IS 蒼き宙の向こうへ   作:虚無の魔術師

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第44話 排熱蜥蜴/掌の迷宮

「始まった……!?何が始まって言うんだ!?」

 

『アナグラムの襲撃、と言えば理解できるかな?』

 

 

明らかに戸惑う一夏に、プロフェッサーはそう答えた。彼が手を挙げると、戦闘態勢にあった少女達が一斉にプロフェッサーの近くへと飛び退いた。

 

 

「ッ!アナグラムだと!?何故知ったような口で言える!?」

 

『────知っているも何も。彼等をここに呼び寄せたのは、私だ』

 

 

淡々と答えるプロフェッサーに、一夏達は愕然とするしかない。この男がどれだけ深い闇に潜んでいるのか、どれだけの存在と手を組み、暗躍しているのか。自分達とは違う闇の住人が、目の前にいる存在だと理解させられた。

 

 

『それより、急がなくて良いのかな?君達も時間がないと思うが?』

 

「………何だと?」

 

『何故、アナグラムがここに攻め込んできたか。その理由を思い出せば早い』

 

 

アナグラムの襲撃の理由。それは、自分達を滅ぼす為の兵器『ヴァルサキス』の存在を知ってのこと。襲撃してきた彼等がこれからするであろう事は─────

 

 

『ヴァルサキスの破壊────つまり、ミハイル・ヴァルサキスの排除だ。早くしなければ、大切な仲間をまた喪うぞ?シエル』

 

「────ミハイルッ!」

 

「あ、シエル!?」

 

 

プロフェッサーの言葉にシエルは話も聞かずに動き出していた。出口の方へと駆け出し、ISの飛行機能で飛び出していく。

 

鬼気迫る表情であった。助けるべき仲間が、襲撃してきた敵に狙われていると知った今、冷静でいられるはずがない。他の仲間を喪った彼女だからこそ、その感情に支配されていた。

 

 

『さて、私もそろそろお暇させて貰うとしよう。アナグラムは本気で動くだろうし、連中の戦いに巻き込まれたくはない』

 

「ッ!待てよ!」

 

 

少女を引き連れ、プロフェッサーが背を向ける。既に彼は距離を置いていたのか、近くの隠し扉へと踏み入れていた。

 

 

逃がす訳にはいかない、と一夏は理解していた。あの男は、人の命を弄ぶ敵だ。ここで見逃せば、多くの人を傷つけ、悲しませる。だから、ここで捕まえなければならない。

 

 

瞬時加速により、プロフェッサーとの距離を縮めていく。遠隔操作の影響か、隔壁がゆっくりと降りてきているが、一夏の手がプロフェッサーに届く方が早い。

 

 

 

プロフェッサーの配下である少女達『ワルキューレ』の一人が動く。両手の刃を振るい、一夏を迎え撃つ構えを取っていた。しかしそれを、プロフェッサーが片手で制する。

 

 

 

 

一夏の手がプロフェッサーへと近付いた瞬間、マスク越しの声が響いた。

 

 

 

 

『────()()()()()()()()()なぁ。織斑一夏』

 

「…………………え?」

 

 

全てが、止まった。

伸ばしたはずの手が、目の前の敵を捕らえるという決意が、その言葉によって停止する。その言葉の意味を理解しようとした脳すら、動けずにいた。

 

 

「───一夏!」

 

 

遅れて動き出した箒が叫ぶが、遅い。

織斑一夏は止まってしまった。持ち直したところで、遅れてしまった一秒は取り戻せない。

 

 

隔壁が道を塞ぐ。その瞬間、部屋にあったスピーカーから声だけが響いてきた。プロフェッサーの嘲笑の声が。

 

 

『さぁ、また会おう諸君。次会う時は────容赦などしない』

 

 

隔壁の奥から気配が消えていく。プロフェッサーに逃げられた事に箒は悔しそうな顔をするが、すぐさま近くにいた千冬に指示を仰ぐ。

 

 

「織斑先生!追いますか!?」

 

「止せ。奴を追った所で、奴が従える『ワルキューレ』を倒すのも厳しい。何より、この状況でそんな事をしている暇はない」

 

