だ!一人たりとも生かして帰すな!」

 

「そんな真似!させませんわッ!!」

 

 

市民達に銃を向ける敵に、セシリアは威嚇射撃を繰り返す。ISの武器はどれだけ重装備であろうとも、人間を殺せる力はある。

 

 

彼等のすぐ近くを撃つことで、衝撃により敵を無力化させる。スターライトmkⅢだけでは間に合わないと判断したセシリアはビットを六基、その内の四基を制御し攻撃手段を増やし市民への攻撃を止めるために、迎撃を繰り返す。

 

 

 

その最中、直後だった。

ビットの一基が空中で爆裂した。何が起こったのか、セシリアは戸惑いはしたがすぐに撃ち落とされたと理解した。

 

 

ハイパーセンサーで辺りを確認すると、相手が分かった。大型の狙撃銃を片手で持ち上げる眼帯の男。兵士達を束ねる三人の隊長、その一人である。

 

 

「エイツー隊長!我々も援護します───」

 

「不要だ。お前達は雑兵の相手をしていろ。ISの相手は、私達が努めよう」

 

 

声をかけてきた部下達をあしらい、エイツーが向き直る。セシリアの顔に睨み、淡々と告げた。

 

 

「────セシリア・オルコットだな」

 

「………私を知っていますのね」

 

「楽観的な意見だ。お前達の事は全て把握している。この段階でありながらその質問とは、些か緊張感が欠けているな」

 

 

ガコン! と狙撃銃から空となった薬莢が排出される。片手をスライドパーツに添え、弾丸を装填する様子を見せたエイツーに、セシリアは狙撃の構えを取る。

 

 

エイツーは迷うことなく銃口をセシリアの方へと向け、引き金を引く。炸裂する音が響いたが、それは狙撃銃から放たれた音ではなかった。

 

 

バレルに閃光が直撃し、完全に破壊したのだ。焼け落ちた表面から煙を発し、地面に転がった狙撃銃のパーツを見ながら、エイツーは冷徹に片眼をセシリアに定めた。

 

 

「流石だ。正面から直接狙う仕草で警戒を誘い、死角からの狙撃で私のライフルを破壊するとは。BT試作機を使いこなすだけはある」

 

 

嘘偽りはない、本気の賞賛だった。しかしそれも一瞬。エイツーの瞳の色が全く別物へと切り替わった。

 

 

「───同時に、落胆した」

 

 

この言葉も、嘘ですらない。どちらも本心で言っているのだ。冷酷に、選定するような口で話していく。返答や反論すら求めてないその言葉は一方通行だった。

 

 

「今のが、最後のチャンスだ。()を殺すことができた、最大の好機だ。()を無力化するための選択だろうが………それが悪手と後悔するだろうな。死ぬ直前になって」

 

 

そう言いながら、エイツーは半壊した狙撃銃から手を離す。破片が辺りにばらまかれるのを無視し、エイツーは右手のグローブを脱ぎ捨てる。

 

 

唐突な行いに困惑しながらも、セシリアは警戒を隠さない。だからこそ、右手に何があるのか確認して─────思考が理解を拒んだ。

 

 

 

「────なっ!?」

 

 

右手の甲にあったのは、何らかの小型装置であった。その装置には見覚えのあるデータ端末────『メモリアルチップ』が組み込まれている。『幻想武装』の基盤(コア)となる装置は手の甲に取り付けているのではなく、肉体に無理矢理縫い付けるようにして固定されていた。

 

 

幻想(ファンタジア)─────浸蝕(インペリウム)

 

 

直後、その装置から全身に不気味な光が浸透していく。腕から胴体へ、胴体から腰や頭部へと。全体に広がっていく禍つ色の光が染まり、実体のように広がった黒がエイツーを飲み込んだ。

 

 

禍々しく揺らめく黒い塊だったが、内側から放たれたであろう閃光によって穴を開けられ、呼応するように砕け散っていく。

 

 

舞う黒の破片を払い、現れたエイツー。眼帯で覆われていた左目は顕在しているわけではない、ひび割れたような亀裂が肌に走っており、瞳のあるはずの眼窩には黄色に近い光が宿っている。

 

 

セシリアが何より警戒したのは、彼の右腕。肘から先の部分が全く別の物質で構成された槍のような装備へと変形していた。長さにして一メートル程。それだけ見れば大して危険には思えないが、セシリアはある違和感に気付いていた。

 

 

(狙撃銃が────無い。あんな一瞬で消えるとは………まさか、あの男が取り込んだ?)

