「第五のクインテット・シスターズ………エクスカリバーだと?」
思わず、敵であるオスカーに聞き返してしまう。龍夜としても驚きや疑念を隠せない。何故、敵がクインテット・シスターズという単語を知っているのか。
少なくとも、敵が何か重要な秘密を握っているのは確かだ。
「………クインテット・シスターズと言ったな。それは何だ」
「八神博士がISを基盤としたとされる五つの武装神機。あらゆる技術を超越したテクノロジーが搭載されている。正に、数百年先の未来を生きるISの究極形。いや、ISと比べるのは烏滸がましいですねぇ。いくらISであろうと────一機で世界を滅ぼすことは不可能なのですから」
「…………」
ISを基盤としながら、ISではない。その言葉にようやく胸の中にあった疑問が解決したように思えた。何故、自分だけがISを無力化する弾丸の効果を受けなかったのか。何故、ISとは明確に違う存在であるはずの銀剣が、ISとして平然と組み込まれているのか。
「────クインテット・シスターズは全五機。全てが武器の形状で存在していると聞きます。我々が求めていたのは四機、既に手中にある『レーヴァテイン』を除く三機、『トライデント』、『ミョルニル』、『ミストルティン』。そして、五番目でありながら最初に起動された例外。我等をしても情報すら掴めなかった『エクスカリバー』」
クインテットの名の通り、五つの武器が存在しているらしい。『レーヴァテイン』やら『トライデント』やら、恐らくは存在していた神話の武器を冠する名を与えられている。そして、自分のIS『プラチナ・キャリバー』に組み込まれた銀剣。鞘と双対する形であり、コアの役割を担う存在。
自分に与えられたISは、『エクスカリバー』という禁じられた兵器を隠すための簑だったのだ。
「『指導者』は、エクスカリバー以外の四機があればいいと言っていました」
天使、オスカーは手を伸ばす。龍夜に、いや彼の持つ『
「エクスカリバーは元より手に入る可能性が低いと。篠ノ之博士により回収されたのもある。何より、本来の運用は四機だけで良いとも言われていました」
光が、更に強くなる。輝かしく発光するオスカーの翼が、直視できない程になっていく。狂気に揺れる瞳を真っ直ぐと向けながら、オスカーは酔いしれるように叫ぶ。
「───ならば、エクスカリバーを手に入れたとしても。『指導者』はそこまで固執しない。つまり!その力を、私のものに出来るというコト!!」
恍惚とした笑みに、龍夜は怒りすら通り越した嫌悪感を理解する。この男は狂ってすらいない。最初からこうだったのだろう。社会から排斥されてここまで来たのも、必然であった。
一般の社会では、絶対に受け入れられるべきではない化け物だ。感性すら人間のそれではない。最初から、共感など有り得ないのだ。
「世界を滅ぼす事も救済することも可能とする人の手には過ぎた力!それが貴方の持つ武器!なればこそぉ…………私のように!神に殉ずる者にこそ!その武器は、エクスカリバーは相応しい!!」
「…………訳の分からない事を、好き勝手に言ってくれる。だが、一つだけハッキリ言ってやる」
自分の手にある銀剣を静かに見下ろす。カチカチと、金属の刃が小刻みに震えていた。間違いなく、『エクスカリバー』の、いや『ルフェ』の意思がそこにある。
明確な敵意を受け取り、龍夜は彼女の意思を代弁した。
「少なくとも、『コイツ』はお前に触れられるのだけは御免らしい」
「……………」
コキリ、とオスカーの首が曲げられる。光に染まっていても、瞳の奥に闇すら感じさせないその両目は、逆に不気味に写っていた。
微笑みのまま、首を捻るオスカー。その笑顔を固定したまま、四枚の翼を大きく広げる。そして、輝く。
「ならばぁ!!力ずくでも奪い取りましょう!!たとえ貴方の息の根を止めたとしてもォ!!」
「やってみろ、天使擬きの化け物め」
◇◆◇
No.812。それが幼かったエイツーに、大人達が与えた名前であった。