「…………龍夜達は!?理事長との連絡は取れないのですか!?」

 

「試みているが、電波が繋がらん。おそらくはアナグラムの、ジールフッグの妨害電波か」

 

 

かつて味わったアナグラムのハッカー、ジールフッグが操る妨害電波。これによりIS学園は孤立し、近くの組織への連絡すら取れない状況下に陥った。対抗手段はない。こうなった時点で、妨害電波はどうしようもないとして諦めるしかない。

 

 

だが、冷静な二人よりも、一夏の方が不安であった。

 

 

「何で、アイツが………暁の事を………」

 

「…………暁、だと?」

 

 

先程のプロフェッサーの言葉にあった名前。それが幼馴染みの一人である気弱な青年であることが、何よりも衝撃的な事実であった。

 

その名に反応した千冬はふと顔を険しくする。少し考え込んだ千冬に、箒は何も言わず一夏へと近寄る。そして、

 

 

「一夏っ!」

 

 

胸元を掴み、声をあげた。突然の大声に呆然としていた一夏も思わず思考を止める。慌てて箒の顔へと視線を合わせたのを確認してから、彼女は続けた。

 

 

「何故奴が暁の名を出したのか、私も不安だし気にはなる。だが、今はやるべき事があるだろう!?ミハイルを助けるという、シエルの願いを叶えたいんじゃないのか!?こんな所で考えてて、ミハイルを助けられる訳ではないだろう!」

 

 

謎は多い。

一体どうしてその名を口にしたのか。その疑問は今考えるべき事ではない。シエルの仲間を助けると約束した以上、彼がするべき事は今ここで足を止めることではない。

 

 

「………ごめん、箒。また迷惑を掛けた」

 

「気にするな。私とて何度も感情的になる事はある」

 

 

そう言葉を交わした二人は、千冬へと向き合う。覚悟を決めた一夏と箒に千冬は一息ついてから、口を開いた。

 

 

「………私は将軍と連携を取る。そしてこの基地と共同し、防衛を開始する。お前達も急ぎ現場へと迎え、判断はお前達自身に任せる」

 

「分かった!千冬姉!」

 

「了解!」

 

 

そう言って二人がシエルのように出口から飛び出していく。二人の背中を見送ってから、千冬は既に閉ざされた隔壁を睨む。

 

 

「────やはり、生きていたのか」

 

 

ただならぬ敵意。怨敵へと向けるような鋭い気迫が、この場にいない誰かへと集中していた。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「で?一夏達とは連絡取れたの?」

 

「────いや、無理だ。この基地を取り囲むようにジャミング電波が放出されている。外部との連絡は、絶対に不可能だ」

 

「それって、内部での連絡は可能かもしれないってことでしょ。なら、どうしようね」

 

 

ズガァン! と、目の前にいた無人兵器の群れを突破した三人、鈴とラウラ、シャルロットがそう言葉を交わす。普通の学生であれば苦戦するであろう無人機も、軽い連携で倒されていた。

 

 

コンテナやパイプラインが殺到するその区域を通過しながら、彼女達は今後の動きを話し合いで決めていた。

 

 

「じゃあ結局どうするわけ?織斑先生達と合流するのか、アナグラムと交戦するのか」

 

「交戦だ。私達の目的はこの基地の防衛。連中を野放しにする訳にはいかん」

 

 

 

「────へぇ?じゃあ俺と戦うのも必然ってことだよな?」

 

 

カン!と、無数に羅列する大型パイプの上に誰かが立っていた。160も満たない背丈の赤髪の青年。顔以外を黒い法衣で包んだ青年は口笛を吹き、楽しそうに口を開いた。

 

 

「一、二、三!まさか三人も一緒とは!俺は運がいい!お先に乗り出してきた甲斐があったぜ!」

 

 

膝と腰を曲げ、座り込むように三人を見下ろす青年。すぐさまラウラはレールカノンの砲口を青年へと向ける。何時でも砲撃を出来るように構えながら、低い声で問いかける。

 

 

「何者だ、貴様」

 

 

「────加賀宮士(かがみやつかさ)、シルディ様直属の親衛隊の一人だぜ」

 

 