 

 

「────『幻魔複合 アンノウン』」

 

 

右腕の槍の装甲を片手で動かすエイツー。開いた装甲の中にあったのは、分かりやすい空洞だった。恐らくはそこに何かを組み込むのだろう。

 

 

突如空間へと突き出された左手が開かれる。掌にあったのは、左目と同じ、黄色い光の亀裂。瞳のように展開されたそれに不気味というべきか、嫌なものを感じ取る。

 

その瞬間、彼の掌の亀裂が大きくなる。いや、内側から何かが溢れるように膨れ上がっていた。

 

 

「───『サンダーバード』、『スカイフィッシュ』抽出」

 

 

掌で掴めるほどの大きさの球体。それも二つ、エイツーの掌から出てきたそれらは、彼の隣で漂っていた。内側に何らかの物質かエネルギーを内包する球体を、エイツは左手で操作する。

 

 

「装填」

 

 

撫でるように操った二つの球体を、右腕の槍へと格納する。球体が槍の中へと装填された瞬間、エイツーの全身へと、二つの光の筋が伝わっていく。

 

 

バチッ、と空気が弾けた。気のせいではない。エイツーの周りの空間に青いプラズマが複数生じていた。プラズマがギリギリ当たっているのか、いや彼が発生させているのか、後者の方かもしれない。

 

 

警戒の構えを崩さないセシリアの前で、エイツーが深く身体を下げる。両足を曲げ、腰を落とすエイツーの全身から放たれるプラズマの量が増幅していく。

 

 

そんな中、静かに口を開いた。

 

 

「無知だろうから、予め忠告しておく」

 

「…………っ?」

 

「俺を狙撃しようと思っているのなら無意味、その逆だ。狙撃されるのはお前の方だ」

 

 

バヂ───ッ!

 

と、焼ける音が響いた瞬間、エイツーの姿がセシリアの視線から消えた。

 

 

 

 

 

「──────なッ!?」

 

 

視界から消え去ったエイツーを探すために辺りを見渡す。しかし、それらしき姿も、影すらも見えない。ハイパーセンサーで何処に移動したかを探ろうとしたその時、

 

 

セシリアの鼓膜に、熱を帯びた音と、着弾の音が響き渡る。意識を向けると、『ブルー・ティアーズ』のシールドが削られていた。真後ろからの不可視の銃撃によって。

 

 

振り返った先で、エイツーが右腕の槍を此方へと向けていた。そこでセシリアは変異した右腕が槍ではなく、銃であると理解する。

 

 

「くッ!ですが、姿さえ見えれば───!」

 

「───甘いな」

 

 

振り返り様に狙撃するが、放ったレーザーはエイツーの身体を透き通るだけだった。命中などしてなく、移動の際に生じた残像だったのだ。驚きが衝撃となって全身を巡るが、すぐにセシリアは正確に狙撃を行おうとする。

 

 

しかし、

 

 

(──────速いッ!ハイパーセンサーでも、捉えるのがやっとなんて────!)

 

「当然だ、雷を見てから回避できる人間がいるか?」

 

 

エイツーは凄まじい速度で飛び回っていた。いや、飛び回っている様子すら見えない以上、瞬間移動を行使している可能性すら有り得る。しかしセシリアが見ている光景は、そんなものではない。まるで雷撃のような光が、炸裂するような音を繰り返しながら、周囲を駆け巡っていく。

 

 

 

ようやく動きらしきものを補足出来たと思えば、エイツーは真後ろに立っていた。そして無防備なセシリアの背中へと光弾を撃ち、意識を向けようとしたその時には音速の勢いで瞬間移動を行う。

 

 

「───!『ブルー・ティアーズ』!」

 

 

そう呼称された武装、撃墜された一基を除く三基のビットがセシリアの思考を受け、飛び立つ。残影を生み出すほどの超速であろうとも、オールレンジ攻撃になら対応できないと思ったのだろう。彼女は計三基のビットを操り、エイツーを包囲しようとする。

 

 

「そう来ると、思っていた」

 

 

バジュンッ! と、高速で駆け回るエイツーの右腕の銃からの光弾がセシリアに命中する。ビットの制御に意識が削がれていたセシリアにそれを避けることも出来ない。シールドが削られた反動に従って、無意識にビットから意識を外してしまう。

 

 

「そして、ビットを操っている最中は狙撃が行えない。逆も然り」

 

 

空中に制止したビットが一つ、撃ち落とされた。一瞬で狙撃を行ったエイツーは直立の姿勢から姿を消し去り、音速の風へと戻る。

 