『
行く宛もない子供達を国連が全面的に保護する。その行いに誰もが賞賛し、世界中が援助する程であった。本当に素晴らしい話だろう─────表向きで見れば。
当然、国連も慈善事業でした訳はない。彼等はただ集めていたに過ぎない。いなくなっても探そうとしない、悲しむことのない子供達を。
用途はいくらでもあった。新兵器・新薬の実験。資金源のために外国の大金持ちに売り捌く等。その一つが、国連の私兵化である。
まだ幼い子供達を洗脳し、訓練し、都合の良い兵士へと育て上げる。その為にも、最初からあった名前や戸籍を全て消し去り、識別できるコードネームだけを与える。エイツーも、そのようにして自らの記号を手に入れた。
ナイフや銃の扱い方も、相手の殺し方も、全て数年の内に頭に入れて、身体に染み付かせた。単身で数十人の相手を殺せるように、生命よりも相手を討つ事を学ばされていた。
今までも、何百、何千の命を奪ってきた。自分達よりも年上である大人達も。戦場から逃げ出した敗残兵も。子供を連れた親も。必死に逃げる背中を、真後ろから撃ち殺していった。
後悔も、疑問もない。子供の頃から成されてきた教育は、エイツー────No.812にとって正しき事実。国連からの指示や命令も間違いない、絶対的なものであると信じて疑わなかった。
だが、ある人がそれを変えてくれた。
『────No.812、君はある男の直属として選抜された』
『名をクロノ、いや確か名字があるんだったか。これからの時代に適応するために調整された遺伝子強化体の究極形だ。一時期だけ、軍属として配備されることになった。彼の補助が君の使命だ』
いつも通り白衣の大人の命令に、迷いはなかった。そして配属元とされるクロノという人物とは、すぐに出会った。
『───初めましてだな。君が俺の直属の兵士か。名は何と言う』
『…………No.812です。クロノ様』
『堅いな。正式な上官という訳でもない。………そうだ、忘れるところだった。俺が
その男は、落ち着いていた。表情はいつも変わらず、人形か何かと一瞬思った。しかし、すぐに違うと判断した。その顔には、無機物のような冷徹さとは違う温かさがある。そういうものから欠け離れたNo.812には、理解が難しかった。
男、クロノに付き従い数ヶ月。No.812はクロノの事を理解しかねていた。
『………クロノ様。お聞きしたいことがあるのですが』
『?どうした、エイツー?』
『────そのエイツーというのは、私の事ですか?』
『No.812。
『…………勝手にしてください。私として、聞きたいことがありますので』
どう対応するべきか把握しきれない。体面とは裏腹に自由なクロノに戸惑いながら、No.812は疑問を呈示する。
『先程の姉弟、何故見逃したのですか』
『………あの子達か。別に標的でも無いだろう』
『我々が行った麻薬カルテルの殲滅は極秘です。あの姉弟により我々の活動を露呈する可能性が低くはありません。それ故に、範囲内にいる者は麻薬カルテルではなくとも始末する必要があります』
『……………』
某国の付近で活動する麻薬カルテルの一団。No.812達に与えられた命令は、その組織の抹殺であった。当然、情報は漏らしてはいけない。生存者は誰であろうと殺せ、と言外に命じられていた。
その命令に従い、殲滅戦に巻き込まれたであろう子供の姉弟を始末しようとした。しかし、No.812の行動を止めたのは他ならぬクロノ。彼は味方すらも誤魔化し、その領域から姉弟達を逃がした。
何故、命令を無視したのか。そこまでする価値があったのか、No.812には問い質す必要があった。それこそが、
『───エイツー。国連に正義はあると思うか』
『当然です。我等は世界の平和を保つ必要な抑止力、正義であることは絶対のはずでしょう』
『なら無関係な人を率先して殺すことが正義か?証拠隠滅の為なら、それが許されるとでも?』