気さくに答える青年───(つかさ)は自分に向けられた敵意に身動ぎすらしない。それどころかその顔は凄まじい程に歪み、変容している。─────高揚を抑えきれず、戦意に満ち溢れたものへ。

 

 

同時に、シルディの名を聞いた鈴が思わず周りに意識を向ける。目の前の敵を無視した行いに、誰も文句は言わない。それどころか、相手の方が話してきた。

 

 

「安心しろよ。シルディ様はお前らの相手をする暇はない。他の面子も、な。ロイドの爺さんは織斑一夏達の足止めで、他の二人はヴァルサキスの破壊とやら。そして俺は、この基地の戦力を一人ずつ潰していく事が目的なのさ」

 

 

「…………敵を前に、よく喋る。作戦内容まで語るとは、楽観的だな」

 

「お前ら全員潰すんだ。話したって問題はねーさ」

 

 

そう言いながら、士は自身を包む黒い法衣を脱ぎ捨てる。宙に舞う黒い布切れから掠め取った二つの物を左右の手に備えていた。

 

 

掌サイズ装甲型のデバイス、『カオステクター』と小型のメモリ『メモリアルチップ』。それは、アナグラムの上級戦闘員が所持するISに匹敵する力の根源であった。

 

 

「ま、潰すってよりも………燃やすって方だな、うん」

 

『サラマンダー!』

 

 

右手に装着した『カオステクター』にメモリを差し込む。スライドパネルがメモリを読み込み、機械音声が響き渡ると同時に、カオステクターから無数の細い爪が飛び出す。

 

 

ウロボロスナノマシンと呼ばれる新種のエネルギー物質を内包する爪が士の身体へと向けられ、爪先からウロボロスナノマシンで構成された液体が溢れ出す。

 

 

黒いどろどろに士の全身が包まれていく。光すら感じない不気味な闇が呼応していき、次第に激しい炎を噴き出し始めた。

 

 

凄まじい高温を発しているのか、足場にしていたパイプを含めた周囲のものが融解し、地面へと溶け落ちていく。ついに限界に至ったパイプが外れ、黒い液体の塊が地面へと落ちる。

 

 

その身を包んでいた黒い液体は徐々に形を成していき、大きな影を見せる。高温で溶ける金属の床を踏み込み、姿を見せるソレは人の姿をしていなかった。

 

 

顔のパーツが存在しない蛇のような頭部。折り曲げられた長い首。猫背状でありながら大柄である巨体。そして人間のような手足。金属の装甲で包まれたその異形は五メートル以上の大きさで鈴達を見下ろしていた。

 

静かに開いた口の隙間から、小さな炎が垂れる。蜥蜴の舌のようにチロチロとうねらせながら、異形から響き渡るような声が伝わってくる。

 

 

【────さぁて、どいつから焼かれたい?】

 

 

瞬間、巨大な蜥蜴────『サラマンダー』が顔を真上へと持ち上げる。ズグン! と、長い首が風船のように膨らむ。口から赤と橙色の光を灯した蜥蜴は閉ざしていた口を大きく開き、中から激しい熱量を伴う火球を放出した。

 

 

 

◇◆◇

 

 

外へと飛び出した一夏達が見たのは、戦場と成り果てた基地であった。

 

 

辺りからは悲鳴や爆音が響き渡り、周囲の建物や施設からは煙が立っている。基地の防衛に当たっているだろう無人機と兵士達が必死に戦っているが、それ以上の最新鋭の無人兵器がいとも容易く蹂躙していく。

 

 

ふと、空を見上げる。基地の上空には巨大な飛行艇らしきものがその場に停滞している。何らかの機能、おそらくただのエンジンではない新技術でも有しているのか、空中で固定されたように浮かぶ姿には違和感すらある。

 

 

そして、その飛行艇の周りを飛び回る一際目立つ影があった。雲を引き裂き、基地の対空兵器を撃ち落とし、逆に破壊するその姿は、一夏も見覚えがあった。

 

 

「───あれは、あの時の」

 

 

翼を大きく広げ、周囲の空を旋回していく機械の飛竜(ワイバーン)。かつてIS学園を襲撃した兵器の一体であったそれを簡単に忘れることは出来ない。

 

 

「………一夏」

 