 

スターライトmkⅢを構え直し、エイツーを何とか捉えようとする。しかし、セシリアが残像からエイツーの居場所を探そうとした時には、

 

 

 

「何故、自分の手が容易く見透かされているのか。そう思ったか?」

 

 

真後ろに立つエイツーが銃口を向けていた。振り返ろうとしたセシリアの真横を、光弾が通過する。エイツーの無言の威嚇を受け取ったセシリアは歯噛みしながら、背を向けるしかない。

 

そんな彼女に、エイツーは淡々と語っていく。

 

 

「答えてやろう。情報が筒抜けということだ、お前達の戦闘データはな。離反する前のアナグラムに、機密データとして保存されていた」

 

「………ッ!」

 

「篠ノ之箒以外の専用機のデータは全て記憶している。情報さえあれば、対処など容易い。この面子の中で警戒していたのは実戦慣れしているラウラ・ボーデヴィッヒと一番実力のある蒼青龍夜だけだ─────こうも単純なお前とは違ってな」

 

 

その一言に、セシリアの思考が強い熱を帯びた。エイツーの銃口から少しでも離れるように、瞬時加速で距離を広げようとする。

 

 

彼女の背中を狙い撃つように、エイツーの追撃の弾丸が放たれる。だが、セシリアが懸念したものではなく、三つの弾丸は彼女から逸れるように、地面や瓦礫に突撃するだけに終わった。

 

 

という考えを、瞬時に否定する。

 

 

 

(いや、こんな距離で外すなんてことは─────まさか!?)

 

 

セシリアが疑問を覚え、その理由を模索しようとした時、足元の地面から弾丸が飛び出してきた。別方向に着弾したはずの銃弾が軌道を変えて自分を狙ったのだ、と予想が着いたが、既に遅かった。

 

 

銃弾の中にあるモノが膨れ上がり、爆発する。連鎖的に広がる雷撃と爆風の嵐に、エイツーは右腕の銃をゆっくりと下ろす。

 

 

彼の意識はセシリアから離れていた。それも当然。エイツーの目的はセシリア達、IS操縦者の抹殺などではない。彼等の勝利条件である民間人の殲滅。

 

 

今も逃げ出している市民達に冷徹な瞳を向け、告げた。

 

 

 

「────次」

 

 

 

◇◆◇

 

 

「────ハッ!どうしたよ、アタシはまだ全速力じゃないぜ!」

 

「クソ!鬱陶しい奴だ!」

 

 

少し離れた場所で戦っているフロル。相対するはイヴと名乗る青年と、彼が操る全長十メートルを優に越える巨大な機械蛇 『サマエル』。

 

『サマエル』はその巨体に相応しい少し鈍い動きで、大きく開いた口で食らいつこうとしてくる。いや、その大きさからして呑み込もうとしていると言うべきか。

 

 

しかし、フロルは凄まじい加速で容易く回避する。空振りした機械蛇は辺りの瓦礫を巻き込み、惨劇を引き起こす。その被害を受けたであろう仲間達の呻き声を耳にしたが、イヴは最早気にしてすらいない。

 

 

「何をやってる!『サマエル』!いくらあの女が速くてもそれだけだ!それをこうも翻弄されるとは!」

 

「まぁまぁ、無理を言いなさんなって。そりゃアタシのISが優れてるからさ」

 

 

苛立ちを覚え、サマエルへ怒鳴るイヴの近くに、フロルがいた。ISの機能で空中に浮かぶ彼女に、イヴは本当に不愉快そうな顔で睨みつける。

 

 

それを受けても尚、不快感を示さないフロルは爽快と言わんばかりの笑顔を見せた。

 

 

「アタシのIS、『ストリボーグ』は風を操れる。ま、イタリアの『テンペスタ』のように風を自在に操れる訳じゃない。『ストリボーグ』は風を発生させ、それを束ねる事が本領だ」

 

「…………自慢のつもりか?風を束ねた所でお前に何が出来る」

 

「へへ、まぁ聞いとけよ。アタシのISは最速の名の為に開発された玄人専用の機体って言われててさ。他のISにあるような装備は搭載されてないんだよ。重すぎるって理由でな。あるのはビームエッジと機関銃とかの小さい飛び道具だけ。ホントにピーキー過ぎるよな」

 

「…………ッ」

 

「ようやく理解(わか)ったか?ならもう、言っても良いよな?」

 

 