『…………国連の、正義を疑うのですか?』
『それが正義であるというのなら、弾劾するべきことだ』
平然と、そう言いのけるクロノ。流石のNo.812も驚愕を隠せなかった。不可思議、疑問視しているNo.812に対し、クロノは軽く笑いながら聞く。
『報告しないのか?俺の事を、国連に仇なす反乱分子と』
『───貴方のそれは単なる意見です。それだけで貴方を国連に反する者と想定するのは早計だと判断しました』
あくまでもクロノを始末した際に掛かる損害が並大抵ではないからこそ、下手な報告をする訳にはいかない。小心者な大人達はどれだけの損害が出るかも気にせず、クロノを処分しかねない。
自己判断のもとに、選択したまでだ。決して、別の意図があって庇ったわけではない。
『意外と気が回るんだな、お前も。義弟によく似てる』
『…………義弟?』
『あぁ、そっか。知らなかったんだったな。結婚してるんだ、俺は』
そこでクロノは丁寧に話してくれた。かつては国連が秘密裏に集めた科学者達に全身を改造され、生体兵器として造り出された存在であると。その後、国連の兵士として利用される前にとある女性と出会い、彼女に多くのものを教わったことを。
女性とその家族達は、兵器であった自分を人にしてくれたと。その女性と結ばれて、家族の一員になったと、クロノは嬉しそうに語っていた。その姿にNo.812は何故か落ち着いていた。どうしてか、分からなかった。
『エイツー、お前はきっとまだ分からないだけだ。もしお前も、家族や守りたい場所を得れば、きっと理解できる』
『…………クロノ様』
『目を背けるなよ、エイツー。お前は使い捨てにされる人形じゃない、人間だ。人間には心があるんだ。何時になってもいい、心に従って生きろ』
それから数日後、クロノは日本へと戻っていった。正確には、守るべき居場所に。彼との別れを経て、No.812は大いに変わった。
自分の信じた正義が揺らいでいた。どんな命令にも従い、対象を始末する。そのやり方に疑問が生じてきたのだ。躊躇いなく引いてきた引き金が重くなり、命を奪うことへの迷いがのしかかる。
それでも、確かに信じてはいた。国連は、世界の平和を守るためにあると。彼等の正義は、独善的なものではないと。やり方は苛烈であっても、正義の信念だけは消えていないと。
────用済みとして、左目を撃ち抜かれるまでは。
『────No.812。君の処分が決定した。子供すら殺せない兵士など価値がない。だが安心したまえ、君の仕事は他の者に任せよう』
同じように育てられた兵士達から狙われ、片眼を喪いながらもエイツーは必死に逃げ出した。もうあそこには戻れない。とある子供達のグループを逃がしたのを知られた事で、大人達はエイツーを『不要』と判断した。書類上で廃棄処分された以上、実際に処分されるのも時間の問題だった。
そうして逃げるエイツーだったが、一瞬だけ躊躇ってしまった。
『…………あの子達は』
自分が追われる原因となった少年少女のグループ。孤児であり、スラムで活動している彼等は、大人達の事情によって理不尽に処理される予定であった。それをエイツーは、かつての上司のように、見逃してしまったのだ。
無視して逃げるのは出来た。しかし、大人の会話に子供達を処分するという話があったのも思い出す。
だからこそ、向かってしまった。子供達が逃げた先であろう拠点に。追われている自分が余計な真似をするべきではないと理解しながら。
────その後、エイツーが見たのは、徹底的に燃やされた建物の残骸と、生きたまま焼かれたであろう子供達の焼死体であった。
その時ようやく、エイツーは理解した。
自分達を作った国連に、世界に、正義なんてものはなかった。彼等が求めるのは、自分達に都合の良いものだけ。彼等が掲げるのは、体面を守れる綺麗事だけ。
エイツーが信じていたものは、仮初めに過ぎなかった。その日から、エイツーは自らの心とやらに従うことにした。一つの決意を、胸に刻む。