「分かってるさ、箒。まずはシエルを追わないと」

 

 

あの飛竜を倒すよりも、先に進んでいったシエルを探す方が大事であった。ヴァルサキスを破壊する戦力も少ないわけではない。たった一人でそれだけの相手を止めるのは、彼女一人では難しい。

 

 

だからこそ、加勢に向かわねばならない。そう思った二人が動こうとしたその瞬間、

 

 

 

「ッ!箒!避けろ!」

 

 

そう言い、一夏が箒の手を取って真後ろへと飛ぶ。直後に二人のいた場所に数発の弾丸が炸裂する。地面に突き刺さった銃弾が発光したと思えば、綺麗な四角の形状に切り分けられ消失する。

 

 

「────素晴らしい(グレート)。私程度の銃撃に気付き避けるとは。報告通り、成長しているようだ」

 

 

カツン、と建物の影から新たな人影が浮かび上がる。純白のコートを着こなした老紳士であった。腕と同化した形状の深い藍色の銃を向けた老紳士は、感心したように呟くや否や丁寧にお辞儀をしてきた。

 

 

「初めまして、私はロイド。ロイド・シュテインハルト。シルディ様直属の親衛隊を務めている」

 

 

その様子を前にしても、一夏と箒は警戒心を消すことは出来ない。先程の攻撃、地面を削り取ったあの攻撃が何時放たれるのか、その原理すら掴めない。そんな状況下で、気を抜くことも出来ず、見定める事しか許されない。

 

 

「聡明な方達だ。私を軽んじることなく、私の能力を探ろうとしている。……………素晴らしい(グレート)。その聡明さに敬意を評し、私の幻想武装(ファンタシス)情報(データ)を開示しましょう」

 

 

落ち着いた様子の老紳士が、ふと銃を下げる。銃を持つ手とは反対の手を持ち上げ、掌に転がる複数のキューブをつまみ上げながら、説明を始めた。

 

 

「我が幻想武装、銘を『ラビリンス』。次元迷宮ラビリンスと言うものです。能力は、特殊な空間を作り出すというもの」

 

「…………」

 

「私の言葉を鵜呑みにせず、疑っておられる様子。やはり貴方達は聡明だ。なればこそ、耳で聞く言葉よりも、目で見る事実の方が受け止められるはず」

 

 

そう言い、老紳士はキューブの一つを目の前へと転がす。カラン、と地面に落ちたキューブがロイドの一定距離から離れた直後─────光を放つと共に、砕け散る。

 

そこに、キューブのような形で切り分けられた物体が鎮座していた。間違いない。先程、銃弾によって抉り取られた地面であった。

 

 

「私の幻想武装は、両手に装着されております。左手の銃からはあらゆる対象を小型化された次元『縮小された迷宮(キューブ・オブ・ラビリンス)』へと封じ込める弾丸を放ち、右手の手袋は銃で対象を封じた『縮小された迷宮』を具現化させます。因みに、右手で触れた物を『縮小された迷宮』に仕舞い込むことも可能ですし、固定された次元と次元を繋ぎ、擬似的な転移も可能です」

 

「────一夏」

 

 

話の合間を狙い、箒が小声で呟く。独り言のように聞こえるが、それは間違いなく一夏へと向けた言葉であった。

 

 

「これ以上、奴の話を聞く必要はない。奴の目的は時間稼ぎだ。おそらく奴の能力は戦闘に向いてはいない。だからこそ、私達の足止めをするつもりだ。だからこそ、能力を話して気を引こうとしている」

 

「─────素晴らしい(グレート)素晴らしい(ワンダフル)素晴らしい(エクセレント)

 

 

丁寧に、銃を持った手と何も持たぬ手で拍手をするロイド。純粋に称賛するように言葉を紡いでいく。

 

 

「流石は篠ノ之箒様。()の天才にして天災、篠ノ之束氏の姉妹にある貴女の観察眼は人並みを遥かに越えておられる。素直に感服する」

 

「…………その人の名前を、気安く出すな」

 

「…………失礼。貴女の気に障る発言でした。深い謝罪を、お詫び申し上げる」

 

 

深く頭を下げるロイドであったが、すぐに調子を取り戻したように口を開く。

 