最速と呼ばれたロシアの第三世代、『ストリボーグ』。速さだけに特化した故にISの長所の一つである重装備を纏えず、IS同士の戦いではあまり有効打になるとは思えない装備だけとちう機体。

 

本来であれば、失敗作として放置されても可笑しくないのだ。かつての白式のように。なのにそうならず、ロシアが代表候補生に与えているという事は、結論は全くの逆であることが分かる。

 

 

その速さが、『ストリボーグ』だけの武器だと理解されたのだ。

 

 

「『ストリボーグ』の速さは!そんな小物だけで充分なくらいの強さって訳だ!!」

 

 

瞬間、爆風が吹き荒れる。足元のユニットから蓄積させた風を放出させた『ストリボーグ』が音速を越える速度で空を駆け巡る。

 

あまりにも速い、ISでしか出せない速度。しかしイヴはそれを嘲笑う。彼も生身の人間ではない、その速さに目視で追い付いているのだ。

 

 

「馬鹿が!所詮速いだけの羽虫だろうが!サマエル!喰らうのは後だ!そのクソ女を叩き落とせ!!」

 

 

イヴの命令に応えるように、サマエルが金属が摩擦するような音を響かせながら大きく動き出す。上空で加速する『ストリボーグ』の姿を捉えると、全身を持ち上げて近くの瓦礫を空へと打ち出していく。

 

 

うぉ! とフロルも流石に驚いた様子だが、サマエルは攻撃の手を止める様子もなく、むしろ続きの砲撃を繰り出す。その瓦礫の一つが、急に動きを止めたフロルへと直撃する。

 

 

 

しかし、喜ぶのも束の間。砕け散るはずの瓦礫は『ストリボーグ』に当たる直前に両断される。瓦礫を貫通し飛来したそれはサマエルの装甲を切り裂いた。

 

 

『───ッ!────!!』

 

「言っとくけど、アタシの腕や足にあるスラスターが飛ばせるのは風だけじゃないんだぜ?エネルギーブレードも、風に乗せて射出できるの、さっ!!」

 

 

続け様に空中で蹴りを放つフロル。彼女の脚に搭載されたユニットからビームエッジが展開されたと思えば、スラスターによる圧縮された風の砲弾によって発射された。

 

 

それら複数の風の刃が、『サマエル』の装甲を切り裂く。金属音の絶叫を響かせる機械蛇がのたうち、力無く崩れ落ちる。

 

 

ゆっくりと風を制御し、空中から地面へと降り立つ。砂煙の向こうにいるイヴへと語りかける。

 

 

 

「ま、こんなもんか。さて、どうすんだ?アンタの蛇はもう────」

 

 

フロルの声が途切れた。

理由は目の前に見える光景。晴れていく煙の向こうに見えるもの。

 

 

部下二人の首を持ち上げて風の刃を防いだイヴの姿がそこにあった。

 

 

「い………イヴ、様ぁ………?」

 

「何故………俺達、を…………ぉ?」

 

「────フン」

 

 

震える声と共に鮮やかな血を溢れさせ、兵士が疑問を漏らす。当然、イヴはそれに答えない。不愉快そうに顔を歪め、兵士二人を足元に転がした。

 

 

「………仲間を盾にするとは、中々にヒドイ奴だな」

 

「訂正することが二つある。一つ、コイツらは仲間じゃない。戦争でしか生きれず、自分よりも弱い奴等を殺すことに快楽を覚えたクソの集まりだ。一緒にしないで欲しいな」

 

「ふぅん。アンタ想像以上に性格悪いな」

 

 

思わずフロルも悪態をつく。好きに言えばいい、とイヴが吐き捨てる。どうやら上の方は仲間意識が致命的に低いらしい。自分の部下を犠牲にしても尚、侮蔑を向ける程には。

 

 

「それともう一つ。コイツらは盾にするんじゃない」

 

「あ?」

 

「俺の駒、俺の武器だ」

 

 

瞬間、兵士達の身体から黒いモノが突き出した。鋭い棘だった。それが連鎖するように、棘が全身から生えてくる。兵士の悲鳴はない。代わりとして、獣のような咆哮があった。

 

 

絶句するフロルの前で、兵士の亡骸から何かが這い出る。いや、死体が別のものへと変換されていく。黒い異形。人間のように二本の手足を有した獣。顔もなく、口もなく、淡い白の光を二つ灯したそれらは人間ではない、全く別の物質で構成されたものだ。

 

 

「改造か、本当に悪趣味なヤツだな」

 