どれだけ犠牲を成そうとも、どれだけ命を奪おうとも、この狂った世界だけは滅ぼさねばならない、と。
◇◆◇
「…………オスカーめ、やりすぎだ」
光の爆発と連鎖する悲鳴。オスカーが一般人達に仕込んだ『
おそらくは、オスカーが今相手をしているIS使いの男への挑発だろう。だからこそ、エイツーは唾棄するように吐き捨てる。
命を奪うこと自体はいい。だが、それを弄ぶように行うことはどうしても慣れない。だからこそ、殺戮に酔いしれる兵士達も、神だのを理由にして殺しを正当化するオスカーも、全員が嫌悪対象であった。
殺すのなら、一思いに殺せばいい。そうしないからこそ、こんな底辺に堕ちてきたのだ。どいつもこいつも、省みようとしないからこうなっている。
ふと、エイツーはまだ生き残っている生存者達を確認する。イレイザ中将と彼が率いる無人機によって守られている彼等は、オスカーの強制命令を受けていなかった。彼等も、『光輪』を受けているはずなのに。
「─────俺に、始末しろと言いたいのか」
そういう意図だと確信してしまう。反論などはなかった。エイツーに躊躇いはあれど、自らの行動を止めるまでの強さはい。
この世界を壊すと決めたのだ。今更、何百人を殺してでも引き下がる訳にはいかない。もうとっくの昔に、諦める選択肢は失われているのだ。
片腕の銃にエネルギーを装填する。昔と同じように、今も逃げようとする彼等の背中に銃口を向けていた。違いがあるとすれば、明確な意思に従っているか否か。
今度こそ光弾を撃ち込もうとしたエイツー。しかしその引き金は、背後から聞こえた瓦礫の崩れる音によって遮られた。
「……………まだ動けたか」
構えを解き、エイツーは振り返る。瓦礫を払い除けたセシリアが荒い呼吸を整えながら立ち上がっていた。どうやら先程の攻撃は何とか耐えきっていたようだ。シールド残量もまだ半分は残っていると見ていい。
しかし、エイツーとしてはそこまで気に掛ける事ではない。
「解せないな、お前は自ら好機を捨てている」
「………」
「俺を背後から撃つことも出来ただろうに。正面から相手しようという気か?律儀なものだが、些か楽観が過ぎる」
また相手になろうが関係ない。エイツーはそれすら容易く打ち倒せる余裕がある。当然、余裕があるからといって慢心するはずもなく、容赦なく潰す予定は変わりない。
片腕の銃を何時でも持ち上げられる姿勢を取るエイツーに、セシリアは笑みを浮かべる。それは、勝機を見据えたようなものだった。
「考えて、おりましたの。貴方を倒す方法を」
「────戯れ言だな。お前に俺は倒せない。まさかさっきの戦いで、俺を出し抜く方法を見つけ出したとでも?」
「ええ、貴方の動き………いえ、能力の本質を掴みました」
「フン。口だけは達者だな。なら聞かせて貰おう、お前が掴んだ俺の攻略法とやらを」
その表情に、微かに疑問を覚える。同時に違和感も。それを打ち消す、いや解消するためにも、エイツーはセシリアの話に耳を傾けることにした。
「『サンダーバード』、『スカイフィッシュ』、どれも未確認生物です。貴方の『幻想武装』は指定した未確認生物の構造や機能を取り込み、自らの力へと装填する兵器です」
「………、」
『サンダーバードによる電気を生み出す機能、スカイフィッシュによる高速飛行能力。この二つを同時に組み合わせ、あれだけの瞬間移動を引き起こしていた。これが、瞬間移動のタネです』
「成る程な。伊達に候補生と呼ばれるだけはある」
純粋に、感心する。短時間で、自分の能力───『アンノウン』の機能を理解されるとは思いもしなかった。だが、それはあくまでも短時間でだ。
おおよそ答えに行き着くであろうことは分かっていた。だからこそ、期待外れとも言える。
「だが、それでは言葉通りではないな。たとえ俺の能力に気付いた所で、対処できねば意味はない。まさか、これだけで終わりではないだろうな」