 

「確かに、私の目的は時間稼ぎ。貴方達、強いて言えば織斑一夏様。出来る限り貴方を、他の親衛隊と対応せぬように手を尽くすことであります。貴方の力、『零落白夜』は諸刃の刃。しかし我等の幻想を打ち砕くには相応しい刃でもある。一太刀でもその力を受ければ、幻想武装は降臨させた力を失うことになる。下手をすれば、我等が王 シルディ様へと届き得る凶刃にも成り得る」

 

「………」

 

「その刃を、戦う力を持たぬ私が、貴方の戦術に尤も適した私が止めるのが必然。他の親衛隊達が役目を果たすまで、この場で貴方を止めさせていただく」

 

「それが分かっていて、俺が時間稼ぎに付き合うはずがないだろ」

 

「いいえ、貴方は優しき御方だ。捕らわれた仲間を見捨てるはずがない」

 

 

警戒しながらの一夏の言葉に、ロイドは僅かに微笑みながら手を動かす。キューブの一つを持ち上げ、見せつけるようなその仕草に困惑した一夏だが、すぐに気付いた。

 

 

そのキューブから、生体反応が漏れ出していることに。

 

 

「まさか───シエル!?」

 

「先程と同じように、不意を突かせていただきました。余程焦り、前しか見ていなかったのでしょう。彼女は容易く『迷宮』に囚われた」

 

 

飛び出そうとした一夏を制するように、銃口が向けられる。今にも武器を構える二人に対し、大人びた振る舞いをしたロイドが告げる。

 

 

「彼女を助け出す方法は二つ。一つは私が任意で解除するか、私から『迷宮』を取り返し、一定の距離から離れるか。少なくとも、それ以外の方法は無いでしょうな」

 

「ッ!シエルを返せ!」

 

「言われずとも、そのつもりです…………充分時間を稼げれば」

 

 

二本指で挟んでいたキューブを宙に飛ばし、右手の掌の中へと落とす。奈落に沈むように消えたキューブは既に見えなくなり、黒い円の紋様として閉ざされる。

 

 

 

既に戦意に満ちた二人を優しく見据え、ロイドは両腕を広げ踏み込む。慈悲深い、大人らしい顔と共に。

 

 

「無論、加減はしますよ。私は死に場所を、死に時を失った老兵。それが今の世代を傷付けるなどあってはならないのですから」

 

 

 

◇◆◇

 

 

炸裂した火球が、近くのコンテナやパイプラインを巻き込んだ爆発を引き起こす。燃料などに引火したのか、爆発の威力は大きく変化していた。

 

 

【クハッ!誰からやるんだぁ!?やらねぇなら全員まとめて焼いてやるぞぉ!!】

 

「ったく!好き勝手言ってくれるじゃない!」

 

 

軽い挑発に応じたのは鈴ではあった。振り返り、彼女は衝撃砲を展開しながら突き進む。そんな彼女を見た『サラマンダー』、その中にいる士が高らかと叫んだ。

 

 

【ハッ!お前が相手か!絶壁!】

 

「……………………は?」

 

 

それが鈴の地雷であると、単純な士には理解できなかった。

 

 

「────アンタ、言っちゃいけないこと言ってくれたわね」

 

【あん?俺お前の名前なんか知らねーし、そもそも認めた相手以外の名前は言わねーし、覚えらんねーから。絶壁でいいだろ?別に】

 

「────────ブッ潰す」

 

 

瞬間、鈴は瞬時加速により距離を縮める。突然の仕草に驚いた士だが、逆に高揚したように『フルルッ!』と唸り、迎え撃とうとする。

 

 

だが、その前に。突然飛んできた物体を避けきれず、顔面に叩きつけられた。士はそれが鈴の武器である《双天牙月》であることに気付いたが、致命的に遅れていた。

 

 

至近距離から、胴体に重い拳が打ち込まれる。胸元に入り込まれたサラマンダーが大きく全身を揺らし、巨大な腕と脚で鈴を薙ぎ払おうとする。

 

 

しかし彼女はその動きを読んでいるように、容易く回避しながら自分が飛ばした《双天牙月》を掴み、頭部を真下から斬り上げた。

 