「フン、これだから馬鹿は嫌いだ。自分の見たものを真実として決めつけ、そう判断した口で偉そうに吠える。その間違いを正すために、教えてやる」

 

 

両手を広げるイヴ。その掌を握り締め、彼が告げる。

 

 

「俺の力は『幻想武装』ですらない、神の領域にまで到達している」

 

 

瞬間、近くの地面が隆起し、中から黒い異形が何体も現れる。基本的に全てが人の形をしたものであり、その殆どが人間とは形容しがたい存在である。

 

 

無数の怪物を侍らせたイヴが、不適に笑う。端から見れば、狂気に近い悪意を滲ませて。

 

 

 

「『材料』もまだ残ってる。役立たずの部下どもも、逃げてる集落の人間も、全員使っても問題ないんだ。いくらお前のISが速かろうと、圧倒的な物量で叩き潰す」

 

「────っ」

 

「足掻けよ、選ばれた人間気取り。本物の兵器の力ってものを見せてやる」

 

 

イヴが指示を送った瞬間、黒い異形が一斉にフロルへと飛び掛かる。彼女も『ストリボーグ』の風を束ね、迎え撃つように突撃した。

 

 

 

◇◆◇

 

 

無数の光が、炸裂する。地面に直撃した瞬間に内側から呑み込むように爆発する閃光が、何度も起こる。

 

 

それによって生じた砂煙の中から、『プラチナ・キャリバー』を纏った龍夜が飛び出す。全身を鎧で覆う騎士風の形態『ナイトアーマー・フォーム』のまま、彼は両手に備えた盾と剣を構え、次なる攻撃への行動に移る。

 

 

「ハッ!ハァッ!!」

 

 

砂煙から飛び出し、上空へと飛来するオスカー。天使の姿に近い『幻想武装(ファンタシス)』を展開する彼は、その姿を誇示するように光の翼を大きく広げる。

 

 

その翼から、円が生じる。光のラインで構成された輪っかのようなものは、中心に光を収束させると、光線を射出する。

 

 

無論、ただ受けるだけの龍夜ではない。自分へと狙いを定めた閃光を防ぐために、自らの武器の一つ、『銀光盾(プラテナ・シールド)』を翳す。

 

 

二つの光線を受けた『銀光盾』に、振動だけが伝わる。白銀の装甲に防がれた光の粒子は弾かれてすぐに、盾自体に吸い込まれていく。

 

 

「!お前の光が強かろうが!俺の前ではエネルギーに変わりはない!」

 

(エネルギー最大まで─────45%!その間、空にいる奴を墜とす!試作品を使いたくはなかったが、出し惜しみする訳にもいかない!)

 

 

そう決断するや否や、龍夜は切り替えた。

近くの瓦礫の山を長剣で切り崩す。適度なサイズとなった瓦礫の塊を盾で軽く弾き、宙に舞ったそれらを剣の腹で飛ばしていく。

 

上空の天使に、瓦礫の砲弾が効くとは思っていない。奴が瓦礫を打ち消すのは五秒以内。短い時間だが、それが欲しかった。

 

 

隙を逃さぬように、長剣を盾に組み込まれた鞘へと納める。片手で持ち込んでいたケースのロックを解除し、開く。中に内蔵された複数の鉄の塊、そのトリガーに指を掛ける。

 

 

「────“セット”」

 

 

その言葉が、スイッチとなった。

鉄の塊に電気が流れ、連結した装置が起動していく。格納部から伸びたケーブルが盾の一部に接続され、瞬間的に鉄の塊が変形を開始する。

 

 

背中と盾にケーブルを連結させたのは、一つの鉄塊。横に伸びる形状をしたそれは、龍夜が試作段階まで製作していたISの兵器であった。

 

 

その名こそ、

 

 

「─────試作型可変機銃・零式」

 

 

ガコン、と最終段階の変形が終わる。龍夜は大型の銃、試作型可変機銃・零式の持ち手を片手で掴む。生身の人間ならば両手でも持てないであろう重量の銃はISを纏った状態でなら、軽いものである。

 

 

瓦礫により視界を遮られたオスカーへと照準を向ける。そして迷うことなく引き金に指を掛け────掃射した。

 

 

 

ドッ、ドドドドドドドドドド───────ッッ!!!