「ええ、まだ話は終わってませんわ」
達観したようなエイツーに、セシリアは遮るように続けた。
「貴方は私との戦いの間、何度も瞬間移動の後に動きを止めていました。何時でも姿を消してから攻撃できるはずなのに、わざわざ私に話し掛けてから瞬間移動を行う。それはおそらく、行動の違和感を悟らせぬ為のブラフ」
「…………………」
「電気と高速飛行、この二つの重ね掛けは負担が大きい。だからこそ瞬間移動を行った後は、一定時間だけ身体を休ませる必要がある。その数秒こそが、私の狙うべきチャンスですわ」
「────
本当の意味で、驚かされた。まさかそこまで見抜いていたとは。おそらく彼女は、もう対処法を編み出している。勝機を見出だした笑みはきっとそれに違いない。
…………違和感を、セシリアの様子に疑惑を覚えるもう一人の自分を押さえ込むようにして割り切る。最早これ以上言葉は不要。己のやるべきことはとっくに決まっている。
「故に─────全力で貴様を仕留めよう」
告げた瞬間、エイツーは片腕と同化した銃から光弾を放つ。セシリアを狙ったであろう弾丸は彼女に当たることなく空中で破裂した。
当然、攻撃に使ったのものではない。単なる煙幕、目眩まし程度のものだ。
視界が特殊な煙で覆われたセシリアだが、意識は途切れさせない。視線から一時的に離れたエイツーはこの瞬間に超加速、電気と飛行能力を組み合わせた高速移動を繰り返す。
バチ!バチバチッ!! と、焼ける音が空気に木霊する。音のする方からして、エイツーが自分を中心に旋回していることはすぐに分かった。
機能させたハイパーセンサーで周囲の反応を探る。無論、動くエネルギー反応ではない。捉えるべきは、エイツーが放つ熱である。
全身に電気を纏わせ、他の機能と掛け合わせて高速で飛び回るエイツー。つまり、高圧の電気を帯びているということは、高温の熱が発生しているに他ならない。
当然、エイツーが動きを止めるときにはその熱も一気に下がっていく。瞬間移動から攻撃を行うのも、二秒以内。瞬間移動の最中に速度を緩め、熱量を少しずつ比較的に下げてから、一気に機能を切り替え、熱エネルギーを有する電撃を攻撃として運用している。
セシリアが狙うべきは、エイツーが動きを緩めた瞬間。静止体勢へとなり、全身の熱を下げるために無防備となる直後である。
それは、今────セシリアの後方へと回り込んだ瞬間、速度を緩めたエイツー。動く熱反応で探知したセシリアは、振り返り、即座に射撃した。
青いビームが、煙幕を突き破る。突如飛来してきた狙撃に対処できなかったのか、速度を緩めるような姿勢のまま、エイツーの胴体にビームが直撃、否貫通した。
「───っ!?」
驚きを隠せないのは、攻撃をしたセシリアだった。エイツーへ放ったはずのビームは彼を貫通した。しかし、その現象があまりにも異質であった。
エイツーの姿は、先程までその場に残っていた。しかしそれが残像であると、目の前でかき消える人の形を目にして改める。
(─────俺の能力の弱点を突く。見事なものだ)
驚くセシリアの姿を背後から確認し、エイツーは心の中で笑う。絶対的な勝利を確信し、目の前の敵を敗者として定める。
(しかし、残念だ。楽観が過ぎたな。自らの弱点を、対策しないとでも思ったか!)
瞬間移動を扱った後は、僅かな時間冷却期間が必要である。しかし、それが限界ではない。あくまでも安全のための手段に過ぎない。エイツーは、瞬間移動を連続で行える。先程わざと速度を緩め、隙を見せてから再び瞬間移動を行ったのだ。
無論、負担がないわけではない。これを使えば負担は二倍、つまり二倍の身体を休ませる時間が必要になる。今も肉体が熱を帯びており、瞬間移動は出来ないが、この隙を逃すつもりはない。
セシリアの背中に銃口を構える。自身の体内に残された電気を銃へと集中させ、攻撃の姿勢を取る。
(終わりだ、セシリア・オルコット!お前は強かったが、経験が足りなかったな!)