 

【────ハァッ!やるじゃんかぁ!!】

 

 

大きく仰け反った『サラマンダー』の喉が一気に膨らむ。内部に膨大な熱を収束した巨体は至近距離にいる鈴に向けて、再び火球を放射しようとする。

 

 

「させるかっての!!」

 

 

それを、至近距離から炸裂した衝撃砲が妨害する。チャージしていたサラマンダーの内側で火球が爆発し、蜥蜴の巨体が大きく揺らいだ。

 

 

 

 

 

 

しかし、

 

 

 

【効いたぜ、今のは────久し振りに全身が温まってきたァ!!】

 

 

難なく体制を立て直した『サラマンダー』が背中のボイラーから黒煙を放出する。やる気と興奮に満ちた声音と共に、サラマンダーは全身から煙を噴き出し、周囲の熱を増幅させていく。

 

 

【さっきまでの攻撃のお返しだ!簡単にくたばるなよ!】

 

 

そう言い、サラマンダーが片腕を持ち上げる。掌の空洞、砲口らしき部位に光が集まる。赤からオレンジ色へと変化した光は徐々に膨らんでいき、空気を焦がすような雰囲気が広がっていく。

 

 

【───『火熱の剣(ヒラルガ)』!】

 

 

火力を集中させた熱線が、掌から放たれる。迫り来る熱線を受けるはずもなく、鈴は回避行動を取ろうとした。

 

 

だが、直進してきたはずの熱線が大きくうねる。まるで蛇のようにねじれ回る。飛び退いた鈴を狙うその攻撃を、何とか《双天牙月》で受け止めようとする。

 

 

刃が熱線に触れたその瞬間、焦げるような音と共に双天牙月が両断された。咄嗟に手を離した鈴は、斬られたであろう双天牙月が熱で溶かされている光景を目にする。

 

 

「武器が溶けるって、どんだけの熱量よ………」

 

【さぁな、俺もよく知らねー。科学だとか物理だとか赤点だったしな。けど、馬鹿な俺にも分かる事実ってのはある】

 

 

ふと、サラマンダーがもう片方の手を持ち上げる。ジュッ! と、焦げる音に次いで高熱の刃が展開されていた。両手の熱刃を構えながら、サラマンダーが大きな身体を揺らして動く。

 

 

【『火熱の剣』は無敵だ!どんな物質だろうが、俺の『火熱の剣』は全部切り裂く!ISだろうが、俺の敵じゃあねぇのさ!】

 

 

そう断言し、サラマンダーが両腕を振り払う。瞬間、鞭のようにしなった熱刃が解き放たれたように周囲を切り裂いていく。

 

乱雑にも見えるその動きだが、のたうち回る熱の刃により凶悪な攻撃でしかない。熱の剣で斬られたパイプや部品が溶け落ち、激しい高温の液体となっていく。

 

 

ズシン、ズシン! と大きく、愚鈍な動きながら、鈴との距離を縮めていく。回避することも出来ない激しい乱舞を生み出しながら、鈴を的確に追い込もうとする。

 

 

「───鈴!避けて!」

 

 

その瞬間、真後ろから飛び出してきたシャルロットが呼び出したライフルをサラマンダーに向けて掃射する。金属の装甲に弾かれる弾丸の雨に、鬱陶しそうな士の声が響いてきた。

 

 

【そんなに相手して欲しいんなら!お望み通りしてやんよ!】

 

 

体躯を捻り、百八十度綺麗に上半身を回転させたサラマンダーが両手の刃を振りかざす。しかし機敏に動き、距離を取りながら銃を撃つシャルロットには掠るどころか、届きもしない。

 

 

【チッ!当たらねぇ所からチマチマと!随分と陰湿だなぁ!おい!】

 

「残念だけど!僕はこっちの方が主流だから!それに、下手に近付いて火傷したら、一夏に見せられないしね!」

 

【そうかい!なら遠慮せずに温まってみろよ!】

 

 

楽しそうに吼えると同時に、左右の熱刃が切断したパイプへと伸びる。伸縮自在、鞭のような刃でパイプを持ち上げ、そのままシャルロットへと投擲した。

 

 

「わっ!?うわぁっ!?」

 