 

 

銃口から無数の弾丸が放出される。真下から降り注ぐ弾丸の雨に、オスカーは露骨に嘲笑する。背中の翼を大きく広げ、自身の身体を包み込む。カーテンのような光の翼はあらゆる実弾も弾く鉄壁の防御。そう簡単に破れるものではない。

 

 

そう自負していたオスカーの腹が抉れた。光の翼を貫通した弾丸によって。

 

 

「ぐ、ゥ!?」

 

(違う!実弾ではない、エネルギー弾ですかッ!)

 

 

焦ったオスカーは翼を羽ばたかせ、後方へと避ける。逃がさないという決意を見せる龍夜によって射線は変えられ、エネルギー弾の雨がオスカーへと迫る。

 

防御は意味を為さない。ならば、相殺すればいい。そう判断したオスカーの行動は早かった。

 

 

「大いなる御使いの光!受けよ!『神聖なる光の雨(リヒトセント・アローズ)』!!」

 

 

翼から無数の光線を放ち、機関銃のエネルギー弾を撃ち落とす。文字通り光の雨によって攻撃を防いでいくオスカーだが、その合間に龍夜も次の手を取る。

 

 

 

「───機銃変形、『装甲砲』」

 

トリガーに掛けた指が別のスイッチを押すと共に、可変機銃がその機構を変えていく。もう一つ残されていたケースを開閉し、その中身の塊を組み込み、砲身の伸びた機銃を構える。

 

 

盾から手を離し、オスカーへと照準を向ける。露出したバレルを固定し、エネルギー弾から先程取り出した徹甲榴弾を装填し、迷うことなく撃ち込む。

 

 

爆音が響いた時には、もう遅い。

エネルギー弾を防ごうと弾幕を放つオスカーは異変に気付くが、光の雨では榴弾を防げない。だからこそ、攻撃を中断して自身を囲む翼で受け止める。

 

 

しかし、着弾した瞬間、徹甲榴弾に内蔵された機能が発動する。パイルバンカーを打ち込むように、内蔵された徹甲弾が光の翼を強引に突破した。

 

 

 

そして、徹甲弾がオスカーの腹に直撃した。

 

 

 

「が、あアッ!!?」

 

装甲を貫通する砲弾が、オスカーの腹を抉る。それだけでは済まず、腹に突き刺さった徹甲弾が破裂し、内部を破壊し尽くす。

 

『幻想武装』としての防御力が無いのか、或いは『幻想武装』の効力がない生身に直撃したからか、爆発に曝された天使は地面へと落下してきた。

 

 

目の前の敵に有効打を与えたことに安堵するのも一瞬、すぐに龍夜は自身の武器である銃を確認する。

 

 

「…………やはり、一撃が限界か」

 

 

先程の砲撃を行った機銃は完全に壊れていた。バレルや銃身が強力な熱と勢いに耐えきれず、内側から破裂している。破壊力故に、一発しか使えないというのは実に悩ましい。

 

 

(ま、改善すればいい話だ。一回で完璧なものを造れる程、天才ではないからな)

 

 

自らの開発した武器の今後を考えていた龍夜だが、ふと意識を目の前に戻した。瓦礫の山、オスカーが落ちたであろうその場所。そこにいたのは、瀕死の姿で倒れ伏す男ではない。

 

 

 

平然と、胴体に大きな穴を作りながら立ち尽くす天使の姿だった。

 

 

「…………心臓のある場所も抉られている。そんな傷で生きられる筈がない」

 

 

生身の人間ならば、だ。いくら『幻想武装』がISに匹敵する兵器であれど、それを纏う人間は普通の人間だ。銃で撃たれれば死ぬ、鎧があるからこそ拮抗できるのだ。

 

 

だが、目の前の敵はその常識から悉く外れていた。抉られた部位に光が集まる。粒子がその部分に収束していき、肉体を完全に補強していく。

 

 

修復、等ではない。『幻想武装』の内側の肌は生体のものだ。つまり、再生。ISでもそう簡単に実現できる現象ではない、肉体の完全復活であった。

 

 

変化がそれだけではないのは目に見えて分かった。オスカーの『幻想武装』、天使の姿が変容していた。翼が四枚へと変わり、天輪が肥大化している。何より、オスカーの様子がそれを証明していた。

 

 

「─────クフフ、フフフフフ。おぞましい、デスカ?私の、御使いたる天使の力ハ」

 

「…………」

 

「それもそうでしょう、ネ。私の力、『天聖光輪 エンゼル』は光を操る。ただの光ではなく、神聖なる裁きの光。つまり、神の力!」

 

 

狂気に染まったようなオスカー。彼は自身の状態に何ら疑問を持つことなく、険しい眼で睨んでくる龍夜へと酔いしれながら語る。

 