勝利を確信し、狙撃を行う。銃口から光が溢れ、束ねられたエネルギーが光弾として放たれる。
それを、一つの閃光が貫いた。エイツーの腕と融合した銃に、風穴を空けるように。
「な────ッ!?」
愕然としたエイツー。慌てて離れようとしたが、無駄だった。続けて放たれた閃光が、エイツーの幻想の鎧を抉っていく。四方八方からの光を受けたエイツーは、それが何なのかにすぐ気付いた。
「これは────『ブルー・ティアーズ』ッ!」
機体と同名の武装。操縦者の意思によって動く複数のビットである。天井近くや床近くを浮遊するそれは、エイツーに悟られぬように瓦礫に隠れていたのだと思える。
「…………貴方を狙える隙は、瞬間移動を追える瞬間ではなかった」
もう一つ存在していた。そう付け足したのは、此方を見据えるセシリアであった。彼女は、先程のような違和感を覚える笑みを浮かべている。
「貴方は私の背後に回る。そこから攻撃する事が安心だと、先手を打てると理解している。だからこそ、先に後方に配置しておきましたの」
「────成る程。楽観が過ぎたのは、俺の方か」
今思えば、それが違和感の正体であった。彼女は最初から、エイツーに上回れることを自覚して立ち回っていた。だからこそ、不意を突けたのだ。
そしてエイツーは、違和感を警告する自分を無視した。これならば勝てるという、兵士として染み着いた感覚が、自分自身の第六感を無理矢理誤魔化した。
そうすれば、負けることはなかった。つまりこの敗北は、完全に自分のミスであった。
「………………無念ッ」
悔しがるエイツー。しかしその顔は、半ば受け入れるような笑みに染まっていた。
瞬間、エイツーの全身が破裂する。厳密には、彼が纏う鎧、『幻想武装』が破壊の際に生じる現象であった。未知のエネルギーが周囲へと撒き散らされ、エイツーが近くの地面に落下するのだった。
◇◆◇
「ハハハハ─────ッ!!」
オスカー・マクスウェル。白き天使と化した男が恍惚とした叫びと共に、暴れまわる。背中の四枚の翼を槍のように突き立て、周囲から光の雨を放ちながら、蒼青龍夜を追い詰めていく。正に狂乱。天使とは名ばかりの獣と相手をしているようであった。
「…………!」
『銀光盾』で上空から降り注ぐ閃光を弾き、吸収する。鋭利な刃と化した翼を銀剣で受け止め、払い除ける。それでもいなしきれない攻撃は致命傷にならない部分で受け止める。
「…………フフフ、フフフフ!!どうしましたぁ?先程までの余裕が無いようですねぇ………?もう、バテてきましたぁ!?」
「誰のせいだと!」
苛立ちを伴った斬撃は、翼を両断するまでにいかない。舌打ちをする龍夜の様子はおかしい。オスカーの言うことは不正解だが、余裕がないのは事実だった。
『ナイトアーマー・フォーム』。『プラチナ・キャリバー』の可変形態の一つであり、防御とエネルギーの消耗を防ぎ、そしてエネルギーを蓄積させるための形態である。
それに特化している故に、攻撃力は極めて低い。強いて言うなら、武装した兵や無人機程度なら十分倒せる強さはある。だが、ISやそれに近い『幻想武装』の相手は厳しい。
それ以上の問題が一つ。彼を現在進行形で蝕んでいた。
「────ぐ、ぅっ」
白銀の鎧の一部を染める黒。これを龍夜は直接見たことはない。自身に起きている変化なので、見たことはなくとも体感したことは少なくない。
龍夜の感情が昂る事で、呼応する機能。禍々しく白銀の光を瀆していくその黒は、龍夜の負の感情────怒りと憎しみによって膨れ上がり、無限に増幅させようとする。
行く先は、あの暴走体 《クロム・ルフェ》。
銀と黒の二つを纏い、あらゆる敵を抹殺しようとする殺戮兵器。あの姿ならばオスカーを倒せるだろう。だが、暴走の先にあるのは味方を巻き込むということ。まだ戦っているセシリアや近くで気を失っているクーリェに牙を剥く可能性すらある。故に、暴走は許可できない。
「がッ!?」
オスカーの攻撃に大きく吹き飛ばされる。瓦礫の残骸に叩きつけられ、その場に転がる。即座に立ち上がり、銀剣を掴む。
銀色に光る刀身を見下ろし、ふと考え込んでいた。
(───奴は、クインテットシスターズの『適合者』とやらを探していた。恐らく、この剣を扱える俺も『適合者』だろう。だが、今は関係ない)
「…………俺に力を貸せ、エクスカリバー………いや、ルフェ」
強く握り締め、銀剣を構え直す。その言葉に呼応するように、銀色の光が増した。まるで主に同調するように、剣が意思をもって応えるかのように。
盾を背中に取り付け、龍夜は自らのISを『変形』させる。鎧が一部分を残し、消失する。代わりというように背中に四枚の大型バインダーが展開され、光を帯びる剣に両刃を展開した。
「フハハッ!それが君の隠していた姿か!だが!それで何が出来る!?神の加護を受けた私を倒せるとでも!?」
「倒す?………違うな」
「…………?」
疑問を浮かべるオスカーの前で、龍夜が剣を背中の鞘へと格納する。
【ENERGIE CHARGER!】
鞘に蓄積されていたエネルギーが一気に収束する。銀色の投身に莫大なエネルギーが集中し、蒼銀の光を強く輝かせていた。
銀剣を水平に構える。片腕の掌に刃を乗せ、目の前の天使を捕捉していた。疑惑に染まっていたオスカーもそれに気付き、驚きはしながらも侮った様子だった。
何せそれが、相手に刃を突き立てるような構えであるからだ。
「お前は───一撃で、殺す」
【OVER ENERGIE DISCHARGE!】
「────ストライク・レイザー!!」
瞬間、龍夜は銀剣を前へと突き出す。放たれた刃は虚空で静止する。届くはずがない、オスカーもそう信じていた。
刀身から、蒼いエネルギーの刃が放出されるのを見るまでは。
(ッ!?エネルギーを飛ばす攻撃ですか!しかし!)