 

突然の遠距離攻撃に、シャルロットも攻撃を止めるしかない。熱の剣で触れられたパイプや瓦礫は高温に溶かされた溶岩のようになっている。熱された本体ならまだしも、超高温の飛沫にでも当たれば、それだけでもシールドゲージが消耗する。

 

 

【ハハッ!しぶといな!金髪!別に当たっても死ぬもんじゃねーだろ!?】

 

「………金髪って名前じゃないよ!僕にはシャルロットって名前があるんだから!」

 

【はーん!そっか!覚えられたら覚えとくよ!んじゃ、続け様のもう一発───────あれ?】

 

 

投擲を再開しようとしたサラマンダーだが、異変を感じ取る。ギシギシ、と全身の動きが停止したのだ。突然の事に戸惑いながらも、必死に動かそうとする士だが、何らかの力が働いているのか叶わない。

 

 

「────これ以上貴様に暴れられては困る。ここで大人しくして貰うぞ」

 

 

いつの間にか近くに立っていたラウラが手をかざし、サラマンダーの動きを停止させていた。彼女の能力、AICに対抗できないのか、サラマンダーは金属の擦れる音を響かせるだけである。

 

 

【おいおい!何だよ!ISってのは重力みたいな技も使えんのか!?羨ましいなぁ!万能兵器じゃねぇか!!】

 

「………貴様等がそれを言うか」

 

 

幻想武装というISにも通用する規格外の兵器を纏う人間の発言に呆れたラウラだが、容赦なくサラマンダーへとレールカノンでの砲撃を行う。

 

 

命中、いや直撃した。凄まじい威力の砲撃はサラマンダーの巨体に傷を与える─────事はなかった。

 

 

 

「…………馬鹿な、無傷だと!?」

 

【─────俺ってよ、前からずっと考えてたんだ】

 

 

チリ、と空気が揺れる。サラマンダー中心として異様な空間が展開されていた。その場にある地面やパイプのほとんどが融解し、あまりの熱量の火花すら散っている周囲一体。

 

 

【この高熱の刃が無敵なら、この熱さを全身に纏えばそれ以上の無敵になるんじゃねぇか、ってな】

 

 

直後、サラマンダーの全身がオレンジ色に発光する。超高温なのか、空気自体が煙が出るほどであり、近くにあるあらゆるものが溶け出していく。

 

 

炎と熱の地獄。その中央に立ち、全身に極限の熱と炎を纏う蜥蜴が炎の舌を垂らす。

 

 

【『排熱大帝(ヒートヴェルカ)』!攻守一体の最強の奥義!こっちはISを!世界を相手にする気でいるんだ!お前ら三人も倒せない程腑抜けては無いんだよ!】

 

「ッ!二人とも!逃げるぞ!」

 

「はぁ!?正気なの!?」

 

「今の奴は倒せん!それだけじゃない!あの状態で触れられてみろ!シールドが一瞬で消えるぞ!奴に捕まった時点で死ぬと思え!」

 

 

そう叫ぶラウラに、二人はすぐさま従う。距離を取っていく少女達の姿を見届けたサラマンダーの動きを止めていたAICが解除される。

 

 

ゆっくりと身体を動かし、首を捻るサラマンダーはだらしなく垂れた炎の舌をそのままにして呟く。

 

 

【………別にぃ、殺すつもりはねーんだけどなぁ。んなことしたら一番悲しむのは『先生』なんだよな。教え子同士での喧嘩はダメって言ってたし─────ま、シールドゼロにしとけば大丈夫だよな。多分】

 




加賀宮士

幻想武装は『排熱蜥蜴 サラマンダー』。シルディ直属の親衛隊の一人。気さくな感じでどんな相手にも距離感は近い(例外はある)自他認める馬鹿であり、敵の名前もあんまり覚えられない。覚える努力はある。年齢的にまだ中学生。



ロイド・シュテインハルト

幻想武装は『次元迷宮ラビリンス』。シルディ直属の親衛隊の一人。紳士的な態度で振る舞う老紳士。相手褒めたりする際は英単語を口にする。一夏と箒のことは前々から知っているらしい。ただの老人と侮ってはいけない()




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