 

「ええ、疑問に思っているでしょう。私の力が更に増していることに。更に、光ある天の使いに近付いていることに」

 

「…………他とは違うやり方。『幻想武装』を取り込んだな、自分の肉体に」

 

「流石。聡明で何より、神がお喜びになるでしょう」

 

 

おそらくそれが、奴の語っていた『幻想武装(ファンタシス)段階覚醒(オーバーシフト)』だろう。生体融合することで、普通では発現しない機能を無理矢理拡張させていると思われる。体内の何処に埋め込んでいるか不明だが、心臓か脳のどちらかかもしれない。

 

 

 

「そしてぇ!私の力は未だ衰えず!更に威光を輝かせる!聖なる光、我が力の一端を受けるがいい、DEATH(デェス)ッ!!」

 

 

オスカーの両手に、光が生じる。無固形に揺らぐ光は徐々に形をなして、一つのリングへと変わる。左右の掌に白い光の輪を浮かばせるオスカーは高らかと叫びながら飛ばす。

 

 

「『聖光縛輪(ライト・リング)』ッ!!」

 

 

ブーメランのように、光輪が縦横無尽に飛来してくる。その動きは読みにくいが、間違いなく何かが仕込まれている。確信した龍夜は盾で受け止めることはせず、回避しようとして─────

 

 

 

「おや!避けてもよろしいですかねぇ!?」

 

「?────ッ!」

 

 

その意味に疑問を覚え、すぐさま気付いた龍夜はその場に留まる。『銀光盾』と銀剣によって二つの光輪を弾き返す。辺りに吹き飛んだ光のリングを確認しながら、ふと真後ろに意識を傾ける。

 

 

子供が、まだいた。

避難していた筈の市民が何故まだ戦場の中央にいるのか、謎に思ったが、子供の近くにいる大人の死体があることから、全てを理解する。

 

 

避難の際に流れ弾を受けた親を見捨てられず、ここに残っただろう。震えながらその場に座るしかない幼い女子を見た龍夜は、舌打ちを隠さない。無論、後ろの子供にではない。

 

 

「────お前」

 

「何か文句でも、ありますか?あの幼き少女は我々が連れてきた生贄、それを殺すだけなの、DEATH(デェス)ガ。つい偶々、貴方の後ろにいる時だっただけでしょう?」

 

 

天使は、恍惚した穏やかな笑みを浮かべながら答える。自分のしていることが当然の事だと疑わない様子だ。『幻想武装』による副作用か、自分の行いに酔いしれてすらいる。思わず、嫌悪感を剥き出しに悪態でも吐きたくなる。

 

 

(…………最悪だな。このままだとヤツの思い通りになる、子供を抱えたままヤツを相手取るに訳にはいかない。どうすればいい──────ん?)

 

 

何かに気付き、龍夜はふと息を吐き、小さく何かを呟く。それを意思表示と受け取ったオスカーが不適に笑う。

 

 

「おや?どうしましたぁ?その子を守る気がしなくなりましたか、ねぇ?」

 

「逆だ。お前の相手に専念できるようになった」

 

「…………?それはどういう─────」

 

 

答える間もなく、龍夜は破損していた機銃を前方へと投げつけた。オスカーが攻撃を行うよりも先に、火花によって起爆した可変機銃が爆発した。

 

 

破片が飛び散り、煙が広がる。オスカーの視界が遮られたことを確認した瞬間、龍夜の後ろから飛び込んでくる黒い影があった。

 

 

それこそが、龍夜が先程の通信で呼び寄せた援軍だった。

 

 

「────クーリェ・ルククシェフカ、早速だがその子供を頼む」

 

「………」

 

「何だ?」

 

 

黒いIS、『スヴェントヴィト』を纏うクーリェが不満そうな顔をしている。こんな状況で怒らせる真似でもしたかと思ったが、どうやら違った。

 

 

「…………長い。クーリェで、いいから」

 

「分かった。クーリェ、その子を安全な場所まで避難させろ。ヤツが攻撃してきたら、その時は俺がどうにかする。任せたぞ」

 

 

そう言い、クーリェに下がるように促す。やはり少し不満そうな少女だったが、龍夜の言葉に従い、子供の元へと駆け寄っていく。

 

一方で、龍夜は煙の向こうへと歩み寄る。オスカーとの距離を縮め、後ろにいるクーリェや子供を巻き込まないように近付く。

 

 

その時、煙の向こうで余裕そうに待ち構えていたオスカーが口を開いた。

 

 