「そんなもの!神の力を纏う私には通じなぁい!!」
光帯の翼を重ね、放たれた刃の蒼光を受け止める。歪な金属音のようなものが、連鎖していく。エネルギーと光による衝突。相手を削り、破壊していく攻撃と防御は互いに効果が響いていた。
「は、ハハハ!ただのエネルギーの刃が!天使の光を突破できるとでもお思いですかなぁ!?それこそが傲慢!愚か!さぁ!我が光の力で打ち破って────」
自身の考えが間違いだと、オスカーは気付かない。エネルギーの斬撃を飛ばす技はとっくに存在している。『ソード・ストライク』、強力な一撃だが、あくまでも普通の斬撃を形として飛ばすものだ。
『ストライク・レイザー』は、その斬撃を一点に集中させた刺突技。相手を斬るのではなく打ち抜く、つまり一点集中で貫通することがその技の真価である。
故に、オスカーの翼の防御は意味を為さない。光を何重にも束ねた幕は限界を迎えたように砕け、刃の蒼光がオスカーへと突き刺さる。
胴体の中心、胸の奥にある心臓が抉られる。それが弾みとなったのか、オスカーは口を大きく開き、小刻みに震えていた。
「ガ──────あ、ア……………あ、」
オスカーの再生能力は驚異であるが、流石に心臓を失ってまで生きられる訳ではないらしい。白目を剥いたオスカーの全身から光の粒子が飛び散る。消え行く金色の光の粒に包まれた男が、口から大量の血を噴き出して崩れ落ちる。
命を奪った。
その感覚に僅かに苛まれたであろう龍夜は顔をしかめる。だがすぐさま、考えを改めた。
相手は何人のもの命を容易く弄んだ外道。生かす価値も、道理もない。龍夜の行いはきっと間違いではない。
銀剣を下げた龍夜が、死した狂人を見下す。最後の最後まで己の力と神だけを心酔したであろう男へ、告げる。
「…………満足だろ、狂信者。あの世に逝けるんだ、地獄だろうと本望だろう」
オスカー&エイツー戦、終了。
各々の幻想武装について色々紹介を。
『幻魔複合アンノウン』
未知の生物や未確認生物など、完全に解析できていない生物の機能や構造を自由自在に再現する幻想武装。他の機体とは違い、量産体制に入っているのでアナグラムやトレーターの中でも何人に運用されている。
『天聖光輪エンゼル』
光を操る幻想武装。自らの肉体を一時的に光へと変換したり、屈折する光線での攻撃を行うのだが、オスカーの適正が強かったのと生体同調の効果で、基礎能力の全てが上昇しており、どんな怪我や負傷も再生する半不死状態となっていた。
『
トレーターが編み出した幻想武装の力を引き出した形態。体内にメモリーと抽出器を埋め込むことで、特定の動作だけで幻想武装を展開することが出来る。
肉体と融合しているので、幻想武装の出力も上昇し、本来であれば不可能な能力も獲得する場合もある。
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