「─────私の力、『聖光縛輪(ライト・リング)』に隠された力があるのは分かっていますね?」

 

「………自慢でもしたいのか」

 

「話を聞いた方がよろしいですよ。その隠された力とは、生身の人間に作用するもの─────『聖光縛輪(ライト・リング)』を受けた人間は、天使たる私の支配下にある」

 

 

興味ないと切り捨てるわけにはいかなかった。ここで話し出すのには何か訳があると判断し、黙って耳を傾けることしか出来ない。

 

 

「先程、部下が処刑された光景を見たでしょう。アレも、その力です。無論、仕組まれた人間は無意識のまま、当人の意思とは関係なく私に操られる。

 

 

 

 

そして、操る以外にももう一つ、この力で行えることがあります。支配下にある人間を────強制的に自爆させることです」

 

 

ゾワリ、と背筋に嫌な寒気が走る。気味の悪い、それ以上に不快なものだった。龍夜はある予想を、最悪な可能性を思い浮かべる。

 

 

それを、オスカーは容易く肯定した。

 

 

「察しが良いですねぇ。ええ、貴方の予想通り。私は集落の人間達全員に『聖光縛輪(ライト・リング)』を仕込んでます。この場に連れてこられたその時に」

 

 

 

直後だった。

 

この空間の外、唯一脱出できる通路の方から複数の光の爆発が起こる。驚愕する龍夜を他所に、光の連鎖は更に続く。その度に、多くの悲鳴が届いた。

 

 

だが、龍夜にはそちらを気に掛ける余裕はなかった。先程、の奴の言葉をまとめると、『連れてこられた全員に自爆させることの出来る光輪を仕込んだ』という事になる。

 

 

「─────クーリェ!!」

 

 

ならば先程、逃げ損ねていた少女も恐らくはオスカーによって仕込まれた爆弾であるはず。そう気付き、少女を連れて避難しようとするクーリェに全速力で追いつこうとする。

 

 

 

そして、少女の内側の光輪が破裂する。瞬間、膨大な光を周囲に撒き散らしながら少女は爆発を引き起こした。

 

 

「………クソッ、クーリェ。無事か?」

 

 

彼女から返答はなかった。先程の光の爆発を直に受け、当たり所が悪かったのだろう。軽く気を失っているだけで済んだ。少なくとも、少女が爆散する光景を覚えずに済んだだけでもマシなはずだ。

 

 

「─────おや、残念。一人くらいならやれるかと思ったんだが」

 

 

そこに、オスカーが平然と現れる。無論、良心の呵責を覚えてる様子など微塵にもない。

 

クーリェを近くに寝かせ、龍夜は立ち上がる。盾と剣を強く握り締め、目の前の天使を射殺せる程の強さで睨む。

 

激しい怒りを抑え込みながら、呟いた。

 

 

「生命を、何だと思っている………ッ!」

 

「神の所有物でしょう。それ以上もありませんよ」

 

 

何を当たり前なことを、と常識を疑ってくる顔。どうやらあの聖職者くずれは本気でそう思っているらしい。『幻想武装』による精神汚染を受けたか、或いはアレが奴の本性だかはどうでもよい。

 

 

アレは、生かしておくべきではない。自分が間違ってないと

最後まで正すことをせず、一生人を殺し続ける。おぞましい内面を宿す、人間の皮を被った化け物だ。

 

 

怒りが煮え滾る。子供すら爆弾とする悪逆、そう簡単に理解できるものではない。銀剣を握る力が増し、自身の鎧が少しずつ黒く染まっていくのも分かる。

 

 

龍夜の怒りに同調しながらも、それを鎮めるように銀剣が光を放つ。言葉もない強い意思に、龍夜は感情を留める。暴発しないように怒りの炎を少しずつ鎮火させていく。

 

 

「────?」

 

 

ふと、オスカーが何か気付いた。すぐ近くの瓦礫に紛れていた、謎の材質の箱だった。それが、小刻みに震えていた。内側から、何かが動いているかのような変化。

 

 

「まさか、共鳴しているのか………?蒼青龍夜の剣に、反応して─────そうか、そういうことか!?」

 

「………?何を言っている?」

 

「────おお、神よ!感謝いたします!これも貴方様のお恵みという事ですね!?まさか、こんな所にいるとは───」

 

 

困惑する龍夜を無視して、オスカーが叫ぶ。龍夜の持つ銀剣を見据えながら。

 

 

 

 

「第五のクインテット・シスターズ、聖王帝剣エクスカリバー!!」

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